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ラスボスだった使い魔-21


「あれ、使い魔さん? それにミスタ・グラモンも……」
「……お前は……」
「おや、確か学院のメイドじゃないか。どうしてこんなところに?」
 タルブの村に到着するや否や、『貴族の方がおいでなすった』と村長を始めとする村の主要人物がエレオノールたち一行を出迎えたのだが、そこでユーゼスとギーシュは見知った顔と出くわした。
 最近は洗濯を免除されたので顔を合わせていないが、それ以前はよく朝に洗濯するために洗い場で一緒になった……。
(……名前は、何だったか)
 確かいつかどこかで名前を聞いたような気はするのだが、特に名前を呼び合う必要も、そもそも会話する必要すらなかったので忘れてしまった。
 仮に他の人物との会話でこのメイドの話題が出たとしても『あの黒髪のメイド』で済んでしまうので、覚えようとする意欲そのものが湧かなかったのである。
 しかし村娘の格好をしている今のこの少女を、『メイド』呼ばわりするのは問題があるような……。
「シエスタ、この方たちを知っているのかね?」
「はい。わたしが勤めている魔法学院の生徒の方と、別の生徒の方の使い魔で平民の人と……」
 言いよどむメイドだった村娘―――シエスタ。タイミングよく村長が娘の名前を呼んでくれて、助かった。
「えっと……申し訳ありませんが、そちらの方は?」
 なぜかシエスタはユーゼスに質問してくる。
 ……貴族に直接質問するよりは、その従者のような立場の自分に質問した方が良いと判断したのだろう。
 特にギーシュはシエスタと一悶着あったし、エレオノールに至っては完全に初対面、しかも高圧的な空気を撒き散らしていて容易には近寄りがたい。
 なるほどな、と感心しつつもユーゼスはその質問に答えた。
「私の御主人様の姉君にあたる方だ。エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール……で良かったか?」
 人物紹介を疑問系で締めくくるユーゼス。
「そうだけど……何でわざわざ確認なんか取るのよ?」
「お前の名前は長いからな、間違って覚えている可能性も少なくない」
「……ああ、そう。短い名前の人間はそんな心配をする必要がなくて便利よねぇ、ユーゼス・ゴッツォ?」
「全くだな、ミス・ヴァリエール」
 また始まったよ、とばかりに横にいたギーシュは溜息を吐く。
 道中、この二人の会話はいつもこんな感じなのである。
 そして『こんな感じの会話』に上手く入れない自分としては、とても居心地が悪かった。
 まあ、そんな道中もここで終わりのはずなのだが。

「……………」
 タルブ村の面々は、驚いていた。
 ヴァリエールと言えば、確か広大な領地を所有しているトリステインでも屈指の名門貴族のはずだ。そのくらいはこんな田舎の村でも知れ渡っている。
 ……しかし、そのヴァリエールの人間と対等に会話をするこの銀髪の男は、一体何者なのだろうか?
 シエスタの話によれば『使い魔の平民』だそうだが、こうまで貴族と対等に話す平民など、今まで見たことがない。
 いや、そもそも『使い魔』が『平民』?
