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ラスボスだった使い魔-20


「う゛~~~~……」
 ルイズは部屋の中で一人、唸り声を上げていた。
「う゛う゛う゛~~~~~……」
 納得いかない。
 どうしていきなり長姉がやって来て、自分の使い魔を強引に連れて行ってしまうのか。
 どうしてあの馬鹿は、それに対して抵抗らしい抵抗もせず、ただ黙ってついて行ったのか。
 姉が自分に対して命令口調で説明を行っている時、銀髪の男が黙って部屋の中を掃除していた記憶が頭をよぎる。
 最近になって、自分の中で使い魔に対しての羞恥心が猛烈に湧き上がってきたので、洗濯や身の回りの世話はルイズが自分でやるようになっていた。
 なので、使い魔の仕事が朝起こすことと髪を梳くこと、それと掃除くらいしかなくなってしまったのだ。
 とは言え、残ったそれらの仕事に関しても、ルイズは微妙な気恥ずかしさを感じていたりするのだが……。
 閑話休題。
 ……あの無表情を思い出すと、ムカついてくる。
 いや、まあ、長姉に逆らえないのは自分も同じだし、苦手意識がかなり深いところに根付いてしまっているから、思わず『は、はい』と言ってしまったけれども。
 よくよく思い返してみれば、あの馬鹿からも……なんだか諦めてるような空気が出てたけれども。
 それにしたって、どうして姉はよりによって自分の使い魔なんかを連れて行ったのだろうか。
 確かに『研究者』としては……優秀、だろう。
 実はこっそり使い魔の書いたレポートを読んでみたことがあるのだが、なんとも斬新な―――と言うか、珍妙な視点からハルケギニアの魔法についての考察を重ねていた。しかも、それがいちいち的を射ているのである。
 あれなら、エレオノールが一目置くのも分かる。
 では、『戦う人間』としては……そんなに強くもない、とは思うのだが……。
(仮にもワルドに勝ったらしいし……)
 自分がその光景を見たわけではないし、どうせ奇をてらった戦いをして不意打ちに近い勝ち方をしたのだろうが、少なくとも『弱い』ということはないだろう。
「……………」
 こうして考えてみると、なんだか自分の使い魔ってけっこう凄いのでは? という気がしてきた。
「いやいや、ちょっと待ちなさいルイズ」
 その能力は高くても、人間的に問題がかなりある。
 無愛想だし。
 いちいち理屈っぽいし。
 何を考えてるのかよく分かんないし。
 生意気だし。
 そもそも貴族に……って言うか、御主人様に対する敬意もないし。
 必要以上の会話をしようとしないし。
 同じ部屋で寝なくなったし。
 なんだか最近、わたしにかまってくれてないような気がするし。
「う゛う゛う゛う゛う゛~~~~~~~…………!」
 また唸り始めるルイズ。
 本当は差し迫るアンリエッタの結婚式に向けて、詔(ミコトノリ)を考えなくてはならないのだが……こんな正体不明のモヤモヤした気分を抱えたままでは、とても出来そうにない。
「う゛~~~~……」
 でもやらなきゃいけないことなので、取りあえず机に向かって、ボンヤリと詔に関係あることないことを考えたりするルイズなのであった。



 数十年の時を経て、荒れ果ててしまった寺院跡。
 かつて開拓されかけ、しかし『ある理由』からその開拓を途中で放棄されてしまった場所である。
 その寺院跡に、一人の男が立っていた。
 男の狙いは、かつての寺院の司祭がこの地から離れる際に置き去りにしてしまった『秘宝』にあったのだが、それを手に入れるには1つの……しかし強大な障害を解決しなくてはならない。
 ここでこうして立っている分には、平和でのどかな平原でしかないこの場所に、一体どのような障害があると言うのか?
 男はその『障害』に思いを馳せ、身震いした。
 後方では、自分をサポートするために仲間が控えている。イザとなれば、必ずや自分を助けてくれるだろう。助けてくれるはずだ。助けてくれるに決まっている。助けてくれないと困る。
 そして、何故に自分がこのような場所にいるのかを考える。
(……気が付いたらここにいた、ということしか分からない……)
 あの高慢でプライドばかり高そうで、そして胸がほとんどない金髪眼鏡の女性は、さも当然とばかりに自分に命令を下す。
 くそう、家が名門だからってそんなに偉いのかよう。
 ……偉いんだよなぁ。
 そうして男は―――ギーシュ・ド・グラモンは、ガックリと肩を落としたのだった。


