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ルイズと無重力巫女さん-14



骨董品クラスの壺や小さな額縁に飾られた自作の肖像画や勲章。
本棚には小型の金庫やチェス盤、数々のマジックアイテム。
部屋の隅にはトリステイン王国の国旗を持った国軍騎士の鎧。
丁度真ん中には大きな縦長机にそれに寄り添うかのように二つのソファが置かれている。

そして、傾いている太陽から発せられる緋色の光が窓から差し込みこの学院長室を更に古く見せていた。

「さてと、では今からおさらいをしてみるとしようかのぅ。」

嗄れてはいるが、威厳のある声でそう言ったのは窓側に置かれたデスクに膝をついているオールド・オスマンであった。
いまこの場にいるのはオスマンを含めたルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、教師のミスタ・コルベール、キュルケ・ツェルプストー、タバサ…そして博麗 霊夢の6人である。
オスマンは学院長机の椅子に座り、後の5人は全員ソファに腰掛けていた。
「えーっと…ミス・ロングビルは土くれのフーケであり、それをミス・レイムが倒したという事じゃな?」
「ハイ。ミス・ヴァリエールを人質に取られても動じる事はありませんでした。」
コルベールはそう言うと霊夢の方へ視線を向けた。
フーケを自分の勘違いで見事倒し、ルイズを人質に取られても何処吹く風の巫女は先程出された紅茶を飲んでいる。
オスマンは立派な顎髭を手で扱きながら霊夢をじっと見つめていた。
以前『遠見の鏡』でギーシュとの決闘を見たとき、ある程度のやり手だと見ていた。
(しかし、この様な少女が30メイルのゴーレムと土くれのフーケを倒すとはな…。)

観察するようなその視線に気が付いたのか、霊夢がオスマンの方に顔を向ける。
「何ジロジロ見てるのよアンタ?」
「ば、バカ!アンタ学院長になんて言い方を…。」
年上に対する言葉だとは思えないその言い方にルイズが見逃すはずもなかった。
立ち上がろうとしたルイズはしかし、それよりも先にオスマンが宥めた。
「よいよいミス・ヴァリエール。怒り過ぎてはミスタ・ギトーの様な大人になってしまうぞ。」
学院長の優しい慈悲の言葉にルイズは思わず反論しようとしたがその眼光から溢れ出る気配に思わず竦んでしまい、
平然と紅茶を飲んでいる霊夢をただただ睨むだけとなった。

大体一息ついたところでオスマンは再び口を開いた。

「さてと、フーケの件に関しては良くやってくれた。と、言いたいところじゃが…?
 いくらなんでも学院を無断で抜け出すのはいかんよ?3人とも。」

オスマンはそう言うとコルベールから聞かされたルイズ達が無断で学院を抜け出した事を話題にし始めた。
タバサがビクッと一回だけ体を小さく震わせ、他の二人も額に小さな冷や汗を浮かべる。
そもそも霊夢を除いた生徒3人が抜け出した理由は「宝探し」という名目の為なのだ。当然許されるわけがない。
この学院は、生徒に対する処罰は甘い方であるがそれでもお金持ちの子供にはきつい物だ。
例に出せば課題や親の呼び出し、説教、謹慎などがある。だが貴族の子弟達が苦手なのが「掃除」なのだ。
以前ルイズがさせられていた教室掃除や廊下、トイレの掃除、一番きついのが各広場の草むしりである。
たかが掃除など、貴族なら魔法を使えばいい。と言いたいところだが魔法などは一切禁止。全て自力でこなさいと駄目なのだ。

ルイズ達も処罰には掃除関係が来るだろうと腹を括っていたがそれは無駄足に終わることとなった。

「本来なら、ヴェストリの広場の草むしり――と言いたいところじゃが…。聞けば破壊の杖を最初に見つけてくれたのはお主等らしいのぅ?
 盗まれた学院の財宝を確保してくれた代わりに厳重な処罰として、王宮に今回の事を報告するだけにしておこう。」

優しい口調でオスマンはそう言うとホッホッと嗄れた喉で笑った。
その言葉を聞いた3人はお互い顔を見合わせ小さく微笑んだ。
生徒達の喜ぶ様を水を差すようにオスマンはゴホン、と大きく咳をすると再びルイズ達の方へと体を向けた。

