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マジシャン ザ ルイズ 3章 (53)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (53)ウルザの砲台

これで何度目かとなる交錯。
空中を素早く逃げ回るワルドの進路を武具の射出で妨害し、一気にウルザがその距離を詰める。
『ハッ!』
距離が縮まると同時、裂帛の気合いとともに、二人は互いに弾幕のような無数の光条を放った。
ワルドのそれは、迎撃のため。
ウルザのそれは、ワルドの迎撃を打ち落とすため。

ウルザの呪文はワルドの呪文を残らず撃ち落としていく。それは相手の放った矢を射るが如き、針の穴を通す達人技。
迎撃が意味をなさないことを悟ったワルドも即座に後退に徹しようとするが、追随するウルザがそれを許さない。
ウルザは無造作にワルドの懐に飛び込むと、左手でに握った大剣を払う。重さと早さが乗った一撃が、ワルドを襲った。
しかしてワルドもただ者ではない。
ワルドは回避しきれないと判断すると、素早くサーベル型の杖を腰から引き抜き、ウルザの剣をいとも簡単にいなしてしまった。
そう、接近戦こそは彼本来のフィールド。
ロングレンジの戦いならともかく、ショートレンジでの戦いなら、転化前の技能が存分に生かし切れる。
追い詰められたワルドは、防戦どころか逆に剣杖にブレイドの呪文を纏わせて、ウルザに接近戦を挑んできた。
こうなってしまっては、いかに長い時を生きてきたとはいえ、所詮はアーティフィクサー。本職の戦士を相手にするのは難しい。
それが自身と同じ、定命の軛から解き放たれたものとあっては尚更に。

あっという間に攻守は逆転。
今度はワルドが攻める展開となった。
突き、払い、突き、フェイント、簡易詠唱呪文による牽制を織り込みつつ距離を詰め、間髪入れずに引き込む真空を纏わせての跳ね上げる斬撃。
立て続けに鋭い攻撃を繰り出されたウルザが、堪らず距離を離そうとするが、その動きにもぴったりとワルド追いすがる。
突き突き突き突き、刹那に四度。恐るべきプレインズウォーカーの魔力を乗せた刺突がウルザを襲う。
流石にこれは防ぎきれないと判断したウルザが、非常手段に訴える。

次の瞬間、二人がいた空間を極太の熱線が焼き払っていた。

「埒が開かんな」
そう呟いたウルザは、最初そうであったように、再びワルドとの距離を離していた。
ウルザもワルドも、共に熱線によるダメージはない。
単に仕切り直しとなっただけである。

こうして距離を詰めようとしたウルザを、ワルドが撃退して距離を離すというやりとりも、すでに何度か目となっていた。
そもそもプレインズウォーカー同士の戦いというものは、片方が消極的な戦法を取ると長期戦になりやすい。
加えて、本来ウルザは自分で戦うことを得意としないプレインズウォーカーである。
〝愚か者どもの破滅〟テヴェシュ・ザットや、〝世界最古のプレインズウォーカー〟ニコル・ボーラスといった面々のような戦闘力は持ち合わせていない。
もしも戦うならば、莫大な魔力やアーティファクトを利用して、距離を離しての戦いが本来の戦法なのだ。
一応、杖を使った格闘術もある程度身につけているが、それにしたところでファイレクシアの闘技場でジェラードに打ち負かされる程度の腕前である。
本物の勇士を相手にするには心許ない。
それでも、ウルザがワルドに接近戦を挑むのは訳がある。
それはワルドが展開し、周囲の空間に編み込まれた儀式魔法の術式陣に理由があった。

