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第弐話「否退」


南斗六聖拳。
かつては皇帝の居城を守る六つの門の衛将と呼ばれた、南斗聖拳の頂点に立つ六人の拳法の使い手達である。
世紀末の世にも各々が宿星を持ち、その星の宿命を背負った男達が存在した。

愛に生き、愛に殉じた殉星の男シン。
人のために生き、命を懸けた義星の男レイ。
裏切りの宿命を背負い、南斗六聖拳を崩壊に導いた妖星の男ユダ。
仁の星の元、己を犠牲にして人を救う仁星の男シュウ。
妖星を動かし、世紀末の世の支配を目論んだ将星の男サウザー。

一星崩れた時残る五星も乱れ、世紀末の世に巨大な悲劇の種はバラ撒かれた!


第弐話『否退』


使い魔、いや契約をしていないのだからまだ正式な使い魔ではないが
召喚し死に掛けているところを助けてやったはずの男が、天を指差し、己は頭を下げぬと言った事が、その言葉がルイズには信じられなかった。
本当に、どこかの国の帝王なのかもしれないが、魔法も使えない者が貴族に命を助けられたのだから言うべき言葉ぐらいはあるはずだと考えていた。
だが、目の前の男が纏う雰囲気は、傲岸にして不遜。
常に他の者の上に立ち、またそれを当然だと言わんばかり。

「ペジかギジ、リロンかハッカでも居れば任せてもよいのだがな」
南斗双斬拳と南斗飛燕拳の使い手達。
二組の名を挙げたが、一組はケンシロウに、もう一組はラオウに、とうの昔に敗れ去ってしまっているので意味の無い事だ。
あれだけ挑発しといて何だが、挑まれたとはいえ、あの小僧相手に本気で決闘なぞする気にもなれないのだ。

「それと、使い魔だが」
「ぐ…なによ。あんたはわたしが召喚したんだから仕方ないのよ」
知らないという事は一種幸せな事である。
サウザーに気圧されつつも、メイジの立場からそう言ってのけるのだから実に恐ろしい事だ。
下手すれば、テーレッテーとかいう音楽の元、奥義を叩き込まれた挙句FATAL K.O.とかが出てもおかしくは無い。

だが、ルイズにはまだ死兆星は見えていなかったらしく、サウザーは頬杖を付いたまま続けた。
「そこら辺の蛙でも使い魔にすればよかろう」
「冗談じゃないわよ!しかもなんでよりによってカエル!?」
「ドブネズミのリーダーの方がよかったか?」
一瞬ルイズの頭の中で、両目を潰した男の顔が見えたような気がしたが気のせいだ。
むしろ、目の前の男より使い魔になってくれそうなのでそっちの方がよかったかもしれない。

「じゃなくて!使い魔ってのはサモンサーヴァントで召喚したやつしか無理なの!」
のらりくらりとかわすサウザーに業を煮やしたのかルイズが叫んだが、サウザーは空のグラスを手で弄びながらルイズを見ている。
「残念だったな。レイやシュウなら話が違うのだろうが、俺は聖帝。誰にも媚びはせぬ」
義星と仁星。どちらの人のために生きる星だ。
この二人なら見込みはあったかもしれないが、生憎と目の前の男は将星。またの名を独裁の星。
世紀末の住人ならば、このような光景自体が異様な事だと思う事だろう。

「くぅぅ……!話が進まないわ、それでどうするのよ。ギーシュをあんなに怒らせて決闘に行かないつもり?」
「俺が相手をするようなヤツではあるまい。放っておいても問題なかろう」
「ふ~ん。偉そうな事言ってるわりには逃げるのね」
ルイズが挑発的な言葉を投げかけた瞬間、サウザーの手の中のグラスが思いっきり砕けた。
「なんだと…?」
「だってそうじゃない。あんたこのままだと、ギーシュから逃げた平民って言われ続ける事になるわね。まぁ普通はそうなんだけど」
「退かぬ、媚びぬ、省みぬ!面白い事を言うな……俺が逃げるだと?よかろう!何も知らぬお前達に帝王の姿を見せてやらねばなるまい」
手の中のグラスの欠片を投げ捨てるとサウザーが立ち上がった。
逃げるという言葉の反応の良さに、言ったルイズもこれには驚いた。
案外、扱いやすいやつなのかもしれない。とまで思ったがサウザーは、そんなルイズを気にするでもなく食堂から出て行き
新しいワインを持ってきたシエスタに広場までの案内を任すと、さっさと行ってしまった。


