あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゴーストステップ・ゼロ-05


ルイズとヒューは黙々と教室の片付けをしていた。
服が破けてしまったルイズはヒューのコートを身に纏っている。

「ところでルイズお嬢さん、「おかしいでしょう?」何が」
「魔法も使えないメイジのくせに貴族なんて威張ってる。誰もが言ってるわ、威張るだけなら平民でもできるって。
 だけどね、私は貴族なの!このトリステイン王国の栄えあるヴァリエール公爵家の!お父様とお母様の実の娘なの!
魔法が使えませんなんて言える「使えてるじゃないか?」え?」

足元に落ちている教卓の破片を教室の隅に片付けながらヒューは淡々と言葉を綴る。



ゼロのフェイト シーン05 “ギーシュの香水と夢の魔法”

    シーンカード:マヤカシ(幻影/裏切りの露見。魔的な襲撃。毒。不実な人間の罠。不確かな夢。)



「少なくともオレはこんな事は出来ない、お嬢さん達が平民っていう連中と同じだっていうのもあるかもしれんがね。
それに、オレをこのハルケギニアに呼び出して契約までしたんだ、何も出来ないっていう事はないだろう。」
「アンタを召喚した事だってただの失敗だったかもしれないじゃない、ただの平民なんだから。」
「けど召喚したっていう事実は残る。どうして失敗しているか調べた事は?」
「なによそれ、ちゃんと呪文を唱えて杖を振れば魔法は発動するのよ?
 お母様や姉様達、先生方が言うような感覚は掴めないけど、発音もちゃんと完璧にしてるんだから成功しない方が
おかしいのよ。」
「その辺かもしれないな。」
「なんですって!お母様や姉様達が私に嘘を教えていたとでも言うわけ!「いや、そういう意味じゃなくてだな」
どういう意味よ?」
「別にルイズお嬢さんの家族が嘘を付いているとは言わない。ただ、本人にとっての真実が他人にとっての真実とは
限らないって事。
 簡単なたとえ話さ。普通の貴族が使う魔法がナイフだとする、片やルイズお嬢さんの魔法はフォークだったら?っ
ていう話だよ。
 使う道具が違うのなら、使う方法も目的も違って当たり前だろう?」
「な、何よそれ。
 私には普通の魔法は使えないとでも言うつもり?」
「怒るなって、別にそんな事は言ってないだろう。フォークだってケーキは切れるしナイフでも肉を突き刺せる。
 要は自分なりの使い方があるんじゃないか?っていう事を言いたいのさ。
 所詮は門外漢の話だから話半分で聞いておいてくれると助かるんだがな。
 とりあえず、お嬢さんの魔法の証明が目の前にあるんだ、諦めるのはまだ早いだろ。」


そう言ってヒューは片付けを再開する。
だがヒューの魔法に関する見解を聞いていたルイズは机を拭く手を止めてしまっていた。
今までそういった事を言ってくれる人もいなかったし、ルイズ自身考えもしなかった事だからだ。
しかし、それはしょうがない事でもある、第一ハルケギニアの常識から外れている考えなのだから。決められた手順
で行使すれば魔法は発動するものなのだ、その手順が(自分にとって)間違っているかもしれないなんて考えもしな
かった。

なんなのだろうこの使い魔は、本当にただの平民なのか。ハルケギニアの常識は知らないし、主どころか貴族も敬わ
ない。
だけどいくら田舎育ちとはいえ、常識を知らないの一言で済ませられる程、貴族と平民の身分の差に関する常識は
軽々しいものではない、事この件に関して言えば始祖ブリミルがここハルケギニアで系統魔法を広めて以来のものだ。
第一、あの“ぽけっとろん”とかいうマジックアイテムを持っていた時点で貴族の力を知っているはずなのに。
普通ではありえない程の無知…その上先程の魔法に関するヒューの意見は、ある意味始祖ブリミルの系統魔法を否定
するものだろう、なにしろ魔法が使えない理由を行使者ではなく魔法の法則そのものに求めているのだ。
結構前にこのトリステインにもいたという新教徒の一員だろうか。しかし、彼等でも貴族と平民の差というものは
理解していただろうし、魔法の法則に疑問を抱いたという事は無かった筈だ。

