その日……利家はシエスタの家で彼の父と、酒を交わした。
父親は利家と忠勝を見ると目を丸くしていたが、説明を受けると納得したように頷いた。
父親は利家と忠勝を見ると目を丸くしていたが、説明を受けると納得したように頷いた。
「……そうか、謙信様は元気でやっておられるか……」
利家から話を聞いた彼は、懐かしそうに呟いた。
しかし、帰りたいか?という利家の問いに彼は首を横に振る。
「わしにはここに新しい家族がいる。アルビオンとトリステインが不可侵条約を結んだのは知っているか?」
顎に手を掛けながら、難しい顔をして彼は言った。
「わしには、どうにも裏がありそうな気がしてならん、近い内に戦が起こるやもしれん……そんな時に家族を守らねばならんだろ?
それに!あっちにはわしの息子もいる!なぁに心配はあるまいて!!」
彼は豪快に笑うと、コップに入っていた酒をぐいと飲み干した。
しかし、帰りたいか?という利家の問いに彼は首を横に振る。
「わしにはここに新しい家族がいる。アルビオンとトリステインが不可侵条約を結んだのは知っているか?」
顎に手を掛けながら、難しい顔をして彼は言った。
「わしには、どうにも裏がありそうな気がしてならん、近い内に戦が起こるやもしれん……そんな時に家族を守らねばならんだろ?
それに!あっちにはわしの息子もいる!なぁに心配はあるまいて!!」
彼は豪快に笑うと、コップに入っていた酒をぐいと飲み干した。
シエスタの父と話をした利家と忠勝は、その日の内に学院に戻った。
シエスタはそのまま実家に残る事になった。
なんでも、アンリエッタが結婚するという事で特別に休暇が出たらしい。
シエスタはそのまま実家に残る事になった。
なんでも、アンリエッタが結婚するという事で特別に休暇が出たらしい。
2人が学院に戻る頃には夜になっていた。
「……こんな遅くまで何処に行ってたのかしら?」
学院に帰った2人を待っていたのは、呆れた顔のキュルケといつもと変わらず、本を読んでいるタバサだった。
「別にあなた1人で行くのならいいのよ。でもタダカツを連れ出すならタバサにちゃんと言いなさい。この子ったらまたソワソワ……」
「してない」
間髪入れずにタバサが言った。
「その……すまなかったな2人共」
「……………」ボフゥゥ~
利家は素直に頭を下げた。心なしか、忠勝もバツが悪そうな顔をしている。
こんな事ならもっと早く帰れば良かったな……と、利家は思った。
「……こんな遅くまで何処に行ってたのかしら?」
学院に帰った2人を待っていたのは、呆れた顔のキュルケといつもと変わらず、本を読んでいるタバサだった。
「別にあなた1人で行くのならいいのよ。でもタダカツを連れ出すならタバサにちゃんと言いなさい。この子ったらまたソワソワ……」
「してない」
間髪入れずにタバサが言った。
「その……すまなかったな2人共」
「……………」ボフゥゥ~
利家は素直に頭を下げた。心なしか、忠勝もバツが悪そうな顔をしている。
こんな事ならもっと早く帰れば良かったな……と、利家は思った。
しかし、後にこれが「あっちに泊まれば良かった」に変わるとは、2人には知る由もなかった。
ゲルマニア皇帝、アルブレヒト3世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式はゲルマニアの首府、ヴィンドボナで行われる運びとなった。式の日取りは来月……3日後のニューイの月の1日に行われる。
そしてこの日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎える為に、ラ・ロシェールの上空に停泊していた。
後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵と艦長のフェヴィスがいる。
「左上方より艦隊!」
見張りの水兵が告げた方を見ると、そこには雲と見まごうばかりの巨大戦艦とが降下してくるところであった。
アルビオン王国の旗艦、『レキシントン』号である。
「戦場では会いたくないものだな」
艦長のフェヴィスが口髭をいじりながら呟く。
降下してきたアルビオン艦隊はトリステイン艦隊と併走するかたちをとると、旗流信号をマストに掲げた。
