あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

檄・トリステイン華劇団!!-01a


   プロローグ

 六度失敗した彼女の召喚魔法は、ついに七度目には爆発すら起こさなくなっていた。
 貴族の子弟を教育するトリステイン魔法学院での恒例となっている二年生の使い魔召
喚の儀式。魔法学院の中庭で生徒たちは、一生の相棒となる使い魔を召喚する。周りの
生徒たちが火蜥蜴や梟、中には大型のドラゴンなど次々に召喚している中で、桃色の髪
をした小柄な少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは詠唱の度に
爆発を起こし、ついにただ一人召喚魔法を達成できていない生徒となってしまったのであ
る。
「ミス・ヴァリエール。日を改めましょうか」立会いの教師の一人がそう言って少女に声をか
ける。
「いえ、もう一度やらせてください」しかし彼女頑なにやめることを拒否した。
 そして最後のチャンスとばかりに杖を振り上げるルイズ。
 周囲の召喚を終えた生徒たちは、また爆発がくると思い身構えている。
 しかし、七度目の召喚において、ついに爆発すら起こらなくなった。
「どうして…」涙目でつぶやくルイズ。
 と、その瞬間、学院の敷地外で大きな爆発音が響くと同時に地面が大きく揺れる。
「え…?」
 状況がよく理解できていないルイズは、急な揺れに尻餅をついてしまった。
「何が起こった!」
「外です、外で爆発が起こりました」
 塀の向こうから黒煙が立ち上っているのが見える。かなり大きな爆発音だったらしく、教師
陣も他の生徒たちも混乱している。
「山賊か?異民族の攻撃か」
「わかりません!今様子を見に行っているところです」
 学院の敷地外の爆発が、自分の仕業だとはルイズは思わなかった。目の前ならともかく、
わざわざ離れた所を爆発させるような器用な真似などできるはずもない。もしそんなことが
できるのならば、とっくに使い魔も召喚しているはずだ。
「馬車だ!馬車が壊れていました」儀式の立会をしていた教師陣に対してそんな報告がなさ
れた。
「馬車ですって?それはどういうことなの。説明してちょうだい!!」
「あの馬車には、今日学院に来るはずだった新しい教師が乗っていたはずなのですが…」
 教師の一人の顔がみるみると青ざめている。
「本日の使い魔召喚の儀式は中止と致します。指示があるまで各自は自分の部屋に戻って
ください!!」
 そんな声が中庭に響き渡った。


   檄・トリステイン華劇団!!

 一体何が起こったのか。
 気がつくと目の前に大きな石の壁が見えた。そして周りを見回してみると、バラバラに
なった馬車、らしき残骸。そして尻を火傷した馬。
 状況が全く飲み込めないまま彼はその場にへたり込んでいた。
「大丈夫ですか!?」
 不意に誰かの声がきこえる。
 振り返ると、数人のこげ茶色のローブを着た人が数人がこちらに駆け寄ってくるのが分
かった。
 彼はゆっくりと立ち上がり、服の泥を払い落す。
「大丈夫ですか先生!」
 先生?
 一瞬彼らの言葉の意味が理解できなかった。
「あの…」
「はい?」
「ここはどこですか」
 彼のその質問に、駆け寄ってきた人たちは顔を見合わせた。