 何だかよく分からないが、とにかく凄い人物なのかも……と、本人が聞いたら間違いなく良い顔はしないだろう評価をユーゼスは受けていた。
「……………」
 一方、ある程度はユーゼスを知っているシエスタも驚いていた。
 自分が持っているユーゼスのイメージと言えば、無口・無愛想・無表情の三拍子に、桃髪のミス・ヴァリエールの世話を色々としていて、よく知らないけど頭が良いらしい人。
 そんな感じの人のはずだったのに、少なくとも他人とここまで軽妙……と言うほどでもないが、とにかくスムーズに会話をするとは、びっくりだ。
 『アンリエッタ姫の結婚式も近いので休暇をとって良い』と魔法学院から帰郷の許可をもらったのが数日前のこと。
 その更に数日前あたりから姿が見えなかったが、それから今までに何かあったのだろうか? もしやこの金髪の女性と……いやいや、いくら何でもそんなことは……。
 そんな感じでタルブの村人たちが揃って首をひねったり驚いたり妄想に花を咲かせたりしていると、エレオノールが一歩前に出て村長に申し出る。
「前置きも歓迎も必要ないわ。……早速だけど、この村にあるという『銀の方舟』を見せていただけないかしら?」
「は? ……まあ、構いませんが……んん?」
 言われた通りに村の秘宝がある場所へと案内しようとする村長だったが、何かに気付いたようにエレオノールの顔をジッと見つめ始める。
「……いきなり貴族の顔をジロジロと見て、何?」
「あ、これは失礼を。……申し訳ありませんが、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「言ってみなさい」
 失礼な平民ね、と言わんばかりの態度を取りつつ、エレオノールは村長の質問を聞く。
「血縁の方が、33年ほど前にこのタルブにお越しになったことはございませんか?」
「33年前? ……生まれてないから分からないけど……どうしてそんなことを聞くの?」
 村長は昔を懐かしむようにして語り始める。
「その頃、村にやって来た貴族のご一行様の中に、あなた様と目元がよく似た女性の方がおられたもので……。髪の色は違うのですが。しかし、あの方々と同じく『銀の方舟』が目的とは、これはまた……」
「……待ちなさい。その一行とやらは『銀の方舟』を持って行かなかったの?」
 自分に似ているとかいう女性はともかく、その一行が『銀の方舟』を持って行かなかったという点が引っ掛かる。それはつまり『持って行く価値がなかった』ということだ。
 ……見たところ凶暴な怪物や幻獣が近くにいる様子もないし、本格的にハズレか……などと思い始めていると、
「はい。動かすことは出来たのですが、その動かした……黒い帽子に白い楽器を背負った男の方が、『自前の移動手段があるから、別にいい』と言いまして」
「?」
 少し聞いただけでは、理解のしにくい話だった。
 ともかく、いつまでも村の入り口で立ち話も何なので、目当ての『銀の方舟』に向かうことにする。
(……まさか……)
 『銀の方舟』に向かって歩いている途中、ユーゼスは嫌な予感を感じていた。
 ……なぜなら、彼には“『銀の方舟』を動かすことが出来る”、“黒い帽子に白い楽器を背負った男”に心当たりがかなりあったのである。

 『銀の方舟』が安置されている倉庫……いや、『銀の方舟』が先にあってそれを囲むように倉庫が作られていると言った方が正しいだろう。
 そこにあったのは、ユーゼスの予想通りのものであった。
 しかも宇宙用である。
「へえ、鉄をここまで見事に加工するとは……」
「……いえ、これは鉄ではないわね。もっと別の金属よ」
 その装甲に使われている技術だけでも、土メイジのギーシュとアカデミーの研究員であるエレオノールは興味を惹かれる。
 だが、最もこれを興味深そうに観察するであろうユーゼスが一言も発していないことに気付き、彼の方に視線を向けると、
「「?」」
 そこに、珍しい物を見た。
 ユーゼスが感慨深げに『銀の方舟』を眺めていたのである。
 この旅では随分とユーゼスの違った一面が見られるなぁ、と思いながらもギーシュはユーゼスに話しかけた。
「もしかしてこれを知ってるのかい、ユーゼス?」
「……取りあえずはな」
 言って、ユーゼスはあらためてその銀と赤の戦闘機を眺める。
 ―――胸によぎるのは、かつての記憶。
 忘れもしない。
 アレの同型機に自分が作った大気浄化弾を運搬させて……。
(コンバットスーツに付属している高性能探知機と同じ物を、ウルトラホーク2号に組み込んだこともあったか……)
 そんな作業もやった覚えがある。
 ……懐かしさと苦い記憶のフラッシュバックが混在する、何とも妙な気分だった。
「「……?」」
 そんなユーゼスを見て、怪訝な顔をするエレオノールとギーシュ。
 しかし、ずっとそうしているわけにもいかないので、『銀の方舟』の検分を再開する。
「……でも、これが飛ぶってのはいくら何でもあり得ないでしょう」
「そうですね、こんな金属のカタマリが飛ぶわけはないです。この翼だって羽ばたくようには出来てませんし、後ろに付いてる……何だこりゃ? とにかく変な銀色の物にだって、これを飛ばせることは出来ないでしょう」
「使われてる金属は、研究する価値がありそうだけど……」
 何しろこの中型のドラゴンほどもある大きさでは、運ぶのも一苦労だ。
 やっぱりハズレか、と辟易する貴族二人だったが、そこに村長が声をかける。
「いえ、これは飛んだことがあるんですよ」
「え?」
「はぁ?」
 にわかには信じられない言葉だったが、村長は話を続けた。
「先ほど言った、ご一行の『黒い帽子の方』がこの『銀の箱舟』の中に入り込んで、中の……私たちにはよく分からんのですが……出っ張りや光るガラスをチョチョイといじったら、動き出しまして」
「……本当?」
「本当ですよ! 実際に見た本人が言うんですから、間違いありません!
