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毒の爪の使い魔-26


「着いたな」
月明かりに照らされている魔法学院が見え、ジャンガは大きく伸びをした。
シルフィードはゆっくりと降下を開始する。
「これで漸く休めるゼ…」
「それはいいがよ、相棒……もう気にして無いのか?」
デルフリンガーの言葉にジャンガは、ハァ? と呆気に取られた表情をする。
「何がだ?」
「ルーンだよ、ルーン」
「んなの、もうどうでもいいゼ。別に無くても困るもんじゃねェし。
寧ろ、俺としてはあのクソ生意気なガキの使い魔と言う立場から解放されて清々したゼ」
「…まぁ、相棒ならそう言うだろうとは思ったけどさ」
「分かってんじゃねェか」
ニヤリと笑うジャンガ。
そうこうしているうちに、シルフィードは寮塔の前に着いていた。

「さてと……あのガキは起きてるか? オイッ、クソガキ、起きてるか!?」
そう呟き、窓に向かってそう叫ぶ。…返事が無い。
舌打をし、ジャンガは更に叫んだ。
「返事位まともにしやがれ!? 才能ゼロ! 可愛げゼロ! 胸ゼロ! の三拍子揃ったゼロガキ!!」
直後、バタンッ! と窓が開け放たれ、怒り心頭のルイズが顔を出す。
「ゼロゼロ煩いわよ!? 何処の誰よ――って、ジャンガ!?」
ルイズの姿を認め、ジャンガは片手を上げながら小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「よォ…帰ったゼ?」
「ジャ、ジャンガ!? あ、あんた今まで何処に――って、何その怪我!?」
傷だらけのジャンガの姿に目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
と、隣の窓が開けられ、キュルケが顔を出す。
「もう~…煩いわね。何をそんなに怒鳴ってるのよ、ルイズ?」
キュルケの姿を認め、ジャンガは再度ニヤリと笑う。
「よう、雌牛。暫くぶりだな?」
「あなた…暫く見なかったわね。随分と傷だらけのようだけど――って、ちょっとタバサ!?」
ジャンガの背後で眠っているタバサに気が付き、キュルケは窓から身を乗り出す。
「それに、その女の人…タバサのお母さんじゃない。何でここに…」
「まァ…説明すると長くなるんだが…、あ~ったく、たりィな…。
とりあえず中に入れろ…、話はそれからだ」
ルイズにそう言いながら、ジャンガはタバサの母を背に背負い、タバサを両腕で抱く。
色々と言いたかったが、ルイズは窓から離れる。
両足に力を籠め、ジャンガはシルフィードの背を蹴って跳躍する。

華麗に窓枠に着地した――直後、足が滑った。
「うおっ!?」
あわや、まっさかさま……と思われたが、素早く下に潜り込んだシルフィードに拾われた。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
ルイズが慌てた様子で、窓から身を乗り出して叫ぶ。
「あ、危ねェ…」
「相棒、無茶するな。お前さんは今、物凄く消耗してるんだからよ?」
デルフリンガーの言葉にシルフィードも、きゅいきゅい、と鳴き声を上げて同意を示す。