「って言うか、何で僕が前衛なんだ!?」
 普通に考えれば、ユーゼスが前衛で、自分はワルキューレなどで後方支援、そしてほとんど攻撃魔法が使えないエレオノールが物陰からちょこちょこサポートをする……となるはずだ。
 なのにユーゼスが前衛だったのは最初の戦闘くらいで、以降は全部この自分が前衛なのである。
 ギーシュも1~2回目くらいまでは『まあ、ユーゼスもワルキューレで色々と試してみたいことがあるんだろうな』と快く引き受けていたのだが、さすがに6回目ともなると不満が爆発してしまう。
 そりゃあ、最初から最後までずっと孤立無援というわけではないし、ユーゼスも本当に危なくなった場合は援護してくれた(エレオノールは本当に何もしなかったが)。
 ……しかしユーゼスに関しては、秘宝が目当てではなくて『実験』の方が重要なんじゃいかと思っている。
 人の魔法を使って実験なんかしないでくれ、と言いたい気持ちもあるにはあるが、何だかんだ言って役に立っているのは事実なので、そう大っぴらに文句も言えない。
「ぐぬぅ……。……っ!?」
 そんな感じにギーシュが悩んでいると、いきなり爆発音が響いた。
 自分が先日『錬金』で作った爆発物が、エレオノールの『着火』によって爆発したのである。
 ……その爆発音によって、この村跡が打ち捨てられてしまった『ある理由』が飛び出してきた。
「ふぎぃ! ぴぎっ! あぎっ! んぐぃぃいいいいいッ!!」
 オーク鬼の群れである。
 あんなのが大挙して押し寄せて来ては、開拓民たちも逃げ出すしかないだろう。開拓民たちはオーク退治を領主に訴えたらしいが、その訴えは却下されたらしい。ハルケギニアでは、そんな話はよくあることだった。
 そして自分はオーク鬼の群れから逃げ出したいけど、逃げられない。ギーシュはエレオノールに逃亡と今回の宝物の探索の取り止めを何度も訴えたが、その訴えは却下された。毎回そんな感じであった。
「ええい、くそっ……!」
 バラの造花を振り、その花びらからマントを羽織ったゴーレム……ワルキューレを5体ほど造り上げる。
 敵の総数は……目測で20よりは少ない。
 ギーシュはまずワルキューレを1体だけ前に出し、ユーゼスが言っていた『実験技』を繰り出してみることにした。
 この『実験技』は当たりもあればハズレもある、半分バクチのようなものなのだが、今回はどうなることか……。
「……!」
 考えている間にも、オーク鬼の群れは迫ってくる。
 とにかく、やってみないことにはどうにもならないので、実行に移す。
 ワルキューレに拳を作らせ、その腕を前方に突き出し、拳を対象にして更に『錬金』をかける。
 どうにも自分のセンスからは外れている技の名称だが、イメージがしやすいのでギーシュは技の名称を叫んだ。
「無限パーーーーンチ!!」

