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鷲と虚無-13


才人は二つの理由で怒っている。まずは自分へ対する怒り。才人はルイズが自分を拒絶したのを自分のせいだと考えていた。
つまり、ルイズがどの様に感じるかなんて特に考えもせず、軽い気持ちで無責任に励ましかえって傷つけてしまったと言う自分への怒りだ。
もう一つはギーシュに対する怒り。言いがかりをつけられた事はもちろんだが、ギーシュの“薔薇とはその美しさを皆に平等に与えなければいけない”と言う言葉に一番の怒りを感じていた。
それだけでも殴りたくなる位に気障な台詞な上に、更にギーシュはそれを実行していない。
もしそうしていたのなら、ルイズがあんな風に一人でいるのを放置したり、ルイズがバカにされるのを放っておく筈などない。つまりあんな言葉なんて単なる飾り。
だから、才人はあの時カッとなってしまった。才人の人生の中でも、あれだけ人を目の前でバカにした事は無かっただろう。だが後悔はしていない。
(あのキザで卑怯なエセ紳士に絶対に目に物見せてやる。魔法がどうのこうの、知った事じゃねえ)
そんな事はなんとかなる、才人は根拠も無くそう思っている。いや、むしろそう思い込もうとしていると言った方が正しいか。
奴がどんな魔法を使うかは解らないが、自分より圧倒的に強い筈のプッロでさえオスマンに対してあの体たらくだった。
一応勝算はある。あるが、非常に不確かであやふやな物だ。大した期待は出来ない。だがだからと言って「勝ち目が無いので止める事にします」などとは言えないし、ましてやギーシュを侮辱した事を謝るつもりなど毛頭ない。
ある強い感情が才人の中にある。それは“下げたくない頭は下げられない”と言う物だ。才人としては、どう考えたってこの事はギーシュが悪いのだ。
確かに彼に悪罵を浴びせたが、その内容は全て事実。本当の事を言ったのに頭を下げる必要なんてない。
だからこそ勝ち目なんて無くてもこの決闘から逃げない。それが才人の考えだった。
そしてそう思えば、自分を無理やり引っ張っていっている目の前のこの男が鬱陶しく感じられる。
だがそもそもこの男はなぜ自分を連れて行ってるのだろう。さっさとあのギーシュと言う奴の所へ行きたいと言うのに。

「……別に助けなんていらないんですけどね。これは俺の喧嘩なんですから、余計な手助けはいりません」
そう言った才人の額を、プッロが小突いた。
「アホ。忘れたのか?俺だってあのガキにご指名されてるんだよ。つまりこれは俺の喧嘩でもある」
その事をすっかり忘れていた。確かにギーシュは“ゼロのルイズの使い魔全員に礼儀を教えてやる”とか言っていた。
だとすればプッロとウォレヌスは、自分が始めた様な喧嘩に巻き込んでしまったと言う事だ。
元々彼らはこの事に何の関係も無いのに。才人は申し訳なく感じ、謝罪した。
「……すみません。あなた達を巻き込むつもりはなかったんですけど」
そう言いながら二人は廊下の角を曲がる。
「そう思うんなら次からは自重――」
プッロはそこまで言って立ち止まった。数歩先に、厨房にいる筈のウォレヌスが立っていた。

「あれ?なんでこんな場所に?厨房にいたんじゃ?」
プッロは不思議そうな顔で聞き、ウォレヌスはいつもの仏頂面で答えた。
「皮むきなら、もう終わった。単調な、つまらない仕事だったがな……軍の懲罰に使えそうな位にな。それでお前がつまみ食いでもしていないか様子を見に行こうとしたんだが……なぜサイト君と一緒に?」
「それがちょっと困った事になりましてね……簡単に言えばここの生徒の一人と喧嘩をする羽目になったんです」
ウォレヌスの目が点になった。
「喧嘩、だと?どう言う事だ?」
「ええ。それがですね、その生徒――ギーシュって言うガキなんですが――が香水の入った瓶を落としてこいつがそれを拾ったんです」
ウォレヌスは肩をすくめてみせた。
「だからなんだ?感謝されこそすれ、喧嘩になるわけがない」
「いえね、俺にもいまいち良く解らなかったんですが、それが原因でそいつが二股をかけてた事がバレちゃったんですよ」
「はあ?」

