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ゼロの夢幻竜-34


ゼロの夢幻竜 第三十四話「告白」

さて時間はラティアスがレコン・キスタの夜営を襲う凡そ三時間ほど前まで遡る。ルイズは静寂に包まれた城の臨時医務室で蝋燭の明かりを頼りにある物を探していた。
昼間ラティアスが担ぎこまれた際、ここにならあるだろうと見当をつけた物である。しかし、目当ての物は棚や引き出しの中を幾ら探しても見つからない。
考えが甘かったのだろうか?もっとよく探してみようと手近な引き出しを開けようとした。その時である。

「何をしているんだい?」

驚きのあまりルイズは蝋燭の乗った台を落としかける。落ち着いて振り返ると、そこにはナイトガウン姿をしたウェールズが立っていた。
普段からも勇ましそうな外見をしているが、今着ている深紅のガウンはそれをより一層引き立てていた。突然の皇太子登場にルイズは慌てふためく。

「殿下!あの……私の使い魔ラティアスが戻ってきた時に応急処置が出来るようにと思いまして……使い魔の面倒は主人が見るものですから。殿下は何故こちらに?」

するとウェールズはラティアスが横たわっていたベッドを横目で見ながら何でもない様に答えた。

「いや、あれだけの大群を押し返し、わが軍に一縷の希望を齎した君の使い魔に会いたくなってね。それと夜の散歩も兼ねている。このところよく眠れない日が続いているものだから。」

そう。ウェールズは朝から晩餐の時までずっと自国民の為に、そして兵の為に働き続けていたのだ。会う時間は無かったと言って等しい。
それに自国の命運がどうなるかの瀬戸際という事もあり、この数日眠れている時間は一日二、三時間ほどに止まっていた。ウェールズは微笑みながらルイズが開けた引き出しを閉める。ルイズはその時、昼間訊ねた事をもう一度訊いてみた。

「殿下、御無礼を承知の上で、今一度申し上げたき事がございます。」
「構わぬ。何なりと申してみよ。」
「では……殿下は明日貴族派と戦い勇敢に散られるお覚悟。それは変わってはいないのですね?」
「勿論だ。私は先陣を切り真っ先に死ぬつもりだ。だがそれはただの名もなき死ではない。栄光という輝きを持つ名誉ある敗北なのだ。連中にはそれを意地でも見せ付けてやるつもりさ。」

救世主の降臨を謳うかのようにウェールズはルイズに告げた。暗く沈んだ表情のルイズはそれを正視する事も出来ない。ウェールズは同じ調子で続ける。

「君は民衆の事を心配しているのかい?大丈夫だよ。彼らは明日の朝一番に『イーグル号』でアルビオンを脱出させるよ。安心したまえ。
しかし、亡国の民を気にかけるとはラ・ヴァリエール嬢。アンリエッタが君を選んだ理由が手に取るように分かる。君は実に優しい……」
「残された民はどうなるのでしょうか?」

ルイズの真剣な声をした質問にウェールズは話すのを止めた。それからルイズは畳み掛ける様に質問をした。

「民は、殿下の事を敬愛し追従しようとした民は、残された後どうなるのでしょうか?
例えトリステインに避難して安らかなる明日を確約されてたとしても、その後彼らは一体誰を拠り所として祖国に戻る日々を思わなければならないのでしょうか?私は姫様を悪く言うつもりは毛頭もございません。
ですが、民が再び祖国の土を踏む時、その中心におわすのはやはり殿下であるべきだと思うのです。
その殿下が今度の戦で、その……お命を散らされるというのは……」

その勢いにウェールズは少々息を飲んだ。まさか一介の学生が王族に対してここまでの剣幕で物を言うとは思ってもいなかったのだろう。並みの学生では容易に出来はしまい。
ウェールズは少し考えた後苦しげに言葉を紡いだ。

「確かに私としてはとても心苦しいところもある。しかしトリステインに辿り着いた民は私の戦死を聞いてただ打ちひしがれたままという訳にもいかない。
アンリエッタは上手く彼らを私無しでもやっていく事が出来るように采配を振るうだろう。私は彼女を信用している。心底ね。」
「姫様もまだ殿下の事を慕っておられます!勇敢なる為政者として、一人の若き女性として!残された者は……残された者達は、寂しさと悲しさを何時までも持たなくてはならないのでしょうか?!」

ルイズも一歩たりとて退くつもりはない。この国に着てからというもの、ずっと心の内に抱いていた思いの丈を吐露する。それは嘘偽りの無い、自分で考えた懸命の言であった。
ウェールズは少し俯き、目を合わせない様にしても尚気丈そうに話した。

