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ラスボスだった使い魔-19


 まだら色の空に、平らな正六角形の銀色のブロックを敷き詰めた異空間。
 仮面の男が作り出した、千年王国。
 ここでは全てが存在し、全てが無となる、因果律を超越した世界……。

「よく来た……ガイアセイバーズの諸君」

 そこで男は、自分の敵たちと対峙する。

「お前……やはり、あの■■■■■■■■■なのか!?」
「そうだ、一条寺 烈……いや、ギャバン。君と共にバード星から地球に派遣された、銀河連邦警察科学アカデミーの科学者、■■■■■■■■■だ」
「その仮面を脱いで素顔を見せろ!」
「……私の素顔は見ない方がいい。もう私はお前が知る■■■■■■■■■ではない」

 やはり『男の名前』以外―――他の人物の名前は、普通に聞こえる。
 どうして男の名前だけが、聞き取れないのだろうか。
 ……相変わらずそんな自分の疑問には構わず、展開は進んでいく。

「さて、ガイアセイバーズの諸君……今までご苦労だった」
「何だと!?」

(……?)
 部下や協力者だったはずの者たちがことごとく破られたと言うのに、『ご苦労だった』とはどういうことだろうか……?

「お前達が倒してきた者たちは、私と現世を繋ぐ因果律……。おかげで余計な手間が省けた。感謝するぞ」
「■■■■、それはどういう意味です!?」
「私の正体を知る者の始末が終わりつつある、ということだよ。それにより、私は■■■■という小さな器から解脱出来る」

 ローブを身にまとった……女、なのだろうか? 男にも見えるが……ともかくその人物の問いに、男はサラリと答えた。

「さしもの私も、部下を自らの手で始末するのは辛いからな……。
 それが私に残された、最後の人間性だと理解してくれ……」
「ま、まさか……それで因果律を操作せず、部下たちを復活させなかったというのですか……?」
「そうだ」
「そして……あなたはこの私をも……」
「そうだ。信じるものは己のみ。孤高の存在とはそうあるべきだ」

(ひどい……)
 自分で彼らを勧誘しておいて、わざと見殺しにするなんて……とルイズは思った。
 しかし、よくよく考えてみれば『勧誘された者たち』も、この仮面の男を倒すつもりだったようだし……。
 つまり、どっちも悪人だ。
(自業自得……ってヤツなのかしら)

「私を相手にするか、彼らを相手にするか……楽な方を選べ」
「おのれ……人間の分際で!」

 激昂したローブの人物が仮面の男に攻撃を行おうとするが、逆に妙な衝撃波のようなもので攻撃されて、弾き飛ばされてしまった。

「私に向かってきたか……正しい選択だ。どの道、お前を生かすつもりはないのだから……」
 ……さあ、どうせ死ぬのなら彼らと戦って死ね」
「う、うう……身体の自由が……利かない!? これが……奴の力……!」
「まだ、不完全だがな……」

 そして、なかば自暴自棄になりながらも戦いに身を投じたローブの人物は、青い鎧を身にまとった戦士の横一閃の一撃によってその生涯を閉じる……。


 邪魔者を排除した仮面の男は、目の前に立つ自らの複製人間の素性を語り始める。

「私の複製人間は……誕生後、ネオバディムからモビルスーツ・トーラスを奪って脱走し、行方不明となった……」
「そう……俺に埋め込まれたナノマシンは作動せず、その代償として俺は記憶を……■■■■の記憶を失った。
 今にして思えば……記憶喪失が、俺の独自の人格を形成するのに役立ったのかも知れん……」
「だ、だけど、お前はイングラムなんだろう!? 俺たちの仲間……イングラム・プリスケンなんだろう!?」
「お前たちが知るイングラム・プリスケンは……■■■■■■■■■の記憶と、独自の人格を持つイレギュラーな複製人間……。不完全・不安定で哀れな生き物なのだよ……」

 仮面の男は、自分の複製である青い髪の男を完全に見下していた。
 いや、ある意味では嫌悪感すら抱いていたかも知れない。

「だが、まさか自分の複製人間が全ての因果律をまとめ上げ……。
 私に対する対抗手段として、ガイアセイバーズを引き連れて来るのは予想外だったがね……」

 その手腕や意志の強さを認めつつ、しかし存在を認めることはしない。
 なぜなら、それを認めてしまったら……。

「デビルガンダム!? さっき破壊したはずなのに……」
「今の私でも、この程度の芸当は可能だ。そして……この容れ物には、すでに光の巨人の力が満たしてある……。
 後は私が生体ユニットとなれば良い……」

