あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Fatal fuly―Mark of the zero―-09


 最早深夜にさしかかろうかという時刻であった。
 ルイズとロックは他愛のない雑談に花を咲かせながら、寝るまでの時間を稼いでいたのだが、どうも落ち着かない。
 それは、昼間の品評会での予想外の受けと、取り囲まれた際の危機感が特にあるのだろう。
 だが、冷静に考えれば、実際の話、そもそもが同室に年頃の娘と男が寝泊りしているのだ。
 それだけで落ち着かぬ事態にならなかったことこそおかしい。

「で、ロックはあれ以上の芸って持ってないの?」
「芸って言うなよ。ありゃ、技だ」
「どっちも同じじゃない」
「見せるためだけの物が芸であってだな……ああ、もう、めんどくせぇ!」

 ロックは頭をくしゃくしゃと掻いて言った。

「一応、あるにはあるよ。だけど、あれとか使っちまうと――」

 言いよどんだロックに、ルイズは白い目を向けた。
 この後に続く言葉とすれば、ご主人様にどうして出し惜しみなんてするのよ、という所だろうが、使い魔は使い魔にせよ、対等の関係を謳うだけにどうしても完全な強みを見せられない。
 そこでルイズが発したのは若干常より柔らかい言葉だった。

「使うと、駄目なの?」
「…………」

 予想外の言葉だったのか、ロックの口が止まる。
 しかし、顎を掌で少し撫でつけ、落ち着きを取り戻した彼は、戸惑いがちなルイズの目を眺めながら言う。

「俺、さ、こんな力欲しくなかったって言ったこと、あったよな」
「……ええ」
「あれ、色々ルイズにも見せたんだが、昔、俺は知らなかったんだ……どうも親父の使ってた技らしい」
「どういう事?」
「自分でも知らない間に、親父のものを自分のにしちまってたんだな。――――皮肉だよ。一番憎んでる相手だぜ?」
「は?」

 貴族社会に於いて、親を憎むという事は確かに多かろうが、ルイズはそういう認識から遠い所にいる。
 だからこそ、ロックの発言が理解できなかった。何で親を憎むのか?

「ちょ、ちょっとロック。自分のお父様が憎いって何よ!」
「……あのさ、ルイズ」
「…………」
「母さんが病気で倒れたんだ」
「…………」
「治療に必要な金が無かった。まともに顔も見たことのない親父だけど、それに助けを求めて、だ。開口一番、帰れって言われた気持ちが

分かるか?」

 言葉も無かった。そんなこと、ルイズには分かるはずもない。
 人の生き死にまでになると、口をおいそれと出せるほどに彼女は鈍感ではない。
 そして、ルイズはそういう家族形体がまずにして分からなかった。
 母親、父親、寄り添って暮らすのが当然だという認識があるからである。

「母さんの死に際、凄く寂しかったよ。小さな教会で、おざなりな牧師の説教とか聞いてさ。……なんで、なんであんな……」

 当時を思い出したのか、ロックの放つ言葉に嗚咽が混じり始めた。ただ、その名残はあっという間に消え去り、少しばかり残った鼻の頭の赤みが、見え隠れするばかりだった。
 それに何か言える立場にルイズはいない。確かに、ゼロのルイズだとか言われ、呆れを覚えられているが――

「あいつを、ギースを絶対にぶっ倒してやろうと思ってた」

 オスマンとの対話で出て来た名前を思い出し、ルイズはどきっとした。
 やっぱりか、やっぱりなんだな。実際は分かっていたが、改めて口にされると驚きは来る。

「ねぇ、ロック。その人って今は――」
「いない」
「…………」
「俺の今の親父、テリーが、殺した」
「なっ」
「そんな奴を親父にしてるってのが、分からないか?」
「わたしに言われても、分かるわけ無いじゃない」
「俺だって……分かっちゃいないんだけどな。でも、テリーは言ってくれたんだ。お前も俺と同じ身の上か。よし、じゃあ、今日から俺が面倒を見てやる、ってな」
「何よ、それ。殺した相手に対する贖罪って言うなら、あまりにも陳腐よ」
「その時は知らなかったと思う。でもさ、テリーの話を聞いてわかったんだ。つい最近のことなんだけど」
「?」
「テリーも、自分の親父を殺されたんだ」
「!?」
「もう、これで分かるよな。ギースにだ」
「出来すぎよ。何、物語の中の話じゃない」
「ほんとにな。でも、事実だ」

 負の連鎖。
 その単語がルイズの脳裏を過ぎった。
 生い立ちの話で言えば、下々の人間にせよ、貴族にせよ、難しいものは多々ある。しかし、それは話で聞く部分だ。自分と関わる事では