「喜ぶのはいいが、そろそろ自室に戻って今夜の準備でもしていなさい。
 なんせ今夜はフリッグの舞踏会じゃ。女の子はちゃんと時間を掛けて準備せんとな。」

そう言いオスマンは壁に立てかけていた杖を手に取り、短いスペルを唱え扉に向けて振った。
『風』の魔法によって扉はひとりでに開き、五人の退室を促していた。
コルベールとルイズ達生徒の四人は頭を下げ霊夢それに伴い席を立ち、部屋から出ようとしたが、

「あぁ、ミスタ・コルベールとミス・ヴァリエール。それにミス・レイムには話したい事があるから残っていてくれ。」

咄嗟にオスマンが思い出したかのようにその言葉を投げかけた。
指名されなかった後の二人の内キュルケが顔だけをヒョコッと出した。

「ルイズ、ちゃんとしたドレスを着てきなさいよ?」
挑発とも取れるキュルケの言葉に喧嘩っ早いルイズはすぐに食い付いた。
「わかってるわよ!あんたの際どいドレスより素晴らしいのがあるんだから!」
案の定いつもの調子のライバルを見てキュルケは軽く微笑むと駆け足で女子寮塔の方へと戻っていった。

やがて足音も聞こえなくなり、扉の傍にいたコルベールがドアを閉める。
そしてオスマンの方へと体を向けて不安と期待が入り交じったような顔で学院長に話しかけた。
「オールド・オスマン。話とはまさかアレの事を…?」
コルベールの言葉にオスマンは重々しく頷くとルイズと霊夢の方に視線を向け、口を開いた。

「さてと、話したいと言うことは…ミス・ヴァリエール。君が召喚した少女のことについてじゃ。」
「え?レイムの事についてですか?」
ルイズはその言葉にビクッと反応した。

今まで霊夢には学院長と会わせた事は無い。いったい何なのだろうか?
「コイツ、何かやらかしましたか?」
ルイズはそう言って霊夢を指で指した。
「なんか私が前科者みたいな言い方ね…。」

ルイズの言葉に霊夢は素早くそれに突っ込んだ。
しかしルイズの質問に対しオスマンは首を横に振り否定の意を示す。
「いんや、彼女は別に何もしておらんぞ。ただ―――」
「ただ?なんです?」
途中で言葉を詰まらせたオスマンを待つかのようにルイズが首を傾げて問う。
オスマンは軽くため息を吐くと霊夢の左手の甲を指さしてこう言った。


「――彼女の手にある筈の使い魔のルーンは何処じゃ?」



「―――えッ…!?」
その言葉を聞き、数秒の間を置いて驚愕したのはコルベールであった。
何せ彼は直接霊夢の左手の甲に伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンが刻まれていたのを目にしたからだ。
「そんな馬鹿なっ…し、失礼!……」
コルベールは言いながら霊夢の左手の甲をチェックし、驚いた。
契約したとき彼女の手の甲に焼き付いていたガンダールヴの刻印は跡形もなく消え失せている。
「ほ、本当に無い…一体コレは…?」
「ちょっと、いつまで掴んでるのよ。そんなにアタシの手が珍しいの?」
霊夢はそう言うとコルベールの手を振り解き、オスマンの方へ刺すような視線を向けて口を開いた。
「アンタ、何か知ってるでしょう?使い魔のルーンが何たらといい…ルイズも同じようなことを言ってたわよ。」
その言葉を聞き、唖然していたコルベールは真剣な顔でルイズの方へ向き口を開く。
「ミス・ヴァリエール。君はこの事を前から…?」
あまりにも真剣な態度で聞かれたため、ルイズは少し堅くなりながらも話す。
「は、ハイ。私がコイツを最初に部屋へ連れてきたときに確認しました…。でも、契約はちゃんとしました。」
ルイズの言葉に、オスマンとコルベールは頭を捻るとため息をつき、霊夢に話しかけた。


「では、まず君に話すとするか。まずは…君の左手の甲についている筈のルーンから教えなければいけない。」

そこからオスマンの説明が始まった。
使い魔は主人との契約の際、体の何処かに刻印を付けられるということ。
コルベールの話では霊夢にはその刻印が左手の甲についていたという……