 まさに悪魔のような異形の金属の巨人へと同化する、仮面の男。
 そして青い光のカタマリ―――たしかカラータイマーという名前だったか―――が現れ、その力の源となった。

「さあ、行くぞ! ガイアセイバーズ!!」

 夢は、もはや佳境に入っている。
 おそらくはこれが、最後の戦いとなるのだろう。

 赤と青、左右非対称の身体の『人間ではないモノ』が、黒い翼を穿つ。
 白と青の色をした鉄で作られた巨人が、両手から物凄いエネルギーを放つ。
 赤い服を着た男が、その強化服の能力と超絶技巧をフルに活用して一撃をぶつける。
 そして白銀の鎧をまとった、仮面の男のかつての友は……ほんの僅かな葛藤を見せつつも、光の剣を振り下ろす。

 超神と化した仮面の男は、それらの攻撃にも構わず、因果律を操作して自身の再生を図った。
 だが、それは彼が憧れた光の巨人たちの『捨て身のエネルギー放出』という所業によって、阻止されてしまう。
 それによって、光の巨人は自分の姿の維持すら出来なくなったが……。

「おのれ……ウルトラ兄弟め! 再生が……再生が間に合わん!!
 くっ、クロスゲート・パラダイム・システムが……作動しない! 奴らの力で私の力が中和されたとでも言うのか!?」

 その引き換えとして、超神の力も相殺していった。
 これで、敵と条件は五分である。


「イングラム! 貴様が……貴様さえいなければ……!!」

 もはや軽く錯乱すらして、複製だったはずの男に呪詛の言葉を吐く。
 この男さえいなければ、自分の計画は成功するはずだった。
 だが、この男を作ってしまったのは……他でもない仮面の男だ。

 ならば仮面の男は、どこで―――何を、間違えてしまったのだろうか?

 ……やがて戦いは終わる。
 仮面の男は敗北した。
 それは、もしかしたら必然だったのかも知れない。

 そして男の仮面は砕け、素顔があらわになるのだが……。

(……見えない……?)
 ちょうど仮面の男の素顔の部分が、霞がかかったようにボヤけていて、よく見えなかった。
 この男の素顔に関してはかなり気になっていたのに、これでは生殺しである。

「ふ……ふふふ……この顔は……まぎれもなく……私の顔だ……。
 ……私は……40年前……地球を脱出する時に……瀕死の重傷を負い、本来の顔を失った……。
 この顔は……その後で与えられたもの……。
 複製人間であるイングラムの顔と……この顔が同じなのは当然だ」
「イングラムの顔は……この顔を、コピーしたものなのか……」
「今思えば……■■■■■■■■■という人間は、40年前に死んだ……。
 お前たちが知る……本当の■■■■は、すでに死んでいるのだ……。
 だから私は……仮面で、偽りの素顔を隠した……」

 それが与えられた顔を忌み嫌い、仮面を被った理由。
 その意思は紛れもない自分自身であるのに、その顔は自分のものではないという矛盾に耐えられなかったのだ。
(でも、この顔と同じってことは……)
 青い髪の男の顔は、よく見える。
 この顔と、同じ顔ならば―――
 ルイズの疑問に構わず、息も絶え絶えに内心を吐露した男は、やがて同じ顔を持つ複製―――いや、一人の地球人に対し、最期にして初

めて羨望の言葉を送った。

「私は……お前が……うらやましい。地球人に受け入れられた……お前がな……」

 そうして、彼の物語は終わった。



「……………」
 いつものように、目が覚める。
 おそらくあの仮面の男の死をもって、一連の夢は終わりなのだろう。
 だが……。
「……納得いかないわ」
 そう、納得がいかない。
 そりゃあ、男に敵対していた者たちから見れば、敵を倒せて良かっただろう。これで『悪』はいなくなったわけだから、めでたしめでたし、だ。
 ……でも、それじゃあ倒された男はどうなるのか?
 確かに、色んな酷いことをした。完全に悪人だ。弁明の余地もない。
「……でも、だからって……」
 あの男は、あんな物凄い力を持つ存在たちに、よってたかって袋叩きにされるほど悪いことをしただろうか?
 しかもこちらは、たった一人だというのに。
 色々と策謀を巡らせて、世界の運命を狂わせた。間接的には、人もたくさん殺した。
 だが、直接手を下したことは……全く無いとは言わないが……ほとんど無かったじゃないか。
「……………」
 ……スッキリしない気分を抱えたままで、ルイズの一日は始まったのだった。



