あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-18


 トリステインの王宮の門の前に、巨大なモグラをくわえた青い風竜が降り立つ。
 その背に乗っているのは、5人。
 桃色がかったブロンドの美少女、燃えるような赤毛の長身の女、眼鏡をかけた青い髪の少女、金髪の少年、そして……やたらと気分が悪そうな、銀髪の男である。
「ぐっ……き、気分が、悪……い……」
「あーもう、やっぱり酔ったか。もう目的地には到着したから、取りあえず深呼吸でもしたらどうだね?」
「……下手に深く呼吸をすると、むしろ……」
「これでよく吐かなかったよなぁ」
 金髪の少年と銀髪の男のそんなやり取りが交わされている間に、幻獣……マンティコアにまたがった兵士たちが、彼女たちを取り囲んだ。
「杖を捨てろ!」
 隊長らしきヒゲ面の男が叫ぶ。
 彼女たちは少し相談した結果、言われた通りに杖を地面に投げ捨てた。
 そして桃髪の少女が前に出て、隊長らしき男と話を始める。
「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」
「……わたくしはラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しい者じゃありません。姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」
 やり取りをする少女と隊長を横目に『かつて全てを超越しようとした男』―――ユーゼス・ゴッツォは竜酔いに苦しみつつも、その竜の背から降りた。
 別に自分の主人を守ろうとか、援護しようとか思ったわけではない。
 ただ竜の背中に乗っているよりは、平坦な地面にいた方が幾分マシだろうと判断したのである。
 その情けない姿が見ていられなくなったのか、他のメンバーも風竜の背中から降りて行く。
「動くな!!」
 しかし、その動きを警戒したマンティコア隊の隊長に制止されてしまった。
 途端に他の隊員たちは見事な手際で杖を構え、呪文を詠唱し―――
「ルイズ!」
 その詠唱終了まであとわずかとなった時、宮殿から鮮やかな紫のローブとマントを羽織った女性……アンリエッタ王女が駆け寄ってきた。
「姫さま!」
 アンリエッタの姿を見て、ぱっと表情を明るくするルイズ。
 そしてそのまま二人はひしっと抱き合あった後、ルイズは自分自身と今回の任務の主目的である手紙の無事を示し、アンリエッタはそのことを大いに喜ぶ。
 だが、帰ってきたメンバーの中に自分の愛する人物がいないことに気付くと、アンリエッタの顔は曇ってしまった。
「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね……」
 と、その時、
「…………アンリエッタ姫殿下」
 ユーゼスが青い顔をしながら、アンリエッタに話しかけた。
「あなたは確か、ルイズの使い魔の……」
「……ユーゼス・ゴッツォと申します」
 相変わらず気分は悪いが、取りあえずこれは果たしておかねばなるまい。
「これを」
 懐から『風のルビー』を取り出し、アンリエッタに手渡す。
「これは……『風のルビー』ではありませんか。ウェールズ皇太子から預かってきたのですか?」
「そのようなものです」
 本当は死体から抜き取っただけなのだが、あのまま放置しておくよりはマシだと考えたのである。
 そして次に、その今は亡き皇太子からの伝言を伝えた。
「『ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』……これだけを伝えてくれれば心残りはない、ともおっしゃられていました」
「そう……ですか」
 ますますアンリエッタの表情が曇っていく。
 だが彼女は周囲にいるマンティコア隊の面々の視線に気付くと、気を取り直して彼らに説明した。
「……彼らはわたくしの客人ですわ、隊長殿」
「さようですか」
 それだけで、アッサリとマンティコア隊は引き下がっていく。
 君主制における王族の権力は凄いな……などと、ユーゼスは思わず変な感心をしてしまった。

