あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-21


幼いルイズは、屋敷の中庭の池に浮かぶ小舟の乗り、膝を抱えていた。
眼には涙が蓄えられていて、今にもこぼれ落ちそうになっている。
幼いルイズは叱られると、この『秘密の場所』に一人逃げ込むのが一種の習慣となっていた。
その日もまた、出来のいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られたのであった。
頬を伝って涙が船底に落ちた。ルイズは膨れ顔で、ごしごしと服の裾で目を擦った。

……そうして項垂れていると、池一面にかかった霧の中から、一人のマントを羽織った立派な貴族が現れた。
六歳ほどに見えるルイズと比べて、その貴族は青年といった面立ちであった。年は十六かそこらに見える。
つばの広い、羽根つき帽子の下から顔が見えた。青年の姿をしたワルド子爵であった。
その姿を見とめた幼いルイズは、慌てて顔を隠した。
恥ずかしくて、みっともなくて、不甲斐ない自分を見られたくなかったのだ。憧れのワルド子爵に。
ワルド子爵は幼いルイズの心情を察した上でゆっくりと手を差し伸べた。
顔には柔らかな笑みがあった。そしてルイズを苛みの底から引き揚げてくれるであろう手がそこにあった。
その手に自分の手を一度重ねれば、あらゆる苦痛から救われる気がした。
幼いルイズは、おずおずと遠慮がちに手をゆっくりとワルド子爵の方へ差し伸べた。

…だが、ワルド子爵の手に触れる寸前に異変が生じた。
目の前の景色が、波が引くように、急に消え去ったのだ。
代わりに現れたのは、ルイズにはまったく見覚えのない荒れ果てた町並みであった。
家は半壊してるものや、ゴミの山のようになっているものもあった。
その中に、崩れきってボロ雑巾のようにむき出しになった
折れた大黒柱がだけが、天を仰ぐように突き立っていた。
その大黒柱の横にもたれかかる様にルイズは佇んでいた。

空は灰色で、澄んだ空など垣間見える機会はないようであった。
まるで、嵐が町の真ん中を横断し、蹂躙したかのような有様。

うまく想像力が働かない頭で、この現状をルイズは考えた。戦争でも起こったのかと思えたのだった。
遠くから近くに至るまで、燻ぶる火が煙を立ち昇らせている。
秩序と平穏、それとは無縁の世界。
呆然とその目に映る非現実感が漂う街並みを、ただ享受している。
そのルイズの耳に、劈くような悲鳴が四方から響いてきた。

絶対的な恐怖、死への予感。それらを容易く察することができる悲鳴。絞り出すように口から放たれる悲鳴。
悲鳴は断末魔へと変わり、生命が終わりを告げる。

ルイズは目の前の光景が信じられなかった。
魔物と思しき生物たちに襲われ、その身を無残にも、引きちぎられている人間。
噴き出す血を浴びながら、腸をまだ意識があるであろう人間から引きずり出し、貪り喰っている。

もはやこの世の光景とは思えない。
魔物たちの表情は、恍惚に満たされ、この状況を楽しんでいるように見えた。
そして自分たちが、人間たちよりひとつ格上の存在であることを自負し、家畜のように、
むしろそれよりも、もっと残酷に人間達を虐げていた。

楽しむだけのために殺し、腹を満たすためだけのために殺す。
人間達は、戦おうとする気配すら見せない、ただ悲鳴を上げ、誰かが襲われ食べられている間に、
自分が逃げられればいいと心から願い、我先と逃げようとして駆けている。
魔物たちは杖も使わず、魔法のようなもので、手当たりしだいに建物を吹き飛ばし、人を灰塵へと変えていっていた。
懸命に駆ける人間をあざ笑うかのように、目にもとまらぬ速さで追い越し身を引き裂いた。
奇怪な合唱が辺りを包む。