「しかし、君の左手の甲に付いていたと思われるルーンは別格じゃ。根本的には変わらないがのぅ?」
オスマンの「別格」という言葉を聞き、霊夢は首を傾げた。
「根本的にって…何がどう違うのよ?」
「まぁ待ちなさい、今からその事について話すのじゃ。ミスタ・コルベール、その棚にある本を。」
「あ、ハイただいま。」
そう言いながら棚から一冊の分厚い本を取り出したコルベールはそれを学院長机に置き、ページをパラパラと捲り始めた。
断片的ではあるがルイズが見たところ、どうやら始祖ブリミルについて書かれた古い書物らしい。
所々シミや欠けた所もあり、保存状態はすこぶる悪いものである。
やがてページを捲っていたオスマンの手は、『始祖の使い魔達』という項目で止まった。
右から順に『ガンダールヴ』、『ヴィンダールヴ』、『ミョズニトニルン』の名前と軽い説明文が記されている。
オスマンは『ガンダールヴ』の項目を指さすと二人に説明し始めた。
「君に記されていたというルーンはこの神の左手と言われた『ガンダールヴ』のルーンじゃ。」
それを聞き霊夢もページを覗き見るがちんぷんかんぷんで全然読めない。
ルイズも最初は何が何なのか全然分からなかったが、段々と理解し始めた。

「ガンダー…ルヴ?…えぇ、ウソ?」

「そのガンダールヴとか言うのは…どういう効果があるの?」
とのあえず霊夢がオスマンにそう質問すると彼は口を開いた。

「このルーンを持つ物は、例えドが付くほどの素人でもいかなる兵器と武器が使えるらしいのじゃが…」

その言葉を聞き、ルイズがもの凄い勢いでオスマンに近寄った。
「……っ!?、ということはオールド・オスマン…私の使い魔は…私の使い魔はもしかすると…!?」
ルイズのそんな反応を待っていたかのようなオスマンはカッ!と目を見開くと叫ぶ――

「そう…『虚無』の使い魔であり、ありとあらゆる武器を使いこなす伝説のガンダールヴ!!




 ……の筈だが。」

が、最後はまるでしぼんだ風船のような感じの声で呟いた。

二人は霊夢の方へと一斉に視線を向け、ため息をついた。
一方のルイズは、その事に安堵して良いのか落ち込んだら良いのかわからなかった。
突然投げかけられた二人分のため息と視線に霊夢はキョトンとした顔になる。
「なによ?その残念そうな顔は。私が何かした?」

オスマンは二、三度顔を横に振ると再び席を立ち、棚に置かれていた一本の太刀を手に取った。
「……まぁ、とりあえずは確認せんとな?ルーンが無いだけ…という事もあるかも知れんし。」
そう言うとオスマンは霊夢の近くに来ると、彼女の前に両手に持った太刀を差し出した。
「この太刀を手に取ってくれ。それだけでいい。」
霊夢はそんな事を言うオスマンを怪訝な顔で見たがとりあえず見た感じ大丈夫そうだったのでその太刀を手に取った。
そして鞘から抜いた刀身を見て苦虫を踏んだような顔をして呟く。

「……随分と酷いわねぇ。」
彼女は剣に関しては余り詳しくはないが素人の目でも見て分かるくらいにソレは刃こぼれと錆びに覆われていた。
かつては白銀色に輝いていた刀身は見る影もなく焦げ茶色になっていて、下手に振るとあっさりと折れそうなくらい、弱々しく見えた。
太刀を手に持った霊夢に何も起こらないのを確認したオスマンは再び大きなため息をついた。

「ふぅむ…やはり何も起こらな――
                    『おいコラ!誰が酷いだって!?』

突如オスマンの声を遮り、男の怒声が学院長室に響いた。
ルイズは突然のことに辺りをキョロキョロとしていたが霊夢の方はジッと手に持っている太刀の鎬を見た。

「……まさかこの剣が喋った?」

霊夢がポツリとそう呟くと、ひとりでに太刀の根本部分がカチカチと動き、再びあの声が聞こえてきた。
『おうよ、何せ俺はインテリジェンスソードだからな!』
若干怒り気味だが、何やら嬉しそうな太刀の言葉に霊夢は目を丸くしていた。
「インテリジェンス…?何よソレ。」
「つまりは喋る武器の事よ。価値はそれほどでもないけど昔からある武器なの。」
声の主が誰だかわかったルイズは霊夢アドバイスをした。
幻想郷には変わったマジックアイテムや道具などたくさんあるがそんな場所に住んでいる霊夢でもこんなのは見たことがなかった。

