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ゼロの氷竜-15


ゼロの氷竜 十五話

ルイズは、自らの使い魔に質したいことがいくつもあった。
なぜ決闘を後押しするようなことをいったのか。
見物人を退けた意図はいかなるものか。
手の怪我は大丈夫なのか。
不安げな表情を浮かべたまま、主は使い魔の名を呼ぶ。
「ブラムド……」
あとの言葉は、ブラムドの人差し指に阻まれる。
眉根の皺を深くしながら、ルイズはブラムドの顔を見上げた。
視線の先で、思わせぶりに周囲を見渡すブラムドの瞳がある。
そっと、ルイズの肩に手が乗せられた。
「あとでも、いいでしょ?」
ルイズの不安をはらうように、キュルケは微笑みながらそれだけを言った。
わずかに、ルイズの肩から力が抜ける。
その様子を見たシエスタは、驚きを隠せなかった。
なぜならその相手は、今までルイズが毛嫌いしていたキュルケであったから。
つい先刻ルイズから紹介された、それまで名を挙げられたこともないタバサとは違う。
それまで怒りと共に吐き出されてきた名前の持ち主が、放った当人と心を通わせている。
なにがあったのかシエスタには知りようもないが、ルイズは仇敵を友人としたようだった。
ただしシエスタはルイズと違い、キュルケの態度の裏側に隠された心情に気付いていた。
キュルケの名前がルイズの口から出るのは、彼女が落ち込んでいた直後だけだったから。
シエスタは自身の降りかかる災厄を一時忘れ、暖かな微笑をルイズに送っていた。
そんなシエスタの様子を見ながら、ブラムドもまた微笑む。
だがブラムドがオスマンへ問いかけた瞬間、少女たちの微笑みは凍り付いてしまう。
「オスマン、決闘にふさわしい場所はあるか?」
微笑が凍りついた瞬間を見てしまったオスマンは、口ひげをいじりながら答えを返す。
「ヴェストリの広場が良いでしょう。人目にもつきにくいですし」
その仕草が笑いをこらえる為だと、ブラムドだけが気付いていた。
口ひげをいじりながら笑いをこらえるオスマンは、決闘という単語に浮き足立つ少女たちが微笑ましくてたまらない。
学院を統括するオスマンがシエスタやギーシュの身を案じていないのは、ひとえにブラムドへの信頼が強い証だ。
オスマンは、シエスタもギーシュも大した怪我を負うことはないだろうと予想している。
見物人を許さなかったのは、ギーシュの心を覆う虚飾を引き剥がす為。
ギーシュ自身が実は素直で純朴な少年だということは、オスマンも気付いていた。
そのため見栄をはる相手をなくしてしまいさえすれば、素直にシエスタに謝罪するのではないだろうか、と楽観視している。
当然、オスマンの予想は楽観が過ぎた。
正確に言えば純朴さ、すなわち素直さゆえの愚直さを、考えに入れられなかったのだろう。
さらにこの件に関して、オスマンのブラムドに対する評価は明らかに過大だった。
ブラムドはオスマンやキュルケほど、ギーシュのことを知らない。
ロングビルのように、信頼を寄せるオスマンの態度から読み取れる情報もない。
主であるルイズから話を聞いているわけでもない。
しかもギーシュはルイズを侮辱していた。
その言葉を返上させようとしていたシエスタに対しての評価は高まっていたが、相対的にギーシュへの評価が下がるのは仕方のないことだろう。
ブラムドは、主に無礼を働いた若者を少したしなめてやろうと考えている。
無論、怪我をさせるつもりはないが。
見物人を許さなかったのも、ギーシュと違って自らの力をひけらかすつもりがないからだ。
力を秘匿する重要性を、ブラムドは熟知していた。
竜が火を吐くことを知れば、その咆哮に魔力がこもっていると知れば、魔法を使うことを知れば、それぞれに対応の手段を考えることは可能となる。
それだけで討たれることはなくとも、相手を無傷で退散させることは難しくなってしまう。
また、目立たぬようにというオスマンとの約束もある。
下手なことをすれば、オスマンが学院の人間にさせた誓いも無駄になるだろう。