 瓦礫と死体の山と化した、ニューカッスル城。
 かつては名城としてその名をハルケギニアに知られたその城は、もはやかつての栄華など見る影もない。
 そんな残骸のような場所を歩きながら、ワルドは戦跡を検分していた。
 金貨や宝石を漁っている傭兵の一団が視界の端に映るが、あのような下らない連中などはどうでもいい。
 ワルドは礼拝堂だった場所まで進み、瓦礫を小型の竜巻で吹き飛ばす。
 すぐに自分が殺したウェールズの亡骸が目に入ったが、それもどうでもいい。
 そのまましばらく、『目当ての人物』の死体を探したが……どこにもそんなものは見つからず、代わりに人間一人が通れる程度の穴が見つかった。
「………」
 穴からは、風が吹いている。ということは、この穴は外に通じているということだ。
「……やはり生きているか」
 予想通りではあるが、出来ればあの連中には死んでいて欲しかった。
 今は『ただの学生たちと、その使い魔』に過ぎないが、下手をすると自分の最大の障害になる可能性がある連中だ。
 特にルイズの秘められた力が開花した場合、その使い魔の頭脳と組み合わされでもしたら―――
「想像も出来んな……」
 自分の婚約者だったルイズが『虚無』の系統であるのは、ほぼ間違いがないと思うのだが、その『虚無』の魔法がどのようなものなのかは全く分からない。
 『全く分からない』のであれば、対策の立てようもない。
 仮に分かったとしても、あのガンダールヴはこちらの想像もつかないような応用方法を考えてくる可能性が高い。
「……………」
 まあ、そんな正体不明のものに対して、いつまでも気を揉むのも馬鹿らしい。
 取りあえず戻るか……と礼拝堂の残骸を後にしようとしたところで、そんなワルドに声がかけられた。
「子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね!?」
 緑の装束に身を包んだ30代半ばほどの男、『レコン・キスタ』の総司令官―――今となってはアルビオンの新皇帝ことオリヴァー・クロムウェルである。
 元は司教で聖職者のはずなのだが、どうにも信用できない空気を身にまとわせていた。
「申し訳ありません、閣下。どうやら手紙は穴からすり抜けたようです。私のミスです、何なりと罰をお与えください」
 地面に膝をつき、深々と頭を下げるワルド。
 ……ハッキリ言ってワルドはこの男をほとんど信用していないのだが、現在の社会的地位や『得体の知れない力』を操ることなどから、ひとまず恭順の態度を示していた。
 そんなワルドに対して、二カッと人懐こそうな笑みを浮かべてその肩を叩くクロムウェル。
「何を言うか、子爵! 君は目覚しい働きをしたのだよ! 敵軍の勇将を一人で討ち取るなど、並の人間に出来ることではない!!」
 アルビオンの新皇帝は、笑いながら部下に賞賛の言葉を送る。