「ルイズの平民が来たぞ!」
日中でもあまり日が差さぬ、普段あまり人が集まらない場所。
『ヴェストリの広場』にそんな声が響く。
ギーシュとルイズが召喚した平民が決闘をするとの噂を聞きつけた生徒達で、広場は溢れかえっていた。
その生徒の群れをモーゼの如くかき分け進むのは聖帝サウザー。

「遅かったじゃないか。てっきり逃げ出したのかと思ってしまったよ」
「冗談が過ぎるぞ小僧。この俺が相手をしてやるのだ、光栄に思え」
ギリッ!と音がせんばかりにギーシュが歯噛みしたが、薔薇の香りを嗅ぐかのような仕草をとると、平静な顔を取り戻した。
「まぁいいさ。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、君の相手をするのは」
ギーシュが薔薇の杖を振ると花びらが一枚宙に舞ったかと思うと、いつの間にか、どこからともなく甲冑を着た女戦士の形をした人形になった。
「この青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ。メイジが魔法で戦うんだ、今さら卑怯とか言ってもらっては困るよ?」
余裕の笑みを浮かべながらギーシュがうそぶいたが、対するサウザーは僅かにワルキューレを眺めるとつまらなさそうに言った。

「それだけか?」
「?」
「お前の技はそれだけか?と聞いている」
「青銅の戦乙女ワルキューレは全部で七体!でも、平民相手には一体で十分だ!」

つまり、あれと同じ物が後六体出せるという事か。
くだらん。余興にもなりはしない。
このまま切り裂いてやってよかったが、それではあまりにも味気ない。

「三秒。俺が三秒数えている間、その人形で好きなように攻撃してくるがいい」
両腕をだらりと下げ、限りなく見下した笑みをギーシュに向け言い放つと
完璧に馬鹿にされている事に逆上したギーシュが叫びながらワルキューレに命令を下した。
「後悔するな!行け、ワルキューレ!」

「ひと~~つ」
数えると同時にワルキューレが、サウザーに向かって突進してくる。

「ふた~~つ」
ワルキューレが右の拳を振り上げた。

「みい~~つ!」
三つ数えると同時に重い音がして、その右拳がサウザーの腹に当たった。それでもサウザーは微動だにしない。
青銅製のゴーレムの拳だ。痛みでのた打ち回るのが普通だった。
食らった相手が普通ならだ。

「気も通っていない」
そんな低く、重い声が広場に響く。
「出来損ないの木偶では、この俺の身体に傷一つ付ける事はできぬわ!」
まるで何事も無かったかのようにサウザーの右手がワルキューレの頭を掴むと、それを軽々と持ち上げそのまま握り潰した。

世紀末の世界は放射能の影響か知らないが、良い意味でも悪い意味でも妙な連中が多い。
そんな連中を一撃で粉砕する北斗神拳伝承者の拳を受けても、口から僅かに血を流すだけなのだから
たかが青銅如きの木偶人形でサウザーにダメージがあるはずもなかった。
どこかの世紀末アクションスポーツゲームで『やわらか聖帝』だとか『紙』だとか言われているが大違いである。
頭を潰されたワルキューレが陸に打ち上げられた魚のように暴れていたが、無造作に投げ捨てられると
塔の壁にその身を叩きつけられ無残に砕け散っていった。

「南斗聖拳を使うまでもないな。小僧、お前如き腕一本で十分だ」
サウザーが唖然としているギーシュに近付く。
ジャリ、と音を立てて迫るサウザーに半ば恐慌状態に陥ったギーシュが薔薇を振ると、六体の武器を持ったワルキューレが現れサウザーを取り囲んだ。

だが、サウザーはつまらない物でも見るかのようにそれらを一瞥すると、ギーシュへと近付く。
一歩近付く毎にワルキューレがサウザーを襲ったが、武器を振っても全て避けられ、逆に一撃を貰っては沈黙させられている。
それを六度繰り返すと、サウザーとギーシュの間には何者も存在しなかった。

