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毒の爪の使い魔-25a


――竜の吐き出す炎はイーヴァルディを容易く飲み込み、吹き飛ばしました――

――炎が消えた後には、地面にボロボロになり倒れたイーヴァルディの姿が在りました――

――竜は倒れたイーヴァルディに近づき、哀れみを含んだ目で見下ろしました――

――「お前では我には勝てぬ。ここから立ち去れ、小さき者よ」――

――竜はイーヴァルディに背を向け、洞窟の奥へと歩き出しました――



広間には砕けた床の粉塵が、煙幕のように立ち込め、
それをビダーシャルは、微動だにしないまま見つめている。
やがて、入り込む夜風に粉塵が払われていき、視界が利いてきた。
広間の端まで吹き飛び、床に倒れたジャンガの姿が見えた。
仰向けに大の字に倒れたその姿は、見るも無残にボロボロだった。
あの巨大な石の拳を避ける事も出来ずに、まともに食らった結果だ。

「相棒!? しっかりしろ! 相棒ーーー!!?」
鞘から出たデルフリンガーは、倒れた相棒に必死に呼びかける。
しかし、返事は無い。
デルフリンガーは悔しそうな声で呟く。
「だから言ったじゃねぇか…、相棒でも勝てっこねぇって…」
そこまで言って、デルフリンガーは息を呑んだ。
すぐそこに、相棒をこのようにしたエルフが立っていたからだ。

自分達を侮辱した亜人を黙って見下ろすビダーシャル。

――今この亜人に止めを刺すのは簡単な事だ。
だが、自分達は無用な争いは好まない。命を奪うなど以ての外。
何より、侮辱に対する報いと言うならば、これでもう十分だろう。
亜人の首筋に手を添える。
弱ってはいるが、命に関わるほどではない。
立ち上がり、今度は亜人の背に背負われている剣に目を向ける。
「な、何でい…エルフ?」
剣は金具を動かしながら喋る。明らかに動揺していた。
余計な警戒心を煽らないように、静かな口調で話す。
「意思を持つ剣よ…、我はこれ以上の争いは好まぬ。
この亜人が目を覚ました時、お前の口から伝えてもらいたい。
”この場から去れ”と」
剣は一瞬口篭ったが、解った、と言った。
その答えに頷くと、もう一度亜人に目を向ける。
そして、亜人を見下ろしたまま、ビダーシャルは呟いた。
「”大いなる意思”よ……。このような下らぬ事に…我が一時の怒りの為に”精霊の力”を行使した事を赦し給え……」
そして、倒れたジャンガに背を向け、歩き去ろうとする。



――「ま…、待て……」――

――背後から聞こえたその声に、竜は後ろを振り返りました――

――そこにはボロボロになりながらも立ち上がっている、イーヴァルディの姿がありました――



「待てってんだよ……長耳……」
背後から聞こえた声に、ビダーシャルは哀れみの表情で振り返る。
「力の差を見ても、まだお前は戦うというのか? 名も知らぬ亜人よ」

ビダーシャルの視線の先には、立ち上がったジャンガの姿が在った。
全身はボロボロ、夥しい量の血を流し、とてもまともな状態ではなかった。
それでもジャンガは両の足でしっかりと床を踏みしめ、
未だ闘志と嘲りの感情が消えていない目でビダーシャルを見つめていた。



――イーヴァルディは剣を真っ直ぐに構え、竜と再び対峙しました――

――ボロボロの身体で、振るえながら剣を構えるイーヴァルディを見て、竜は言いました――

――「小さき者よ、お前は何故そこまでして我と戦う?」――

――「ルーを取り戻す為だ」――

――「妻でもない、パンを食べさせてくれただけの娘に、何故そうまでして命を掛けられるのだ?」――

――イーヴァルディは震えながら…しかし、真っ直ぐと竜を見つめながら言いました――

――「パンを食べさせてくれたルーを……僕が好きだからだ!」――



荒く息を吐きながらビダーシャルを真っ直ぐに見つめる。
今の石の拳の一撃は想像以上に効いた。
身体は可也の悲鳴を上げている。――だからと言ってここで引けるものか。
また足を飲み込まれないように注意を足元にも向けつつ、いつでもその場を飛び退く事が出来るように身構える。
「相棒、まだやる気かよ!? 本当にやめとけ! これ以上はあのエルフも本気を出すぞ!?
そうなったら相棒の命が無いって! いやさ、本当にお願いだから――」
「黙ってろ…」
「あい――」
煩いボロ剣を鞘に収めて黙らせる。
先程から目の前のエルフはただ自分を見つめているのみだ。
その目には憐れみの表情だけでなく、明らかな見下しの色も見て取れた。
自分が他人にそれを向けたりするのだから尚の事解ってしまう。…正直イライラする。
自分がするのは良いが、他人にされるのは我慢がいかない。

