あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第5話


「……そして、突然光に包まれたと思ったらあの草原にいた」
 三人とも、すっかり聞き入っていたようだ。長い話が終わり、ため息をつくルイズとキュルケ。
「嘘みたいな話ね。過去に行って来たり、たった数人で国を相手に勝っちゃうなんて」
「そうよね。いくらか話を聞いてたわたしでも信じられないくらいだわ」
 確かに、そう簡単に信じられる話でもないことは、自分でもよく分かっている。二人の言葉に頷いた。
「証明する手段は流石にないが、まぁ証明できたとしてだからどうと言う話でもないから、少し面白い話を聞いた程度に思ってもらえればいい。
 それに色々なものに助けられた。信頼できる仲間、支えてくれた人たち、足並みの揃わない敵。俺たちの力だけで勝ったわけではないのは確かだ」
「ふうん」
 気のないような、でも関心したような相槌を打つキュルケ。
「さて、これで話は終わりだ。そろそろいい時間ではないか?」
 話をしている間にかなり時間が経ってしまっていた。もう日が傾いてしばらく経つ。夕食の時間も近いだろう。
「いけない、そろそろ夕食の時間じゃない。それじゃ食堂に行きましょ」
 そこで何か思いついたのか、ルイズがキュルケをタバサに向き直る。
「キュルケ、タバサ。くれぐれも内緒にしてよね。アカデミーに引っ張られるなんて御免だもの」
「わかってる」
「それに心配しなくても、話したところで誰も信じちゃくれないわよ」
 それもそうね、というつぶやきが聞こえた。

 食堂の入り口で三人と別れ、厨房へと向かう。扉を開けると、そこにはマルトーの熱烈な抱擁が待っていた。
「おぉよく来たな『我らの槍』!」
 我らの槍?
「マルトー、とりあえず離れてくれ。それに『我らの槍』とは?」
「見てたぜ~あの小生意気な貴族のガキを槍みたいな武器でぶっ倒す所!それも相手に傷一つ付けずにだ!そんじょそこらのヤツにできることじゃねぇ」
「いやしかし、だからといってその呼び方は……それに相手の油断にも助けられた勝ちだ」
 そう言うとマルトーはさらに感激した様子で抱きついてきた。
「そこで謙遜するたぁ……いや俺は心底お前に惚れた!おっと、ここへ来たってことは晩飯だな。ちょっと待ってろ、気合入れて作ってやるぞ」
 少し対応に困ったが、出された夕食はいつも通りの美味だった。というか、いつもより豪華だった気がする。
「美味かった。ありがとう」
「なぁに、俺が使える唯一の魔法よ。貴族みてぇに色んなことはできねぇが、こうやって絶妙な味に料理を仕立てあげるのだって一つの魔法みたいなもんだ。そうだろ?」
 マルトーの言葉に、旅の途中でクラリッサがログナーの味に追いつかないとぼやいていたことを思い出す。
「確かにそうだな」
 同意すると、さらに感激したように太い腕を肩にかけてくる。
「いいやつだな!全くお前はいいやつだ!おい『我らの槍』!俺はお前の額に接吻するぞ!こら、いいな!」
 流石にそれは遠慮願いたい。俺はマルトーの体を押しやって、言葉を続けた。
「接吻は遠慮してくれ。できればその呼び方も」
「なぜだ?」
「なぜだと言われても……そこまで大したことじゃない」
 できることをやっただけだし、言うことはできないが別の要因もあると思っていたらマルトーが言葉を続けてきた。
「謙遜しすぎだ!お前らも見習えよ。本当の達人は自らの腕を誇ったり、ましてや驕ったりしない!」
 若いコックや見習いの声が唱和するのを、流石に少し疲れた気分で聞いていた。