 突き出した拳に『錬金』がかけられ、その拳が変化して新しい手首となる。
 新しい手首の先には、また拳がついていた。
 そしてその拳に、更に『錬金』をかけ……これを延々と繰り返す。
 伸びていった腕は、見る見る内に敵であるオーク鬼へと伸びて行き……、やがてその中の1体に、ゴガン、とぶつかった。
「よ、よし……!」
 ユーゼスが言うには、このまま拳で持ち上げて、更に地面に叩き付けるのだとか。
 取りあえず言われた通りにやってみるか、と手首の角度を変えて体長2メイルほどもあるオーク鬼の身体を持ち上げようとして……。
 ベキリ、とワルキューレの腕が途中で折れた。
「ええっ!?」
 ギーシュが仰天していると、更にバランスを崩したワルキューレが伸びた腕の重みで転倒してしまう。
「何だそりゃああああ!?」
 唖然とするギーシュだったが、攻撃されたオーク鬼たちの方は激怒し、興奮し、いきり立った。
 おまけに厚い皮と脂肪を鎧としているオーク鬼には、生半可な拳の打撃など大して効果がないらしい。
 つまり結果だけ見ると、精神力を無駄遣いしてオーク鬼を怒らせただけだった。
「ああもう、何でこうなるんだぁ~!!」
 転倒したワルキューレの腕にもう一度『錬金』をかけ、伸びた腕を切り離して普通の長さに戻す。
 しかし、オーク鬼十数匹に対して、こちらの戦力は装甲が厚めのワルキューレ5体、プラス自分。
 1体分の精神力は無限パンチで使い果たしてしまったし、『最後の手段』のためにラスト1体分の精神力はキープしておかねばならない。
 何とも、心もとない布陣である。
 そして剣や槍で武装したワルキューレたちは、真正面からオーク鬼にぶつかったが……。
「よ、弱い……」
 それなりに善戦はしているのだが、やはりオーク鬼にはちょっとやそっとの切り傷など何もしていないのと同じである。
 ワルド戦で使った『ディスタント・クラッシャー』を使えばそれなりにダメージを与えられはするのだが、あくまで『それなりのダメージ』であって致命傷には至らない。奴らを戦闘不能に追い込むためには、最低でも2発は食らわせる必要があるようだ。
 だが、ワルキューレの『ディスタント・クラッシャー』は火薬を仕込んだ単発武器。そしてワルキューレの腕は2本だけで、場に出しているのは5体。
 ……オーク鬼を4体ほど倒した時点で、ワルキューレたちに打つ手はなくなってしまった。
 あとは個々の能力と、何よりも数が物を言わせ―――それでも1体だけオーク鬼を倒したが―――ワルキューレは全滅してしまう。
「あ、あわわ、あわわわわわわ……!」
 もはや丸裸同然のギーシュは、ガクガク震えながらたった1人で10匹前後のオーク鬼と対峙する。
 そして、ギーシュの頭脳はこれまでの17年間の知識を総動員しながらフル回転し、ある1つの行動を主人に導き出した。
 逃げよう。
 ダッ、と全速力で後ろへと駆け出すギーシュ。
 当たり前だが、オーク鬼たちは怒り狂って追いかけてくる。
(お、追いつかれたら、死ぬ……!)
 『命を惜しむな、名を惜しめ』という父の言葉が一瞬だけ頭をよぎったが、こんな戦いに名誉も誇りもあったもんじゃない。だから今は命を最優先だ。
 しかしオーク鬼のスピードは、人間よりも明らかに速かった。
 逃げ惑うギーシュへと迫り来るオーク鬼の棍棒。その大きさは人間1人分ほどもある。当たれば良くて大怪我、普通で即死、悪ければ苦しんだ末に死ぬだろう。
「ひっ……!」
 オーク鬼の荒い息遣いが聞こえ、黒い影が自分を覆う。
 ギーシュは必死の逃亡もむなしくオーク鬼に追いつかれ、棍棒に強打されてその短い人生を閉じようとしていた。
(も、)
 もうダメだ、と思う間もなく棍棒は振り下ろされ、
 赤い血が草原を染め、
 ギーシュはまだ走っていて、
 僕は死んでるはずなのに何でまだ走ってるんだ、と思ったギーシュがふと右を見ると、
 銀髪の男が遠くから鞭を振るっている光景が見えた。


「……やはり駄目だったか」
 長い鞭を飛ばしてオーク鬼の首をはね飛ばしたユーゼスは、ポツリと呟いた。
 ワルキューレに転用が出来そうな攻撃方法はないものか……と、クロスゲート・パラダイム・システムを使って様々な次元世界を覗いてみたのだが、『無限拳』は無理があったようだ。
 そもそもアレは『アクエリオン』というロボットだからこそ可能な技であって、外見だけ真似できるからといってそうそう上手くいくわけがないのである。
 しかし出来ないと99.9%理解していても、残りの0.1%を検証せずにはいられないのが研究者や科学者という種類の人間なのであった。
 ……ギーシュに聞かれたら殴られても文句が言えないが、言うつもりなど全くないので特に問題はない。
 それに、このトレジャーハントの旅の途中で、ワルキューレについては色々と試した。
 成功例としては、ワルキューレの腕を弓にした『ゴーガン』(弓を武器にも転用出来たので採用された)や、身体の一部を始めから刃にしておいて戦闘時に取り外して武器にする『スラッガー』などがあった。
 他にも『ディスタント・クラッシャー』の時に使う鎖を、『ディスタント・クラッシャー』に使わずにそのまま敵の動きを束縛するのに使ったり、その鎖の先に鉄球を付けて武器にしたりした。
 また、目くらましや動きをさえぎるカーテン程度にしか役に立たないと思っていた『マントを羽織らせる』というアイディアはギーシュがえらく気に入ったようだ。何でも見栄えがグッと良くなるらしい。
 ……アイディアの元は海賊のガンダムから頂いたことは、黙っておこう。
 ワルキューレの足に車輪を付けてみる、というアイディアもあったのだが、これはスムーズに動けるようになるまで少し習熟期間を要するため、保留となっている。