 そしてひとしきりワルドの肩を叩いた後、クロムウェルはウェールズの亡骸へと歩み寄った。
「ふむ、彼はずいぶんと余を嫌っていたが……こうしてみると不思議だ、妙な友情さえ感じるよ。ああ、そうだった。死んでしまえば誰もが『ともだち』だったな」
 微笑みを浮かべて皇太子の死体を眺めるクロムウェル。
「ワルド君。余はこのウェールズ皇太子と、更に友情を深めたいと思っているのだが……異存はあるかね?」
「いいえ、閣下の決定に異論を挟めようはずもございません」
「うむ」
 クロムウェルは頷くと、腰に差した杖を引き抜き、何やら判別のつかない言葉で詠唱を開始した。
 そして詠唱が完了し、杖を振り下ろすと―――もう固く閉ざされていたはずのウェールズの瞳がパチリと開き、ゆっくりと身を起こす。
 青白く、血の気が全く感じられなかった顔に、みるみる生気が……文字通りに『甦って』いく。
 その様子を『当然』とばかりに眺めていたクロムウェルは、軽い口調でウェールズへと話しかけた。
「おはよう、皇太子」
「久し振りだね、大司教」
「失礼ながら、今では皇帝なのだ。親愛なる皇太子」
「そうだった。これは失礼した、閣下」
 そのままクロムウェルはかつての仇敵と談笑を始め、にこやかにその仇敵だった男を自分の親衛隊に加える。
「よし。では早速で悪いのだが、会議と行こうか。
 今後の政略や軍略、それと戦が終わったら頻繁に現れるようになった、例の怪物どもの対策も立てねばならんしな」
 『例の怪物』というのは、先の戦の終盤から姿を見せている異形のモノのことである。
 今のところ『怪物』は3種類ほど確認され、レコン・キスタの人間たちからはそれぞれ『骨』と『ツタ』と『鎧』という通称で呼ばれていた。
 そしてウェールズと共に歩き出そうとしたところで、クロムウェルは思い出したように足を止め、ワルドに向かって喋り出す。
「ワルド君、失敗をそう気に病む必要はない。同盟は結ばれても構わぬ。……いずれにせよ、余の計画に変更はないのだから」
「は……」
 ワルドは会釈した。
「レコン・キスタの―――いや、新たなるアルビオンの最初の標的はトリステインだ。あの王室には『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。あの忌まわしきエルフどもから聖地を取り戻す際には、是非ともこの手に持っておきたいものだ」
 言い終わって自分のセリフに満足げに頷くと、クロムウェルは礼拝堂跡から去っていく。


 その姿が完全に見えなくなった時点で、ワルドは大きく息を吐いた。
 クロムウェルが言うには、あれが『虚無』らしいのだが……そうだとすると、恐ろしい力だ。
 つくづくルイズを手に入れられなかったことと、確実に始末が出来なかったことが悔やまれる。
「だが、俺は更なる力を手に入れられるかも知れぬ……」
 予定より少し早いが、善は急げということで既に『偏在』で作った分身を各地に飛ばして、あの『紫の髪の男』に関する情報収集は開始している。
 アルビオン近辺が怪しいと睨んでいるのだが、ボヤボヤしていると感付かれて逃げられる可能性もあるので、なるべく急がねばなるまい。
「さて……、それでは取り急ぎ義手を手に入れねばな……」
 ワルドは無くなった左腕の辺りを撫でながら呟く。
 『紫の髪の男』に接触したとして、その後どのような結果になるのかは分からないため、自分の状態を万全にしておくに越したことはないからだ。
 ……その『紫の髪の男』について僅かでも知識のある人間がワルドの思惑を知ったら、呆れるか同情するか失笑するか忠告するかしたのだろうが……。
 生憎と、ハルケギニアにおいて『シュウ・シラカワ』の恐ろしさを知っている人間は、ほとんど存在していなかった。



