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狼と虚無のメイジ-08a


狼と虚無のメイジ八幕 前編 

「失礼します」

全校生徒には遥かに満たない人数の前とは言え、食堂であれだけ派手にやった訳であるから当事者の五人が説明の為に学院長室に呼ばれるのは必然だった。
実際に傷ついたのはギーシュ一人だが、周りから見れば彼女達が被害者である。

ところが、入ってきたのは悲痛な面持ちなど欠片も無い、むしろ意気揚々とした五人の顔だった。
気丈に振舞っているのかとも思ったが、どうにも違う様である。学院長であるオールド・オスマン氏は大いに困惑した。

「芝居……とな?」

ルイズの話を聞けば、使い魔が世話になったメイドを助ける為、咄嗟に小芝居を打ったとのことだ。
遠見の魔法で一部始終を見ていたオスマンであるが、仔細までは解らなかったのも無理は無い。

まあ、グラモン家の三男の所業を見ていれば、いつかしっぺ返しが来るのは目に見えていたことである。
本人には可愛そうなことかもしれないが、ある程度の範囲内でならいい気味と言ったところ。
ところが今回の事態は飄々としたオスマンをして、いや、男であれば誰しも(拡大した噂を事実と認識した上でも)同情せさせる得ない惨状であった。

「そ、そうか……しかし、自分達に不名誉な嫌疑がかかる事も考えられたと思うのだが、何故そこまで?」

その質問は皆最初から知っていたと言わんばかりに、皆、口々に答えた。

「不名誉?何のことでしょう。彼に慰められることが無かったとは言えないでしょう?一言、二言でも」
「同じくじゃ。傷心の雌に声をかける雄がいても不思議ではありんせん。一言二言でも」
「まあ、あれに私の体をちょっとでも見られるのは屈辱かもしれませんわね。それだけです」
「彼から頂いたハシバミ草の味……決して忘れません。」
「愛してたかもしれませんね。今は路傍の石程にも何も感じませんが。もしかすると錯覚だったのかも。いえ、きっとそうです」

オスマンはあんぐりと口を空けた。
同席していた生徒の中で信用出来る証言を集めると、確かにどうとでも取れる発言ばかりであった。
唯一事件の真相においての被害者のシエスタのみ「恋愛感情」を述べているが、この噂が真実として認知されている以上、嘘でも本当でも彼女自身に実害は無い。どちらにせよその態度からして現状では無いのは明白だが。

しかしそれよりもオスマンが驚愕したのはその後のルイズの発言である。

「ところで校長先生……思ったんですけど、この真相は発表しない方が良いと思うんです」
「何故じゃね?発表しなければ周囲がどう思うかは君達が一番解っているじゃろう」
「噂はあくまで噂ですもの。第一、平民であるシエスタの事を考えれば、このまま嘘を突き通した方が良いと思います。そこで学院長にお願いがあるんですが……」
「む、何じゃ?」

元よりこの件に関してはそれなりの対処をせねばならない。増して関係ある生徒からの要望であるならばとオスマンは身を乗り出した。

「この噂を広めて欲しいんです」
「は!?いや、今真相を発表するなと……いや、いやいや待て、まさか……」
「はい、本当の真相ではなく、低俗な三文小説みたいな表向きの噂の方を。もちろんこちらも、実名とかは控えて頂きたいのですが……」

ルイズの進言に目を剥くオスマン。

つまり、噂を完全に覆い隠すことなど、人が人である以上不可能。
ならば、ある程度意図的に広めてしまおうと言うのだ。

噂を知る人間も、こう言った事件の場合「本人達の為」とでも責任者のオスマンが言えば、七、八割は自発的な口は閉ざす。
残りの内の九割は、ある程度ぼかして話し、見たことをそのままべらべら喋るお喋りは数人である。

そしてそんな数人の対策の為に、虚偽の情報を意図的に流す。
この時、関係の無い話に混ぜて、事の真相と似た話を幾つか混ぜておくのがポイントだ。
詳細のはっきりした話が幾つかあり、その大筋が似通っていると「大体こんな事があった」と言うのは解っても、人物を完全に特定することは難しくなる。
そうなればしめた物。学園においては噂など履いて捨てる程存在し、有象無象の数ある噂に紛れていく。

