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虚無のパズル-06


『土くれ』の二つ名を持ち、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊がいる。
高価な調度品やマジックアイテムを専門に狙う怪盗で、盗みの手口として、主に『錬金』の魔法を使う。
『錬金』の呪文で扉や壁を砂や粘土にして潜り込むのである。
その盗みの技から、怪盗は『土くれのフーケ』と呼ばれていた。
忍び込むばかりではなく、力任せに屋敷を破壊する時には、フーケは巨大な土のゴーレムを使う。その身の丈はおよそ30メイル。
巨大なゴーレムに、魔法衛士たちはまるで歯が立たずに蹴散らされ、白昼堂々お宝を盗み出されてしまったこともある。
そんな土くれのフーケの正体を見たものは誰もおらず、男か女かも分かっていない。
ただ、分かっていることは、おそらくトライアングルクラスの『土』系統のメイジであること。
そして、犯行現場の壁に『秘蔵の○○、確かに領収しました。土くれのフーケ』と、ふざけたサインを残して行くこと。


巨大なふたつの月が、五階に宝物庫のある魔法学院の本塔を照らし出していた。
その壁に、垂直に立つ人影があった。土くれのフーケである。
フーケは足の感覚で壁の厚さを測ると、小さく舌打ちをした。
「さすがは魔法学院の本塔、作りが厳重だこと。こんなに壁が分厚かったら、私のゴーレムでも、壊せるか分からないね」
フーケは、腕を組んで悩んだ。
宝物庫の壁には『固定化』の魔法がかかっているため、『錬金』で壁に穴をあけるわけにもいかない。
フーケの『錬金』は、大抵の『固定化』などものともしなかったが、宝物庫の『固定化』は、スクウェアクラスのメイジが数人がかりで施した、非常に強力なものだったのである。
「やっとここまで来たってのに。しかしこのままおめおめと、『禁断の鍵』をあきらめるわけにゃあ、いかないね……」
フーケは歯がみする。そうしてしばらく考え込んでいたが、本塔の向かいにある中庭から人の声がして、フーケは慌てて暗闇に身を隠す。
「学生?なんだってこんな時間に……」
フーケは暗がりから、そっと中庭の様子をうかがいはじめた。


本塔の壁から、ゴーラの実がロープで縛られ、空中にぶら下がっていた。
春の使い魔召喚の日、アクアがルイズに何度もぶつけたあの実である。キュルケとルイズは、中庭からそれを見上げている。
「いいこと、ヴァリエール。先に魔法でロープを切って、あの実を地面に落とした方の勝ちよ」
「わかったわ」
貴族同士の決闘は禁止されているので、このような勝負方法をとることになったのである。
塔のてっぺんには、使い魔の風竜に跨がったタバサが見えた。ゴーラの実を塔にくくりつけたのもタバサである。
普通だったらとっくに寝息を立てている時間に、こんなことに引っ張り出されて、タバサはわりと機嫌が悪かった。
もっともタバサはいつも通りの無表情で、その変化に気付けるのは親友のキュルケぐらいのものであったが。
「ねえルイズ、大丈夫なの?」
後ろに控えていたティトォが、ルイズに声をかける。言外に『魔法を失敗させてばかりのルイズが、魔法で決闘なんて、大丈夫なのか』と言っているのだ。
アクアと違って空気の読めるティトォは、ストレートに言葉に出したりはしないのである。
「もちろんよ!誰が負けるもんですか。相手はあのにっくきツェルプストーなのよ」
「なんでそんなにキュルケに突っかかるの」
ギロリ、とルイズはティトォを睨む。何かまずいこと言ったかな、とティトォは後ずさった。
「いいこと、まずキュルケは、トリステインの人間じゃないわ。隣国ゲルマニアの貴族よ。私はゲルマニアが大嫌いなの」
「どうしてさ」
「私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあるの。だから戦争になるといっつも先陣切ってゲルマニアと戦ってきたの。そして、国境の向こうの地名はツェルプストー!キュルケの生まれた土地よ!」