ジャンガは忌々しそうに舌打をした。
「――とまァ、話は以上だ」
「「「「……」」」」
ジャンガとデルフリンガーの話の内容に、ルイズ達は揃って呆然となった。
この場にはルイズとキュルケ以外に、ジャンガの怪我の治療の為に呼ばれたモンモランシー、
そして彼女の部屋で談笑をしていた為、付き添いで来たギーシュも居た。
因みに、タバサとタバサの母親はルイズのベッドに寝かされている。
暫くの沈黙の後、漸くルイズが口を開いた。
「…あんた、随分と滅茶苦茶してたみたいね」
そう言いながら、ルイズは目の前の使い魔の話を頭の中で繰り返す。
十日前の事件の際に裏切った為、タバサは騎士<シュヴァリエ>の称号を剥奪され、母親を拘束された。
母親を助ける為にタバサは単身救出に向かうも、エルフに敗北して連れ去られ、
シルフィードは重傷を負いつつも何とか魔法学院に戻り、タバサの救出をジャンガに頼んだ。
エルフの土地<サハラ>の国境付近の古城にタバサが監禁されてると知り、そこへ乗り込んだ。
そこでタバサを捕まえたエルフと戦い、苦戦しながらも勝利。
タバサとその母親を無事救出し、ガリアから魔法学院へ帰還。
「――そして、今こうしているって訳ね」
「キキキ、理解してもらえて嬉しいネ」
ルイズは、ふぅ、と息を吐くとジャンガに言った。
「あんた、バカじゃないの?」
「あン?」
「私達に一言の相談も無しに、そんな事をして、バカじゃないの?」
「テメェに話したら余計な時間を食うと思ったんでな…」
「どう言う意味よ?」
「変にプライドの高いテメェの事だから、あれこれ”下らない事”で時間を食いそうだったからな」
「何よそれ!?」
ルイズは怒鳴りつけたが、ジャンガは口笛を吹きながら無視する。
そんなジャンガにキュルケが声を掛ける。
「ねぇ、ジャンガ?」
「ン?」
「わたしはね、あなたの事が大嫌いなのよ? ラ・ヴァリエールと同じか、それ以上に」
「んなこたァ知ってるゼ」
今更何を、と言った表情でジャンガは答えた。
そんなジャンガをキュルケは複雑な表情で見据えながら、言葉を続ける。
「でもね、今回の事は素直に感謝するわ。…ありがとう、タバサを助けてくれて」
「……テメェの玩具を取られたのが、腹立たしかっただけだ。礼を言われる筋合いは無ェ…」
言いながらジャンガは頬杖を突き、そっぽを向く。
その様子にキュルケは、やれやれ、と言った感じでため息を吐く。

そこでジャンガの怪我を治癒魔法で治療している、モンモランシーが唐突に口を開く。
「それにしても、驚きね。先住魔法を使うエルフはとても恐ろしい相手なのよ?」
その後を引き継ぐように、ギーシュも口を挟む。
「そうだ。聖地回復連合軍に参加したぼくのご先祖も、君が行ったアーハンブラ城の戦いで死んだ。
代表的なトゥールの戦いでもガリア・トリステイン連合軍は勝利こそしたが、大分苦戦したんだ」
「確か、連合軍は七千で、エルフは二千じゃなかったかしら?」
「いや、実際は五百らしい。あまりにも格好がつかないので、報告では数倍になったんだ」
首を振りながらモンモランシーの説明を訂正するギーシュ。
「まぁ…そう言う事ね。ようするにエルフに勝つ為には十倍ほどの戦力が必要なのよ。
それを、たった一人とは言っても一対一で倒してしまうなんて……あなた、本当に凄いのね」
モンモランシーは半ば感心し、半ば呆れて言った。
ジャンガはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「フンッ、あんなのにビビる感覚が理解出来ないゼ。確かに、奴の使う先住魔法は凄かったさ。
だがよ…あれは言ってみりゃあ、精霊の力とやらに手伝ってもらってるだけだ。
精霊の力が無ければ、大した事はねェよ…あんなのはよ。
大体な…人間を蛮人呼ばわりしてるくせに、ガリアに協力をしてる。
いつもは差別し、都合良い時だけ協力をする……人間と変わりが無ェ。
いや、人間の方が幾分マシか? 戦いに関して言えば、あれはまるでダメだ。
誰かに手伝ってもらわなければ、何も出来ないんだからよ。
寄生虫だよ…、相手に引っ付いて養ってもらわなければならないダメ野郎だ」
「…本当に君は凄いな。エルフをそこまで罵れるんだから…」
言いながら、ギーシュは苦笑いを浮かべた。
「はい、終わったわ」
治療を終えたモンモランシーは、そう言って立ち上がった。
ジャンガは一通り身体を触り、眉を顰める。
「オイ、まだ”全部”終わってねェぞ?」
「わたしの精神力ももう限界なのよ。あなたの怪我が酷すぎて、とても全部治しきれないわ。
水の秘薬が有ればまた別だけど…」
「テメェの腕が足りてねェだけじゃねェのか?」
ジャンガの一言にモンモランシーは唇を噛む。
「…そうね。確かに、わたしはまだまだ未熟よ。”あの時”だって、満足にギーシュを助けれなかったし」
モンモランシーの脳裏に、ジョーカーとの戦いの記憶が蘇る。
その気持ちを察したギーシュがモンモランシーの両肩に優しく手を置く。
「そんなに気を落とす事は無いさ。君は、十分ぼくを助けてくれたよ…未熟なんかじゃない。
そして、今の自分に不満が有るのなら、これから強くなっていけばいいさ」
「…ありがと」
そう返したモンモランシーの頬は、ほんのり赤く染まっていた。

