あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-06


 その日、トリステイン魔法学院は朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎの舞台になっていた。
 それは、学院の宝物庫に保管されていた『破壊の杖』と呼ばれる秘宝が奪われたからである。
 犯人は、土くれのフーケを名乗る盗賊。彼の怪盗は巨大なゴーレムを操り、その拳で宝物庫の外壁を破壊して進入、目的の物を盗み出すと壁に『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』とメッセージを残して立ち去っていた。

 土くれのフーケと言えば、最近この国の貴族の財宝を荒らしまわっていると有名なので、学院の教師にもその名を知る者は少なくない。とはいえ、知られているのは通り名だけなのが現状であり、今までの被害者同様学院側の誰もが手がかりを掴めておらず。現場である宝物庫に集まった教師たちのすることといえば、ただの責任の押し付け合いであった。

「衛兵はいったい何をしていたんだね?」「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」「当直なのに、ぐうぐう自室で寝ていましたぞ!」「マジか!」「サジだ!」「"シュヴルーズは"許さんぞ"シュヴルーズ"!!」

 かくして、怒声の響く宝物庫にて、生贄の羊は決定した。

 キュルケ・フォン・ツェルプトーという少女がいる。
 寮では、ルイズと部屋が近く、なにかとちょっかいをかけている少女である。
 彼女に、ルイズの事をどう思っているのかと尋ねたならば、おそらくこう答えるだろう。『人間ビックリ箱』と。
 実際ルイズという少女は、遠くから見ている分には面白い相手だった。
 優秀なメイジを多く輩出しているヴァリエール公爵家の生まれであり、誰よりも真摯に魔法に取り組み、座学では優秀な成績を修めているのに、いざ実習となるとまるで魔法が使えない。

 いくらなんでも、ここまでやるものだろうかというほど努力しても、それが実らない。
 全ての努力が徒労に終わっているのに、あきらめない。
 貴族は総じてメイジであり、魔法の使えない者は貴族と見なされないハルケギニアでも、特にこの傾向の強いトリステイン王国に生まれ育った魔法の使えない貴族でありながら、卑屈になることなく、侮辱に対しては真正面から反論する。度が過ぎてヒステリックではあるが、遠くから見ている分には、それも面白い見世物である。
 なので、キュルケは暇な時や気が向いた時にはルイズをからかう事を娯楽の一つにしていた。

 だから、使い魔召喚の儀式の日も、キュルケは夜も眠れず朝寝過ごすほどにワクワクしていた。自分が呼び出す使い魔の事が気にならなかったわけではないが、メインはルイズの使い魔である。あのゼロのルイズは、こちらの予想を裏切って物凄い幻獣でも呼び出してくれるのだろうか? あるいは、更にその予想を裏切って何の役にも立たないミミズとかを呼び出してくれるのか? どちらにしろ楽しみな事であった。
 残念なことがあるとしたら、ルイズとはクラスが違うので、召喚の場に居合わせての見物が出来ない事だったが、まあそのくらいは我慢し
よう。
 その後、進級と共に、同じクラスになるのだが、それは翌日の話である。
 ともあれ、ルイズが呼び出した使い魔が予想のどちらとも違う平民だったと聞いたときは、さすがはゼロのルイズだ期待を裏切らない。と爆笑したものである。
 そう。ルイズとは、キュルケにとってそれだけの価値しかなかったはずである。
 なのに何故、自分はルイズの使い魔が人間ではないと聞いた時、危険な者ではないか確認しようとしたのか。何故、危険だと思ったときルイズから引き離す方法がないかと、頭を悩ませたのか。何故、破壊の杖が盗まれる現場に居合わせたからという理由で、ルイズが教師達と共に現場にいると聞いて、いても立ってもいられず、宝物庫の扉の前まで来て、聞き耳を立てているのか。