ルイズは歯ぎしりしながら叫んだ。
「つまり、あのキュルケの家は……フォン・ツェルプストー家は……、ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の敵なのよ!」
ルイズはますますヒートアップする。ティトォは、こめかみを指でトントンと叩きながら話を聞いていた。
「……なにしてんの、さっきから」
「うん、ただの癖だから。気にしないで。はあ、それで寮の部屋も隣同士。なるほど、いがみ合うわけだね」
ティトォがヴァリエール家とツェルプストー家の因縁についての講義を受けていると、キュルケが声をかけてきた。
「いつまでおしゃべりしてるの?ルイズ、順番はあんたからよ。『ゼロのルイズ』には、このくらいのハンデをあげないとねえ」
ニヤリと笑うキュルケ。ルイズはあっさりと挑発に乗り、冷静さを失ってしまった。
「ののの、望むところよ。先手を譲ったこと、こここ、後悔させてあげるわ!」
杖を構え、狙いを付ける。塔の上のタバサが、ロープを振り子のように振りはじめた。
『ファイヤーボール』などの魔法は命中率が高いので、動かさなければ簡単に命中してしまい、勝負の公平さが失われるからだ。
しかし、ルイズには命中率以前に、『魔法が成功しない』という問題点があった。
しかしルイズにも、考えがないわけではなかった。完全に勢いで決闘を申し入れたのだが、ほんの少しだけは勝算があった。なくもなかった。
要はロープが切れればいいのよ。そう、わたしの魔法は失敗ばかり。でもあの爆発なら。机を粉々にするあの失敗魔法の爆発なら。あんなロープ、たやすく焼き尽くせるわ。
勝ち目は薄くても、ゼロじゃない。そうよ、ゼロなんかじゃ、決してない!わたしは!
ルイズは目を見開き、『ファイヤーボール』のルーンを唱え、気合いを込めて杖を振った。
一瞬遅れて、本塔の壁が爆発した。ロープがぶら下がっている位置からは3メイルほど離れていて、爆風でもロープは切れていなかった。
ルイズの失敗魔法は、コントロールがまるで効かないのだった。
本塔の壁にはヒビが入っていた。それを見て、キュルケは腹を抱えて笑っていた。
「ゼロ!ゼロのルイズ!ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの?器用ね!」
ルイズは憮然とした。
「さて。私の番ね」
キュルケは、狩人の目でゴーラの実を吊るしたロープを見据える。タバサがロープを揺らしているせいで、狙いが付けづらい。
それでもキュルケは余裕の笑みを浮かべ、短くルーンを呟いた。
メロンほどの大きさの火球が現れ、ゴーラの実を吊るしたロープをたやすく焼き切った。
どすん、と重たい音を立てて、ゴーラの実が地面に落ちる。
キュルケは勝ち誇って、笑い声を上げた。
「あたしの勝ちね!ヴァリエール!」
ルイズはしょぼんとして座り込み、地面の草をむしり始めた。


フーケは、中庭の植え込みの中から一部始終を見守っていた。
いったい、あの魔法はなんなのだろう?唱えた呪文は『ファイヤーボール』なのに、杖の先から火球は飛ばなかった。代わりに壁が爆発した。
あんな風にモノが爆発する魔法だなんて、見たことがない。いや、それよりも。
フーケはひびの入った本塔の壁を見上げる。あれはちょうど、宝物庫の辺りだ。
フーケは薄く笑うと、呪文を詠唱しはじめた。長い長い詠唱であった。
足下の地面が、音を立てて盛り上がる。
土くれのフーケが、その本領を発揮したのだ。


勝ち誇るキュルケと、座り込んで腐っているルイズ、そんなルイズを心配そうに見つめていたティトォは、中庭を覆いつくす巨大な影に、驚いて振り返った。
3人は、我が目を疑う。
身の丈30メイルはあろうかという、巨大な土ゴーレムが、ずしんずしんと地響きを立てて、こちらに向かってくるではないか!