人の口に、戸は立てられないのだから。





「ではコルベール、グラモンに決闘の場を伝えてもらえるか?」
オスマンの後ろに続いていたコルベールは、ブラムドから差し出された自らの杖を受け取りながら返事をする。
「承りました。では、のちほど」
コルベールの後姿を見送ったブラムドに、キュルケが声をかける。
「あの、ブラムド様。手は、大丈夫でしょうか?」
ルイズと同じく、キュルケもブラムドの怪我を気に病んでいた。
しかし当のブラムドは気に留めてもおらず、気楽に返事を返す。
「先ほどモンモランシに治してもらった」
ブラムドはそういいながら、怪我の痕もない左手を広げて見せた。
異常ともいえる再生能力を持つ竜にとって、死に直結しない傷であれば軽症といえる。
今回のような切り傷や、腕や足、眼球や内臓などの欠損であっても、時間をかけさえすればいずれ治癒してしまう。
死に至るような怪我であれば、治癒の魔法も存在する。
『竜の卵(エッグシェルター)』にその身を包めば、回復は自然治癒よりもはるかに早い。
ではなぜ先刻の怪我にそれを使わなかったのかといえば、『竜の卵』に包まれている間は外界と一切遮断されてしまうからだ。
それでは使い魔としての役目を果たすことはできない。
ルーンの効果とも思われるが、さしたる出血もない軽症に対して『竜の卵』を使う必要性を、ブラムドは感じられない。
無論今のブラムドの体が人間のそれである以上、放置しただけで治るものではなかったが。
副次的な結果ではあるが、それを奇貨としてルイズとキュルケ、そしてタバサが友人となったことも、ブラムドが自身の怪我を気にかけない理由の一つだった。
「気にすることはない。お主やルイズに大した怪我がなくてよかった」
その喜びを表すブラムドの言葉に、キュルケは小さな疼きを覚えていた。
まだ姿を現すことのない棘は、その胸の奥に潜んでいる。
だがその棘を意識するよりも早く、シエスタの声がキュルケの意識をさらった。
「あの、何か飲み物でも持ってまいりましょうか?」
膝が震えているルイズの様子を見て、その友であるメイドが提案をしている。
「そ、そうね。食事は無理だけど、飲み物を飲むぐらいは大丈夫でしょ」
ルイズの言葉に、自分の席へ一歩踏み出そうとしていたタバサの足が戻る。
その様子を見たシエスタは、笑みを表に出さず、厨房へ飲み物を取りに行った。
「良く気がつくわね」
感心するような、ある種あきれるようなキュルケの言葉に、ルイズが自慢げに答えた。
「メイドの仕事に誇りを持ってるっていってたからね」
「別にルイズが胸張ることじゃないでしょ」
からかうようなキュルケの言葉で、ルイズが剣呑な表情を浮かべる。
「胸張るつもりもないのに張ってるような女に言われたくないわ」
「なかなかいうじゃないの」
睨め上げるルイズの視線と、見下ろすキュルケの視線がぶつかる。
険悪な雰囲気の裏のじゃれるような気配に、ブラムドとオスマンはわずかに微笑んだ。
それらを横目に、タバサはテーブルに用意された料理に目を奪われている。
腹部を押さえるようなことはしていないが、杖を握る両手に込められた力は強い。
「お待たせいたしました」
そこへ、シエスタがトレイとポットを抱えて戻ってくる。
「丁度焼き上がったところでしたので」
トレイの上には、大振りなパイが乗せられていた。
「クックベリーパイ?」
「ご名答です」
喜色を満面にしたルイズに、シエスタも嬉しそうに応じる。
それがルイズの好物であることを、ブラムドとオスマンは知らなかった。
ひとまず食事が済んで空いたスペースに陣取り、シエスタがパイを切り分けるのを待つ。
小皿に載せられたパイを受け取って満面の笑顔を浮かべたルイズは、それを見て微笑む友人たちと使い魔、そして学院長の顔に気付く。
さすがに学院長へ見るなともいえず、笑顔を収めて取り澄ます。
朱に染まった頬から色を抜くことはできなかったが。
シエスタはルイズのその表情に、恐怖が和らいでいくのを感じていた。