 彼女には、自分が分からない。来るときに、ついでに首根っこを掴んで持ってきた親友が聞けば、お節介で面倒見がいいから。と答えたかもしれないが。
 そんなキュルケの葛藤には関係なく、宝物庫内では話が進んでいく。
 最初、責任の押し付け合いで始まった会議は、当時の当直であったシュヴルーズの吊るし上げ大会に移行し、その時になって学院長秘書のミス・ロングビルが宝物庫に駆け込んで行った。
 途中、扉の前で聞き耳を立てていたキュルケとタバサを訝しげに見ていた気がするが、気のせいだろう。きっとそうだ。

 駆け込んできたロングビルに、教師の一人が、どこに行ってたのかと問うと、彼女は調査に出かけていたと答えた。
 いわく、朝起きたら大騒ぎになっていて、それがフーケの仕業と知ってすぐに調査を始め、フーケの居所を突き止めてきたとのことである。

「仕事が早いのぉ」

 などと、オールド・オスマンが呟くが、早すぎるだろう。常識的に考えて。とは誰も思わない。人間非常時にはうまく頭が働かないものである。

「近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません」

 ルイズが叫ぶ。彼女は、昨夜ゴーレムの肩に乗った黒いローブを着た人影を見ていたのだ。ちなみに、その隣でどうでもよさそうな顔で立っているアプトムには、フードからこぼれた長い髪なんかも見えていたのだが、特に口にしようとは思わない。彼にとって、これは自分とは関係のない事件なのだ。そうでなければ昨夜その場でフーケを捕らえていただろう。彼には、それを可能にするだけの力があるのだから。
 だが、彼がそう思っていてもルイズはそうではない。
 話は、王室に連絡しよう。いや、貴族の名にかけて自分達でフーケを捕まえるべきだ、という流れになり、捜索隊に志願する者を募った時、ルイズだけが杖を掲げて志願していた。

 ルイズは責任を感じていた。フーケが宝物庫の壁を破壊した時、壁はルイズの爆発魔法でヒビが入っていたのだ。しかも、その魔法を使った理由がただの勘違いからきた感情の爆発だという事も、今は理解している。
 今にして思えば、何故あの時、アプトムがミス・ロングビルと二人して自分を馬鹿にしているのだと思ったのかも、分からない。
 ただ単に一週間かけて少しずつ溜まっていったストレスが、その吐き出し先を求めて、その思考を感情を爆発させやすい方向に誘導していただけなのだが、そんな事が分かるほど自分を客観視できているわけもない。

 分かるのは、破壊の杖が盗まれたのは自分のせいだという事実だけ。だが、その事実を口にしたところで、誰も彼女を責めない。そんなに自分を責めなくてもあなたのせいじゃないと気遣われさえする。
 教師たちからすれば、スクウェアクラスのメイジがかけた固定化の魔法に守られた壁が生徒の、こともあろうにゼロのルイズの魔法くらいでどうにかなると考えるわけがないのだから、ルイズを責めようはずがない。だが、それが分からなかったルイズは責任を取ろうと考え、そして捜索隊に志願したのだった。

「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も志願しないじゃないですか」

 注意してきたシュヴルーズに言い放つ。どのみち責任を取らなくてはならないと考えていたが、破壊の杖の捜索に誰も志願しないとあれば、自分が行くしかない。ルイズはそんな風に自分を追い詰めようとする。
 その時、杖を掲げてキュルケとタバサが宝物庫に入ってきて、自分たちも志願すると言ってきた。

「ヴァリエールだけにいいカッコさせる気はありませんわ」

 そんな事を言うキュルケだが、それが理由でないだろう事は流石に自覚していたし、隣のタバサにも見抜かれていた。ルイズは気づかなかったが。
 そうして、あれよあれよと言う間に、ルイズはキュルケ、タバサ、アプトム、ロングビルと共に破壊の杖捜索に出かけることとなった。
 やはり、アプトムの意志とは関係なく。