そして時が経つ内に話の概要だけが一人歩きし、火元は闇へと葬られるのである。
勿論、本当の真相など虚無の彼方だ。

これに比べれば緘口令など児戯に等しい。もっと高度な情報戦の領域ではないか。

「まあ確かに、ご家族にも混乱は招かぬし、一人を除いて丸く収まる方法じゃが……うーむ」

その一人は勿論ギーシュである。誰に非があるかと言えば確実に彼にもあるのだから仕方ないと言えば仕方ない。
だが果たして、教育者として真相を捻じ曲げることがこの場合正しい事なのだろうか。
これは流石のオスマンとて即決できない問題であった。

「……オスマン様」

そんな空気に割って入ったのは、一歩引いた位置に立っていたシエスタだった。

「む、何じゃね?」
「わたくし……メイドと言う役職上、皆様方の部屋を掃除することはよくあることでございますが……」

仮にも学院長の思考を遮った上に、関係の無い話を始めるシエスタの真意を図りかねるオスマン。
だが次の一言を聞き、彼の額に何やら額に珠の様なものが浮かぶ。

「三日前の晩のことでございます。ロングビル様の部屋を掃除しておりました折、何やら気配を感じまして」

シエスタの笑顔の輝きに反比例する様に、オスマンの顔面は蒼白になっていく。

「何事かと思い振り向きますと、まあ、なんのことはなく、ネズミでございました、ネズミ。まあ、メイドをしていればよくあることなのですが、面白いのはここからでして」

クスクスと微笑みながらシエスタは続けた。明らかその笑顔の薄皮一枚隔てた向こうに、空恐ろしいものが渦巻いている。

「そのネズミと来たら、何と下着をくわえていたんです。女性物の下着ですよ。なんとも変わったネズミもいるものですよね」

その様子を思い出したのか、シエスタはますます笑顔を強くする。
対してオスマンの顔色は青白いを通り越して土気色だ。

「すぐにロングビル様のものだと解りましたので、何とか取り返さなくては思いまして。でもネズミと言えどもせっかく獲った物を無理やり取り上げるのも可愛そうでございましょう?ですから代わりの物を上げたんです」
「なっ!?」

オスマンの瞳が猫科の猛獣の様に拡大した。息も荒く、脂汗がダラリダラリと滲み出る。

「丁度その直ぐ前……ええとギトー様の部屋を掃除しておりまして……屑篭に、着古した下着が洗濯もせずに捨ててありましたのでそれを」
「モートソグニィィィィィル!!!!!!!!!!!!」

シエスタが言い終わらぬ内に、オールド・オスマンは顔面を引き攣らせながら自らの使い魔の名を叫んだ。
駆けつけたネズミの使い魔は「どうした?」と言った風に小首を傾げる。

「どうしたの?じゃないじゃろうモートソグニル!よりにもよって野郎の」
「オスマン、様」

自分の使い魔を掴み上げ、喧々諤々まくしたてるオスマンに対し、笑顔を崩さないままシエスタは宣告する。

「考えが纏まらない様でしたら、五日前と八日前と十日前、それと十六日前に見ましたネズミのこともお話致しましょうか?」

愕然とするオスマンの手から、モートソグニルがちょろりと逃げ出す。

暫しの静寂。

その後、オスマンはその枯れ木の様な体のどこから出るのか、たらりたらりと流れ出る冷や汗を拭う。
そして自らの杖を掲げると、溌剌と答えを出した。

「うむ、グラモンの子倅にも良い薬じゃ。その様に取り計らおう。解散じゃ!」

それはそれは、清々しいまでの笑顔であった。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


「しかし良く思いついたものよ。あれはどちらかと言えば戦で用いる……ふむ、戦術、ではないかや?」

部屋から退室すると、ホロはまずルイズを褒めた。
この作戦、意見はあったものの、大本はルイズが考えたものだった。

「そりゃ、私だって貴族だもの。戦争になれば女子だって加わることはあるし、戦術や戦略、人間心理だって学んでいて当然でしょ?」
「まあ、魔法が使えないんだから当然よね~」
「……それにしては、意見を出していた」
「こ、こらタバサ」

