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狼と虚無のメイジ-08b


狼と虚無のメイジ八幕 中編 

思い思いに生徒が集うヴェストリ広場。
その片隅に存在する、昨日までは無かった木組みのそれは、恐らく寮の部屋程度の面積だろうか。
割と小奇麗な布で囲われており、その中身は見えない。所謂簡易のテントで、組み立ても解体も簡単そうだ。
上から見ると正方形の作りで、便宜上の底辺の左右に出入り口がある。
そこには片手で数えられる程の生徒が椅子に座って並んでおり、右側から入って左側から出ていく構造になっている。
出てきた生徒は何処か嬉しそうに、しかし思案しながら、その横に設置された台で何かを記入していた。

「うぅむ。これは一体?」
「実験と言うのは解るのですが……」

物見の鏡からでは結局何をしているのか解らない。
ロングビルの「実際行って見るのが一番解り易いかと」と言う言葉に促され、オスマンとコルベールはヴェストリ広場までやって来た。

はてこれは何事かと意見している内、忙しなく動いているメイドを見とめたので声をかける。

「あらあら、これはオスマン様にコルベール様。如何致しました?」
「おや、君は今朝の……シエスタじゃったかのう?」
「一介の女中ごときの名前を覚えて下さっているなんて光栄ですわ」

間違えるって言う選択肢は用意してくれてなさそうじゃもん、と喉まで出掛かった言葉を飲み込むオスマン。
目線が泳いでいるオスマンに代わり、コルベールが質問を続ける。

「ところで一体何をしているんだね?ミス・タバサが始めたものと言うのは聞いたんだが」
「はい、とある実験をやっております。浅学故、私は詳しい事は存じませんが、人間の心理についての研究だとか」

そう言ってシエスタが示した方向には、木陰で黙々と本を読む青い髪の生徒がいた。隣に座る桃色の髪の少女はルイズだろう。

「少々お時間を頂く事になってしまいますが、もし宜しければお二人もご参加願えますでしょうか?」

顔を見合わせるオスマンとコルベール。
向こうから出てきた生徒の反応からして危険なものでは無さそうだし、そもそも教師が近くにいるのに挨拶程度のアクションしか起こさないのは、さしてやましい所も無いと言うこと。
それ程考えず、二人は了解の返事をした。

「ありがとうございます。実験の内容ですが、あちらに設営されたテント。そこで二人の女性と会話をして頂きます。中は二つに仕切られていますので、時間が来たら隣に移動して下さい。各々20分前後で終わる内容です」

そう言いながらも、シエスタは二人に一枚ずつ紙を渡す。何も書かれていない、記帳用の安い紙だ。

「終わりましたらお二人の内、より『好意を抱いた女性』を記入して下さい。理由もあれば併せてお願いします」

実験の内容を聞いて、ようやく飲み込めてくる。
タイプの違う二人の女性を並べ、その反応から何らかの統計を取ろうと言うのだろう。

「ふむ、生徒の向学の為とあらば仕方あるまい。のお、ミスタ・カマンベール」
「そういう台詞は伸びた鼻の下を直してから抜かして下さい。あとコルベールです」

水面下でギスギスとしつつも、二人はとりあえず並べられた椅子に座る。
前に並んだ生徒が列を空けようとしたが、教員の権力を振りかざしていると誤解されてもなんなのでやんわりと断った。

その後数人並んだ後、シエスタが「本日終了」の立て札を最後尾に置く。
ぼちぼち日も傾いているし、ペース的に最後尾の番が終わる頃には夕食も近い。妥当な選択と言えよう。

緊張している隣の生徒をオスマンがからかって遊んでいたりすると、意外と早く順番が回ってくる。

「それでは次の方、御入室下さい」

シエスタの声と共に、オスマンはテントの中に踏み込んだ。

◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「ところで貴女の名前借りちゃったけど良かったの?」
「興味深いし、問題ない」
「決闘としても実験としても、ね」