そしてプッロは事のあらましを話した。
「そいつは二股がバレて、娘二人にその場でフラれたんです、派手に。それでそいつがこの坊主に“お前が香水瓶を拾ったからこんな事になった”とか言い出して、決闘とやらをする羽目になっちゃいました」
特に付け加える事も無かったので、才人は口を挟まなかった。
ウォレヌスは額を悩むように揉むと、ため息をついた。
「そんな馬鹿馬鹿しい理由で子供と喧嘩をする羽目になったのか?お前は」
確かにこうやって他人が話すのを聞くと、下らない話に思える。
バカな痴話喧嘩から発展した、バカな意地の張り合い。だが、それでも才人はやめる気にはならなかった。
バカな喧嘩とは言えど、正統性がこちらにあるのなら頭を下げる必要なんてない。
「ええ、まあ。ただ、シエスタが言うにはこれはただの喧嘩じゃないそうです。なんでも殺されてもおかしくないそうで」
その言葉を聞いた途端、ウォレヌスの呆れた様な表情が、油断の無い警戒した物に変わった。
「殺される、だと?ただの子供の喧嘩でか?」
「それがね、なんでもここじゃ平民が貴族を侮辱すれば、殺されても文句は言えないそうで」
「……つまり、何か?ここでは貴族は気に入らない平民を殺しても罪にならない、そう言う事か?」
「多分そうでしょうねえ。シエスタはとても冗談を言ってるようには見えませんでしたし」
ウォレヌスはひどく驚いたように、呟く。
「……ホルテンシウス法以前のローマ――いや、十二表法が作られた時代ですらそんな事が許される訳が無いか――」
そして苛立ったように舌打ちをすると、幸運の女神を呪った。
「チッ、多少は奇怪な術が使えてもやはり蛮人は蛮人か……ああ、フォルチュナよ!一体なぜ貴方はこうも我々に災厄を降らすのか!」
だが奇妙な事に、才人はなぜかその言葉に安心が込められるている様な気がした。
何故かは見当もつかないが。そしてウォレヌスはプッロに向かって忌々しげにはき捨てた。
「それにしても次から次に問題を起こしおって……おおかたお前が余計な口を挟んだからこんな事になったんだろう?少しは自重と言う物を覚えないのか、お前は」
この言葉にプッロは憤慨した様に返す。
「ちょっと、これは俺のせいじゃないんですよ!この坊主が」
と言ってプッロは才人を小突く。
「そいつをクソミソに貶したからこんな事になったんです」

それはその通りだ。あそこで自分が大人しく何も言わずに立ち去れば決闘にはならなかっただろう。
だが最初にわけの解らない難癖を言ってきたのはあちらだ。
「……まあ、確かにそうですけど。でも元々イチャモンをつけてきたのはあいつですよ。」
「それでもお前があのまま自分を抑えて黙って立ち去ってりゃ、決闘なんて事にはならなかったんだよ」
確かにそこは痛い所だ。あの余計な言葉で決闘なんて事になったのは間違いないからだ。
だがそこにウォレヌスが、助け舟を出したつもりなのかは定かではないが、割って入った。
「お前が他人にそんな事を言えた身分か?お前が才人君と同じ立場ならその場で半殺しにする位の事はやりかねないだろうが」
「俺が?冗談言っちゃいけませんよ、俺ほど温厚な人間なんてそうはいませんよ!だいたいあんただって似たようなもんでしょう――」
プッロはそう冗談とも本気ともつかない口調で返した後、才人の方を向いた。
「――そもそも、一体ルイズと何を話したんだ?お前、あのギーシュと話す前からイラついてたんだろ?顔を見ただけで解ったよ。あいつに何か言われたのか?」
そう言われて、才人の脳裏に、ルイズの吐き捨てた言葉が蘇った。
――私が一体どれだけ努力してきたか知りもしないのに良くそんな事が言えるわね?そもそもこれ以上何を頑張るって言うのよ!?――
――私に哀れみでもかけてるつもり?笑わせるわ。平民如きに同情されるなんて願い下げよ!――
そして強く実感した。やはり自分は安易な同情で彼女を傷つけただけだ。そもそも自分は彼女がどの様な人生を送ってきたかなんてまるで知らない。
知っている事と言えば、彼女は魔法が使えないゆえにコンプレックスを感じていて、それが理由でいじめられていると言う事だけだ。
その程度の理解で、プライドがやたらと高そうな彼女に安易な哀れみや同情をかければどうなるか?
単に不快にさせてしまうだけだろう。放っておけないなどと言う感情だけで行動するべきではなかったのだ。
少なくとも、軽率に励ますべきではなかった。才人は心の中で、自分の軽挙に再度悪態をついた。
(クソッ!もうちょっと考えてから行動しろよ、俺!)
彼女に会ったら謝らなければいけない。才人は強くそう思った。

