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ゼロの黒魔道士-24


「あ、あの、失礼ですが、あなたがウェールズ殿下であられる証は――」
「ハハハ、確かに空賊じゃない証拠が必要だったね、可愛い大使殿!ちょっと失礼を――」
そう言って、さっきまで髭を生やしていた空賊のお頭は、
ルイズおねえちゃんの左手を優しく右手で持ち上げて、自分の左手をそっと添えたんだ。
そうすると、ルイズおねえちゃんのつけていた『水のルビー』から、
キラキラと揺らめいている虹が伸びてきて……
「ほら、『風のルビー』と反応している。君の『水のルビー』も本物のようだね!
 これが王家の間にかかる虹の橋で本物の証っていうわけさ。納得、いただけたかな?」
2つの指輪でできた虹の橋がクルクルと色を変えながら輝いていた。
「た、大変、失礼をばいたしました!」
ルイズおねえちゃんがさっと頭を下げる。
「いや、気にすることは無いさ。僕だって、君達を疑ったわけだしね!それで、用とは何かな?大使殿」
そうだ、この人に会うためにここまで来たんだ。
ここでウェールズ王子に出会えたことは、運がすっごく良いってことなのかなぁ?

でも……なんか、都合が良すぎて、嫌な予感がするなぁ……

―ゼロの黒魔道士―
~第二十四幕~ 真愛の希望


「なんと!姫は結婚するのか?あのアンリエッタが?私の可愛い従姉妹が?」
ルイズおねえちゃんが、お姫様から預かったお手紙を渡すと、
ウェールズ王子は目を卵みたいにして驚いたんだ。
「そうか……そういう事情ならば、あの手紙はお返しせねばなるまいな」
お手紙をじっくりと読んだ王子様は、ニッコリと微笑んでこっちをこっちに視線を戻した。
なんとなく、スッキリしたような、悲しいような、そんな顔をしていた。
「――それで、ウェールズ殿下。件の手紙はまさかこの船に?」
さっきまで黙っていたワルドおにいさんがふいに聞いた。
ちょっとだけ、声が上ずってる気がするのは、任務が成功しそうで嬉しいからかなぁ?
「ハハハ、まさか!多少面倒だが、ニューカッスルの城までご足労願いたわねばね」

ボク達の乗る船(軍艦『イーグル号』って言うんだって)は、
アルビオンの海岸線を、お昼ごろのクリーム色のお日様に照らされた雲に隠れるようにして、ゆっくり進んでいったんだ。
そしたら、前の方に、アルビオンの海岸線が切れる端っこの方に、おっきなお城がそびえてた。
……あんなところに建ってて、落ちたりしないのかなぁ?
「あれが、ニューカッスルの城、我が最期の砦、さ!」
ウェールズ王子がそう説明する。
「あの、恐れながら、最期、というのは――」
ルイズおねえちゃんが聞く。
「――戦況を甘く見るつもりは無いさ。我が軍は三百、敵軍は五万。我々にできる事は、せいぜい華々しく散ってやる事だけさ」
肩をすくめて、まるで何ともないという風に、ウェールズ王子が答える。
……この人は、自分が死ぬっていうのに、なんでこんなに笑顔になれるんだろう?
「そ、そんな――」
ルイズおねえちゃんが声を失くす。
それが普通の反応だと思うんだ。なんでこの人は、笑顔で自分の死を迎えられるんだろう?
「――さて!これから本船は雲の中を通る、視界が悪くなるから注意してくれよ!」
「……えっと、お城は真っ直ぐ先にあるのに、まだ、わざわざ雲の中を通るの?」
目指すお城まで、雲の無い空間が広がっているのに、そこを通らずに真下の雲に入ろうとしていた。
「叛徒どもの、艦だ」
ウェールズ王子が城のはるか上空を指差した。
遠く離れたところから、おっきな、もしかしたらお城よりも多きかもしれない船が降りてくるところだったんだ。
帆を何枚もはためかせて降りてきたと思うと、 ニューカッスルのお城めがけて並んだ大砲から一斉に煙が上がった。
それに少し遅れて、お城から煙と炎が上がってくる。
……やっぱり、戦争って、嫌だなって思うんだ。
「かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒どもは『レキシントン』と呼んでいるがね」
ウェールズ王子は微笑を浮かべて言った。
「あの艦は、空からニューカッスルを封鎖しているのさ。たまに嫌がらせのように砲撃を加えてくる」
ボクも、ルイズおねえちゃんも、雲の切れ目に遠く覗いているおっきな戦艦を見つめる。
「備砲は両舷あわせ百八門。おまけに竜騎兵まで積んでいる」
ウェールズ王子の言うとおり、数えきれないぐらいの大砲が船の横から突き出ているし、
船の上にはドラゴン達が死体に群がる蝿のように飛んでいた。
「さて、我々の船はあれを避けて、大陸の下から城に近づく。そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」
……なんで、戦争って起こるんだろう。
ボクの頭は、答えの出そうにない思いで、グルグルと回り続けていた。