「亜人よ、今一度言おう」
唐突にビダーシャルが口を開き、静かな口調で話す。
そんな余裕を見せているような態度が癪に障り、ジャンガは舌打する。
「我はこれ以上の争いは好まぬ。この場から立ち去れ」
ジャンガは目を閉じ、深呼吸をする。
そして大きく息を吸い込み、目を見開く。
「嫌だって言ってるだろうが! いい加減無駄だって学習しろ、バァァァーーーーーカッッ!!!」
「そうか…」
ビダーシャルの声が僅かに低くなった気がした。
そして、ジャンガの背筋を何か冷たい、悪寒のような物が走った。
相手の様子を慎重に観察する。
目の前のエルフは何も変わった所は無い。
だが…、その身体から発せられるプレッシャーのような物が、肌で直接感じられる程に強まっている。
…どうやら、いよいよ本気になったらしい。
「キキキ、初めからそうくればいいんだ…。争いが嫌いだとか言っても、暴言とかには耐えられねェ。
結局最後は力押しになるのさ…」



――立ち上がったイーヴァルディは再び竜に挑みかかりました――

――しかし、竜の硬い鱗はイーヴァルディの剣を、やはり弾いてしまいました――

――竜は爪や、大きな顎や、噴出す炎で何度もイーヴァルディを苦しめました――



ジャンガは床を蹴り、ビダーシャルへと飛び掛る。
ビダーシャルが両手を振り上げると、床が隆起し巨大な拳が形作られる。
拳はそのままジャンガ目掛けて振り下ろされた。
ジャンガの姿が拳の下に消える。
その直後、ビダーシャルの真上に衝撃。
「チッ!」
ビダーシャルが見上げると天井にジャンガが張り付いていた。
ジャンガが張り付いている場所を中心に、天井はクレーター状に罅割れている。
頭上から仕掛けたらしいが、『反射』に跳ね返されたのだろう。
天井を蹴り、ジャンガは離れた所に降り立つ。
ビダーシャルは変わらない哀れみの視線を向ける。
「無駄だ、亜人よ」
「ああン? まだ全部手札を見せたわけじゃねェんだよ。勝手に決め付けるな、ボケ!」
言いながらジャンガは三体の分身を作り出す。そして、散開。
部屋を縦横無尽に飛び回る四つの影。
しかし、ビダーシャルは少しも慌てた様子を見せない。
やがて四つの影は、頭上、左、右、背後の四方から同時に襲い掛かった。
「くたばりなァァァーーーーーッッッ!!!」
ジャンガの声が広間に響き渡り、四つの紅い軌跡が踊った。

直後、広間の四方から四つの轟音が響き渡った。



「ガッ、ゲホッ……クソが…」
「無駄だと忠告はした。それを何故理解せぬ?」
壁にめり込み、血を吐くジャンガにビダーシャルは冷たくそう言い放った。
天井と右と背後の壁にめり込んだジャンガが消える。
やはり分身か、とビダーシャルは納得し、本物のジャンガに向き直る。
ジャンガは壁から身体を引き抜き、床に膝を付いた。
荒く息を吐く口からは、未だ血が滴り落ちている。その血を腕で拭う。
感覚が微妙な両足に、力を込めて立ち上がった。
体は未だフラフラするが、関係無い。

ボロボロのジャンガにビダーシャルは問い掛けた。
「亜人よ…お前は何故そこまでして、我と戦う…。あの母子はお前の何だ?」
ジャンガはその問い掛けに、笑みを浮かべながら答えた。
「別に…特に何も無ェ。…ただの玩具だ」
「そうか。だが、あの母子はここで我が”守る”。そう言う約束をガリア王ジョゼフとしているのでな」
「ハァ…、そうかよ」
「理解したのであれば立ち去れ。蛮人を玩具とする趣味など我には無いが…あのような母子は他にも――」
「何も解って無ェな…テメェよ?」
「どう言う意味だ?」
ジャンガは嘲りを含めた笑みを向ける。
「あれは…特別だ。他の替えなんか在るかよ。俺は、あのガキでとことんまで楽しむって決めたんだ。
あのガキが何をして、何を決めて、何を考えるか、一挙一動を見るってのも楽しみ方の一つだしよ。
だからよ……こんな所に閉じ込められてちゃ、困るんだよな?
普通に飼ってるペットだってよ、適度に運動させる必要があるだろうが」
「なるほど」
「ああ…それと、今あのガキを”守る”とかぬかしていたな?
キキキ、いつから守るって言葉は拉致監禁を指す言葉になったんだ?」
ジャンガは再び目を見開いて叫ぶ。