そう思索にふけり、何も言わない才人にプッロが声をかけた。
「おい?聞こえたのか?」
「え?あ、ああ。すみません、ちょっとボーッっとしてました」
「……まあ、いい。それは別に重要じゃない。それより隊長、何か良い案はありませんかね?あんたの所に行こうとしたのもそれを聞く為です」
ウォレヌスがいぶかしげに聞く。
「良い案だと?」
「ええ、ですからそのガキをぶっ飛ばす案ですよ。そのガキがあのジジイみたいな魔法を使えるってんなら、マトモに戦ったって勝ち目は薄いでしょうから」
「いちいち子供の喧嘩に付き合う事も無いだろう。無視すればどうだ?」
プッロは驚愕した様に、大げさに言い返す。
「無視?あんたがそんな事を言うとはねえ。いいですか、第十三軍団の兵士が喧嘩を売られたって事は、第十三軍団自体が喧嘩を売られたって事に等しいでしょう?」
ウォレヌスを腕を組んだまま、何も言わない。
「蛮人のガキが我が軍団に喧嘩を吹っ掛けたってのに逃げるって言うんですか?そしたら、あのガキは“あのローマ人はぶっ飛ばされるのが怖くて逃げた”とか言い触らすでしょうねえ。それで良いんですか?
 それに俺が無視したって、この坊主はもともとやる気まんまんみたいですよ?俺はさすがにこいつが殺されちゃあ、少しは寝覚めが悪くなります。あんたはどうなんですか?」
さっきもそうだったけど、この人はやたらと第十三軍団と言う物に拘るんだな、と才人は思った。
プッロは第十三軍団と言う物に、単なる誇りよりもずっと強い感情を持っているように感じられる。それが何なのかはは解らないが。
そして一応自分を心配してくれているらしいのも少しうれしかった。
(まあ、“殺されたら少しは寝覚めが悪くなる”ってのが心配かどうかはわからねえけど)

ウォレヌスはやがて、ゆっくりと口を開いた。
「……解ったよ。まあ、お前の性格からして喧嘩から逃げるなんてもともと考えられんしな」
ただし、とウォレヌスは付け加えた。
「勢いあまって殺すなよ。余計な騒ぎはごめんだ。貴族が平民を殺しても問題無いのなら、その逆は多いに問題ありって事だろうからな」
「解ってますよ、それくらい。じゃあ早速聞きますけど、何かありますか?良い考え」
「いきなり思いつく訳が無いだろう。少しは時間がいる」
そこに才人が口を挟む。
「良い案かどうかは解りませんけど、俺に考えがあります」
「ん?ああ、そう言えばそんな事も言っていたな。勝算があるとかなんとか」
「なら言ってみてくれ」
二人とも、大して期待はしていないようだ。だが才人は構わず自分の考えを述べた。
「メイジにはランクがありますよね?確か四つ。学院長は多分一番上のスクウェア、そしてミセス・シュブルーズはトライアングルでした。ならあいつはドット、精々ラインって所だと思うんです。なら勝ち目はあるんじゃないですか?」
才人達のメイジの実力の指標は、オスマンが見せた魔法に基づいている。だが、学院長ともなれば相当の凄腕に違いない。
実際、才人には視認する事すら出来なかったプッロの抜刀よりオスマンは早く反応し、杖を抜いたのだ。
あんなヒョロすけが彼と互角である筈が無い、と言うのが才人の考えだ。
無論、こんな物は勝算と言うには余りにもろく、はかない。魔法使い全般の実力と言う物の見当が、才人には全くついていないからだ。
だがそれをプッロよりも、ウォレヌスよりも早く指摘する者が現れた。

「あ~もう!甘い!甘いのにも程があるわよ、あんた!」
そう叫びながら、ルイズが廊下の角から転がるように飛び出し、一気にまくし立てた。
「メイジの力が全然解ってないのね、あんた。いい?平民は絶対にメイジに勝てないの!例えドットだろうとスクウェアだろうと関係無い。勝ち目なんて万に一つも無いの!あんた達!さっさと謝ってきなさい!命令よ!」
才人は謝罪の事よりも何よりも、まずあっけにとられた。なぜ彼女がここにいるのか?
「お、おい。お前、いつからそこにいたんだ?」
「最初から。後をつけたのよ。全然気づかなかったんだから笑っちゃうわ!」
ルイズは自信に溢れた様子で、あっさりと言ってのけた。一見すればいつものルイズに見える。
だが、才人にはそれがえらく不自然に思えた。なにせあんな事が起こった後だ。
彼女は多分無理をしている。
「……な、なあ、お前大丈夫なのか?」
「大丈夫って、何が?」
才人は先ほどのルイズとの会話を思い出し、口ごもった。

