「ということは、ここは僕の出番のようだね!」
強がっているアンリエッタの後ろからそんな声がする。
直後に扉が開け放たれて、そこには薔薇を携えたギーシュが不敵に笑っていた。
直後に扉が開け放たれて、そこには薔薇を携えたギーシュが不敵に笑っていた。
「話は全て聞かせて頂きました。姫殿下! ここは是非、この僕にもご命令を!」
「ギーシュあんた……盗み聞きしてたの?」
「違うともさ! かぐわしき女性の匂いがしたので寮内を彷徨っていたところ、偶然にもミス・ヴァリエール。
君の部屋に辿り着いていたという訳さ!」
「匂いって。あんたなんか人間離れしてない?」
「修行を積んでいるからね。先生のお陰で」
「ギーシュあんた……盗み聞きしてたの?」
「違うともさ! かぐわしき女性の匂いがしたので寮内を彷徨っていたところ、偶然にもミス・ヴァリエール。
君の部屋に辿り着いていたという訳さ!」
「匂いって。あんたなんか人間離れしてない?」
「修行を積んでいるからね。先生のお陰で」
ギーシュは、マーラに向かって優雅に一礼する。
「うむうむ。精進しておるようじゃなギーシュよ」
「はい! 先生」
「ええと、こちらの人はこの、ルイズの使い魔さんの……」
「はい! 先生」
「ええと、こちらの人はこの、ルイズの使い魔さんの……」
アンリエッタの問いに、ギーシュはまたしても優雅な礼で答えた。
「その通りでございます。この僕、ギーシュ・ド・グラモンはご立派道を邁進するもの。
姫殿下にも、是非僕のご立派を拝見していただきたく」
「ってバカ!」
姫殿下にも、是非僕のご立派を拝見していただきたく」
「ってバカ!」
ルイズがギーシュのみぞおちに一撃入れた。
ぐふ、とギーシュは揺れるが、しかし倒れない。
ぐふ、とギーシュは揺れるが、しかし倒れない。
「いやあの……聞かれていたというのはまずいというか」
アンリエッタはあまりついていけないらしく、いささか呆然としている。
するとそこに畳み掛けるように、ギーシュは薔薇を揺らしながら言う。
するとそこに畳み掛けるように、ギーシュは薔薇を揺らしながら言う。
「この僕、ギーシュ・ド・グラモンの名に賭けて、姫殿下を必ずやご満足させてみせましょう」
「グラモン……するとグラモン元帥の?」
「父は父。僕は僕でございます。父のようなテクニックはありませんが若さで勝負いたしましょう」
「それは頼もしいですね」
「グラモン……するとグラモン元帥の?」
「父は父。僕は僕でございます。父のようなテクニックはありませんが若さで勝負いたしましょう」
「それは頼もしいですね」
ギーシュの言葉がなんかズレて受け取られているが、まあ、この場合はそっちの方がいい。
つーか盗み聞きよりも、今ギーシュが言っている言葉の方が極刑ものじゃないかと、ルイズは思った。
つーか盗み聞きよりも、今ギーシュが言っている言葉の方が極刑ものじゃないかと、ルイズは思った。
「姫さま、これはさっさと縛り首にした方が」
「では、ギーシュさん。あなたにもアルビオンへ……」
「お任せください! 帰ってきた暁には、姫殿下を必ずや!」
「では、ギーシュさん。あなたにもアルビオンへ……」
「お任せください! 帰ってきた暁には、姫殿下を必ずや!」
全然話が噛みあってない。
「で、では、手紙を書きますから、それを……」
アンリエッタがその手紙を書き始める。
その間、ギーシュはマーラに近寄り、頭を下げていた。
その間、ギーシュはマーラに近寄り、頭を下げていた。
「如何でしょうか、先生。僕のトークは」
「いささか焦りすぎじゃのう。もっとずっしりしておらねばならぬ」
「これはしたり。僕もまだまだ未熟ですね」
「いささか焦りすぎじゃのう。もっとずっしりしておらねばならぬ」
「これはしたり。僕もまだまだ未熟ですね」
奴らを炎で焼き尽くせたらどれだけいいことだろう。ルイズは真剣にそう思う。
悩みは深まるばかりだ。
悩みは深まるばかりだ。
翌日、ルイズは朝から必死で馬の用意をしていた。
とにかく馬で出立しないと、これはいかにもまずい。
三度目の正直というが、またアレをするのは駄目だ。本当に駄目だ。
慣れるとかそういう問題でもない。とにかく、アレにまたがっての移動なんて最悪だ。
とにかく馬で出立しないと、これはいかにもまずい。
三度目の正直というが、またアレをするのは駄目だ。本当に駄目だ。
慣れるとかそういう問題でもない。とにかく、アレにまたがっての移動なんて最悪だ。
「小娘、何をしておるのじゃ?」
「馬よ! 馬! 馬使うのよ今度こそ!」
「ワシに乗ればよいものを」
「だから! もうあれは嫌なのよ、もう!」
「馬よ! 馬! 馬使うのよ今度こそ!」
「ワシに乗ればよいものを」
