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絶望の街の魔王、降臨 - 10


 次の日。ルイズ一行は出発、せずに、日が昇る前から訓練に明け暮れていた。
「リロードは五秒以内にできるように」
「Sir!」
 ギーシュがAK-74をリロードする。コルベールのガラクタ置き場から拾ったものだ。筒と布切れで作った簡易サプレッサーも付けて、騒音を防いでいた。以前、ジルの射撃訓練がうるさいと苦情があったらしく、流石に自重したのだ。精度は落ちるが仕方がない。
「ルイズ。サイトを使わない」
「わかってるわよ!」
 片眼を閉じてこれまたコルベール秘蔵のダブルデリンジャーを構えていたルイズは慌てて照準をずらし、そのまま撃つ。無論、ワイン瓶には当たらない。
「きゃあ!」
 無茶な体勢は軽いはずの反動を殺せず、そのまま後ろに転がる。
「ギーシュ、腰だめで撃て」
「Roger」
 米海兵隊員の様に英語で返事を返し、言われた通りに撃つ。
「Ok、戦闘になったら?」
「敵に向けて銃を撃つ!」
「相手が知り合いでも?」
「躊躇わない!」
「逃げる奴は?」
「敵だ!」
「逃げない奴は?」
「よく訓練された敵だ!」
「Good」
 教練軍曹に叱咤されまくった兵士の様にギーシュは叫ぶ。過去の訓練はジルに対する服従を叩き込まれていた。
「……ルイズ、いい? あなたの力じゃ、遠くの敵に当てるのは無理」
 ゴニョゴニョと耳打ちする。
「そうね……」
「だから、今は反動に慣れるだけでいいの。慣れたら、爆発を的確に当てられるように練習しなさい。あなたの爆発は、戦闘では圧倒的に有利なの。精神力の消費がそんなにないコモンマジックで爆発をいきなり相手に叩きつけられる。私ですら避け損ねたもの。私のナイフも壊したのよ。威力もコストパフォーマンスも最高レベルなの」
「え……」
 ルイズは耳を疑った。今、私は誉められている。ゼロと蔑まれてきた私が。相手は貴族より強く誇り高い平民の、私の使い魔。
昔の彼女なら泣けてくるだろうが、今の彼女はそれが誇らしかった。
「だけど……無茶はいけないわ。強い相手に迂濶に挑んで敗けるのはあなたの勝手だけど、今回の任務は生きて帰るのが前提。死んだら貴族の誇りもクソもないわ。そうね……あなたが死んだら、少なくともトリステインは滅びる。姫様の言葉を要約するとこうなるわ」
「わかってるわ……絶対に、死ねない」
「だから、敵には容赦をしてはダメ。爆発が効かなければ逃げる。Ok?」
「らぁじゃーだっと? よ」
 ギーシュの真似をして、英語で伝えてみた。少なくとも今日一日、ジルのもとで訓練したのだ。少なくとも今は、ギーシュと同じ訓練生なのだ。
「じゃあ、はじめましょう」

 その日の昼まで、爆音と銃声は途絶えなかった。太った少年をはじめとする数人がそれぞれ別の場所からその光景を複雑な表情で隠れ見ている以外は、今日もトリステイン魔法学院は平和だった。



 その日の夜、しばらく見かけなかったエルザがルイズの部屋にいた。
「あれ? エルザ?」
「マスターは?」
「私には挨拶も無しなの?」
「……ただいま。マスターは?」
 しぶしぶといった表情で、エルザは呟くように言った。
「おかえり。って、なんか腹立つわね……ジルはコルベール先生のところだと思うけど……」
「ありがとう」
 今度は素直に礼を言い、すぐ部屋を出ていった。
「ここに住むとか言ってたのに……」
 滅多に帰ってこないエルザを、ルイズはいぶかしげな眼で見送った。
「さて……」
 目の前には一つのトランク。
 今、ルイズはそれに何を入れるべきか迷っていた。『戦場にドレスは要らない』と、最初の荷造りでジルに一蹴されたのだ。トランク三つは流石に多いかな、などと思っていたが、こうも減らせと言われるとは。最初にジルが提示したのは、小さなバックパック。ルイズがごねてごねてごねまくって、どうにかこのサイズのトランクになった──流石にこれ以上はジルに銃を突き付けられた──がルイズにとってこれではまだまだ少ないのだ。
「お金と下着とタオルくらいでいいわ」
 とジルは言ったが、それだけでは貴族として────
「戦争を何か勘違いしてない?」
 ジルの非常に冷たい眼が思い出される。そう、あれは魔王の眼だ。逆らったら死ぬ。
「は、早く準備しないと……を」
 思い出しただけで背筋が寒くなる。冷や汗と共に荷造りを再開した。