「少しは言葉も勉強しろや、能無しがァァァーーーッッ!!」

「……」
最早言葉を交わす必要も無いと判断したのだろう。
ビダーシャルは手を振り上げ、先程の石の弾丸を繰り出してきた。
それをジャンガは体に鞭打ってかわす。

弾丸をかわしながら、ジャンガは考える。
――やはり、どんな攻撃もあいつには通じない。
他方向からの同時攻撃も容易く弾いてしまったのだから、障壁には死角も隙も無し。
攻防共に完璧……これ以上無い位の強敵だ。
だが、直接自分の手で何もしない奴に負けるのは非常に腹立たしい。
やはり”あれ”しかないか、と考えた。
ジャンガはエルフを見据えた。
離れた所に降り立ち対峙する。

(玩具か…)
――思わずため息が口から漏れた。
正直な所、玩具だと言う理由はこじつけに近い。
本当の理由は別にあった。表には出せない理由だ。

そうだ、俺はあいつに…

ズキンッ!!
左手に激痛。反射的に左手を押さえる。
――まただ……またこの激痛だ…。
ジャンガは忌々しげに左手を見る。…正確には左手に刻まれたルーンを。
このルーンが痛みを与えているのは間違い無い。
それも決まって”優しい事を考えている時に”だ…。
…俺らしくない事を考えていると戒めているのか?
ルーンの事など解るはずもない。
だが、それだけは何となく理解できた。

――…くむを……めを………めよ………れに……えよ――

――また声が聞こえた。
どこかで聞いた覚えがある気がする声。
だが、そんな事はどうだっていい。
ルーンの痛みも、頭に響く声も、なんだろうと関係無い。
今はただ…
「ウゼェだけだ…」
右手で額を押さえながら、左手を壁に叩きつける。
声と激痛を振り払い、目の前の敵を睨み付ける。
こいつを片付けなければ話は進まない。
あいつをここ<アーハンブラ城>から連れ出せない。

…そうだ、連れ出すんだ!

こんな所はあいつの居るような場所じゃない!

恵まれた奴の居る場所じゃない!

こんな所が似合うのは――俺のような奴だ!

(他の奴が…こんな所に来るのは認めねェ…)
心の中で叫んだ。
自分の中の…ある種の”誓い”を反芻する。



(俺のような奴は……俺だけで十分なんだよォォォーーーーーッッッ!!!)



「きゅい…」
心配そうな表情で森の中で座り込み、体を休めるシルフィード。
その視線の先には二つの月明かりに照らされるアーハンブラ城。
夜の静寂を破り、響き渡る轟音が届いたのは今し方だ。
おそらくは、城の中であの亜人とエルフの戦いが始まったのだろう。
――勝てるのだろうか…あのエルフに、あの亜人は?
――もし勝てなければ…負けてしまったら……
悪い方向へ進む思考にシルフィードは項垂れる。
…ふと、先程の会話が思い出された。

――ピッタリな二つ名って、何なのね?――

――キキキ…、笑っちまうゼ? こじつけだからよ――

――いいから教えるのね――

――『裏切り者』……『裏切り者のジャンガ』――

――裏切り…者?――

――俺が昔…裏切った奴のガキにそう言われたのさ…――

――きゅい…――

――だが…考えたのさ。これは逆にいいんじゃないかってな…――

――それはどう言う意味なのね?――

――『裏切り者のジャンガ』……ありとあらゆる物事を裏切る奴…ってな――

――だから、今度も裏切ってやるゼ…――

――何を?――

――…タバサ嬢ちゃんを助けられない…って、お前の考えをだよ――

シルフィードは目を見開いた。
――そうだ、あの亜人は言った。
――裏切って見せると…、お姉さまを助けてみせると…
首を持ち上げる。
轟音がまた響いた。だが、もう不安になったりはしない。
真っ直ぐに、迷いの無い目でアーハンブラ城を見つめる。
(このシルフィが応援してやるのね。絶対にお姉さまを助けるのね。…がんばるのね)