 まあ、それはさておき。
「……それでは、私はこれで」
「はあ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ、ユーゼス! どこに行こうって言うの!?」
 いきなりその場を立ち去ろうとしたユーゼスに、ルイズは仰天した。
 ユーゼスは、体調の悪さが窺える口調で話す。
「……あの風竜に酔ったので、気分が悪い。酔い覚ましに風に当たっていたいのだが」
「だからってねぇ……!」
「……それに、こんな格好で王宮の中に入るわけにもいくまい?」
 言って、自分の服装を改めてルイズに見せた。
 その白衣は道中の戦闘で、かなりボロボロになっている。確かに『王宮の中にふさわしい服装』とは言えない。
「……まあ、そうね」
 納得してしまうルイズ。
 よくよく考えてみれば別にユーゼスがいなくとも、自分とギーシュとキュルケとタバサで詳しい状況の説明は出来るだろう。
「じゃあ、適当にトリスタニアをブラついてなさい。何だったら、そのまま魔法学院に戻ってもいいわよ」
「そうしておく。……ついでに白衣も新調しておこう」
 言って、ユーゼスはブルドンネ街へと、ルイズたちは王宮の中へと入っていった。
「……やれやれ」
 溜息と共に、ストレスを吐き出すユーゼス。
 実を言うと、体調管理などクロスゲート・パラダイム・システムを使えば一瞬で解決が出来た。
 と言うかたった今、酔いは消した。
 自分自身の因果律も操作が出来ないようでは、このシステムを持っている意味がない。
 何せ、やりようによっては死人ですら無傷で復活させることが出来るのだ。
 今までユーゼスが自分の身体に対してそれをしなかったのは、怪我などの『痛みをともなう』ものはあまり急激に回復すると怪しまれるし、自分は『痛い振り』が出来るような演技力も持ち合わせていないからだった。
 ……なお、筋肉痛を治さなかったのは『中途半端に腕力や体力があると思われても困る』からである。
 なのでこれらに関してはシステムを使わず自然回復や秘薬に任せているが、酔いのような『少し時間を置けば回復する』ものならば別に構わないだろう。
 ―――また、言えば確実に主人から怒鳴り声が飛んだだろうから言うつもりはないが、ユーゼスは『王宮の中』などという空間があまり好きではない。
 どうせ無駄な装飾でゴチャゴチャした内装をして、高飛車な貴族でごった返しているに決まっているのだし。
「さて……」
 まずは白衣を新調する必要がある。
 そしてその後は、
「そう言えば、呼び出しを受けていたな……」
 直接会うのはこれが二度目になるが、あの眼鏡の女性の所に行かなければならないだろう。


 ぺたぺたぺた。
「ふぅーん……」
「……………」
 ぺたぺたぺた。
「外面的には、これと言って特長的な部分はないわね……」
「……終わったか、ミス・ヴァリエール?」
 少しゲンナリした様子で、エレオノールに語りかけるユーゼス。
 彼は、御主人様の姉に身体中を触られまくっていた。
 白衣を新調し、次にアカデミーに向かい、衛兵に自分の名前とエレオノールに用がある旨を告げ、そして前にも来たことのあるエレオノールの研究室に通された直後、
「あなたの身体を調査するから、脱ぎなさい」
 と、金髪眼鏡の美人から、いきなり出会い頭にそう命令されてしまったのである。
 言われるがままにユーゼスは上半身裸になり(下半身を脱がない程度の羞恥心やプライドは、まだ彼にもあった)、そしてそのままぺたぺたぺたぺたと触診されていたのだが。
「…………よく分からないわ」
「何だ、それは?」
 エレオノールからその結果を聞いて、ユーゼスは更にゲンナリした。
「取りあえず、そこに座りなさい」
 いつまでも上半身裸でいるわけにもいかないので上着と白衣を着直し、言われた通りにその辺りにあった椅子に腰掛ける。
 エレオノールは何かを考え込む素振りを見せた後、ユーゼスを見てゆっくりと口を開いた。
「……あなた、自分の身体に何か変化は感じる?」
「変化だと?」
「例えば、ルイズと使い魔の契約をする前と比べて、『道具を上手く扱えるようになった』とか……」
 じっとユーゼスを見ながら問いかけるエレオノール。