「……以上です」
 ロングビルとエルザの報告は、有益な情報がかなり存在した。その小屋の本来の主は、学院周辺にガラクタ漁りに出ていた。Y2Kや小屋の使用など、情報と知識の対価としては少々安いかもしれないが、ジルは密会の場所としてこの場所を借り受けていた。
「レコン・キスタのスパイは城に十名弱……上に食い込んでるのは二人程度ね。ご苦労様、エルザ。立て続けに悪いけど、先行してて」
「わかりましたぁ!」
 先程コルベール謹製輸血パックを飲み終えたエルザは、かなり上機嫌だった。コルベールの研究小屋からすぐに消えた。
「そうだ。ロングビル、あなた、アルビオンに詳しいの?」
「……元、アルビオン貴族です。地理はそれなりに」
 その顔に翳りが映る。それにどんな意味があるか、そんなことはジルには関係ない。要は戦地に詳しい者が欲しかった、それだけだ。
「案内役がいないの。ついてきてくれるかしら」



 準備は整った。計画も万全に近い。後はネズミが罠にかかるのを待つだけ。
「なあ、相棒。なんで今回はそんなに娘っ子に協力的なんだ?」
 木に立て掛けられたまま一日以上忘れ去られていたデルフが問う。確かに、今までのジルは、ルイズにあまり協力的とは言えなかった。
「……国のトップにコネができるからよ。城には、ここにない情報があるかもしれない。門外不出の口伝とか、本とかがあるかも」
「ほう、結局は帰る方法か」
「ええ。目的のためには手段を選ばないわ。国だろうと神だろうと、利用できれば利用するし、邪魔するなら殺(け)すわ」
「おーおー。恐ろしいこった」



 二つの月が重なり、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく日を『スヴェルの夜』という。まだ夜には少し遠い夕日の中を、甲高い音を立ててラ・ロシェール方向に驀進する影が一つ。
「ルイズが猪突猛進型の馬鹿でなくて助かったわ。ろくな準備もできず、ラ・ロシェールで無駄な一日を過ごす羽目になるものね」
 ジルが感心するが、ルイズは心をちくちくと針でつつかれている気分だった。急いで昨日の朝に出発する気だったのだが、船が出るのはスヴェルの夜だけだ。船が出る日時と港までの距離を訊ねるジルを不思議な眼で見ていたが、成程合理的だった。一ヶ所に留まるなんて、敵に襲ってくださいと言っている様なものだ。
「あとギーシュ、誰にもこの事を言ってないわよね? 家族や恋人にも。手紙や、任務を連想させることも」
「も、もちろんですとも!」
 どもるところが怪しいが、訓練の前から厳命されている。高速で移動する板の上にいるのが怖いだけらしい。
 今ジル達が乗っているのは、リアカー付きY2Kだ。フーケ討伐の際に使用したものに囲いをつけただけのものだ。簡単な構造でやたらと頑丈だが、その速度には振り回され、よく横滑りを起こす。経験者のルイズやロングビルは蒼い顔をしながらも平然としているが、慣れないギーシュはいつもの騒がしさはどこへやら、話しかけない限り喋らない。ギーシュがゴネて使い魔のモグラを連れてきたが、走り出して早々に引っくり返っていた。
「次は!?」
 ジルが訊く。
「右!」
 非常識な速度で分岐を曲がるので、ナビは遥か手前で行われる。迷う暇なんてない、道程が頭に入っていないと答える前に急ブレーキだ。ロングビルがジルにつきっきりでナビをしているが、既にかなり疲弊しているように見えた。ギーシュ同様、口数が少ない。
「フッ……」
「うおおおお!?」
 気を抜いていたギーシュが落ちかける。カーブ時のGは人間を吹っ飛ばすには充分な力を持っている。
「うるさい!」
「この坊主にゃ酷ってもんよ、娘っ子」
 ルイズが怒鳴るが、反論する元気は彼にはない。代わりにデルフがたしなめる。
「もうそろそろよ。あれかしら?」
「そうよ、ラ・ロシェールの港、世界樹」
「おう、やっぱ早ぇな。しかしまー、久し振りに見るね」
「じゃあ、このまままっすぐね」
 デルフの言葉を独り言に仕立て上げ、アクセルを回す。ガスタービンエンジンが更に回転を上げ、更に高い音が耳を貫く。マフラーの無いエグゾーストパイプは、エンジンの立てた音をそのまま垂れ流していた。
 限界まで回されたアクセルは、止まるまで緩められはしなかった。



