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ゼロの花嫁-07

ゼロの花嫁7話「アニエスとロングビル」


事の発端はいつもの酒場でのちょっとした会話であった。
ロングビルとアニエスの二人は、何時ものようにお互いの近況などを話しながら楽しい時を過ごす。
そこで、アニエスの仕事の話題が出た。
ここ最近になって街に入る麻薬の量が格段に増えたと。
先だっての暴動、ルイズも巻き込まれたあの騒ぎも、それが原因の一つと考えられている。
当局も必死に摘発に当たっているが、急激な増加である為、検挙の人手が足りていないという話らしい。
おかげで半ば黙認に近い形が成立してしまっている。
新しい犯罪組織が出張ってきた。そう考えるべきなのだろうが、その影も形も捉えられずでは打つ手が無い。
これには強気のアニエスも流石に参っていた。
ロングビルはグラスを傾けながら、何の気無しに呟く。
「何処かで派手な値崩れでも起こしたのかしらね?」
ロングビルの言葉の意味がわからず問い返すアニエスに、意外そうにロングビルは答える。
「麻薬なんて元々貴族連中でもなきゃ手が届かないぐらい値が張るじゃない。
 その値段が落ちたから平民達も手に出来るようになったんじゃない?」
違法な植物である麻薬は、当局の摘発を逃れる為、細々と隠れるように栽培されているのが常だ。
生産量も当然少なく、値段も張るというわけで。
「大きな産地でも出来たのかしら」
まるで商人のような事を言うロングビルを、アニエスは目を丸くしながら見ていた。
「そういう発想は無かった……凄いなロングビル。お前は賢い。そうだ、その通りだ。
 何処かで大量に作っている場所があるからあれだけの量が入り込んで来る」
宝石類並みの希少価値であった麻薬に対し、そこまで考える人間は今まで居なかったようだ。
周囲の目もあり、大規模な麻薬栽培は現実的ではないと考えられていた。
そもそも麻薬の市場というものが統治側である貴族に限られていた今までとは、明らかに状況が違うのだ。
新しい犯罪のあり方を今アニエスは目にしているのかもしれないと思うと、背筋が薄ら寒くなってくる。
「そうだ、あれだけの量を栽培しているとなれば産地は限られてくるはず。国中に人をやって調査すれば必ず……」
「産地がトリステインとは限らないんじゃない? いえ、むしろトリステインだったら既存の組織が関わってないはずないし、それなら貴方達の耳にも入るんじゃないかしら」
ロングビルの指摘で言葉に詰まるアニエス。
殊更に陽気に言うロングビル。
「私だったら……そうね、国境に網を張って怪しそうな連中片っ端から当たるわ。
 運んでる人間押さえれば、幾らなんでも何の情報も得られないって事はないでしょ」
尊敬に満ちた視線でロングビルを見るアニエス。
「こんな身近に賢者が居たとは、もしよければもう少しお前の考えを聞かせてはもらえないか」
快く承諾すると、ロングビルは考えを整理する時間をもらい、一つ一つ確かめるようにしながら発言する。
「どの国が臭いかって話だけど、まずアルビオンは却下。あそこから物運ぶのは目立ちすぎるわ。
 それにあの国に居たら今は麻薬で遊んでる暇無いでしょ」
真剣な表情でロングビルの発言に一々頷くアニエス。
「後はゲルマニアかガリアかだけど、これは根拠が薄いけど勘弁してね。私の読みだとガリアよ」
「何故だ? ゲルマニアの方がよほどらしい気がするが」
ロングビルはトリステインと国境を接する領地を治めるゲルマニアの貴族、ツェルプストー家の反応がそれっぽくないと理由を述べる。
先日、学園で騒ぎを起こしたキュルケが実家に家族呼び出しの連絡を送られたのだが、ツェルプストー家からは冷淡と言っても過言でない程おざなりな使者が来ただけであった。
ロングビルもオールドオスマンに従い使者の話す様を見ていたが、目の肥えたロングビルの目から見ても、いかにも重要度の低い使者が頭を下げに来たのみ。
それも早々に引き上げていってしまった。
自国内で大規模な麻薬栽培の気配があったとして、国境を治める領主がそれを知らぬはずがない。
そこに来て理由を付けての呼び出し、もしトリステイン側にゲルマニアが疑われていると考えていれば、もっと気の効いた人物をよこしてこちらの状況を探るはず。
もちろんツェルプストー家当主がボンクラの可能性も否めないが、実力主義のゲルマニアにおいて代々国境を任されるているかの一族を、ロングビルは過小評価してはいなかった。
そんな気配すら感じぬツェルプストー家の対応は、必然的に残るガリアへの疑惑となっていく訳だ。
大きく頷くアニエス。
「ありがとうロングビル、早速私も対応しよう! 皆この件をどうにかしたいと悩んでいた所だ、きっとすぐに動いてくれる! 犯罪者共に目に物見せてくれる!」
「少しでも力になれたんなら嬉しいわ。頑張ってね」
随分長い事犯罪者やってきたが、治安組織にその知識をもって協力したのはこれが始めてだ。
人生何がどう役に立つかわからないものね、と暢気な事を考えながらも、友人からの敬意の眼差しがこんなにも気持ちの良い物とは思いもよらなかったロングビルは、上機嫌でグラスを傾けるのだった。