 そして、成功例があれば失敗例も数多くあった。
 ワルキューレの身体を一度バラバラにして、もう一度合体して再構成を―――
 とギーシュに話したら『無茶を言うな』と言われてしまった。やはりゴーレムに飛行機能が付加出来ない以上、『手の平サイズで空を飛ぶ』ことが大前提のビット兵器のようなものは無理らしい。
 ……では他の方法で飛行する方法はないものか、と考えはしたのだが……。
 極限まで軽量化して、鳥の骨格を模して飛ばせるのはギーシュが鳥について徹底的に熟知する必要があるので無理。
 背中にジェットやロケットのような物を付属させるのは、ワルキューレが弾丸になるだけなので駄目(これはこれで良い攻撃方法ではあったが)。
 それなら詳しくは知らないが『LFO』という機体のようにボードに乗せてみてはどうかと一瞬思ったが、よくよく調べてみたらあれはトラパー粒子とやらが存在しないと飛べないと判明したので口には出していない。
 結論、ワルキューレを飛行させることは不可能である。

 ……他にもワルキューレを人型から獣形態に『錬金』を使わずに変形させようとしたが、人型形態か獣形態のどっちかが、どうしてもイビツになってしまうので駄目だった。
 ならば始めから獣形態ならどうか……と、ユニコーン型、ライオン型、ヘビ型、竜型、イノシシ型、牡牛型の6種類のゴーレムを作らせてみたのだが、『やっぱり人型の方が動きのイメージがしやすい』ということで没。
 上半身が人型のままで、下半身を馬のような四足歩行にした『パーンサロイド』も試してみたが、やはり違和感を感じるらしい。
 だったらこれはどうだ、と複数体のワルキューレを物理的に合体させようとしたが、変形と同じ理由で駄目だった。
 結論、ワルキューレは人型で単体のままが一番。

 ……ワルキューレそのもののバージョンアップがこれ以上無理なら、使わせる武器を考えようともした。
 まず最初に『ドリル』を付けようとしたのだが、あのスパイラル状の形状はともかくとして、『回転させる』機構を『錬金』のワンアクションで再現するのは無理だ、と言われたので断念。
 ワルキューレの全長を上回るほどの巨大な斧や、巨大な剣……『使い勝手が悪すぎる』と不評だったので断念。
 ワルキューレに銃や大砲を付けてみる……ドリルと同じく機構の再現が出来なかったので断念。
 両手に剣を持たせ、高速で横回転させて攻撃する『シュトゥルム・ウント・ドランク』はどうかと思ったが、『高速で横回転』がどうしても『ただ踊っているだけ』に留まってしまうため断念。
 やはり機体の能力はともかくとして、ガンダムファイターの『技』を再現させるのは不可能であった。
 結論、普通の武器で普通に戦った方が良い。
 と言うか、ここまで来るとワルキューレの運用方法よりも、ギーシュの『操り方』の強化をした方が良いのではないだろうか?
 そんなことを回想しつつ考えながら、ギーシュがオーク鬼から逃げる光景を眺めていると……。
「……む」
 ギーシュが逃げる方向をこっちに向けた。
(あれでは私も巻き添えを食ってしまうな)
 そんなことはご免こうむるので、とっとと逃げ出すことにする。
 するとギーシュは、物凄い形相で何かを叫びながら自分を追いかけてきた。
(足止めをしたいのならば、青銅のトラップでも仕掛ければ良いだろうに……)
 そう思いはしたが、錯乱しかけているギーシュにそんなことを言っても無駄だろう……と結論づけて、ともかくユーゼスは逃げる。
 ……取りあえずはモグラのヴェルダンデが掘った穴まで、あのオーク鬼たちを誘導しなければなるまい。