 ……前置きなしで物を言う女だな、などと思ったが、これはこれで話が早くて良いかも知れない。
 ならばこちらも、余計な前置きや詮索はなしで行くとしよう。
「私をここに呼び出した用件とは、ガンダールヴのことか?」
「!」
 エレオノールの目が見開かれるが、その目はすぐにスッと細まった。そして一瞬の沈黙の後、警戒するような口調で質問を開始する。
「……どこまで知っているのかしら?」
「『伝説の使い魔である』こと、『かつて同じ存在がハルケギニアで確認されていた』こと、『あらゆる武器を使いこなした』……いや、『使いこなせる』こと、『武器を持てば身体能力が強化される』こと、『身体能力の強化は感情の高ぶりに比例する』こと―――この程度か」
「そう……。まあ、あなたなら自分でその程度は調べられるでしょうね」
 意図的に隠している部分もあるが、精神操作や言語の理解などの機能は、別に明かさずとも良いだろう。

 では、次はこちらが質問する番だ。
「そちらの持っている情報は?」
「あなたと大差はないわね。ただ……」
「ただ?」
 エレオノールは少し躊躇したようだが、やがて意を決したように告げる。
「……これから話すことは他言無用でお願いしたいのだけど、良いかしら」
「その内容によるな」
「……………」
 躊躇の度合が深くなる。
 自分の持っている情報を、果たしてこの男に明かすべきかどうか……。
「……『他の人間に話さない』と確約が出来なければ、私からあなたに情報を与えることは出来ないわ」
「ほう、ならば『私が自分でその情報を掴んだ』のならば、いくらでも話して構わないのだな?」
「っ……」
 眼鏡越しに睨まれる。
 それ自体は彼女の妹から頻繁にされているので慣れたものだが、年齢や経験を経た『鋭さ』のようなものが加味されている分、いくらかプレッシャーを感じた。
 やがて、ふう、と大きく溜息を吐き、諦めたようにエレオノールは手持ちのカードをさらす。
「……ガンダールヴは、かつて始祖ブリミルが使役したとされる使い魔なのよ」
「…………始祖だと?」
 ユーゼスの表情が動いた。
 魔法学院の図書館で様々な書物を読んでいれば、始祖ブリミルに関して書かれた本に行き当たることも珍しくはない。
 よって、ユーゼスもハルケギニアの一般常識程度には始祖とやらの知識があったのだが……。
「人間を使い魔にしていたのか、ブリミルは?」
「そうらしいわね。かなり古い本に書かれていたことだから、真偽は疑わしいんだけど」
 曰く、始祖は4体の使い魔を使役していた。
 曰く、それらの名称はガンダールヴ、ヴィンダールヴ、ミョズニトニルン、そして名称不明のものが1体。
 そしてユーゼスの左手に刻まれているルーンは、記録されているガンダールヴのそれと同じである。
「名称不明とはどういうことだ?」
「『記すことすらはばかられる』って書いていたけど……記録されていないのなら、知る方法はないわね」
 ふむ、と思考するユーゼス。
(……つまり、私は『始祖ブリミルが使役していた使い魔』と同じ存在ということか)
 もしそれが本当ならば、『それを使役する自分の主人』は―――
「―――ならば私の御主人様は、始祖と同じ存在ということになるな」
「……………」

 これで、この女が伝えることを躊躇した理由が分かった。
 まさか『自分の妹が始祖ブリミルと同じです』などと、軽々しく口に出来ようはずもない。
 難しい顔をしているエレオノールに構わず、ユーゼスは言葉を続ける。
「始祖の系統は、四系統のいずれにも属さない『虚無』……。
 これでいくら系統魔法を使おうとしても『不可解な爆発』しか起こらない理由に、ある程度の説明がつく」
 全く系統が異なるのであれば、他のメイジたちと同じようにやっても成功するわけはあるまい。
「『ゼロ』が転じて、『虚無』のルイズか。知れば笑いが止まらないだろうな、御主人様は」
「……笑いごとじゃないわよ!」
 平然と言うユーゼスに向かって、エレオノールは怒鳴り声に近い叫びをぶつけた。
 そして左手で額を押さえたまま、悩みながら喋り出す。
「…………私だってね、いまだに自分の妹が『始祖が使った伝説の系統』だなんて信じられないわ。でも、あなたの存在がそれを裏付ける証拠になってしまう……」