 御者をかって出たロングビルが手綱を握る馬車に乗って、一行はフーケの隠れ家だという廃屋に向かっていた。
 徒歩で半日、馬で四時間という距離なので道中は暇である。ので、暇をもてあましたキュルケがロングビルに話しかける。

「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」

 笑いながらの答えるロングビルに、キュルケはきょとんとする。

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族だ平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 興味津々と顔に書いて尋ねるキュルケに、差しつかえありますと口に出しては言わないが、態度には出してロングビルは曖昧に微笑む。
 しかし、そういう態度を取られるとかえって知りたくなるのがキュルケという少女である。

「いいじゃないの。教えてくださいな」

 にじりよるキュルケだったが、その肩をルイズが掴んだ。

「よしなさいよ。昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」
「暇なんだもの。おしゃべりくらいしててもいいでしょ」

 つまらなそうに鼻を鳴らす。黙って馬車に乗っているだけの時間を、何時間も続けられる忍耐はない。本を読んでいられれば幸せな親友とは違うのだ。とタバサを見て。しかし、この揺れる馬車の上で本なんか読んでてよく酔わないなと感心する。

「暇なら、作戦でも考えればどうだ?」

 そう言ってきたのは、ルイズの使い魔だった。
 キュルケは、この男に対する警戒心をまだ解いてない。どうやらロングビルも、なにやら警戒しているらしい。タバサは、どう考えているのか分からない。ルイズは、信用しているらしい。どういう意図があっての言葉なのかと、探るように「作戦って?」と問いかけてみる。
 問いかけられたアプトムは、その言葉に呆れる。彼らは、盗賊の捕縛に行くのだ。相手が黙って捕まってくれるはずもなくなく、おそらくは戦闘になるだろう。となれば、あの巨大なゴーレムをどう攻略するかの作戦を立てるのは必須である。
 もっとも、それ以前に隠れ家だという廃屋にフーケがいる保証などない。というか、まずいないだろうとアプトムは思っているが。

「いないって、どうして?」

 そう尋ねるのは、この一行の中でただ一人アプトムに含むところのないルイズ。
 そんな彼女にアプトムは答えて告げる。
 ようするに不自然なのだ。学院の宝物庫が襲われた翌朝に、森の廃屋に入っていった黒ずくめの男を見かけたという農民が現れる。フーケの正体が男か女かも分かっていないのに、馬で四時間もかかるような距離で見かけられただけの男を、大した根拠もなくフーケと関連づけて考える。

「つまり、どういうこと?」

 ルイズの問いに、偽装だ。とアプトムは答える。
 おそらくは、その農民と言うのは追っ手を遠ざけるためにフーケに金を貰って偽りの証言をしたのだろう。もしくは、そんな農民は最初からいなくて、フーケの仲間か手下が変装してロングビルを騙したとも考えられる。

「仲間か手下ですか? フーケに仲間がいるだなんて聞いた事がないのですが……」

 なんだか引きつった表情で、ロングビルが言う。お前は騙されたのだと言われたようなものなのだから当然か。

「聞いた事がないからといって、いないと決め付けるのは早計だ。盗みに入るという行為には、調査、計画、準備、実行、逃走の段階を踏む必要がある。それを全て一人でこなしていては必ず破綻がくる。国中で有名になっていて、いまだ破綻してないということは、単独犯ではないと考えるべきだ」

 いや、単独犯なんですけどね。などと言うわけにはいかないミス・ロングビル。別名、土くれのフーケは引きつった顔のまま、そうですかと相槌を打つ。

 ルイズからは感心の、キュルケからは何故そんな事に詳しいのかという疑いの眼を向けられながらアプトムは、それにと続ける。
 仮に、この考えが的外れなものであったとしても、やはり未だにフーケが廃屋にいる可能性は低い。フーケが、廃屋で寝泊りしていたり、そこを盗みの拠点としていたなら、その黒ずくめの男は何度も目撃されていただろうし、それでは農民はそこを廃屋とは言うまい。となれば、フーケは一時的に廃屋に立ち寄っただけと考えられるし、そうでなくても仮にも怪盗と呼ばれる者が農民に姿を見られた事に気づかなかった
とは考え難い。
 さて、ここで問題だ。徒歩で半日。馬で四時間かかる場所で目撃されたフーケと思しき男の情報が学院に届くまでの時間と、一行が廃屋に着くまでの時間を足すと何時間になるだろう。そして、その間フーケが待っていてくれる可能性はどれほどあるだろう。