ブラムドが食器を扱えないと知るシエスタは、切り分けたパイをさらに細かくしていく。
ルイズはその様子を見ながら、ほっとしたような、残念なような、背反する気持ちを抱いていた。





食事代わりの茶会が終わり、数人の男女がヴェストリの広場へと移動していた。
その中の一人だけが、不満そうな顔を隠していない。
その理由は茶会で自分に笑顔が向けられていたこと、そしてもう一つ。
五人の男女に、八つに切り分けられたパイが配られていた。
使用人であるシエスタは、アルヴィーズの食堂で食事をすることは出来ない。
年老いたオスマンは食が細い。
ブラムドは食事に対しての欲求それ自体が少ない。
消去法で考えれば、少なくとももう一切れは自分のものになるはずだ。
好物を租借するルイズは考える。
が、目の前のパイを半分ほど片付けてトレイを見れば、残っていたはずのパイは跡形もなくなっていた。
ルイズはそれを知らなかったが、タバサはその一事のみで貴族嫌いで知られる厨房の主、マルトーを唸らせるほどの健啖家である。
とはいえ、食べられたことは不機嫌な理由の一つでしかない。
八つに切られたパイの半分をその腹に収め、なおもため息混じりに空腹感を訴えるタバサの仕草にこそ、ルイズの不満は向けられていた。
「ルイズ、そんな顔をするな。決闘が終われば食事も出来よう」
苦笑いではなく、微笑みながら、彼女の使い魔が諭す。
そういわれ、ルイズは表情を切り替える。
それは食事という言葉ではなく、決闘という単語によって。
「ブラムド、シエスタは大丈夫?」
不満げだった表情を不安げに変えたルイズに、ブラムドは微笑みをたたえたままに答える。
「無論だ」
一歩、二歩、三歩と踏み出したブラムドが、ルイズたちに振り返る。
「さて、グラモンは少女をいたぶって喜ぶ類の人間か?」
指を立て、まるで講義をする教師のように問いかけた言葉に、ルイズは答えられない。
「いいえ」
「違いますな」
代わりに答えたのはキュルケとオスマンだ。
「うむ。でなければ、オスマンがことの推移を見守ろうとするはずもない」
ブラムドの言葉に、三人の生徒と一人のメイドが納得する。
「先刻は怒りにまかせて挑発し、決闘を申し入れたが、身を清めるだけの時間があらば多少なりとも落ち着こう」
ブラムドの深慮に、学院長が唸る。
「つまり勝敗を別にすれば、シエスタが怪我をすることはなかろう」
安心したようなため息が、ルイズとシエスタの口から漏れた。
「ただし」
その言葉に、十個の瞳が同じ方向へ向けられる。
「あのようにルイズを侮辱され、なおそのままにするつもりは我にはない」
ブラムドの浮かべる笑みが、質を変えていた。
「ブ、ブラムド殿?」
不安げなオスマンの言葉を、ブラムドは手で制す。
「案ずるな、怪我をさせるつもりはない。そんなことをしては決闘にはならぬしな」
「じゃぁ、どうするの?」
ルイズが周囲と共通の疑問を口にする。
「シエスタを勝たせる」
路傍の石を蹴り飛ばすような気軽さで、ブラムドが不可能ごとを口にした。
ハルケギニアにも、メイジ殺しと呼ばれる平民の戦士や傭兵が存在する。
文字通りメイジを殺すことの出来る人間だが、無論シエスタはそんな技能を持っていない。
あまりにも衝撃的な発言に、最初に反応できたのはオスマンだった。
「い、いやしかし貴族が決闘するなら、魔法を使わないということはあり得ませぬぞ?」
「当然だろう。おそらくグラモンは、ゴーレムでシエスタを取り押さえようとする」
何故ギーシュがゴーレムを扱うとブラムドが知っているのか、気付くものはない。
それ以上に衝撃的なことを口にしているのだから当たり前だろう。
戦闘の知識も経験もない平民が、何体ものゴーレムを操るメイジに勝つ。
解決の糸口も見えない難題に、メイジたちも使用人も首をかしげるだけだ。
「それでどうやってシエスタを勝たせるの?」
というルイズの言葉にも、ブラムドはその考えの内を明かそうとはしない。
「ひとまずは、杖を貸してもらおう」