 そんなこんなで、数日が過ぎた。
 ルイズもキュルケもタバサも、マルトーやシエスタたち平民も相変わらずの穏やかな日々だ。
 日中はルイズと共に授業を見学し、タバサの手が空いたときは稽古に付き合う。
 その際に、トリステインの文字が俺の知っているものと違うため読むことができないことが判明し、それではと言うことで稽古のお返しにとタバサに字を教えてもらうことになったりした。
 またある夜にキュルケがフレイムを使って俺を部屋に連れ込み、困惑していたところにルイズが駆け込んできたこともあった。
 その時二人の家に纏わる因縁を聞き、俺の話の時に頭を下げたことについて感心すると、
「べ、別にあんたのためにやったんじゃないんだからね!?」
という、なんとも返答に困る返事が返って来たことは、忘れてやった方がいいエピソードかも知れない。

「明日は虚無の曜日だから、街へ行くわよ」
 そうしてある夜、突然にルイズが宣言した。
「街へ?」
「そうよ。あんたの服とか、武器とか買ってあげるわ。感謝しなさいよね」
 確かに俺の服は召喚された時に来ていたこれ一着だけだし、手持ちの武器ができるのもありがたいのだが……
「いいのか?」
「必要なものはちゃんと買い揃えるわよ。使い魔を養うのも主人の務めってね。それに武器無しじゃ、いざというときわたしを守れないでしょ」
 なるほど。
「わかった」
「それじゃ今日は早く寝ましょ。王都は馬で3時間かかるからね」