だがプッロは才人の躊躇を蹴り飛ばすかの様に、高らかに笑い始めた。
「アッハッハッハッハ!いやぁ、存外に面の顔が厚いんだな、お嬢ちゃん」
「ど、どう言う意味よ?」
「文字通りさ。さっきは泣きながら負け犬みたいに飛び出していったやつが、今ノコノコと現れて、またご主人様気取りだ。俺なら恥ずかしくてとても無理だね」
ルイズは表情を強張らせた。その体は小刻みに震えている。
(やっぱり無理をしているな、あいつ)
思った通り、彼女は意地を張ってここにいる。だが、なぜ?
「なあ、ルイズ。お前、一体何をしにここに来たんだ?」
才人はなるべく優しく聞いてみた。ルイズはどもりながら答える。
「あんた、いや、あ、あんた達を助ける為に決まってるでしょ。幾ら粗野で、野蛮な使い魔でも、危険に陥ってるのに放っておく、しゅ、主人なんて主人失格だから!」
これで合点がいった。主人としてのプライドが理由だ。確かに彼女らしいが、それでも自分達を心配してくれているのはうれしかった。
あんな風に思い切り感情を爆発させて泣き出した後に、あの二人の前に出るのは凄く恥ずかしいことだろう。それでも顔を出したのだから、自分達は完全に嫌われたわけではないらしい。
だが、プッロはイライラとした口調でルイズに言い放った。
「ボケ老人かてめえは!?言った筈だ、俺はガキを主人に持った覚えなぞ――」
「いい加減にして下さい!」
気がついたら才人は叫んでいた。プッロはギョッとした様に才人に振り向く。
才人は我慢ならなかった。こんな事を繰り返したってルイズが傷つくだけだし、何の進展にもならない。
こんな風に罵り合って一体なんになると言うのだ?
「喧嘩なんかしてる場合じゃないでしょう!?いいですか、あなた達がルイズを嫌っているのは解りますし、その理由も理解できます。でもね、今こんな風に言い争ったって何の解決にもならないでしょう?」
プッロはわけが解らないと言った風に肩をすくめた。
「おい坊主、イカれちまったのか?このガキが俺たちに何をさせようとしたのか――」
だが言い終えられる前に、ウォレヌスが彼を制止した。
「その少年の言う通りだ、プッロ」
「で、でも……」
「今はこの決闘とやらについてのみ考えるべきだ。下らん口喧嘩なぞ後回しにしろ。今はメイジの意見が必要だ」
「……チッ、解りましたよ」
そう言って、プッロは押し黙った。それを見て、才人はルイズに振り向いた。
彼女の顔には驚愕の色が浮かんでいる。今自分が言った事が信じられないらしい。
才人はルイズにも意見するつもりだったが、その前に、ルイズに先ほどの失態を謝罪した。
「ルイズ。まずはさっきの事を謝る。ロクに考えもせずに適当な事を言ってすまなかった」
「え?な、なにを――」
「でもな、一々その“私がご主人様”って態度はやめてくれ。どう考えたってあの二人には逆効果だろ?」

そう言って才人は大きく息を吸い込んだ。同じ部屋で住む者同士、こんな風にいがみ合っててはお互いの為にもよくはない。
(俺たちみんなが妥協しなきゃいけない)
彼はそう考え、勇気を出して大声で言った。
「プッロさん、ウォレヌスさん、ルイズ。一度、俺たちはじっくりと話し合う必要があると思います。罵り合うだけじゃ両方とも嫌な気分になるだけでしょう?
 いっかいお互いの考えを納得いくまでぶちまけるましょう。もちろん今はそんな時間はありませんから、今の所は一時休戦って事にしません?」
三人とも虚をつかれたように何も言わない。沈黙が場を包む。
だがやがて、プッロが諦めた様にため息をついた。
「は~っ、解ったよ。今の所は黙っててやるよ。そこのお嬢ちゃんもそうすれば、の話だがね」
ルイズも、才人から目を逸らしながらもポツリポツリと話し始めた。
「……ま、まあ、私としてはその位の譲歩はしてやってもいいわ。主人としても多少の柔軟性は持たないと……」
「ウォレヌスさんはどうなんですか?」
「私か?一時休戦と言うのには同意だ。こんな事に時間を使っている場合ではない」
思ったよりすんなりとうまく言った事に才人は驚いた。もっと抵抗されると思ったのに。
これが緊急事態だと言うのが手伝ったのかもしれないが。何はともあれ、場の空気は変わった。
ぎこちないながらも、皆の間に会話が成立している。