そこまで考えると、ルイズの中にはこの使い魔に関する好奇心が湧き上がってきた。今までどんな生活をしていた
のか、とーきょーのばという故郷の話、持っている不思議なマジックアイテムの話。聞く事はこれでもかという位
いっぱいある、今日の夕食が終わったら全部聞き出そうとルイズは決心していた。

そうして2人で行った片付けは、昼食前にはなんとか終わらせる事が出来た。とりあえず昼食を取ろうと、食堂に
向かうルイズ(制服は着替えた)と後からのんびりと付いていくヒュー。

「じゃあルイズお嬢さん、オレは中庭辺りで昼寝でもしてる。用事があったら呼びに来てくれ。」
「ま、待ちなさいヒュー!」

とりあえず飯抜きという話なので、寝て空腹を紛らわせようと中庭に行こうとしたヒューをルイズが呼び止める。
ヒューがふり返るとルイズは真っ赤になりながら仁王立ちしていた。

「ご、御主人様に色々と気をつかうなんて、使い魔としては基本中の基本だけど褒めてあげる。
 それから、本来はご褒美をあげる所なんだけど、今朝方の罰の撤回をしてそれを褒美とします、御主人様の慈悲に
感謝なさい。」
「そいつはありがたいけどな、何処で食えばいいんだい?
 ルイズお嬢さん達と一緒ってわけにはいかんだろう。」
「それもそうね、さすがに他の使い魔と同じようにはできないし…、そこのメイド!」

そう言ってルイズが呼び止めたのは、今朝方ヒューと出会ったシエスタだった。
ワインボトルと水が湛えられているピッチャーを乗せたトレイの傍にいる所を見ると、どうやら飲み物の給仕をする
為に控えていたらしい。ルイズに呼ばれた彼女は共にいた同僚に一言断って歩み寄って来る。

「お呼びでしょうか、ミス・ヴァリエール」
「ええ、私の使い魔に食事を用意してくれないかしら。
 この通り、あなたたちと同じ平民だから、他の使い魔と同じ所で食事をさせるのも憚れるのよ。」
「左様ですか。それでしたら私どもが食しているものと同じものはどうでしょう、すぐにご用意できますが。」
「ええ、それでいいわ。それと代金が別に要るようなら私宛に請求してもらって構わないから。
 じゃあヒュー、食事が終わったらここで待ってて頂戴。」
「ああ、悪いな色々と。」
「き、気にしなくてもいいわよ、使い魔の管理や世話は主人たるメイジの務めなんだから。」

赤面しながらそう言うと、ルイズは食堂の中へと消えていった。

「やれやれ、じゃあそういう事で、悪いけど何処で食えるか教えてもらえないか?」
「ええ、こちらですヒューさん。」
「そういえばシエスタ、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいか?」
「ええ、何でしょう?」
「うちの御主人サマってどういった評判なんだい?」
「ええとそれは私達平民から見た…という意味ですよね…。
 すいません、そういったことは流石に。」
「そうか、いや別に無理にっていう訳じゃないんだ、さっき教室で騒ぎがあったからちょいと気になってな。
 悪かった、忘れてくれ。」
「本当にすいません。
 着きました、ここが厨房です。私達はここで賄いを頂いてるんですよ。」

シエスタに連れられて来た厨房はヒューにとって、知ってはいるものの初めて見るものだった。
ヒューが生きていたニューロエイジにとって料理とは(少なくとも一般庶民にとって)、ある程度加工された培養
食品に独自の手を加えて個性を出す…といったものである、とりあえず上を見ればキリが無いが、少なくとも目の前
で展開している光景というのは見たことが無い光景だった。
そんな風に呆然としているヒューの前へ恰幅が良い中年男が現れる、他の料理人と微妙に異なる格好から恐らくここ
の責任者だろうと当たりをつけ、笑顔を浮かべる。