「もう終わりか?その程度の腕で、俺に挑み勝つ気でいたなどとは、とんだ笑い種だな」
ギーシュの武器は合計七体のワルキューレだ。
それを全て失ったという事は、もうギーシュに抗うだけの術は無い。

「ま、参った。僕の負けばら!?」
震える声でギーシュが負けを認めようとした瞬間、その身体が吹き飛び地面に叩き付けられた。
「ひっぶぁ…!こ、降参するって言ったじゃないか!」
鼻血を出しながら何が起こったのか分からないかのような声。それを聞いたサウザーが嘲るかのように哂いながら言った。
「参った?降参する?クッハハハハ。俺に逆らった者に降伏が許されると思っているのか?」
「そ、そんなしぼ!」
そこでギーシュの意識は途絶えた。
後頭部を強く踏まれたからだ。
ただ、完全に意識を手放す前に一つだけギーシュが理解できた事があった。

虫けらのように殺される。

事実、サウザーが脚の力を強めれば、ギーシュの頭は熟れたトマトのように潰れてしまうことになる。

「次は誰だ?」
ギーシュの頭をぐりぐりと踏みしめながら、周りに向け短く言うと観客のざわめきが一瞬で止まった。
「お前か?」
そう言った瞬間、その視線の先に居た観客のほとんどが後ずさる。
「それとも貴様か!?」
別の方向を向き言ったが、結果は同じだ。
それでも、気に押される事無く立っていたのは赤と青、大と小の対照的な二人の少女だった。

「ごきげんよう、ミスタ。でも人と話すには、その足を離した方がよろしいんじゃありません?」
「この小僧か。稽古台にもならぬ相手だが、それは貴様に命令されるような事ではないな」
「あなた正気?グラモン家、いえトリステインの貴族を全て敵に回す事になるわよ?」
ギーシュの家、グラモン家はトリステインでも有数の軍人の家系だ。
しかし、サウザーはそれを聞いても表情を崩さず、逆にギーシュを踏む脚の力を少し強めた。
一瞬、呻く様な声が少し聞こえたが、それもすぐに止まる。

「それがどうした。俺の前に立ち塞がるのであれば、制圧前進し全て叩き潰すのみ!」
手を前にかざし、不敵に言い放ったサウザーを見て少女―キュルケがため息を吐いた。

まったく……ルイズもとんでもないのを召喚したわね。契約もまだみたいだし。

このルイズの使い魔は、例え国を敵に回しても省みる事は無い。
漠然とした考えでそう判断すると、杖を構えた。
「あたしが先でいいわね。タバサ」
青い髪の―タバサが小さく頷くとキュルケが広場の中へと進んだが、サウザーは足をギーシュから離そうとしない。

「女にこの帝王の相手が務まるか」
「メイジの事をよくご存じないようなので説明してさしあげますわ。メイジのクラスは四つに分かれて下から
  『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』。あなたが今足蹴にしているギーシュは『ドット』。お分かりかしら?」
そう聞いてサウザーが目を細めた。なるほど、この小僧は雑魚にすぎぬという事か。
「あたしの二つ名は『微熱』。炎のトライアングルメイジ。そっちのタバサの二つ名は『雪風』。風のトライアングルメイジよ」
トライアングルといえば、学院の教師とほぼ同等。それを知ってか知らずか、無造作に両腕を下げたサウザーがギーシュから足を離すと観客に向け蹴り飛ばした。
「どの程度か知らぬが、メイジとやらの実力を測るには丁度よさそうだ。二人まとめてかかってくるがいい!」

「トライアングルメイジ二人を同時に?傲慢もいいところね」
呆れた顔でサウザーを見たが、幾分か強張った顔でタバサが前に出てきた。
「あたし一人で大丈夫よタバサ。隙だらけじゃない」
キュルケが軽く言ったが、タバサは首を横に振った。
「確かに隙だらけに見えるけど……隙なんて無い」
南斗鳳凰拳に構えは無い。だが、構えがないのが構えなのである。
相手の拳に対応して受けるのではなく、千変万化する相手の動きに合わせ必殺の拳を無想に繰り出す。
そこに一片の隙などあろうはずもなかった。