「『始祖の祈祷書』、ですか?」
 ボロボロの古びた本を遠目に眺めながら、里帰りから帰ってきたミス・ロングビルが疑問の声を上げた。
「うむ、今しがた王宮から届けられたものなのじゃがなぁ」
 そのページをめくりながら、オールド・オスマンは溜息を吐く。
「トリステイン王室に古くから伝わる……という触れ込みのくせに、300ページの内で文字が書かれている部分が1箇所もなくての」
「まがい物ではありませんの?」
「……何だか、私もそんな気がしてきた」
 この『始祖の祈祷書』という本は、『1冊しか存在しない』はずなのにハルケギニア各地に存在しているという奇妙な本である。
 始祖ブリミルが六千年前に読み上げた呪文が記されていると伝承にはあるのだが、何せ六千年も時間が経過しているだけあって偽物が数え切れないほど作られてしまい、今では『この本を集めるだけで図書館が出来る』とまで言われていた。
「しかし、まがい物にしても酷い出来じゃな」
 いくら何でも、全く文字すら書かれていないとはどういうことか。
 そんな感じで首をひねるオスマンだったが、ふとミス・ロングビルが物憂げに溜息をついていることに気付いた。
「おや、悩みごとかね、ミス・ロングビル?」
「……ええ、まあ。帰省した先で、少しありまして」
「ふむ、よければ私に話してみんか? 伊達に年を食ってるわけではないのでな、何かアドバイスが出来るやも知れん」
 悩める女性の相談に乗る、というのは少し心惹かれるモノを感じる。
 それに上手くすれば、これを機に『秘書と学院長のイケナイ火遊び』などに発展する可能性も……。
「もし解決が出来ずとも、話して楽になることもあるでな」
 ……内心のそんな下心を微塵も表に出さず、あくまで『頼れる学院長』を演じながらオスマンはミス・ロングビルに悩みの告白をうながす。
「はあ……。実は、男性のことで……」
 オスマンは『よりによって男の相談かよ』、と内心で盛大に舌打ちした。
 しかし自分から話を振った以上、途中で打ち切るわけにもいかない。
「続けたまえ」
「はい。実は私は、ここで貰った給料の一部を仕送りとして実家……と言いますか、とにかく帰省先に送っているのです」
「ほう」
 それは初耳である。やはり人の相談は聞いてみるものだ。
「そこには、妹代わりの……血は繋がっていないのですが……年頃の娘がいまして」
「ふむ」
「で、先日戻ったらですね、なぜかその『妹代わりの子』の家に、変な男が居ついていたのです」
「はあ、それは……」
 つまり、妹代わりの少女とやらが色気づき始めた……ということだろうか。
 ミス・ロングビル本人の相談ではなかったことに若干安堵しつつ、オスマンは質問する。
「よく分からんが……その男はどのような男なのかね?」
「どういう、と言われましても……説明しにくい男ですから……」
 うーん、と悩むミス・ロングビル。
 そんな様子を見て、オスマンは質問の形式を変えることにした。
「その男とやらは、君の妹代わりの少女に対して……まあ、その、下心があるようだったかね?」
「……いえ、多分ないと思いますが」
「少女がその男を嫌がっている素振りは?」
「ありません。と言うか、間違いなくその男に対して……好意を抱いているみたいでした」
「男の性格が破綻している、とかは……」
「これでもかと言うほど徹底的に、冷静かつ理知的に見えました」
「では、顔が悪いのかね?」
「…………認めたくありませんが、女性が10人いれば8人か9人は『美形』と言うと思います」
「じゃあ、何が不満なのかね?」
 話だけを聞くと、まさに非の打ち所のない人間である。
「いや、しかしですね……!」
 ミス・ロングビルは頭を抱えて唸り出す。
 まあ、保護者と言うのはそういうものかも知れんなぁ……などと思っていると、学院長室にノックの音が響いた。

 ミス・ロングビルが少し慌てながらもチラリとオスマンを見ると、オスマンは小さく頷いた。
 そして彼女はドアへと歩いていき、扉を開ける。
 扉の前には、オスマンが呼びつけたルイズが立っていた。
 ルイズはミス・ロングビルによって部屋の中に通されると、オスマンから先日の任務についての労をねぎらわれる。
「来月にはゲルマニアで、無事に王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われることが決定した。君たちのおかげじゃ、胸を張りなさい」
 にこやかに言うオスマンだったが、ルイズの心は晴れやかではない。
 政治の道具として、結婚すら利用されてしまうアンリエッタのことを思うと、悲しくなってしまうのである。
 オスマンは黙って頭を下げるルイズをしばらくじっと見つめていたが、やがてスッと『始祖の祈祷書』を差し出す。
「これは?」
「王室に伝わる、『始祖の祈祷書』じゃ」
「これが……ですか」
 国宝であるはずの『始祖の祈祷書』がこんな所にあることに、ルイズは疑問を抱いたようだった。
「トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。
 選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔(ミコトノリ)を詠み上げる習わしになっておる」
「は、はあ」
「そして姫さまは、その巫女にミス・ヴァリエール、君を指名してきたのじゃよ」
「姫さまが……わたしを、ですか?」
 半信半疑でオスマンの言葉を反芻するルイズ。
「その通りじゃ。巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠み上げる詔を考えねばならぬ」
「……って、詔ってわたしが考えるんですか!?」
 てっきり『お決まりの文章』を読み上げるとばかり思っていたらしく、まさか自分で考えるとは思っていなかったようだ。
 まあ、王族の結婚などそうそうあるものでもないので、知らないのも当然だが。
「もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……伝統と言うのは面倒なもんじゃのう。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ」
 それを聞いて、ルイズはキッと顔を上げる。
 幼なじみが、かつて共に過ごした自分を式の巫女役に選んでくれた……ということを再認識して、やる気を出したのだろう。
「分かりました。謹んで拝命いたします」
 ミス・ロングビルの手を経由して、ルイズに『始祖の祈祷書』が手渡される。
 そしてボロボロの本をしっかりと握り締めたまま、ルイズは学院長室を後にしたのであった。

