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ご立派な使い魔-12


ユニコーンが引く馬車の中で、アンリエッタはほっと胸を撫で下ろしていた。
最近、トリステイン魔法学院に奇妙な評判が流れており、それを気にしていたからだ。
噂が言うところには、魔法学院に邪教集団が誕生しており、夜な夜な破廉恥な儀式を行っているとか。
しかしこうして見る限りでは、そんな怪しげなところはなく。噂は所詮噂に過ぎないと、安心をしていたのだ。

「やはり荒唐無稽に過ぎましたね、あの噂は」
「下らない風説の類でしょう。オスマンは扱いにくい男ですが、そんなモノを許す男でもありません」

マザリーニもそれには同意する。
国内の名家の、その子女が通う魔法学院である。
そんなスキャンダルが吹き荒れれば国家を揺るがす一大事となりかねないだけに、あまりそういう騒ぎは起こってほしくないものだ。
ただ、アンリエッタにとってこうして目の前の懸念が片付くと、不意にこみ上げるものがある。

「ふう……」
「おや、殿下。ため息などついてどうなされました」
「あ、ああ。いえ、別に」

学院の噂に気を取られ、忘れていた厄介ごとを思い出したのだろう。
重要度で言えばそちらの方が上ではあるので、アンリエッタのため息は重い。
それを聞きとがめるマザリーニも、ある程度は内容に察しをつけているのだろう。
目線がどうにも厳しかった。

「……ふう。あら?」

もう一度ため息をついたところで、前方に妙なモノが見えてきた。
なにやら尖塔のような、そんなオブジェである。

「あれは何でしょうか?」
「特に話は聞いておりませんが……」

段々とそれに近づいていく……と、その尖塔の先端がよく見える。
その形は。

「……あ、あれは何ですの?」
「いや、なんとも……これは、あの……なんと言いましょうか」

どう見てもアレであるが、それを口に出すのもはばかられる。
マザリーニがどうしようか、というかこれは何なんだ? オスマンは何を考えているんだ? と悩む。

「ぜ、前衛的ですね?」
「そう……ですな」

こういう時は芸術というものにしておくに限る。

ルイズがベッドの上でうんうん唸っている。
窓の外では、王女を出迎える盛大なパレードが続いているところだ。

「姫さまのお姿を、間近で拝見させて頂きたかったのに……どうしてこうなるのよ」
「ぶっちゃけると娘ッ子の使い魔のせいだな」
「わかってるわよそんなの!」

自室謹慎、という立場である。
その原因たるマーラは、ゆらゆらと窓を眺めていた。

「アレが王女とやらかな」
「そーよ。本当ならもっと近くのはずだったのに、これじゃお顔もよく見えないじゃない!」
「ワシはよう見えておるぞ。なるほどのう、統治層というのはああいう顔をするものじゃな」
「なんかズルいわよ、それ……」

まったく、五感をリンクできていれば、マーラの目を通して観覧できていたものを。
……いやリンクなどしていたらそちらの方がおぞましい。
まあ、そんなことはさておくとして。

「あー。もう、イライラする……」
「あんまな、気にするとよくねーぞ。娘ッ子」
「うー。……もういい、寝るわ」

うつ伏せになって、ルイズは無理に目を閉じる。
まさに不貞寝だ。

「あんまり早く寝ると夜が辛いってのによ。娘ッ子も難儀だよなぁ」
「なに、小娘が気まぐれなのはいつものことよ」
「……いや気まぐれっつうかな。よくわかんねーや」

そうこうしているうちに夜になった。
不貞寝をしていたルイズはすっかり目も冴えてしまい、有り余る時間を持て余している。

「眠れない……」
「だから言ったんだよ娘ッ子。人の話聞かねえから」
「だって! だって仕方ないでしょう!?」
「小娘はよく逆切れしおるのう」
「だから、誰のせいよ!?」

そうやって暴れていたら、不意にノックの音がした。
初めに長く二回、短めに三回。
そのやり方に、ルイズは少し考えていたが、すぐにはっとした顔になる。

「ちょっ……マーラ! すぐ隠れて!」
「無理じゃな」
「むむむ無理って! 無理でもなんでも隠れてよ!?」
「だから、ワシの大きさをこの狭い部屋で隠すのはどうやっても無理だわな」
「そそそそそんな……だだ、だってそれはまずいのよ! こ、このままだと……あああああ!」

ノックがまた行われる。

「ママママーラ! お願いだからなんとかして……どうにかしてよぉ!」
「じゃから、隠れるのは無理じゃと言うておろうが」
「あああ……だからぁ……」
「ほれ、早く開けないといかんのではないか」

ルイズは顔を真っ青にして、仕方なくドアに向かう。
そして祈るように目を閉じると、ゆっくりと開いた。
すると、真っ黒な頭巾を被った少女が入ってきて……

「あ、あなたは……」

少女は魔法の杖を取り出して、ディテクトマジックをかけようとして。
そして部屋の中にあるモノを見て、硬直する。

「……あ、あ、あ、あ」
「……ああ……」

ルイズは予想通りと思い、声にならない悲鳴を吐き出した。

「あ……ああ、あ……あの……あ、あ……」

少女は深呼吸すると、頭巾を外す。
ルイズが察知していた通り、その人物は紛れも無くアンリエッタだった。
そしてもう一度アンリエッタは深呼吸すると、非常に複雑な笑顔を浮かべ、ルイズに顔を向ける。

「あの……ルイズ・フランソワーズ?」
「は、はい」

王女は、顔を若干赤らめて、小声で続けた。

「わたくしもその。閨房の知識はある程度……たしなみとして身に着けていますからわからなくもないのだけれど……
 その……ルイズ、あれはいくらなんでも大きすぎるのでは……」
「……は、え、姫さま?」
「やはり身体にあったモノを使わないとその……なんというか、具合が……」
「ひ、姫さま!」