『おぅ、よく知ってるじゃねぇか!』
大声で喋るインテリジェンスソードの持っている霊夢は鬱陶しそうな顔をする。
生意気なこの剣をどうやったら黙らせることが出来るのか考えているとふとコルベールが視界に入った。
「ねぇコルベール。」
「なんですか?」
「コイツ、どうやったら黙らせれるの?」

その質問を聞き、コルベールはインテリジェンスソードを指さした。
「えーっと、それを売っていた武器屋の店主の言葉では…鞘に入れたら黙るとか…。」
彼がそう言い終えた直後、再びあのインテリジェンスソードが喋り出した。
『聞いて驚くな?俺はインテリジェンスソードの中でも一際輝くデルフリン――

チン!

綺麗な金属音と共に、お喋りな太刀は鞘に納められ何も言わなくなった。
それを見て霊夢は満足そうな顔をするとインテリジェンスソードを乱暴に学院長机の上へと置いた。
「コレを買った奴は相当な物好きね。何の目的でこんなのを―『オイオイオイオイ!!名前は最後まで聞けって!』
やっと黙ったと思っていたインテリジェンスソードはしかし、勝手に鎬部分だけが鞘から出てきて再び喋り始めた。

『俺はデルフリンガー。お前ら人間達よりも遙かに長く生きてるインテリジェンスソードの一つさ。
 だが人間とは違って動けない俺たちにとっては人との会話は唯一の娯楽なんだ。だからさ、鞘に収めるのはやめ―
更に喋ろうとしたデルフリンガーを、霊夢は素早く手に取り…

チン!

鎬の部分が鞘に納められ、デルフリンガーは博麗の巫女によって再び黙らされた。
「うっさいわね、。あんたの声は大きすぎるのよ。」
霊夢はそう言うとデルフリンガーをコルベールに突き返した。
コルベールがそれを受け取ったのを確認すると霊夢はオスマンの方へと顔を向けた
「確かめたかった事ってこれだけ?」
オスマンは軽く頷くと口を開いた。
「あぁ、そうじゃ。」
「ならもうルイズの部屋に帰るわね。色々あって疲れたから…。」
霊夢はそう言うとルイズを置いて踵を返しドアを開けて出ようとした。
しかし、そんな霊夢をオスマンが思い出したかのように止めた。
「あぁ、待ってくれ。一つだけ質問させてくれんか?」
オスマンの言葉に霊夢は手を止め、まだ何かあるのかと言いたそうな表情をオスマンに向けた。
「…何よ?」

「君は…これから先、ミス・ヴァリエールをありとあらゆる危機から守ってくれるか?」

オスマンの質問に、霊夢は考えるそぶりも見せずこう即答した。

「そうねぇ、一応私の見える範囲なら守ってあげるわ。…それじゃ、先に帰ってるわよ。」

霊夢は最後の一言をルイズに向けて言うと退室した。


霊夢が退室した後、残された3人はただただ沈黙するだけだった。
コルベールは霊夢の冷たい態度に唖然としており、オスマンは気まずい顔を…そしてルイズは、今更ではあるが嫌な顔で溜め息をついた。
「ま、まぁミス・ヴァリエール…世の中は限りなく広い、ああいう人格の人間もいるんじゃ…。」
オスマンはそんな慰め言葉をルイズに投げかけたがいかんせん反応がない。
多分召喚して以来、あの性格に悩まされているのだろう。
「…失礼します。」
ルイズはそう呟くと、そさくさと退室した。


ルイズもいなくなり、学院長室には二人だけとなった。
「オールド・オスマン。心配だとは思いませんか?」
「心配…とは?」
コルベールの言葉にオスマンは首を傾げる。
「ミス・レイムの事ですよ。見たところミス・ヴァリエールとは少々険悪な雰囲気が出ていると私は思います。」
その言葉を聞き、オスマンは顎髭を数回扱くと口を開いた。

「君はまだまだ若いのぅ…髪は無いのに若いのぅ。」
「!?っ…と、突然何を言い出すかと思えば…無礼ですぞ!」
突然頭の事を言われたコルベールは頭を押さえて叫んだ、
「そういう意味ではなく、まだまだ人を見る目が若いという事じゃ。さっきのは冗談さ。」
それはウソだ。と、思いつつコルベールはオスマンの言葉に耳を傾けた。