 で、その方が言うには『ネンリョウがほとんどゼロで、セイビも必要だ』ってことでして」
 その言葉に反応したのは、ユーゼスである。
「待て、その状態でどうやって動かすことが出来た?」
「はあ、最初にこれに乗ってどこかから飛んで来たって言ってたタケオ爺さんと話をして、『銀の方舟』の中に入ってた『コウグバコ』って箱から鉄の棒みたいなのを取り出して、二日か三日くらいかけて色々やっておりました。
 ……それと確か『ジェットネンリョウ』とかいうのを、貴族の女性の方のツテで呼びつけた土メイジの方に『錬金』で作ってもらってましたね」
「…………なるほど」

 『俺は整備の腕もニッポンイチだ』とか言ってました、と言う村長の話を聞き流しつつ、ユーゼスは思案する。
「……気になる点がある。これの本来の持ち主と『黒い帽子の男』とやらは会話をしたのか?」
「したはずですが」
「その内容は?」
「……う~~ん……、何せ33年も前の話ですからねぇ……。
 ……あ、そうだ、『俺は戻るつもりだが、アンタはどうする』とか『年を取りすぎたし、家族も出来たから自分は行けない』とか言ってたような……」
「ふむ」
 取りあえず納得はいった。
(しかし、あの男はどこにでも現れるな……)
 鞭を取り出して、それを見つめる。
 もう、本当に『イレギュラー』としか形容する言葉が見当たらない。
 あの男が今、自分と同じ時間軸に存在していないことは、果たして良いことなのか悪いことなのか……。
「……ちょっとユーゼス、一人で納得してるところ悪いんだけど」
「む?」
 少し不機嫌そうな(と言うか、ほとんどの場合において不機嫌そうなのだが)エレオノールが、ユーゼスに話しかける。
「結論だけ言いなさい。これは飛べるの?」
「飛べるぞ。……私の予想通りの人間が整備して、燃料までチェックしたのならば、確実にな」
「はあ……」
 ユーゼスがそこまで言うのならば、本当に飛べるのだろうが……。しかし、どうやって飛ぶと言うのだろう。
 それを質問してみると、
「まず機体の下部からジェット……高出力の炎が噴き出して、宙に浮く。次に後部の噴射口からまた高出力の炎を噴射させて、前進した後は翼で揚力などを得て、という感じだな」
「?」
 そう言われたが、どうにもイメージが掴みにくい。
「……実際にやった方が早いか。村長、これを飛行させて構わないか?」
「そりゃあ、飛ばせるものなら……ああ、そうだ、忘れておりました」
 いきなり何かを思い出すと、村長は『少々お待ちください』と言ってどこかへと走っていく。
 そして15分ほど経過した頃、息を切らしながらボロボロの本を持って戻ってきた。
「ハア、ハア……。こ、これです。ここに書いてある文字なんですが、読めるでしょうか?」
 表紙に書かれた文字を指差す村長。
 ……長い年月を経たせいか、その文字は随分とかすれていたが、それでも何とか読むことは出来た。
「『ジェットビートル操作マニュアル』、だな」
「では、これは」
 続いて村長は、その下に手書きで書き込まれている文字を指差す。
「……『国際科学警察機構 科学特別捜査隊 日本支部隊員  ササキ タケオ』」
 なお、『科学特別捜査隊』は通称『科学特捜隊』、あるいは更に縮めて『科特隊』とも呼ばれていた。
(…………しかし、本当にジェットビートルとはな)
「おお、読めますか! ……いえね、『少なくともこの文字を読める人間でなくては、これを渡してはならん』とタケオ爺さんからキツく言われてたもので……」
「そうだろうな」
 内心は少々複雑であったが、その科特隊隊員の心情は理解が出来た。
 ……自分の乗機を渡すのなら、せめて自分の世界の人間に渡したかったのだろう。
「では、これを。よく分かりませんが、動かすためには必要な物だそうで」