テントから少し離れた所に並んで座る、ルイズとタバサ。黙々と本を読みながらも、ルイズの質問にはそつ無く答える。

「……貴女、結構良い性格してるわね。本ばっかり読んでるから、相応に静かな娘だと思ってたけど」
「貴女の性格が解り易いだけ」
「うぐ、別に悪い意味で言った訳じゃないわよ」
「……こちらも、そう」
「何時に無く喋るわね?」
「別に……」

そのまままた視線を下に落とすタバサ。しかしルイズにはその表情が、先程までに比べて妙に憂いを帯びた物に見えた。

「……私だって好きで頑張ってる訳じゃないわよ」
「……?」
「毛ほどの努力もしないでも、それなりに魔法が使える奴等から『ゼロ』呼ばわりされて何も思わなかったらおかしいでしょ?むしろ異常だと思うわ」
「……」
「貴族としての品性の欠片も無い奴でも、魔法さえ使えれば貴族として認められ、使えなければどれだけ高潔な志を持っていたとしても一笑に附されて『無能』扱い。全く持って妬ましいわよ」

『無能』というところに、タバサがぴくりと反応したが、それを顔に出すことは無かった。
しかし、滞ることの無かった本を捲る指が止まっている以上、ルイズの話に何かを感じているのは確かだろう。

「……中には本当に殺してやりたいと思った『人』もいたわ」

「奴」ではなく「人」と言ったか?そのニュアンスの意味する所は、つまり親しい人間。恋人……或いは肉親。
そしてタバサはゆっくりとルイズの顔を見る。その顔はびっくりする程に酷薄な微笑を湛えていて。
それはまるで、叔父の――――――――

「駄目」

本がばさりと地に落ちる。
無意識の内、タバサはルイズの両肩を掴んでいた。

「……殺すのは、駄目」
「……そんな顔もするのね」

狼狽するタバサを知ってか知らずか、ルイズはきょとんとした顔をタバサに向ける。

「『いた』って言ったでしょう。結局の所、何も出来なかった。想像の中で稚拙な計画を立てて、そんな事を考える自分に自己嫌悪の連続よ。全くもって小さいわ」

自嘲気味に笑うルイズを見て、タバサほっと肩の力を抜く。

「だから、私は大した人間じゃないわ。魔法がまともに使えないから、他のところも人一倍頑張っているだけ。それも止めたら本当に自分が『ゼロ』だって認める様な物だから」
「……その考えを押ししたのが、ホロと言うこと?」
「想像に任せるわ。けど……色んな事を別の視点から見れる様になったってところは、あいつに感謝しなきゃならないかもね。冷静に考えると家の家系って視野狭窄な人間が多いのよ」

そう言うルイズ微笑みに、自虐の色は少ない。タバサも一瞬見惚れる程に、綺麗な顔をしていた。

「私の顔、何かついてる?」
「……別に」
「ふぅん……?」

慌てて本を拾い上げるタバサを訝しむルイズだったが、何か思いついた様な表情になり、タバサの顔を覗き込んだ。

「もう一つ感謝しなきゃならないことがあるの。あいつと居ると、今まで見たことも無い周囲の反応が見られるのよね」
「……?」
「さっきの慌てた顔、可愛かったわよ?」
「!?」

まるで慈母の様に優しい笑顔を、正面から向けるルイズ。台詞と相まって、タバサは思わず顔を紅潮させる。

「まあ、こんな具合にね?」

一転、にやりと小悪魔の様な笑みを浮かべるルイズ。その表情と来たら、タバサも何度か見た、ホロが浮かべる笑みにそっくりだ。
図られた事に気づき、タバサは思わず本に顔を埋めた。

「……卑怯」
「そういう卑怯の塊を使い魔にしちゃったんだからしょうがないわ」

くったく無く笑うルイズに釣られたのかもしれない。
本に埋めたタバサの口元は、うっすらとだが確かに笑みを作っていた。

「ところで何読んでるの?」
「……見る?」
「良いの?」

こくりと頷いたタバサの視線は、シエスタの方を向いている。彼女に借りたと言うことだろうか。

「第二章がすごいらしい」
「ふぅん」

この少し後、仲良く赤面する二人の少女を、風韻竜が目撃したらしい。
ついでに物陰からそれを見つめるメイドを目撃したが、その笑顔を見て慌てて逃げ去ったとか。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「あら、オールド・オスマン。今朝方ぶりですわね」
「おや、君かね」