人間には、とても太刀打ちできるような相手ではないように思えた。
その力よりも、その存在そのものから噴き出される悪意の塊によって、ヒトの抗う意思を削いでいく。
まともな神経を持つ人間ならば、動物的本能によって敗北を確信するに違いなかった。

逃げることを選んだとしても、誰かに責められるようなことはないはずだった。
このような状況が、自然の摂理のようにすら思えた。
残虐な殺しが、目の前で何度も何度も繰り返され、感覚も麻痺し始めた頃。
新たな光景が、ルイズの眼に映った。

一人の小さな少女が、地面に座り込み、大声を上げ助けを求めるように泣き叫んでいる。
悲痛な叫び。泣き叫ぶことによって母親に救いを求めようとしている赤子のようであった。
だが、誰も少女に助けの手を差し伸べる者はいない。皆わが身だけで、精一杯であるから。

魔物の一匹が、その少女に気づき、うっすらと笑みを表情に滲ませた。
獲物を見つけた異形の者は、野卑た言葉を何か呟きながら近づいて行った。

いけない!あのままじゃあのコも!

突然として、ルイズの理性が蘇った。
目の前で、これから無残に喰い殺されるであろう少女を、助けなければならないという使命感に背を押されたからだ。
しかし、足に力を入れて踏み出そうとするが、何故か足は動かない。
疑問に頭の中で溺れそうになるが、足を見たとき全てを理解した。

怖いのだ。どうしようもなく。

絶え間なく震える足を、両手で押さえつけるが、どうにもならない。その場から一歩ですら動ける気がしなかった。
その間にも、魔物は泣き叫ぶ少女に向かって歩を進める。
魔物と少女の間の距離が無くなったとき、ルイズは少女の死を確信した。
そして、これから起きるであろう、凄惨な結果を目にしたくないルイズは瞼を力の限り閉じた。
それは一瞬の出来事であった。何かが弾けるような音がしたのだ。
ルイズが恐る恐る目をあけると、信じがたい有様になっていた。
少女を襲おうとしていた魔物の頭が消し飛んでいたのだ。

魔物の首の切断面から噴水のように血が噴き出していた。
頭からの指令を断たれた体は、糸を断ち切られた操り人形のように、地に崩れた。
ルイズはその段になっても、状況を理解することができなかった。
しかし、先ほど魔物に襲われそうになっていた少女の顔見て、すべてを悟った。

頬一面に返り血で化粧をした少女は、口の端を釣り上げている。
笑っているのだった。異常なまでな攻撃的な笑み。ルイズには信じがたいことであった。
ルイズには先ほどまで人々を襲っていた魔物達と、まったく同じ表情に見えたのだ。

少女は悠然と立ち上がると、辺りを睥睨した。
すると、期をうかがっていたと思われる魔物達が、危険因子である少女を引き裂かんがために、飛び出してきた。
魔物達は、人智を超えた体躯で少女に襲いかかるが、少女は不敵な笑みを浮かべたまま迎え撃った。

……生死を賭した戦いが始まった。ルイズには見ていることしかできなかった。
少女の一挙一動は魔物達のそれを遥かに凌駕し、手に携えた武器で、
魔物たちの生命を次々と断ち切っていった。
それぞれが持ち合わせている外見とは、真逆の展開。
大人と赤子の勝負といっていいほど、力の差は歴然であった。
爆発が起き、肉片が飛び散る。
魔物の身が業火によって焼き尽くされる。
それらの惨劇は、たった一人、たった一人の少女によって体現されていた。

全てが済んだのか、辺りには奇妙なまでの静けさがあった。
辺りにはもう魔物の気配はない。幼い少女によって駆逐されたのだ。

幼い少女は、外見に似つかわしくないほどの堂々たる態度で、辺りを睥睨し佇んでいた。
すると、ことの終焉を待ち構えていたかのように一人の中年の男が、少女の脇にどこからともなく現れた。
畏まった態度と、整った衣服に身を包んでいる男は、少女に対して深く頭を下げ、
懐から何かの紙の束を取り出し、少女に手渡した。その紙束をぞんざいな態度で受け取った少女は、
いつの間にかに火をつけた煙草を口にくわえながら、枚数を数え始めた。
片足でコツコツと地面をならしながら、顔を歪めている。
数え終わると、何か不満なのか、頭を下げたままの男に対し愚痴を言っているようだった。