「……ヴァリエール。さっき、お前は勝ち目は万に一つも無いと言ったな。あれはどう言う事だ?」
「文字通りの意味よ。はっきり言ってあんた達はメイジの力を全然解っちゃいない。昨日、オールド・オスマンが見せたのなんてその片鱗ですらないわ。いい、平民は絶対にメイジに勝てないの!」
「その判断は我々がする。まずはそのギーシュとやらのランクを教えてくれ。それが解らなきゃ話にならん」
ルイズはため息をついた。お前らは何も解っちゃいないと言わんばかりに。
「……ギーシュはドットメイジ。ついでに言うと土が得意属性で、ゴーレムを作るのがうまいの」
「ゴーレムとはなんだ?聞いた事が無い」
ウォレヌスはそう言って首を傾げたが、ゴーレムくらいなら才人も聞いた事はある。
魔法使いが作る、金属や土で出来た動く人形。知能と呼べる物は無く作成者の命令に忠実に従うだけの存在だ。
もちろん、ルイズの言うゴーレムが、RPGゲーム等に登場する物と同じならの話だが。
「ほんっとうに魔法が無いのね、あんた達の世界は。いい?ゴーレムって言うのは自分で動き、痛みを感じず、主人の命令を絶対に遂行する人形の事よ。ギーシュは青銅のゴーレムを作るのが得意で、二つ名も“青銅”。確か一度に七体まで作れた筈」
やはりこの世界のゴーレムと、地球の物(フィクションの存在だが)は同じ物らしい。

「青銅で出来た動く人形……クレタ島のタロスを小さくした様な物か。そんな物まで魔法で作れるとはな……」
「タロス?何よそれ」
ルイズはいぶかしげに聞いたが、ウォレヌスは関係無いと言う様に手を振った。
「こちらの話だ。関係無い」
そしてプッロが口を開いた。
「お嬢ちゃん、どれだけ強いんだ?そのゴーレムってのは」
「強さはドットメイジが作る物だから大した事は無いけど、それでもあんた達が勝つのは絶対に無理。ドットメイジのゴーレムでも、平民の戦士三人に匹敵するって言われてるんだから」
もしそれが本当なら、自分に勝ち目なんて万に一つも無いだろう。
そして彼女に嘘をついている様子なんて全く無い。自分の考えは相当に甘かったんだな、と才人は思った。
だがプッロはルイズの言う事を信じられないようだ。
「あんなヒョロそうなガキの作る人形如きがそんなに強いのか?ちょっと信じられんな」
「全部本当よ。悪い事は言わない、今すぐ謝りにいって。冗談じゃなく、殺されてもおかしくないのよ、あんた達は!」
「話は聞いてたんだろ?俺もプッロさんも、謝るつもりなんて全然無いんだよ。あいつがどれだけ強かろうが、下げたくない頭は下げられない」
才人はキッパリと断った。それだけは出来ない。
「変な意地を張るのは止めなさい!あいつが最初に滅茶苦茶な言いがかりをつけて来たのは確かだけど、殺されちゃおしまいでしょう!勝ち目なんてないのよ!?」
確かに勝つ方法なんて無い。才人は押し黙った。だがだからと言って謝るなんて問題外だ。
(玉砕覚悟でやるしかねえのか……)
そう思った時、ウォレヌスが口を開いた。
「杖が無ければ魔法は使えない。これは本当なんだな?」
「え?え、ええ。そうよ。どんなに凄いメイジでも、杖が無ければ魔法は全く使えない。これは鉄則だけど……」
「なら、私にいい考えがある」