「マルトー親方、こちらミス・ヴァリエールの使い魔さんでヒューさんです。
 何でも、ミス・ヴァリエールが他の使い魔と一緒の食事は具合が悪いので私達と同じ食事を摂らせて欲しいそう
で。」
「面倒をかけてすまないマルトーシェフ。
 ヒュー・スペンサーだ、こっちの常識には疎いんで色々迷惑掛けるかもしれんがよろしくたのむ。」
「おう、まあ貴族の連中からっていうんならいいさ。
 ところでお前、俺の名前に妙なのをくっつけたがありゃなんだ?」
「何って“シェフ”の事かい?あれはオレの住んでた所で料理長って意味さ。」
「へえっ、おまえさんが住んでた土地じゃあそんな言葉があるのか?
 変わってるなあ、ええおい。」
「いやまぁ、結構遠い所だからな。珍しい風習もあるさ。」
「何が珍しいものか!良い話じゃねえか。よし、賄いだが味の方は作った俺様が保証するし量もたっぷりあるからな、
遠慮なく食っていきな。」
「じゃあ、ありがたく頂くよ。」

そういうやりとりの後、席に着くとシエスタがシチューが入った深皿と固めのパンが入った籠を持って来る。
やってきた食事はヒューにとって十分以上に満足するものだった、なにしろトーキョーN◎VAでは滅多にお目にか
かれない天然素材の食材を名人ともいえる料理人が調理しているのだ、その味は推して知るべきというものだろう。

「美味かったよ、ありがとう。」
「そうですか?それは良かったです。マルトー親方にも伝えておきますね。」
「しかし、君には今朝から世話になりっぱなしだな。何か手伝える事があったら言ってくれないか?
 流石にこう借りばかりできると申し訳ない。」
「え?いいですよそんな一応仕事ですし。」
「これから、世話になる事もあるかもしれないしな、挨拶代わりってヤツさ。」
「え、っとそれじゃあデザートの配膳を手伝ってもらえますか?」
「ああ、それじゃあさくっと終わらせようか。」

そうしてヒューとシエスタは2人でケーキを配膳することになった。
ヒューが持ったトレイからシエスタがケーキを取り、貴族の子女の前に邪魔にならないように配膳していく。
数名の生徒達はシエスタの隣に立つヒューを見て驚くが程なくして会話に戻る。
そんな仕事の最中、ヒューとシエスタは少年達のグループが歓談しているテーブルに近付いた。どうやらグループの
中でも派手目な外見をした少年に他の少年達が交際関係の詰問をしているようだ。
(風上のマリコルヌという少年もいた)
若くて結構な事だ…等とヒューが感心していると、シエスタがかがみこんで何やら拾い上げた、見た所香水壜の様に
見える。

「あの、落とされましたよ?」

シエスタは当然、近くの少年達に訪ねる。

「ん?いや知らないな。君の見間違いじゃないのか?」
「いえ、確かに貴「そうでしたか、これは失礼。いこうかシエスタ」え?ちょ、ヒューさん?」

シエスタと派手な少年の会話を遮り、シエスタと一緒に少年達のテーブルから離れる。
ヒューは困惑するシエスタを他所に、受け取った香水壜を観察する。

「ヒューさん、どうして返さないんですか?多分あの人達の誰かの「モノだろうね」?じゃあどうして。」
「連中の話を聞いてると、交際関係の事で盛り上がっていた。そんな中で“知らない”と言っているということは…
まぁ知られちゃ困る事情があったり、友人にばれると恥ずかしいというのもあるんだろう。
 それにこれがあるのなら、作り手の特定はそう難しくはないさ。」

香水壜を持ち上げてニヤリと笑う。

「え?ヒューさん分かるんですか?」
「いや、正確には知っていそうな人物を知っているってところだね。まあここは仕事を続けようじゃないか。」
「は、はい…」

そうして仕事を続けたヒューとシエスタは、キュルケとその友人らしい小柄な少女がいるテーブルにやって来た。

「あら、ヒューじゃない。どうしたの?まさかもうクビになっちゃった?」

笑いながら、明らかに冗談めかした言い方でヒューをからかうキュルケ。友人らしい少女は読んでいた本から一瞬
だけ頭を上げた後、興味を失ったのか、再び読書に戻る。

「いやいや、これは色々とお世話になった礼に仕事を手伝っているのさ。
 ところで、お嬢さん方に一つ尋ねたい事があるんだが良いかい?」
「あら、ヴァリエールに聞かなくていいの?」
「うちの御主人サマは聞きたい事に疎いみたいだからね、それに君の方が詳しいと思ったのさ。」
「へぇ、まあいいわヴァリエールの使い魔に頼られるツエルプストーっていうのも面白いしね。で、何?」