そんな二人を尻目に、ルイズはジャンガに詰め寄る。
「それにしても…どうする気よ?」
「どうするって?」
何の事か分からない、ジャンガの様子にルイズは盛大にため息を吐いた。
「あのね…貴方は国法を犯したのよ? 例えどんな理由が在ったって、勝手に国境を超える事は赦されない事だわ。
付け加えれば、タバサはガリア王国では裏切り者として重罪人扱いされてるんでしょ?
それを勝手に連れ出して、内政干渉だとか取られて戦争にでも発展したらどうする気なのよ、あんた?」
一気に捲くし立てるルイズの話をジャンガは静かに聞いていた。
そして、爪で頭を掻きながら、ため息を吐く。
「ほらな……そうやって色々言うだろうが。だからテメェには言わずに行って来たんだよ」
「あなたね…事の重大さ分かってるの?」
「知らねェな」
「なっ!?」
ジャンガのあまりに他人事の様な返事に、ルイズは言葉を失う。
そんな事を露ほども気にせず、ジャンガは続ける。
「そうやって、あーだこーだ理由を付けやがって……テメェはアイツに感謝の一つも無ェのかよ?」
ジャンガはチラリとベットで眠るタバサを見た。
ルイズは一瞬口篭る。
「それは…勿論、タバサには感謝してるわよ。でも、それとこれとは話が別。
自分の感情だけで突っ走って、周りに迷惑を掛ける訳には行かないじゃない。
そんなのは、我侭なただの子供よ」