ウォレヌスは手早く説明を終え「……と言う物だが、どうだ?正直言ってあまり感心出来る手口じゃないが……」と三人に聞いた。
「ま、まあ、うまけ行けば確実に勝てると思うけど、あいつがそんな事を承知する筈無いわ。そんな事をしては勝ち目なんて無いのは子供にだって解るもの」
「これがただの喧嘩ではなく、名誉をかけた決闘ならばそもそもそうしなければおかしくなる。そこをついて相手にそうせざるを得ない状況に追い込むんだ。怖いのか、と挑発してな」
「な、なるほど。確かにそうすればあいつの性格から考えてもそうする確率は高いかも……うん、やってみる価値はあるわ。姑息な手段だけど」
ルイズはこの案で決闘をやる事に賛成してくれたようだ。確かにうまく行けば少なくとも殺されるなんて事は有り得なくなる。
ルイズの言うように、正々堂々とした手段とはいえないが。そこにプッロが一つ疑問をもらした。
「一つ問題があります。俺たち全員が戦っちゃ公平もクソも無い。でも俺は降りる気なんてありませんよ。喧嘩を売った奴を放っとくわけにはいきませんから」
確かにそれは問題になる。この案がうまく行けば、一対三で戦うなんてただのリンチになってしまうからだ。
いくらギーシュが憎たらしいと言っても、そんな事をする気は才人には毛頭無い。
「俺も止める気はありませんよ。元々俺が原因の喧嘩なんですから」
「なら今日は一人が戦って、後日もう一人が戦うと言う風にすればどうだ?それと言っておくが、私はやらんぞ。喧嘩を売られたのはお前達だからな。私は観戦するだけだ。誰が戦うかは二人で決めてくれ」
ウォレヌスの提案に、プッロは納得したようだ。
「それが一番でしょうねえ。それで、どうやって決めるんです?クジでも作りますか?」

クジなんかをわざわざ作るよりずっと早い方法がある。こういう状況でする事と言えば一つしかない。
「プッロさん、ジャンケンって知ってますか?」
「じゃんけん?なんだそりゃ?」
才人はジャンケンの歴史なんて全く知らないが、少なくとも古代には存在していないだろうと言う事くらいは解る。
だから手早くプッロにジャンケンについて説明した。
「――って言うルールです。それで決めませんか?」
プッロもそれが気に入ったらしい。
「そりゃ良さそうだな。それでやろう」
その結果、才人が勝利。ギーシュに挑むのは才人だと言う事に決まった。
これは才人としてもうれしかった。
(元々俺が原因で始まった様な喧嘩なのに、他人に戦わせるなんてどう考えたっておかしいだろ)
そう思った時にルイズに声をかけられた。
「ねえ、あんた喧嘩をした事あるの?」
「あん?少しはあるけど」
才人も健康な男子であるから、多少の喧嘩の経験はある。
が、それだけだ。格闘技を習っているわけでもないし、喧嘩と言ってもお遊びの様な物だ。
だがそれは相手も同じだろう。
「いいこと?やるからには絶対に勝ちなさいよ。それが条件」
「ああ、解ってるよ。あんなひょろすけに負けるかっての」

そして四人が広場に向かう前に、ウォレヌスが最後に付け加えた。
「それとプッロ、挑発するのはお前がやれ。そう言う事はお前の方が得意だからな」
「お前の方が得意って、どう言う意味ですか、それは?」
プッロはムッとしたように答えた。
「人を苛立たせる才能があるって事だ。解らないんなら自分の胸に聞いてみろ」

四人はやっとヴェストリの広場についた。広場には既に大きな人だかりが出来ており、その中心にギーシュがいる。
四人を見止めたギーシュが口を開く。
「やれやれ、ようやく来たか。……おや?なんだ、ルイズ、君も一緒か」
「ええ、そうよ。使い魔が決闘をするって言うのに主人が黙って見ている訳にはいかないでしょ?」
ルイズの言葉に、ギーシュは肩をすくめた。
「あれ程無礼な男が使い魔とはねえ。本当に同情するよ。まあ、別に見ているだけなら僕は構わないがね。それにしても随分と遅かったじゃないか?てっきり逃げたのかと思ったよ」
才人がムッとした様に答えた。
「ほざけ。ちょっとばかし作戦ってのを経てたんだよ」
「どんな作戦だろうと、かなう筈は無いんだ。今君たちが地面にひざまずいて、無礼を謝ると言うのならこの場で許してやってもいいんだよ?」
プッロが憤慨した風に言う。
「おいおい、何もやってない俺までなんで謝らなきゃいけねえんだ?」
「何もやってない?君は平民の分際で貴族である僕に対等な立場であるかの様な口を聞いた上に、僕の弁解を“恥ずかしいから誤魔化している”等と歪曲した。君も十分に非礼を働いている。もっとも」
そう言って彼はルイズに振り向く。一見落ち着いている様に見えるが、その顔がピクピクと痙攣している事に才人は気がついた。彼が相当怒っている事に間違いは無い。
「ルイズ、君が彼らの非礼と侮辱を詫び、今後この様な事は一切起こらないと保証するのならこのまま手を引く事にやぶさかではない」
ギーシュの提案をルイズは一蹴した。
「ふざけないで!もともとケティとモンモランシーの両方に手を出したのはあんたよ。確かにサイトが言いすぎたのは認めるわ。でも元はといえば全部あんたのせいでしょう!」
「やれやれ、使い魔を見れば主人がわかる、というのは本当だったみたいだね。まあいい、ところで君」
ギーシュはキザったらしい仕草でウォレヌスを指差す。
「君はこの件には関わっていない。彼らに協力したいのならしても構わんが、痛い目に会いたくないのならそこで突っ立っていたまえ」
ウォレヌスは何も答えなかった。まるでギーシュなぞ存在すらしていないかのように。
何も言わないウォレヌスを見て、ギーシュもウォレヌスを無視し、薔薇を持った右手をかかげ、高らかに宣言した。
「では始めよう。諸君、決闘だ!」
その言葉で、待ちくたびれようとしていた観衆から大きな歓喜の声があがる。