主から杖を受け取りながら、使い魔は曖昧に、楽しげに、微笑むだけだった。





決闘場に現れたギーシュは、まるで憑き物が落ちたように晴れやかな表情を浮かべていた。
先導していたコルベールがオスマンの元へと歩み寄ると、ギーシュはそちらへ向かって深く頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
そして暴言を吐いたルイズや決闘の相手であるシエスタへ顔を向けたとき、ほんの一瞬、何かを言いかけた。
かぶりを振ってブラムドへ向き直ったギーシュは、決闘についての提案を始める。
「ブラムド様、メイジが魔法を使わない決闘など、聞いたことがありません。とはいえ勝敗が決まっているようでは、決闘といえないでしょう」
「自明だな。だがそういうからには何か思案があるのか?」
ブラムドの問いかけに、ギーシュは心中で笑みを浮かべた。
「彼女に、何か武器を持たせるというのはいかがでしょう?」
「なるほど。だが、互いに怪我は避けたいのではないか?」
その言葉に、ギーシュは驚きを隠せなかった。
確かに、コルベールの案にはさらなる条件があったからだ。
「では、私は開始の位置から一歩も動きません」
提案を口にしながら、ギーシュは案を退けられるのではないかという不安を覚える。
「その上で、彼女の武器が私に触れさえすれば彼女の勝ち、彼女を動けなくするか、彼女の武器を奪う、もしくは破壊すれば私の勝ち、という条件はいかがでしょう?」
ルイズたちはギーシュの提案に、シエスタを取り押さえるという項目があったことに驚く。
それは先刻、ブラムドが予想した通りだったからだ。
「よかろう。だがそれだけでは、シエスタが勝つには不足であろう」
ブラムドは、ギーシュの提案を予想していた。
ではなぜ裁定者であるにもかかわらず、先に規則を定めなかったのか。
それは先に提案をしたギーシュが、ブラムドの案を受け入れるしかなくなるからだ。
「決闘の前に、一つ魔法を使わせてもらう」
その言葉で、ブラムドの魔法の威力を知るギーシュは顔を青くする。
ブラムドはその表情に笑みを浮かべそうになりながら、自らの言葉を継いだ。
「案ずるな。使うのはお前自身にでも、お前のゴーレムにでもない。シエスタにだ」
自分にでもワルキューレにでもないといわれたギーシュは、それでも言いしれぬ不安に提案を退けたくなる。
しかし、自分の提案だけが受け入れられては公平さを欠く。
そうすれば、先刻の提案も退けられる可能性が生まれてしまう。
「わかりました。問題はありません」
ギーシュは心中の渋面は表に出さず、表面上はすんなりと提案を受け入れた。
その不安は、後に的中する結果となる。
「さて、ではシエスタに何か武器を持ってきてもらおう」
「ぶ、武器ですか?」
当事者の一人であるにも関わらず、どこか部外者のように話を聞いていたシエスタは驚く。
話を振り向けられたことにも、武器という単語にも。
「触れば勝ちってことだから、モップかほうきみたいな長いものがいいんじゃない?」
助言をしたのは、もちろんルイズだった。
「あ、はい。ではちょっと持ってきます」
小走りで広場から立ち去るシエスタを見送りながら、ブラムドがつぶやいた。
「では決闘の前に、埃を払っておくかな」
その言葉の意味を、コルベールとギーシュを除く勘のいい人間は理解した。
『遠見』と『透視』を立て続けに使ったブラムドは、決闘を覗こうとしている人間たちへと話しかける。
『音源転移(リプレイス・サウンド)』
音そのものを転移させるその魔法で、覗こうとしている人間たちはブラムドの声を聞く。
「今その場を離れるのならば、オスマンにはいわずにおこう」
ブラムドと同じように遠見の魔法を使っていた生徒たちは、どこからともなく聞こえたブラムドの声に、慌ててその場から逃げ出す。
四度、同じ言葉を伝えたブラムドは、最後に違う言葉をつぶやいた。
ブラムドの様子に注視していたルイズたちだったが、その話している中身を読み取ることは出来ない。
最後の言葉が、それまでのものと違うことだけが読み取れる。