「じゃあ、わたしたちって無駄足?」

 意気込んで出かけたら、フーケはとっくに逃げた後でした。というのは、さすがに情けなさすぎではないか。

「とは限らない」

 続けて、アプトムは言う。廃屋にまっすぐ向かったならば無駄足になるだろうが、それならばフーケらしき男を目撃したと言う農民に会えばいい。
 情報が偽りなら、その農民はフーケかその仲間と接触しているか、フーケの仲間そのものであるし、偽りでなかったとしても、何か新しい情報を持っている可能性もある。つまり、先に行くべきは、廃屋ではなくロングビルが話を聞いたという農民の所である。
 言い切ったアプトムに、ロングビルがなんだか慌てたように言い立てる。

「いや、でも、もしかしたら、まだ廃屋にいるかもしれないし、それなら急いだほうがいいのでは……」
「すでに何時間も経っている。いまさら、廃屋に急いで行っても何も変わらないだろう」

 でも、その、となにやらゴニョゴニョ言っているロングビルに助け舟を出すように、今度はキュルケが口を開く。

「でも、一時的にでも廃屋にいたのなら、何か手がかりが残っててもおかしくないんじゃない?」
「そうです。それに、ひょっとしたら、廃屋には盗んだ破壊の杖を隠すために立ち寄ったという事も考えられます!」
「その可能性は低い。それに、そうだとしても、それなら後回しにしても問題ない」

 もっともだなあ。とルイズは思ったが、絶対にフーケを捕まえて破壊の杖を取り戻さなくてはならないと考える彼女は、この絶望的な状況から、アプトムの推理では、もう逃げてしまっているフーケを捕まえる手段を模索しなくてはと頭を空回りさせる。

「二手に分かれればいい」

 そう言ったのは、読書に集中していて話を聞いていなかったと思われていたタバサである。

「農民に話を聞くのは重要。でも、できれば廃屋も調べておいたほうがいい。なら、二手に分かれたほうがいい。フーケがもういない可能性が高いなら戦力の分散も気にしなくていい」
「分散して、フーケがいたら? 相手はトライアングルクラスのメイジらしいから、分散してたら返り討ちにあうかもしれないわよ」
「すぐに逃げて、もう一方に知らせに行く。シルフィードが追いかけてきてるから、あの子に乗ればすぐに合流して追いかけられる」


 キュルケの問いに答えて名前を挙げたシルフィードとは、タバサが使い魔として召喚した風竜の幼生で、これに乗れば、馬などよりはるかに速く移動することができる。
 最初から馬車じゃなくて、それに乗ってくればよかったんじゃないかとルイズは思ったが、さすがに人間五人が乗るのは窮屈だしシルフィードも嫌がる。ついでに言えば、タバサはキュルケの付き合いで来ただけで捜索に積極的ではなかった。

「それじゃ、そうしましょ。それで、どう分かれようか?」
「では、わたくしは廃屋の方に……」

 まとめに入ったキュルケにロングビルが言うが、アプトムが待ったをかける。

「フーケらしき男を見た農民を知っている、唯一の人間が廃屋の方に行ってどうする?」
「しかし、もし廃屋に破壊の杖が残されていたとしたら、わたくしがいかないと、それが破壊の杖だと分かりませんし……」
「ああ、わたし分かるわよ。宝物庫の見学したとき見たから」