「……結婚、か」
 ルイズが去った後、ミス・ロングビルはポツリとそんなことを呟く。
 そして、オールド・オスマンはそれを聞き逃すような真似はしなかった。
「時にミス・ロングビル」
「何でしょう?」
「君の年齢はいくつかね?」
「……………」
 しばしの沈黙の後、ミス・ロングビルはゆっくりと口を開いた。
「…………23ですが、それが何か?」
「ほぉ~、そうかそうか。姫さまは17で結婚するというのに、ミス・ロングビルは23で―――うおっ!?」
 そこまで言いかけると、いきなり分厚い本が高速で飛来してきた。
 長年のカンでそれを回避するオスマンだったが、見るとミス・ロングビルは『何かそれなりの大きさがある物体』を投げた姿勢のまま、ゾッとするほど冷ややかな視線でこちらを見ている。
「……ミ、ミス・ロングビル?」
「あら、申し訳ありません。少しばかり手がすべってしまいましたわ」
「す、少しって……」
「『少し』、です」
 それなら、こっちだって少しばかりからかっただけなのに……と言おうとしたが、余計な災厄を招きそうなので黙ることにした。
(この話題をミス・ロングビルに振るのはやめておこう……)
 教訓として、オスマンは学習する。
 もちろん、後のフォローも忘れない。
「……ご、ごめんなさい」
「はい。それでは溜まっている仕事を、速やかに、手早く、迅速に消化してくださいね」



 一方、ユーゼスは研究室の中でギーシュと話していた。
「……前から聞こうと思っていたのだが」
「何だね、ユーゼス?」
 今日届いた手紙を読み上げながら、金髪の少年に質問を投げかけるユーゼス。
「お前はなぜ、ことあるごとに私の研究室に入りびたるのだ?」
「駄目かい?」
「駄目ということはないが……」
 アルビオンから戻って以降(と言ってもまだ数日しか経過していないが)、ギーシュは毎日のようにユーゼスの研究室に顔を出していた。
 最初は『女子寮に忍び込む口実がわりか』とも思ったが、頻繁に『ワルキューレを使った攻撃方法』などを質問してくることから見るに、単純にそういうわけでもないらしい。
「なら良いじゃないか」
 まあ、特に騒いで迷惑というわけでもないので、取りあえず放置しておく。
 そして手紙を机の脇に置くと、クロスゲート・パラダイム・システムを起動させて『覗き見』を開始する。
 『覗き見』と言っても、その対象は個人のプライバシーや組織の暗部などではなく、並行世界である。
 『シュウ・シラカワの世界』を見て以来、『他の世界』にも興味が湧いてきたのだ。
 差し当たって、手始めに『自分のいた世界と位相がごく近い世界』を見てみるのだが……。
(……イングラムが女だった場合の世界、か)
 何を思って自分の複製を女にしたのか、『その世界の自分』の思考があまり理解できないユーゼスだったが、まあそのような世界もあるだろう。
 しかし、その性別が女であること、名前がイングラムではなく『ヴィレッタ・プリスケン』であること以外は全くと言っていいほど差異が見当たらない。
(何の意味があるのだろう……)
 そう思って『ヴィレッタ・プリスケン』を辿ってみると、別の並行世界では自分の複製であるイングラムの、更に複製として存在していることが分かった。シュウ・シラカワのいた世界にも、そうして存在している。
 彼女はイングラムの代役のような存在としてR-GUNに搭乗し、SRXチームの隊長に収まっているようだった。
(ふむ……)
 深く追求するつもりはないが、少なくとも無意味な存在ではないようだ。
 やはり色々あるものだな、と並行世界について一人で納得するユーゼス。
「……む?」
 ふと意識を現実のハルケギニアに戻すと、ギーシュが自分のレポートを興味深げに見ている光景が目に入った。
「何をやっている、ミスタ・グラモン」
「ああ、いや、何かの参考になるかと思って、君の論文を見てたんだが……いやぁ、難しい単語が並べ立てられてて、僕にはサッパリだな」
「学生のレベルで、いきなり第5稿などを見るからだ」
 1~2稿ならば『勉強熱心な学生』程度でも読み解けるだろうが、5稿にもなると専門的になり過ぎており、完全に専門的な『研究者』に対してのレベルになっている。
 と言うか、下手に自分のレポートなどを読むよりは、普通の魔法の学術書でも読んだ方が余程ためになるだろう。
 その旨をギーシュに伝えると、彼はうーむ、とアゴに手を当てて首をひねる。
「そういうものか……。しかし、よくここまで複雑な論文を、これだけ大量に書けるものだね。何日も徹夜しないといけないんじゃないかい?」
「ああ、実際にしているぞ」
 ユーゼスの言葉を聞いて、ギーシュは驚く。
「その割には、君は……何だ、えらく健康そうに見えるが」
「ミス・モンモランシから『眠気覚まし用』のポーションや、『体力回復用』のポーションを貰っているからな」
 そうなのか、と一瞬納得しかけたギーシュだったが、何だか聞き捨てならない単語が先ほどの会話に含まれているコトに気付いた。
「ちょ、ちょーっと、その辺りを詳しく説明してくれないかなー、ユーゼス・ゴッツォ君?」

