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死人の使い魔-05


第五話

「フーケのゴーレムよ!」
窓より見ていたルイズが叫ぶ。タバサが真っ先に反応し、扉より飛び出していく。
それにキュルケ、ルイズと続く。
 ルイズ達が小屋より出るより早く戦闘は開始された。
グレイヴは左腕を前に伸ばし、右腕をやや前に伸ばす構えから連続で銃弾を放つ。
両手より交互に放たれる銃弾によりゴーレムは体中を削られていく。
その流れ弾により周囲の木も次々と砕けていく。
グレイヴは銃を連射しつつ、体を舞っているかのように動かしている。
グレイヴとゴーレムの戦いを見たキュルケは驚いていた。
「あれは何なのよ? 銃を連射しているの? あんな連射できる銃なんて
ないわよ。それに威力も。というか彼、ただの平民なの?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「うるさいわ、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ、グレイヴを
援護しなきゃ」
 そんな会話の間にもグレイヴはゴーレムを削っていくが、ゴーレムは一向に
小さくならない。削れた端から回復していくのだ。
タバサが射線上に入らないように後方より呪文を唱える。
巨大な竜巻がグレイヴの横を抜けてゴーレムに当たる。
続いてキュルケも呪文を唱える。杖より巨大な火球が飛び出しゴーレムを炎で包む。
 二人の魔法をまともに喰らったにも関わらずゴーレムにはダメージが見えなかった。
その間にもゴーレムは迫ってくる。
「距離をとらないと!」
キュルケが叫ぶ。
「退却」
タバサもそう言い、二人は逃げ出した。
 銃撃を続けていたグレイヴはついにゴーレムの攻撃射程内に入る。
ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされて、後ろで見ていたルイズは息を呑んだ。
グレイヴはその拳を横っ飛びでかわす。その間も銃は撃ち続けている。
しかしこのままではいずれグレイヴはやられてしまう。
そう思いルイズは杖を握り締める。グレイヴを追ってゴーレムは横を向く。
今だわ! 
ゴーレムの側面に向け呪文を唱える。しかしゴーレムの表面が小さく爆発し、
土が少しこぼれただけだった。
その攻撃によりゴーレムの標的がルイズになってしまう。
足で踏み潰すことに決めたようだ。ゴーレムの足がルイズに迫る。
 とてもじゃないが逃げ切れる距離じゃない。助けを求めるようにグレイヴを
見るが、かなり離れたところにいる。意を決してもう一度呪文を唱えたが、結果は
先ほどと一緒だった。覚悟を決めルイズは目を瞑る。
ゴーレムの足と地面との距離がなくなる。
……しかし、予想していた衝撃はなかった。
気が付いたらグレイヴに抱きかかえられていた。
そのままグレイヴは走り出す。そこへタバサのウィンドドラゴンが降りてくる。
「乗って」
グレイヴがルイズを上に乗せる。
「あなたも」
タバサがグレイヴに言が、グレイヴは銃を顔の前に持ち上げ戦意を示す。
そして迫ってくるゴーレムのほうに振り向いた。