そしてこの日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎える為に、ラ・ロシェールの上空に停泊していた。
後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵と艦長のフェヴィスがいる。
「左上方より艦隊!」
見張りの水兵が告げた方を見ると、そこには雲と見まごうばかりの巨大戦艦とが降下してくるところであった。
アルビオン王国の旗艦、『レキシントン』号である。
「戦場では会いたくないものだな」
艦長のフェヴィスが口髭をいじりながら呟く。
降下してきたアルビオン艦隊はトリステイン艦隊と併走するかたちをとると、旗流信号をマストに掲げた。
「貴艦隊ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長」
「こちらは提督を乗せているのだぞ。艦長名義での発信とは、これまたコケにされたものですな」
艦長はトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見渡しながら、自虐的に呟いた。
どん! どん! どん! とアルビオン艦隊から大砲が放たれた。
弾は込められていない。火薬を爆発させるだけの礼砲である。
しかし、巨艦『レキシントン』号の長大な砲身から放たれた空砲は、辺りの空気を震撼させ、トリステイン艦隊の将兵は皆肝を冷やした。
艦長はトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見渡しながら、自虐的に呟いた。
どん! どん! どん! とアルビオン艦隊から大砲が放たれた。
弾は込められていない。火薬を爆発させるだけの礼砲である。
しかし、巨艦『レキシントン』号の長大な砲身から放たれた空砲は、辺りの空気を震撼させ、トリステイン艦隊の将兵は皆肝を冷やした。
「よし、答砲だ」
一瞬後じさったラ・ラメーが、それでもどうにか威厳を保ちながら命令する。
「何発撃ちますか? 最上級の貴族なら、11発と決められております」
礼法の数は相手の格式と位で決まる。艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。
「7発でよい」
半ば意地を張って、ラ・ラメーは答えた。
一瞬後じさったラ・ラメーが、それでもどうにか威厳を保ちながら命令する。
「何発撃ちますか? 最上級の貴族なら、11発と決められております」
礼法の数は相手の格式と位で決まる。艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。
「7発でよい」
半ば意地を張って、ラ・ラメーは答えた。
一方、アルビオン艦隊の船から、その様子を見ている2人の男がいた。
松永久秀と、ワルドである。
松永久秀と、ワルドである。
「何とも壮観な眺めじゃないか、そう思わないかね?」
悠然と飛行するトリステイン艦隊を見て、松永が言った。
「あの艦隊を……今から蹂躙する事を考えると……下品な話だが、欲情してしまうよ。卿には分かってもらえるかな?」
「……悪いが、俺はお前と違ってサディストじゃない」
「さでぃすと?ふむ、私が聞いた事のない言葉だ、どういう意味かな?」
「お前のような性格の人、という意味だ」
ワルドの言葉に納得したのか、松永は低く笑った。
悠然と飛行するトリステイン艦隊を見て、松永が言った。
「あの艦隊を……今から蹂躙する事を考えると……下品な話だが、欲情してしまうよ。卿には分かってもらえるかな?」
「……悪いが、俺はお前と違ってサディストじゃない」
「さでぃすと?ふむ、私が聞いた事のない言葉だ、どういう意味かな?」
「お前のような性格の人、という意味だ」
ワルドの言葉に納得したのか、松永は低く笑った。
そんな話をしていると、トリステイン艦隊から答砲が1回、2回と発射された。
2人はアルビオン艦隊の最後尾の旧型艦、『ホバート』号に目を向ける。
その先では、船から密かに脱出する乗組員の姿があった。
2人はアルビオン艦隊の最後尾の旧型艦、『ホバート』号に目を向ける。