――イーヴァルディは何度も倒れました。でも、その度に立ち上がりました――

――何度も何度も、倒されても倒されても、立ち上がり、竜へと挑みました――



ジャンガは力の限り挑み続けた。
無数の分身でかく乱した。
カッターを何度も放った。
毒の爪で何度も切り付けた。
だが、その攻撃は全てが障壁に弾き返された。
ビダーシャルの行使する”精霊の力”の攻撃も凄まじかった。
攻撃の度にジャンガは倒れた。

だが、それでも諦めようとはしなかった…。
地面に叩き伏せられようと…
壁に叩き付けられようと…

何度も…

何度も…

何度も…

彼は立ち上がった。

荒い息遣いが広間に響く。
ジャンガの全身は目を背けたくなる位にボロボロだった。
対してビダーシャルは未だ無傷だった。
呼吸は乱れておらず、汗すら掻いていないのだ。
――圧倒的である。あれ程の動きをする相手を、歯牙にもかけていない。
それでもジャンガは眼前の敵から目を逸らさない。
強い意思の力で持って苦痛を押さえ、真っ直ぐに相手を睨み付けた。



「…やはりな」
唐突なビダーシャルの言葉に、ジャンガは一瞬呆気に取られた。
しかし直ぐに我を取り戻すと、鋭い目で睨み付ける。
「何がだ?」
「お前は、あの母子を――いや娘をか…、玩具と呼んだな?」
「それが…なんだってんだ?」
「お前がそのように心から思っているとは…我には思えぬ」
「……」
「やはりそうか…」
「だったら…どうだってんだ?」
「…いや、特に何が変わるでもない。ただ…我が個人的に気になっただけだ」
「…そうかよ」
「お前にもそれなりの理由が有るのだな…。だが、我もジョゼフとの約束が有る。
あの母子には同情するが……お前を行かせる事はできない」
「そうかよ…」

そこで会話は終わった。
もう、言葉を交わす必要は無い。
あとはどちらかが完全に倒れるまで戦うのみ。

「……」
「……」

互いに微動だにしない。
隙も何も存在しないのだ。
それを探り合うが故に動けない。
一瞬即発の空気が流れ――唐突にジャンガが笑った。
不適なその笑みにビダーシャルは怪訝な表情をする。
「何を笑う?」
問い掛けるビダーシャルに、ジャンガは笑みを崩さずに言った。

「テメェ…気分はどうだ?」
「それはどうい――」

ベシャッ

水が床に撒き散らされる音がした。
それは赤い、紅い、水だ。――否、水ではない。
ビダーシャルは足元に広がる紅い水溜りを見つめる。
暫し見つめ…、口元に手をやる。

ぬちゃり

濡れる感触が手に広がる。
口から手を離す。
見れば紅く濡れていた。

――それが何であるか理解した瞬間……視界が傾いた。

ドサリ、と音を立て、うつ伏せの形で床に倒れた。
何が起こったのか、現状を確認しようとする間にも、体中から力が抜けていく。
「い…一体……何が…」
「教えてやろうか?」
靴音がした。
何とか顔を上げると、紫色の影が立っていた。
先程とは立場が逆転していた。
自分は無様に地面に這い蹲り、相手がそんな自分を見下している。

ジャンガはニヤリとした笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「毒を盛らせてもらったのさ…」
「…いつのまに?」
「まァ…気付くのはほぼ無理だな…。なんせ、こいつは特別性だからよ…」
言いながら爪を見せ付ける。
「この毒の爪はな、俺の意思で様々な毒素を出せるんだよ…。
今テメェを蝕んでる毒はな…時限式って言うべき物だ。
最初、埃のような極々微量を空気中に散布し、相手に吸引させる。
量だけじゃない……毒素そのものも最初は無い…。
だが…ある一定量を吸引すると相手の中で結合し、毒素を発生させ始める。
後はゴキブリやネズミのようにドンドン増えていき……毒殺する。
キキキ……テメェご自慢の『反射』も”埃”までは跳ね返さないだろう?
それこそ精霊の力を”下らない事”に使う事と同じだからな…」
「……なるほど…考えた…物だ……」
ビダーシャルは息も絶え絶えだ。
そんな相手をジャンガは笑みを引っ込め、見下ろす。
「…卑怯とは言うなよ? それを言うんだったら…テメェの方が万倍も卑怯極まりないんだからよ…」
「……」
ビダーシャルは答えない。
ジャンガはビダーシャルに背を向け、階段へと歩き出した。
「あばよ…」
ただ一言。それっきり口を閉ざす。
水が跳ねる音が聞こえた。
気にも止めない…、止める必要も無い。
振り向かずにジャンガはその場を歩き去った。



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