「きゃあああああ!!」
キュルケが悲鳴を上げ、逃げ出した。
呆然となっていたルイズとティトォも、その声に、弾かれたようにその場を離れる。
土の巨人は、足下を逃げ惑う3人のことなど気にもかけず、本塔の前まで足を進めると、ひびの入った宝物庫の壁に、巨大な拳を打ち下ろした。
拳が壁にめり込み、ばらばらと破片が中庭に降り注ぐ。
ルイズとティトォ、キュルケは、その光景を離れた場所で見ていた。
「なんなの、あれ」
ルイズが震える声で尋ねる。本塔の壁を打ち壊したゴーレムの肩に乗っていた人影が、壁の穴から中に入り込んだ。ゴーレムは、そのまましばし動かなくなった。
やがて壁から、ふたたび人影が現れ、ゴーレムの肩に戻る。
「あそこって、確か……」
壁の穴を見ながら、キュルケが呟く。
「宝物庫だわ。なんてこと、あれはフーケ。『土くれのフーケ』に違いないわ」
土くれのフーケ。最近世間を騒がせている盗賊である。ティトォも、生徒たちの噂話でその名を何度も耳にした。
実際に聞いたのはアクアなのだが、ティトォたちは記憶を共有しているのである。
「そんな、魔法学院に賊が侵入するなんて……」
ルイズは呟く。
魔法学院の宝物庫には、王宮のメイジたちにより、厳重に『固定化』の魔法がかかっているはずだ。
建物自体も頑丈に作られていて、並のメイジではとても太刀打ちできないはずなのである。
そんな宝物庫の壁をあっさりと破壊したフーケの力に、ルイズは怯えた。しかしどうにも、心の奥で引っかかることがある。
あの土ゴーレムが打ちすえた場所。そこには確か、ルイズの爆発によってひびが入っていたのだ。
もしかして、わたしのせいで?わたしが、本塔の壁を爆発させたから?
そう考えると、ルイズは色を失った。
ゴーレムはゆっくりと身体の向きを変え、歩き出した。ルイズはその後を追って、走り出した。
「ルイズ!何を!」
ティトォが叫ぶ。
「賊を捕まえるのよ!このまま逃がしてなるものですか!」
「ルイズ、ばかはやめて!」
キュルケの呼びかけにも振り返らずに、ルイズはゴーレムに追いすがった。
ゴーレムは魔法学院の敷地を取り囲む外壁を跨ぎ、まさに逃げ出す寸前であった。
「待ちなさい!この恥知らずの盗賊!」
ルイズは叫び、『ファイヤーボール』の呪文を唱える。
ルイズは肩の上の黒いローブに実を包んだ人間、フーケを狙ったのだが、狙いはまたしても大きく外れ、ゴーレムのわき腹のあたりを爆発させた。
ゴーレムの皮膚が削り取られ、一瞬バランスを崩した。
ゴーレムの肩に乗るフーケは、足下のルイズに気付くと、ゴーレムの腕を操って、魔法学院の外壁を崩した。
ガラガラと音を立てて、ルイズの頭上にレンガの雨が降り注いだ。
風竜に乗って、ゴーレムの上空を旋回しながら様子をうかがっていたタバサは、ルイズに気付くと、助けるために風竜シルフィードを飛ばせた。
しかし、一瞬遅かった。ルイズは瓦礫の下敷きになってしまった。
「ルイズ!」
追いかけてきたキュルケが、青ざめた顔で叫ぶ。
そんな騒ぎを尻目に、ゴーレムは悠然と学院を去っていったのだった。
「ルイズ、ルイズ。そんな、うそでしょ」
キュルケは呆然と、瓦礫の前に立ち尽くした。
遅れて追いついたティトォは、瓦礫の中のうめき声に気付いた。
ティトォは崩れた壁に駆け寄っていく。
そこには果たして、ルイズの姿があった。タバサが空気の塊を打ち出す呪文『エア・ハンマー』で、ルイズに降りかかった瓦礫を吹き飛ばしたのである。
しかし。
「うう、痛い……痛いよう……」
降りかかる瓦礫をすべて除くことはできなかった。ルイズは右脚を瓦礫に潰されていた。
ルイズの脚はおかしな方向に曲がり、脚を包むオーバーニーソックスはあちこち破れ、血と泥で汚れていた。
弱々しく泣き続けるルイズの様子に、ティトォは顔を歪ませた。
「ルイズ。ルイズ、本当にごめんよ。ぼくは使い魔を引き受けると言ったのに、主人のきみをこんな危険な目に遭わせてしまった」
ルイズのそばに膝を付き、ティトォは悲しそうに言う。
キュルケはすぐさま『レビテーション』で、ルイズの足にのしかかる瓦礫を取り除いた。
「タバサ、『水』系統の先生を起こしてきて、お願い!」
後ろに立っていたタバサに、声をかける。
しかしティトォは、それを制止した。
「大丈夫、ぼくがなんとかするから」
「なんとかって、あなた……」
