あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-07


 アルヴィーズの食堂は上の階が大きなホールになっていて、舞踏会はそこで行われていた。
 そこでは、着飾った生徒や教師が歓談しダンスを踊っている。
 そんな中で、ルイズは一人つまらなそうに壁の花になっていた。
 ホールの中央ではキュルケが多くの男性に囲まれて談笑している。ルイズに声をかけてくる男もいるが、今の所ルイズには男にちやほやされて喜ぶ趣味は無い。タバサのように、テーブルに盛られた料理を制覇しようと、食事を続ける気もない。
 そんなわけで、ルイズは暇をもてあましていた。
 アプトムでもいればいいのにとも思うが、舞踏会に使い魔を連れて行く奴がいるのか? と本人に断られてしまった。
 あの使い魔は、今なにをしているのかなぁと思っている時、件の使い魔は学院の敷地外にいた。


「あの。わたくしに話があるというのは、いったい……」

 そう尋ねたのは、パーティドレスに着替えたミス・ロングビルである。彼女は舞踏会が始まる前に、アプトムに呼び出されて学院から少しはなれた森の中にいた。
 用件は、フーケのことでいくつか確認したい事があるから。
 そんな用件で学院外に呼び出すなど、無視してもよさそうなものだが、何故か、ロングビルは魔法を使って衛兵にも見つからないようにして城壁を越えてきていた。
 そんな彼女に、同じように衛兵に見つからずに出てきたアプトムは、ロングビルではなく左手に持った鞘に収まったままのデルフリンガーと手の甲のルーンを見ながら口を開き。

「フーケ。おまえは、なにがしたかったんだ?」

 そんなことを言った。

「あの……。なにを言ってるんですか?」
「『破壊の杖』を盗んだと思ったら、自分で隠し場所を教える。生徒三人が取り返しに行くと言ったら自分もついていく。何がしたいのかと監視していたら、何もしないで帰ってくる。何がしたかったのか、さっぱり分からん」
「だから、あなたは何を言ってるんですか?」

 困惑し問いかけるロングビルであったが、アプトムは気にせずに続ける。

「言ってなかったが、俺は目がよくてな。おまえが、宝物庫の壁を破壊したゴーレムの肩に乗ってた時に顔を見ている」
「……フーケはフードで顔を隠していたはずですけど?」
「あの時は、日が暮れて普通でも見通しが悪かった。そんな中で深くフードを被っていては、盗賊と言えどゴーレムを操ることも宝物庫で目的のものを見つけることも難しかった。だから、お前は顔を隠しきれていなかった」
「その暗さとあの距離で顔が見えたと? ミス・ヴァリエールには、黒いローブを着ていたとしか分からなかったはずですが」
「言っただろう。目がいいと」
「……もし、あなたの言う事が本当だったとして。どうして、そのことを今まで話さなかったんですか?」

 話していれば、わざわざ廃屋までいく必要などなくフーケを捕らえられていただろう。そう言うロングビルにアプトムは、自分の方が怪しいからだと答える。

 魔法を一度も成功させたことの無い『ゼロのルイズ』が召喚した、前例の無い『平民』の使い魔。その使い魔は、ドットやラインとはいえメイジを圧倒する戦闘力を持ち、主が授業を受けているときは、どこで何をしているのか分からない。そして、その男がやってきて一週間後には『土くれのフーケ』という盗賊が現れて、その場にも男は居合わせた。

「自分で言うのもなんだが。ここまで怪しい奴は、そうはいない」

 こんな怪しい男が、学院長秘書を指してフーケだと言って誰が信じるだろう。だから言わなかったのだ。

「なるほどね。それで私をフーケと知っていたあんたは、ご主人様に私が悪さをしないか監視してたってわけかい?」
「そうなるな」

 アプトムの答えにロングビル、フーケは嗤う。つまり、自分は道化だったということ。

「ふざけんじゃないよ!」

 怒りと共に言葉を吐き出すと、彼女はルーンを唱え杖を振る。
 それは、彼女がもっとも得意とする巨大ゴーレムを作る魔法。土から生まれたゴーレムは創造者の意思に従い拳を振るいアプトムを襲う。
 だが、アプトムも黙ってゴーレムに殴られはしない。鞘を捨てデルフリンガーの錆びだらけの刀身を抜き、そこから飛びずさる。