タバサが短く呪文を呟き最小の動きで杖を振ると、風の刃がサウザー目掛け飛ぶ。
風の刃がサウザーに届く寸前、顔を傾けると頬に一筋の傷が奔った。
「俺に傷を付けたか。だが、傷を付ける事は出来ても、果たしてこの俺を倒す事ができるかな?」
僅かに流れる血を親指で拭うと、血を舐めあげる。

次いで炎の球が次々とサウザーを襲ったが、最小限の動きで炎の動きを見切るとそれを避ける。
火力はあるようだが、単純な攻撃だけに見切ることは容易い。

「そんな大道芸で、この俺が怯むとでも思ったか?だとしたらお前も、あの小僧と同じだな」
炎をかわされ、見下されたような言葉を受けたが、意外にもキュルケはサウザーに微笑を浮かべると一礼をしながら言った。
「あたしをギーシュと一緒にするなんて言ってくれるじゃない。『微熱』のキュルケが情熱の炎というものを教えてさしあげますわ」
次いで再びキュルケの杖の先に炎が巻き起こる。
先ほどの炎球よりも一回りも大きい炎の塊がサウザー目掛け飛んでいったが、対するサウザーは口元から猛獣の牙のような歯を見せ嗤った。

「一度かわした攻撃が通用するか、愚か者が!」
大きさ事上回っているが、動きが単調すぎる。
この程度の攻撃をかわせないようでは南斗六星拳の名が泣くというものだろう。
炎を避けるとキュルケを見据える。この女も南斗聖拳を使うまでもあるまいと判断し一歩前へと進める。
だが、二歩目を進める前にそれを中断せざるを得なくなった。

後ろから先ほどかわしたはずの炎が迫ってきている。
「なんだと?」
今放たれた魔法は、『炎』、『炎』、炎の二乗。対象を焼き尽くすまで追い続ける『フレイム・ボール』の魔法。
「いかがかしら、トライアングルメイジの魔法の味は。ドットのギーシュのものとは一味違いましてよ?」
なるほど。確かにこれは少し厄介だ。いかに南斗聖拳の使い手とはいえ、炎は避ける以外に防ぎようが無いからだ。
が、それで出し抜いたとでも思っているなら甘い。

「少しはやるようだが、自分達の使う魔法とやらが最強とでも思っているようだな。この俺を甘く見た事を後悔させてやろう」
水は低きに流れる。
前に敵がおり後ろからも襲われたならば、前進し制圧した後、改めて後ろの敵を正面から迎え撃つのみ。
そして、それこそが南斗鳳凰拳の本領。
北斗神拳伝承者をして、『なんという踏み込みの速さ!』と言わしめた程の踏み込みを持ってすれば、それを行う事は容易い。

「あらそう、それならこれはどうかしら」
再び、キュルケの杖から放たれた炎がサウザー目掛け飛んだが、一直線にしか飛ばない物を避けるのはそう難しくはない。
大抵の者なら後ろに退く、というところだろうが、サウザーは違う。
身体を僅かに反らし炎を避けると、そのまま一気に距離を詰めるべく踏み出す。
例え、今の炎が追ってこようともそれ以上の速さで操り人を打ち倒してしまえばいいだけの事。

「では、こちらからも……ぬぅ!?」
キュルケに拳撃を撃ち込むため、間合いを詰めようとした瞬間、後ろから思いもよらぬ衝撃を受けた。
「ぅく…く……今の炎は俺を狙ったものではなかったか!」
追ってきていたはずの炎の姿が無い。そして、今かわしたはずの炎も。
「当たらないなら、当たるようにするまでよ。あなたこそ、メイジを甘くみていたんじゃなくて?」
点が当たらないなら、面で攻撃する。
フレイム・ボールにファイヤーボールを当て、二つの炎の爆発で生じた衝撃波が後ろからサウザーを襲ったのだ。

膝こそ付かなかったものの、予想もしていなかった事と、今まさに前へと踏み込もうとしていた事が重なり大きく体勢を崩してしまった。
立て直す時間は一瞬。
だが、その一瞬の間に異変が起こった。

「これは……?氷か!」
人の腕ほどの太さもある氷の矢が無数にサウザーを取り囲んでいる。
「魔法は詠唱さえ終わっていれば、いつでも使う事ができるのよ。それが一瞬の間でもね」
完全に氷の矢に周りを囲まれた。
してやられた。こんな小娘に。
そう思った瞬間、周りを取り囲んでいた氷の矢が一斉に動き出しサウザーを襲った。