 そうしてマニュアルを差し出される。
 ジェットビートルが『兵器』である以上、ガンダールヴの効果が発揮されるのでわざわざマニュアルを読む必要などはないが、あるのならば貰っておいて損はない。
 ユーゼスはマニュアルを受け取り『危険だから下がっていろ』と言うと、搭乗口に立てかけてあるハシゴに向かっていく。
 ……しかし、33年前に来たという『あの男』ならば、ガンダールヴのルーンや操作マニュアルなど無くとも自由自在にこれを動かすであろう様子が簡単に想像出来て、少し憂鬱だった。

「……………」
 中に乗り込み、操縦席へと向かう。
 ……まさか、自分がこの席に座るとは思わなかった。
 それでは取りあえず倉庫からこれを出して、それなりに広い場所に出た後、周囲に人がいないことを確認して―――
「ん?」
 そこまで考えたところで、前方に妙な物があることに気付いた。
 空中に浮かんでいる……いや、風防に貼り付けてあるそれは……。
「あら? 母さまが持ってるのと同じじゃない、それ」
「む?」
 いきなり横から響いてきた女性の声に振り向くと、そこにはエレオノールがいた。更に後ろを見れば、ギーシュも乗り込んでいる。
「お前たちも乗ったのか」
「当然でしょう。この『銀の方舟』が、どのくらいの速度でどんな飛び方をするのかは知らないけど、『そのまま飛んで行って戻って来ませんでした』なんてことになったらルイズに合わせる顔がないわ」
「それで置き去りにされても困るし……」
 どうやら自分の逃亡を警戒しているようだ。……当然か。
「それは分かったが……『このカードに見覚えがある』とは、どういうことだ?」
 ユーゼスは風防に貼られていたカードを剥がして、エレオノールに見せる。
 ……白地に赤く、『Z』を模したデザインのマーク。
 こんなものを持っている人間は、数多の並行世界広しと言えどあの男しかいない。
 いや、このハルケギニアでも色々と活躍したらしいから、持っている人間がいても不思議ではないのか。
「子供の頃、母さまが大事そうに持ってるのを見た覚えがあるのよ。『それは何ですか』って聞いても、『昔の知人から貰いました』としか言ってくれなかったんだけど」
「ふむ」
 そう言えば、ルイズの母……つまりエレオノールの母は、昔に『あの男』と行動を共にしていたとオールド・オスマンが言っていた。
 ならばこのカードと同じ物を持っていても、それほどおかしくはない。
「よく分からない文字が書いてあるけど、何て書いてあるの?」
「『整備完了 燃料満タン』だそうだ」
「セイビ……ネンリョーマンタン? どういう意味?」
「後で説明する。しかし、到着から約60年も経過していると言うのに、随分と状態が良いな」
 これならば、ほとんど現役で通用するほどだ。
「わざわざお金を払って土メイジを呼んで『固定化』をかけてもらったらしいわ。さすがにこの大きさだから、金額はかなりかかったらしいけど」
「……つくづく便利な物だな、魔法とは」
 呆れたものか感心したものか、判断に困る。
 まあ、とにかく発進させよう。
 ルーンを通して流れてくる『発進・操縦方法』に従い、パチンパチンとスイッチを入れて計器をチェックする。
 するとエンジンが起動して、『銀の方舟』―――ジェットビートルに低い音と振動が響き始めた。
 ジェットビートルの後部ブースターに軽く火がともり、ゆっくりと機体の底に付けられた車輪が前進を始める。
「ホ、ホントに動いた!?」
「どういうマジックアイテムなの、これは!?」
 驚くギーシュとエレオノール。
 見れば、周囲にいた人間たちもワーワーと騒いでいる。
(……完全にオーバーテクノロジーだからな。無理もないか)
 しかし、エレオノールに『これはマジックアイテムではない』ということを説明するのには、かなり苦労しそうである。