――お前の過去に何があったか知らないが……それだけは止めておけ――

――……テメェに何が解るんだ? バッツ…――


ルイズの言葉に、ジャンガの脳裏に過去が鮮明に蘇る。
「……」
「どうしたのよ? 急に黙ったりして…」
急に黙ったジャンガの様子に、ルイズは心配そうに顔を覗き込む。
ジャンガは首を静かに振る。
「いや……少し、昔を思い出しただけだ…」
「そ、そう…」
少しの沈黙の後、ジャンガが口を開く。
「まァ…お前の言い分も解らなくも無ェゼ」
「そう…。急に物分りが良くなったじゃない?」
「ああ……確かに感情に任せて暴れるだけじゃ、猪と変わらない。
周囲の意見に耳を傾けるのも大事だと思うさ」
ジャンガの態度の変わりっぷりに、ルイズだけでなく、その場の全員が目を丸くする。
「…あんた、一体どうしたの?」
「別にどうもしねェ…。ただ、今回は一刻を争うからな……お前等と話し合ってる余裕は無かった。
だから一人で行った。…それだけだ」
ルイズ達一同は何も言わなかった。
「それによ内政干渉だとか戦争だとか言ったが……別にそんなに心配しなくてもいいと思うゼ?」
「どう言う意味よ?」
「…本気で取り返す気なら、ここへ戻って来る途中で襲われてたはずだからよ」
その言葉に、それもそうだな、とデルフリンガーも相槌を打つ。
「つまりだ……奴等にとってタバサ嬢ちゃん達は、所詮その程度の価値しかないわけだな。
手元に有っても無くても関係無ェんだよ。だから心配する必要も無ェ」
「だと良いけどね」
ルイズはまだ少し心配そうだ。
そして、ベットで眠る母子を見つめる。
「それで、どうするの? 理由はともかく、このまま学院に置いておく訳にも行かないわよ?」
ジャンガは考え込んだ。
確かに、このままここに置いておくのも何かと問題はありそうだ。
かと言って、タバサの実家に戻すのも心配だ。さて…どうするか?
暫し悩み……唐突に窓を振り返る。
「誰だ?」
「な、何を言ってるのよ?」
ルイズは怪訝な表情でジャンガに聞いた。
窓から目を離さずにジャンガは答える。
「窓の外に誰か居るゼ…」
「「「「え!?」」」」
その場に居る全員の視線が、窓に向けられる。
ジャンガは窓に向かって叫んだ。
「そこに居るのは誰だ? とっとと出て来やがれ」
返事は無い。
ジャンガは爪を構える。
「出て来ない…ってんなら、こっちにも考えがあるゼ?」
ジャンガの言葉に観念したのか、窓がひとりでに開き、一つの人影が入ってきた。
フードを被っていて顔は良く判らないが、その華奢な体つきから年若い少女なのは見て取れた。
「だ、誰?」
ルイズは突然の闖入者に驚き、声を上げる。
窓から入ってきた少女はルイズの声に楽しそうに笑う。
「あなたの使い魔さん、本当に凄いわねルイズ」
その声にルイズは目を丸くする。
「あ、あなたは…まさか?」
少女は静かに被っていたフードを取る。
その場の(ジャンガとキュルケ以外の)全員が驚いた。
「姫さま!?」
「王女様!?」
「姫殿下!?」
そう、少女はアンリエッタ姫だった。
口々に驚きの声を上げながらも、ルイズ、モンモランシー、ギーシュは跪く。
ジャンガとキュルケは、そんな三人とアンリエッタを特に何をするでもなく、ただ見比べている。
ルイズはそんな二人の態度に苛立ちを覚えたが、姫殿下の御前ゆえにそれを抑えた。
顔を上げ、アンリエッタに尋ねる。
「姫さま、どうなさったのですか? お一人で…それもこんな時間に」
その言葉に、アンリエッタは少し困ったような表情を浮かべる。
そして、ベットで眠るタバサ親子の姿が目に留まる。
「この方は…確か、品評会の優勝者ではないですか?」
「あ、はいそうです」
「一緒に眠っている女性は誰ですか?」
「そいつの母ちゃんだ」
そう答えたのはジャンガだ。
「何故、学院の…それもルイズの部屋に?」
「話すと長くなるからパスだ。とりあえず、お前の用件を言いやがれ」
面倒くさそうに言い放つジャンガ。…酷く無礼な態度であった。
我慢が出来ず、ルイズは肩を震わせて怒鳴りつけた。
「あんた! 姫さまに向かってなんて無礼な口を聞くのよ!?」
「…いいのですよルイズ。余計な事を聞いた、わたくしも悪いのですから」
そう言い、アンリエッタは小さく咳払いをする。
「ルイズ、わたくしはゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になりました」
その言葉にルイズは驚愕し、目を見開く。
「な、なんですって!?」
「あら? そうなんだ」
場の雰囲気にそぐわない軽い調子で、そう言ったのはキュルケである。
「それにしても急ですわね…、何か事情でも?」
キュルケに尋ねられ、アンリエッタは小首を傾げる。
「あなたは?」
キュルケは優雅な仕草でお辞儀をする。
「申し送れました…あたし、ゲルマニアのキュルケ・フォン・ツェルプストーと申します」
「ゲルマニアの…そうですか」
どことなく寂しさを感じる笑顔を浮かべ、アンリエッタは小さくお辞儀をする。
「それで、トリステインの時期女王陛下が、あたしの国の皇帝へと急に嫁ぐ事になった理由とは何でしょうか?」
キュルケに尋ねられ、アンリエッタは静かに口を開く。
「同盟を結ぶ為です」