「まるで自分の妹が『虚無』では都合が悪いような言い草だが……」
「悪いわよ、物凄くね」
 もはや恨みすらこもった視線を向けられる。
「……これが私以外の研究員や、王室に直接知られてごらんなさい! ルイズは良くて『道具』や『兵器』扱い、下手をすれば『実験動物』や『解剖のサンプル』よ!?」
 そのエレオノールの剣幕に、ユーゼスは意外そうな顔をした。
「……何よ?」
「お前はもう少し割り切った考え方をするものと思っていたのでな、驚いただけだ。研究者ならば、まずは調査や実験が最優先なのではないか?」
 自分ならそうする……と言おうとして、眼鏡越しに睨む視線がキツくなったことに気付いた。
「……確かに興味や好奇心はあるわ。それは認めましょう。
 …………でもね、好きこのんで自分の妹をサンプル扱いするわけがないでしょう!! 私は研究者である前に、ルイズの姉なのよ!!」
「ふむ」
 怒り方がどことなくルイズに似ているな、などとユーゼスはどこかズレた感想を抱く。
 しかし、どうもこの女は自分とは―――少なくとも過去の自分とは、違うタイプの研究者のようだ。
 何せ自分にはクロスゲート・パラダイム・システムの実験がてら時空間と因果律を操作して異星人連合ETFを乗っ取ったり、
 ウルトラマンをデビルガンダムに取り込ませよう……などと考えて実行しようとしたり(それは失敗したが)、
 そのデビルガンダムの生体ユニットの予備として操るため、5人の少年たちにナノマシンを注入した(ナノマシンは抹消されたが)前歴がある。
 それに比べれば、甘いと言わざるを得ない。
 しかし。
「……人間としては、それが正しいのだろうな」
「当然よ!」
 人としての一線。倫理観や道徳の縛り。人間を『単なる道具』として見れるかどうか。
 かつて自分が踏み越えた道ではあるが、そのあげくの果てが『今の自分』であることを考えると、決してお勧めは出来ない道である。
 まあ、エレオノールがその道を選ぶとも思えないが。

「……話を戻すわね。
 それで、ガンダールヴの身体を直接調べてみれば『虚無』の片鱗くらいは分かるんじゃないかと思ったんだけど……」
「見事に当てが外れたわけだな」
「まあ、ね。
 ……そもそも触って分かるくらいなら、『ディテクト・マジック』をかけた時点で分かってるはずだし……」
 エレオノールはユーゼスを見て考え込む。
「あなたの方で、ガンダールヴの能力以外に何か分かっていることはある?」
「それならば私よりも、この剣に聞いた方が良いだろうな」
 そう言うと、ユーゼスは近くに置いていたデルフリンガーを鞘から抜いた。
「デルフリンガー、お前の知っている『虚無』の情報を提供しろ」
「…………いきなり抜いてそれかよ。もうちょっと、こう……愛情とまでは言わねえけど、愛着って言うか、さ。
 仮にも命がけの戦いを共に潜り抜けた『戦友』に対する―――」
「いいから言え」
 ぶつくさ文句を言うデルフリンガーだったが、その途中でユーゼスに黙らされてしまう。
 と、そんな様子を見てエレオノールが眉をひそめた。
「何、そのうるさそうなインテリジェンスソードは?」
「この剣が言うには、『自分はかつてガンダールヴに握られていた』そうだ」
「……本当?」
「真偽は怪しいがな」
「おい、引っ張り出しといて何だ、その言い草は!?」
 自分のすぐ近くでかなり失礼な会話をされて、さすがにデルフリンガーも怒る。
 研究者2人は、揃って『大して期待していません』という視線をデルフリンガーに向けて、
「では、あらためて質問するが。かつての『虚無』やガンダールヴについて、お前が記憶―――この場合は記録か? ともかく、知っていることを話せ」
 ぞんざいな口調で質問した。
 だが、返って来た回答は、
「覚えてねえ」
「……捨てるか」
「そうね」
 ほとんど感情を込めずにそう判断するユーゼスとエレオノール。
 そして『この剣は頑丈で、魔法も吸収するから炉に直接放り投げて―――』などとユーゼスが説明し始めると、デルフリンガーは慌てて弁明を始めた。
「ちょ、ちょっと待てって! 俺は六千年も長いこと剣をやってきたんだぞ!? そんだけ時間が経てば、そりゃ忘れもするって!!」