   *

 重厚な本棚や作りのしっかりした窓。それに大きな机。それだけでこの部屋が偉い人の
ものだということがわかる。
「イチロー・オオガミ?」
「はい」
 白髭の老人はそう言って彼の表情をじっと見つめる。
「状況を整理しよう。本日、当学院には首都トリスタニアから新しい講師を迎える予定であった。
しかし、講師が乗っていた馬車は学院に来る直前に爆発。そして爆発の後には講師ではなく、
キミ、オオガミ君がいたということかね」
「そう…、なんでしょうか。自分にはよく状況が理解できないのですが」
 彼、大神一郎は仙台から上野に向かう列車に揺られているはずだった。客車でついウトウト
していると、いつの間にか目の前には馬車か何かの残骸が転がっており、客車の中とは全く
違う環境にいたのである。
「学院長、よろしいですか」
「ん?なんだねコルベール君」
 大神の横に立っていたコルベールと呼ばれた男性、頭が見事に禿げあがり、かつメガネを
かけているその人は白髭の学院長から許可を得て喋り始める。
「ミスタ・オオガミが突然現れた件なのですが、本日行っていた使い魔召喚の儀式が原因では
ないかと思われます」
「ふむ、しかし、彼が現れた時には召喚の儀式は概ね終わっていたのだろう?」
「はい、そうなんですが、一人まだ残っておりまして」
「ヴァリエール家の三女かね」
「はい。実は、彼女の召喚魔法が何かしら影響したのではないかと私は考えるのです」
「しかしミス・ヴァリエールの魔法は未だかつて成功したことがない、と聞いておるのだが」
「確かにそうですが、彼女の魔力に関しては底知れぬものがあります。本人はまだ気が付いて
いないようですが、その魔力の強大さゆえに上手く制御できていない。それが彼女の魔法が成
功しない最大の原因だと考えております。
 ですから、今回の召喚の儀式でも彼女はことごとく失敗しました。そして最大の失敗が、トリス
タニアからおいで下さった教師の乗った馬車の破壊。そしてミスタ・オオガミの召喚です」
「なんと、では彼がここの現れたのはミス・ヴァリエールの召喚魔法のせいだと」
「断定はできませんが、その可能性は高いと思います」
「しかし、では教師はどこへ行ったのか」
「はあ。ミスタ・オオガミの話を聞く限り、彼はどうもこの世界、少なくともハルケギニアに住んで
いる人ではないと思えるのです」
「なに?」
「例えば、蒸気機関などというものが実用化された、という話を我々は聞きません」
「ふむ、蒸気機関?」学院長が白髭をさすりながら尋ねる。
「あの、蒸気機関とは蒸気の力で物を動かすものです」と大神が答えた。

「蒸気の力とな?」学院長は、今度は大神の方を正面に見据えて聞いてくる。
「お湯を沸かすと湯気が出てくるじゃないですか。その力を、物を動かす、例えば車を動
かしたり工場で糸を作ったりするのに利用するのです」
「聞いたことがない。それは魔法なのかな」
「魔法…?魔法ではありませんよ」
「学院長、ミスタ・オオガミの住む世界では魔法というものはあまり一般的ではないようです。
ですよね」そう言ってコルベールは大神の方を見る。
「は、はあ。しかし…」
「じゃがコルベールくん。彼からは魔力のようなものを感じるぞ。一般の平民がこのような
魔力を帯びているとは考えづらいのだが」
「この力ですか。自分たちはこの力を『霊力』と呼んでいます。この世界で言うところの魔力
に近いでしょうか。でもこの世界で言う魔法ほど頻繁に使われるものではありません」
「ふむ、なかなか興味深いの。しかし今日は時間がない。コルベールくん」
「はい」
「彼には職員用の宿舎で休んでもらおう。行方不明になられた教師の探索も含めて、今後
色々と検討せねばならんからの」
「はい、わかりました」
「あ、そうだコルベールくん」
「はい、なんでしょう学院長」
「とりあえず彼を首都から来た教師ということにしてみようじゃないか」
「はい?」
「え……」
 大神とコルベールは同時に驚き顔を見合わせた。
「どういうことですか」戸惑う大神に対しコルベールは学院長に詰め寄る。
「ふむ。教師、それも首都トリスタニアのアカデミーから派遣されてきた者が行方不明になった
とあっては大変じゃ。ゆえに、しばらくの間オオガミくんにはその教師の代わりになってもらおう」
「隠すんですか?」
「ば、バカ者。人聞きの悪いことを。異世界から来た者を学院に置いておく、などと言うわけには
いかんじゃろうが」
「いや、しかし……」それ以上言葉が出ないコルベール。
「そ、そうですよ。自分は海軍の士官学校を出ただけで特別に教えられるようなことは……」大神
はそう言ってみたが白髭は澄ました顔のままであった。
「まあ気にする事もない。あくまで表向きじゃから。その間に何とか調べるよ」
 そういうと白髭の学院長はかっかと笑った。
「それであの、行方不明になった先生のことは……・」大神が恐る恐る口を開いてみた。
「まあ、なんとかなるじゃろう。それよりキミは自分の心配をしたまえ」そう言って老人は、白髭
を手でいじり、窓から外を見た。
 一刻も早く帝都に帰り、家で休みたいと思っていた大神にとって、長い長い帰りの旅路が今、
はじまったばかりである。