   ◇◆◇


 虚無の曜日。
 わたしとフィアースは早朝から馬に乗って、王都へと来ていた。
「とりあえずは武器かしらね。いいのがあるといいんだけど」
 そう言いながら、大通りを外れて路地裏へと入っていく。
「この辺はきれいじゃないから、あんまり来たくないのよね……えっと、ビエモンの秘薬屋の近くだったから確かこの辺……」
 記憶を頼りに、目当ての武器屋の看板を探して歩く。
「お財布は大丈夫でしょうね?スリとかもいるんだから気をつけなさいよ」
「あぁ、分かっている」
 自信たっぷりに言うけど、たぶん分かってないと思うから注意させておこうかしら。
「魔法を使われたらどうなるか分からないわよ。気を抜かないようにね」
「む?魔法を使うのは貴族だったはずだが」
 あぁ、やっぱり勘違いしてる。
「貴族は全員メイジだけど、メイジのすべてが貴族なわけじゃないわ。事情はそれぞれだけど、傭兵や犯罪者になったりする人もいるから」
「なるほど」
「分かってもらえたみたいね……っと、あった、ここだわ」
 剣の看板。間違いないわね。
 ドアを開けて店に入ると、店内は昼間だっていうのに薄暗く、ところ構わず乱雑に武器が陳列されている。
 ……ここにしたのは失敗だったかしら。
「旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしてまさぁ。お上に目をつけられるようなことはしちゃいませんぜ」
 そう言う台詞が逆に怪しいと思うんだけど、まぁそれはいいわ。
 くわえていたパイプを離して、胡散臭げに話しかけてくる店主に、言葉を返す。
「客よ」
「こりゃおったまげた!坊主は聖具を、兵士は剣を、貴族は杖を、そして陛下はお手をお振りになるのが相場だってのに」
 あら、なかなか気の効いた文句ね。ちょっと感心。
「使うのはわたしじゃなくって、彼よ」
 そう言うと、店主はフィアースに視線を移した。
「あぁ、従者の方にですかい。わかりやした、そんじゃしばしお待ちくだせぇ」
 そう残して店の奥へ引っ込んでしまった。何かいいのがあるのかしら?
「わたしは武器のことなんて分からないんだけど、どうフィアース。いいのありそう?」
「ふむ」
 そう残して、フィアース陳列されている武器を見て回りだした。
「フィアースはどういう武器がいいの?やっぱりあの時みたいなのがいいのかしら」
「確かにポールアームは一番使い慣れた武器だが、ARMがある以上大抵の武器は使いこなせる。ここは性能重視で選びたいところだな」
 そう言えばそういう物だったわね。
 ぐるりと店の中を見回して見たけど、あの時フィアースが使ったような武器は、きれいな物の中にはなさそうだった。きれいなのはもっぱら剣ね。
 一際乱雑に、陳列というよりは置いてあるだけのところには似たようなものがあるけど、錆びてたり悪いのになると曲がってたりする。
 そうこうしていると、店主がいくつかの武器を抱えて戻ってきた。
「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間でも、従者や下僕に剣を持たすのが流行っておりましてね」
「貴族の間で?」
「へぇ、最近このトリステインの城下町を『土くれ』のフーケってぇメイジの盗賊が荒らしてまして。貴族の方々も自衛のために、皆さん下僕に武器を持たせてるってぇ次第でさぁ」
 ふぅん、女王陛下のお膝元だって言うのに、随分と大胆な賊もいたものね。
「この辺なんていかがでしょう?どれもウチの秘蔵の逸品ですぜ」
 あら、きれいな剣じゃない。
 店主が奥から持ってきたのは、見た目にも豪華な大剣や細剣などが二・三本。
「特にこの大剣などは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作で。ちゃんと銘もこちらに。魔法もかかってるんで、鉄だろうと一刀両断ですぜ」
 げ、よりによってゲルマニア製なの。
 ちらりとフィアースを見ると、目を輝かせているかと思いきや微妙な顔をしていた。
「どうしたの?」
「いや、こういう、煌びやかなのは……」
「趣味に合わない?」
 訊くと、目を閉じてしまった。あぁ、当たりだったのね。
「旦那、旦那。趣味よりは性能重視で行きましょうぜ。それにこの剣なら、公式な場でも恥ずかしくないものですし、貴族様にお付きなら便利だと思いやすがねぇ」
 店主の押しもいまいち効いてないみたいで、渋い顔を崩さないフィアース。どうしたのかしら?
 わたしはフィアースを店の反対側まで引っ張って、小声で訊いてみる。
「どうしたのよ?いい剣じゃない」
「俺の経験から言うと、あれは装飾用の剣だ。壁に飾るにはいいが実用には耐えられまい。値も張るだろう」
 お金のことは気にしなくてもいいのに。
「ふぅん……」
 相槌は打ってみるものの、やっぱりよく分からない。
「わたしが話してても埒が明かないわね。直接話しなさいよ」
「そうだな」
 頷くと、フィアースは店主の方へと向かった。
「店主、もう少し実用性の高い武器は……」
 あちゃぁ、言葉を選びなさいよフィアース。さっきの売り文句聞いてなかったのかしら。店主も渋い顔をしちゃったわ。
「はははは!にいちゃん分かってるじゃねぇかッ!儲け損ねたなオヤジ!」
 いきなり別なところから笑い声が響いた。
「な、なにごと!?」
「黙ってろぃデル公!お客様の前だぞ!」
 店主が積まれている武器の山に向かって怒鳴り返す。
 なに?何かいるの?
 フィアースが声のした方に向かい、山の中から一本の剣を引き抜いた。錆びも浮いてるし、作りも片刃で変な感じの剣ね。
「お、にいちゃんなかなかの腕だね」
 剣の金具がパカパカするのと同時に声が聞こえる。あれって……
「もしかして、インテリジェンスソード?」
「そうでさ。意思を持った魔剣、インテリジェンスソード。一体どこのメイジ様がこんなこと始めたんですかねぇ。特にこいつは口は悪いわお客様に喧嘩売るわで閉口してまして」
「剣の扱い方もわからねぇようなヤツに使われるなんて真っ平なんだよ!おいにいちゃん、俺を買えよ」
 剣が自分で売り込みしてる……ちょっとめまいが。
「ふむ、面白いな。名は?」
「俺はデルフリンガーってんだ。長けりゃデルフって呼んでくれや」
 何か意気投合してるし!
「もうちょっと綺麗なのにしましょうよフィアース。わたしイヤよ、こんなボロいの」
「いや、これはなかなかの物だ。下手な剣よりは役に立ってくれるだろう」
 あぁもう、言うこと聞かないんだから!
「はぁ……わかったわ。店主、おいくら?」
「そいつなら百で結構でさ」
 思わず他の剣の値札を見る。どれもこれの倍以上の値で表示されてる。
「安い、のね?」
 比較的って話よ。金額自体を見ると安いものじゃないんだから。
「厄介払いみたいなもんでさ。こっちとしても商売の邪魔にならなくていいやってなもんで」
「おぉ、にいちゃん只者じゃないと思ったら『使い手』か!こりゃいいや」
「フィアースだ」
 フィアースとデルフリンガーは仲よく話しながら、カウンターへ行って店主に金貨を支払った。
「毎度。どうしてもうるさくて仕方ないときは、鞘に押し込んじまえば黙りますんで」
「あぁ、ありがとう」
「俺としては止めてもらいたいんだがなー」
 まぁフィアースが気に入ったんならいいでしょう。
 それに、インテリジェンスソードなら確かに下手な剣よりは強度はあるはずだし。実用的かどうかはわからないけど。