「も、もう、もう嫌だぁぁあああああああ……!!」
 『戦利品』である真鍮製のネックレスやイヤリングを見て、ギーシュが嘆く。
 ……あの後、どうにかこうにかオーク鬼たちを迎撃しつつ落とし穴まで誘導し、落としたオーク鬼たちに用意しておいた油を浴びせ、更に火薬を満載させた最後のワルキューレを1体放り込んで『自爆』させて事なきを得た。
 結果としてオーク鬼たちは全滅し、ユーゼスは『自爆させるくらいなら、頭や下半身をミサイルのように飛ばせば……』などと考えたりしていたが、ギーシュの精神はかなり参っていた。
 ギーシュは切実かつ切迫した様子でユーゼスに訴える。
「……も、もう、もう魔法学院に帰ろう!? そもそも、僕たち3人だけでこんな危険なことをするってこと自体が間違いだったんだよぉ……!!」
「確かに3人で、というのは少々厳しかったな」
 出発する直前、他について来てくれそうなメンバーに声をかけようとはした。
 最初にキュルケの所に行こうとしたのだが、『ミス・ツェル―――』と言いかけた時点でエレオノールに物凄い形相で睨まれた。そう言えばヴァリエール家とツェルプストー家は物凄く仲が悪かった、と思い出してキュルケは諦めた。
 次にタバサに声をかけようとしたが、部屋まで行ってノックしても返事がない。どうやらどこかに出掛けているらしく、何でもタバサはたまにこうやって学院からいなくなることが多いそうだ。
 ではダメ元でモンモランシーはどうかという話になり、『ならば僕に任せてくれたまえ』と自信満々でギーシュが向かったが、10分後に頬に赤い手形をつけて戻って来た。
 他にも色々と声はかけてみたのだが、返事は全てNO。
 まあ、あるかどうかも分からない宝を探して、大怪我どころか命すら危ない道中に身を投じるために授業をサボタージュするような酔狂な人間はそういるまい。
 しかも実際に命が危なくなったのだから、ギーシュが嫌になるのも無理はなかった。
「大体、直接的な戦闘に向いている人間が一人もいないって時点で……!」
 と、必死になってユーゼスに帰還を呼びかけるギーシュだったが、今回の宝探しの『そもそもの元凶』の出現によってその口は閉ざされる。
「……泣き言を言うのはそれまでにしておきなさい。それでも元帥の息子?」
「ミ、ミス・ヴァリエール……!」
 苦手意識どころか、もはや軽い怯えすら見せてエレオノールから後ずさるギーシュ。
 『もうやめましょう』、『もう帰りましょう』、『もう諦めましょう』と言う度に徹底的に言い負かされ、自分の意思を無視され、そして強引に……と言うか無理矢理にここまで付き合わせた女性である。
 なお、このエレオノールとの一件によってギーシュには『年上の女性』が少々トラウマになりつつあるのだが、本筋とは関係がないので割愛する。

 そんなギーシュはなけなしの勇気を振り絞って、エレオノールに上申した。
「ミス・ヴァリエール、もう7件目です! この1週間……いえ、もうそろそろ10日になりますが、あなたがどこからか手に入れた地図を頼りに行ってみても、見つかるのはせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた『秘宝』なんて、カケラもないじゃないですか!」
「フン、最初から失敗を恐れてるようじゃ、成功は望めないわよ」
「限度がありますよ!! いくら何でも!!」
(……確かにな)
 ユーゼスは道中でのエレオノールの言動や行動を見るに、彼女は『宝探し』よりも別に目的があると考えていた。
 特に先ほどのような戦闘中は、自分に視線が向けられていることを感じる。
(目的は……『私』か?)
 ガンダールヴの能力の見極めか、あるいは自分という人間を判断するためか。
 妹を預けるような形になっている以上、心配することは理解が出来ないでもないが……。
 ともあれ、さすがに10日間というのは長い。
「その辺りにしておけ、ミス・ヴァリエール」
「……何よ、ユーゼス。あなたも文句があるの?」
 ジロリとこちらに視線を向けるエレオノール。
 ちなみに一週間を越える時間を経て、彼女のユーゼスに対する呼び方は単なる『ルイズの使い魔』とか『平民』から、『ユーゼス』に変わっていた。
「持って来た保存食料も底をつき始めた。それに夜具やテントも使い込んで調子が悪くなりつつあるからな、いい加減に切り上げ時だろう」
「……むう」
 確かに、一理ある。
 体力も辛くなってきたし。
 そろそろテント生活が耐えられなくなってきたし。
 何より、肌がどんどん荒れてきたし。
「…………なら、最後にあと1件だけ行ってみて、それで終わりにしましょう」
 そのエレオノールの言葉を聞いて、ギーシュの顔がパッと明るくなった。しかし直後に『まだあと1件あるのか……』と落ち込み始める。浮き沈みの激しい男である。
「最後の1件か。……どのような場所にある、どのような宝なのだ?」
「場所は……ラ・ロシェールの向こうにあるタルブって村ね。名前は……『銀の方舟』だとか」
「……『銀の方舟』?」
 聞き覚えのある名前だった。
 アレは確か……。
「話は道中でも出来るでしょう。それじゃ、早速出発するわよ」
 ユーゼスが思い出している途中だったが、それに構わずエレオノールは馬車に乗り込む。
(出来ればアレは放置しておきたかったのだが……)
 口でエレオノールに勝てるとはとても思えないし、他の人間ならともかくこの女性に対して嘘をつき通せる自信もない。
 取りあえず『現物』を見てから考えよう、とユーゼスはギーシュを引っ張って馬車に乗り込んだのだった。