「だから! もうあれは嫌なのよ、もう!」
痴女は嫌、痴女は嫌、と呟きながら、とにかくルイズは馬に乗る。
そこで脇を見ると、ギーシュが堂々とマーラに乗っていた。
そこで脇を見ると、ギーシュが堂々とマーラに乗っていた。
「……あんた正気?」
「先生の上に乗らせて頂くとは光栄の極みだよ。ほら、ヴェルダンデも喜んでいる」
「先生の上に乗らせて頂くとは光栄の極みだよ。ほら、ヴェルダンデも喜んでいる」
ギーシュの傍らにはモグラがいる。
随分と大きなモグラだ。使い魔という話だが。
随分と大きなモグラだ。使い魔という話だが。
「ヴェルダンデもまた、僕と同じくご立派の道を歩み始めたのだよ」
「主従揃って心底どうしようもないわね」
「主従揃って心底どうしようもないわね」
などと言ったら、そのヴェルダンデが突如としてルイズに飛び掛ってきた。
一気に押し倒され、地面に押さえつけられるルイズである。
馬から引き倒されたらそれは相当危ないのだが、よく見ると落ちる時の衝撃はヴェルダンデが自分で引き受けて、ルイズには無傷となっている。
意外と細かい動きの出来るモグラらしい。
が、今のルイズにはそれどころではなかった。
一気に押し倒され、地面に押さえつけられるルイズである。
馬から引き倒されたらそれは相当危ないのだが、よく見ると落ちる時の衝撃はヴェルダンデが自分で引き受けて、ルイズには無傷となっている。
意外と細かい動きの出来るモグラらしい。
が、今のルイズにはそれどころではなかった。
「ちょ、ちょっとぉ!? 何よこれ!?」
「む……ヴェルダンテは……」
「む……ヴェルダンテは……」
そのままルイズの身体のあちこちをまさぐる。
「って……ま、まさか……」
ルイズは顔を青ざめさせた。
「……ギ、ギーシュ! あんたまさか……」
「ふむ……僕の使い魔だからね、ヴェルダンテは。
ご立派の道を共に歩む同士なのだが、ああ、そうか……
喜びたまえ、ミス・ヴァリエール。君はヴェルダンテの劣情を」
「待てぇぇぇぇぇえ!」
「ふむ……僕の使い魔だからね、ヴェルダンテは。
ご立派の道を共に歩む同士なのだが、ああ、そうか……
喜びたまえ、ミス・ヴァリエール。君はヴェルダンテの劣情を」
「待てぇぇぇぇぇえ!」
物凄い危機だ。
ルイズは慌ててヴェルダンテを引き離そうとするが、これがなかなか力が強い。
ルイズは慌ててヴェルダンテを引き離そうとするが、これがなかなか力が強い。
「は、離しなさいよ! わたしこんなのに捧げるつもりなんてぇ……」
「ふむ、ギーシュよ。戯れも程ほどにな」
「これは、先生にはお見通しでしたか」
「ふむ、ギーシュよ。戯れも程ほどにな」
「これは、先生にはお見通しでしたか」
ギーシュがさらりと薔薇を振ると、ヴェルダンテはたちまち引き下がった。
「安心したまえ。別に君の姿に欲情した訳ではないよ、ルイズ。
ヴェルダンテは君のその、姫殿下のルビーに引かれていたのさ」
「え、これ?」
ヴェルダンテは君のその、姫殿下のルビーに引かれていたのさ」
「え、これ?」
ルイズの手の中には、アンリエッタから託されたルビーがある。
それをかぎつけていた、ということなのだろうか。
それをかぎつけていた、ということなのだろうか。
「だが嫌がる女性を無理やり、というのは僕の道に反するからね。
ヴェルダンテも僕とともにあるものだから、まあ、この場は引き下がるさ」
「まったく……主が主なら使い魔も使い魔よ」
ヴェルダンテも僕とともにあるものだから、まあ、この場は引き下がるさ」
「まったく……主が主なら使い魔も使い魔よ」
ぶつぶつ呟くルイズだが、その言葉にギーシュはふむ、と目を閉じて言う。
「なるほど。主が主なら使い魔も使い魔とは、君と先生の関係もそうなのだろうね」
「あ」
「あ」
言葉の刃がそのまま自分に返ってくるルイズだ。
「小娘も言いよるわな。グワッハッハッハ」
「あああああ、もう!」
「あああああ、もう!」
マーラだけでも扱いづらいというのに、このギーシュもどうも変な方向に成長してしまっている。
ルイズはもうこの時点で嫌になってきたが、そこに。
空から、彼女の希望が舞い降りてきた。
ルイズはもうこの時点で嫌になってきたが、そこに。
空から、彼女の希望が舞い降りてきた。
「おっと! 何とか間に合ったかな」
グリフォンとともに降りてくるその人物。
羽根付き帽子を被った、その男性こそ……
羽根付き帽子を被った、その男性こそ……
「あ……ああ!」
ルイズは、沈みに沈んでいた気持ちが一気に浮かび上がるのを感じた。
地獄の底から、たちまち天上へと吹き飛んだのと同じくらいだ。
地獄の底から、たちまち天上へと吹き飛んだのと同じくらいだ。
「あなたは……! あなたは!」