「いやぁ~相棒ぉ!忘れられたと思ったぜぃ!」
「あ、うん、デルフ、ここはお城だし、静かにしててね?」
洞窟のような港に着くと、デルフを返してもらって、ボク達はウェールズ王子の部屋に向かったんだ。
「あったぼーよぉ~!おれっちだって、マナーはわきまえっぜ?」
「インテリジェンス・ソードかい?なるほど、勇敢な少年にお似合いのおもしろい武器といわけか!しかし君が使い魔とはね――」
ウェールズ王子が変な感心をする。
デルフがおもしろい武器っていうのはボクも思うけど……勇敢な少年って、ボクのことかなぁ?
ボク、何かやったっけ?

王子様の部屋は、イーグル号の船長室以上に質素な部屋だった。
こういう、趣味なのかな?
無駄な飾りが無いのは使いやすくていいと思う。
ウェールズ王子は机の引き出しを開き、キラキラの宝石がちりばめられた小箱を取り出したんだ。
その光が、こぼれるように部屋の中を照らす。
鍵を使い蓋を開けると、そこにはアンリエッタ姫の肖像が描かれていたのが見えた。
「――宝箱、でね」
王子様は最初にお姫様のお手紙を読み終わったときみたいな寂しそうな笑顔を見せたんだ。
その後、箱の中からボロボロに擦り切れた手紙を取り出し、ゆっくりと読み返し始めた。
笑顔に隠れた寂しさの色合いが、どんどん濃くなっているのを感じた。
読み終わると、ウェールズ王子はそのお手紙を丁寧に、丁寧にたたんで、封筒に入れてルイズおねえちゃんに手渡したんだ。
「ありがとうございます」
ルイズおねえちゃんは深々と頭を下げて、そのお手紙を受け取る。
これで、任務は完了、かな……
でも、なんだろう、ちっとも嬉しくない。
「――殿下、失礼をお許しください。恐れながら、お聞きしたいことがございます」
「ん?何だい?」
ルイズおねえちゃんが意を決したように言葉を紡ぎだす。
「ただいまお預かりいたしました手紙の内容、これは、もしや――」
「ルイズ!」
ワルドおにいさんがルイズおねえちゃんが言葉を続けようとするのを止めようとする。
でも、王子様はほんの少し悩んだ表情を見せた後、はっきりと、堂々と言ったんだ。
「ハハハ、お察しの通り、恋文だよ。ゲルマニアの皇帝と婚約するとなれば、邪魔になる類のものさ」
恋文?え?アンリエッタ姫とウェールズ王子って、そういう仲だったの?
ますます、お芝居みたいなお話だなぁと思ったけど、これって現実の話なんだよね。
「――こいつぁおでれーた。事実は芝居よりも奇なりってぇヤツだな」
……ちょっとだけ、デルフと同じことを考えていたのが悔しい気がするのは、なんでだろ?
「姫様は、殿下と恋仲であらせられたのですね?」
「昔の話だ」
ルイズおねえちゃんはワルドおにいさんに抑えられながら、熱っぽい口調で言葉を続けたんだ。
「殿下、亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」
「それはできんよ」
寂しそうな笑顔でルイズおねえちゃんの言葉をすぐに否定する王子様。
……亡命すれば、お姫様と幸せに暮らせるのに、どうして、死ぬようなところに?
「明日の朝、非戦闘員を乗せて出航する『イーグル号』に乗ってお帰りなさい。君達の乗っていた貨物船の乗組員も同乗するよ」
「そんな!殿下と姫は!殿下と姫は――」
「――そろそろパーティーの時間だ。我が王国最後の客として、君達には是非出席して欲しい」
それだけ言うと、ウェールズ王子はボク達を部屋の外に促したんだ。
……なんか、ボクまで王子様みたいに寂しい気分になった。