「詳しく、と言われてもな……」
 自分のアイディアを元に、よく図書館で一緒になるモンモランシーに『眠気覚まし用』だとか『集中用』などのポーションを作ってもらっているだけなのだが。
 ちなみにそのアイディア自体は、メトロン星人がやっていたことの応用である。
 それを説明したところ(無論、メトロン星人うんぬんは伏せてある)、ギーシュはまだ納得がいっていないようだった。
「僕が聞きたいのは、そういうコトじゃなくてねー? どうして君が、モンモランシーと交流があるのかってコトなんだよねー?」
「口調がおかしいぞ、ミスタ・グラモン」
 そしてユーゼスは、なるべく理解しやすいように自分とモンモランシーの関係を語った。約5分ほどの時間を要した。
 一通りの説明を受けたギーシュは、額を右手で強く抑えながらユーゼスに確認する。
「…………うん、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ、ユーゼス。……いいかい、情報を整理しようじゃないか」
「? 分かった」
「まず、君はよく図書館に行く。これは良いね?」
「ああ」
「そして、モンモランシーもよく図書館に行く」
「そうだ」
「つまり君とモンモランシーが図書館でよく会うのは、ある意味で必然だ」
「うむ」
「よし、ここまでは良い。……で、君は水魔法や秘薬の関連で、図書館の蔵書を調べている時に、モンモランシーと出会った」
「ああ」
「で、それが元になって、以降モンモランシーと君は、図書館でよく会話をするようになったわけだ」
「『よく』と言うほどではないが」
「そうかい。それで、君から色々と話を聞いて、モンモランシーは香水の試作を行っており―――」
「………」
「―――その香水の試作品を、君に渡して意見を聞いている、と」
「最初は金を受け取ろうかと思ったのだが、双方にとって得になるだろうから現物支給で、ということになってな。いわゆるギブアンドテイクというやつだ。互いの知識の交換にもなるしな」
「ふむ……。ここまでの話を総合すると、『君』と『モンモランシー』は『よく図書館で会って』いて、『彼女の香水』を『君が受け取り』、更に『お互いの知識について理解を深めて』いる―――という結論に達するわけだが、これについて何か訂正はあるかね?」
「無い」
「なるほど……」
 うんうん、とギーシュは頷いて、
「……って、ふざけるなぁぁぁあアアアアアアアアアア!!!」
「何だ、いきなり」
 猛烈な咆哮を放った。
「こ、ここここ、ここ恋人の僕をさしおいて! 密会して! プレゼントと言葉を交換し! アレコレ理解を深めているだとぉォオオオオオオオ!!?」
「かなり曲解しているな」
 それにモンモランシーからはよくギーシュについての愚痴も聞かされているが、彼女の口ぶりでは二人は別れたように言っていた。
 どうも二人の間では、認識にズレがあるらしい。
「け、ケケケケ決闘だぁぁァァアアアアアアアア!!!」
 全身と顔の筋肉全体をガクガクと震わせ、バラの造花を取り出しながら叫ぶギーシュ。
 ユーゼスはすかさず『リラックス用(試作)』と書かれた小ビンを手に取り、フタを開けてギーシュの鼻先に突きつける。
「うっ……っ」
 するとギーシュはビクンと痙攣し、やがて無表情になっていった。
「……まあー、いっかー」
「ほう」
 どうやら効果はあったようだ。
「もうー、モンモランシーのこともー、他の女の子のこともー、どうでもー、いいやー」
「……む?」
 何か様子がおかしい。
「僕自身のこともー、トリステインのこともー、生きてることもー、どうでもー、いいやー」
「……………」
 そのままバタン、と倒れるギーシュ。どうやら効き過ぎたらしい。
「……『問題あり、リラックス用の成分を半分以下にするべき』……と」
 まあ、実験に失敗はつきものである。