   *

 案内された職員用の宿舎は多少埃っぽかったものの、寝泊まりするには申し分のない広さ
だ。しかし、ここには照明用の電気がなく、夜の明かりは月明かりとランプが頼り、という心許
無い。
「それにしてもコルベールさん。見ず知らずの僕にここまでしていただいて申し訳ない」部屋を
案内してくれたコルベールに対して素直に礼を言う大神。
「いえ、あなたをこの世界に呼んだのは我々にも少なからず責任があるのです。どうぞお気に
なさらずに」
「はあ、そう言われましても」
「ところで、オオガミさん」
「はい」
「先ほどの蒸気機関の話を、もう少し詳しく聞かせていただけないでしょうか」
「はあ。僕も技術者ではないのであまり詳しくは知らないのですが、僕がここに来る直前まで
蒸気機関車というものに乗っていました」
「ほお、蒸気機関車ですか」
「簡単に言えば、蒸気の力で動く馬車ですね」
「でも、その馬車よりも早い」
「馬よりも早いのですか」
「そうですね」
「じゃあ、竜はどうですか」
「それはわからない」
「グリフォンは」
「申し訳ない。そういう生き物は、僕らのいる世界にはいないもので」
「なるほど。ドラゴンやグリフォンの代わりに、蒸気で動く幻獣を扱っているわけか」
 コルベールは何かブツブツと言っている。
「いや、幻獣というわけでは……」
「ところでオオガミさん。話は変わるのですが」
「はい」
「あなたの世界では、その蒸気というもので動くゴーレムはいますか?」
「ゴーレム?」
「いや、その。大きな人形とでもいいましょうか。魔法で動く物なのですが…」
「光武のことかな…」
「え、コウブ?」
「ああいや、霊子甲冑のことをそう呼んでいるのですが」
「レイシカッチュウとは何ですか」
「蒸気と霊力、あなた方で言うところの魔法ですか、その力を併用して動く兵器です」
「兵器…、武器なのですか」
 一瞬コルベールの顔が曇る。
「はあ」
「いや、失礼。変なことをお聞きしまして」
「いえ、自分の方こそあまりお役に立てるようなことが教えられなくて」
「いいえ、とても勉強になりました。あの、そろそろ私は」
「はい。どうもありがとうございます」
「ごゆっくり」
「はい」
 コルベールが部屋を出て行くと、急に静かになったような気がする。
 それと同時に緊張の糸が途切れたのか、急に力が抜けベッドの上にへたり込んでしまった。
 やはりここは日本ではないのか。

 日本どころか、地球であるかどうかも怪しい。薄暗い部屋の中に差しこむ月明かりは、
ロウソクの火よりも強いかもしれない。そう思い外を見ると、二つの月が浮かんでいた。
 急に不安になる心。ここでは一人なのだ。
彼は今まで何度も死の危険を乗り越えてきた。それをしてこれたのは、信頼できる仲間
がいたからこそである。部下のいない隊長がこれほどまでに無力でみじめなものだとは
思わなかった。
「さくらくん、元気にしているかな…」
 沈みかける心。しかし大神はそれを振り払うかのように頭を強く横に振った。
「いかんいかん。こんなところで弱気になっていたら、それこそ帝劇や巴里の隊員たちに
笑われてしまう」
 彼は自分に言い聞かせるように呟くと、ほおを強く叩いた。