少し時間が戻るが――
ルイズは目の前の光景が信じられなかった。
ワルキューレの青銅の拳をまともに食らったのに、痛がる素振りすら見せず、逆に頭を握り潰し塔の壁へと投げ捨てた男が。
襲い掛かる六体のワルキューレの攻撃をも全て避けると、一撃だけで破壊した男が。
そしてギーシュが降参したにも関わらず、『降伏すら許さぬ』と言ってのけた男が。
とにかく、ルイズには何が起こったのか理解できなかった。

「次は誰だ?お前か?それとも貴様か!?」
それを聞いてルイズの心臓が跳ね上がった。
ギーシュを一蹴した挙句、まだかかってこいと不敵に言い放っている。

それと同時に不安になる。
いつも『ゼロ』とバカにされている自分が、ドットとはいえメイジを圧倒した男と契約できるのかと。

意を決して杖を握り広場の中に進もうとしたが、それより先にキュルケとタバサがサウザーの前に出ていた。
出るタイミングを逃したので一先ず静観する事にしたのだが、サウザーはトライアングルメイジ二人の攻撃を悉くかわしている。

次いで起こる爆発。
自分が起こす失敗魔法ではなく、炎に炎をぶつけ起こされた爆発にサウザーが体勢を崩し
その周りを無数の氷の矢が取り囲んだが、絶体絶命とも言える状況を見ても不思議とルイズは止める気にはならなかった。
どことなくだが、あの『程度』の攻撃でやられはしないと感じている。
そして、氷の矢が降り注いだ瞬間、サウザーの姿が消えた事をその場の全員が目撃した。


タバサは困惑していた。
キュルケのフレイム・ボールにファイヤーボールをぶつけ、二つを爆発させ直撃とはいかずとも体勢を崩した所に
既に呪文の詠唱を終えていた、得意中の得意の呪文。トライアングルスペル『ウィンディ・アイシクル』を四方八方から撃ち込んだ。
退路もなく、かわせるはずのない必殺の状況。無数の氷の刃がサウザーを撃ち抜いたはずだった。
だが、サウザーはそこには居ない。忽然と姿を消してしまっている。

「消えた……?そんな!」
サウザーの姿が無かった事にキュルケも動揺は隠せてはいない。
あの崩れた姿勢からかわせるほど、タバサの氷の矢の数は少なくなく甘くもない。
メイジなら、フライを使って空に逃げる事も考えられたが、あの男がメイジでない事は知っている。
汗が額を伝ったが、その考えられなかったはずの空からあの声が聞こえてきた。

「ハハハハハ!この俺に一杯食わすとはな!フハハハハハハ!」
その声が聞こえてきた場所は二人の遥か上空。
本来、生身の人間が立ち入れぬ場所に踏み込んだのは、跳ぶなどという生易しいものではなく、飛翔の域にまで達した恐るべき跳躍。
「その礼に俺も技を一つ見せてやらねばなるまい!」
頭を地面に向け二人へと落下するサウザーが、その腕を交差させる。
「受けてみるがいい!」

       南斗鳳凰拳

『南 斗 爆 星 波』


サウザーがキュルケに向け交差させた腕を同時に振り抜くと膝を曲げ地面に着地したが、その行為がキュルケにはどういう事なのか理解できていなかった。
手刀を叩き込むわけでもなく、身体の遥か手前で交差させた手を振っただけ。

あれだけ大見得切って空振り……?まぁいいわ。なんにしても隙だらけだし、この距離なら外さないわ。
杖を向けすぐさまフレイム・ボールの詠唱を始めたが、呪文の詠唱が半ばまで終わった時、誰かに横から突き飛ばされ派手に地面に倒れてしまった。
「いっったぁ~~…ちょっとタバサなにやって……タバサ?」
詠唱の邪魔をし、地面へと押し倒した者はタバサだった。
だが、飛び付くかのようにキュルケを押し倒したタバサの顔色が青い。

この子がこんな顔するなんて、一体……?
普段、滅多なことでは見られない顔に、さすがのキュルケもなぜこうなったのかは分からない。
まるでそうしなければ命でも危なかったかのように、と考えた瞬間、さっきまで立っていた場所の地面が爆ぜた。