今や二人の戦闘空域の至る所に浮かぶ、一見すると無造作に漂う光の紐にしか見えないそれは、ワルドが作り出している次の攻撃のための布石だった。
捕縛か、封印か、攻撃か、防御か、巧みに偽装された術式は、一見しただけではその正体を掴みきれない。
その呪文がどのような呪文であるか、ワルドの狙いがなんなのかを突き止めるのが、ウルザにとってのワルド攻略の第一歩だった。
その為にも、ウルザにはワルドとの距離を詰めて戦う必要があった。
距離を詰めれば、儀式魔法の展開を直接その目にすることができる。そうなれば、判別は痕跡から魔法の正体を探るよりもずっと容易い。
また、距離を詰めることで、儀式魔法の正体を知られまいとするワルドが一時的に呪文の詠唱を中断するという副次的な要素もある。

だが、ウルザにとっての誤算は、ワルドの有する卓越した戦闘技術。
覚醒してからほんの数ヶ月のプレインズウォーカーとは思えないほどに、ワルドの動きは的確だった。
センスが良いというべきか、それとも昔取った杵柄とでもいうべきか。
ワルドの動きは、プレインズウォーカーの動きとしても、実に合理的であった。
相手の術を捌きながら行う攻撃のタイミングにしても、複数の呪文を操りながら相手の呼吸を乱すフェイントにしても、熟達のプレインズウォーカーに匹敵する動きなのである。

結局、ウルザはワルドの得意とする接近戦を挑まなければならず、その度に接近戦になれば有利なワルドが、結果的にウルザとの距離を離してしまう、そんな戦いが続いていた。


一方で、ワルドはウルザが焦れてきているのを感じ取っていた。
これまで六度、それがウルザが接近戦を挑んできた回数である。

その判断は間違っていない。確かに、時間をかければかけるほどに、不利になるのはウルザなのだ。
再びウルザが飛翔速度を上げてくる。
これで七度目となる接近戦を挑もうというのだ。
だが、すでにワルドは準備の殆ど終えてしまっている。
(……そろそろ頃合いか)
予定よりも準備に長く時間をかけてしまったが、ファイレクシアの英知から授かった、ウルザを倒すための秘策は下拵えが済んでいた。
あとは最後のピースを嵌めて、絵を完成させてやる段階だ。
(それでは最後の一押し、決めさせてもらおう!)


ウルザの動きに合わせたように、ワルドもまた、その距離を詰めてきた。
短い時間で互いに接敵を果たすと、ウルザは杖とデルフリンガーで、ワルドはブレイドを纏わせた杖で、必殺の一撃を放った。
杖同士がぶつかり合い、弾き合う。杖を弾いた後も、デルフリンガーが追の撃となってワルドを狙うが、これは危なげもなくかわされてしまった。
そして続けざまに一合、二合、三合、ウルザとワルドは切り結ぶ。


ウルザは迎え撃つのではなく、自ら踏み込むようにして接近戦を挑んできたワルドに違和感を覚えていた。
これまではウルザが挑み、ワルドが消極的に対応するという形だったのが、ここに来て自分から前に出てきたことに引っかかりを覚えたのだ。
その意味するところは何か?
――決まっている、相手の準備が整ったのだ。

すぐさまウルザはその場を離脱するために動いた。
だが遅い。
ワルドの動きははウルザのそれより尚早く、捕らえた獲物を逃しはしない。

退きながら/追い詰めながらの一進一退。
迷い無く打ち込むワルドに、ウルザが押され始める。
そして数度目の打ち合いの末、杖と大剣を振り上げたウルザに、決定的な隙が生じた。
杖も大剣も防御にまわせ無い。胴体はがら空き、これを隙と言わず、何を隙というのか。
「終わりだ!」
ワルドが必殺の刺突を繰り出そうとした、その時だった。
ウルザの口元が、微かに動いた。
その瞬間、ワルドの背筋を這い上がる悪寒。
遅れて、その鋭敏な感覚が、自分たちに迫る膨大な熱量の発生を感じ取った。
「貴…ッ!」
見ればウルザの唇がわずかに歪んでいた。
そこで初めて、ワルドはウルザの意図を読み取った。
ウルザは、自分もろともワルドを火線で焼き払うつもりなのだ。
なんて馬鹿げた計画。しかし、『ファイレクシアの目』から受け取ったウルザに関する知識から考えれば、あり得ないとは言い切れない。
無論、気づいたワルドはその場を離れようとする。
だが、ワルドは必殺の刺突を繰り出すために、踏み込みすぎていた。
「…様ッ!」