誤解されている。
これはもう、とんでもない誤解だ。
というか、アンリエッタ姫殿下もそーゆーことを気にするお年頃になられた訳だ。
ルイズはその事実にいささかの感傷を覚えたが、この誤解は心底嫌だとも思う。

「ち、ちちち違います! そうではありません! これはそんなモノじゃありません!」
「え、でも……」
「これは使い魔! 使い魔です、わたしの! いかがわしいオモチャとかではありません!」
「まあ!」

呆然として、もう一度マーラを見つめるアンリエッタである。
見れば見るほど……アンリエッタは、ほうとため息をついた。

「流石ルイズ・フランソワーズね、あんなご立派な使い魔だなんて」
「お、お褒めに預かり光栄です……」

アンリエッタはマーラから視線を外せないでいる。
すると、期待に応えたかのように、マーラが軽く屈伸運動をしてみせた。

「卑猥な動きをするなー!」

ルイズは怒鳴るが、アンリエッタはますます頬を染めるばかりだ。

「……それにしても、ルイズ・フランソワーズ。
 男性のその……それは、一般的にあれだけ大きいモノなのかしら」
「いやアレは特別っていうか……姫さま? そんなことを聞かれても困ります」
「あ、ああ、そうね、そうよね。……それにしても……」

アンリエッタはすっかり釘付けである。
まあ、王族というのは結構、そういう、その、アレが仕事という一面もあるとかなんとか言うし。
無理もない……ことはないか。
ルイズは自分の頭を叩いた。

「実はねルイズ。わたくし、結婚するの」
「それは……おめでとうございます」

なんで視線をマーラから外さないんだろう。
そういう目線で結婚するとか言われても、ルイズは反応に困る。

「それがあの、ゲルマニアの皇帝で……」
「あの蛮族の国ですか」

だから、どうしてそれをマーラを見ながら言うのか。

「そうなの。蛮族というからにはやっぱりその……
 ……これくらい大きいのでしょうか?」
「いや、いくら蛮族でもこんなモノは持っていないと……
 ……姫さま、あの、もうちょっと慎みっていうかですね」
「あ! あ、ああ、そうね、わ、忘れていたわ」

それは、結婚といったらまあ、そういう話は付き物だとは思う。
だからアンリエッタがこうして気にしているのも当然……でもないだろう。
ルイズはなんだか頭が痛くなったような気がした。

「……それで、そういえば」

ぽんと、思い出したようにアンリエッタは手を叩く。

アンリエッタが言うには、この結婚にとって不都合な手紙が、アルビオン王家にあるのだそうである。

「それで、ルイズ・フランソワーズ。あなたに頼んで、それを取ってきてもらいたいって……
 すっかり忘れていたのだけれど。それを頼みに来たの」
「あーそうですか」

軽く流しかけて、ルイズははっと気が付いた。
めっちゃ重要ですよこれ。

「わ、わたしにですか!?」
「そうなのルイズ。信頼のできる人というとあなたしか……
 ああ、でも、あんな危険なアルビオンに行ってほしいだなんて、わたくし何と言うことを……」

アンリエッタは、そこでまたマーラを見た。
しばらく眺める。

「……でもルイズ、あなたとその使い魔ならなんとでもなるかもしれないわね」
「それはちょっと否定できませんけど……」

まあマーラは強いし。なんとかなりそうではある。
アルビオンは危険だというが、むしろ危険ならマーラの撃破も……それは、あまり期待しない方がいいかもしれない。
ともあれ、何よりアンリエッタの頼みでもあるのだし、ルイズとしては断る理由はなかった。

「わかりました。是非、わたしにお任せください」
「ああ、ルイズ! ……と、その使い魔さん。あなた達だけが頼りですわ」
「……あんまりアレを頼りにはしたくないんですが」
「グワッハッハッハ。なんの、その程度の任務は容易いことよ」

悩ましい顔のルイズに対して、マーラの自信はなかなかのものだ。
今までもっぱらその姿に見ほれていたアンリエッタだったが、この言動にも惚れ惚れとする。

「なんて頼もしいのでしょう。使い魔さん、これからもルイズを頼みますね」
「すみません姫さま。勝手に頼まないでください」

ルイズの言葉はスルーして、アンリエッタは右手の甲をマーラに差し出した。

「姫さま!? これにそれはいくらなんでも!」
「いえ、やはり忠誠には報いるというのが……」

マーラも心得ているのだろう。
ゆっくりと近づくと、その甲に口付けをする。

「あーあ……」

心底やるせない気がして、ルイズはその光景を嫌な気分で見つめている。
しかしマーラの頭は結構長い。
右手の甲に口付けをした、ということは、マーラの頭の先端が、その。

「……あ、あれ?」

ルイズはその先端があるところに目を向けた。

「ああ!?」

右手の甲にマーラが口付けをしている。
で、その先端はどこにあるのかというと。
アンリエッタの唇に、丁度マーラの先っぽがくっついていた。

「ひひひひ姫さま!?」

ヴァリエール家、ここに途絶える。
ルイズの頭にその言葉がグルグルと駆け巡った。

「マ、マーラ! もう、もうやめなさいよ!?」
「ふむ。こんなもんかのう」

ゆっくりとマーラが離れていく。
ルイズは凍りついた表情で、そのままアンリエッタを見つめ続ける。
そして、そのアンリエッタは、しばらく固まっていたものの、懐からおもむろに布を取り出し、唇をぬぐった。

「……め、珍しい経験でした」
「は、はあ」
「……その、わたくしも王族のものですから! そういうのは! 勉強済みというか!」

なにか強がっている。王族って大変だなー、とルイズは思うばかりであった。


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