「命拾いしたな、女」
聞こえてくるのは、倒れている二人を見下ろすサウザーの声。
全身から嫌な汗が吹き出そうなのを我慢して、そこを見ていると吹き飛んだ地面の跡に深く鋭い十字の傷跡が残されていた。
もし、タバサに押し倒されぬまま、呪文の詠唱を続けていればどうなったか。
それを考えると思わずキュルケが身震いした。あの地面の十字傷が自分の身体に刻まれていかもしれないのだから。


……エア・カッターの比じゃない。
それが、南斗爆星波を受けたタバサの第一の感想だった。
両腕が振り抜かれた瞬間生み出された交差する二つの風のような刃。
今ほど自分が風の系統で良かったと思った事は無い。
風使いならではの空気を感じる鋭敏な感覚が無ければ、キュルケの身体は無残に切り裂かれていた。
風のようなと評したのは、エア・カッターで生み出されるような物ではなく、もっと根本的に違うものだと思ったからだ。
そして、それは間違ってはいない。

南斗聖拳の鋭い手刀は真空を生み出し、衝撃波を飛ばす事ができる。
その一番手ともいえるのが、南斗六聖拳の一つ南斗紅鶴拳だ。
南斗爆星波も衝撃波の射程・威力そのものは紅鶴拳奥義『伝衝烈波』に劣るだろうが
伝衝烈波と違い、こちらはあくまで拳撃の副産物なので大した問題ではない。

もし、あれが続け様に放たれたら?
どうなるかなど考えるまでもない。避けるだけで精一杯だ。
そして、呪文の詠唱すら無かった事から察するに、先住魔法ですらなく体術。
おまけに生半可な攻撃では、あの体捌きで全て避けられてしまう。
それに、もし……

そんな二人の様子を見てサウザーが口元を歪めたが、視線と言葉はキュルケではなく、タバサへと向けられている。
「フフ…我が南斗鳳凰拳の一撃をかわすとはな。お前のような小娘がよく見切れたものだ」
南斗聖拳はもちろんのこと、他の流派の使い手でも、一撃とはいえ鳳凰拳を見切れる者はそう多くはない。
それをこんな子供とも呼べる少女が見切ったのだから、ここは率直に賛辞の言葉が出ても不思議では無かった。

「さて、魔法というものがどういう物かは理解した。……そろそろ終いにするか」
『終いにする』。その言葉を聞いて、キュルケとタバサの緊張が最高点に達した。
眼光は捉えた獲物を逃がさぬ猛禽のそれ。例えるなら大空の王者『大鷲』。
手にする武器は、獲物を引き裂く猛獣の爪と同等かそれ以上。例えるなら百獣の王『獅子』。
空の王者と陸の王者。その二つを兼ね備えた帝王が牙を剥き出しにして悠然と迫ってきている。

サウザーが一歩進める毎にキュルケとタバサが一歩退く。
それを繰り返すこと十数度。遂には壁際へと追い詰められてしまった。

「どうした、もう退かぬのか?」
その問い掛けに呼応したかのように炎球と氷の矢が幾つも放たれたが、結果はさっきと同じだ。
殆どが最小限の動きのみで避けられ、避けられなかった氷の矢に至っては手で捕まれ投げ捨てられる始末。
少しすると、キュルケの杖から小さな炎が飛び出るとすぐに消えた。
タバサも同じようで、小さな氷の欠片がパキリと音を立てて地面に落ちると、それっきり何も起こらなくなった。

「……打ち止め」
「……みたいね」
ぽつりとタバサが小さく呟くと、キュルケもさっきまでとは違う調子を落とした声で同じように呟く。
追い詰められているという焦りもあったのだろうが、攻撃呪文を立て続けに唱え、魔法を使うだけの精神力が尽きてしまったらしい。
精神力が尽きれば、メイジも平民と違いは無い。むしろ、普段そういう状況になる事を想定していない者がほとんどなだけに平民以下かもしれない。