「そんなボロ剣で私のゴーレムに勝てると思ってるのかい!?」

 馬鹿にしたように叫ぶフーケにアプトムは答えない。その余裕が無い。
 彼の左手に刻まれたルーンには、その身を戦闘に最適化させ身体能力を向上させる機能がある。その結果ゾアノイドに対しては獣化を促すわけだが、獣化を抑えた場合、身体能力の向上だけを得られるかもしれない。そう思ったからここにデルフリンガーを持ってきた。その予想は当たっていたのだが、思った以上にその身を獣化させようと干渉してくる力が強い。干渉を遮断しすぎれば身体能力を向上させる恩恵も遮断することになるし、ルーンが発動している間は常に獣化を抑える方に意識を回さなくてはならなくなる。

「つくづく使えない能力だ」

 呟きながらゴーレムの拳を避け、その腕に剣を振るい続ける。剣はゴーレムの腕を何度も切り裂くが切断するには及ばず、その傷はすぐに塞がってしまう。
 デルフリンガーは長い刀身を持つ剣だが、巨大なゴーレムの腕や足を切断したければ、刃を完全に埋めるくらいはしなくてはならないだろう。現在のルーンの干渉に抗っている状態では難しい。いっそ剣を捨ててしまうか? いや、それよりも……。そう思った時、足がぬかるみに沈んだ。
 そんな物は無かったはずだと思ったアプトムに、フーケの嘲笑が投げかけられる。

「油断したね! 私は土メイジだよ。ゴーレムを作るだけが能じゃないのさ」

 つまり、これはフーケの作った罠。そう気づいたときには、もう遅い。膝まで沈んだ泥は、固まりアプトムの動きを封じる。
 アプトムの力なら、少しの時間があれば、そこから抜け出すのは難しくない。だが、そんな少しの時間をすらフーケは与えるつもりが無い。
 動きを封じられたアプトムに、三十メイルの巨大ゴーレムが、その質量の全てを込めた右拳を振り落とした。
 静かな夜であれば、学院の人間が異常を感じたであろう轟音が響き土煙が舞う中、ドレスがよごれちまったね。とフーケは笑う。
 それは、勝利を確信したがゆえの笑み。あの男がどれほどの力を持っていようと、あの質量で潰されて生きていられる生物などいない。そう思ったから。
 だが、砕かれたのはゴーレムの拳。その生き物は、傷一つなくそこに立っていた。

「なんだよ。あのバケモノは」

 そう呟く先にいるのは、先ほどまで人間の姿をしていたはずの者。二メイルを超える身長の人間に、昆虫の黒い甲殻を装甲に見立てて隙間なく貼り付けたような怪人。
 彼女の妹が召喚した少年が変身した怪物よりは小さく見えるが、その戦闘力は怪物に劣るものではあるまい。
 まずい。とフーケは思う。あの男は今まで正体を隠し本気を出していなかった。本気を出されては巨大ゴーレムでも勝てる保証は無い。いや、さっきの一撃で殴り負けたことを考えればもう勝ち目はないと考えたほうがいい。

「逃げようなどと考えるなよ。お前の出せる全力を出してかかって来い」

 内心の考えを読まれ、フーケは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
 勝ち目がないのが分かっているのに逃げることが許されないなどと、それはなんという罰ゲーム。
 だが、怪人のいう事を無視したところで、逃げ切るのは無理なのだろう。ならば、全力で怪人を倒すしかない。
 フーケは、ゴーレムに命じ攻撃をしかけさせ、自身もアプトムやその周囲に魔法をかけて援護をする。
 土ゴーレムの拳では、あの怪人に傷を負わせることはできない。ならば、と砕かれた拳を再生させ、それを錬金で鋼鉄に変える。
 だが、当たらない。変化して正体を現した怪人はパワーだけでなくスピードも増している。それに、拳だけを鋼鉄に変えるとバランスが悪くなって動く相手を上手く捕らえられない。

 ゴーレムの拳は空を突き、何もない地面を陥没させるだけ。
 踏み潰す。そんな事を思いつき実行してみたが、そんな緩慢な攻撃が当たる相手ではない。
 足元を錬金で泥に変える作戦ももう使えない。見抜かれているからというのもあるが、怪人は背中に昆虫のそれのような翅を持っていて、それを開き自由自在に空を飛ぶ。そんな相手に足元への攻撃がなんになる。ゴーレムは当たらぬ攻撃を繰り返し、逆に怪人の拳や蹴りをくらい何度も砕かれる。
 ゴーレムは、砕かれるたびに、その部分を再生させて怪人に殴りかかる。そんな事を繰り返すうちに、怪人は地に降り足を止める。
 怪人の意図がどこにあるかなどフーケは知らない。知る必要も感じない。足を止めた怪人に鋼鉄の拳を振り下ろさせる。そして、怪人は……。