仕方ないといった風に、少女が首を横に振った直後であった。
ふとルイズと少女の目が合ったのだった。

ビクリと肩が跳ねるように動いた。ルイズまるで蛇に睨まれた蛙の如く身がすくんで動けなくなった。
一見呆けたような表情してルイズを見つめている少女は、ルイズから目線を外し、脇に控えていた中年の男に喋りかけた。
何かについて交渉しているのか、恐喝しているのかわからないような様相であったが、
額の滲んだ汗をハンカチで拭いながらペコペコと中年の男が頭を下げると、
まるで妥協するように少女は肩をすくませた。二人の間で何かが取りきめられたようだった。
ぼんやりとその様子を見ていたルイズは、細波が寄せてくるようにじわじわと危機感が湧いてきた。

魔物を皆殺しにした少女が、ルイズに向かって歩を進めていたのだった。一歩一歩近づいてくる。
少女の視線の先には間違いなくルイズがあった。
手には血濡れた武器が携えられている。
ルイズは直感で状況が理解できた。自分が殺戮の標的にされたことを理解したのだ。

慌ててルイズは、自分は魔物なんかではないと否定しようとした。
少女を阻むように手を前に突き出した瞬間、ルイズは我が目を疑った。
目の前にある自分の手がまさしく異形であったからであった。
引き裂くための爪があり、人の肌をしていない。まるで魔物そのものであった。
おかしい……つい先ほどまで普通だったはずなのにと疑問に思わずにはいられなかった。

とにかく誤解を解かないと……!話せばわかるはず……私は人間って。

そう、大丈夫であるはずだった。魔物と間違えられて死ぬなんて御免こうむることだ。
そんなことはありえないと思った。

ルイズの目の前まで来た少女は、座り込んで動かないルイズを見下ろして呟いた。

なんてゆーかぁ……サービス残業ってやつ?気が乗らないんだけどねぇー。

少女は片手で肩を揉みながら首をコキコキと鳴らしていた。実に億劫そうであった。
そして、サブマシンガンをルイズの眉間に狙いを定めた。

ルイズは懸命に叫んだ。

私は魔物なんかじゃないわ!正真正銘人間よっ……!だから武器を収めてよっ!

ルイズの言葉を聞くと、少女は愛らしさが感じられるような、きょとんとした表情になった。
そしてにんまりと笑みを浮かべて朗らかに言った。

うんっ♪…わかったよっ。あなたは魔物なんかじゃなくて人間なのねっ。信じてあげるっ♪

ほっと息をつき、じゃあそれなら…、そうルイズが言おうとした瞬間であった。

赤い頭巾を被った少女は、全く躊躇わずに銃の引き金を引いた。
乾いた破裂音が辺りに響いた。

……。
「……っっはっ!!……ッはっ……はぁはぁ」

……ルイズは夢から醒めた。まさに悪夢であった。

跳ねるようにして上体を起こしたルイズは息絶え絶えであり、全身が気持ちの悪い汗で濡れている。
肩で息をするルイズは、自分がいる場所を確認するかのように辺りを見渡した。
目に映ったのは備え付けのテーブルに鏡台。そして自分が乗っているのはベッド上。
間違いなくラ・ロシェールの宿屋、『女神の杵』亭の一室であった。

そこまで確認してルイズは大きく長く息を吐いた。とりあえず今は安全なのだとわかったからだ。

「ルイズおねぇちゃんっ♪」

その言葉でルイズは心臓が止まりそうになった。
なんとか気を落ち着かせて声の主を確認した。
そこにはルイズの顔を覗くようにして見つめているバレッタが居た。ルイズのベッドに腰をかけている。