 何せ、エンジンの仕組みや燃料の役割、航空力学まで交えて説明をしなければならないだろうから。

 そのままジェットビートルを広い平原まで移動させる。
 この機体は通常の航空機とは違って発進のために滑走路を必要としないので、ある程度のスペースがあれば飛行は可能なのだ。
 と、ユーゼスはそこで重要なことに思い当たった。
「……これを飛行させるのは許可を得たが、そのままいただいてしまって構わないのか?」
 一応、これはタルブ村の物のはずである。
 操縦が出来るからと言って、勝手に貰っていく……というのは、さすがにどうだろうか。
 だが、それにエレオノールは素っ気なく答えた。
「別に構わないそうよ。無駄に大きいし、管理も面倒だし、飛ばそうにも動かせる人がいないしで、今じゃ村のお荷物だとか」
(まさに宝の持ち腐れ……いや、オーパーツなど、そんな物かも知れないな)
 どれだけ優れた技術の結晶も、価値が理解されなければガラクタとそれほど変わらない。
 内心でわずかに苦笑しつつ、ユーゼスは飛行の手順を進めた。
「む?」
 そこで、エレオノールとギーシュが『操縦席の中で直立している』ことに気付く。
 いくら何でも、これは危険だろう。
「……座席に腰掛けて、固定用のベルトを締めろ。発進時の衝撃はそれなりにあるはずだ」
「べると?」
「椅子に付属している、金具付きの帯のことだ」
 ギーシュはよく分かっていない様子だったが、それでも素直に座席に座ってガチャガチャとベルトを装着し始める。やはり取り付けるのには若干苦労していたが、そこは横から自分が口を出すことでどうにかなった。
 ……だが、エレオノールはベルトどころか座席に向かうことすらしていない。ユーゼスのすぐ横で、その手元をじっと見ている。
「『座れ』と言ったはずだが?」
「座ったりなんかしたら、あなたが何をやっているのか見えにくくなるでしょう」
「……御主人様と接している時もたまに思うが、お前たちはなぜこうも意固地と言うか、頑固と言うか、意地の張り所を間違えていると言うか、融通が利かないと言うか……」
「フン、あなたは黙ってこれを動かしてなさい」
「了解」
 取りあえず皮肉のようなことを言ってみたが、効果は無いらしい。
 そして姉にしろ妹にしろ、一度こうなったヴァリエールの女を口で言い負かすのは不可能である、とユーゼスは経験として知っていた。
 なので、黙って従うことにする。
「どうなっても知らんぞ」
「いいから、早く飛ばしなさい。……それとも、やっぱり『動く』だけで『飛ぶ』ことは出来ないの?」
「今、飛ばせる」
 ……そこまで言うのであれば、もうこちらからは何も言うまい。
 ユーゼスは機体の底に付いている3基のブースターを起動させ、ジェットビートルを垂直上昇させる。
「う、う、浮いたぁ~~!!?」
「こ、こんなのが宙に浮くなんて、どういうこと!!?」
 ある程度の高度まで上昇し、目的地を定める。着陸用の車輪を収納することも忘れてはいけない。

「行き先は魔法学院で構わないか?」
「え? ……えーと、そうね、あなたたちもそろそろ戻らないといけないでしょうから、そこで構わないわよ?」
「うむ」
 10日も留守にしていたのだから、そろそろ戻らねばなるまい。
 後部ブースターを操作し、ゆっくりと大きくカーブを描いて方向転換を行う。
「ま、ま、ま、回ったぁぁあ~~!!? そして動いたぁぁあああ~~~!!?」
「……いちいち驚くな」
 オーバーリアクションを繰り出してくるギーシュに、一言だけ釘を刺す。
 ちなみにエレオノールは自分の手元を見ながら色々と考えているようだった。
「では、行くぞ」
 最後に後部ブースターに本格的に出力を回し、次の瞬間、