「ところで、その剣がどれくらいの物か確かめなくてもよかったの?」
 ふと思いついたことをフィアースに訊いてみる。店を出てから気づいたわたしもわたしだけどさ。
「おいおい嬢ちゃん、俺を疑ってんのかい?」
「当たり前じゃない。そんな錆まで浮いてるような剣のどこが信用できるっていうのよ」
「何をぅ?やるか?」
 剣に喧嘩を売られるって、なかなか珍しい経験だと思うわ。ホントに変な剣を掴まされたんじゃなきゃいいんだけど。
「まぁそう言うな、ルイズもデルフリンガーも。そうだな、とりあえず二つほど理由はある」
 二つも?
「一つは、デルフリンガーがインテリジェンスソードだったことだ。
 魔法のかかった武器というのは、見た目や普通の使い方以外の点で力を発揮することがある。それを確かめるには、試し切りでは意味が無いと思った。
 それに、誰が見ているか分からない。何かあった時のために、見知らぬ土地では立ち回りは控えたい」
「なるほどな」
 ふぅん、そんなものかしらね。
「二つ目は?」
 言葉を区切ったフィアースに、先を促す。
「二つ目は、デルフリンガーには悪いが、見た目が良くなかったためだ。
 貴族と共に武器屋に入った俺が錆びた剣を試し切りで振り回すなどと言った光景は、お前としても見られない方が良いだろう?さっきも言ったが、誰が見ているか分からない。
 それに、店の評判にも関わる」
 店の評判なんて気にしてたの?なんで?そんなのわたしたちには関係ないじゃない。もともとボロっちぃ店なんだし。
 よく分からない顔を浮かべているだろうわたしに、フィアースは言葉を続ける。
「お前が、あそこで武器を買ったからだ」
 わたしが?と思ったところで、わたしの家名のことをフィアースが気にしていることに気が付いた。
 わたしが武器をフィアースに買い与えるのに、わざわざボロ剣を売っているような評判の悪い店に入って、錆の浮いている剣を……あまり気持ちのいい風評じゃないわね、確かに。
 つまり結局、こいつは買った武器自体を信用すると共に、わたしのことまで気にかけてくれていたのだ。
 ホントに、気が利くんだか利かないんだかよく分からないけど……
「へぇ、にいちゃんも実は色々考えてんだなぁ」
 あ、デルフにセリフ盗られた。

