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恐怖の使い魔


 トリステイン魔法学院の演習場。
 神聖なるサモン・サーヴァントの儀式もつつがなく進み、雪風のタバサと二つ名を授かる神秘的な少女の番となった。
 空はどこまでも澄み晴れ渡り、気持ちよさそうに雲がたゆたっている。

「…人?」

 召喚の呪文・サモンサーバントを完了した後、現れた『使い魔』を見てタバサは首をひねる。
 自分と同じ空になじむ青い髪、見慣れない紅白の着物、そして日に焼けたことなどないかのような白い肌。
 召喚された『使い魔』は人間の女性。
 ただ、美人と言って差し支えない彼女が普通と違っていたのは---空に浮かんでいるということ。

「タ、タバサがメイジを召喚したっ?!」
「炎を背負ってる? 先住魔法かっ?!」

異口同音に同級生達はその変事を騒ぎ立てる。

「……」

 タバサは動じず、じっと彼女の顔を見据えているだけだった。召喚された女性もようやく事態がわずかに理解できはじめたのか、初めて口を開いた。

「え、あれ? えーと?? ……あのすみません。ここってどこなんでしょうか?」

 問いかけられたタバサは、いつまでも答えを返さない。召喚された『使い魔』をじっと訝しげに見つめているばかり。やがて彼女の顔を見あげるのをやめ、ゆっくりと中年の男性の元へ近寄っていった。

「ミスタ・コルベール」

 控えめな声で、この学園の中年教師・コルベールの名が呼ばれた。

「失敗しました」
「いや、成功だよ。ミス・タバサ」

 コルベールの返答にタバサは一瞬だけその蒼い瞳に失望の色を浮かべるが、すぐに普段の平静な -感情が見受けられない- 様子に戻った。

「失敗? 成功? 困ったなあ、早く事務所に帰らないといけないのに。横島さんもお腹すかせてるだろうし……」

 なにやら自分にはわからない話を進める二人に『使い魔』はただおたおたし、食べ物が入っているらしい手元の袋を気にしている。
 周囲にいるのは見慣れないマントを羽織った少年少女、物珍しい視線を感じ気恥ずかしい。とにかく、いつまでもここにはいられない。道案内を求めようとしたとき、先ほどコルベールと呼ばれた男性が頭頂に眩い光を頂いて進み出、至極真面目な目で言う。

「サモン・サーヴァント』の結果として彼女が現れたのだ。ミス・タバサ
 使い魔としては前代未聞だが、ちゃんと彼女が召喚された。
 成功していることは疑いないし、『使い魔召喚の儀式』は魔法学院の長い伝統に乗っ取る儀式。
 まして主人と使い魔が一生を共にする初めの一歩だ。
 やり直しは認められない」

 コルベールは言い終えると、出来る限り重々しく咳払いをした。
 常日頃感情の見えないタバサはコルベールにとっても得意な生徒ではなかったが、コルベールの言に案外と素直にタバサはうなずいた。汗の浮かんだ額をなでながら、ほっと一息つく。
 渋々納得したのか、それとも早々に仕方ないとあきらめたのか。タバサは召喚した『使い魔』に歩み寄る。
 放っておかれた彼女は安心したように、もう一度問いかけた。

「お話終わりましたか? よかった、事務所に戻る道をお伺いしたいんですが……」
「……降りてきて」
「え? えと、はい。これでいいですか?」

 慌てている様でずいぶんと落ちているようにも見えるが、ともかく細かい事情はお互い後で話せばいいだろう。自分と同じ青い髪をした女性がこれから先ずっと共に過ごす使い魔なのだから。
 例え意に沿おうが沿うまいが、サモン・サーバントはメイジにもっともふさわしい存在を使い魔として選定する。そういうものだと、タバサは契約の呪文を唱え口を動かしていた。が

「……透けてる?」
「あ。普段はちゃんと見えるんですけど、光の加減でそうなるときもあるみたいです」
「……え?」
「あたし、幽霊やって長いですから。そう言えばまだご挨拶してませんでしたね、キヌって言います……って?」

 タバサの顔が不意に近づいたと思えば、おキヌの体をすり抜け前のめりに倒れた。ぴくりとも動かない。

「ミス・タバサっ?!」
「え、え、え? 大丈夫ですかっ?!」
「お化け。お化け怖い……」

 うわごとをつぶやくタバサを運ぶ騒ぎでサモン・サーバントは一時中断となり、使い魔を召喚できるか気に病んでいたピンクの髪した少女が少しだけ安心したとかしないとか、それはまた別の話であったりする。



☆☆☆



 あれから一週間。
 おキヌはコルベールの努力もあり、ここが異世界であることなど理解し落ち着いていたが、未だタバサの契約は終了していなかった。

「契約は一回で終了させて欲しいものなのだが……」

 ほとほと困り果てたコルベールがのたまう。担当教師のコルベールや親友のキュルケがどれだけ説得しても医務室で逃げ、寮で逃げ、教室で逃げ。果てはトリスティン中を逃げ回り、おキヌという少女は宙ぶらりんとなっていた。