ウルザの右手が、ワルドの右腕を掴んでいた。

ウルザが右手で握っていたはずの杖は、いつの間にやら虚空に溶けて消えている。
つまりは、最初の隙から、全ては罠だったのだ。

「経験が足りないな、子爵」

ウルザはそう呟くと、掴んだ腕をぐいと引き寄せ、ワルドの体を盾にするように、その体を密着させた。
そして、次の瞬間、怒濤の火線が正面からワルドに迫り、その視界を赤一色に染め上げた。
十分なだけの防御を備える余裕は、無い。

「あ、あああああああああああああああああああ!!」
ワルドの絶叫がこだました。


プレインズウォーカーとは。
世界の外に広がる久遠の闇、そこに繋がることで供給される無限の魔力。
老いることなく、永久の時間を約束された不死。
たとえ破壊されようとも、虚無の闇に溶け込んでいる本体を殺されない限り死ぬことはない、血を流さぬ肉体。
それらを併せ持った、超越的な生命体である。
プレインズウォーカーとウィーザードの存在は、よく象と蟻に例えられる。
象にその気がなくとも、彼が寝転べば無数の蟻が潰され、また、彼が池で水浴びをすれば、無数の蟻が溺れ死んでしまう。
無自覚のままに力をふるう、恐るべき存在。

だが、一見、無敵に見えるプレインズウォーカーも、滅ぼす方法なら無数に存在する。
それは長いドミニアの歴史の中で、どれだけのプレインズウォーカーが滅ぼされてきたかを紐解けば容易に証明できる。

如何に不老不死を約束されたプレインズウォーカーとはいえ、世界への意志表層体である肉体を破壊されればダメージとなるし、肉体を破壊されれば再構築するまでの暫くの時間は世界に関われなくなってしまう。
だが、彼らにとって真の驚異は、プレインズウォーカーの例外。
『プレインズウォーカーならば、プレインズウォーカーを葬ることが可能』ということである。
大した力も持たないプレインズウォーカーなら兎も角、強大な力を持つプレインズウォーカーともなれば、世界への端末である意志表層体への攻撃で、プレインズウォーカーとしての核に直接ダメージを与えることもできるのである。
そしてまた、その延長として、死に至らしめることもまた可能なのであった。


炭化して、パチパチと爆ぜるワルドの亡骸を特に感慨もなく空に投げ捨てる。
先ほどまで展開されていた儀式呪文の陣は消えている。

ウルザは無傷だった。
いや、正確には所々に火傷は負っていたが、負傷と呼べるような負傷は負っていない。
それもこれも、盾にしたワルドと、アーティファクト『ウルザの鎧』のおかげであった。

しかし、ワルドを葬ったウルザの顔色は優れなかった。
「……手応えがなさ過ぎる……?」
そう呟いたウルザは、右手で白い髭を撫でた。
確かに先ほどまでの戦いは激しいものだった。
だが、相手はファイレクシアの支援を受けているのだ、ウルザの予想ではもっと激しいものとなるはずだった。
「……ふむ」
ウルザが気まぐれに下を見下ろしてみると、そちらでは連合軍と、アルビオン軍とが熾烈な戦いを繰り広げいるところだった。
どうやら形勢は連合軍にとって不利な流れらしい。
これに関しては戦闘の最中に、強大なクリーチャーが召喚されたのをウルザも感じ取っていた為、別段驚くこともなかった。
その光景を見ながら、ウルザは独りごちる。
「……子爵がここまで呆気ないとなれば、計画を少々変更した上で、予備のプランを動かさねばならぬか」
今のところ、ウルザの行動計画は少々の修正を加えねばならぬ程度で、まだ大きな支障はきたしてはいない。
このまま順調に進めば、ウルザの目論見通りにことは進むことになるだろう。
そのことを思い、ウルザは小さく唇の端を上げた。