 その日の夜。
 街道の脇で馬車を止めて、一行は野宿することにした。
 近くには手頃な村もないので、こうするしかないのである。
 馬車を操る御者はその馬車の中で休んでおり、ギーシュは自分の使い魔のヴェルダンデと抱き合いながらテントの中で眠っていた。
 ユーゼスは転がっていた丸太に座って焚き火の見張りをしながら、何をするでもなく星を眺めていたのだが―――
「……雰囲気の暗い男ね。そうして火に照らされていると、危ない人間にしか見えないわよ?」
 エレオノールが横に置いてあるもう一つの丸太に布を敷いて、その上に腰掛ける。
 そんな彼女を一瞥すると、ユーゼスはぞんざいな口調で『それで構わん』と呟いた。
 ……暗い人間だとか、危ない人間だとか言う評価など、別に問題ではない。
 むしろ、自分を的確に表現していると言えるだろう。
 しかし、言われた彼女の方は自分の言葉に納得がいかないようだった。
「この道中、あなたとはそれなりに関わってきたけど―――何だかあなた、人とあまり関わろうとしていないのね」
「ふむ」
 少し驚く。
 ただ頭ごなしに命令するだけかと思っていたが、意外と人のことを良く見ているものだ。
 ……いや、自分の観察に重きを置いていたようだったから、その程度のことは分かって当然か。

「いかにもその通りだ。……私は、人との関わりを避けている」
「……………」
「どうした、そんな驚いた顔をして。お前の見立ては間違いではなかったのだぞ?」
「……いえ、普通はそこで『そんなことはない』って言うんじゃないの?」
「否定しても意味がないだろう。同様に、人と積極的に関わることも意味がない」
 意味のないことは、極力しない主義だ。
 それにこの女性は自分と話をしたいようであるし、ここで否定しては話が途切れると考えたので、あえて肯定してみた。
 まあ、無意味と言うのなら、この会話こそが無意味ではあるが。
「『無意味なことに意味がある』……なんて哲学的なことを言うつもりはないけど。あんまりそうやって効率を重視したり簡潔すぎたりすると、息苦しくなるわよ?」
「特に問題はないな。息苦しさなど、昔からずっと感じていたことだ」
「……………」
 呆れた視線でエレオノールはユーゼスを見る。
 ……そんな目を向けられても、自分の人生はこれまでずっと息苦しさを覚えるようなものでしかなかったのだから、仕方がない。
 ずっと何かに追い立てられていた。
 ずっと何かに焦っていた。
 ずっと何かに苦しんでいた。
 ずっと何かを求めていた。
 ずっと……何かと戦っていた。
 今となってはその『何か』の正体も分からないが、そんな状況で息苦しくないわけがない。
 ユーゼスにとって、『息苦しさ』とはもはや日常であった。
「しかし、『息苦しい』と言うのならば……」
 そうしてユーゼスは、ゆっくりとエレオノールを見つめる。
「……何よ?」
 いぶかしげな様子で、今度は自身がユーゼスの視線を受け止めるエレオノール。
 だが次に彼が放った言葉によって、彼女の表情は固まった。
「いや、『息苦しさ』ならば、お前も感じているのではないか?」