「コルベール先生……あたし、そんな嫌われることしたでしょーか……」
「君に罪はないよ、おキヌ君」

 涙ぐむおキヌを慰めなだめ、事態の解決を図ってきたがとにかくタバサの逃げ足といったら無い。曲がりなりにも軍隊の一部隊長を務めた自分がまるで追いつけないし見つけられない。
 ガリア王室からシュバリエの称号を授与されていると聞いてはいたが、こんな能力の無駄遣いをして欲しくは無かったと、コルベールは心底思う。

「おキヌ君には申し訳ないのだが、もう少しばかり待っていてくれないか? タバサ君は必ず説得するから」
「……はい。じゃあ、シエスタさんのお手伝いでもしてきます……」

 話してみれば、とにかくおキヌはいい娘だった。優しく朗らかで気遣い上手、多少天然ボケと言ってもよかったが、そこもチャームポイントだ。幽霊という事を差し引いても盛大におつりが来る。事実、もうすでにおキヌは学園の一員として迎え入れられていた。
 帰るに帰れず、かといってどうにもならない。肩を落とし飛んでいくおキヌが気の毒だったが、留年してもいいとしか答えず逃げまわるタバサにある意味驚いてもいた。
 この世全てにあきらめきった、達観した表情を浮かべるタバサがこうまでも『熱い』抵抗を見せるとは想像もしていなかったからだ。
 ある時偶然も手伝ってようやくタバサを捕まえられたときなど

『ヤです』
『いやだから』
『ヤです』
『あのですね』
『ヤです』
『ですから、って待ちたまえっ?!』

 待ちません、と言い終える前にすでに姿の見えないタバサに舌を巻いた。微熱のキュルケはずっと協力してくれているが、どうにかタバサを捕まえられても、やはり

『……お化け怖い』

 とだけ、後はサイレンスの魔法をかけられて終わりだと言う。恐がりが幽霊を召喚したのは悲劇かもしれないが、それでもサモン・サーバントは絶対だ。タバサにもわかってはいるのだが、理性というか感情がそれを受け入れない。だってこわいんだもん。
 タバサ自身、幽霊を使い魔にするくらいなら留年した方がよほど気楽だし、そも貴族の名誉など最初から剥奪されている。
 が、ある日部屋を訪ねてきたキュルケの一言で、タバサの認識は一変する。

「あの娘が消滅する?」
「そうなのよ。なにかあの娘の体が前よりずっと透けて来てね……」

 召喚時に透けていたのは光の具合だったのだが、1週間ほど経ちコルベールやキュルケにも目に見えて透けていく様がわかった。おキヌは自身の体を見て、寂しげに呟いた。

『縁が薄くなってる……』
『縁?』
『はい。縁っていうのはこの世との関わりの事なんですけど……ハルケギニアに来たあたしはそもそも誰にも、どこにも縁がありませんから……』

 異世界から召喚されたおキヌには、このハルケギニアで縁を結べる存在はタバサしかいない。事情を聞いたタバサはわずかに青ざめ、しばらく考え、意を決して立ち上がった。

「……け、け、け」
「落ち着きなさいよ、タバサ」
「……契約する」

 恐れながらも毅然とキュルケに宣言する。そもタバサは母を助けるために力を尽くしている。王室から押しつけられる任務を達成するためにも、使い魔は出来る限り有力な存在であれば助かったのだが、呼び出したおキヌを消滅させてしまうとなると話は別だ。
 それでは、母に毒を盛った無能王と同じ存在になってしまう。それだけはイヤだった。タバサはキュルケを伴い研究室を訪れ、おキヌとコルベールに詫び、改めて契約の儀式を執り行おうとしたが

「タバサっ?! ちょっとタバサしっかりしなさいっ!!」
「お化け怖い、お化け怖い……」

 キュルケは激しくタバサをかき揺らす。幾度も気絶し倒れ、さっきからちっとも契約の儀式は進んでいなかった。

「コルベール先生……なにかあたしものすっごく悪いことしてる気が……」
「ま、まあタバサ君には良い試練だと思うよ。この先生きていく上で、壁になることなどいくらでもあるのだから」

 幾分プライドを傷つけられていたコルベールは割合さばさばしていたりした。キュルケはずっとタバサを介抱しっぱなしだ。

「あたし、上手くやっていけるのかしら……」

 気絶しまくるタバサを見て、おキヌは深いため息をついていた。この女の子と、これからきっと少なくない時間を過ごすのだろうから。
 ふと窓の外を見た。このハルケギニアに呼び出された日と同じように空はどこまでも澄み晴れ渡り、気持ちよさそうに雲がたゆたっていた。

「大丈夫。怖くない、あの娘はいい娘普通の娘……」

 タバサが暗示をかけるように繰り返し呟く。キスしようとしては気絶してを繰り返し、結局どうにか契約出来そうな段階まで来るのに夕方になってしまっていた。

「……この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 額に口づけをした瞬間、使い魔のルーンが刻み込まれると同時におキヌの体が -幽霊ではあるが- 密度を取り戻していく。コルベールやキュルケも契約完了に歓声を上げた。

「ありがとうございます! これからよろしく……ってあれタバサさんタバサさーん?!」
「立ったまま気絶してるし……」
「なんともまあ」

 タバサは口からほのかに白いものを出し、どこか遠い世界に旅立っていた。夜空に浮かぶ二つの月は、のんびりあたりを明るく冷やしていた。






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