「っ!」
「うおっっ!!??」
「きゃあああああああ!!!??」
 爆音と共に、猛スピードで前進するジェットビートル。
 当然、反動でコックピットの中は大きく揺れた。
 何しろ『揺れる』ことをあらかじめ知っていたユーゼスですら多少ひるんだのだから、予備知識のないギーシュなどは仰天しっぱなしである。
 そして、ベルトをつけずに座席に座りすらしなかったエレオノールはと言うと。
「ぐっ……」
「ぅ、ぅうう~……」
 大きく揺れたコックピットの中でバランスを保てず、何かつかむ物はないかと手を動かした、その結果。
「……私を掴むな、ミス・ヴァリエール」
「し、仕方がないでしょうっ!!」
 動かした手はユーゼスの肩を捉え、更にユーゼスの方に倒れ込み、傍から見れば『ユーゼスの膝の上にエレオノールが乗っている』という形になってしまった。
「とにかく、早くどけ」
「それが出来たら、そうしてるわよ!」
 大抵の男にとっては憧れのシチュエーションでも、ユーゼスにしてみればハッキリ言って操縦の邪魔でしかない。
 エレオノールにしても、普段であれば即座にユーゼスの膝の上から脱出しているのだが、今回は脱出が出来ない理由が存在していた。
「……立って動いたりしたら、転ぶでしょう」
 このジェットビートルを『動かすことが出来る』とは言え、これがユーゼスにとって『初めての操縦』である以上はやはり振動は多く、また多少のグラつきがある。
 貴族が無様に転ぶ姿などをさらす訳にはいかない以上、エレオノールとしてはユーゼスにしがみ付かざるを得ないのだ。
「く、屈辱だわ……」
「だから『座ってベルトを締めろ』と言ったのだ」
「何よ!」
 相変わらず頭に来る喋り方をする……と、エレオノールは文句を言おうとユーゼスの方を見て、反射的に顔を近付ける。
 そして、ふと気付くと。
「…………!!」
 目の前、数サントに、ユーゼスの顔が、至近距離で。
「っ!」
 エレオノールは思わず顔をそむけた。
 ……動悸が激しかったり、顔が妙に熱かったりするのは、初めてこの凄い乗り物に乗ったせいだ。そのはずだ。そうに決まっている―――と自分に言い聞かせる。
 そんなエレオノールの内心の動揺などはつゆ知らず、ユーゼスはどうしてか顔が紅潮している彼女を見て、思わず心の呟きを口に出す。
「なぜ顔をそらす?」
「うるさいわねっ、この馬鹿!!」
「?」
 ……ポツリと疑問を言っただけなのに、なぜ自分が馬鹿呼ばわりされなければならないのだろう。
 首を傾げるユーゼスと相変わらず赤面するエレオノールだったが、そんな彼らに構わずジェットビートルは猛スピードで進んでいく。
 なお、余談ではあるが。
 この日、この瞬間において、ギーシュ・ド・グラモンはユーゼス・ゴッツォに対して初めて『馬鹿かコイツ』という感想を抱いたのであった。


 ルイズは落ち込んでいた。
 自分の使い魔が、長姉とギーシュと一緒に出かけてから、早10日。
 その間、一切の音沙汰はなく、どこにいるのかすら分からない。
 『宝探しに行った』ということくらいは知っているが、どこにどのような宝を探しに行ったのか、全く知らない。
「……そう言えば、わたしがアイツについて知ってることって、どのくらいあったっけ……」
 まず、どこか『遠く』から自分が召喚したこと。
 ハルケギニアの常識に疎いこと。
 何かを研究してたらしいこと。
 頭がいいこと。
 あんまり強くなくて、体力もないこと。
 乗馬が下手なこと。
 あと、ゲートの感知が出来ること。
「それと…………あれ?」
 他に『自分が知っているユーゼスについての情報』は、何があっただろうか。
「…………ない」
 いや、よくよく思い返してみれば、もっともっとあるはずなのだが、パッと思い付くのはそのくらいしかなかった。