アニエス率いる調査隊が国境付近に着いたのは、夜も更けた頃だった。
十人程の兵は全員徒歩で移動しており、指揮官であるアニエスと、協力者でありメイジであるロングビルのみが騎乗していた。
「すまないロングビル、貴女にまで手間をかけさせてしまった」
これで六度目であろうか、そんな謝罪の言葉を口にするアニエス。
ロングビルは内心苦笑しながらも、アニエスへの配慮を失わぬ朗らかな笑みで答えた。
「元々これは私が考えた策よ、だから最後まで面倒みさせてちょうだい」
アニエス自身が国境付近に出張って密輸の調査に当たると上司に上申した所、国境警備の者に任せれば良いという上司と意見が対立してしまった。
アニエスは渋る上司を半ば脅すようにして兵を出させたのだが、メイジを手配する事も出来ず、数もたったの十人のみ。
その話を聞いたロングビルはオールドオスマンに話をつけ、こうして協力出来るよう手配を頼んだのだ。
ロングビルはもしアニエスが当たりを引いた場合、間違いなくメイジが護衛に付いていると踏んでいた。
事と次第によってはそれ以上に厳しい護衛に囲まれているという事も在り得る。
そして運んでいる物が物なだけに、密輸犯は強行突破も辞さぬであろう。
そんな場所にアニエスと僅かな手勢のみで乗り込むと聞いて、ロングビルは居ても立ってもいられなかったのだ。
ロングビルが地図から引き出した密輸犯の予測移動ルート。
幾つかあるルートの内、それらが一番多く交差するポイントにテントを張り、通る行商人達を片っ端から調査する。
輸送のタイミングがわかるわけでもなく、確証を得ての行動でもない。
持久戦の覚悟で必要な物を全て揃えていた一行は、途中見かけた行商人にも都度調査を行っていた。
アニエスの叱咤とロングビルの助言を繰り返す事で、兵達は次第に調査のコツを覚え始め、
ポイントに辿り着く頃には、二人が何を言わずとも手際よく確認を済ませられる程になっていた。
「思ったよりしっかりした兵達みたいね」
ロングビルの賞賛に、しかしアニエスは渋い顔である。
「まともに動ける奴を選んだからな。……が、まだまだ甘い。先に出会った商人達が密輸犯であったなら、何と思う間も無く斬り臥せられていただろう。全く、警戒心が無さ過ぎる」
本当、らしいわね。そう思いながらも兵達に疲労を溜めぬためにも一言言っておくべきと感じたロングビルは苦言を呈する。
「貴女の基準が高すぎるのよ。彼等が一生懸命な所は認めてあげなさい。
 訓練じゃない実戦だからこそ、疲労を溜めるようなやり方は感心出来ないわよ」
兵達の前では決して見せない、口をへの字に曲げたアニエスの顔。
「……お前がそう言うのなら、少し手加減するとしよう」
「よろしいっ」
鉄面皮の裏側に隠されたこんな表情を知っているのは自分だけ。
密かな優越感と、妙に可愛らしいアニエスの様子に、ロングビルは満足気に頷くのだった。