「……私は二万年以上もの間、生き続けている種族を知っているぞ」
「何それ!? どんなバケモンだよ!!? ああもう、とにかく捨てないで、溶かさないでぇ……!!」
 鍔をガチャガチャ鳴らして自分の存在を主張するデルフリンガー。
 彼の一応の主人であるはずの男は、一瞥すると黙って彼を鞘に仕舞った。
「余計な時間を取らせてしまったな」
「まあ、良いわ。……でも、結局『虚無』については何も判明してないわね……」
「いずれ御主人様が系統に目覚めれば、判明することもあるだろうが」
「……それじゃ遅いのよ」
 少し苛立たしげに言うエレオノール。

 そんな彼女に構わず、ユーゼスは立ち上がる。
「これ以上、ここにいても意味がないな。
 私は魔法学院に戻る。連絡があれば、手紙なり直接足を運ぶなりしてくれ」
「ええ」
 ユーゼスはそのままドアへと向かい、取っ手に手をかけたが、そこでエレオノールがあることに気付いた。
「…………待ちなさい」
「まだ何かあるのか、ミス・ヴァリエール?」
 振り向くと、ルイズと同じようなジトっとした目が自分を見ていた。
「私、あなたが前に来た時に『喋り方を直しておきなさい』って言ったわよね?」
「む?」
 そう言えば、そんなことも言われていたか。
 それに対して、確か自分は……、
「『考えておこう』と返したはずだがな。確かに『考えた』ぞ? おかげで敬語を使わねばならん状況では役に立っている」
「……じゃあ、なんで私には使おうとしないのよ?」
「その気にならんだけだ」
 取りあえず自分が敬語を使うのは『ある程度以上の社会的地位があり』、『ある程度以上、腹の内が読めず』、『ある程度以上、気を許せない』と判断した相手としている。
 ちなみに『ある程度』の基準は、かなり曖昧だが。
「何だか、ごく自然にあなたのその口調を聞いてたけど……」
「……では、これからはこのような口調であなたに対して接することにいたしましょうか、ミス・ヴァリエール?」
 試しにエレオノールに対して敬語で話してみると、不機嫌そうな顔が余計に不機嫌になった。
「…………今更そんな風に喋られても、気持ちが悪いことが判明したわね」
「私も違和感があるな」
 この辺りは、主人に対して敬語を使わないのと同じだろうか。
 はあ、とエレオノールは溜息を吐き、ユーゼスに退室をうながす。
「ああもう、じゃあ口調はそのままで良いわ。……私も仕事があるから、今日はここまでね。
 分かってるとは思うけど……」
「“御主人様に『虚無』のことは伏せておけ”だろう、承知している。私もそこまで短慮ではないよ」
 これでまた『考えておこう』などと抜かしたら、そこらにある本を手に取って思いっきり投げつけよう―――などと思っていたが、さすがにそんなことはなかったようだ。
「……信用するわよ? 良いのよね?」
「それこそ『信用する』しかあるまい」
 そう言って、今度こそユーゼスは退室した。
 自分一人となった研究室の中でエレオノールは本日何度目かの溜息を吐き、こめかみを押さえる。
「何かあの男といると変に口が回ると言うか、ペースがおかしくなると言うか……」
 よくよく考えてみると『自分と対等に話す男』というのは、アレが初めてなような気がする。
 他にリラックスして話せる男と言えば父親くらいだが、親子の関係を『対等』とは言えないだろう。
「……そう言えば、あの男に関しては何も聞いてないわね」
 研究内容に関してはレポートを見せてもらっているし、そのレポートから薄くではあるが人間性も読み取れている。
 だが、ユーゼス個人については何も知らないことに気付いた。
「……今度会った時にでも、聞いてみるか」
 しかし次に直接会う機会はいつになるのだろう……などと考えていると、自分のデスクの上の一枚の書類が目に入った。
 王宮からの仕事の依頼だが、アカデミー内では断る方向で話が進んでいたものである。
「……そうね、ガンダールヴの戦闘能力を見る良い機会だし……」
 自分の仕事がある程度落ち着いたら持ちかけてみるか、とエレオノールは画策するのであった。


 アルビオンから帰還した翌日。