「その前に一つ約束しろ」
「うん、いったいなんだね?」
「もし俺たちが勝ったなら、俺にイチャモンをつけたって事を認めろ。そしてあいつをゼロのルイズって呼んだ事を謝って、二度とその呼び名は使わないと誓え!」
才人はギーシュがゼロのルイズと言う呼び名を使っていたのを覚えていた。恐らく、その名前がどれだけ彼女を不快にしてるのかも知りもしないのだろう。
だが、だからこそ許せなかった。魔法、魔法、魔法。ここに来てからそればかりだ。平民は魔法が使えないから平民で、ルイズは魔法が使えないからバカにされている。
(魔法を使えるのがそんなに偉いのか?エセ紳士さんよ)
だがギーシュは不敵に笑う。
「ふふふ、いいだろう。まあ、勝てたらの話だがね。その代わり僕が勝ったら君たちには僕の前に跪き、非礼を詫びて、許しを乞う。それでいいね?」
「ああ、それで構わねえよ」
「僕はメイジだ。だから魔法を使わせてもらう。無論、文句はあるまいね?」
そう言ってギーシュを杖を取り出そうとした。そこでウォレヌスが始めて声を上げた。
「文句ならある。杖をしまえ」

ギーシュは一瞬呆けた様な表情になったが、すぐに高らかに笑い出した。
「ハッハッハッハッハ!それはもちろんそうだろうさ。そうしては君たちに勝ち目なんて無いからね。だが僕がメイジである以上魔法を使うのは当然だ。後悔するのなら貴族に無礼を働いた――」
だがウォレヌスはギーシュが言い終える前に、割って入った。
「これは決闘なのか?それともただの喧嘩なのか?」
「何を言っている!先ほど言った通り、これは互いの誇りをかけた神聖な決闘だ。私は彼らに罵詈雑言を浴びせられ、不当に名誉を汚されたのだ。だからこそ決闘を行い、彼らにその過ちを認めさせる必要がある」
「あんたねえ、決闘が校則で禁止されてるのは知ってるんでしょう?」
「禁止されてるのはあくまでも貴族同士の決闘だ。平民と貴族が決闘をするのは禁じられていない。よって何の問題も存在しないんだよ、ルイズ」

ウォレヌスはギーシュがこれを決闘であると宣言するのを見届けると、後に下がった。
そして今度は。プッロが前に進み出る。
(始まったな。うまく行けばいいんだけど)
この作戦が通用すれば、自分にも十分に勝ち目はある。後はプッロの挑発がうまい事を祈るだけだ。
プッロはコホンと咳払いをした後、大声で演説をする様に言い始めた。
「いいか、名誉をかけた決闘って言うんならお互い公平な条件で始めるってのが筋ってもんだろ?お前がやろうとしてるのは素手の喧嘩に弓を持ち出す様なもんだ。そしてこれがルール無用の喧嘩じゃないってのはお前がたった今認めたんだぞ?」
「……ハッ!何を言い出すかと思えば!魔法は貴族が貴族たる理由だ。貴族である僕がそれを使うのは当然の事だ!」
「でも俺たちは魔法が使えない。つまりお前は自分だけが使える武器で、一方的に有利な条件で戦おうとしてるんだ。これのどこに名誉とやらがあるんだ?俺には力に物を言わせた卑怯な憂さ晴らしにしか見えねえがな」
そう言って、プッロは「ねえ、他の皆さんもそう思うでしょう!」と観衆を向いて言う。