そういうキュルケにポケットから取り出した香水壜を見せ、事のあらましを軽く説明した後、見覚えがないか確認
をとる。

「件のお坊ちゃんは知らないと言ってたんで、オレが知っている中で香水に詳しそうな君に聞きに来たという訳。」
「へぇ、ギーシュがねぇ。嗅いでも?」
「どうぞ、一回位開けたからって蒸発しないだろうしな。
 オレの見立てでは個人で、しかもあまり裕福じゃないが貴族の作だと見ているんだが。」

キュルケはヒューの意見を聞きながら香水壜を開け、香りを確認する。

「へぇ、ところでヒュー、どうしてこれが個人製作だと?」
「壜さ。ラベルも貼っていない上、ごく僅かだが、硝子の厚さもまちまちで歪みもある、趣味は良いがね…。という
事なら売り物の線はかなり低い。一応、御主人サマも香水とか持っていたけど、これよりかなり上等な壜を使って
いた、御主人サマの話だと実家は金持ちらしいからな。それに、オレ達平民には香水なんて仕事にしていない以上、
そうそう作れないだろう?」

最後の言葉はシエスタにだったが、別段卑下したり馬鹿にするような口調ではなかったので、シエスタは素直に
頷けた。
キュルケと友人らしい少女は驚いていた、たった一つの香水壜でそこまでの事を推察できるというのはメイジでも
そうはいないだろう。
ディティクトマジックを使えば、魔力の反応からメイジが作成したのであれば分かるだろうが、目の前の男はそれ
すらせずに見ただけで言い当てたのだ。

「参ったわね、なかなか凄いじゃないヒュー。
 その通り、これはメイジの生徒が個人で作成した香水よ。製作者の名前はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェ
ール・ド・モンモランシ、あのテーブルに座っている金髪巻き毛の子。
 何だったら私が渡しておきましょうか?」
「いや、いいよ。無関係の娘さんを騒動に巻き込むのは忍びない。
 じゃ、助かったありがとうな。」
「ええ、どんな騒動が起きるか楽しみにしてるわ。」

そうしてヒューとシエスタはキュルケ達のテーブルから離れる。
ヒューが十分離れた後、小柄な少女が口を開いた。

「興味深い」
「あら、タバサ珍しいわね貴女が興味を持つなんて。で、どこら辺?」
「足音」
「え?観察眼じゃなくて?」
「それもある。けど、足音はもっと興味深い。」
「足音?変な音はしなかったと思うけど?」
「違う、しなかった。全然」
「え?」

そこまで聞いてキュルケは背後、ヒューとシエスタが去っていった方向に振り向く。2人はそろそろモンモランシー
がいるテーブルに着こうというところだが誰もヒューに気を払っていない。“ルイズが呼び出した使い魔の平民なの
に”誰も話題にしないのだ。
それを見てキュルケは可笑しくなった。ただの平凡な平民の男かと思っていたが、あの使い魔はこの場にいるほぼ全
てのメイジを謀っているのだ、平民とはいえあの男に背後から近付かれて察知できるメイジは一体どれ程いるだろう。

「へぇ、全然気が付かなかった…。
 ていうとヒューってばそっち関係の仕事をしてたのかしら、どう思う?」
「まだ分からない、ただ可能性はあると思う。」
「じゃあ、ルイズが召喚したのはメイジ殺しかもしれないのね…。ああ、そういえば今朝方の話なんだけどヒュー
ってばルイズの爆発を避けてたわね。」

キュルケのその話を聞いたタバサは今まで読んでいた本から顔を上げ、ヒューの姿を見る。
その姿が朧気に霞んで見えるのは自分の気のせいだろうか…。

(本当に、興味深い。)


「失礼、レディ・モンモランシですね?」

モンモランシーは最初、自分に声を掛けてきた男性が誰か分からなかった。分かったのは身に纏っている変わった
コートを見てからでだった。

「え、ええ。何か用かしらミス・ヴァリエールの使い魔さん。」
「ヒュー・スペンサーと申します、レディ・モンモランシ。
 落し物を届けに参りました。」
「落し物?何かしら、覚えが無いけど。」
「いえ、正確には貴女様の落し物ではないのです。実はこの香水の小壜でして。」