ティトォは、服のポケットから、何やら小さな装置を取り出した。
ティトォがそれを弄ると、装置の先から、火がついた。
それは本体に溜めたオイルに、回転ドラム状のヤスリによって火をつける装置。いわゆるライターであった。
しかし、ハルケギニアにはライターは存在しないため、キュルケはそれをマジックアイテムの一種だと思った。
「マテリアル・パズル」
ティトォが呟くと、チラチラと小さく燃えていた炎が、突然勢いを増し、ティトォの右手のライターから、大きな火柱が立ち上がった。
カチャカチャと、何かが組み立てられるような音とともに、炎の色が変わっていく。
「炎の力よ、変換せよ!」
ティトォはその炎を、うずくまるルイズに叩き込んだ。
ゴオッ!と音を立てて、炎がルイズの全身に燃え広がる。
「なにをするの!?」
めらめらと燃えるルイズの身体を見て、キュルケが悲鳴を上げる。表情に乏しいタバサの顔にも、驚きの色が浮かんだ。
慌てて炎を消そうと、杖を構える。しかし、ふたりの口は、驚きのあまりルーンを唱えることを忘れてしまった。
ルイズを包む炎はみるみるうちに色を変え、白い炎となった。
ごうごうと勢いよく燃える炎は、ルイズの肌も、髪も、服も焦がさなかった。それだけではない。
「傷が……消える」
タバサが呟く。
ルイズの傷口はみるみるうちに塞がり、脚の骨は再びくっついた。
痛みにうめいていたルイズは、自分の身に起こった不思議に、目を見開いた。
「炎の治癒魔法!?そんな、ありえないわ」
キュルケが声を上げる。
『火』の本領は、情熱と破壊である。
古来より、傷を癒すのは、人の身体に流れる『水』を操る、『水』の系統魔法であった。
さらに、これほどの大けがともなれば、治療には専用の水の秘薬の助けが必要不可欠のはずなのである。
『火』が、秘薬もなしにこれほどの治癒の力を見せるのは、まるで道理にかなわない。この世の法則に則してない。
その時、ルイズはアクアの言葉を思い出していた。
(この世に新たな法則をつくり出す、それが『魔法/マテリアル・パズル』)
ルイズの視線に気付いたティトォは、すっかり体力を取り戻したようすのルイズを見て、心底ほっとした表情になった。
「これがぼくの魔法。炎の力を変換し、傷を治す癒しの力にする。無事でよかった、ルイズ」
ライターの炎を消すと、ルイズを纏っていた白い炎も消えた。
東の空が白みはじめ、この騒ぎに何事かと、教師や生徒たちが集まってきていた。


翌朝、魔法学院は上へ下への大騒ぎであった。
なにせ、魔法学院の秘宝『禁断の鍵』が盗賊に奪われてしまったのである。
ゴーレムによって宝物庫の壁に開けられた大穴のすぐ横には、『禁断の鍵、確かに領収しました。土くれのフーケ』と、犯行声明が刻まれていた。
学院長室に集められた教師たちは、口々に好き勝手なことを喚いている。
昨晩の当直である、ふくよかな中年の女性教師、ミセス・シュヴルーズは震え上がった。
何しろ、魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは信じられず、当直をサボり、ぐうぐう自室で寝ていたのだった。
当然のこと、責任の所在を求めて、教師たちは口々にシュヴルーズを責めたてた。
「ミセス・シュヴルーズ!当直はあなたなのではありませんか!」
「この責任はどう取られるおつもりか!」
「あなた、『禁断の鍵』を弁償できるのですかな!」
ミセス・シュヴルーズはとうとう、よよよと床に崩れ落ちてしまった。
そこにオスマン氏が現れる。
「これこれ、女性をあまりいじめるものではない」
シュヴルーズを責めていた教師の一人である、ギトーがオスマン氏に食ってかかる。
「しかし、オールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズは当直なのに、ぐうぐう自室で寝ていたのですぞ!責任は彼女にあります!」
オスマン氏は、長い口ひげをこすりながら、興奮したギトーを宥める。
「落ち着きたまえ、ギトー君。きみは怒りっぽくていかん。さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」
オスマン氏は、辺りを見渡した。教師たちはお互い、顔を見合わせると、恥ずかしそうに顔を伏せた。名乗り出るものはいなかった。