「おねぼうサンは嫌われるのよっ♪そろそろ起っきましょーねっ。
 多分キュルケおねぇちゃんたちはもう朝食に行ってるよー」

相変わらず心臓に悪い頭巾だとルイズは思った。
バレッタは、心身ともに疲れきっているルイズに儀礼的に心配の言葉をかけた。

「どーしたのぉ?こわーい夢でもみたの?」

ルイズは冷たく小さく笑った。
そして、夢についてあえて偽らずにバレッタに言った。どんな反応が返ってくるのかが知りたかったのだった。

「あんたに殺される夢よ」

短く、ズバリと言ってのけた。
ルイズがこの手の夢を見るのは初めてというわけでもない。
多少の差異はあれど、この手の夢はバレッタがルイズの前に現れた時から度々見ている。
この夢があったからこそ、バレッタに対して必要以上に恐怖を感じていたのだから。
もっともワルドがその夢に出てきたのは初めてのことであった。

バレッタはルイズの予想外の返答に、目をまん丸とさせて驚いているような表情をしている。
だがすぐに、作られた笑顔に変化させて、実に明るい口調で言ってのけた。

「それって正夢になるんじゃねーのっ?」

ルイズは、それを聞いて笑ってしまった。バレッタは冗談で言ったつもりだろうが、まるで冗談になってないからだった。
こいつならば有りうると考えている。
そう考えると何故か気が楽になった気がしたルイズであった。
気を取り直すために、両手で頬を軽く叩いた。ベッドを降り、体の汗を拭きとり着替えをする。
その様子をバレッタはベッドに腰をかけたまま黙って見ていた。
表情はいつも通りに明るい。だがバレッタの内心は穏やかではなかった。

昨日の失敗が尾を引いてるからである。
バレッタはルイズとアンリエッタ王女を裏切っている。
それは、アンリエッタから国の情勢や、任務の内容を聞いた際に決めたことである。
ゲルマニアと同盟を組まねば他国に対抗できないトリステインに味方をするよりも、
同盟を阻止し、アルビオンに、トリステインとゲルマニアを各個撃破させた方がよいと考えたからであった。

もっと言えば、ゲルマニアとトリステインが同盟を組んでも、
侵攻を阻止するのが精々だと、バレッタはアンリエッタの話でそう判断したのだった。
ならば、より確実に勝つ方に肩入れしたほうが得であるという結論に至っても、バレッタならば不思議なことではない。

そして、アンリエッタ自身が大金を動かせるような立場にいないことも要因となった。
“心から信頼できる者は数えるほどもいない”宮廷にいるアンリエッタのその言葉が真実ならば、
アンリエッタが約束した十分な給金も期待できない。
もとより、その給金よりも、王女の傍にいることによる利益を望んでの、侍女雇用の受諾ではあったが、
それらを全てを考慮に入れても、アルビオン貴族派に味方したほうがよいと答えを出していた。

魔法の知識のないバレッタが、アンリエッタから授かった指輪をさぞ価値がある物のように扱ったのも、
ルイズとアンリエッタに、自分が従順であると騙すため。
そのときすでに、裏切りを決めていたのだから。

そして必要とあれば、ルイズもアンリエッタも殺害することも視野に入れていた。
そう……ワルドの殺害に成功していたならば、
バレッタはルイズたちを殺し、ルイズに扮装しアルビオンに赴くつもりであったのだ。
であるからして、先ほど言った冗談も、単なる冗談でない。

そのような企みの上での今回の旅であった。
だから自分と似通った目的を持つワルドに、いち早く気づけた。それはその時点では大きな成功と言えた。
だが、相手のよく知る前に深入りしすぎたのだ。特にその実力に関してもっと知るべきだったのだった。