 いつものようにルイズの世話をしようとしたユーゼスは、困惑していた。
 ルイズの態度がおかしいのである。
 洗濯を済ませ、身体を揺らして起こすことまでは同じであるのだが、顔を洗おうとしたら『自分で洗うから、いいわ』などと言い出した。
 これは明らかに変だ。
 ユーゼスの記憶にあるルイズは、『さっさと洗いなさいよ』とか『まったく、これだから平民は……』とか『閉じこもって本ばっかり読んでるから動作が遅いのよ』とか、そのようなセリフをバシバシ飛ばすはずだったのに。
 頭に疑問符を多く浮かべながら黙って下着を替える光景を眺めていると、顔を赤くしながら『あ、あっち向いてなさい!』と言われた。
 ……以前、羞恥心を感じないのかと質問したら『使い魔に見られたって、何とも思わないわ』と言っていたはずのに、一体どういうことなのだろうか。
 次は着替えさせようとすると、今度は慌てた様子で『服、置いといて』と言い放った。いつもなら眠そうな目をしながら腕をダランとさせて『早く着せなさいー』という感じだったのに、何があったのだろう。
 更に、下着だけではなく普通に服を着替える時まで見ることを禁止された。何なのだ、この豹変ぶりは。
 さすがに髪を梳くのは普通にやらせていたが、顔が妙に紅潮していた。意味がよく分からない。
 変化はまだあった。
 食堂に移動し、またいつものように床で食事を取ろうとしたら、その食事がなかったのである。
 理由を問い質そうとすると『今日からアンタ、テーブルで食べなさい』と言われてしまった。『アンタはわたしの特別な計らいで、床』と言っていたのに。
 ルイズが指差した席に本来座るはずだったマリコルヌという生徒と一悶着あったが、そこはユーゼスが自分で椅子を持って来ることで解決した。それについてルイズは良い顔をしなかったが。
(…………?)
 おかしい。変だ。怪しい。
 この少女が自分を懐柔しようとしたり、何らかの罠を仕掛けようとしているのか、あるいは別の何者かの陰謀か?
 まさか何者かが過去に時空間移動してルイズの人格を改変したのでは―――などと考えてクロスゲート・パラダイム・システムを起動させてみたが、特にそんな形跡は見当たらない。
 自分が何かしたのだろうか、とも考えたが、特に思い当たる節もない。
(……全く分からない……)
 本当に分からないので、やむを得ず無駄に人生経験(人ではないが)が豊富そうなデルフリンガーに聞いてみると『駄目だこりゃ』と言われた。何が駄目だと言うのか。
(…………まあ、私に実害があるわけでもないのだから、構わない……のか……?)
 どことなくしっくり来ないのだが、とにかく半ば強引に納得しようとするユーゼスであった。

 それはともかくとして、その日の授業はコルベールが担当だった。
 彼は自慢げに教卓の上へと妙な物を置くと『早くこれについて説明したいなぁ』とばかりにニヤニヤする。
(……アレは……)
 ユーゼスはその『妙な物』が何なのか、一目で理解した。
 円筒状の金属の筒に、また金属のパイプが付属。
 そのパイプは簡単な造りではあるが送風機のような部分に繋がっている。
 円筒の頂上にはこれも簡単ではあるがピストンがあり、ピストンは更に円筒の脇にある車輪に繋がる。
 そして車輪は扉のついた箱に、数個の歯車を経由して接続されていた。
「……………」
 ユーゼスは黙ってそれを見ている。
 やがてコルベールは『これは油と火の魔法を使って、動力を得る装置です』と説明し、その『原始的な動力装置』を起動させた。
「ほら! 見てごらんなさい! この金属の円筒の中では、気化した油が爆発する力でピストンが動いておる!」
 興奮しながら原理を説明するコルベール。
 ……それに対する魔法学院の生徒たちの反応は冷ややかで何の感想も抱いていないようだったが、ユーゼスだけは『ある感想』を抱いていた。
(……危険だな、この男)
 自分の専門は工学系ではないが、多少の知識や実務経験はある。
 アレはあのまま順調に改良・発展を重ねれば、間違いなく兵器に転用されるだろう。
 それはこの世界の文明に多大な貢献をもたらすだろうが、引き換えにこの世界の住人たちを傷つけ、殺し―――大気を汚染し、自然を破壊するのだ。