パーティーは、華やかに進んでいた。
まるで、明日も、こうしていることができるように、いつもどおりといった感じで。
「相棒ぉ~、元気出せよ~」
「あ、う、うん……」
さっきまでの王子様の部屋での会話が頭の中でグルグル回って、
いくつもの「どうして?」が浮かんできて、ボクはあんまり楽しい気分にはなれなかった。
「ろくなおもてなしができなくてすまないね。これでも、精一杯の宴なんだが、楽しめてもらえてるかな?」
邪魔にならないように、隅っこの方に立ってたら、ウェールズ王子から話かけてきたんだ。
「あ、う、うん……みんな、戦の前なのに、笑ってる、ね……」
ボクは、すっごく複雑な気持ちだったんだ。
ボク達は戦争のために作られた存在というのは理解したし、
ある程度は乗り越えたつもりだった。
いつかは動かなくなってしまうことも理解できたし、
動かなくなることは悲しいことだけど、静かに迎えることもできた。
でも、この人たちは、今から命を投げ出すというのに、笑ってパーティーをしてる。
ボクには、よく分からなかったんだ。
「――あぁ、まぁ、ね。みんな、怖いのさ。本当のところは」
肩をすくめてニッコリ笑ってみせる王子様。
どことなく、ジタンに似た笑い方だった。
「……ならどうして、死ぬと分かっていながら、怖いと思っていながら、笑えるの?」
寿命が近づいていて、諦めているっていう笑い方でもない。
今までの人生に満足して、旅立とうとしてるって笑い方でもない。
今をしっかり生きようとする笑い方、そんな笑い方がどうしてできるのか、ボクには不思議だったんだ。
「ハハ、最もな質問だね。だが、君の質問は順序が逆だな。怖いと思っていながら笑うんじゃなくて、怖いから笑っているのさ」
「……怖い、から?」
「そう、怖いからだ。怖いけど、戦わなきゃならない。間違いなく、死ぬだろう。それでも、戦わなきゃならない。
 だから、せめて笑い飛ばしてやるのさ。恐怖も、悲しみも、敵も全部、ね。それが、せめて僕達がここに今生きていることの証になれば、ってところかな」
ウェールズ王子は、ボクに分かりやすいようにか、簡単な言葉を考えながらゆっくり話してくれる。
その優しさが、その言葉が、あったかくて、悲しかったんだ。
「……じゃぁ、なんで、戦うの?」
ボク達みたいに、世界を救うってわけでもない。
逃げたり、降参したりすることだってできるはずなのに、
それでも、負けるだろう戦いにこの人達は行こうとしている。
「――そうだね、難しい質問だが――強いて言うならば、そうだな」
ボクの肩にポンと手を乗せる王子様。
その手が、妙に軽い気がした。
「――愛する人を守るのに、理由はいらないだろ?」
「え」
ドキッとしたんだ。
あの時のジタンと、同じようなことを言ったから。
「このままヤツらに黙ってやられれば、あいつらは、すぐさま全戦力でもってトリステインを、愛する人の国を襲うだろう。
 だから、せめてヤツらの戦力を削ってやるのさ。そうすれば、時間が延ばせる。愛する人を、死んでたとしても守れる時間がね」
この人は、アンリエッタ姫のことが本当に好きだったんだって思った。
どんな無理なことがあっても、好きな人を守りたいって気持ちがあるんだなって思った。
肩に乗せられた軽い手が、ちょっと震えていることに気づく。
この人も、怖いんだ。死ぬことは。
それでも、守りたいモノがあるんだ。
この人は、強い。
純粋な力じゃなくて、心がものすごく強い。
この人が、なんだかすっごくかっこよく見えたんだ。
「ある意味、君と同じかもね?勇敢な使い魔君。君も、君の可愛い主を守ろうとしたじゃないか、敵陣の真ん中で」
「え?」
「ほら、今朝の空賊船だよ。危うく僕は君に殺されそうだった、違うかい?」
……あ、この人に『バイオ』をかけようとしてたことはバレてたんだ。
「……あ、えっと……ご、ゴメンなさい……」
「ハハハ!あの状況なら、仕方ないよ!気にしないで、これからも主を守ってあげたまえ!――あぁ、そうだ、勇敢なる少年にお願いしたいことがある」
そう言って、王子様は左手から指輪を、『風のルビー』の指輪を取り外してボクの手に押し込んだ。
「これを、僕の大事な人に渡してくれないか?僕が死んでしまっても、お嫁さんに行っても僕のことを覚えてくれるように、ね」
もう1回、顔に笑顔を作り直して王子様が言う。
その笑顔は、さっきよりももっと悲しく感じられたんだ。
「……あ、え、えっと……ウェールズ王子は、人っていつ死ぬと思う?」
あんまり悲しそうな笑顔だったから、ついついこんなことを言い始めてしまったんだ。
「ん?」
「ぼ、ボクは……誰かに忘れられなければ、誰かの『記憶』に残っている限り、死んでないって思うんだ……だから……」
『記憶の回廊』でボク達が見つけた答えの一つ。
誰かが覚えていてくれている限り、命は続くんだ。
だから、ボクは生きてこられたし、これからも生きていたいと思うんだ。ずっと。
「ふむ――おもしろい!すると僕達はまさに不死の軍団になれるというわけだ!これはいい!!」
ウェールズ王子がニカッと歯を見せて笑う。
さっきの悲しさは少しだけおさまったみたいだ。
「ならば是非、僕達のことを覚えておいてくれるかい?勇敢な君に覚えられれば、永久の命を持つ精霊にも匹敵しそうだからね」
そう言って、握手をする僕達。
王子様の手の震えは、少しだけ治まっていた。
「さて、そろそろ行かなくては。他の連中にも不死の軍団構想を話してやらねばね!それじゃ、宴を楽しんでくれ!」