結果、競争相手であるワルドを討ち損じるはめになり、取り逃した。
おかげで、慌てて踵を返して宿に戻り、ワルドに先をこされないように、
宿の地下にあるワイン蔵に放置していたルイズを確保することなった。
今バレッタに残された手札はルイズしかないのだった。

ワルドのルイズへの告白劇を聞いて、ワルドがアルビオンにあるアンリエッタの手紙とウェールズの命の目的以外に
ルイズを懐柔させるという目的があることを察することができた。なぜルイズが必要なのかバレッタはわからないが。

ワルドはルイズを懐柔させるまで、自分が祖国を裏切っているという素性を明かすことはできない。

交換するためのアンリエッタの手紙とルイズは、ワンセットでアルビオンに赴かなければならない。
手紙を奪われた際のことを考えて手紙には、ルイズが大使であることが記されてるはずだからだ。
そして、ワルドはルイズ自身も欲している。

ならば、下手に二人きりにさせないのが一番妥当であるとバレッタは考えた。
ワルドがルイズに余計なことを吹き込めないように、常に傍にいて監視する。そして利用する。

ルイズと手紙、それを手中に収めることだけがバレッタにできることであった。
それこそ悪あがきとしか言えないような粗末な手段であった。
アルビオンに自分を売り込む計画も、もはやおぼつかないものになってしまった。
ならば、いっそのことルイズとアンリエッタの望むように、ウェールズ皇太子が持っている手紙の回収に
従事し、トリステインの味方をしたほうが良い気もすることも確かである。
だが、バレッタはそれをしない。
失敗は認めて糧にするが、負けを認めるわけにはいけない。
どうにかしてワルドを出し抜いてやろうという強い決意があった。執念である。
その顔には深い影が出来ていた。
そんな思いを知らないルイズは身支度を済ませていた。
そして枕の下に挟んでおいたアンリエッタの手紙をと取り出し、ポケットの中に大事に仕舞った。
昨夜、ルイズをワイン蔵から解放した時にバレッタが返したのだった。
ルイズが扉の取っ手を手に取り開けようとすると、
バレッタはベッドから飛び降りトコトコとルイズに近づいた。
ルイズはなにか妙な感覚を味わっていた。理由はわからない。
首を僅かに傾げながら部屋を出た。
二人が廊下に出ると、とある人物が待ちかねたような顔して立っていた。

ワルドであった。

その姿を見た瞬間バレッタは凄惨な表情になった。
対してワルドは笑顔そのものであった。
明るい口調でワルドはルイズに話しかけた。

「やあルイズ。昨日はよく眠れたかい?何しろ長時間の馬での移動だったからね。疲れはちゃんと取れたかい?」

ルイズは昨晩の告白を思い出してか、どこかバツが悪そうに言った。

「ええ大丈夫よ。それよりワルド。まさか昨日は本当に外で一晩中見張りをしてたの?」

外での見張りは、バレッタがワルドとギーシュに言い渡したものである。
バレッタは遍在を使えばどうとでもなる話であるのはわかっていた。
ワルドはバレッタが心情を察しているのか。実に満足気に話し始めた。
それには明らかに下の者を見下す優越感が存分に含まれていた。
まるで待ち焦がれていた復讐を果たすかのように喜びに満ちている。

「ああ、勿論だとも。もしルイズに何かあったら僕はショックで死んでしまうのだから。
 それに僕は 『一度した約束は必ず守る』 たとえ 『誰が相手であろうとね』 それが貴族というものだ。
 そして安心して欲しい。僕は必ず君を 『アルビオンまで何事もなく』 連れていくよ。
 そのためには 『絶対に敵に情報を与えない』 ように注意しないとねルイズ」

このワルドの言葉の真意をバレッタは理解できた。
もとより、このワルドの言葉はルイズにではなく、バレッタに対して発せられたものだからである。
ルイズにバレないように、カモフラージュされた言葉。
ワルドがバレッタに伝えたいことを要約すると次のようになる。