一室目で待っていたのは、やや暗いテントの内部でも鮮やかに映える赤毛の女性。誰あろうキュルケである。

部屋の真ん中で遮る様にテーブルが設置され、それを挟んで対称になる様に椅子が配置されている。
他に気づいた点として、真ん中で区切られているこのテント内では、外の喧騒も隣で行われている会話も全く聞こえないと言うことだろう。
どうやらテントの周りと、隣接する部屋との間にサイレントの魔法がかかっているらしい。簡素な作りに反して機密性は高い様だ。
恐らくタバサの仕事だろう。

とりあえずオスマンは椅子に腰掛けた。

「はい、例の件では迅速な対処を有難うございます」
「学院を預かる者としては、当然の義務じゃ。感謝される程の事ではないよ」
「謙遜なされるところが、また学院長の器と言えるんじゃないでしょうか?」
「ふぉっふぉっ。褒めても何も出ぬよ。ところで何か会話をしなければならぬそうじゃが、良いのかのう?」

髭を弄りながらからからと笑うオスマンは、はたと思い出したかの様に尋ねる。
それ程時間も無いのだ。生徒と世間話に興じるのも良いが、向学の為の実験とあらばそれを無碍にする訳にもいかない。

「ああ、構いませんよ?会話の内容については一存されていますので。その上で選んで頂ければ」

ほう、とオスマンは声を漏らした。となると質問自体には特に意味は無い事になる。では一体何を調べるというのか。
逡巡しているオスマンを見かねたのか、キュルケが声をかけた。

「学院長?深く考えないで下さいな」

ちょっと下から目線。下品にならない程度に胸元を強調する。
オスマンの視線はついついそちらに釘付けになった。

「リラックスして、適当に併せて下されば結構ですわ。この短い一時、楽しまないのは損でしょう?」

そう言いながら、オスマンの枯れ木の様な手を優しく包み、胸元に引き寄せる。
柔らかい感触を指先に確認したオスマンは、伸びきった靴下の様にだらしない顔を見せる。

「私、学院長の功績について耳にしてから、随分と調べましたのよ?就任に至るまでの数々の英雄譚には本当に痺れましたわ」
「ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ!そうかの?そうかの?」

うっとりと陶酔する様なキュルケの表情に、威厳もへったくれも無くなるオールド・オスマン。真面目な生徒が見たら自主退学する者も出そうだ。

「えぇ。特に40年前の……」

結局時間までベタ褒めしまくったあげく、胸元に触らせ続けると言うダブルサービスは凄まじく、オスマンは鼻血を抑えながらも名残惜しそうに次の部屋に移動していった。
それを笑顔で見送りながら、次の対象が来るまでのほんの少しの間。

キュルケは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

(イレギュラーって言うのは今の学院長の様ね。意外だったけど、情報が多い分扱い易かったわねー)

有象無象の一般生徒の場合、まず本人の人となりを把握しなければならない。
プライドだけは妙に肥大した輩も多いので、その辺りも配慮すると時間の配分にも気をつけるべきだろう。
全く持って頭を使う。しかしそれもまた面白いのだが。

シエスタの提案した決闘。
それは「限られた時間の中、如何に相手の好意を得るか」と言う内容であった。
主要なルールは以下の通り。

  • 20分前後の限られた時間の中で気持ちよく会話し、相手に好意を抱かせる。
  • 可能であれば惚れさせても構わない。
  • 縛りとして、表向きは公な実験と言う名目の為、肉体への接触はソフトな物に留めることにする。
  • 但し、中で起こった事を漏らさないならばその限りではない。
  • 印象を公平にする為、先攻と後攻は一日ごとに交代する。
  • 会話対象にはイレギュラーあり。

単純かつ、社交の素人には容易に実行出来ぬ難易度も併せ持つ。
本当に面白い事を考え付くものだ。

(それにしても、あのホロとやら……よくこの条件で承諾したわね)