 ラ・ロシェールの厩にY2Kを預け、いつの間にか気絶していたギーシュをジル叩き起こし、歩行が困難と判ると背負い、港に向かう。使い魔は既に起こして土の中だ。主人よりガッツがあった。
 厩の管理人は戸惑っていたが、ジルが
「アカデミーで開発中の乗り物の試作よ。壊したり盗まれたりしたら、処刑を覚悟することね。あと、他言は無用よ。布でも被せて隠しておきなさい」
 と命じると、管理人はコクコクと機械的に頭を動かせた。それなりの金を握らせたから、信用はできるだろう。
 予定通りに、なんらの障害もなく船に乗り込む。アンリエッタはジルの言った通り、情報統制を完璧にしている様だ。
 甲板の手摺に寄っ掛かり、髪を靡かせながら船員の作業を目的もなく見ていたジルに、ルイズは話しかける。手摺の外、遥か眼下の大地を見ながら。
「ねえジル? ここまで何もないと……」
「不安になる? だったら備えなさい。何があってもいいように、ね」
「……そうね」
 その少し離れた場所で、ギーシュが盛大に吐いてなければ、最高に絵になるシチュエーションなのだが。二人はもう完璧に無視していた。連れてくるべきではなかったと諦めながら。
「私は部屋に戻るわ。ジルは?」
「ここにいるわ。気を抜かないようにね」
 いつ裏切るか判らない、今は疲れて眠っているロングビルことフーケのことかと思い至るが、どうやら違うらしい。そこで、『いつ、何が起こるか判らない戦場』の話をやっと思い出し、杖とスカートのポケットに仕込んだデリンジャーを確かめるように叩き、船室に降りていった。
「戦争が予想通りだといいんだけど」
 残されたジルは船の舳先、さらにその先に眼をやり、まだ見ぬ戦地の様相を想像していた。
「なーなー、そんなに深く考えることはねーと思うぜ?」
 今まで黙していたデルフが口をだす。話すことが生き甲斐のようなこの剣は、Y2Kでは邪魔なだけなのでしまわれていたが、今は船に身を任すだけ、余裕ができたので外に出されていた。とはいえ、何故今まで黙っていたのかは疑問だが。
「どんな状況でも対応できるようにしないと。ルイズが姫の指輪や手紙を無くしたり奪われたり、ロングビルが裏切ったり、あるいは、誰かが死んだり」
「悪いことばっか考えると、現実になるぞ?」
「悪いことばかりじゃないわ。成功した場合も考えて……」
「く、空賊やァ────!」
「停船命令だと!?」
 船員の叫び声に、ジルは頭を押さえる。
「この発想はなかったわ……」
 あらから吐き尽くして、べれーんと手摺に引っ掛かっていたギーシュを蹴り急かし、のろのろと動きだしたギーシュを船室に至る扉に蹴り込む。心配そうに寄り添っていたモグラは、その後を追う。
「んで、どうするよ?」
「拿捕しましょう」
 言うが早いか、ロケットランチャーが敵に向けられていた。
「撃ってきた!」
「取り舵いっぱァーい!」
 敵艦から、弧を描いてゆっくりと飛来する、球状の砲弾、いや砲丸が見えた。ジルの眼が光る。
「まさか相棒……」
 ロケット弾は火を噴き煙を曳きながら砲弾目掛けて飛んでゆき、着弾。見事な空中爆発を演出した。
「まだまだよ」
 威嚇射撃を撃ち落とされ、未だ時の止まっている空賊艦に、バカスカとロケット弾は襲いゆく。砲弾より速く正確なそれは、空賊艦をかすめる様に飛び、存分に威嚇の義務を全うしていた。
「なんだあの女は!?」
「おお、助かるかも知れんぞ!」
 甲板が沸き立つ。しかし、それは敵の第二射が来るまでの話だった。片舷の全砲門から放たれた砲弾は、着弾こそしなかったものの、その風圧で船を揺らす。命中精度の落ちたジルのキャパシティでは、いやそれ以前に物量から見ても完全な迎撃は不可能だった。そして照準の狂った砲撃は、見事、敵艦マストへ。
「あー、失敗したわね」
 まともに戦えば戦力差で押し潰される。こちらには強力な兵器があるのだと示威して降伏勧告をするはずだったのだが。今や敵はこちらを沈めかねない。船に着弾しそうなものだけを狙い、幾つか砲丸を撃ち落すが、いかんせん数が多い。
「あまり目立ちたくなかったけど」
 ロケットランチャーは消え、両手を挙げてやれやれと首を振る。一回撃ったら再装填に時間がかかるみたいだが、時間差をつけて発射するので隙があまりない。
「おいねぇちゃん! なにしてんだ、奴を沈めてくれよ!」
「船長に、降伏勧告を。分が悪いわ」
 マストを吹き飛ばしたランチャーの威力に勝利を確信していた船員は愕然とする。
「あっちの砲を全部落とす前に、こっちが沈むわ。もう少し動かないかと思ってたけど、相手の統率はかなりのものよ。逆らわない方がいい」