その先では、船から密かに脱出する乗組員の姿があった。
「作戦開始だ」
ワルドが小さく呟いた。
「騙し打ちか……私はどうにも苦手なのだがなぁ……」
「そうか?俺にはお前の十八番に思えるが」
「買いかぶり過ぎだ。私はただの欲深い人間だよ」
ワルドが小さく呟いた。
「騙し打ちか……私はどうにも苦手なのだがなぁ……」
「そうか?俺にはお前の十八番に思えるが」
「買いかぶり過ぎだ。私はただの欲深い人間だよ」
そして、彼がそう言った直後だった。
乗組員のいなくなったホバート号が突如爆発し、炎に巻かれながら地面へと落下していったのである。
乗組員のいなくなったホバート号が突如爆発し、炎に巻かれながら地面へと落下していったのである。
「という訳で……彼らの命を貰い、代わりに絶望を贈るとしよう」
この日、アルビオンの罠にはまったトリステイン艦隊は、反撃する間もなく全滅した。
生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。
先ほど、ラ・ロシェールの方角から爆発音が聞こえてきた。
驚いて庭に出ると、そこには恐るべき光景が広がっていた。
驚いて庭に出ると、そこには恐るべき光景が広がっていた。
空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中に墜落していったのである。
「お、お父さん……」
シエスタは不安げな表情で、隣に立つ父を見る。
「お、お父さん……」
シエスタは不安げな表情で、隣に立つ父を見る。
彼は落ちていく船を見ながら、利家達に話した……悪い予感が的中した事を感じた。
そして考えたのは、次に敵がどう動くか、であった。
空飛ぶ船でやって来た敵は、先ず駐屯するための場所が必要な筈だ。
ここから一番近い村といえば……
そして考えたのは、次に敵がどう動くか、であった。
空飛ぶ船でやって来た敵は、先ず駐屯するための場所が必要な筈だ。
ここから一番近い村といえば……
父は、シエスタを見ず、険しい顔つきのまま娘達と母に言った。
「シエスタ。南の森に逃げるぞ」
「え?」
シエスタが尋ねると、父は声を荒げてまた言った。
「早くしろ!戦じゃ!戦が始まったんじゃ!!」
尋常でない様子の父を見て、シエスタと、母親は急いで逃げる準備を始めた。
そして、逃げる支度が出来て、家を飛び出して森への道を走っている時だった。
空から、雲のように巨大な船が、草原に降りて来たのである。
さらに、その船の艦上から何十匹ものドラゴンが飛び出し、村に向かってきた。
「シエスタ。南の森に逃げるぞ」
「え?」
シエスタが尋ねると、父は声を荒げてまた言った。
「早くしろ!戦じゃ!戦が始まったんじゃ!!」
尋常でない様子の父を見て、シエスタと、母親は急いで逃げる準備を始めた。
そして、逃げる支度が出来て、家を飛び出して森への道を走っている時だった。
空から、雲のように巨大な船が、草原に降りて来たのである。
さらに、その船の艦上から何十匹ものドラゴンが飛び出し、村に向かってきた。
「いかん!」
父は反射的に叫ぶと、荷物の中から一振りの刀を取り出していた。
ここに来た時に一緒に持っていた、戦場で使っていた愛刀である。
「シエスタ!先に行って隠れていろ!わしは一度戻る!!」
そう言って、元来た道を戻ろうとしていた父を、母は悲鳴に近い声で止めた。
「馬鹿な事しないでおくれよ!!!竜騎士に勝てる訳ないじゃないか!!」
シエスタと弟達も、泣きそうな顔で父に「行かないで」と訴えていた。
だが、彼はフッ、と笑って言った。
ここに来た時に一緒に持っていた、戦場で使っていた愛刀である。
「シエスタ!先に行って隠れていろ!わしは一度戻る!!」
そう言って、元来た道を戻ろうとしていた父を、母は悲鳴に近い声で止めた。
「馬鹿な事しないでおくれよ!!!竜騎士に勝てる訳ないじゃないか!!」
シエスタと弟達も、泣きそうな顔で父に「行かないで」と訴えていた。
だが、彼はフッ、と笑って言った。
「わしを誰だと思っている?」
そして、親指を立てて自分を指差してこう叫んだのだ。
「わしは……無敵で!!素敵な“おとうさん”じゃぞ!!心配するな!!」
そう言って、父は勢いよく村の方へ駆け出して行った。