杖が無ければ魔法が使えないのなら、杖を封印すればいい。魔法が使えないのなら、メイジはただの人間に過ぎない。
これがウォレヌスが考えた作戦だった。そしてギーシュが決闘と言う形で私刑を行おうとしたのも幸いした。
そのおかげで「決闘なのに公平な条件ではないのはおかしい」と言う理屈で相手を責める事が出来たのだから。
正直に言えば、才人もこれが苦しい理屈である事は解っていたがもとより相手は公平な条件で“決闘”をする気なんて全く無いのだ。
単に同じ条件で戦うと言うだけなのだから卑怯と言う程でもないだろう、そう考えた。
そしてプッロの言葉を受けて、観衆がざわめく。
「あの平民めちゃくちゃな事を言ってるぞ」
「でも実際にちょっとズルいよな。平民達に勝ち目なんてないんだぜ?」
「確かに決闘って言うよりはムカついたからボコろうとしてるだけだな」
そしてギーシュの顔が徐々に蒼白になっていく。
それを見て、才人は心の中でざまあみやがれ、と喝采を送った。
こっちを思う存分いたぶるつもりだったのだろうが、そうはいかない。

「……いったい何が言いたいのだ、君は!」
「なあに、簡単な事さ。杖をしまって素手で戦えって事さ。男らしい、素手での殴りあいだ。これならお互いに公平な条件だろ?」
「ふざけるな!僕に平民と酔っ払いのように殴りあえと言うのか!そんな汚らわしい事が――」
だがそこにプッロが止めを刺した。
「怖いのか?」
ギーシュは絶句してしまう。
「な……!」
「まあそりゃ怖いだろうね。お前の様な人を殴った事も無さそうなヒョロガキじゃあ、喧嘩なんて無理だろうしな。だから魔法に頼るしかない。哀れなもんだ」
その瞬間、蒼白になっていたギーシュの顔が一瞬で赤く染まった。その様子を見ていた才人は思わず噴出しそうになった。
「い、言わせておけば……!き、き、貴様らはいったいどこまで僕、いや、貴族を侮辱すれば気がすむのだ!」
「侮辱?本当の事じゃないか?違うって言うなら素手で戦って、自分は男だって証明してみろ。貴族が平民より優れてるんなら、それ位出来るだろ。ねえ、皆さん!そう思いませんか?」
そう言ってプッロは再び観衆の方を向いた。

「そうだギーシュ!男らしく戦え!」
「魔法が無くても貴族は平民より凄いって事を教えてやれ!」
驚くほど簡単に、観衆はプッロの提案を支持した。
が、もとより単に見世物を見る様な感覚でここにいる連中だ。
結果が決まりきっている一方的な勝負よりは、泥試合の方が面白そうだと思うのは当然だった。
そしてギーシュ自身、そのキザったらしい振る舞いのおかげで余り人気が良くなかったと言うのも大きい。
ギーシュは歓声が浴びせられる中、無言のまま暫くの間うつむいていた。だがやがて、青白くなった顔をゆっくりと起こし、ヤケクソになった様に一気にまくしたてた。
「……いいだろう!ここまで言われて引くのは単なる臆病者だ!君たちの馬鹿げた提案に乗ってやろう!そして魔法が無くとも平民は貴族にはかなわないと言う事を教えてやる!」
そしてギーシュは杖を懐にしまった。それを見た群集が「いいぞ!ギーシュ!」と声を上げる。

「へっへっへ、そうこなくちゃ面白くない。じゃあ始めるか。言っとくが、いまお前と戦うのは一人だけだ。一度に一人戦うとしても疲労の分不公平だからな。今はそこの坊主がお前とやり、後日俺がお前とやる。それでいいか?」
その言葉を受けてギーシュの表情が平静な物に戻った。いかにも屈強そうなプッロよりは、才人と戦う方が遥かに勝ち目があると思ったからだろう。
「今すぐ君たち全員と戦ってもいいのだが……君たちがそう言うのなら良いだろう。一人ずつ順に戦ってやろう」
気取るような仕草でそう言った。
「それと一応規則って奴を決めとく。目突きと金的は禁止……でいいか。勝負は相手が気を失うか、参ったと言ったら決まる。それでいいか?」
「ああ、構わん!さあ、早く来たまえ!」
才人は前に進み出、ギーシュから10歩ほど離れた場所に立った。
これで決闘が始まる。だがただの殴り合いなら自分にも十分勝算はある。
(さて、どうなるか……)
才人は、拳を構えた。


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