アンリエッタはハルケギニアの政治情勢を説明する。
アルビオンの貴族が反乱を起こし、王室が倒れそうな事。
反乱軍が勝利すれば、次はトリステインに侵攻するだろうという事。
小国ゆえに一国では太刀打ち出来ない為、ゲルマニアと同盟を結ぶ事になった事。
その同盟の為に、アンリエッタがゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になった事。
「そうだったのですか…」
ルイズは沈んだ声で言った。
アンリエッタがその結婚を望んでいない事は口調で明らかだった。
「好きでもない殿方との結婚…、気持ちが沈むのは理解出来なくはないですわね」
キュルケの鋭い指摘にアンリエッタとルイズの二人に、同時に緊張が走る。
そんな二人の様子にキュルケは小さく笑う。
「別にそんなに緊張されなくても、よろしいではありませんか。
それが事実としても、あたしは皇帝に告げ口をしようなどとは思っていません。
それに、同盟が結ばれれば、これまでの詰らないいざこざも無くなると言う物です。
邪魔する理由が何処に在りましょう?」
優雅に語るキュルケ。
そんな彼女を見つめながら「雌狸が…」と呟くジャンガ。
ようやく緊張が解けたアンリエッタの口から安堵の息が漏れる。
そして、真顔でルイズに向き直る。
「ルイズ、わたくしはトリステインの王女、国の為にこの身を投げ出す事に迷いは有りません。
それよりも…その同盟に関する事で、あなたにお願いがあるのです」
「このわたしに出来る事であれば、なんなりとお申し付けください、姫さま」
力強くルイズは答えた。
その言葉にアンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう、ルイズ・フランソワーズ」
言いながら窓辺へと向かう。
窓の外、夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。
「実は、ある物を回収してきて欲しいのです」
「ある物?」
ルイズは思わず聞き返していた。
アンリエッタは僅かに頷く。
「アルビオンのウェールズ皇太子に宛てた一通の手紙なのです。
それがどう言う内容なのかは…残念ながら言えません。
ですが、その手紙が白日の下にさらされた場合、ゲルマニアとの縁談は破談となってしまいます」
「ほゥ? そりゃあ確かに困るな。にしても破談になる内容ネ~? …どんなのか気になるゼ」
「へぇ…珍しく意見があったわね? あたしもその手紙の内容には興味があるわ」
ジャンガとキュルケの、あまりに空気を読まない発言に、ルイズは怒鳴った。
「うるさいわよ、あんた達!!!」
怒鳴られても二人は馬耳東風。口笛を吹きながらそっぽを向く。

アンリエッタの話は続く。
「今アルビオンへ行かせるのは、大変危険だと言う事は重々承知しています…。
ですが…このような事を頼む事ができるほど信頼できる人は、貴方位しかわたくしにはいなくて…」
そうして、アンリエッタは静かに肩を震わせる。
その様子にルイズは、慌ててアンリエッタの下へと駆け寄り、跪く。
「ルイズ・フランソワーズ」
「姫さま、ありがとうございます。その様な重要な任務を、わたしにお与えくださって、この上なき幸せです」
ルイズは満面の笑顔で答えた。
その言葉にアンリエッタも笑顔を浮かべ、ルイズの手を取った。
「ああ、ルイズ。では、行っていただけますの?」
「はい。この一命にかけても、必ずや成し遂げてみせます」
ありがとう、と言い、アンリエッタはルイズの手を取った。