去っていく王子様の後姿を見て、強い背中だなと思ったんだ。
憧れの人が、もう1人増えた気がした。


「――よぉ、相棒?」
「……ん?どうしたの、デルフ?」
「――忘れっぽい俺様だけどよ?俺様はいつでもお前さんのこと覚えててやるぜ?」
「……ありがとう、デルフ」



ピコン
ATE ―偽恋の野望―

男は苛立っていた、と同時に、高揚していた。
計画していた流れこそは全て壊滅的なまでに崩れていた。
雇った傭兵共は学生すら相手にできぬ屑ばかり、
虚無の力を持つであろう婚約者の返事は色よく無く、
さらに使い魔の所持する剣は魔法を吸収する厄介な代物ときている。
自分の力を見せつけ、婚約者を落城せしめんと意気込んでいただけに、
予定外のことばかり起き未だ城壁にへばり着いたままの状況には辟易していた。
だが、それも今は昔の話だ。
そう、今この瞬間、もう一つの目当て、その城壁どころか城そのものの中に潜入した今となっては。
目指す獲物はまさに目と鼻の先。
後は美味しくいただくだけの状態だ。
だが、焦りは禁物だ。
弛んだ頬を再び引き締める。
こういったものは時期が問題となる。
罠にかかった獲物でも、暴れ逃げるという可能性は捨てきれない。
慎重に、と理性では考えつつも、顔は自然とにやけてしまう。