前ならキュルケの言動には不快感を示していただろうルイズだが、既に二人の様子を見て生暖かい視線を送る余裕が出来ている。自覚は無いのだろうが、目元がとっても優しげだ。

「……でも、シエスタのアレが無かったら即決にはならかったわ」

と、ルイズは後から着いて来るシエスタに言った。

「いえ、ルイズ様。私はネズミの話をしただけですよ?オスマン様は何か勘違いなされたのかもしれませんが……ね?」

あくまで自分は事の仔細は何も知らない平民だと言うことか。本当に色々と『心得て』いる。

「……それよりも」

その時、シエスタの笑顔が、一転して凛としたものを宿す。

「御自らの名声に泥を被ることも厭わず、平民如きを庇って頂いた事、真に感謝の言葉もございません。火急の時はこの身に変えましても皆様方のお役に立てる様尽力する次第にございます」

実に柳眉な一礼だった。三文貴族の形ばかりの礼ではない。
自らの感謝をただ形にした、見惚れる程の礼だった。

「まあ、堅苦しいのは兎も角、何かありましたらお気軽にお申し付け下さい。それこそ『色々と』お役に立つ自信は御座いますので」

一転、眩いばかりのスマイルを浮かべるシエスタ。色々を強調した辺りに、ルイスは何とも言えない底の深さを感じた。
明らかにただの平民とは一線を画している。かと言って貴族ではない。

困惑するルイズを他所に、何時の間に移動したのやら、ホロがキュルケの背中をツンツンと突付いていた。

「さて……言い出した者がよもや忘れておらんよな?」

その問いかけに、キュルケはふふんと鼻を鳴らし、胸を反らす……と言うより、踏ん反り返らせて答えた。

「あったり前よ!こちとら生まれも育ちもちゃっきちゃきのゲルマニアよ!売られた喧嘩は元より、売った喧嘩を取り下げるなんて野暮なことはしないわ!」

限界かと思われた胸を更に反らす。流石に無理だったらしく、タバサが杖でちょいと支えた。
絶にして妙なチームワークだ。

「と、とと……それで!?勝負の方式は心当たりがあるって言ったわよね!何!?スリーサイズで勝てるとは思わない事ね!」
「……」

その発言を聞いた途端、タバサが支えの杖を外してしまう。
当然キュルケは倒れこむが、ギーシュと違ってバッチリと受身を取って起き上がる。

ああ、こういう娘だったんだなあ。
そう心から思うルイズの視線がより一層生暖かい。
タバサは手持ち無沙汰になったのか、懐から本を取り出して読み始めた。実にグタグタである。

「……ふむ。ぬしの二つ名は微熱と言ったかや。中々に浮名を鳴らしている様子じゃな?」
「それはもう、北はペリッソンから東はギムリまで。五・六人は常にお付き合いしてるわよ」
「ふむ、色恋については中々の手前と見えるのう。そこで、どうじゃ」

そう言うと、ホロはキュルケに不敵な笑みを浮かべる。

「『女を競う』と言うのはどうじゃ?」
「!」

つまりそれは『どちらがより雌として勝っている』かを決めると言うこと。
女同士の決闘に、これほど相応しい勝負があろうか。

「ふふ……ふふふふ!随分と粋な勝負を考えてくれるじゃない!」

キュルケの瞳にメラメラと炎が燃え上がる。正に今、彼女の情熱一途なゲルマニア魂に火が点いた証拠であった。

「あ!何だか興奮してきたわ!これぞ情熱の律動ね!私の二つ名は『微熱』だもの!松明みたいに燃え上がり易いの!でも良いの?私の勝ちは決まった様なものよ!?」
「くふ、さてどうかのう……」