そこでギーシュがアンリエッタに声を掛けた。
「姫殿下、その任務…是非ともこのぼくにもお任せください」
「え? あなたは?」
「申し送れました、ギーシュ・ド・グラモンと申します」
アンリエッタはギーシュの名前を聞き、ハッとなる。
「グラモン…、もしやあなたはグラモン元帥の?」
「息子でございます」
答えながら深々と頭を下げる。
アンリエッタは微笑んだ。
「あなたも、わたくしの力になってくださるのですか?」
「勿論でございます」
そんなギーシュのマントをモンモランシーが引っ張る。
「なんだい、モンモランシー?」
「…まさかとは思うけど、卑しい事を考えていたりしないわよね?」
モンモランシーは僅かに哀しそうな表情を見せる。
そんな彼女に、ギーシュは微笑んでみせた。
「何も無いさ。ただ、トリステインの貴族として、純粋に姫殿下の力になりたいと思っただけさ。
それに…ルイズも”一応”レディだ。こんな危険な任務に一人で行かせる訳にも行かないだろ」
「そう…」
「言っただろう。レディには優しくするが、愛するのは君だけだと…な、ぼくのモンモランシー」
「ふ、ふん! わたしだって解ってるわよ! ちょっとだけ…気になっただけよ」
そっぽを向くモンモランシーにギーシュは笑った。
そして、真顔になりアンリエッタへと向き直る。
「任務の一員に、是非ともお加えください」
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。
では、あなたにもお願いします。どうか、このわたくしを助けてください、ギーシュさん」
「光栄にございます」
そう答えるギーシュを見ながらキュルケは頭を掻く。
「ギーシュも行くのね。…なら、あたしも付いて行こうかしら?」
「ツェルプストー!?」
ルイズが驚き声を上げる。
「何を驚くのよ? あたしも同盟が結ばれるのはとても喜ばしい事だと理解してるわ。
だから、お手伝いをするのは当然でしょ?」
「…そう」
「ミス・ツェルプストー……ありがとう」
お礼を述べるアンリエッタに、キュルケは恭しく一礼をする。
「いえ、トリステインとゲルマニアの間に良き同盟が結ばれる事を願っての事ですから」
そう言って、キュルケは微笑んだ。

それを見てモンモランシーは深く頷く。
「なら、わたしも…」
付いて行く、と言おうとした。
それをギーシュが手で制す。
「ギーシュ?」
「君はここに残ってくれ」
「何で?」
無言でバラの造花を突き出す。
その先にはベットで眠るタバサと母親。
「彼女達を放ってはおけないだろ?」
「あ…」
「ぼく達が帰ってくるまで、君に任せる。…いいだろう、ルイズ?」
ギーシュはルイズに同意を求める。
ルイズは逡巡し、モンモランシーを見た。
「お願い…してもいいかしら、ミス・モンモランシ?」
「…分かったわ」
静かに頷き、了承の意を示した。



ルイズは手紙の返却の事がしたためられた密書を、アンリエッタから受け取る。
「では、明日の朝、アルビオンへ向かって出発するといたします」
「ウェールズ皇太子はニューカッスル城に陣を構えているそうです」
「了解しました」
「旅は危険に満ちています。もしかすれば、アルビオンの貴族達の妨害があるかもしれません。
ですから、護衛の者を一人就かせます。アルビオンまでの案内はその者に」
「お心遣い、感謝します」
ルイズは深々と頭を下げた。

「おい…三文芝居は、もうそれ位にしとけよ?」

豪く無礼な言葉が聞こえた。
振り向けば、ジャンガがつまらなそうに欠伸をしている。
頭にきたルイズはジャンガに詰め寄った。
「あ、あんた…今、何て言ったのよ?」
「三文芝居もそれ位にしとけ…って、言ったんだよ。そこの”お姫様”にな~」
その無礼な言葉に、ルイズは頭に一気に血が上るのを感じた。
「こ、こここ、このバカ猫……ひ、姫さまの依頼をよりにもよって”三文芝居”ですって!?
幾らなんでも言葉が過ぎるわ! 怪我人だからって容赦しないわよ!?」
言いながら杖を突き付ける。
だが、ジャンガはいつもの事ながら、全く動じる気配が無い。
器用に爪で耳の穴をほじっている。
「姫さまにお詫びしなさい! 今直ぐ!」
「やなこった」
「なんですって!?」
「事実を言っただけで何で謝るんだよ?」
「何を指して事実って言ってるのよ?」
そこでジャンガは眉を顰めながらルイズを見つめる。
「解んねェか?」
「何がよ?」
ジャンガは、はぁ~、と深くため息を吐くと、一拍置いて言った。