「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、われわれ全員じゃ。この中の誰もが、まさか魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思わなんだ。なにせここにいる者は、ほとんどがメイジじゃからな。われわれは油断していたのじゃよ」
オスマン氏は壁にぽっかりあいた穴を見つめ、尋ねた。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰かね?」
「この3人です」
禿頭のコルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた3人を示した。
ルイズにキュルケにタバサの3人である。ティトォもそばにいたが、見知らぬ顔に、オスマン氏は眉をひそめた。
「はて、きみは誰じゃったかのう。年を取ると、忘れっぽくていかん」
「お初にお目にかかります。ぼくはティトォ、ルイズ・ヴァリエールの使い魔を務めています」
礼儀正しくティトォが答える。
「はて、ミス・ヴァリエールの使い魔は小さな女の子だったはずじゃが」
「ぼくは彼女の腹違いの兄です。わけあって使い魔の仕事を引き継ぐことになりました」
どんな『わけ』があれば、親兄弟が使い魔の肩代わりをすることになるのか、その場にいた教師たちの誰一人として分からなかったが、
ティトォはあくまでこの言い訳で通すつもりのようであった。
ルイズは頭を抱え、話題を逸らす。
「それよりも、オールド・オスマン。昨晩私たちが見たことですが」
「おお、そうじゃった。詳しく説明したまえ」
「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。肩に乗ってたメイジが、この宝物庫に侵入しました。その、おそらく『禁断の鍵』を盗み出したんだと思います。盗み出したあとは、ゴーレムは城壁を超えて逃げ出しました……」
「それで?」
「ゴーレムの後を追いました」
タバサが後を引き取る。タバサはルイズの治療を見届けた後、使い魔の風竜シルフィードで、ゴーレムの後を追いかけたのだった。
「ゴーレムは、崩れて土の山になっていました。メイジの姿はありませんでした」
タバサは簡潔に、要点だけを述べた。
「ふむ……後を追おうにも、手がかりナシというわけか……」
オスマン氏はひげを撫でた。
ルイズは俯いて、両手を握りしめていたが、やがて決心したように、オスマン氏に声をかけた。
「オールド・オスマン。わたしとツェルプストーは昨晩、中庭で決闘を行いました」
キュルケはぎょっとする。なんで今そんなことを言うの、この子は。
ざわざわとする教師たちに、タバサがフォローを入れる。
「決闘ではありません、魔法の腕を競っていただけ」
ゴーラの実を吊るしての、射撃勝負のことを説明する。
なぜそのような勝負をすることになったかについては、非常にしょうもない話なので、適当にぼやかした。
「それで、あの。わたしの魔法が外れて、壁を爆発させてしまったんです。そしたら、あのゴーレムがあらわれて、その。わたしが爆発させた壁を殴って、その。もしかしたらわたしのせいで、その」
ルイズの話を聞いていた教師たちは、笑い出した。
「ミス・ヴァリエール。本塔の壁には、厳重な『固定化』がかけられています。たとえスクウェアクラスのメイジでも、あの壁に傷を付けることは難しいでしょう。
 しかし『物理的な力』への対抗策はおろそかになっていた。今回はそこを突かれてしまったのです。あなたが気にやむことではありません」
コルベールは、優しくルイズに言った。
ルイズはまだ納得していなかったが、この話はそこで打ち切られた。
朝から姿の見えなかったミス・ロングビルが現れたのである。
「ミス・ロングビル!どこへ行っておられたのですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」
コルベールがまくしたてる。しかし、ミス・ロングビルは落ち着いた態度で、オスマン氏に告げた。
「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの。」
「調査?」