   *

 翌日、コルベールに案内されて職員用の食堂で朝食を済ませる大神。他の教職員たち
からは奇妙な格好をした大神は変な動物を見るような目で見られていた。ちなみにこのとき
大神が着ていた服は帝國華劇団のモギリ服である。
 さっさと朝食を終えた彼は途方にくれていた。
 これからどうすればいいのか。
「あ、オオガミさん。ちょうど良かった」
 ふと、この学院で数少ない顔見知りであるコルベールが声をかけてきた。
「どうしましたコルベールさん」
「いや実は、ちょっと人を探しているのですが」
「人?」
「ミス・ヴァリエールのことなんです」
「ミス、ヴァリエールですか」
 そういえば、昨日の学院長室での会話でもそんな名前が出てきたな。
「はい。ちょうど今朝から姿が見えなくてですね」
「え? もしかして脱走……」
「まさか。それはないと思うのですが」
「ですよね」
「ただ、彼女は今年の二年生の中で唯一使い魔召喚ができていませんでしたから、そのショック
があったのかもしれません」
「はあ」
「桃色の長い髪をした、小柄な少女がいたら、おそらくそれがミス・ヴァリエールです」
「そうですか」
「オオガミさんも見かけたら、私に教えてください」
「あ、はい。わかりました」
 学院は高い塀に囲まれていて、正規の出入り口以外では簡単に出入りできそうにない。という
ことは、やはりこの学院内にいるということだろう。それにしてもこの広い敷地で、見つけることなど
できるのだろうか。
 いた……。
 コルベールの言う事をそのまま理解するならばおそらく、いや間違いなく彼女だ。
 中庭の芝の上に一人座りこむ少女。黒いマントはこの学校の制服なのだろう。桃色の長い
ブロンド髪はかろやかに波打っている。
「や、やあ」
 いったいこの世界の住人、それも女性にどう声をかけていいのか大神にはわからなかったけれ
ども、帝都、そして巴里においてあらゆる国籍、あらゆる性格、あらゆる外見の女性とフラグを立て
てきた彼にとってはピンク色の髪でしかも魔法使い、などという特徴は障害のうちには入らない
(ただし、年上は除く)。
「……だれ」鋭い目つきで威嚇するようにこちらを見る少女。
 しかし大神には、その鋭さが逆に弱さを覆い隠そうと必死になっているようにも思えた。

「僕は大神一郎。え、ええと……、首都から派遣されてきた教師だよ」
 大神はとりあえず学園長に言われた通りのウソをついてみた。すぐバレるウソなのだが。
「そう……。って、ちょっと待って」
「ん?」
「もしかして昨日の爆発に巻き込まれたっていうのは、あなた」
「あ、ああ。そうだね」
「身体は、大丈夫なの」
「ん?おかげさまで」
「……悪かったわね」
「いや、別に何ともないから」
「そう……。私はこれで退学になるみたいだから、それで許して」
「え? 退学って、学校をやめるってことかい」
「そうよ」
「そりゃどうして」
「どうしてって。二年生で使い魔を召喚できなかったのは私だけなの。使い魔はメイジにとって
重要ものよ。それの召喚ができなかったってことは、メイジとしても貴族としても失格
ってことよ」
 大神にはわからない言葉も色々と出ているのだが、話の腰を折らないためそのまま聞き
流すことにした。
「し、失格だなんて」
「そうなのよ。ねえ、私、他の生徒からなんて呼ばれているか知ってる?」
「ん?」
「“ゼロのルイズ”って呼ばれてるの」
「それはまた……」
「成功率ゼロ、才能がゼロだからゼロのルイズ。ぴったりでしょう」
 自嘲気味に笑う少女。
 そんな横顔を見て大神は何か言わずにはいられなかった。
「そんなことないよ」
「へ?」
「昨日コルベールさんも言ってたよ。ミス・ヴァリエールは凄い力を秘めているって」
「そんなお世辞、聞きたくもないわよ。っていうかあなた、なぜ私の名前を…?」
「いや、間違えたのかな。ミス・ヴァリエールっていうのは」
「間違いじゃないわ。私の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール」
「へ、へえ……」
「ルイズでいいわよ」
「ああ、わかったよ」
「あなたの名前……」
「ん?」
「もう一度教えて」
「え、ああ。大神一郎だ」
「イチロー・オオガミ。随分シンプルな名前なのね。どこの出身?」
「あ、いや」
「そういえば首都から来たとか言ってたわよね」
どうやら勝手に納得してくれたらしい。
「ねえ」
「なんだい」
「オオガミって言いにくいからイチローでいい?」
「ああ、構わないよ」
「それじゃイチロー先生。短い間だったけど、会えて嬉しかったわ。それじゃ」
「あの、どこに」
「心配しないで。コルベール先生の所に行くの。ちゃんと正式な手続きを経て学院を辞めるわ。抜け
出すような真似はしないから」
「そうか……、って、それは」