「グレイヴ、あんた」
ルイズが名を呟く。
その姿を見てタバサは風竜を地面より上昇させる。
「キュルケを見つけるまで流れ弾に気をつけて」
そう言って飛び立つ。
「タバサ、グレイヴを見捨てる気なの!」
「キュルケを探す、思うように銃が撃ててない」
下を見ると攻撃をかわしながら銃を撃っているグレイヴが
見えたが、さっきより連射速度が落ちていた。
「キュルケ、早く出てきなさい! グレイヴが助けられないわ!」
ルイズが大声で叫ぶ。すると木陰より炎が上がる。
「タバサ、あそこよ」
「行って」
タバサが風竜に指示を出し、キュルケを回収した。
「ありがとう、タバサ」
キュルケがお礼を言うがその視線はゴーレムに向いている。
グレイヴとゴーレムの戦いはその間に少しずつ森のほうに移動していった。
「早くグレイヴを!」
ルイズが怒鳴った。しかしゴーレムのせいでグレイヴには近づけない。
とりあえずキュルケのことをグレイヴに伝える。
「キュルケを回収したわ」
そのときには戦場は森に移動していた。森をものともしないゴーレムに対して
グレイヴは動きを制限されていた。次第に追い詰められているように見える。
ついに木を背にしてグレイヴの動きが止まる。
「グレイヴ!」
ルイズが叫ぶ。
 グレイヴは慌てるでもなく棺桶の頭のほうをゴーレムに向け、構え直していた。
棺桶の前を左腕で下から支え、後ろを右腕で抱えるようにして持っている。
右足は横に広げられて腰を深く落としている。
そのまま棺桶より大量の弾丸を連射しながら体を回転させる。
一瞬にして周りの木々は破壊され、辺りが平らになった。
「何よ、あれ……」
信じられないと風竜の上より誰かが言う。
 ゴーレムにもかなりダメージがあったようだ。修復のためか動きが止まる。
その間にもグレイヴは両手の銃で攻撃を加えるが、次第にゴーレムは回復して
いって元に戻ってしまう。
辺りが平らになり動きやすくなったが先ほどの繰り返しだった。
このままではいずれゴーレムの攻撃を喰らってしまう。
 戦いに変化をもたらしたのはグレイヴのほうからだった。銃撃だけでは埒が
明かないと思ったのか、グレイヴが銃の他に再び棺桶を使い始めたのだ。
ただし、先ほどのように棺桶から銃弾を撃つのではない。もっと原始的な
使い方で、奇しくも行きの馬車でルイズの言った方法だった。
すなわち、殴る。
 振り下ろされるゴーレムの拳をぎりぎりで避け、自分の腕を振り回し体を
一回転させる。腕と鎖で繋がっている棺桶も一周する。
グレイヴの目の前にあったゴーレムの腕の先が棺桶によってなくなっていた。
ゴーレムも無限には回復できない。術者の精神力がなくなった時点で終わりだ。
そして削られる量が多いほど精神力を消耗する。もうすでにかなりの土を
削っている。あの攻撃を繰り返せば回復できなくなるかもしれない。

 あいだに銃撃を加えつつ、それから二度、同じように腕を削ったが、まだ
ゴーレムの限界はこない。
限界はまだなの? 早くきなさいよ。
ルイズが祈っている。一度でもかわし損ねたら、そう思うだけで恐ろしかった。
ぎりぎりでかわすということは、それだけ危険が増すのだ。
それが分かっているのか、ゴーレムは再び攻撃する。今度は横から地面を
なでるように拳を振り回す。
突然、かわそうとしていたグレイヴの動きが止まる。
「グレイヴ!」
ルイズが悲鳴のような声を発する。
攻撃をまともに喰らいグレイヴが吹き飛ばされる。
「何で」
キュルケが呟く。あまりに不自然に動きが止まった。
「棺桶で削った土の上にいた。恐らくその土を操った」
タバサが指摘する。
削られた土を遠隔で操作し足を止めたのだ。止まったのは一瞬だっただろうが
その一瞬でゴーレムには十分だった。
ルイズは呆然としていた。それから涙があふれてくる。
あれだけの攻撃だ、助かるわけがない。私のせいだ、私が……。
「嘘……」
キュルケが信じられないというように呟いた。
「ルイズ、下を見てみなさい!」
ルイズが下を見るとグレイヴが何事もなかったかのように立っていた。
 彼は“ネクロライズ計画”によって不死身ともいえる体を手に入れた
“死人兵士”である。その体は定期的に体内の血液を入れ替えなければ
ならないが、修復機能があり傷を負っても瞬時に回復する。
 そうよ、あいつはガーゴイルなんだから! あれくらいきっと平気だわ。
ゴーレムも動きを止めていた。フーケも驚いていたのだろう。
しかしそれも長くは続かず、ゴーレムがグレイヴに向かって歩き出す。
吹き飛んで開いた距離を詰めようとしているのだ。
「グレイヴを助けないと。タバサ、その『破壊の杖』を貸して」
ルイズはタバサにそう伝えたが、彼女は渡してくれない。
「何してるのよ、早く貸して!」
「彼はまだ何かするつもり」
はっとグレイヴを見る。そして叫ぶ。
「いいのよ、グレイヴ! 逃げなさい、これは命令よ!」
いくらガーゴイルでも限界はあるはずだ。これ以上、無理させられない。
グレイヴは再び棺桶を構え直していた。ただし先ほどとは棺桶の向きが逆だ。
棺桶の下をゴーレムに向け、右肩の上に乗せている。
腰は落とされ左足を横に伸ばしている。
棺桶より何かが発射され、ゴーレムにぶつかる。
瞬間、凄まじい爆音とともにゴーレムが砕け散る。
これではもう再生できないだろう。
 グレイヴがルイズ達のほうを向いた。
左肩と顔の間あたりで右手の銃を上向きに、右足のつけねあたりで
左手の銃を下向きにしていた。ポーズをとっているらしい。
後ろには煙を上げているゴーレムの残骸が見えた。
……意外とお茶目なのかしら。