「…………な」
 『そんなことはない』、と否定しようとして―――だが、エレオノールはその言葉を否定しきれない。
 貴族として。名門ヴァリエール家の長女として。アカデミーの主席研究員として。
 物心がついた時から両親には厳しく躾けられ、常にトップであることを義務づけられ、なまじ才能があったばかりに―――
「……っ」
 強引に思考を打ち切る。
 このことについて、深く考えては駄目だ。
 止めないと……何かが、止まらなくなる。
 エレオノールは少しわざとらしく咳払いをして、話題を転換した。
「……そんな抽象的な話はともかく……」
「お前から話を振ってきたはずだが」
「うるさいわね! ……ともかく、もうこの話はやめましょう。それこそ息苦しくなってくるんだから」
「そうだな」
 転がっていた小枝を薪として焚き火に放りながら、ユーゼスは同意する。
 ……ある程度の期間を一緒に過ごして分かったのだが、どうにもこの男には『主体性』というものが見えにくかった。
 とにかく受動的と言うか、意志の強さが感じられないと言うか……。
 あのグラモン家の四男のゴーレムにあれこれ注文を付けている時は、そんなものも見え隠れしていたが、一旦『研究』から離れるとすぐ元に戻ってしまう。
 まるで人生全てを諦めているような、あるいは人生でやるべきことを全てやり尽くしてしまった後のような、そんな印象をエレオノールは感じていた。
(見た目は若いわよね……)
 どう見ても自分と同年代程度にしか見えないこの男が、そんな密度の濃い人生を送っているとも思えない。
 何かの呪いか、あるいは魔法で不老にでもなったのかしら―――とも思ったが、それなら『ディテクト・マジック』に何らかの反応があるはずである。
 ……そこまで考えると、この銀髪の男が妹に召喚される前のことが気になった。
 よくよく思い返してみれば魔法学院の生徒や、主人であるルイズですらユーゼスの過去は知らないようであるし。
 興味本位でそれを尋ねてみると、
「……人に語って聞かせるような、立派なものではない」
 アッサリと、そう返された。
 そして逆に尋ねられる。
「では、お前のこれまでの経歴はどうだ? 人に物を尋ねるのであれば、まずは自分から語るのが道理だろう?」
「え……」
 そう言われても……それこそ、語って聞かせるようなものではないような気がする。
 だが、まあ、立て続けに自分から話を振っておいて、自分で話を打ち切るのはどうかと思ったので、簡単にではあるが『自分の経歴』をユーゼスに話した。
 ヴァリエール家の長女に生まれたこと。
 幼い頃から『立派な貴族であるように』と、さまざまな教育を受けたこと。
 トリステインの魔法学院に入学し、優秀な成績を残し続け、首席で卒業したこと。
 卒業後はアカデミーに鳴り物入りで入所し、以後は様々な業績を残して主席研究員にまで登りつめ、現在に至ること。
「……………」
 ユーゼスは、黙ってエレオノールの話を聞いていた。
「……まあ、こんな所かしら」
 語り終わって、何だかむなしくなった。
 何と言うか―――意外に早く、自分の経歴を語り終えてしまったのである。
 もちろん細部には色々なエピソードがあるし、努力もしたし、壁にぶつかったことも一度や二度ではない。
 プライドの問題があるため言わなかったが、恋だって少なからず経験がある。……全部破れたが。
 だが、こうして簡潔にまとめてみると……『簡潔にまとめてしまえる』ことに、何だか落ち込んでしまう。
「ふむ、なるほど」
 自分の話を聞いていた銀髪の男はそう言って頷くと、
「私もそれと大差がないな」

 唐突に自分のことを語り始めた。
 おそらくエレオノールが過去を語ったので、自分も語る気になったのだろう。
 ユーゼスは『子供の頃など、もはや全く覚えていないので省くが』と前置きした上で、自分の過去を語り始めた。
「……学術機関に在籍していたのは、そちらと同じだ。そこで自分の決めた研究テーマに打ち込み、それなりに結果も出した」
「研究テーマ? ……どんなことを研究してたのよ?」
「汚染された大気や自然環境の浄化、だな」
「?」
 何よそれ、とばかりにエレオノールは首を傾げる。
 無理もない。
 このハルケギニアでは『環境汚染』などという概念は、あまり馴染みがないのだから。
「……何と説明すれば良いか―――そうだな、『空気や水を通して世界中に広がる毒』を除去する、とでも考えてくれ」
「はあ……」
 まだ得心がいかない様子のエレオノールだったが、ユーゼスは概要はおぼろげながら理解したと判断して話を進める。
「その後は……あまり多くは語りたくないのだが」
「何よ、気になる言い方ね」
「そうかね? ともあれ詳細は隠させてもらうが、分不相応な野望を抱いて、それに破れた。破れた直後は何をするでもなく一人でいたが、そうしている内に御主人様に召喚され……後は知っての通りだ」
「……肝心なところが隠されてるから、いまいち要領を得ないけど……。その『野望』って言うのは何なの?」
「語りたくない、と言っただろう?」
「それは気になる言い方だ、とも言ったわね」
「……………」
「……………」
 沈黙する二人。
 そのまま少しの間、そうしていたが―――やがて焚き火の中の枝がパチンと弾け、ラチが明かないか、とユーゼスは根負けしたように自分から口を開く。
「……笑われるか呆れられるかされることを、覚悟で言うが」
「言ってくれなきゃ、反応のしようもないでしょう」
 そしてユーゼスは、さも言いたくなさそうに、まるで『自分の恥部』を告白するかのように、言った。
「神になろうとした」
「…………え? 何ですって?」
 思わず聞き返すエレオノール。
 よく聞き取れなかった……と言うか今、この男の口から凄い言葉が出たような気がする。
 主人から『無愛想で何を考えているのかよく分からない』と評された使い魔は、ハルケギニアに召喚されてから初めて苦々しげな表情を浮かべ、もう一度その言葉を口にした。
「……神になろうとした、と言ったのだ」
「…………神ぃ?」
 エレオノールは唖然とした。
 神?
 この理屈や理論を何よりも重視し、不確かな存在など一切認めないとでも言わんばかりの、このユーゼス・ゴッツォが?
 『実際には神とは違うのだが……』などとブツブツ言ってはいるが、例え話にしても『神』とは……。
「何と言うか……」
 吐息と共に、言葉が漏れる。
 それを聞いたユーゼスは額を指で小突きながら、
「……だから言いたくなかったのだ」
 と、深い溜息と共に小声で言うのだった。