「ええ、今朝方起きたら、大変な騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐにフーケの足取りを追いかけました」
「仕事が速いの。して、その結果は」
「私は馬で、ゴーレムが逃げた方角にある、東の農村を訪ねました。この学院からは馬で半刻ほどの、近在の村です。この学院から東には、人が暮らす村はそこしかありませんから」
「ふむ」
「そこで住人に聞き込みをしたところ、東の村から、さらに東に向かったところにある町との中間ほどに、打ち捨てられた廃屋があると言います。
 そこは人が暮らしてはいないはずなのですが、たびたび明かりが付いていたり、黒ずくめのローブの男が出入りしているのを、村人が目撃しているそうです」
ルイズが叫んだ。
「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」
「私は、そこがフーケの隠れ家ではないかと思います。しかしこれ以上は私一人で追いかけるのは危険と考え、報告に戻った次第です」
オスマン氏は、目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬で四時間と言ったところだそうです」
「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
叫ぶコルベールを、オスマン氏が一喝する。年寄りとは思えない迫力であった。
「ばかもの!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、なにが貴族か!魔法学院の宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」
オスマン氏は咳払いをすると、有志を募った。
「では、捜索隊を編成する。我をと思う者は、杖を掲げよ」
誰も杖を掲げない。困ったように、顔を見合わすだけだ。
「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」
ルイズは俯いていたが、それからすっと杖を掲げた。
「ミス・ヴァリエール!」
ミセス・シュヴルーズが、驚いた声を上げた。
「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか」
ルイズは言い放った。ティトォが何か言いたげにこちらを見ていたが、ルイズは無視した。
ルイズが杖を掲げているのを見て、キュルケも渋々それに倣った。
「ヴァリエールには、負けられませんもの」
次いでタバサも、同じように杖を掲げる。
「タバサ、あんたはいいのよ。関係ないんだから」
キュルケはそう言ったが、タバサは短く返した。
「心配」
キュルケは、そんなタバサに感動した。また抱きついてかいぐりたいと思ったが、学院長の前であるので我慢した。
そんな3人を見て、オスマン氏は笑った。
「そうか、では頼むとしようかの」
「オールド・オスマン!わたくしは反対です!生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」
「では、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ……わたくしは体調がすぐれませんので……」
「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは、若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だとも聞いておる」
教員たちがざわめく。タバサはいつも通り、ぬぼーっと立っていた。
「本当なの?タバサ」
キュルケも驚いている。王室から与えられる爵位としては最下級であるものの、タバサの歳でそれを与えられるというのが驚きであった。
次いでオスマン氏は、キュルケに視線を移した。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力だと聞いておる」
キュルケは得意げに、髪をかきあげた。
「それから。ミス・ヴァリエールは……えー………」
ルイズの番になって、オスマン氏は言葉を詰まらせてしまった。誉めるところがなかなか見つからなかった。