「ちくしょう……」

 漏れる呟きは、絶望の色に深く染まっていた。
 怪人が足を止めたのは、鋼鉄の拳に正面からぶつかり、それを砕く意思のゆえ。怪人は、鋼鉄の拳に自身の拳を打ちつけ、鋼鉄の拳はその一撃に耐えたが、それを支える手首が耐えられず砕け落ちた。

 最初から勝ち目などないと分かっていた闘いではあった。だが、彼女は負けられない。彼女には養わなければならない家族がいる。盗賊などをやっているのも、そうでもしないと、それだけの金が手に入らないからだ。いや、学院長の秘書をやり始めてからは、盗賊を続けなくてなんとかやっていけるだけの給料が入っているのだが、とある事情から貴族を嫌っている彼女の心は、貴族の通う学院で働く自分に嫌悪感を感じてしまう。ムカつくセクハラ学院長もいるし。こんな所で捕まるわけにはいかない。いや、正体を見せたという事は、怪人は自分を殺そうとしているのかもしれないが、それもごめんだ。

 だから、彼女は精神力を振り絞る。譲れぬ想いがあるのだから。
 何故か、この時フーケの眼に、目の前の怪人が妹の召喚した使い魔の変じた怪物と重なった。同じく人の姿から変じたものだとはいえ、その姿には大きな違いがある。あの怪物に比べてこの怪人はスマートで洗練された姿であると感じられるもので、また理性的である。それでも、両者は同種のものであると彼女は感じ。そして、排除しなくてはならないと確信する。

 時に、強い感情はメイジのランクを引き上げるのだという。フーケの負けられないという想いが彼女の実力を上げたのだろうか。拳だけでは足りないというのなら全て鉄に変えればいい。そう考えた彼女が、残る精神力を振り絞った魔法はゴーレムの全身を鉄に変えた。自分のために、妹のために。

 それでも、結局の所、結果は変わらなかった。土が鉄に変わっても怪人には同じことだった。怪人との、圧倒的な実力差が縮まることはなかったのだ。
 一方的な、しかし決着のつかない戦いが、フーケの主観で何時間続いただろう。
 決着がつかないのは、フーケの実力とは関係がない。ただ単に、怪人がフーケを相手にせずゴーレムだけを攻撃していたから。怪人に戦い
を終わらせる気がなかったから続いていた。ただそれだけの茶番。

 徒労感というのは、これの事なんだろうね。とフーケはため息と共に吐き出す。正体を現した怪人を相手にフーケの攻撃はまったく意味を成さなかった。一時の激情もすでに絶望に塗り替えられている。
 ゴーレムの攻撃は怪人が自ら受けようと考えない限りかすりもせず、怪人の拳や蹴りは容易くゴーレムを砕く。援護の魔法を使う精神力などもうない。どのみちゴーレムの拳を正面から受けて破壊するような相手に有効な魔法などフーケにはないのだが。

「こんなものか」

 そんな呟きが聞こえたと思った時、怪人は右腕をゴーレムに向けていた。
 右下腕部の装甲が開くと、そこから無数の何かが飛び出しゴーレムの全身に着弾する。
 地球の人間が見ればミサイルだと思うだろうそれは、戦闘生物であるアプトムが、体内で生体ミサイルを精製するゾアノイドを吸収し手に入れた能力。
 生体ミサイル群は、着弾と共に爆発しゴーレムを跡形もなく破壊しつくす。

「なんだよ。いまのは」

 呆然と呟くフーケに、アプトムは自分の持つ能力の一つだと答える。それは、つまり今の攻撃はまだ、この怪人の全力ではないということ。
 こんなバケモノにケンカを売った自分の馬鹿さ加減には呆れるしかない。

「もう。終わりでいいんだな」

 もう精神力も打ち止めなので頷くと、アプトムは獣化を解き元の左の顔に傷跡を残す男の姿に戻る。

「それで、お前は何を考えていたんだ?」

 それは、最初に言われた問いだったが、一瞬何を聞かれたのか分からず困惑する。
 アプトムが尋ねたフーケの行動には、大した理由はない。破壊の杖を盗んだのはいいが、使い方が分からない。自分で使うにしても売るにしても使い方が分からなくては、意味がない。そこで考えたのが学院関係者に使わせること。捜索隊に使い方を知っている者がいればゴーレムをけしかければ使うだろうから、それをみて覚えればいい。いなければ全員始末して次を持つ。それだけの理由。