だが、それこそが油断だった。

突如として体の中心から、ズンッ、と重たい衝撃が広がった。
ゆっくりとウルザが自分の肉体を見下ろすと、自分の体の鳩尾から、見覚えのある軍杖の先が生えていた。

――背後から、貫かれている。
そう理解したのと、声を聞いたのは同時だった。
「遍在さ。ミスタ」
背後からウルザを刺し貫いた、ワルドが言った。
風の遍在。それは実体のある分身を生み出す、風のスクウェアスペルだ。
倒したはずのワルド、そして今ウルザを貫いているワルド、風の遍在。
それらから導き出されるのは、先ほどまでウルザが戦っていたのは分身に過ぎなかったという結論である。

「今回の化かし合いは、私の勝ちのようだ」
言いながら、ワルドは深く、根本まで杖を抉り込む。
血は出ない。プレインズウォーカーは、血を流さない。

人間ならば致命傷であろう一撃を受けても、ウルザは顔を歪めるに留まった。
「愚かな。確かに無傷とは言えないが、この程度はプレインズウォーカーにとって、致命傷にはなり得ない。知らぬ訳でもあるまい」
「勿論知っている。だからこその下準備なのだよ」
ワルドがそう言った途端、先ほどまで消えていた、儀式呪文の術式である輝く紐が、再びその姿を現した。
そして、その先端がウルザを貫いたワルドの杖の先端に繋がっていた。
「ウィアド!」
ワルドがそう、儀式呪文を締めくくるキーワードを叫ぶと、周囲に縦横無尽に走っていた光の帯が、黒く変色した。
そしてそのまま、ウルザを取り囲む輪と変化して、圧縮するようにして杖の先に灯された、呪文の終端へと収束していった。
そして全ての術式が巻き取られると、ワルドの術は完成した。

最初に爆発したのは〝黒い光〟とした表現できないものだった。
それが収まったときにはもう、術の効果は発揮されていた。
目と鼻の先に灯された極小の黒点、そこから発せられる超級の重力が、ウルザを捕らえて放さなかい

現れたのは、全てを吸い込む黒い穴だった。
それは空気、魔力、音、光の別なく、どんなものでもリバイアサンのようにどん欲に飲み込んでいく。
その危険性を察したウルザは、その底の抜けた穴を消滅させようと呪文を唱えた。
だが、その呪文すらも吸い込まれてしまう。
二度三度と繰り返してみたが、結果は変わらない。
そうこうしている間にも、穴はウルザの体をも引き込み始める。
「――、―――!」
その声すらも吸い込まれてしまう。

「ハハハ、無駄なあがきだ! その『黒い穴』の前にはどのような抵抗も無意味だ! おとなしく吸い込まれ、放逐されるが良い!」
そして、その言葉を契機にしたように、指先ほどのサイズだった黒い穴は、一気に二メイルほどの大きさまで巨大化し、すっぽりとウルザを飲み込んでしまったのだった。