「そのお姫様は…テメェの事を利用しようとしてるんだゼ?」

――一瞬、時が止まった。
それは本当に一瞬の事だったのだが、その場に居た全員には非常に長く感じられた。
「あんた、何を言ってるのよ?」
ジャンガの言葉が理解できず、ルイズは聞き返す。
「だから、テメェを利用しようとしてるってんだよ、そのお姫様はよ」
「意味が解らないわ!」
「そうかい? なら、俺が代わりに言ってやるよ」
ジャンガはルイズを押し退け、アンリエッタに詰め寄った。
二メイル近い長身に睨まれ、アンリエッタは僅かに動揺する。
しかし、何とか平静を取り繕う。
「…何ですか?」
「テメェの尻拭いを友人にやらせるたァ…意外と腹黒いな、お姫様ァ~」
その言葉にアンリエッタの表情が曇る。
「それは…」
「テメェはお姫様なんだろ? 偉いんだろ? なら、こんなガキにわざわざ頼む必要は無ェじゃねェかよ。
それこそ、お抱えの腕の立つメイジ数人を向かわせるのが利口ってもんだゼ…」
アンリエッタは答えない。ただ、静かに耳を傾ける。
「それをしないのは…まァ、色々お偉い方の事情って物があるんだろうな。
だから、他に行かせる事のできる奴はこのガキしかいなかった…ってんだろ?
キキキ…いいよな友人って。信頼できる相手であればあるほど、都合良く利用できるし、
こんな危険極まりない…命の保障も何もあったものじゃない任務にもホイホイ行かせられるからよ」
「……」
「ジャンガ! いい加減にしなさいよ!?」
たまらずルイズが口挟む。が、ジャンガは止まらない。
「テメェみたいな奴を一人知ってるゼ。そいつは自分が正義だとかぬかして、世界の支配者になろうとした。
そのために様々な物を利用した。人だろうが、物だろうが、生き物だろうがな。
そして、平穏を願う純粋な少女ですら、そいつにとっては目的を果たす為の道具でしかなかった。
自分を助けに来た奴等を傷つけないでくれ、と言う約束をも利用する徹底振りだったゼ。キキキ…」
笑うジャンガを、しかしアンリエッタは静かに見つめる。
「…テメェはアイツにソックリだ。友人の気持ちを利用して、テメェの尻拭いをさせようってんだからよ。
可愛い顔してなんとやらだな…。大した悪党だゼ」
「ジャンガ!!!」
ルイズは遂に堪えきれなくなり、杖を構えて呪文を唱える。
それをアンリエッタが止めた。
「やめて、ルイズ」
「姫さま?」
アンリエッタはジャンガを真っ直ぐに見つめたままだ。
「使い魔さん…反論はしません。確かに、わたくしがルイズに頼んだ事は、軽佻な行いの尻拭いでしかありません。
どのような言葉で飾ろうとも…友人である彼女を都合よく利用しようとした事実は変わりません」
「姫さま…」
力なく呟くルイズとは対照的に、ジャンガは忌々しそうに鼻を鳴らす。
「ケッ、今更そんな反省じみた台詞を言ったてよ…お涙頂戴のそれにしか見えないゼ」
「そうですね…。弁解の余地は有りません」
「少しはテメェの身の程が解ったみたいだな…?」
「…ええ」
ジャンガは顎に爪を当て、暫し何事かを考える。
「キキキ…なら、一つ俺と取引をしようじゃねェか?」
「取引…ですか?」
ジャンガは頷き、顎をしゃくる。
アンリエッタがそちらに目を向けると、タバサと母親が眠っているのが見えた。
「あの二人ちと訳有りでな……テメェの所で預かってくれねェかよ?」
「匿って欲しい…と? どのような訳が有るのですか?」
「あ、そ、それはその…」
ルイズはうろたえる。
当たり前だ、とても言えた内容ではない。
だが、ジャンガは止めようとするルイズを押し退け、アンリエッタに事の次第を全て話した。
全てを聞き終えたアンリエッタの顔は見て解る位に曇っていた。
「そうですか……ガリアに赴き、囚われたこの二人を…」
「ここじゃ満足に面倒見れねェしよ……かと言って実家に戻すのもあれだ。
だから、テメェの所で預かってもらいたいんだがよ……どうだ?」
アンリエッタは目を閉じ、考える。
「…それに答える見返りは何ですか?」
ジャンガはニヤリと笑みを浮かべる。
「テメェの尻拭いを完璧にやり遂げてやる」
暫しの沈黙の後、アンリエッタは目を見開く。
「…必ず、ですか?」
「でなきゃ俺の要求だって呑んでもらえないだろうが? こいつは取引なんだからよ……キキキ」
見詰め合うブルーの瞳と、金と青の月目。
「…わたくしはまだ女王では……全てを決められる立場ではありません。
そして、その立場になったとしても、弱いわたくしに何が…どこまでできるか分かりません。
ですが…、あなたの要求にはわたくしの力の限り、善処する事を約束します」
アンリエッタは深々と頭を下げた。
「ですから…この弱いわたくしに、わたくしの為に危険な場所へ赴いてもらうルイズに…、
わたくしの大切な友人に力を貸してください…。お願いします…」
その言葉を待っていたかのようにジャンガは笑った。
「キキキ…、取引成立だな」