「凄いわ、グレイヴ!」
そう言いキュルケがグレイヴに抱きついた。
「ちょっと、あんた何してんのよ! 離れなさい」
キュルケを引き剥がしつつ言葉を続ける。
「グレイヴ、体は平気なの?」
グレイヴが抱きつかれたままうなずく。
「そう、丈夫なのねって、ツェルプストーさっさと離れなさいってば」
そんなやり取りの中、タバサが言う。
「フーケは?」
ルイズとキュルケはその言葉を聞き、辺りを見渡す。人影は見当たらない。
しばらくする周囲を観察していると、ロングビルが疲れた顔で帰ってきた。
「ミス・ロングビル! 無事でよかったわ」
ルイズがほっとしたように言う。辺りはグレイヴとゴーレムに破壊しつくされていた。
流れ弾に当たっていなくてよかったわ。本当に。
話を聞いてみると偵察に出かけた後、戦闘が始まってしまったので隠れて
いたそうだ。また、残念ながらフーケも見ていないようだった。
「大変なときに何もできずに申し訳ありませんでした」
ロングビルが謝った。
「いいんですよ、ミス・ロングビル。私達もほとんど何もできませんでしたから」
キュルケが答える。
「これだけ時間が過ぎてしまったら、フーケはもうこの辺りにはいないでしょう」
残念そうにロングビルが言った。
「とりあえず『破壊の杖』は取り返したのだから任務は達成よね、帰りましょうか」
そう言い、帰る準備を始める。そんな様子を見たルイズが声をあげる。
「ちょっと、ツェルプストー、まだフーケを捕まえてないわよ!」
「ヴァリエール、ミス・ロングビルの話を聞いていたでしょう?
もうこの辺りにはいないって。今からこの森を探し回るの?
それに彼の体のこと忘れたの? 平気そうだけど、ゴーレムの攻撃を
喰らっているのよ。これ以上無理はさせられないでしょう?」
「分かってるわよ。でもせっかくグレイヴがゴーレムを倒してくれたのに」
するとグレイヴがルイズの肩に手をやる。
「分かったわよ、グレイヴがそう言うなら」

 皆、馬車までは我慢していたらしいが、馬車が走り始めるとグレイヴに
関する質問が始まった。
「ねえ、本当に彼は平民なの? 凄い威力の銃を撃ってるのは、まあ分かるわよ。
それに、あの連射もあり得なくはないかもね。でも、その棺桶は何? 
あの銃よりもすごい勢いで弾を撃って、おまけに変なのまで出してゴーレムを
粉々にしてしまったし。それにあの攻撃を喰らっても全然平気って」
 キュルケがいぶかしげに尋ねる。冷静になってみると次々と疑問が出てきたの
だろう。ルイズは誤魔化そうか、知っている限りを話してしまうかを考えた。
手綱を握っているロングビル、タバサまでもが興味津々という感じだ。
ルイズは口止めをしてある程度、話してしまうことにした。
とてもじゃないが誤魔化しきれない。
「私も詳しくは分からないわよ? グレイヴは喋れないし。それにこのことは
絶対に秘密よ。私の他に彼のこと知っているのは学院長とミスタ・コルベール
しかいないわ」
そう言うと一同うなずく。それを見て話を続ける。
「まずね、彼のことから言うと彼は平民じゃないわ」
「でもメイジじゃないでしょう?」
キュルケが疑問を口にする。
「彼はガーゴイルらしいわ」
「ガーゴイル? でも」
キュルケの言葉にタバサが続ける。
「彼から魔力は感じない」
「ええそうよ、ミスタ・コルベールが言うには東方かエルフの技術で
作られたんじゃないかって」
「嘘!」
キュルケはまじまじとグレイヴを見たあと棺桶を見る。
「じゃあ、この武器も?」
「恐らくね。でも私も驚いたわよ、銃はともかく棺桶があんなものだなんて
さっきまで知らなかったし」
「彼が入っていたあの妙な箱もエルフの技術かもしれないのね」
「もしくは東方」
タバサが律儀に付け加える。
「それにしても凄い銃ですね、少し貸してもらえませんか?」
ロングビルがグレイヴに話しかけていた。
ギロリ、音にするとしたらそんな感じでグレイヴがロングビルを見る。
そのまま動かない、どうやら貸す気はないようだ。
「えーと、すいません。変なこと言ってしまって」
少し声を固くしてロングビルが謝った。
「すいません、ミス・ロングビル。グレイヴはこれ、貸したがらないんです。
グレイヴもよ、駄目だからって何もそんなにじっと見なくても」
そのまましばらく、グレイヴはロングビルを見ていたがやがて視線をはずした。
視線がはずれたことを感じてか、ロングビルは安堵しているようだった。
 それにしてもただ貸してくれって言われただけであんな風に見るかしら?
そんなにあの銃が大事なの? 
などいろいろ疑問が浮かんだルイズだったが、一つ確信したことがあった。
デルフリンガーの出番はこの先もないわね。