 昼食時。
 相変わらず奇異な目で見られる中、大神とコルベールは昼食を食べていた。
「いや、オオガミさんのおかげでミス・ヴァリエールがすぐに見つかって良かったですよ」
「いえ、俺は何もしていませんよ」
「なあに、慣れない環境でただでさえ疲れるのに、このような用を頼んでしまい申し訳あり
ませんでした」
「いえ、そんなことはありません。ところでコルベールさん」
「なんでしょう」
「ルイズは…、いやミス・ヴァリエールは本当に退学してしまうのでしょうか」
「う……」コルベールはパンを持ったまま固まってしまった。
「なんでも、使い魔召喚の儀式に唯一成功しなかったとか」
「ミス・ヴァリエールは、実技こそ得意ではありませんが、学科でも熱心ですし、私どもとし
てはしっかり卒業して欲しいとは思うのですが」
「そうなんですか?」
「ただ、彼女の家のほうが問題がありまして」
「家」
「あまり他人の、それも貴族の家の問題にとやかく言うつもりはありませんが、ラ・ヴァリ
エール家は、彼女に、ルイズに魔法使い(メイジ)ではなくお嫁に行って欲しいと考えている
ようなのです」
「はあ…、でしたら別に学校を卒業してからでも」
「ええ、そうなんですが、前にも言いましたようにミス・ヴァリエールは魔法の実技で一度も
成功したことがありません。ゆえに、彼女の家としてはこのまま勉強を続けさせるよりも、
いっそ退学させて嫁に行かせた方が良いと考えているようなんです」
「そんな。ルイズの気持ちはどうなんですか」
「先ほど、私の所に来た彼女は、このまま学院を辞めてもいいと言っておりました」
 不意に思い出す寂しげな横顔。
 それでいいのか。そんなことで本当にいいのか。大神は手にもっていたフォークを強く握りしめる。

   *

 翌日、学院内の中庭にはルイズと大神の二人がいた。
「一体どういうこと?」まったく解せないという顔で大神を見るルイズ。
「いや、学院長に頼んでキミの指導をさせてくれるようにしたんだ」
「指導って、私はもうやめるのよ。今さらそんなこと……」
「キミには能力があるんだ。それを上手く活かしきれなかったのは学院のカリキュラムに何か
問題があったのかもしれない。僕もキミみたいに上手く能力を使えない子を何人か知っている
から、そういう経験を生かしてやってみようかと思うんだ」
「そんなこと言われても」
「一度でもいいから成功したいと思わないかい?」
「え?」
「キミは凄い力の持主なんだ。その可能性を潰すのは惜しい」
「そんなの、嘘よ」
「まあ無理にとは言わないけどね。もし成功すれば、学院の皆もあっと驚くんじゃないかな」
「学院の皆……」そう言うとルイズは黙り込んだ。
「どうだい」
「べ、別にいいわよ。勘違いしないでよね。あなたを信用しているってわけじゃないの。ただ、これ
から学院を出るまで少し時間があるから、その間だけならあなたに付き合ってあげてもいいのよ」
「そうか、よかった」
 大神が笑いかけると、なぜかルイズは赤面していた。
「どうしたんだいルイズくん」
「な、なんでもありません」
 こうして、大神によるルイズの指導がはじまったわけである。ただ、士官学校を卒業した後はすぐ
に帝国華劇団に入った大神にとっては、教えられることは限られていた。それでも彼は、できるだけ
のことはしようと決意したのである。
 それは、これまでの部下たちとルイズの姿を重ねたからかもしれない。大神は困っている女性を
放っておくことなどできない。

「こうして、草をむしって」
 大神は、中庭の芝生をすこしつまみ、両手の上に置いた。そしてそこに自身の霊力を流し
込む。
 すると、掌の草は静かに、それでいて素早く燃え上がる。
「すごい」
「いやいや、こんなもの普通だよ」
「私、こんなのもできないのよ。笑っちゃうでしょう」
「そんなことないって。やってごらん」
「う……」
 大神に言われるがまま、両手の上に草を乗せるルイズ。
「本当にいいの?」そう言って大神の方を見るルイズ。
「構わないよ。どうぞ」
「うん……」
 そう言うとルイズは静かに精神を集中させた。
「VUUR(ヴュール)」
 そして火の呪文を詠唱するルイズ。しかし、掌の上の草になんの変化もなかった。
「ん……?」
 次の瞬間、大きな音とともに、ルイズの掌が強い光を放った。
「うわあ!!!」
 あまりの衝撃にのけぞる大神。
「げほっ、げほ」
 ルイズの掌の草は、燃えるどころか爆発をしてしまった。
「ひゃあ、驚いだ」そう言って起き上がる大神。まだ心の臓が激しく鼓動している。
「ご、ごめんなさい。やっぱり駄目なのよ私。こんな簡単な魔法すら上手くいかないんだから」
「すごいよルイズ!」
「へ?」
「凄い力だ。これなら光武も操縦できるかもしれない」
「え、コウブ?」
「あ、いや。こっちの話。とにかくコルベールさんの言っていたことは本当だったんだね。やっぱりキミ
には能力がある」
「で、でも何をやっても爆発しちゃうんですよ」
「キミの持つ力が強すぎるってだけさ。もっと訓練すれば、自分の霊力も制御できるようになるはずだ」
「レイリョク?」
「いや、ここでは魔力というのかな。とにかく、キミは凄いんだ」
「は、ふ……」
「どうしたの?」
「私、そんなに褒められたことなんてなかったから……。べ、別にお世辞なんて言わなくても私は」
「お世辞なんかじゃないよ。キミは能力がある。俺が保障するよ」
「そんな」
「俺なんかの保障じゃダメかい?まあ、そうかもしれないけど」
「そ、そんなことないもん! わ、私凄くうれしい」
「そうか。じゃあ、次の訓練に行こう」
「は、はい。と、その前にイチロー」
「ん?」
「顔、拭きに行きましょう。煤がついててカッコ悪い」
「そういうルイズくんも」
「えへへ」