学生とはいえ、トライアングルクラスのメイジ二人を同時に相手して、僅かな傷一つで圧倒した男に恐怖心を抱かぬ者が居るはずがない。
観客のうち半数は広場から逃げ去り、もう半数はその場に膝を付き座り込んでいる。
この広場において、今現在立っているのはキュルケとタバサの二人だけ。
その光景は知らぬ者が見れば、王に平伏する平民のようにも見た。
後は、どこかの頭の薄い炎のメイジがサングラスをかけて『汚物は消毒だ』とでも言いながら炎を出せば完璧だろう。
彼がモヒカンであればより完璧なのだが、それだけの毛髪が無いので仕方ない事だ。憐れ。
若干、世紀末の世界が見えてきたが、サウザーは構わずに壁際の二人へと近付いていく。

――止めを刺す気だ。

さっき降参したはずのギーシュに無情にも『降伏すら許さぬ』と言ってのけたのだ。
広場の全員が同時にそう思うのも無理はない。

ワルキューレを一撃で粉砕した力で叩き潰すのか。
それとも、さっきのように十字に切り裂くのか。
どちらにしろ、ろくな結果は訪れそうにない。
精神力は尽きた以上打つ手はない。二人の中にどんよりとした絶望が広がっていった時
呪文の詠唱が、それも普段なら絶対聞きたくない声での詠唱が聞こえてきた。

「っぐぁ!なにィ!?」
その場に轟いた音は爆音。
サウザーを召喚した『ゼロ』の少女が唯一行使できる魔法。
本人はファイヤーボールのつもりだった爆発がサウザーの鳩尾を捉えていた。

吹き飛ぶサウザーを見てルイズとキュルケが一先ず安堵の息を吐いたが、タバサだけはまだ違っている。
「爆発の瞬間、後ろに飛んでいた」
風系統ゆえか、それとも生来の洞察力の鋭さゆえか、タバサだけはサウザーが後ろに飛び爆風の威力を弱めていた事を見ていたのだ。

後ろに飛んだとはいえ、爆風を受けてなお二つの脚で膝を付くことなくサウザーが止まった。恐ろしいまでのバランス感覚だ。
「次の相手は貴様か…」
ルイズを見下ろすサウザーは爆発によるダメージは然程受けていないようにみえた。
それでもルイズは怯むことなくサウザーを見返し言った。
「ええ、そうよ。あんたはわたしが召喚したの。これ以上好き勝手やらせないし、契約して使い魔になってもらうわ」
気のせいかもしれないが、ピシリとガラスにひびが入るかのような音がルイズを除いて聞こえたかもしれない。
トライアングルメイジ二人をも圧倒した男に使い魔になれと言い放ったのだ。
空気読めというより、もはや簡便してください。と思われても仕方ない事だろう。

「ちょ、ちょっとルイズ!あたしたち二人でもこの有様よ?『ゼロ』のあんたがどうにかできる相手じゃないわ、逃げるか先生でも呼んできなさいな!」
慌てたキュルケに同調するかのようにタバサも首を縦に振ったが、ルイズは動かず、むしろ二人に対して声を荒げた。
「嫌よ!いつも『ゼロ』『ゼロ』ってバカにされて、ここで契約もできずに逃げたりしたら、また『ゼロ』だから逃げたってバカにされるじゃない!」
「ああ、もう。そういう事じゃなくて――」
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないって事ぐらい知ってるでしょ?」
杖を握り締め、見下ろすサウザーを見据えルイズが叫んだ。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
ヴァリエール家の三女として生を受け、十六年間魔法が使えなかった少女の心からの叫びがそこにあった。

「この俺を前にして退かぬと言うか」
ルイズは答えない。ただサウザーが近付いてくる様子をじっと見ている。
「今なら秘薬に免じて許してやってもよいが?」
「使い魔の傷を見るのも主人の役目よ。許してもらう必要なんてないわ」
「そうか。では死ねぇィ!!」
サウザーの手刀がルイズを貫くべく一直線に伸びる。
キュルケが悲鳴をあげ、タバサが目を瞑った。