力が、待ち望んでいた力が、欲していた力が、
手首をひねればもぎ取れそうな位置に存在しているのだ。
それは魔力であり、権力であり、望みを叶える力そのものだ。
所詮この世は弱肉強食。
力の無い野鼠は雄々しく飛ぶ鷹の爪で引き裂かれる。
かつて自分も野鼠だった。
母の愛に飢え、野の隙間を彷徨うだけの愚かな小動物だった。
だが、今は違う。
磨きに磨いた杖は天地を引き裂く虎の爪だ。
上司の覚えめでたく確立した地位は山の頂だ。
だが、足りない。
まだまだ力が必要だ。
虎の爪ではまだ足らぬ、欲する武力は龍神の強さ。
山の頂ではまだ足らぬ、欲する権力は天界の高み。
神々のごとき力が、そう、運命すらねじ伏せる力を、男は欲していた。
その武力の源が、ほぼ間違いなく、自らの隣、婚約者の中にある。
その権力の鍵が、ほぼ間違いなく、自らの目の前、王子の首に宿っている。
高揚せずにはいられなかった。

しかし、男はまだ手を出していなかった。
夜の帳が降り、宴の終焉が近づいてもなお、動かなかった、
否、動けなかった。
怖気づいたのか、と自問自答する。
否、自分は野鼠のごとき臆病者ではない。
全てを一度に手に入れるための計画を練っていただけなのだ。
決して、予期せぬ事態が続いたことで考えが回らないということは無いのだ。
予期せぬ事態が続いたからこそ、計画に穴が無いか、慎重に考えなおしているだけなのだ。
「大舞台でのアクシデントもフォローできないなんて!やはり、君は三流の大根役者だねぇ!」
あのクジャという男の嘲笑が聞こえる気がする。
誰が三流だ!誰が大根役者だ!
自分は主役だ、自分こそ全ての力で舞台を操る神なのだという自負が、
掌に伝わり、グラスにヒビの文様を作りだす。

「おぉ、大丈夫ですかな?お手にお怪我は?」
「あぁ、いや大丈夫――少々、任務が続いて気が立っていたようだ」
力への渇望も、黒き野望もひた隠し、微笑の仮面を作りだし給仕に答える男。
「大丈夫?ワルド?」
「あぁ、大丈夫さ。君こそ、持ち直したかい?」
優しき婚約者の仮面を被り、小娘へのフォローも忘れない男。
そうさ、仮面など、いくらでも被ってやろう。
演技などお手の物だ。
誰が三流大根役者だ、クジャめ!
あの露出の多い男が『レコン・キスタ』に姿を見せたときから、
その笑みに、その容姿に、その口調に、気に入る点など何一つ存在しなかった。
芝居がかった物言いに、道化のような仕草、思いだすだけで反吐が出る。
芝居、という単語に思考が至り、男の仮面が一瞬陰る。
そうだ、芝居だ。
仮面を元の微笑に戻しながら、心では己の計画がみるみる組みあがる様にドス黒い笑い声をあげる。
「どうか、なさいましたかな?」
「あぁ、なんでもないとも――少々飲みすぎたかもしれん」
「ちょっと、ワルド、大丈夫?」
仮面が剥げるのを給仕や婚約者に見とがめられたかもしれないが、
如才なくこれを切り抜ける。
頭では完璧な台本が出来上がった。
今度は、どんな邪魔が入ろうとも、完全な芝居ができるだろう。
あの少年使い魔なぞ、雑音にもならない。
そう、全ての力を一度に手に入れることができる秀逸な台本だ。
「――そうだな、酔い潰れる前に、部屋に戻るとするか。だが、その前にウェールズ殿下にご挨拶したいのだが、今はどちらにおられるかな?」
「ウェールズ様なら、あちらのテーブルの方で臣下の方とご歓談中のようですぞ」
そうか、と一言。
婚約者には少しここにいて欲しいということと、後で大事な話があると言い残し、思い描いたとおりに歩を進める。
仮面ではない、本当の笑みが顔からもれる。
宴を楽しむ笑みにも見えるが、その実、己の脚本の素晴らしさに称える喝采の笑みだ。

クジャめ、誰が大根役者だ?

見せてやろう。

今宵も、今後も、

主役はウェールズでも、使い魔でも、演出家気取りの男娼野郎でもない。

全ての力を手中に収める、この自分なのである、と。

「ウェールズ殿下!実は、恐れながら殿下にお頼み申し上げたい儀がございまして――」



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