   *

 中庭での黒髪の男と、ルイズとのやり取りを見ている二つの人影。
「あら、あれってトリスタニアから来たっていう新しい先生じゃない?ゼロのルイズと何
をやってるのかしら」
赤い髪、褐色の肌、そしてあふれんばかりの巨乳が目印のキュルケがそんなことを言った。
「個人授業……」青髪の少女が本を読みながらも、時々中庭の方に目をやりながら答える。
「あら、なんだか怪しい雰囲気ね」
「キュルケ、あなたは考え過ぎ」
「そうかしら。それにしてもあの先生、結構いい男じゃない?」
「よくわからない」
「そう、アンタは男には関心示さないわよね、タバサ」
「そういうキュルケ、あなたは関心を示し過ぎ」タバサ、と呼ばれた青髪の少女は本を読み
ながら冷静に切り返す。
 しかしキュルケもそういうぶっきらぼうなもの言いには慣れているらしく、深くは考えない。
「あらま、なんか木の棒を持ち出して剣の稽古をはじめたみたいよ」
「……」
「いったい何を考えてるのかしらあの先生」
「……」
「メイジが剣で戦うなんてありえないわ。そうよね、タバサ」
「……ユニーク」
「へ?」
「何でもない。部屋に戻る」
「ああ、ちょっと待ってよタバサ」

   *

 乾いた木を打ち合う音が中庭に響く。
 警備兵が訓練用に使う木刀を使って大神とルイズは剣の稽古をやっているのだ。
「ちょ、ちょっとイチロー。いったいどういうこと?」
「どうって、剣の稽古だよ」
「私たちって、魔法の訓練をするのよねえ」
「ああ、わかってるよ」
「じゃあなんで剣なんか」
「ルイズくん。キミは少し急ぎ過ぎなんだよ」
「急ぎ過ぎ?」
「そう、何事も近道はないんだ。キミ自身の力は巨大だけども、俺の予想だとそれを抑える
ための受け皿がまだ完璧じゃない。だったら、魔法サイドを鍛えるより、もっと身体を使った
ほうがいいんじゃないかと思ってね」
「そう、なんだ。よく考えているのね」
 半分は口から出まかせなのだが、それは黙っておいた。
「とりゃああ!」
「いいぞ、ルイズくん!」
 大神によるルイズの指導はその後、数日続いた。

 ある時は乗馬。
「結構うまいな」
「そうよ。乗馬はわりと得意なの」

 ある時は釣り。
「精神を静めるためにはちょうどいい」
「ああ、イライラするわあ。早く釣れないかしら」
「ははは、焦っていると釣れないよ」
「う、もう。そうよね」
「あ、引いてるよルイズくん」
「あ、あ、あ、どうしよう。どうすればいい?」
「竿をあげて、竿を!」
「いやああああ」

 そして帝國歌劇団でもやっていた歌の練習も。
 聖堂のオルガンを弾いて声を出して見る大神。
「ラーラーラーラーラー♪、はい」
「ら~ら~ら~ら~らああああ」
「……」
「なに?」
(歌は、苦手みたいだな…)
 そんな日々の終わりは突然やってきた。


新着情報

取得中です。