街道からは見えない場所にテントを張り終え、物陰に隠れるようにして通行する商人達を待ち構える。
まるで野盗のようだが、相手に対応する隙を与えぬ為の処置だ。
こちらの身分は鎧に描かれている紋章で明示出来るし、その上で逆らうようなら強硬するまで。
実際の所そこまで大事にはならず、荷物に被害を与えるような真似さえしなければ、商人達は従ってくれる。
もちろん彼等を信用している訳ではない。
一箇所に留まり続ければ商人達のネットワークにより、すぐに意味の無い検問となってしまう為、数日滞在したらすぐに別の場所へと移動する予定である。
だが、どうやら幸運の女神はアニエスとロングビルに微笑んだようだ。
最有力ルートを押さえていたせいもあろうが、夜中に到着しテントを張って明け方を迎える頃に、奇妙な一行を捕捉した。
積荷の量に比して明らかに護衛の数が多すぎる。荷馬車一台のみにも関わらず護衛の人間が十人以上は居る。
積んでいる物がそれこそ黄金だとでも言わんばかりの護衛体制。
街道側に隠れながらロングビルがアニエスに囁く。
「……アニエス、護衛の人間達見れば多分私なら雰囲気でわかる。後は手はず通りに」
「了解した。頼むぞロングビル」
アニエスの合図と共に街道から兵士達が飛び出す。
「止まれ!トリステイン警備隊による検問だ!」
荷馬車の一行は人影が飛び出してきた事に反応し、緊張した面持ちで荷馬車を守るような位置取りを計る。
一行のリーダーらしき男が2メイル程の杖を片手に前へ進み出る。
「これは……警備隊が一体何事ですかな」
年の頃は三十台半ばだろう、杖を持っている所からメイジであると思われるが、簡素な衣服では到底隠し切れぬ鍛えぬいた体をしている。
ロングビルからの合図は未だ無し。アニエスは通常通りの段取りに乗っ取って男を詰問する。
「禁制品の密輸が行われているとの通報があった。荷物を改めさせてもらう」
男は懐から一枚の紙を取り出し、アニエスに向け広げて見せる。
「こちらはトリステイン国通商認可証です。ガリア側の物もお見せしましょうか?」
通商認可証は通常、商取引に携わる貴族の後ろ盾が無くば入手出来ない。
つまりはこれを持つ者の身分は、認可証を発行した国に保障されているという事だ。
彼等を相手にゴリ押しなどしては後々確実に面倒な事になる。
しかしアニエスは引かない。
「了解した。だが積荷の確認は全ての商人に行っている、すぐに護衛を下がらせろ」
「貴女様のお名前をお伺いしても? 私共も遊びでこれを手に入れた訳ではございませぬ故、行使出来る力は当然利用させていただきますが」
「アニエス・ミラン。トリスタニアで警備隊副長をやっている」
「その地位も我々がトリスタニアに着くまででしょうな」
男は脅すでもなく、強がるでもなく淡々と述べる。
幾多の修羅場を越えた事のあるアニエスをして底冷えのするような寒々しさを覚える程、男の慇懃無礼な態度は薄気味の悪いものであった。
「私めがお与え出来る機会は一度きりです。我が主は見くびられるような真似を何より嫌います故」
丁寧な口調は当人交渉のつもりなのであろう。
しかし、アニエスは表情一つ変えず言った。
「積荷から離れろ。三度は言わんぞ」
男はアニエスをじっと見つめ、そこに冷静さと尊大さが同居していると認める。
覚悟あっての事ならば是非も無しと言う事であろう。すっと一歩引いて見せる。
「……いいでしょう。部下達を下がらせます」
男の合図で荷馬車から護衛達が離れると、アニエスは迷う事無く指示を下す。
「良し、何時もどおりだ。取り掛かれ」
アニエスの号令に従い、配下はただちに荷物の検査に入った。

幾らアニエスとて貴族相手に勝算も無しにケンカを売るような真似はしない。
ロングビルから合図が無ければゴリ押したりはしなかっただろう。
部下達とは予め打ち合わせをしてある。
アニエスが「何時もどおり」という言葉を用いて検査を行うよう指示した場合、「多少積荷を傷つけてでも、全てを確認して決して麻薬が存在せぬと確証が得られるまで調べろ」という意味だ。
アニエスと男のやりとりは部下達にも聞こえていたが、その程度で怯むようなシゴキ方をアニエスは部下に施していなかった。
部下達は二人一組となって、遠慮呵責の無い積荷検査を行う。
積荷の中身は、何と黄金であった。
山と積まれたそれを見れば、これほどの警備も納得出来よう。
検査は部下に任せ、アニエスは男の前に立ったまま報告を待つ。
男の僅かな表情の変化も見落とさぬ、そんなアニエスの視線を男は飄々と受け流す。