事の成り行きを見守っていた(キュルケを除いた)一同から、一斉に安堵の息が漏れた。
ルイズは直ぐにアンリエッタに声を掛ける。
「宜しいのですか姫さま? 内政干渉などの問題が起こる可能性もあるのですが…」
「いいのよ、ルイズ。確かに問題は多いと思うわ。…でも、だからと言って放っておけるわけはないし…。
なにより、わたくしの失敗の後始末をお願いするのです。多少なりと、わたくしも骨を折らねばなりませんわ」
そう言ってアンリエッタは満面の笑顔で返す。
その顔を見たルイズは最早何も言えなかった。
「分かりました」
「では、ルイズ…お願いね」
「はい」
アンリエッタは右手の薬指に嵌めた指輪を引き抜くと、ルイズの右手の薬指に嵌めた。
「これは…?」
「母から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです」
「…ありがとうございます」
「それともう一つ…」
アンリエッタはマントの内側に手を入れる。
そして、取り出した手には青っぽい色をした”何か”が握られていた。

その”何か”を見て、ジャンガの目が驚愕に見開かれた。
アンリエッタはルイズに手にした物を手渡す。
ルイズは興味深そうに”それ”をあらゆる角度から見る。
「姫さま…これは何ですか?」
「珍しい物ね……何かしら?」
「刻まれているのは、王家の紋章ではないな…」
キュルケやギーシュも、ルイズが手にした”それ”を横から覗き込んでいる。
アンリエッタは困ったような表情で答える。
「わたくしも詳しい事は…。ただ、これは王家に古くから伝わっている物なの。
代々の王はこれを受け継ぐ事が義務付けられているのよ」
「そんな大事な物を…いいのですか?」
アンリエッタは頷いた。
「あなたを危険から守ってくれるように、それもお渡ししておきます」
「姫さま…お心遣い感謝します」
そうして、ルイズは手にした”それ”に目を落とした。

と、横から伸びた爪が”それ”を奪い取った。

「な、ちょっとジャンガ!? 姫さまから渡された物を勝手に…」
そこまで言って、ルイズは言葉を止める。
ジャンガの表情がやけに真剣だったからだ。
手にした”それ”をジャンガは暫く、ジッと見つめ、顔を上げるとアンリエッタに尋ねた。
「なァ、姫嬢ちゃんよ…一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「古くから伝わってると言っていたが……どれ位前から”これ”はあるんだ?」
少し考え、アンリエッタは首を振った。
「それは…分かりません。ただ、随分と古くから伝わってるとしか…」
「……」
再び”それ”に目を落とすジャンガ。
ルイズは気になって声を掛けた。
「ねぇ……それがどうしたの?」
「こいつは…」
「え?」
ジャンガは”それ”の名を口にした。



「こいつは…ヒーローメダル、俺の居た世界の物だ」


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