と言いつつ、手品の様に件の香水壜を取り出し、モンモランシーの掌の上に乗せる。
モンモランシーは急ぎ壜に刻んである徴を確認すると、ヒューに顔を向ける。

「これは、何時どちらで拾われたの?」
「ミスタ・グラモンという方が談笑されているテーブル付近です、初め彼等に尋ねたのですが知らないと言われまし
て。ならばこの香水を作った方なら持ち主をご存知では?と思いまして。」
「そ、そう。ありがとうスペンサー、これは私から返しておくわ。ご苦労様でした。」
「いえいえ、お役に立てて光栄です。それでは本日のデザートを存分にお楽しみ下さい。」

モンモランシーの顔は笑っていたが額には太い青筋が浮かんでいた。

ヒューとシエスタが立ち去って数分経った頃、モンモランシーはギーシュに香水を渡して小言を言おうと近付いたが、
聞こえてきた声に足を止める。

「そういえばギーシュ、この間だけどね1年のケティ嬢と一緒じゃなかったか?寮の窓から2人揃って出て行く所を
見たっていう噂を聞いたんだが。」
「なに?ケティ嬢といえば、1年でも可愛い部類に入ると評判のレディじゃないか!」

と俄かにギーシュの周りが沸き立つ、生来目立ちたがり屋な所があるギーシュは、その騒ぎに苦々しく思いながらも
満更悪い気も起きなかったのか、友人達を静める為に異性との武勇伝を披露し始めた。

「たしかにケティとは親しくさせてもらっている。しかし、君達に一つ言っておきたいのはだね。
 ん?どうしたんだね?君達、顔が真っ青じゃないか…。後ろ?」



友人達の表情をいぶかしんだギーシュがふり返ると、そこは恐ろしい形相をしたモンモランシーが立っていた。



「げげぇぇぇッツ、モッモッモッモンモランシー!いっいや違うんだこれは!ケティ…いや彼女に乗馬を教えて欲し
いと言われただけであってだね!「酷いですギーシュ様!」ケティ?」

モンモランシーに弁解しようとしたギーシュではあったが。その時、反対側から可憐な少女の声が聞こえてきた。
ギーシュや人々がそちらに目を遣ると、そこには友人らしい数人の女生徒に支えられた栗毛の少女が、涙に瞳を濡ら
しながらギーシュに近付いていった。

「あの森の中で“僕の心の中にいるのは君だけだ”と言ってくれたのは嘘だったのですか?」
「いっいや、それは違う「貴方の先程の言葉が何よりの証ですわ!」」

そういうとケティはギーシュの頬をひっぱたいて風の様に走り去っていった。

後にこの光景を見ていたマリコルヌ・ド・グランドプレは、恍惚とした表情でこう述懐する。
「あの時の平手打ちは見事だったね。細い足首から引き締まったウエスト、さらに上半身の捻りを手首のスナップ
に余す所なく伝えきった至高のスパンk…うわなにをするきさまら!」

ケティの平手打ちを左頬に食らって床に倒れ伏したギーシュだったが、未だ彼のピンチが去った訳ではなかった。
朦朧とする彼の意識を呼び覚ます香りがある。これは、嗚呼そうだこれは愛しのモンモランシーの香水の香りでは
ないか、そう思って目を開いたギーシュの目の前には足があった。
恐る恐る顔を上げると、そこには先程の恐ろしい形相とは打って変わって、麗しい笑顔を浮かべているモンモランシ
ーがギーシュを見下ろしていた。
笑顔だった、確かに笑顔だったが、見ている者には泣いている様にしか見えなかった。
左手に持っているのは、あの時落としていた香水壜。その壜の中身はもう残り少ないのだろう、一滴二滴と自分の為
に作ってくれた香水が目の前の床に落ちていく。そうして、とうとう空になってしまったその壜を床に落とした後、
何も言わず踵を返して食堂から立ち去っていった。