 学院長に杖の奪還はできたが、フーケは取り逃がしてしまったことを報告した。
「よく全員無事に戻ってきてくれた。何、『破壊の杖』さえ戻ってくれば
御の字じゃ。本当にご苦労じゃった」
 オスマンは皆にねぎらいの言葉をかけたあと、今夜は『フリッグの舞踏会』
だと伝えた。それから、せいぜい着飾るようにと皆を解散させた。
しかし、ルイズとグレイヴはその場に残っている。
「オールド・オスマン、それにミスタ・コルベール、グレイヴのことで
お伝えしたいことが」
オスマンとずっと横に控えていたコルベールに向かって言う。
「あの、グレイヴが箱から持ってきた鞄と棺桶なんですけど」
「おお、あれについて分かりましたか! それであれはどのような
物だったのですか?」
コルベールが嬉々として聞き返す。
「鞄の中身は銃でして、棺桶はですね、その、凄い武器でした」
途中、言いよどむ。棺桶についてどう説明したらいいか迷ったのだ。
「凄い武器ですか。具体的にはどのような?」
「頭のほうからは、凄い勢いでたくさん弾を撃つんです。後ろのほうからは
巨大なゴーレムを破壊する何かが出ます。あと、殴っても強力でした」
「それは、……凄い武器ですね」
いまいち想像ができないようだった。ルイズも自分の目で見なかったら
とても信じられなかったに違いない。さらに続ける。
「それから、彼はフーケのゴーレムに殴られても全然平気でした」
「つまりじゃ、話をまとめると、彼は何だかよく分からないが凄い武器を使い、
それによって、フーケのゴーレムを破壊し、体も並外れて頑丈じゃと?」
オスマンが話を整理する。
「それで、その、体のことはともかく、武器はどうしましょうか?」
ルイズがオスマンに伺う。
「何、彼のものじゃからの無理には取り上げんわい。今までも問題は
無かったしのう。それに彼はミス・ヴァリールの忠実な騎士のようじゃしの」
その言葉を聞いたコルベールは何か言いたそうだったが、結局、何も言わなかった。
「しかし、謎が増えるばかりじゃな。でもまあ、今日は舞踏会を楽しみなさい」
そう言ってルイズとグレイヴを送り出す。