「確かに見た感じ、相性が悪いとは思うが…別にかなり酷い。というレベルじゃあない。
 もしもの時には、あの子―ミス・レイムはミス・ヴァリエールをきっとあらゆる危機から救ってくれるだろう。
 別に彼女がその気じゃなくとも、結果的にはそうなるかも知れん。
   何より、不思議とあの瞳からは嘘を言っている様には思えんのじゃよ…」

オスマンはそういうと右手を地面に下ろし、足下にいた自身の使い魔を手のひらに乗せた。
「だけどワシは、そういうタイプよりモートソグニルのようなモノが好みじゃが。
 …さてと、君も退室して構わないぞ。今日は君もパーッと飲みたまえ!何せ年に一度の舞踏会じゃからのぅ。」

「はぁ…では、失礼いたします。」

コルベールはオスマンに頭を下げると、デルフリンガーを持ったまま部屋を出た。
オスマンは彼が去ったのを見届けると使い魔の顔に耳を近づける。
それからすぐに相づちを二、三回うつと不満そうな顔をしてナッツを2個モートソグニルに与えた。

「う~む…ドロワーズを履いていたとはな…。だからあんな平気で空を飛んでいたのじゃな。いやはや…」

オールド・オスマン学院長――
彼はやはり、れっきとしたカリスマを持つ素晴らしき変態であった。



「あぁーもぉ…。とんだ骨折り損だったわ。」
霊夢は大きく欠伸をしながらルイズの部屋目指して女子寮塔の廊下を歩いていた。
せっかく舞い込んできた美味しい情報はあっさりと乱入してきた盗賊に潰れてしまい、
その盗賊をボコボコにしてスッキリしたのでまぁ良かったがその分かなりの疲れが体に溜まっていた。

何やら先程、今日は舞踏会だとか言っていたのだがどうしようか霊夢は今悩んでいた。
飲み会などは嫌いではない、むしろ好きな方ではあるが、疲れている今は柔らかいベッドで一寝りして疲れを取り除きたい。
しかし寝る前に一杯飲んでから寝るのも良いと考えており、
霊夢はどちらにしようか考えながら薄暗い廊下を歩いていると奥からふとボソボソと話し声が耳に入ってきた。
(…よ、私は…知っ…。)
(でも、キ……が持ち込んで…)
声からして女性ではあるが何を言っているのかわからない。
こんな所で良からぬ事を企んでいるのか。と霊夢は思いながら声の方へと近づいていく。

やがて声の発信源がルイズの部屋の入り口だという事に気が付いたと同時に、誰が喋っているのか理解した。
その正体は、霊夢に背を向け声を小さくして口論していたキュルケとタバサであった。
一体何事かと思い霊夢はすぐに声を掛けようとしたがその前に口を開いたのはキュルケだった。
「それにこうやってこっそり置いてた方が誰が送ったか分からないじゃない……?」
両手に銀細工の箱を抱えたキュルケがそう言ったがタバサは首を振る。
「彼女は見たところ勘が鋭いと見る。素直に差し出した方が良い。」
タバサの言葉にしかし、キュルケは首を振った。

「でもでも…あの子すごく怒りそうなんじゃない…?」
そろそろもう良いかと思った霊夢は、こちらに背を向けて話していた二人に声を掛ける。
「ちょっと、誰が怒りっぽいですって?」
「えっ…?うひゃっ!!」
キュルケは素っ頓狂な叫び声を上げると、手に持っていた箱を落としてしまい、
コロコロと床を転がる羽目になった箱は丁度霊夢の足下で止まった。

「?…何よコレ。」
「あっ…それは…。」
霊夢の問いにキュルケは箱に手を伸ばしたが素早く霊夢がその箱を取った。
それを見たキュルケは数歩下がってタバサの傍に寄ろうとしたがタバサもまた後ろに下がる。
「中に何か入っているけど…。」
中身が何故か気になる霊夢は怠そうな目でキュルケに尋ねた。
それに対しキュルケは少し悩んだそぶりを見せた後、口を開いた。
「実はそれね…今日迷惑かけたお礼として渡そうかと思って。」
箱を軽く振りながらそう呟く霊夢に、少し落ち着いたような感じでキュルケはそう言った。

「お礼…?まさかびっくり箱とかじゃないでしょうね。」
霊夢は怪訝な顔をしながらもその箱の蓋に手を掛けた。
「違うわよ…なんていうか、そのぉ…。」
キュルケはそんな霊夢の顔を見て悩んでいたとき――