既にキュルケにとっては勝負の方が目的になっている様だ。勝った際の履行条件を覚えているかも怪しい。

「えーと、盛り上がってるところ悪いんだけど……」

弥が上にもも盛り上がる空気に割り入ったのは、二人(一人と一匹?)の動向を見守っていたルイズである。

「女の魅力って言ってもさ、どうやって白黒つけるの?部屋に男を呼び込んだ数とかだったら絶対協力しないわよ」
「むぅ……駄目かや?」

そう言って媚びる様な上目遣いになるホロ。若干潤んだその目を見れば、大抵の男はイチコロであろう。

「……流石に空気が伴ってない色仕掛けは、同性にはそろそろ通じないわよ?」
「ふむ、流石に使い過ぎは良くない。しかしぬしの反応は可愛らしいから、ついついのお」
「あう」

カウンターを入れたつもりが、クロスで返される。いきなり素に戻って笑顔で弄るとか反則だ。
だが今回の件は流石に許容出来ないのか、一拍置いてルイズは説明に戻る。

「……あー、私情も無いと言えば嘘になるわ。でも、そんな逢引みたいな事がバレたら、今度こそ何か処分受けると思うわよ?女子寮に男子が居るってだけで問題になるんだから」
「あら、私はいっつもやってるわよ?」
「……そう言えばそうだったわね。だからって勝負ごとになったら人数だって増えるでしょう。サイレントの魔法を使ったとしても、隠し覆せるとは思えないわ」

キュルケの言葉に、呆れた様にルイズが返す。
たまに隣から聞こえてくる愛の囁きには辟易していたが、実はかなりの考え無しだったとは。ツェルプストー家とは因縁深いが、ここまで奔放だと流石に心配になってくる。
客観的なルイズの意見には二人とも同意した様なので、まず一安心だが。

「まあ、ここまで来て止めろとは言わないけど、勝負内容はもう少し考えた方が……」
「でしたらー」

突然シエスタが後ろから顔を出した。

「私に良い考えがありますよ」

例によって感情の読めない微笑み。自然と円陣を組むように、一同がシエスタの話に耳を傾ける。
最初は何事かと言う顔をしていた一同だったが、次第に「へぇ」とか「ほぉ」とか言った呟きが漏れ始めた。
最終的にルイズの「まあ、これなら……」と言う言質も取れ、勝負方法が決定する。

「それでは私は準備がありますのでこれにて。開始前の数分で宜しいので、その時はタバサ様、お願いします」
「ん」

どうやらタバサも手伝う様だ。顔には出さないが、読書を中断しても準備を手伝う価値を見出せる内容だったのだろう。
パタパタと走っていくシエスタに、小さく頷く。

「くふ、これは随分と愉快なことになりそうじゃのう?」
「あら、余裕ね。でもツェルプストー家を敵に回してタダで済むとは思わないことね」

当事者のホロとキュルケはやる気満々だ。
死人どころかケガ人も出ない内容だったので、二人を宥めつつもルイズの顔は穏やかだが。

「それじゃ、今日から六日間、放課後のヴェストリ広場に集合と言うことで」

ルイズの一声にその場は解散となった。


◆       ◆       ◆       ◆       ◆


放課後。
生徒への一連の事件の説明も終え、学院長の椅子に腰を降ろすオスマン。
早朝に訪れた五人の少女を思い起こし、オスマンは軽く溜息を吐いた。

「わしはのう、院内の風紀がそれほど乱れていなかったことに喜ぶべきだなと思う。それは実に、心からの素直な気持ちじゃ……」

深く皺の刻まれた顔。そして虹彩の薄くなったその瞳は何を思うのか。
脇に控えるコルベールに事の次第を説明していると言うより、自らに言い聞かせているかの様だ。

「じゃが、それ以上にのう……この齢となっても未だ計り知れぬ、女子の深淵の一端を垣間見た様で、なんとも、こう……」
「背筋が寒くなりますか」
「そう、それじゃよ。ミスタ・コルベール」
「私はむしろ学院長が犯罪に走ると言う事態に寒気を覚えます」
「いや、犯罪者ではない。せめて性職者と」
「この部屋、空気の湿り気がほど良いですね、学院長……」
「用件を聞こうか、ミスタ・コルベール?」

途端にキリっとした表情は、仮にオスマン氏が変態でも、変態と言う名の紳士であることを伺わせる。
コルベールはこめかみにうっすら青筋を浮かべ、にこやかに抱えていた本を開いた。