「わたし、アイツのこと何にも知らない……」
 ユーゼスはルイズに対してほとんど自分の情報を明かしていなかったので、これはある意味では仕方がないことなのだが、ルイズにとっては『仕方がない』で済ませられることではない。
 いっそのこと、自分も『宝探し』に付いて行けばよかったかしら……などと思っても、後の祭りである。
「詔(ミコトノリ)だって、あんまり進んでないし……」
 アンリエッタの結婚式まで、もう1週間ほどしかない。
 本来ならば、一心不乱に敬愛する姫さまのために詔を考えなくてはならないのである。
 しかしふと部屋を見回してみると、部屋の隅には空っぽの藁束が。
「うぅ……」
 それを目にしてしまうと、どうにもこうにも寂しさがこみ上げてきて、とても詔どころではなくなってしまうのだ。
「さみしい……」
 向かいの部屋のキュルケは相変わらずちょっかいをかけてくるし、授業に出れば同学年の生徒たちだってたくさんいるのだが、それだけではこのさみしさは埋まらない。
「どこ行ったのよぉ……」
 ルイズは、もう何度目になるのか分からない呟きと溜息を漏らす。
 ―――その瞬間、魔法学院に轟音が走った。
「ひゃあっ!!?」
 思わず驚きの声を上げるルイズ。
 轟音はゴゴゴゴゴ、とけたたましく学院中に響き渡っており、その影響で学院全体が小刻みに揺れていた。
「な、なにごと!?」
 音が聞こえた方向からすると、中庭あたりで何かがあったようだ。
 しかし、爆発……にしては音が長続きしすぎているし、何かが燃えている……にしては音が大きすぎる。
 一体何なのかしらと警戒していると、やがて轟音はピタリと止まった。
「?」
 ワケが分からない。
 好奇心旺盛な生徒が、いち早く中庭の方に様子を見に行ったようだが……。
「……まあ、危険なものならもっと大騒ぎになってるだろうし……」
 悲鳴や絶叫が聞こえてこないということは、誰それが怪我をしたとか、ナントカが暴れているとか言うことではあるまい。
「って、何だかユーゼスみたいな考え方ね……」
 そんなことを考えていると、外から声が聞こえてきた。
「おい、中庭に大きな鉄のカタマリが落ちて来たんだって!?」
「いや、落ちて来たんじゃなくて、飛んで来たんだ!」
 別に何が落ちて来ようと、飛んで来ようと、地面から出て来ようと、ルイズには関係が―――
「中から人が出て来たぞ!」
「おい、アレはギーシュと……ルイズの使い魔じゃないか!? それに誰だ、あの金髪の人!?」
「……はぁ!!? 何ですってぇ!!!?」
 ―――関係が、大アリである。


「……中庭に着陸させたのは失敗だったな」
 ジェットビートルの周囲にワラワラと集まってきた野次馬たちをジェットビートルのコックピットから眺めながら、ユーゼスは溜息を吐いた。
 どこか適当な場所に着陸させようと思い、中庭が良い感じに開けていたのでそこに着陸させたのだが……。
「これでは、落ち着いて点検も整備も出来ん」
 後で学院の敷地外に移動させるか、などと思いながら、取りあえず同乗者たちに到着したことを伝える。
「魔法学院に着いたぞ。……どうした、酔ったか?」
 しかし相変わらず膝の上に乗りっぱなしのエレオノールも、振動しながら猛スピードで進むことが怖かったのか座席の端を握り締めているギーシュも、どこか唖然と言うか呆然としていた。
 ちなみに操縦者が酔うと笑い話にもならないので、ユーゼスは因果律を操作して自分の酔いをキャンセルし続けていた。
 それはともかく、エレオノールやギーシュの呟きに耳を傾けてみる。
「タ、タルブから、1時間かからずに……」
「……どうなってるんだ……」
「何だ、そのことか」
 ジェットビートルの最高速度は、マッハ2.2。時速に換算すれば毎時約2700キロメートルほど。