 そんな二人をコルベールが追ってくる。
「舞踏会の前ですが、少しいいですか?」
「ええ?」
やはり、武器について何かあるのだろうか?
「あの、彼の血液のことなのですが、まだ大丈夫ですか? かなり日にちが
たっていますし、今日は怪我をなさったんでしょう?」
思いもよらないことを言われたが、言われてみればそうだった。
昨日からいろいろあって忘れていた。いや、正確にはあまり考えないように
していたのかもしれない。使い魔が人の血で動くということを。
コルベールの言葉を聞くと、そのせいかは分からないが、グレイヴがトレーラーに
歩き始める。
「ちょっと待ちなさい。今日、その……、するの?」
出来れば少しくらい心の準備をさせて欲しかったのだが、グレイヴはうなずいた。
「分かったわ。でも勝手にするんじゃないわよ。こっちにも一応、準備とかが
あるんだから」
 グレイヴは箱の中に入ると何やら操作をする。そんなに複雑ではないようだ。
それからイスに座る。最初にグレイヴが座っていたイスだ。
しばらくすると機械が動き始める。血液が減っていっているのが分かる。
かなり待つとやっと機械が止まる。かなりの量の血液を使ったようだ。
コルベールはその様子を熱心にメモしていた。
「詳しいことは、もっと調べてみないと分かりませんが、あと数回は大丈夫では
ないでしょうか? その間に何か血液を確保する方法を考えましょう」
そうよ! 使い魔は一生のことなんだから、主人である私が何とかしないと。
「それから体も調べてみましたが、怪我はないようですね。
フーケのゴーレムに殴られたそうですが、とてもそうは思えません」
血液の交換が終わり、グレイヴがイスより立ち上がった。

 学院長の部屋より退散したロングビルは今日のことを思い返していた。
正確には自分の作ったゴーレムを一人で壊してのけた人物のことを。
平民、いえガーゴイルだったわね、に自慢のゴーレムをまさかあそこまで
破壊されるとは思いもよらなかったわ。
『破壊の杖』の使い方を調べて逃げるつもりが、『破壊の杖』を
使われること無くゴーレムを破壊されてしまった。
 土くれのフーケの正体が自分だとばれなかっただけましかしら。
あのガーゴイル、グレイヴは気づいているかもしれないけど。
もっとも証拠はないし、あいつは喋れないから大丈夫だとは思う。
一抹の不安はあるが、いきなり寝込みを逮捕されるということはないだろう。
 それにしてもこれからどうしたものかしらね。『破壊の杖』はより厳重に
保管されるらしく、もう盗めないだろうし。
そういえば結局『破壊の杖』は何だったのかしらねえ。振っても、魔法を
かけてもうんとも、すんともいわなかったし。
 取り返したと報告をしたときそれとなくオスマンに尋ねたのだが、『らんちゃー』
という名前くらいしか分からなかった。オスマンにも使い方は分からないらしい。
まさか、オスマンまで知らないとは、本当、まったくの無駄骨だったわね。
 それよりもあの銃と棺桶を狙ってみようしら?
それも無理ね、とすぐに否定する。犯人が限定され過ぎている。
あれらが強力な武器であると知っているのは、学院でも極少数だ。盗んだら
すぐに誰か特定されてしまう。
 何より、ガーゴイルのあの目、正直ぞっとしたわ。それにあの戦闘力に耐久力、
化物、いや死神と言ったほうがいいだろう。もう二度と敵には回したくないわね。
潮時かしらね、秘書を辞めて他の場所に行こうかしら?
もともとは盗みの下見のために潜り込んだのだ、それほど未練はない。
どうしようかしらね。

 部屋に帰り先ほどの光景を思い出してみると、グレイヴが血液で動いている
ことを実感し少し不気味に思った。
 だけどフーケとの戦いのとき彼がいなければ、私は死んでたわ。
今日の戦いに志願したのは原因の一端が私にあり、責任を感じたということも
嘘ではない。だが、フーケを私の魔法で捕まえることが出来れば、ゼロの名を
返上できるかもしれないということも、心の何処かに確実にあった。
それなのに現実は私の代わりにグレイヴが戦っていた。そしてあのゴーレムを
見事に破壊してみせたのだ。
 その戦いで私は彼の意志を感じた。使い魔だから主人である私を守るために
戦ってくれたのではなく、彼が私を守るに値する人物だと思ってくれたから
戦ってくれた、そんな風に感じた。
勿論、全て私の思い込みである可能性も否定できないが、私は確かにそう
感じたのだ。
 そのことに報いなければならない。そして彼の主人として相応しいメイジに
ならないと。血液のことといい問題は山積みだけど。
でも、とりあえずは舞踏会よね。
ドレスに着替えればグレイヴはいつもと違う反応をしてくれるかしら?
そんなことを考えながらドレスへ着替え始める。
その横ではグレイヴがいつものイスに座って目を瞑っていた。


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