ないと高をくくっていた節はある。
 これが、わたしの使い魔。

「複雑だよ。人の感情ってのはな。そして、テリーは復讐を成し遂げた。やりきれないと思った。俺からしたらな。本当に、やり場のない怒りをもてあます。
 頭がぐちゃぐちゃになってよ、考える事すらできねぇ。理解は出来るんだ。だけど、どうしても最後の一線が越えられない。嫌いなんだ、宿命だとか、運命だとか。
 そいつに必死になって喧嘩を売ってる。ルイズだってそうだろ? お前は、貴族の血があるのに魔法が使えないって言うよな」
「認めたくない話だけどね……」
「ベクトルは逆なんだけど、俺とお前、根本が一緒なのかもな。どこまでも足掻いて、必死で戦って。そうでないと、見てもらえない。自分って奴が希薄になっていくのが――耐えられない。何か見えない糸に操られてるような、気持ち悪い感覚。分かるか?」
「性質の悪い冗談ね。わたしはわたし。ラ・ヴァリエール家の人間よ。意思は絶対に譲らない」
「強いよな。暗黒の血はどうしても俺を支配したがる。さっき言った、ルイズの俺の技……頭の中をぐじゃぐじゃにするそんな、どす黒い血の力に頼らないといけねぇ」
「何言ってるのよ、ロック」
「は?」
「あんこくのち? それがどうかする? 馬は手綱をつければ思い通りに動くじゃない」
「……成る程な。でもそりゃ説得力ねぇぞー。お前は実際どうなんだよ」
「い、今はとりあえずなんとかしようとしてるだけ! 暴れ馬なの!」
「ははは……だな、結局落ち着くのはお互い様って話なんだけど……ああ、俺は、そこまでの意思の強さがねぇのかな。まだ、誰か隣にいないと駄目なのかな」

 寂しげに、両腕を組んでロックは言う。
 ルイズは思わず彼を抱きしめて言ってやりたかった。今はわたしがいるじゃない、と。
 だが、そんな事を実行出来るほどの行動力は彼女にはない。ロックの話を聞けばすぐに分かる。テリーという父親に依存していた事が。
 そこまで自分は至れるのかという疑問、拭いきれないそれが、ルイズをとどまらせていた。

「下らない話をしちまったな。ははっ、俺もちょっと流されすぎだな。でも、ルイズに俺の事を少しでも分かってもらえたのなら、いいさ。運命共同体だし」
「どう返せって言うのよ」
「いいよ、おまえはそのままで」
「馬鹿にしてるの!?」
「そんなわけねぇだろ。正直な所、お前に会えてよかったと思うよ」
「何を……」
「ほんとさ。新しい事だらけだ。人の出会いは一期一会。お前みたいな強い奴は、結構好きだぜ?」
「――――なっ、なにをっ! そんな別に、言われた所で……」
「女の子と話なんて、ほんとはまともに出来なかったんだよ、俺」
「その割にはツェルプストーとかと……ああ、あれはちょっと困ってるだけね」
「やめて欲しいんだよな……あれ、って、まぁ、だけど、さ。凄く今自然にルイズとは話せてる。昔からの知り合いみたいに」
「そうよね、何でか、わたしにも分からないわ」
「ちょっと、考えた。だから言うよ。――ケンカ、でっかいケンカだ。自分を閉じ込めてる運命って奴を、一緒にブチ破ろうぜ。その為に会えた、なんてな」

 そこでルイズは顔を真っ赤にさせた。言うロックも誤魔化した笑いを浮かべているが、顔の赤らみは最高潮だ。
 それこそ陳腐なのはロックの発言だ。だけど、この湧き上がる気持ちはなんだろうかと考えている間、さらに彼は続けた。

「結局の所、俺は狭いところに縮こまってただけなんだろうな。世界は広いよ、本当に。それこそ隔たりなんて無かった。見ろよ、月が綺麗じゃねぇか。二つ明るいのが。俺のいた所じゃ見れなかった」

 ロックの言葉にルイズは窓の外に目を向けた。
 成る程。
 雲が晴れた日には双月がよく映える。

「キザね」
「そんな事言われたのは初めてだな」
「言ってやらないと分からなかったようね」
「かも知れない」

 額に手を当てて笑うロックにつられて、ルイズも笑い声を上げた。
 平民の使い魔を呼び出したなどという事で負い目を感じていたが、今になって彼女は思っていた。
 ――呼び出したのが彼でよかった。
 月の輝きが満ちているこの頃、扉のノックの音が響いたのは突然の事だった。



新着情報

取得中です。