「ラ・ヴァリエール嬢。人は……人という生き物は先立つ者への悲しさ、そしてその事によって齎される寂しさを携えたまま生きていく事は出来ない。そしてそうして生きてはいけないのだ。そんな風に生きる事は先立つ者を愚弄する事にもなりかねない。
それに今に至るまで王家に殉じた者は多くいる。ここで私が退く事は彼らを裏切る事に他ならないのだ。明日、私が戦死するという事はつまり、彼らの忠義に報いるという事なのだ。
それにアンリエッタの身を考えれば、余計に君が言わんとしている事を実行に移す訳にはいかないよ。」
「殿下、しかしっ!」
「私はアンリエッタを情に流され重婚の罪を犯そうとした者としたくはない。さあ話はこれで終わりにしよう。使い魔を心配する気持ちは私も分かるが、淑女が起きているにはもう十分遅い時間だ。そろそろ部屋に戻っては如何かな?」
ウェールズはもうそれ以上の談義は出来ないとばかりにルイズの肩をそっと掴んで出口に向かわせようとした。
だがその時、ウェールズの侍従パリーが昼間の格好のまま部屋に飛び込んできた。

「殿下!殿下!ここにおられましたか、殿下!実は今、大使様付きの騎士と申される方が城門前にいらっしゃっているのですが、お会いになられますか?」
「大使様付き?ラ・ヴァリエール嬢、思い当たる人はいるかね?」
「恐らく……私達の護衛に当たっていたワルド子爵の事だと思います。殿下、申し訳ありませんが先ず私がその者にお会いしても宜しいでしょうか?」
「良いだろう。パリー、大使様をそこへお連れしなさい。」
「かしこまりました。では大使様、どうぞこちらへ。」

パリーはルイズの手を恭しく取り廊下まで導いてから歩き出した。
ルイズとしては姫様が悲しむ顔は見たくない。やはり少々手荒かもしれないが、あれをするしか残された道は無いのだろうか?
あれこれと考えている内にルイズは城のホールに着いてしまっていた。
パリーは「ここで少々お待ち下さい。」と言ってホールを後にする。
一人ホールに残され、更に何もする事が無いルイズはその辺をぶらぶらと見てまわる。
『白の国』と言うだけあって城の天井、壁、床、更には調度品までもが眩しい白色で統一されていた。所々滴下血痕が乾いて残っていたりもする。
昼以降、与えられた自室と医務室からあまり出る事は無かったが、こうして見ると、やはり確実に城は崩壊へと進んでいるのだ。そして『アルビオン王家』という存在も。急いで何とかしなくては。
すると、ホール入り口の扉が開き、その向こう側からパリーとワルドが姿を現した。

「ワルド様!」

しかし叫んですぐ、ルイズはある異変に気付いた。キュルケ達がいないのである。遅れて姿を現すのかと気になってワルドの後ろを見るが誰もやって来そうな気配は無い。ルイズの反応を見たパリーは安心した様に言う。

「おお、やはり大使様がご存知の方でしたか!ささっ、どうぞこちらへ。」

それからワルドとルイズはホール脇の廊下を通り、城の奥にある小ぢんまりした会議室の様な部屋へ誘導される。
部屋に入って最初に話を切り出したのはワルドからだった。

「遅れてすまない、ルイズ。君の友人達はスカボローの港で一休みしてからこちらに来るそうだ。私としてはなるべく早く来たかったんだが、どうしてもと言われてね。」
「船は……船はどうしたの?」
「無理を言って早目に出してもらった。おかげで風石の代金がかかってしまったよ。ところで私としては君が無事に着いて何よりだった。殿下から手紙はもう貰えたのかい?」
「え……ええ。」

ルイズはワルドを見つめながらえもいわれぬ感情を抱えていた。姫様は自分達に万が一の事が起きた時の為にワルドを護衛として付けた。しかし、当の本人はその任務を端折ってまで自分の元へやって来た。一体何が彼をそんな行動に駆り立てるというのだろうか?
しかもキュルケ達はスカボローの港で休んでいるらしいが、ルイズが見た限り、あそこはもう半分以上貴族派の兵士によって併合されている様な状態のはず。呑気に休めるものなのだろうか?
休むならニューカッスルに近い所で休む方がまだ得策という物である。しかしワルドはルイズの思案を他所に話を続ける。

「そうだったか。それなら良かった。ところで君の使い魔の姿が見えないが今何処にいるのかな?」
「ラティアスなら今……ちょっと別行動に移っているの。明日の昼前には戻ってくるはずよ。」
「別行動?何処かに向かったんだね?そうか。僕としては残念だな。折角僕達の晴舞台を見て欲しかったんだがね。」

晴舞台?ワルドは何の事を言っているのだろうか?