 たとえ発端の思想が『平和利用』だったとしても、それを悪用する人間は必ず存在する。
 かつて自分が所属していた、銀河連邦警察ですらそうだった。
 宇宙刑事ギャバンの父であるボイサーが命懸けで守り抜いた超兵器、ホシノスペースカノンの設計図。それを元にホシノスペースカノンを量産し、他星に対する自分たちの戦力として配備した。
 ……ユーゼスが『人間』というモノを嫌悪した一因でもある。
「で? それがどうしたって言うんですか?」
「そんなの、魔法で動かせばいいじゃないですか」
「何も、そんな妙ちきりんな装置を使わなくても……」
 ―――まあ、この生徒たちの反応を見るに、そこまで危険視する必要もないかも知れないが。
 なお、その後『アレを動かしてみなさいよ』と金髪巻き毛の少女に挑発されたユーゼスの御主人様が、勢いあまってあの装置を木っ端微塵に爆発させて火事が起こしたりしていた。
 これであの男の研究意欲も削がれれば良いのだが……と思ったが、おそらく無理だろう。研究者とはそういうものだ。
 何よりも、今の時点での問題は……。
 ……この滅茶苦茶になってしまった教室を、また自分たちが片づけなくてはならないということである。


 教室の片づけが終わったのは、日が暮れてからだった。
 相変わらずルイズは肉体労働をユーゼスに担当させるものだから、とにかく疲れた。
 藁束の上に倒れ伏すユーゼス。……そう言えば、そろそろ就寝の時間である。
 疲労でクタクタの身体をどうにか奮い立たせ、御主人様の着替えを取り出そうとクローゼットに向かうと、その御主人様はハッと慌てたようにベッドに立ち上がり、天井からシーツを吊り下げ始めた。
「?」
 何なのだ、と思ってその行動を眺めていると、ルイズはベッドから降りて小走りにユーゼスを追い越し、自分の手でクローゼットから着替えを取り出した。
「…………馬鹿な」
 思わず声が出てしまう。
 『そのような雑用をやれ』と召喚した初日に言いつけたのは、他でもないルイズではないか。
 更にルイズは着替えを持ったままシーツのカーテンの中に入り、その中で着替え始める。
 もしや自分を警戒しているのか? とも思ったが、その後は黙ってブラシで自分に髪を梳かせていたので、そういう訳でもないらしい。
 そして髪を梳き終わり、ルイズは魔法のランプの明かりを消して就寝しようとしたところで、話しかけられる。
「ね、ねえ、ユーゼス」
「……何だ、御主人様」
 言いにくそうなルイズと警戒しているユーゼスとでは、どうにも互いの会話がぎこちない。
「いつまでも、床ってのはあんまりよね」
「? ……ああ、寝床か。もう慣れた」
 最初はあまり寝付けなかったが、今では普通に眠ることが出来る。
 今更、何なのだ―――と思っていると、本日最大の爆弾発言が飛び出してきた。
「だ、だから、その……ベッドで寝ても、いいわよ」
「―――――」
 ユーゼスの身体が硬直する。するとまた慌てたように、ルイズは言いつくろった。
「勘違いしないで! ヘ、変なコトしたら、殴るんだから!」
 そんなつもりはチリほどもないが、いい加減に混乱してきた。
(まさか、寝首を掻こうとしているのか……?)
 油断させておいて、などと言うのは暗殺の常套手段である。
 いや、そもそも目の前にいるのは、本当に一応の自分の主人であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのだろうか?
(何者かに乗り移られている、という可能性もあるな)
 ウルトラ族がよく使っていた手だ。同じような能力を持つ存在がいても、別に不思議ではない。
(あるいは偽者か……)
 ザラブ星人が使ったような方法かとも考えたが、じっと見てみても外見的には全く差異が見当たらない。
 と言うか、じっと見ていたら顔を赤らめてぷいっと逸らされた。
(いや待て、乗り移りなり偽者なりだった場合、クロスゲート・パラダイム・システムを使った時点で判明しているだろう……)
 個人に絡みつく因果律が二人分であったり、本来のものとは明らかに異なっていたりすれば、さすがに気付く。
(……もしや、これが『虚無』発現の前兆か……?)