「ふぅん……。まあ、確かに壮大すぎると言うか、身の程知らずと言うか、馬鹿みたいな考えねぇ……」
「……………」
 やはり言うのではなかった、と後悔してももう遅い。
 これ以降、この話を元に自分が散々からかわれたり馬鹿にされたりする光景を思い浮かべて、ユーゼスは少し落ち込んだ。
 ……落ち込むような精神がまだ自分に残っていた……いや、そんな精神が新たに芽生えていたことに、驚きも感じていたが。
 そしてエレオノールは、ユーゼスに蔑みやあざけりの言葉を、
「でもまあ、それも良いんじゃないの?」
「?」
 ……そんな言葉は、放たなかった。
 まさかそのようなリアクションが返って来るとは思わなかったので、思わずユーゼスは疑問を顔に浮かべる。
 その疑問に、エレオノールは答えた。
「何だか安心したわよ。……悪いけど、私は今まであなたに対して『人間味』みたいなのをあまり感じてなかったから、そういう『願望』みたいなのがあったって分かるとね」
「そういうものか?」
 ユーゼスとしては、どうにも信じがたい理屈である。
「そういうものよ。たまにあなたのこと、ゴーレムかガーゴイルかって思うこともあったし。
 ……その内容はいただけないけど、でも……」
 エレオノールは、軽く笑みを浮かべた。
「あなたもちゃんと『人間』なんだって、安心した」
「……………」
「……何よ、その絶滅したはずの幻獣を見たような顔は?」
「…………お前が笑っている所など、初めて見た」
 ユーゼスが言った言葉に、カチンと来るエレオノール。
 その言い方では、まるで自分が笑い方を知らないようではないか。……いや、確かに他人に笑顔などを見せるのは随分と久し振りなような気がするが。
「悪い? 人間なんだから、怒りもすれば笑いもするわよ」
 って言うか、笑わないのはそっちも同じじゃないの……と、拗ねたような顔をして、ユーゼスに言う。
 そして次の瞬間、今度はエレオノールが驚いた。
「フッ……、そうだな。結局、私は―――どこにいようと、どこまで行こうと、どれだけ時が経とうと、人間でしかない……」
「……………」
「……何だ、そのありえない現象を目撃したような顔は?」
「…………あなたが笑ってる所、初めて見たわ」
 その言葉を聞いて、ユーゼスは自分の顔を右手でペタペタと触る。
 だがすぐに気を取り直すと、エレオノールに向けて反論を開始した。
「悪いか? 人間なのだから、怒りもすれば笑いもするだろう」
 金髪の女性は、銀髪の男の言葉にキョトンとして―――
「……フフ、そうね」
 ―――もう一度、軽く笑う。
 つられたユーゼスもまた、もう一度軽く笑った。
「それじゃあ、もう寝ましょうか。明日も早いんだし、もしまた何かの亜人や幻獣がいたら寝不足じゃ対応しきれないわよ?」
「そうだな」
 ユーゼスはギーシュと同じテントに、エレオノールは専用の少し豪華なテントに向かう。
 意味があるのか無いのか、よく分からない話はこれで終わりだ。
 明日には、最後の秘宝があるというタルブ村に着くだろう。
 それに備えて、睡眠をとらなくてはならない。
「朝にはちゃんと起こしなさいよ?」
「起こしたのならば、きちんと目覚めることだ」
 就寝のあいさつ代わりに、言葉を交わす。
 二人はそれぞれ違う場所で毛布を被り―――
(……そう言えば……)
(……あれ以前に最後に笑ったのは、いつのことだったか……)
 ―――全く同じことを考え始める。
 しかし記憶を漁ることに疲れ始めると途中で切り上げ、やはり二人ともほぼ同じタイミングで眠りに入ったのだった。


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