そもそも、会話を主体とした駆け引きにおいて、相手の背景を知っているかどうかは重要になってくる。
対象についての情報は希薄でも、知っている国の人間であれば、そこから会話を発展させる事も出来る。
地盤が同じ、或いは共有する部分があると言うのは、コミュニケーションにおいて非常に重要だ。
そう言った意味で言えば、貴族社会に詳しいキュルケは、ホロに対して圧倒的なアドバンテージを持っている事になる。

ふふんと鼻で笑い、誰も見ていないのに胸を反らすキュルケ。

(まあ、少しはやる様だけど、私に言わせればまだまだツメが甘いわよね~)


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


(と、まあ。そんなことを考えておるのじゃろう)

くふ、と小さく笑いを漏らし、実に底意地の悪い笑みを浮かべているホロ。
彼女に言わせれば勝負ごとの有利不利など、勝負が始まる前でほとんど見えていて当然である。

愚者はそれを解らないから勝負に挑む。
凡者はそれが解っているから勝負をしない。
賢者はそれが解った上で勝負を不利から有利に運ぶ。

ではヨイツの賢狼ならば?
もちろん決まっている。意味すら解らぬ羊の素振りをして、相手の喉笛を噛み千切るのだ。

勿論そんなことはおくびにも出さず、ホロは新たに入ってきた人物に声をかける。

「くふ、お戯れが至極お気に召された様じゃ」
「ぬ、む。もう一人は君かね」

まだ前の部屋に未練があるのだろう。後ろ髪とついでに前の髭が引っ張られながら、オスマンが入って来る。
その点を指摘され、動作は実に挙動不審だ。

「如何にも。しかしぬし様も罪なお人でありんす。わっちの鼻は常よりも利く。他の女の残り香が、わっちの心を苛んでいることにお気づきかや?」
「いや、いやいやいや。これはそもそも実験と聞いておる。そんな深い意味があるとは……」

よよよとしなを作るホロを見て、慌てて弁解に走るオスマン。学院長の威厳は欠片も見えない慌てっぷりだ。

「くふ、冗談じゃ。キュルケの色香にあてられたかや?恩義は感ずれども、雄としては見ておらぬ。心配せずとも良い」

ぺろりと舌を出したホロに、呆気にとられたオスマン。
そしてポンと額を叩くと、毒気を抜かれた様にからからと笑い始めた。

「いや、やられた。まさかわしが一本取られるとはのぉ」
「くふ、ぬし程も生きれば騙されることも少なかろうよ。人の身なれど、まともな生き物の範疇から外れた匂いじゃ」
「……全く。本当に何者かね、君は」

オスマンの目の色が変わる。
自らが300年も生きているという経歴は、この学院においては割と有名だ。来て日の浅い彼女が知っていても不自然ではい。

しかし、それを素直に信じる者が果たしてどれ程いようか。

「なに、少々長く生きているだけの狼に過ぎぬ。火も吐かぬし空も飛べぬ、の」
「……俄かには信じられんのぉ。そもそも何故そんな話を今ここで?」
「信じるかは別にしても、話して問題の無い人間か否かは解っておるつもりじゃ」

にやりと口の端を吊り上げるホロ。ちらりと覗いた犬歯の鋭さは、確かにその話の信憑性を増していた。

「……全く。ヴァリエール嬢もほとほと面白い者を使い魔とした様じゃのう」
「……ふむ?」
「『化生』の類とは、わしも長い人生でたったの二度目じゃよ」

ぴくりと、ホロの耳が反応する。この食えぬ爺は、今「化生」と言ったか?
その老練な瞳からは、流石のホロも多くを読み取ることは出来ない。

「どうやらお互い、色々と『駒』はある様じゃの?」
「ふぉっふぉっ。か弱い爺にそんな目を向けんでもよかろうよ」
「くふ。老木程にその幹は固い物。ぬしはそれを研磨し組んだ、砦の如き代物じゃ。か弱い爺も無かろうよ」