 そして必要以上にリラックスしまくりのギーシュを横目に、また並行世界を覗くか、本を読むか、レポートを書くかしようとしていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
 わざわざノックをしてまで入ってくるような人間など、ハルケギニアにおけるユーゼスの知り合いには片手で数えるほどしかいなかったが、ともあれ来客を無下に断るのも何なので迎え入れることにする。
「鍵はかかっていない、入れ」
 一体誰だ、と思いながらボンヤリとドアを見ていると……、
「ふぅん、平民にしては異例の扱いじゃないの、この研究室」
 ドアが開いて、ついこの前にユーゼスが会ったばかりのスレンダーな体系の女性が入って来た。
「……ミス・ヴァリエール?」
 金色の長い髪に、眼鏡をかけているため元々キツい瞳がもっとキツく見えるルイズの姉、エレオノールである。
「さあ、出発するわよ」
「出発?」
 いきなり放たれた言葉を、思わずそのまま返してしまうユーゼス。
 エレオノールは若干イライラした様子で、ユーゼスに確認を取り始めた。
「私があなたのレポートの添削と一緒に送った手紙は読んだわね?」
「これのことか?」
 机の脇に置いていた手紙を手に取る。
 それには、大まかにこんなことが書かれていた。

 ・王宮から、宝物やマジックアイテムの探索の依頼が来た。
 ・アカデミー的には本来なら断る類のものなのだが、自分の権限で半ば強引に受けることにした。
 ・それにあなたもついて来なさい。拒否は認めないわ。
 ・近い内にそっちに直接行くから、早いうちに仕度をしておきなさい。

「……『近い内』すぎるだろう」
「ウソは書いてないでしょう」
 それにしても、手紙が着いたその日にやって来る……などというのは急すぎる気がする。
 アルビオンとの戦争が迫っているこの時期にトレジャーハントなどを行う理由について、大体の予想はつくのだが……。
(……『この時期』だから急なのか?)
 おそらく、昔の財宝なりマジックアイテムなりを発掘・発見して、それを資金源や武器や兵器にでもする腹積もりなのだろう。
 そう都合よく宝が見つかるとも思えないが、何もしないよりはマシ……と言った所だろうか。
 アカデミーが断ろうとするわけである。
「まあ、さすがに探索メンバーが私とあなただけという訳にもいかないから、他に学院の生徒を適当に連れて行っても良いわよ」
「………?」
 疑問符を浮かべるユーゼス。
 『学院の生徒を連れて行く』というのは、別に構わない。
 だが、先程エレオノールの口から出たセリフの前半の部分に、何か不穏なものがあったような気がするのだが……。
「……待て、ミス・ヴァリエール。他にアカデミーの研究員や、護衛の人間はいないのか?」
「いるわけないでしょう、これを受けたのは私の独断に近いんだから」
「……………」
「仕度をしてないのなら、とっとと仕度をなさい。他のメンバーは……取りあえずコイツにしておきましょう」
「まあー、どうでもー、いいやー」
 エレオノールはユーゼスに命令しつつ、生きながら死んでいるような状態のギーシュを指差す。そして『どうでもいいなら、別について来ても構わないわね』と形ばかりの念押しをした。
「……………」
 普段は感情を顔に出さないユーゼスだったが、この時ばかりは微妙に嫌そうな顔をする。
(そう言えば、御主人様の許可は取ったのだろうか……)
 忘れがちだが、自分はあくまでルイズの使い魔であって、決してエレオノールの従者でも助手でもない。
 ならば、そもそもルイズが首を縦に振らなければ……と思って、その旨を質問してみると、
「は? そんなもの、これから許可させるわよ」
「…………そうか」
 『許可を取る』ではなく『許可させる』と来た。
 記憶を掘り返してみると、ルイズはこの姉に全く頭が上がっていなかったことを思い出す。
 もはや決定事項か……と、ユーゼスはなかば諦めに近い心境に至るのであった。


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