 実際には最高速度に達するまでに加速距離が必要だし、停止するためにもある程度の距離が必要なのだから、単純にずっとマッハ2.2ではないのだが……。
 ともかく面積の狭いトリステイン程度ならば、たとえ一周しても1時間半とかかるまい。正確な数字は、やってみないと分からないが。
「取りあえず降りるぞ、二人とも」
「え? ……あ、ああ、そうね」
「う、うむ」
 タラップなどという気の利いた物はなかったので、吊りハシゴを使って降りるユーゼス。なお、メイジ二人は『レビテーション』を使って降りた。

(オールド・オスマンに説明をして、置いてもらえるように許可を取らなければならないか)
 相変わらず心ここにあらずなエレオノールや、野次馬たちに質問されまくっているギーシュはひとまず放っておいて、これからの行動を考える。
 ではすぐに学院長室へ、と思ってそちらに足を向けると、遠くからそのオールド・オスマンが驚いた様子で小走りに駆けてきた。
(騒ぎを聞きつけてきたか)
 これは都合が良い、とユーゼスはオスマンの到着を待つ。
 そしてやって来たオスマンは開口一番、
「……やっぱり君か」
「む?」
 何だか納得したような、呆れたような口調であった。
 更に小声でヒソヒソと喋り始める。
「『銀の方舟』……ケンと同じ世界から来た君ならばあるいは……とは思っていたが」
「そう言えば早川健と行動を共にしたのだったな、お前は」
 実際に乗り回した人間と一緒にいたのならば、『銀の方舟』についての知識がある理由も説明がつく。
「しかし、まさか何も情報を与えていないのに自分で乗って来るとはの」
「いや、情報源は別にある」
 チラリとエレオノールに目をやるユーゼス。
 彼女はこの飛行機械についてうんうん唸りながら考え込んでいるようだったが、そんな彼女を見てオスマンは狼狽し始めた。
「ミ、ミス・ヴァリエールの姉君!? ちょ、ちょっとゴッツォ君、どういうことかね!? アカデミーの人間には気を付けろと、あれほど言ったではないか!!」
「どういうことも何も、それを言われる前から交流があったのでな」
「じゃあ、何でそれをあの時に私に言わなかったんじゃ!?」
「言う必要性を感じなかっただけだ」
 ああもう、このトウヘンボクめ……と、頭を抱えるオスマン。
 いつまでもこんな老人に構っている暇もないので、精神年齢だけを見れば立派な老人のはずの銀髪の男はこれからのことを考える。
 …………ついでに、何だか物凄い形相をしながら自分に向かって全速力で走ってくる、桃髪の少女への対処も考えなくてはならないのだが、それは差し当たって置いておく。
 まずはビートルを学院の外に出す。
 宇宙用のブースターは、必要ないから取り外さねばなるまい。
 いや、その作業をするには自分一人だけでは手が足りないか。ギーシュあたりに補助を頼むにしても、やはり専門的な知識を持つ人間は欲しい。
 しかし工学系に強い人間となると、ハルケギニアには……。
「……やむを得んか」
 『あの人物』に協力を頼むのは正直気が引けるし、危険でもあるのだが……この際だ、仕方あるまい。
 それに『あの人物』とは、落ち着いて話をしたいとも思っていた。
 ユーゼスは一度だけ溜息をつき、心に浮かんだ『あの人物』を呼ぶ決心をする。
 そして―――

 ―――興味深げに自分とジェットビートルに視線を向けてくる禿げた頭の中年教師を無視して、懐にある『あの人物』から受け取ったエーテル通信機の存在を確認する。
 問題なく通じるだろうな……などと思いながらも、ひとまずユーゼスは走ってくる御主人様の対処に回るのだった。


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