「馬鹿な事を考えたものだな」
「まったくだよ。正体を知ってる奴が捜索隊にいたんじゃ、なんにもなりゃしない」

 投げやりに言うと、そうではないと返ってくる。いわく、アプトムは破壊の杖の使い方を知っているのだが、あれは一度しか使えない。一度使えば何の役にも立たなくなるのだから、一度使わせようというフーケの作戦は、そこで破綻している。

「じゃあ、私のやったことは……」
「骨折り損のくたびれもうけというやつだな」

 それだけ言うと、もう用事は済んだとばかりにアプトムは立ち去ろうとする。

「ちょっと待ちなよ。私を捕まえなくていいのかい?」
「なぜだ?」

 不思議そうに、アプトムが問う。
 結局の所、フーケが自白したといっても、この場にいてそれを聞いたのがアプトムだけである以上、そこに意味は無い。何しろさっき言ったように、アプトムはロングビルなどよりはるかに怪しいのだから。それに、アプトムにはフーケがこの先も盗賊を続けようがどうしようがどうでもいいのである。捕まえようなどと思うはずがない。
 ここに、彼女を呼び出したのは、単に確認したかったことがあっただけである。

「私が、何を考えてるのを知りたくて呼び出したってわけ?」

 それこそ、どうでもいいのではなかろうかとフーケは思う。そして、その通りアプトムにとって、それはついでに聞いてみただけのものでしかない。
 アプトムが確認したかったのは、トライアングルメイジの実力である。自分の役目は主である少女を守ることであるし、今後のことを考えると知っておいて損はないだろう。もう一つ、ガンダールヴのルーンの能力の確認もあったが、そちらは言う気がない。

「じゃあ、あんたは私の事を学院に報告する気はないって事」
「そんなことをして、俺になんの得がある?」

 あっさりと答えるアプトムは、しかしもう学院の物を狙うのは止めておけと告げる。さすがに犯行現場に居合わせてしまえば、ルイズが黙ってないだろうから自分も捕まえる側に回らなくてはならないから。
 もう一つ、地球に帰ることに協力してくれると申し出た学院長に迷惑をかける行為を見過ごすわけにはいかないという理由もある。本人は気づいていないが、彼には義理堅いところがある。

「もう一つ質問。あんたは変化できることを隠してるんだろ? 私がこのことをバラしたらどうするつもりだい?」
「自首でもする気か?」

 アプトムの獣化のことを話そうと思えば、彼女は自分がフーケである事を話さなくてはならなくなる。そこまで馬鹿ではないだろう?
 そう言って今度こそ立ち去ろうとするアプトムに、またフーケが声をかける。

「ちょっと待ちなよ。あんた、その格好で学院に戻る気かい?」

 ゴーレムとの戦闘で獣化したアプトムは、現在全裸であった。

「そりゃあ、学院の警備はザルだけどね。それでも、万が一ってことがある。その格好が見つかったら、あんたもう学院には置いてもらえないよ」

 だから、自分が着替えを持ってきてやるとフーケは言う。
 何故フーケが、そんな事をする気になったのかと疑問に思ったが、どうでもいいかとアプトムは思い直す。相手の考えなどというものを考えていては深入りしてしまう。それは、地球に帰ることを最優先にしている彼には好ましくない。
 フーケの方はといえば、なんだか馬鹿馬鹿しい気分になっていた。自分の計画がまったく意味の無いものだったり、打倒すべきバケモノが自分のことなど眼中になかったりで、気が抜けてしまっていた。だからまあ、この男から会話で一本取れればそれでいいやと投げやりな考えになっていたのだった。
 かくして、二人は森の出口まで一緒に歩き、そこで分かれてフーケはアプトムの着替えを取りに行き、アプトムはそれを待つことになる。


 そして、二人の立ち去った少し後の森に、青い翼を持つ風竜が舞い降りた。
 シルフィードという名を持つこの風竜は、主である少女と一緒にいるとき以外は常に暇をもてあましていた。
 暇をもてあまし、空を飛んでいた時、彼女は森の方から爆音を聞いた。なんだろうとそこに行ってみると、そこには人の姿がいないのに声が聞こえた。
 かくれんぼでもしているのかなと舞い降りたとき、その声の主と彼女は出会った。

「ひでーよ。相棒。いくら素手で充分だからって戦闘中に捨てたあげく、忘れていくなよ。杖の捜索の時は置いて行くしよー」

 それはデルフリンガーと名乗る剣。蔑ろにされすぎて口が軽くなっているこの剣と、風竜の出会いが何をもたらすのか、今はまだ誰も知ら
ない。


新着情報

取得中です。