「こほん。その、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ。将来有望なメイジと聞いておる。そしてその使い魔は!」
オスマン氏は、アクアがギーシュとの決闘に勝利したことに触れ、誉めるつもりであったが、残念ながらアクアはこの場にいなかった。
「……その、きみ。あの女の子は本当にいないのかね?」
オスマン氏はティトォに尋ねた。
「申し上げた通り、ぼくが使い魔の仕事を引き継いだのです。契約のルーンも、この通り」
ティトォは前髪を上げて、額のルーンをあらためた。
「む!むむむ!そのルーンは!」
コルベールがうめき声を上げた。それは『ヴィンダールヴ』のルーンではなかった。
しかし、『ヴィンダールヴ』について調べている時に、コルベールはこれとまったく同じルーンを見ていたのである。
「きみ、すまない。スケッチさせてもらってかまわないかな」
一応同意は求めたものの、返事を聞く前にコルベールはルーンのスケッチを取りはじめた。
オスマン氏に「あとにしなさい」と杖で小突かれて、コルベールはやっと教師の列に戻った。
先ほどまでの厳かな雰囲気がやや薄れてしまったが、オスマン氏は気を取り直して、ルイズ達に向き直った。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
ルイズとタバサとキュルケは、その声に杖を掲げ、宣誓した。
「杖にかけて!」


道案内として同行することになったミス・ロングビルとともに、一行は、門の前に準備された馬車に向かっていた。
その途中、ルイズはティトォに呼び止められた。
「ルイズ、きみは学院に残るんだ」
ルイズは一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「……どういう意味よ」
「言葉通りだよ。フーケの捜索は、キュルケとタバサの二人に任せよう。きみも見たと思うけど、ぼくの魔法は、アクアとは違って、戦うための魔法じゃないんだ」
射殺すようなルイズの視線も、まるで気にした風がなく、ティトォは淡々と話した。
「それに、恥ずかしい話だけど、ぼく自身の身体能力はあまり高いとは言えない。正直なところ、あんな巨大なゴーレムを操る魔法使いを相手に、ぼくはきみを守りきれないかもしれない。主人にむざむざ危険なことをしてほしくないんだ」
ティトォは、フーケのゴーレムによってルイズが危うく死にかけたこと、タバサがいなければ、自分の助けの手が間に合わなかったことなどを思い出していた。
ティトォの言葉は、嘘偽りのない本心であったのだが、プライドの塊であるルイズは、これを侮辱と受け取った。
「なによそれ。あんた、わたしが『ゼロ』だから。魔法が使えないから、足手まといだって言いたいの!」
怒りに肩を震わせ、ルイズは叫ぶ。
「そうだよ。ルイズ、きみがいると邪魔なんだ。足手まといだから学院に残ってくれ」
眉ひとつ動かさずに、ティトォは宣告した。
ティトォの言葉に、ルイズは頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
今までも、からかいや侮辱の言葉は何度投げかけられたか知れないが、今回は事情が違う。
主人を守護し、常に共にあるべきパートナーであるはずの使い魔から、『お前は無能だ』と言われたのである。
ルイズは蒼白になって、唇を噛んだが、やがてきびすを返し、歩きはじめた。
「学院長の前で、誓いを立てたのよ。今さら怖じ気づいて逃げ出すのは、貴族にとって死も同然だわ」
ルイズは静かな怒りを声ににじませながら言った。そして、ティトォのことを一度も振り返らずに、先に行ってしまったキュルケたちを追った。
「失敗したな……かえって意固地にさせちゃったかな」
ティトォはため息をついた。
貴族って言うのは、色々しがらみがあるものなんだなァ。
バレットを見てると、とてもそんなふうには見えないんだけど。
ティトォは古い友人を思い出していた。
ティトォは、無鉄砲な『主人』が去っていった先を見ていたが、やがてルイズを追って、歩き出した。
「……ま、いいさ。それを守るってのが、約束だものね」


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