 そんなやりとりをしながら裏路地を出て、そのままもう一つの目的であるフィアースの服を買いに出た。
 そっちはヴァリエール家でいつも注文を出している店に行って、用立ててもらうことにした。もちろんすぐにはできないので、出来上がったら学院まで送ってもらうように手続きをしておいた。
 ついでに既製品で着れそうな服を数着買ってから、店を出る。
「でもやっぱり黒なのね」
 似合ってるからいいと思うけど。でもモノクロって誰にでも似合うのよねぇ。
「キュルケじゃないけど、元は悪くないんだから、もっとお洒落すればいいのに」
 ふと思い出したキュルケの台詞をフィアースに言ってみるが、それでも首を縦に振らない。
「派手な服装は好きじゃない」
 まぁ、フィアースらしいといえばらしいんだけど。
 そんなことを話しながら軽食を摂るために店に入ると。
「はぁい」
「なんであんたがここにいるのよキュルケ!」
 そう、キュルケとタバサが陣取っていた。
「なによ、虚無の曜日なんだもの。街に出てきてたっていいじゃない」
「そりゃそうだけど……」
 何か先回りされたみたいで嫌だわ。
 でもまぁいいか、とその席に相席する。
「クックベリーパイと紅茶を2人前」
 ウェイターに注文を済ませると、キュルケが話しかけてきた。
「で、今日は何の用だったのよ?」
「フィアースの買い物よ。服と剣」
 へぇ、とキュルケの相槌。
 ちらっと目を向けると、我関せずとタバサは本を読んでいた。
「そっちは?」
「内緒」
 なによ、こっちには訊いといて内緒はずるいんじゃない?
 ちょっと気になったけど、わざわざ問いただすのも癪だったから、こっちも気の無い相槌を打っておいた。


   ◇◆◇


 運ばれてきたパイと紅茶は、とても美味いものだった。
「あんた、それ好きよねぇ。前も頼んでたでしょ」
「いいじゃない、美味しいんだもの」
 ルイズは、キュルケの家とは不倶戴天の敵同士だと言うが、この二人は仲がよさそうに見える。まぁ学友ともなれば仲が良いに越したことは無いのだろうが。
 ……ルイズに知られたら、すごい反論をされそうだ。傍から見るとどう見ても友人なのだがな。
「で、買ったのってその剣?」
 ひと段落ついたところで、下ろしてあったデルフリンガーを見てキュルケが言う。
「わたしはイヤだったんだけど、フィアースが気に入っちゃったのよ」
「ふぅん」
 キュルケの相槌。見てみると、分かりづらいが意味深な表情をしている。
「さて、そろそろ行きましょうフィアース。今から帰れば大体いい時間だわ」
 そういえば、帰り道も3時間の馬旅だったな。
「分かった」
 俺の返事を受けて、ルイズは二人にも問いかける。
「あんたたちは?」
「あたしたちはもう少しのんびりしていくわよ。シルフィードは流石に速いわぁ」
 タバサの使い魔の竜に乗ってきたのか。それは確かに速いだろう。
 ちらりとルイズを窺うと色々思うところがありそうな、傍から見ると面白い表情をしていた。


 往きと同じく3時間かけて馬で帰ってきてみると、俺たちよりあとから出発したはずのキュルケたちが出迎えてくれた。
「ちょっ、ホントに速いわね!?さすがは風竜、ってところかしら」
「快適だったわよぉ~?」
 あまりルイズを挑発してやるな……
 慰め、というわけではないが、ポンとルイズの頭に手を乗せる。
「何よ」
「いや、別に」
「じゃぁ手をどけなさいよ」
 裏目に出てしまったか。言われたとおり手を引っ込める。
「ふぅん?」
「……なによ?」
 意味ありげな目を向けたまま、キュルケは何も言わない。アレが彼女の性格とは分かってはいても、性質が悪いと言わざるを得ないな。
 そんなこんなしていると、我関せずとタバサが話しかけてきた。
「練習」
 ふむ、休日で稽古も休みかと思ったが、タバサはそうは考えていなかったようだ。
 時間もあることだし、それでは付き合うとしようか。