 そんなことまで考えるが、少し冷静になると違うに決まっていると気付いた。
(洗脳、催眠術、禁制の水の秘薬、水魔法の『制約(ギアス)』……どれも違うか……)
 とにかく、分からない。
 他に人格が大きく変わるようなことと言えば『衝撃的な事件』くらいだが……。
(……あのアルビオンでの一件が、何か影響を与えたのか?)
 おそらく、あの旅路の自分の知らない場面で『何か』が起こり、それが今の自分に対するルイズの態度へと繋がっているのだろう。
 ―――それが最もしっくり来るような気がする。完全に納得は出来ないが。
 かと言って、それで一緒のベッドで眠れるかと言うと、そうでもない。
「いや、注文していた本がラ・ロシェールから届いたのでな、今夜はそれを読もうと思っている」
「あ……、ふ、ふーん、そう。相変わらず研究や読書が大好きなのね」
「性分なのでな」
 そうしてルイズの部屋から出て、隣の研究室へと移動するユーゼス。
 その中で本のページをめくりながら、今度からは研究室で寝るか、などと彼は密かに決意した。


 ユーゼスが出て行って、ルイズは一人でベッドに寝転んでいた。
「……何よ、もう。せっかくベッドで寝てもいいって言ってるのに……」
 しかも、このわたしと一緒に寝れるって言うのに、それよりも本を優先するとは。
 本や研究なんかより優先するコトがあるでしょ、色々と。
「でも……」
 胸に手を当てて、考える。
 ユーゼスのことは……、まあ、ある意味では尊敬している。
 いつも冷静だし、自分の知らないことをたくさん知っているし、たまに思いもよらない発想をしたりするし、研究熱心だし……、少なくとも無能ということはないだろう。
 それに、自分を助けてくれたという恩もある。
 ルイズのユーゼスに対する優しさや親切心はその恩返しでもあるのだが、こうして胸に手を当てて考えると、それだけではないことに気付く。
 最初は、単なる理屈っぽい使い魔。
 それが、屈服させる目標になって。
 今では……、
「今では……、どうなんだろ?」
 何だかうまく説明がつかない気持ちが、ルイズの中に芽生え始めていたのである。
 それを意識し始めたら今までの行為がいきなり恥ずかしくなって、肌を見られることが耐えられなくなった。実を言うと、寝起きの顔も見られたくない。
 どうしてこんな気持ちを……と考えてみると、真っ先に浮かぶのは先日のワルドとの一件だ。
 したたかに頭を打たれたせいで意識はかすんでいたが、断片的にユーゼスとワルドの会話は耳に入っていた。
 ―――『……使い魔はその主人に対して……、……情も感じて……!』
 ―――『私が御主人様に従っているのは……、あの少女…………たからだ』
「わ、わたしに対して、何を感じてるって言うのかしら……?」
 恩義? 忠義? 義理? 同情? 憐憫? 仕事としての義務感?
 それとも……愛情?
「……!!」
 自分で考えて、自分で赤面するルイズ。
 なぜこんなにスラスラとユーゼスの自分に対する感情の推察が出来るのか分からなかったが、これもきっとユーゼスとワルドの会話に出て来た単語だからだろう。
 そしてルイズの推察は、一つの結論に行き着く。
 もしかして、あの使い魔は……自分のことが好きなのではないか? と。
「~~~~~……!」
 その結論にベッドの中で身もだえするルイズ。
 しかし、そう考えるとツジツマの合わない部分もある。
 例えば今、この瞬間。
 御主人様の隣で寝れると言うのに、どうしてそそくさと部屋を出て行ってしまうのか。
 ユーゼスがいるすぐ隣の部屋の方を、小さな唸り声を上げながらじーっと見つめてみるが、それで答えが返ってくるわけでもない。
 しばらくの間、ああでもないこうでもないと使い魔の心理の推察を行っていたが、どうにもならないと気付いて……。
 ……考えることに疲れたので、ルイズはそのまま眠りに落ちたのだった。




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