「あの……ワルド様。私まだあなたの言っている事がよく分からないんだけど……」
「ん?ああ、すまないね。君を放り出してしまって。時にルイズ。君と僕は婚約者同士だったね。」
「ええ。そうだけど、でもそれが何か?」
「王党派、貴族派両軍の決戦は明日にも始まるだろう。その前に……ここで皇太子殿下媒酌の下、結婚式を挙げないか?」

そのあまりの突飛な内容にルイズの頭は完全に固まってしまった。ワルドは一体何を言っているんだろう?確かに自分と彼は婚約者の間柄ではあるが、今の内容はいくら何でも冗談が過ぎているのではなかろうか?
それにルイズとて結婚に甘く淡い幻想を抱く乙女である。挙式なんて物はもっと穏やかな時に、それも親族や友人、知人と共に華やかに行なう物だと考えていた。
そんなルイズにワルドは宥めるように言う。

「君は今、何故こんな時にそんな事を?と思うかもしれない。しかし、本当の事を言えばこんな時だからこそなんだ。確かに僕は騎士隊の任に夢中になって自分の領地の経営も君も長いこと放ったままにしていた。
それを鑑みれば婚約者だなんて軽々しく言うのはおこがましい物だろうけど、今の僕には君が必要なんだ。この危機を二人で乗り越えた時、僕達はもっとお互いを必要とし合うだろうし、もっと離れたくないと思う様になるだろう。」

全ての言葉の半分程度しかルイズの耳には入らなかった。ルイズはワルドの方を「嘘でしょう?」という雰囲気で見つめながら平坦な口調でやっと一言発する。

「異常な状況下で芽生えて成長した愛は決して長続きしないわ。」
「ああ。人はそう言うかもしれないね。だが、僕らの間柄は別さ。僕は良き夫として君を幸せにするよ。ルイズ、僕を信じてくれ。」

信じてくれ。その一言が喉に刺さった魚の小骨の如く妙に引っかかるものだった。ワルドは……結婚後の幸せを信用するに値するのだろうか?
少なくとも八年前、いや、この旅が始まってすぐの頃はそうだった。でも今は?
『何か』を……それが何かは分からないがとにかく『何か』を焦っている様に見える。何なのだろうと考えながら、ルイズはワルドの言葉に答えた。

「ごめんなさい、ワルド。私まだ心の整理がつかないの。プロポーズは嬉しいけど、もう少しだけ返事を待ってくれないかしら。お願い。」

ルイズの頼みにワルドは顎鬚を撫でながら暫く思案していたが、やがて納得した様に小さく頷いた。

「分かった。僕から話を切り出しておいて何だが返事は急がないよ。それまで僕はどこかの部屋で休むとしよう。一頻り落ち着いたらまた会いに来てくれ。」

そう言ってワルドは近くにいたパリーに部屋を案内するよう頼んだ。会議室にはルイズだけがただ一人取り残される。
ルイズは全くもって混乱していた。ここに来てからというもの、あまりに多くの事が立て続けに起き、碌に息吐く間もない時に起きたワルドからのプロポーズ。次第に不安感も湧き水の様に出て来た。
しかし、ルイズは自分自身に発破をかける。

「ワルド様は返事なら後でも良いって言っていたし、今は任務中だわ。第一ラティアスが必死の思いで頑張っている時に私が頑張らないでどうするのよ。ルイズ、しっかりしなきゃ。」

会議室はルイズの言葉を僅かに震わせるが、直ぐに元の静けさを取り戻した。ルイズは頭を振りながら元来た道を戻ろうとする。
すると、廊下に出た所で反対側からウェールズが穏やかな顔をして現れた。

「合流はお済みになられたかな?」
「はい。でもまだ……私の友人が来ていないそうなんです。ワルド様は彼らがスカボローで休むと言っていたのですが……」
「そうか。スカボローは今危ない状況だ。君さえ良ければ私が兵を数名派遣して様子を伺わせてみようか?」
「そんな!私共の為にその様な事をされなくても!」
「いや、私達にはそうする義務がある。君達に失礼な事があれば、その努力に報いる所が無ければ、アンリエッタに申し訳が立たなくなるからね。
安心したまえ。我が兵は勇猛果敢な者ばかりだ。きっと友人達を見つけ出してみせよう。
おっと、先ず彼らがどういった人達だという特徴を君から聞かねばなるまい。すまないが私と一緒に兵達の詰所まで来てくれたまえ。」

ウェールズはマントを翻し、暗い廊下まで早足で歩き出した。遅れじとルイズもその後を追う。詰所に向かう途中でルイズはひっそりと思った。
やっぱり……殿下は分かってらっしゃらない。亡国へ向けられた一介の大使にここまでの対応をするならば民衆の信奉の度合いはとてつもなく大きい物に違いない。
彼らが王と皇太子を失う事になれば心の中に大穴が開く事になろう。そしてそれはルイズ自身敬愛しているアンリエッタ王女も例外ではない。
複雑な心境を抱えたまま、ルイズはウェールズと共に兵の詰所へと急ぐのであった。



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