 カンカン、と木の棒を打ち付けあう音に紛れて、ときどき盛大な爆発音が響く。
 俺がタバサと稽古をしている間に、手持ち無沙汰だったのかルイズが魔法の練習を始めた。
 結果はご覧の通り。目標になった小石があったと思われる地点が、あちこちと陥没している。
 時々挟まれるキュルケの挑発にも耳を貸さず、次の目標へと杖を振り下ろす。
 ドオオオーン!
 そして、また爆発。
「どの魔法を唱えても失敗するなんて、ホント一種の才能よね。今更だけど」
「うるさいわね!気が散っちゃうじゃない!」
 ついにこらえきれなくなったか、ルイズが叫んだ。その苛立った、若しくは泣きそうな声に思わず手が止まる。
「すまない、ちょっと待ってくれるか、タバサ」
 彼女が頷くのを確認して、ルイズとキュルケに歩み寄る。
「キュルケ、ちょっといいか」
「あら、どうしたの?」
 最初の授業の時、ルイズが爆発させた教室の片付けの際にルイズに一蹴された考えが、未だに頭をもたげ続けていたのだ。いい機会なので訊いてみるとしよう。
「魔法を失敗した時というのは、ルイズのように爆発したりするものなのか?」
 その言葉に、キュルケとタバサの動きが止まる。固まった、と言ってもいい。
「俺はあの教室の時に、レジストブロックで爆風を防いだ。それはルイズの爆発が魔法に近いものであることを示しているのではないかと思ってルイズに訊いて見たのだが、そんな魔法はないとルイズは言った」
「確かにあんな爆発を起こす魔法なんて、聞いたことないわね」
「それに、魔法を失敗しても爆発しない。精神力が霧散するだけ」
 近づいてきたタバサと顔を見合わせるキュルケ。
「ちょっとフィアースもキュルケもタバサも、何言ってるの?」
 先ほどの受け答えの意味が分かっていないのは、当のルイズだけのようだ。困惑した表情で話の流れに乗れないでいる。
「でも、だとするとどういうことなのかしら」
 得意ではないが、仮説を立てるとしようか。
「アレは、ルイズの魔法が正しく発現した形、若しくは他の魔法と互換性のない術式に因る魔力の暴走ではないか、と思うのだが」
「互換性のない術式?」
 よく分からないという表情で、ルイズが問い返す。
「トリステインで主に使われているのは、火・水・土・風の4要素に因るものであるのは間違いないな?」
 ルイズと共に授業を聞いているので、ある程度の知識は頭に入っている。
 三人が頷くのを確認して、言葉を続ける。
「では、その4大魔法『以外』の魔法を、4大魔法と同じ手順で使ってしまったとしたら。そしてその魔法が、4大魔法の術式以上の威力を持つものだったとしたら」
 沈黙が降りる。
 許容量以上のエネルギーを流された回路は焼け付き、爆発する。あの時、ロンバルディアのジェネレーターを暴走させ、爆発させたように。
 機械と魔法の違いはあるだろうが、同じことが起こる可能性が無いわけではないだろう。
「じゃあ、なに。わたしは4大魔法以外の使い手、ってこと?」
 ルイズが重々しく言ったその言葉を受け、タバサが口を開く。
「……『虚無』」
「そんな!だってアレは伝説の話で」
 タバサの思考もキュルケの反応も分かる。4大魔法以外で今は失われてしまった伝説上の属性があることは、授業でも時々話題に上ることがあるからだ。
 しかし。
「可能性の話だ。決め付けるには早計だし、証拠もない。
 だが、それらを別にしたとしても、あの爆発の攻撃力は侮りがたいものがあることは間違いない。ならば、それを使いこなしてみるのも一つの道だ」
「爆発を、使いこなす?」
 今まで考えたこともなかったのだろう。ルイズが呆然と問い返す。
「ルイズの爆発も一つの魔法として考えればいい。未知の物には前例など無いのだから。道がないのなら、作ればいい。
 それに、力そのものに善悪はない。敵を倒す力とは、味方を守れる力でもある。今ある力をどう使うかは、その力の持ち主次第だ」
 そう言って踵を返すと、タバサもついてきた。
「続き」
「あぁ」
 そうして再び、中庭に木の棒を打ち付けあう音が響きだした。




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