まるで水を得た魚の如く、ホロとの言葉の応酬に目を輝かせるオスマン。
飄々とした普段の様相からは考えられない程に、その表情は緊張感と精力に満ちていた。

「……トリステインの創世記にこんな伝承が残っておる。始祖ブリミルの前に、途轍もなく巨大な海蛇が現れた。その身は何故か深く傷ついており、その体を癒す代わりに、自らの体を国の礎にして眠りについたとか。かの蛇の上に、今のトリステインがあるそうじゃ」
「御伽噺とはの。わっちがその様な子供に見えるかや?」
「中身は兎も角、のう。しかしこの話、荒唐無稽とも言い切れぬ部分があってのう」
「ほう。その真意、是が非にも知りたいところじゃ」

この老人、侮れない。尻尾の隠し方が実に巧みだ。
ホロ自身と似通った存在を餌にする事で興味を引かせ、色々と情報を引き出そうと言うのだろう。
勿論簡単に乗っかる程、ホロも単純ではない。古狸と話すのは、何も初めてではないのだ。

「……ふむ、しかし残念。お互い大した手駒も見せずに終了かや」
「ぬ、もう時間かの?」

興が乗れば、一日だろうとあっと言う間だ。増して20分など一瞬にも満たない。
この場はお互いに利のある事象があることを確認出来ただけで十分だ。決闘の最中とは言え思わぬ収穫だった。

「何、わっちも明日、明後日にルイズの元を絶つと言うのではないしの。ぬしと話すのは楽しいし、お互い知りたいこともある様じゃ」

先程までの不敵さを湛えた笑みとは異なる、実に晴れやかな笑み。
久しぶりに緊張感のある会話を楽しんだ後の、心地よい脱力した状態を狙われては、流石の老体と言えども何か来る物があった。

「これとは関係無く、話の相手になってくれると、わっちは嬉しい」
「いや、何。その程度はお安い御用じゃよ。わしもこれ、結構暇を持て余しておる身でな」
「くふ、それは重畳。日々の楽しみが増えるのは良きことでありんす」

どちらにとっても。そこまで言うのはこの二者の間においては無粋である。
言葉と言葉に挟まった真意を探ることも、また会話の妙の一つだ。

名残惜しげにオスマンが出口に出る瞬間、に聞こえるか聞こえないか声でホロは呟く。

「さっきの話の最中の顔は……ふむ。どうして、まだまだ雄であったようじゃな?」

去り際のオスマンの心にだけ、「ズキュウン」と言う音が響き渡ったのは想像に難くない。

微かに震えるオスマンを尻目に、ホロはにこにこと思索にふける。
世界と種族が違えども、雄の頭の中身はそうそう変わるものではない。
例外もいるにはいるが、ホロをしてそんな例外は片手で余る程しか知らない。化けの皮が剥がれれば、雄と言うのは皆一様に「たわけ」である。
用は、たわけの程度に併せた応対をしてやれば良い。そしてその時は、殊更女を強調する必要は無い。

第一、20分と言う時間において、誘惑という行為は下の下だ。下半身を伴った好意は得られても、それを恋慕に発展させるにはそれなりに回数を踏む必要がある。
そもそも初心な相手の場合、過度の誘惑は萎縮や嫌悪に繋がる。そう言った点を心得ぬ、後退のネジの外れたキュルケのアプローチはまだまだ青い。
一期一会のこの状況、褒めるだけで良いと言うものではないのだ。

相手の経験に併せて、その自尊心を弄びつつも持ち上げる。
過去の褪せた記憶ではなく、現在の自分が衰えていない事を再確認出来る場を与えてやる。
オスマンにとってそれこそが、ホロとの緊張に溢れた会話だったのだ。

老獪なるオスマンをしてこの有様である。
その十分の一にも満たない時しか生きぬ小僧共を相手どったのであれば、その結果は推して図るべきだろう。
愛情を得ると言うのは生半可なことではないが、ヨイツの賢狼にとっては血沸き肉踊る、楽しい狩場も同然であった。

(さて、次なる獲物は如何な味かや?)

次の対象が来るまでの僅かな時間、ホロは実に楽しげに舌なめずりをするのだった。


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