時間は少々遡る。
ウィンドボナ周辺、およびその上空での戦いは、泥沼化の様相を呈しつつあった。

地上から空へ、弾雨が下から上へと登っている。
先ほどまで勢いを弱めていた対空砲火が、先ほどよりも一層強くなり、空に展開した連合艦隊を攻撃しているのだ。
「〝アントワープ〟大破!」
「救助を急がせろ!」
「地上軍は何をしている!?」
「伝令だっ、伝令を飛ばせ! 地上軍に対空砲への攻撃を優先するように伝えろ!」
「くそっ、下の連中は何をやっている!?」
ブリッジから場所を移して作戦室。そこでは怒声が飛び交う中、アンリエッタが慌てる参謀達に囲まれて、きりりと口元を引き締めていた。
「対空砲火が強くなりましたね」
「は……」
その言葉に、司令官席に座ったアンリエッタの横に立つマザリーニが口を開いた。
「先ほど空にドラゴンが多数出現するのと同時に、地上でも多数の魔物が出現したのが報告されております。それに関連するのではないかと思われますが……」
マザリーニがそう言っている間も、参謀達は喧々囂々と地上軍に敵の対空攻撃を止めさせる算段を立てている。
現在トリステイン艦隊は、アルビオン艦隊を相手にしつつ無数の大型ドラゴンを相手にしている。更にそこを地上からの対空攻撃を受けている形だ。
けれど、苦しいのは空の艦隊だけではない。地上に展開した軍も、同様の状況にあるはずだった。
そんな中で、地上軍に対空砲火を止めるのを最優先させるというのは、地上軍にさらなる血を流せと命じるようなものである。
しかしそれでも、
「やってもらわねば、我々の命運は尽きてしまいますね……」
今の連合艦隊に、アルビオン艦隊、ドラゴンの群れ、対空砲、これらすべてを相手に三面作戦をとって、戦線を維持できるほどの体力はないのだ。
このままでは遠からず、連合艦隊は再編不能なほどの打撃を受けてしまうに違いない。
そうなってしまえば、地上への援護もままならない。つまり、艦隊の命運はそのまま地上軍の命運をも左右するのである。
選択肢はない、無理でもやってもらう他無いのだ。
「しかし……それでも、あのドラゴン達をもう一度呼ばれたら」
「押し切られてしまうでしょうな」
そう、アルビオン側の追加戦力として現れたドラゴン達は、それだけ戦局を塗り替えるに十分な戦力であった。
アンリエッタ達には、アルビオン側がこの後どれだけ追加戦力を投入できるかが分かっていない。
相手の総兵力が全く見えてこない状況での戦闘は、恐るべき重圧となってアンリエッタを押しつぶそうとする。

しかしそれでも
(私は……強くなると決めたのだから。あのとき、決して二度と泣いて立ち止まったりしないと、誓ったのだから!)
あの日の想い、あの日の言葉を嘘としないために、愛したウェールズと釣り合う王となるために、こんなところで負けるわけには、いかないのだった。
「地上に伝令を飛ばしなさい! 対空砲への攻撃を続行。その破壊を最優先にするようにっ! もたもたしているとアルビオン艦隊からの対地攻撃が雨あられと降ってきますよ、とも付け加えるように伝令に伝えてください!」
その言葉に、一瞬まごつく参謀もいたが、その場にいた多くの将兵および参謀は、アンリエッタの言葉に即座に従った。
彼女の言葉を地上へ伝えるために、慌ただしく人が動く。
ばたばたと足音が響く中、席に座ったアンリエッタだけが静かだった。
アンリエッタは美しい爪が傷つくのも気にせず、何かを考えながら右手の親指の爪を噛んだ。
「戦力が足りません……」
「………」
横に立つマザリーニが、何も聞かなかったという風に沈黙を保った。
「……奇跡などという都合がよいものが本当あるなら、今こそ出現願いたいところですね……」
マザリーニは、その言葉も聞かなかったことにした。

「報告いたします!」
慌てた様子の士官が一人、作戦室へ飛び込んできたのはそのときだった。
「どういたしました?」
喧噪の中、入り口に現れた彼に、間髪入れずにアンリエッタが問いかけた。
「はっ……」
女王自らに直接声をかけられるとは思っていなかった年若い下士官が、戸惑いながらその場に傅いた。
「形式など気遣い無用。そのまま続けて下さい。何がありましたか?」
先ほどまでの苛立った様子などおくびにも出さずに、アンリエッタが落ち着いた声色で再び聞いた。
通常、作戦室にはある程度以上の地位のある士官でなければ、立ち入りが許されていない。彼のような下士官が報告に来たということは、現場では上級士官がその場から離れられない何かが起こったということである。
そのような事態の前に、形式などに拘ってはいられなかった。

「は、それが……空に、穴が……」
「……穴?」
「はい。穴、でございます」

そしてちょうどその時、大きな音を立てながら、船体が傾いた。


                         この、大きくて長いものはなんですか?
                         エレオノールからウルザへ

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