それを聞いたのは、いわれて慌てて立ち去った一人だけだった。
その言葉は短い一言。
「二本足の鼠」





武器を持たせること、その武器を奪うか壊すことで勝負を決すること、コルベールの提案は受け入れられた。
だが、ギーシュにはブラムドの言葉が楔のように打ち込まれている。
ブラムドの魔法。
もっとも弱い攻撃のための魔法で、ワルキューレをいともたやすく打ち砕く威力。
食堂で見た、転移の魔法。
ハルケギニアの常識で考えれば、シエスタへかけると考えられる魔法は多くない。
事後であれば治癒の魔法だろうが、事前というのであれば防御を司るものだろう。
土の防壁では、その場から動けない。
鎧を作ってまとわせるには、シエスタの体力が持たないだろう。
となれば風の防壁のようなものが、可能性としては一番高いといえる。
しかし、ブラムドが他にどんな魔法を知っているのか、ギーシュには想像も出来ない。
その思考も、シエスタが決闘場へ戻ることで打ち切られる。
シエスタへ向かって、ブラムドが話しかけた。
「シエスタ。グラモンへ向かってまっすぐに、目を閉じて進め」
ブラムドの言葉に、全員が驚愕する。
ギーシュですら、怒りを覚えるよりも先に驚きに支配されていた。
シエスタが、その沈黙を破る。
「……わかりました」
その返事に、ブラムドは満足そうに頷く。
「それでは決闘を始める」
ブラムドの宣言で、シエスタはブラムドの右手に、ギーシュは左手に歩いていく。
両者の距離は三十歩程度離れている。
「ワルキューレ!!」
ギーシュが杖を振り、一体のゴーレムが姿を現す。
「メイド君。降参をするなら、今のうちだよ?」
その言葉に、シエスタは首を振る。
「私は、ヴァリエール様を信じております。ヴァリエール様の使い魔である、ブラムド様を信じております」
一息つき、シエスタは自らの言葉を継いだ。
「何より、この決闘にはヴァリエール様の名誉がかかっておりますので」
ためらいもなく言い放ったその言葉に、ギーシュは羨望を覚える。
……自分をこうまで信頼してくれるものがいるだろうか?
ギーシュの自問は、自身で否定される。
決闘が始まる前に勝敗が定まっていることを、ギーシュは肌で感じていた。
しかし、貴族としての矜持をなげうつわけにはいかない。
覚悟を決めた両者を確認し、ブラムドが魔法を放つ。
「では、始め!!」
ブラムドの合図で、シエスタが目を閉じる。
信じるとはいっても、恐怖を払拭できるわけではない。
それでも、意を決してシエスタはギーシュへと向かい始めた。
「……シエスタ……」
つぶやきながら、祈るように握られたルイズの手に、キュルケとタバサの手が乗せられた。
ルイズは力なく、二人に微笑む。
二人も微笑みながら、一歩一歩ギーシュへと近付いていくシエスタを見やる。
近付くシエスタを押しとどめようと、ワルキューレもシエスタに近付いていく。
後ほんの一歩近付けば、ワルキューレの手はシエスタの肩へ届いていた。
だがその一歩を踏み出し、近付いたワルキューレの手が、腕が、霞のように消えてしまう。
後に残った一片の花びら、青銅で出来たそれをシエスタが踏みしめた瞬間、ギーシュは悲鳴を上げるようにルーンを叫んだ。
「ワ、ワルキューレ!!」
新たに生み出されたワルキューレは二体。
ギーシュの限界である七体を作り出すには、魔力が回復しきっていない。
それでも平民の相手をするには十分だったはずだ。
混乱するギーシュの目の前で、ワルキューレはシエスタに近付くだけで消えてしまう。
得体の知れない状況に、ギーシュの混乱は恐怖に変化する。
恐慌に陥るギーシュが大地から土の防壁を作っても、シエスタの歩みを止められない。
「シエスタ、目を開いても良いぞ」
何が起きたのか理解できず、対応手段を考えることも出来ないギーシュの目の前で、決闘相手であるシエスタが目を開いて立っていた。


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