食堂は静寂に包まれた、流石にここまでの修羅場というのはそうそう見れないものなのだろう。ケティという少女の
烈火の如き平手打ちもさることながら、何よりモンモランシーの冷たい氷の様な怒りが恐ろしかった。



何故、どうしてこんな事になったのかギーシュには分からなかった。呆然と床にへたり込んだまま、落ちている香水
壜を見つめる。
モンモランシーが僕の為に作ってくれた香水…。いつも彼女と一緒にいるような気になれたので、いつも持ち歩いて
いた、モンモランシー以外の少女と歓談している時だって持っていた。彼女と過ごす時にだけほんの少し使っていた
大事な香水だった。
それがもう無い、何が悪かったのか分からなかった。そうしてしばらく“床に落ちた”“香水壜”を見た時、少し前
の会話が脳裏によぎった。

(「あの、落とされましたよ?」…「ん?いや知らないな。君の見間違いじゃないのか?」…「いえ、確かに貴「そ
うでしたか、これは失礼。いこうかシエスタ」え?ちょ、ヒューさん?」)

そうだ、あの2人の平民だ、あの2人が余計な事をしてくれたからあの2人が傷ついたんだ。あの2人が気を利かせ
て後から届けてくれれば、僕は振られずに済んだし、モンモランシーもケティも傷つかないで済んだんだ。
思い立つと、ギーシュは止まれなかった。香水壜を拾い上げ食堂を見回すと、香水壜を拾ったメイドがいた。もう1
人の平民は見えないが、そっちは後からにしよう。とにかく貴族に対する躾を叩き込んでやらねば気がすまなかった。

シエスタは食事で使用した様々な食器を片付けている最中だった。
食堂で貴族達が何やら騒ぎを起こしていたが、食器が割れる音とかしなかったのである意味安堵していた。そうして
いつもの様に仕事をしていると、何やら背後から呼ばれたので、振り向くとそこには恐ろしい形相の貴族の少年が
1人立っていた。
左頬には見事な紅葉が付いていたが、笑うような事はできなかった。何しろ訳はわからないが、この貴族の怒りは
間違いなく自分に向いているのだ。周囲で仕事をしていた同僚達は、巻き添えを恐れて離れている。別に責める気は
無い、自分でもそうするだろうから。
とにかく何故、怒っているのか理由を知らなくてはどうしようもないので、恐ろしいが聞いてみる事にした。

「あ、あの。ミスタ・グラモン、何か御用でしょうか…。」
「ああ、君ともう1人の平民に“これ”の事で言いたい事があってね。」

そう言うとギーシュは懐から空になった香水壜を取り出してシエスタに見せた。
対するシエスタはというと、香水壜が持ち主の下に戻った事に安堵しつつもそれが何故怒られる原因になるのか今一
つ分からなかった。

「あ、その香水壜でしたら、ミス・モンモランシに「いや、いいんだ」え?」
「僕が言いたいのはだね、これが僕の物だと分かっていながら何故、モンモランシーに渡すような事をしてくれたの
かっていう事だよ!おかげで僕の名誉はもとより。2人のレディの名誉まで傷ついてしまったじゃないか!」



その頃ルイズは昼食を摂り終え思索に耽っていた、周囲の級友達は他愛のないおしゃべりに熱中していたが、ルイズ
は思考の海に深く潜り込んでいた。

考えていたのは先程ヒューから言われていた魔法の事について、“使い方を変える・自分の魔法がどういう魔法なの
か発見する”言うのは簡単だ。しかしこれは一から魔法を作り上げるという事でもあるだろう。困難な茨の道だ、
誰にも理解されないだろう。それに、もしかしたら異端の烙印を押されるかもしれない…。
だけど、そう…だけどこの道には光が見える。道は蜘蛛の糸の様に細く頼りなく、道の長さときたら遥かに遠い天空
の果てだろう。
だが、分かるのだきっとこれが正解だと、この道を往くしかないのだと。それに1人ではない、使い魔が…ヒューが
いる。
昨日彼はいった“死ぬまででいいなら一緒にいる”と。私の使い魔、唯一つのそして初めての魔法、彼が近くにいて
くれるなら自分の道を信じられる。
そう、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはきっとどこまでも行けるはずだ。



新着情報

取得中です。