ロングビルは内心この男の腹の座りっぷりに舌を巻いてした。
『こいつらはおかしい、それは間違い無いわ。これだけのトラブルにも関わらず、まるで動じる様子の無い護衛達といい、異常に統制の取れた動きといい。そしてこの男。アニエスのプレッシャーを受けてるのに、まるで怯えの影が見られない。信じられない。犯罪者だっていうのなら、兵士の姿を見ただけで何かしらの反応を示してしまうものなのに』
この荷馬車は怪しい。それはロングビルにとって確定事項である。
この道を通る時間帯、規模、そして何より護衛達のレベルの高さだ。
長年犯罪に携わってきたロングビルの勘が、これらの要素から犯罪臭を嗅ぎ取っていたのだ。
だからこそギリギリのタイミングでアニエスに合図も送ったのだ。
しかし解せない部分もある。
この護衛達からは裏街道を生きてきた者特有の腐臭が感じられない。
先のアニエスにすら通じる通商認可証といい、積荷の黄金といい、どこかロングビルの考えと咬み合わない部分がある。
今まであった情報を元に、様々な可能性を考えるロングビルの脳裏に、突如閃光が走る。
『まさかっ!? そうよ! そう考えれば全ての辻褄が合う!』
ある発想に思い至った時、荷馬車の中からアニエスの部下の叫び声が聞こえてきた。
「ありました! 黄金の下に山と隠されています!」
男は微動だにせず。
しかし、代わりに別所に居た痩せぎすの男が号令を出した。
「殺せ!」
その男を見たロングビルが眼を剥く。
何という事か、その男も又杖を翳すメイジであったのだ。
『メイジが二人ですって!? こいつらどれだけ用心深いのよ!?』
痩せ男は号令と共に呪文を唱えだす。
兵の数は五分だ。ならば、このメイジはロングビルが何とかしなければならない。
もう一人のメイジも居るのだ、メイジでないアニエスには荷が重かろう。
その事も考えるに、速攻でこの痩せ男を倒す必要がある。
ロングビルもすぐに魔法を唱え、眼前に土壁を作り上げ盾とする。
思ってた以上の音が土壁から轟く。
土壁は痩せ男の放った魔法の一撃で崩れ去るが、ロングビルは既に次の呪文を唱え終わっている。
十体の人間大土ゴーレムがロングビルの周囲を取り囲むように現れる。
普段作っているものより軽量にする事で、コントロール精度もスピードも格段に上がっているタイプだ。
痩せ男を取り囲むように移動させ、袋叩きを狙う。

剣撃と怒号が支配する空間で、アニエスは男と対峙していた。
どちらも動けない。
アニエスは先制ではなく、後の先を取るべく様々な思考を巡らせていた。
ここで自分が倒れると残された者達が大きく不利になる為、確実に、慎重に、動く必要がある。
しかしそれは相手も同様で、やはりアニエスを凝視したままピクリとも動かない。
二人共、お互いの動きを見逃さぬよう対峙しておきながら、当然自身の周囲にも気を配っている。
『くっ、動けん。これでは部下達次第だが……』
相手がただのメイジならば、間違いなく踏み込んでいただろう。
増長したメイジならば付け入るべき隙は幾らでもある。
しかしこの男は違う。
僅かに前傾した姿勢、杖を両手に持って前へと突き出しているのは、おそらくそれを魔法以外にも利用するつもりだからだろう。
アニエスをして隙の見出せない程のこの男は、魔法だけではなく、体術にも優れていると思われた。
一手打ち間違えば、即、死に繋がる。
アニエスの額を冷汗が伝った。

ロングビルは戦場の全てを観察しながら痩せ男と戦っていた。
どうやらアニエスは身動きが取れぬ模様、ならば自分が指揮を執るしかない。
だがそれもこのような混戦となってしまっては難しい。
既にこちら側の兵士は三人斬り倒されている。
複数のゴーレムはそれをカバーするつもりもあったのだが、痩せ男はロングビルにそんな余裕を与えてくれなかった。
せめても兵士達と連携が取れれば、最大サイズのゴーレムで一気に戦況を変えてやったものを。
詠唱の時間と、ゴーレム使い最大の弱点であるメイジ本人への直接攻撃を防ぐには、この状況では命を賭した兵士が数人必要だ。
直接の上司でもないロングビル相手にそれをしろというのは、兵士達には酷な命令であろう。
四人目の兵士が斬り倒された所で、完全に戦況は商隊側へと傾いた。
兵の練度がまるで違う。これはロングビルの推理を裏付ける証拠となるが、だからといって嬉しくも何ともない。
「アニエス! 一度引きなさい!」
退却の援護をすべく他の護衛達にも数体のゴーレムを差し向ける。



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