 実際、空賊の手際は非常によかった。まるで軍人の様に。
「まったく、なにしてんのよ?」
「船と運命を共にするよりましでしょ?」
 そうは言うが、ジルは未だジ・エンドだとは思っていなかった。
 手際と統率の割には、ろくに身体を改めずして牢にぶちこむのは何故か。メイジ連中の杖(ロングビルに至っては身体中に隠していた杖まで)は取り上げておきながら、ジルには全くの関心を示さなかった。いや、まだ知らないだけかも知れない。
「これからどうするんですか?」
「魔法にばかり頼っていた人類は、杖が無くなるだけで随分情けなくなるわね。科学に溺れた人類が言えた話じゃないけど……」
 がさごそとサイドパックを漁る。
「あった」
 その手には、数本の針金。みたいなもの。
「なにそれ」
「キーピック」
 いたずらっぽい笑みで、それを牢の鍵穴に突っ込み、少し弄ると。
「開いた」
「どうやったの?」
「ふふん。ただの『アンロック』よ」
 それだけ伝えて、自分だけ外に出て扉を閉めた。
「ちょ、なにすんのよ!?」
「足手まとい。ぞろぞろと歩いてたら隠密行動はできないわ。鍵は開けておくけど、出ないこと。ただでさえ船酔いで役立たずのギーシュを抱えてるんだから。疲れて集中の乱れてるロングビルと二人きりにしたくはないし。速射と威力の塊はガードに置いておくのがいいでしょ?」
 言うことがいちいち正論だ。いやになり、
「あーあー。いってらっしゃい」
 と投げ遣りに追っ払う仕草をする。そのうち溶けるんじゃないかと心配できるくらいにへちゃっとくたばっているギーシュ、やたらと憔悴して舟を漕いでいるロングビル。同意を得るまでもない。
「そう。なるべく騒ぎは起こさないで。しばらく待てば面白い事になるから」
「は?」
 謎の言葉、というより不安の種を残し、ジルは消える。
「面白い? こんな状況で、暢気なものね」



「まるでダイ・ハードか日本の小説ね。あ、ゲームもあったかしら?」
 ハッシュパピーで眠らせた見回りを小部屋に引きずり込みながら独り言を呟く。眠ってはいるがいつ起きるか判らない。しっかりとインシュロックで拘束して、更にガムテープで口をふさぐ。
「痛そーだな」
 立て掛けられた、痛みのない剣が呟く。ジルが睨むと、それきり喋らなくなる。
 順調に『そして誰もいなくなった』を遂行するジルは、次なる獲物を探して艦を徘徊する。無論、目的は別にある。
「こいつもメイジ……食いっぱぐれて堕ちた、って訳じゃなさそうね」
 行動から滲み出る高貴さと誇りは、悪事に手を染めた人間にしては眩しすぎた。
「レコン・キスタだけじゃなく、王家の方も探っておけばよかったわね。せっかくエルザに遠出して貰ってるのに……」
 粗方の検査を終え、杖をインシュロックで束ねる。そして、悪魔のような思い付きのもと、ガムテープでぐるぐる巻きにして、ぽんと床に転がした。
「事が終われば解放してあげるわ。それまで、Good night」
 デルフを掴み、通路に切っ先を少しだけ出す。
「Zero movement. Forward area clear(敵影ゼロ。前方クリア)」
「Ok」
 相変わらず、剣としては使われず、動体探知機(モーションセンサー)の代わりとして重宝されていた。


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