『そちらが約束を一方的に反故したからといっても、そんな些細なことは関係ない、こちらは約束どおりに事を進めてやろう。
 決着はアルビオンにて、それまでこちらは手を出さない。そしてこちらの組織レコン・キスタにも、
 貴様ことは報告しないでおいてやろう』

……といった具合である。

つまりワルドを倒すことが出来ればバレッタは御の字。
バレッタの目的成功の余地を指し示す内容であった。
なぜ、ワルドはそう言ったのか。
それは余地を残すことでバレッタがトリステイン側につかないようにするためでもあった。
そして必ず倒せるという自信の表れと、自分にとってバレッタは取るに足りない存在だと言わしめんがためである。

受けた屈辱は然るべき形で返し、そして殺す。

ワルドの決意も堅固なものであった。
ワルドの真意を読み取った瞬間バレッタ感情が波立つのを懸命に抑えた。
だが、ワルドにしかわからない殺気を漲らせていた。

ぜってぇ、ぶっっ殺すっ。何がなんでも。

もはや決着は、互いの死でしか得られない。
相手を殺すことが出来たほうが全てを得る。
それは両者の間の絶対的な暗黙の了解として存在した。

「そんなとこ突っ立ってないで下に朝食を食べに降りない?ふたりとも」

ルイズの言葉が、ワルドとバレッタにしかわからない険悪な空気を取り払った。

「そうだなルイズ。僕らも腹ごしらえをしておかないとな」
「わーいっバレッタもおっ腹ペッコペコっ!早く行こっルイズおねぇちゃんっ♪」

三人が階下に降りるとキュルケとタバサが食卓を囲んで座っていた。
そこに三人がキュルケとタバサに軽い挨拶をして加わった。
食事を取りながらキュルケが思い出したようにルイズに質問した。

「昨日の夜一度あなたの部屋にいったんだけど。あなたいなかったじゃない?どこ行ってたのかしら?」

キュルケの言葉で嫌なことを思い出したルイズが愚痴をこぼすように言った。

「どっかの誰かさんに猿轡までかまされて縛られた挙句、地下のワイン蔵に放置されてたのよ」

手紙を取られたことは話さなかった。いくら任務を手伝ってくれているキュルケ達でも言えないからだ。

「誰かねぇ……。まあ誰かって聞く必要はないわね。……なんでそんなことをしたわけ?バレッタ」

「ルイズおねぇちゃんが後学のためにやっておきたいからって、自分から『縛ってちょうだい!』って言いだしたのよっ」
「へぇールイズにそんな趣味があったのねえ……初耳だわ」

ルイズは驚きのあまり、口に含んでいた飲み物を噴き出した。

「ぶっ……!!ちょっと!!後学のためって何よ!!?縛られて放置されることが何の後学になるの!?
 バッカじゃない!?私が変態みたいじゃない!!!ちょっとバレッタ聞いてるの!?」

バレッタは意図的に無視して、違う話題について話した。

「なんかもう一匹足りないみたいだけどどーしたのっ?」

「もう一匹って……言い方がヒドイわね。ギーシュなら屋外の石畳の上で寝てるわよ。
 なんか昨日の夜から、こそこそ何かしてたみたいだけど?見張りしているうちに寝ちゃったんじゃない?」

ワルドがその疑問について答えた。

「ああそれなら知ってるよ。彼と僕は一緒にいたからね。何やら魔法の練習してるようだったが
 まあ疲れているみたいだから寝かせといてやろう。船は明日の朝だからな」

「それもそうねぇ」
「いーんじゃないっ?」
「ちょっとバレッタ!さっきのこと訂正しなさいよっ!」

もくもくと皿に盛られた料理を食べるタバサは考えていた。
誰も野ざらしになっているギーシュを部屋に連れていくことを提案しないことを。

……そして夜が訪れた。
ルイズたちを分断させるため、フーケが傭兵を連れ宿屋に襲撃を仕掛ける夜が。


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