 そう言ったとき、キュルケはうなだれるロングビルから、ほとばしる殺気を感じたような気がしたが、すぐに気のせいだと思い忘れた。

「わたしたちは、廃屋に行きましょ」

 少しでも、フーケと直接対峙できる可能性の高い廃屋に行きたいルイズは、そうアプトムに言うが断られる。
 廃屋の方には、風竜とその主であるタバサが行かなければならない。本当にフーケがいた場合、すぐに合流するためには風竜に乗って移動しなくてはならなくなる廃屋に行く方の人数は少ないほうが望ましい。というのがアプトムの考えであるし、可能性は低いが廃屋のことを証言した農民がちゃんといてなおかつフーケの仲間であるということもありうる。その場合、戦闘になるかもしれないので、ロングビルを一人で行かせるわけにはいかないだろう。
 なるほどと納得したルイズは悩んだ後、廃屋に行く方を選ぶ。
 フーケと直接対決して、自分の力で捕まえたい。そして、自分をゼロと馬鹿にした皆を見返したいという救いがたい心の赴くままに。もちろん、どうやって捕まえるのかという考えはない。


 二手に分かれた後、シルフィードに乗って深い森に入ったルイズたち三人は、開けた場所にある廃屋を見つけた。
 元は、木こり小屋だったらしいそこは、なるほど人が住んでいる痕跡がなく、長らく誰かが、そこを生活の場にしたことなどないのだろう事が伺える。

「あれが、ロングビルの言ってた廃屋ね。ホント、アプトムの言ったとおり誰もいなさそうね」

 忌々しそうに言うルイズを気にした様子のないタバサは、シルフィードに地上に降りるよう命じる。

「汚い小屋ねえ」

 調査するには、そこに入らなくてはならないのだが、一歩でも足を踏み入れれば埃が舞いそれを呼吸しなくてはならないであろうそこに入るのは、キュルケにはためらわれた。
 だが、タバサの方は、その手の忌避がなかったので、無造作に小屋に入って行った。ルイズは、見張りを買って出たので小屋には入らない。そして、小屋のチェストから、破壊の杖はあっさりと発見された。


 狐につままれたような顔のルイズたちがアプトムたちに合流したのは、それからすぐのことである。
 実際彼女たちは訳がわからなかった。偽の情報かと疑いつつも行った先には、人の姿など影も形もなく、盗まれた品物だけが隠すでもなく無造作に仕舞われていた。
 フーケがいるのではないかと、少し周りを調べてみたが、やはり人の気配などはない。
 合流してみれば、ロングビルが話を聞いたという農民は見つからず、他の農民に尋ねてみても、この辺りにそんな農民は住んでいないと言われた。
 それはロングビルが話を聞いた農民というのが、フーケの仲間だったのだろうという推測が事実であろうという証明になったわけだが、それで廃屋に盗品を置いておくというのも意味が分からない。
 一体なんだったんだろうと、一行は首を捻りながら学院に帰ることになったのであった。

 その道中、破壊の杖を見たアプトムが少し眉をひそめ、同じくロングビルがアプトムを強く睨んだのだが、幸いにも、どちらにも誰も気づかなかった。


「ふむ……。つまり、なんじゃね。フーケがいるという廃屋に行ってみたら、破壊の杖だけがあってフーケは影も形もなく、ついでにミス・ロングビルが話を聞いた農民もいなくなっていたというわけかね?」

 学院長室にて、帰ってきた一行の報告を聞いたオスマンが、納得がいかないとばかりに首を捻る。
 しかし、納得がいかないのは自分たちも同じなので、ルイズたちも釈然としない表情で頷く。

「フーケは、一体なにがやりたかったんじゃろうのぉ?」

 オスマンが誰にともなく呟くが、それはルイズにもキュルケにもタバサにも分からない。ホントにねえ、私は何がやりたかったのかしら。と心の中で呟く虚ろな目の女性が約一名いたが、幸い誰にも気づかれることはなかった。

「まあ破壊の杖が帰ってきただけで良しとしよう。今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この騒ぎのせいで、一時は中止にしようかとも思ったが、予定通りに執り行うとしよう」
「そうでしたわ! 忘れておりました!」