「その中には地図に書かれていたマジックアイテムが入っている。」

ポツリと、タバサがそう呟いた。
同時に、霊夢も蓋を開けて箱の中身に入っていた『縄』を見た。
その瞬間、ギクリと体を震わせたキュルケは踵を返してそさくさと自室へと帰っていった。
タバサはそんな友人と箱の中身を見たまま固まっている霊夢を一瞥し、自室へと戻った。
一方の霊夢は箱の中に入っていた『お宝』を見て硬直していたがバッと顔を上げると箱をその場に叩き捨て、目を鋭く光らせた。


急いで自室に戻ってきたキュルケは鍵を『ロック』の呪文で閉めると椅子に座って頭を抱えていた。
キュルケは最初から、『境界繋ぎの縄』というマジックアイテムなど信じていなかった。
大抵の宝の地図に書かれている名前は大げさな物であるがご丁寧にもあの地図には大層な説明まで書いていた。
しかも埋まっている場所も近く、あの時こそチャンスだと思いルイズ達を誘ったのだ。
思いの外あの霊夢もそれに乗ってくれた。

だけど、どうやら霊夢はアレが紛い物だと知らなかったに違いない。
じゃなければ廊下から漂ってくる良からぬ気配など感じないのだろう。
使い魔のフレイムも不安そうに部屋をグルグルと歩き回っている。
(どうする…今回ばかりは素直に謝ろうかしら?じゃないとやばそうだし。)
いつものキュルケならそんな事を思いはしないが、フーケとの戦いを見て流石にアレ怒らせたらは不味いと感じていた。
そんな風に悩んでいる突如扉から小さな破裂音が響いてきた。
咄嗟に杖に手に持ち扉の方へと向けた瞬間、ドアがゆっくりと開いた。



部屋の出入り口に立っていたのは、御幣を左手に、お札を右手に持ち、体から何やら嫌な気配を出している霊夢であった。
彼女から出てくる気配に圧倒されたのか普通主人の前に出て威嚇するはずの使い魔は情けなくもベッドの下に隠れている。
キュルケもイスに座ったまま口をあんぐり開け硬直していた。


(キャ~、ツェルプストー大ピンチー!…なんて言ってる場合じゃないわn―――

キュルケがどうしようかと頭の中で考えようとしている時には既に遅く――
――霊夢の素早い蹴りがキュルケの額に直撃していた。

――――――

ルイズの部屋に入り口に投げ捨てられている一つの箱―――
その中からは一本の縄が出ていた。両端には小さな持ち手があり、十歳ぐらいの子供には丁度良いサイズの物であった――
遊び道具としても、運動器具としても役立つそれは――

「境界繋ぎの縄」でなく、「なわとび」と呼ばれている。


今夜行われるフリッグの舞踏会は食堂の上の階にある大きなホールで行われる。
テーブルクロスの上に並べられた数々の山海珍味、高級なワイン。
生徒や教師達は皆華やかな衣装に身を包み、今宵の宴を楽しむ。
舞踏会ということだけあって、皆ダンスに夢中であるが中には例外もいる。タバサが正にそれである。

「あなたって本当に良く喰うわね…。」

額に包帯を巻いたキュルケが小皿に盛られた肉料理をフォークを突っつきながら横でサラダを食ってる友人を見て呟く。
幸いあの蹴りは気絶だけで済んだがさっきからジンジンと痛む、もし機会があるならあの紅白に一矢報いてやろう。
そんな事を思いながらキュルケはタバサが食べているサラダへと視線を向ける。
「ハシバミ草」と呼ばれる植物をメインにしたそれは、タバサ以外に指で数える程の者しか食べていない。
そのハシバミ草を食べようなんて考えるのは変わり者だけ。と豪語する程不味いらしいので当たり前と言えば当たり前だろう。
自分の友人がそんな物を美味しそう(?)に食べているのを見てついついこんな事を聞いてしまった。
「ねぇタバサ、それって美味しい?」
「普通に美味しい。」
キュルケの質問にタバサは手の動きを止めてポツリとそう呟き、再びハシバミ草を口の中に入れ始めた。
本当なのかどうかわからないその様子にキュルケはただただ苦笑いをするだけとなった。