「ミス・ヴァリエールが召喚した、あのホロと言う少女ですが、文献によると現在目撃例の稀有な獣人の類ではないかと」
「ふむ、しかしここ暫くはは人とのハーフしか目撃例が無かった様じゃが?ウェザリーだったかのう」
「ですが、他に該当する種族が見当たらないのも確かです。古い御伽噺であれば『大きな獣が人の姿をとった』と言った物も多くありますが、幻獣でもない獣が人の形をとるのは眉唾ですしね」

突然、オスマンの目が鋭くなる。

「ミスタ・コルベール。『化生』という存在については知っておるかね?」
「……いえ、何でしょう、それは?」
「何じゃ、知らんのか。今君が言った御伽噺……辺境の口伝に残る、巨大な、そして知恵を持った獣じゃ。トリステインの創世記にもあったじゃろう」
「……待って下さい、オールド・オスマン。身の丈が雲を突き抜ける大海蛇は無理があるでしょう」
「それが真実だとは思っておらんよ。先住魔法を用いる韻獣という線はあるかもしれん。その辺りの文献にもアタリをつけて貰えんかのう」

コルベールは露骨に顔を歪めた。ドラゴンやグリフォンと言った幻獣ならばともかく、実在も怪しい御伽噺まで調べれば相当な範囲になる。
がくりと肩を落としたものの、それくらいで凹んでいては教師はやっていられない。直ぐに気を取り直して別の話題に移る。

「ああ、それと彼女についてもう一つ。ルーンが珍しいものだったので調べていたのですが……」

言いつつ、コルベールは懐から別に紙を取り出した。

「彼女のルーンですが、似た物の中でも興味深い物がありまして。写しではありますが、これです」
「これは……ふむ。始祖ブリミルの四人の使い魔か……随分と骨董品じゃな」
「はい、こちらの文献では擦れて判別がつきかねますが、彼女のルーンが刻まれているのは右手ですから、二番目に紹介されている『ヴィンダールヴ』が妥当でしょう。もう少し鮮明な資料を探しているんですが、取り急ぎですね」
「ふむ……もしそれが本当ならば……事じゃな」

髭をさすりながらも唸るオスマン。伝説の虚無の使い魔が現在に蘇ったとなれば、王立の研究所の格好の的である。

「当面は秘密裏に頼むぞ。ミスタ・コルベール」
「心得ています。願わくば杞憂であって欲しいとも思いますが……」

そう囁きあう二人に、後ろからコンコンとノック音。

「ロングビルです。オールド・オスマン」
「む、入りたまえ」
「失礼します」

緑髪をかき上げ入室したのは、妙齢の魅力も鮮やかな学院長つきの秘書、ミス・ロングビルだった。

「御指示の通り、一部改竄した噂と、まったくのデタラメな噂を生徒や使用人に広めておきました」
「ご苦労、ミス・ロングビル。その有能さであれば、時期に良き相手も見つかるじゃろうて」
「ほほほまあー学院長。肩に埃が!」

オスマンの一言に見事な青筋を立てると、ロングビルは枯れ木の様なオスマンの足を尖ったヒールで踏み潰す。

「ちょっ!そっち!?」

踏まれた部分を手で押さえ、ぴょんぴょんと跳ね回るオスマン。腰の曲がり具合からして、ホロが見れば「ノミのようじゃ」と漏らしたに違いない。

「フェイントとか勘弁じゃわ……」
「先にセクハラを勘弁して下さい……あ、それと先程ヴェストリ広場で面白い物を見ましたよ」
「む、何じゃね?」
「ミス・タバサの実験だそうです。人間心理の研究だとかなんとか」
「……ふむ?」
「放課後に、今日を含めて六日行うそうです。危険なものでないのは私も確認しましたので、ひとまず遠見の鏡でご覧になっては?」

言われてとりあえず杖を振り、遠見の鏡を覗き込むオスマン。
ます目に飛び込んできたのはいつもどおり生徒達が集う広場だった。

「……何じゃ。これ」

尤も。
広場の片隅に設置された、ある物を除けばの話だったが。


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