「退かぬか」
少しの好奇心を含んだ声がする。
見るとサウザーの手刀は、ルイズの服の僅か手前、薄皮一枚のところでピタリと止まっている。
「絶対に逃げない…!」
言い返すルイズの目は、手刀が向かってくる時もずっと見開かれていた
「くふ…ハハハハハハハ!我が南斗鳳凰拳を前にして、一歩も退かず、目も閉じぬとは気に入ったぞ!」
つい、とルイズの胸から手刀を離すと、心底愉快そうにサウザーが笑った。
「南斗六聖拳は皇帝の居城を守る六つの門の衛将だったと聞く。俺もしばらくはこの遊びに付き合ってやろう。クハハハハハハ!」
「手間かけさせるんじゃないわよ。契約するから、あんたしゃがみなさい。でかいんだし」
『契約』と聞いて、サウザーの笑いが止まり歩き出した。半ばルイズの期待を吹き飛ばすような形で。
「頭に乗るな。あくまで俺がお前を気に入っただけの事。俺を従えさせたくば力で捻じ伏せてみるがいい」

力こそが正義!いい時代になったものだ…。強い者が好きな物を手に入れられる。

南斗弧鷲拳のシンの言葉だが、世紀末の帝王も同じ思考である。
使い魔にはならぬが、あくまで対等として付き合ってやるだけかなり譲歩した方だ。
それに、ルイズを気に入ったというのもあるが、この世界を見極めるためにも当面は見に徹する必要がある。

それにしてもルイズが勝てば使い魔になると言った事は、少し前なら考えられなかった事だ。
ギーシュにしても、止めも刺していない。
ぬくもりを思い出したせいか、愛や情けというものが多少は戻ってきたのかもしれない。

広場からサウザーが立ち去ると、残されたルイズ達も気が抜けたのかようやく地面に座り込んだ。
「ルイズ…あんたホントとんでもないの召喚したって分かってる?」
「……彼、わたし達二人を相手にしても全然本気じゃなかった」
今さらながら、遊ばれていたという実感がキュルケとタバサの二人に沸き起こっている。
例えるなら、猫に遊ばれる鼠。というのが適切だろうか。とにかく、生き残ったという安堵感がそこにはあった。

が、その二人とは違い、当のルイズは怪しいオーラを撒き散らしながら独り言を言っている。
「ふ…ふふ…力で捻じ伏せてみろですってえ~……?上等じゃない…何様のつもりよあれ」
本人が聞いたら聖帝様だ!とでも返されそうだが、なにやら妙な迫力が今のルイズにはあった。
「ぜっっっったい!使い魔にしてやるんだから!」

他の二人ドン引きの中、ゼロの少女が空を見上げる。
全ては自分がゼロではないと証明するために。

ヴェストリの広場から少し離れた、誰も居ない場所。サウザーはそこに居た。
「魔法か…なかなかどうして、楽しめそうだが………」
拳法の修行もしていない、年端もいかぬような少女に一杯食わされたのだ。
これで本格的な修行を受けた高位のメイジならば、どれ程のものかと思ったのだが、こんな人気の無い場所に来たのには理由がある。

サウザーが喉元を押さえると、口からかなりの量の血を吐き出した。
「……ッ!がっ!…それにしても解せぬのは、…がはっ!あの小娘…ルイズとか言ったか……ごばぁっ!」
足元に血溜りができ、吐血が治まってもその息は荒い。
「凌いだはずのあの爆発……南斗鳳凰拳伝承者の俺の身体を以ってしても、これ程までに……!」
身体に違和感を感じたのはルイズに手刀を放つ直前。言い様の無い吐き気に襲われ、危うくあの場で血を吐きかけた。
それをしなかったのは、帝王のプライドのなせる業というものか。

爆風が直撃する瞬間、後ろに飛んで確かに凌いだはずだった。
人体の急所である鳩尾に貰ったとはいえ、後ろに飛び凌いだうえ、あの程度の爆発でこれ程のダメージは異常だ。
「この威力は……まるで拳王の……」
口元から垂れる血を手の甲で拭いながら、昔の出来事を思い出す。
かつて拳王が聖帝の領土に侵攻してきた時、ユダの策を用いて逆に拳王府を落とし、ラオウと対峙した時だ。

凌いだはずの北斗一点鐘。北斗神拳が利かぬこの身を以ってしてもかなりのダメージを受けた。
その時とほぼ同等のダメージが、今サウザーを襲っている。
「おのれ……今しばらくは、あの爆発の正体を見極める必要があるな……」

呼吸を整えると世紀末の帝王が天を見上げる。
全ては鳳凰が再び天へと羽ばたくために。


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