「やけに不機嫌そうだけど、どうしたのかしらツェルプストー?」

そんな時、ふと後ろから声を掛けられ、聞き覚えがあったキュルケはすぐに振り返った。
予想通りそこにいたのは、綺麗な純白のドレスに身を包んだルイズが腰に手を当て突っ立っていた。
振り返ったキュルケの顔を見たルイズは、顔をキョトンとさせた。
「あれ…、その額の包帯はどうしたのよキュルケ?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。あの紅白に蹴られたのよ…全く。」
キュルケは嫌みっぽくそう言うとそっぽを向いた。

「大体、10の内9がハズレの地図なんか信じる方が悪いのよ。それなのにアイツったら…問答無用で私の額を蹴ったのよ。」
「…そういう事は先に言っておいた方が良かったんじゃないの?あぁ、そういえば聞きたいことがあるんだけど…。」
キュルケにそう突っ込んだルイズは、キュルケに質問を投げかけた。
「何よ?」
「レイムの奴が何処にいるか知らない?あいつ、部屋にいなかったし。」
その質問に、キュルケは首を傾げて答えた。
「さぁ…知らないわね…タバサは?」
「さっきバルコニーにいるのを見た。」
タバサはそれにスラッとそれに答え、顔をバルコニーの方に向けた。

一方、場所は変わってバルコニー
ホールと比べここには人はおらず、寒い夜風が吹きすさんでいる。
そんな場所で霊夢はただ一人ベンチに腰掛け、ホールから勝手に拝借したワインを飲んでいた。
酒の肴は無く、ただボンヤリと双つの月を眺めグラスに入ったワインを口に入れる。
そんな時、後ろから誰かが声を掛けてきた。

「こんな所で何辛気くさそうに飲んでるのよ?」

振り返ると、そこにいたのは立派なドレスで着飾ったルイズがいた。
「何って…寝る前に一杯飲んでおこうと思ってね。」
霊夢は顔を向けずルイズに素っ気なくそう言うとクイッとワインを飲んだ。
空になったグラスを口から離し、一息入れると視線だけをルイズに向けた。
「で、何の用よ?」
「別に、ただ何処にいるのか探してただけよ。」
ルイズはそう言うと霊夢の横に座ると、手に持っていたグラスにワインを入れ、飲み始める。
しかし、ルイズはお酒には余り強くなく、むしろ弱い方なのでチビチビとしか飲めない。それを見て霊夢が口を開く。

「なにチビチビ飲んでるのよ。もうちょっとガバッと飲んだら?」
「私はお酒に弱い方なのよ。ほっといて頂戴。」

ルイズの言葉に霊夢は軽く笑うと手に持っていたグラスにワインを注ぎながら喋り始めた。
「今回は踏んだり蹴ったりだったわ…まさかただの縄一本の為にあんな苦労したなんて…。」
そんな霊夢の愚痴を聞き、ルイズはグラスを口から話すと口を開いた。
「でも丁度良い運動にはなったんじゃないの?フーケも倒して国の治安維持にも貢献出来たし。」
しかし霊夢は不満そうな顔で首を横に振るとこう言った。
「私はそんなのに興味は無いわよ。ただ幻想郷に帰れるかも知れない情報が都合良く舞い込んだから行っただけ。
 もしも最初からあの地図がデタラメだと知ってたら疲れることは無かったのに…。」

ルイズはその言葉に微笑むとこう言った。
「フフッ、丁度良いじゃない。この世界の詐欺商法の一つをしっかりとキュルケが教えてくれたんだから。」
「そんなのを学ぶ暇とアイツを叩く暇があるなら、アタシはお茶でも飲んでた方がずっと有意義だわ。」
霊夢はそう言うとグラスに入っていた残りのワインをグイッと口の中に流し込んだ。


「まぁとりあえず今はお茶よりお酒ね。」


―何せ今日は舞踏会なんだから。
ルイズはそう言うと再びグラスに口を付けてチビチビと飲み始めた。
それを見た霊夢はフッと微笑むともう一度グラスにワインをつぎ足した。


―酒一杯にして人、酒を呑み。

   酒二杯にして酒、酒を呑み。

    酒三杯にして酒、人を呑む。


こんな月の綺麗な日は酒を呑むのには丁度良いけど、

 呑みすぎると翌日には悪夢を見ることになるので程々にしましょう。

「モンモランシィ~~…もういっぱぁ~…イ゛ィ゛ッ!!?」

「アンタは飲み過ぎよ!!」

「だ…だからって空のワインボトルで殴らないでくれぇ~…。」  



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