「姫殿下より命を受けてね。ご立派なガードがいても、やはり何の手助けもないのはお心苦しいとのことで……
僕が、君たちの護衛についたという訳さ」
「ワ、ワルドさまぁ!」
「姫殿下より命を受けてね。ご立派なガードがいても、やはり何の手助けもないのはお心苦しいとのことで……
僕が、君たちの護衛についたという訳さ」
「ワ、ワルドさまぁ!」
話の途中なのに、ルイズは駆け寄ってワルドに抱きついた。
そのまま大粒の涙を流し、胸に顔をすりつける。
そのまま大粒の涙を流し、胸に顔をすりつける。
「ど、どうしたんだい、僕のルイズ?」
「『僕の』! ああ、なんて素敵な響きでしょう!」
「『僕の』! ああ、なんて素敵な響きでしょう!」
このワルドこそ、グリフォン隊隊長にして風のスクウェアメイジである人物なのだ。
そしてルイズの、今となってはたった一つの希望でもある。
そしてルイズの、今となってはたった一つの希望でもある。
「あなたに会いたくて枕を濡らす日々でしたわ! ワルドさま!」
「え……あ、ああ。そうか。僕も嬉しいよ、ルイズ」
「ワルドさま……ワルドさまぁ」
「え……あ、ああ。そうか。僕も嬉しいよ、ルイズ」
「ワルドさま……ワルドさまぁ」
ルイズの喜びようは尋常ではない。
それを見て、マーラとギーシュは軽く首を傾げると、
それを見て、マーラとギーシュは軽く首を傾げると、
「小娘は欲情でもしおったかな」
「そうでしょうね。いやミス・ヴァリエールもアレでなかなかアレのようです」
「そうでしょうね。いやミス・ヴァリエールもアレでなかなかアレのようです」
そういう雑音は、今のルイズには届かなかった。届いていても気にしない。
「いや、なんというか……はは。参ったね」
ワルドは妙に戸惑っている。
こういう反応は意外だった、というか。まあ。なんというか。
ルイズも苦労してるのだ。
こういう反応は意外だった、というか。まあ。なんというか。
ルイズも苦労してるのだ。
それらの姿を、学院長室で見下ろす者達がいる。
「フーケが脱走したそうですな」
見下ろしつつ、そう言うオスマンの姿が何故か異様なまでに若々しく感じられて、アンリエッタは首をかしげた。
300年も生きているという話の割りに、元々年齢を感じさせないような飄々とした人物だったのだが……
何故か、今は精力がにじみ出ているような感まである。
なんというか、いやらしいような気もした。
300年も生きているという話の割りに、元々年齢を感じさせないような飄々とした人物だったのだが……
何故か、今は精力がにじみ出ているような感まである。
なんというか、いやらしいような気もした。
「ア、アルビオン貴族の暗躍なのでしょうか、これも……」
「確かに。ですがまあ、心配の必要など欠片もないでしょう。
何しろ我々には、偉大なるモノがありますからな」
「確かに。ですがまあ、心配の必要など欠片もないでしょう。
何しろ我々には、偉大なるモノがありますからな」
その言葉を受けて、アンリエッタは窓の下にあるオブジェに目をやった。
やっぱりどう見てもアレだ。
やっぱりどう見てもアレだ。
「その、ですが、やはり風紀上問題が……」
「古来より人は生命力そのものを崇めた、と言いますな。
始祖ブリミルへの信仰も無論ありますが、素朴な信仰心と言えば……」
「古来より人は生命力そのものを崇めた、と言いますな。
始祖ブリミルへの信仰も無論ありますが、素朴な信仰心と言えば……」
何度見てもアレ以外には見えない。
「生命の源であるその、ナニを拝むというのは自然なこと。
その、まさに生命の源がついているのです。これでトリステイン勝つる」
「……まあうっすらと理解はできますが」
その、まさに生命の源がついているのです。これでトリステイン勝つる」
「……まあうっすらと理解はできますが」
なんか語調までおかしくなったオスマンを見るのが年頃の乙女として嫌になってきたので、アンリエッタは目をそらす。
そらした先には例のオブジェがあるので、もうどこを見ればいいのやらとぐるぐる目を回した。
そらした先には例のオブジェがあるので、もうどこを見ればいいのやらとぐるぐる目を回した。
「それはいいんですが、何も学院の中にあのようなモノを設置するのは……」
「いやいやこれがなかなかに評判もよろしい。姫も一度、さすってみてはいかがですかな」
「い、いや、遠慮を……」
「恋愛成就のご利益もあると評判ですぞ」
「……そ、それは少し興味もありますね」
「いやいやこれがなかなかに評判もよろしい。姫も一度、さすってみてはいかがですかな」
「い、いや、遠慮を……」
「恋愛成就のご利益もあると評判ですぞ」
「……そ、それは少し興味もありますね」
ちょっぴり心引かれたアンリエッタであった。