 すっきりしない表情をしていたキュルケの顔が輝く。良くも悪くも気持ちの切り替えの早い娘なのだ。

「行くわよ。二人ともわたしが、可愛くコーディネートしてあげるわ」
「ちょっ、なんで、わたしまであんたなんかに……」
「いいから、いいから」

 馴れ馴れしく手を引くキュルケにルイズは文句を言うが、彼女はニコニコ笑うだけで取り合わず、ルイズとタバサの手を取り学院長室を出るときになって、思い出したように礼をして出て行く。

「うむうむ。せいぜい着飾るといい」

 こちらもニコニコと笑うオスマンは、何故かルイズたちについていこうとしないアプトムに気づき、片眉を動かすとロングビルにも行くように声をかけた。

「しかし、わたくしには仕事が……」
「かまわんよ。それならミスタ・コルベールにやらせる。男の眼を楽しませるのも美人の仕事じゃて」

 え? と驚くコルベールを無視してカラカラと笑うオスマンに、ロングビルは、ため息をついてルイズたちに続く。
 女性たちの足音が遠ざかったことを確認するとオスマンは真面目な顔になってアプトムに顔を向ける。


「なにかワシに聞きたいことがおありのようじゃな。他の人間には聞かれたくない種類のな。コルベールくん席を外したまえ」
「ミス・ロングビルの仕事を押し付けておいて、話も聞かせないとかいいやがりますかジジイ」
「おまえさんだって、着飾ったミス・ロングビルを見たいじゃろうが。それで我慢しとけい」

 ぶちぶちと文句を言いながらコルベールが出て行った後、アプトムが口を開く。

「あの破壊の杖は、どうやって手に入れた?」
「なんじゃと?」
「あれは、俺が元いたほ……世界の兵器だ。あれが、どうしてここにある?」

 一瞬、星と言いかけたがそれでは通じないかもしれないので言い直し、自分は、この世界の人間ではない。ルイズの召喚で連れてこられた別の世界の住人であると、アプトムはオスマンに説明する。

「なるほど、事実は伝説よりも奇なりじゃな。あれは、ワシの命の恩人の持ち物じゃよ」
「どういうことだ?」

 三十年も前の話である。森を散策していたオスマンはワイバーンに襲われ生命の危機に陥った。そこに傷ついた男が現れて、もう一本持っていた破壊の杖を使いワイバーンを倒した。
 オスマンは傷ついた男を学院に運び込み治療を施したが、看護の甲斐なく男は息を引き取り、男が使った一本を共に墓に埋め、もう一本を恩人の形見とし破壊の杖と名づけて宝物庫に保管した。

「彼はベッドの上で、死ぬまで『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』と言っておったよ」
「そいつも、俺と同じように召喚されてきたのか?」
「それは分からん。事情を聞いている時間も余裕もなかったのでな」
「そうか……」
「それとじゃ」

 オスマンはアプトムの左手を取り、その甲を示す。

「おぬしのこのルーン。これはガンダールヴ。伝説の使い魔の印じゃよ」
「伝説だと?」
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。一度試してみるといい」

 つまり、デルフリンガーを握ってルーンが発動したのは、あれが武器だったからで、別に特別な物だったからではないということ。もっとも、そんなことが分かっても彼には意味がない。アプトムの望みは地球に帰ることなんだから。

「もしかしたら、おぬしがこっちの世界にやってきたことと、そのガンダールヴの印は、なにか関係しているのかもしれん」

 その辺りは調べておいてやろうと、オスマンは言う。
 彼は悔やんでいた。三十年前に恩人に何もしてやれなかったことを。だから、これは代償行為。
 三十年前は恩人を救うことができなかったが、代わりに同じように違う世界から来た異邦人は、元の世界に帰れるように手伝いをしてやろうという自己満足。
 そして、アプトムは、それを受け入れた。


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