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絶望の街の魔王、降臨 - 08


 ロングビルの同行が決まり、ジルと二人で準備に出てから数十分。
 ルイズは、非常に嫌な予感に耐え忍んでいた。
 まさか、いや、確率としては有り得るが、まさかそんな、ねえ?
 誰に訊くでもなく、悶々と思考をする。
 そう、確率は『有り得る』。
 しかし、戦いに行く前に消耗させる訳にはいかないだろうから、それは有り得ない。
 ――――甘かった。
「嫌っ! 私行かない! 絶対!」
 今更そんなの無理だと判っていても、言わざるを得ない。
 見えなくても判る。
 キィン、キィンと甲高い音で嘶く鋼の馬、Y2K。
 馬車じゃなかったの!?と叫びたいが、それは一応、馬車だった。この世界の定義で言うのなら。屋根の無い荷車が、Y2Kにくくりつけられ牽引されている。
「今更何を言ってるの? 貴族の誇りはどこにいったのかしら」
 その速度は狂気であると知らないキュルケはルイズをからかうが、
「あら? どうしたのタバサ」
「乗りたくない」
 ルイズみたく取り乱しては無いにしても、蒼い顔をしてそれを見つめている彼女は、静かに言った。
「なによ、タバサまで」
「知らないのは幸せね……」
 落ち着いて、遠い眼をしたルイズがキュルケをみて、感想を述べる。その一言は苦労人のそれの様に重かった。
「さて、いこうかしら」
「これで、ですか?」
 貴族より堂々としたジルに、ロングビルが問う。Y2Kが動いているのを見たことがない彼女は、それが馬よりも遥かに速いと知らない。
「百聞は一見に如かず。乗って」
 半信半疑で馬車に乗る。しかし、生徒三人がごねる。
「いや! まだ死にたくない!」
「じゃあ今死ぬ?」
 最もごねたルイズを、ジルが一言で沈黙させ、不安を乗せて一行は学院を発った。



 結局、ルイズとタバサが心配していたことは起こらなかった。アクセル全開を体験した彼女らにとって、100km/hや200km/hは徒歩のようなものだ。ジルも流石に自重したようで、あまり激しい機動はしなかった。
 不幸なのは、未経験の二人だった。
「……なに、あれ」
「…………」
 憔悴しきったキュルケと、降りてしばらくたって未だ呆然としているロングビル。
「あんたたちが怯えるのがよくわかったわ……」
「ロングビル? 大丈夫?」
 ジルが話しかけると、思い出したように
「あ、あれ……?」
 と、戻ってきた。
「情けないわね、あの程度で。案内できる?」
「すみません……こっちです」
 ロングビル先導で、ジルが殿を務める。だが、ジルは全く警戒していなかった。
「見えました。あれです」
 ロングビルが指し示す先に、小さな廃屋があった。
「あの中にいると思われます」
「で、どうする?」
「奇襲」
 キュルケの疑問に、タバサが正解に近い提案を言う。
「最良の手だけど。罠を張っている可能性が高いわ」
 しかし、ジルに反論される。
「じゃあ、どうするの?」
「こうするの」
 抜けるような音が、キュルケの疑問に答えた。
「ちょっ――――」
 ガラスの無い窓から入ったロケット弾は壁に衝突し、着発信管が作動。高性能爆薬に爆轟を伝え、その体積を文字通り爆発的に増し、その圧力は閉鎖された弾殻をあっさり破り、外――――小屋の中に遺憾なく燃焼ガスを撒き散らし、しかし弾殻から解き放たれた圧力はその程度で威力を減らすわけも無く、廃屋の壁と屋根を破砕しながら吹き飛ばした。
 閃光も爆音も衝撃波も爆風も、ほぼ全て同時に五人のもとへ届いた。あわてて全員が振り向くが、既にそこに廃屋は無かった。ただ、燃え盛る小屋の破片がそこにあった存在を語っていた。
「な……」
 最初に口を開いたのはルイズだった。
「何てことするのよ! フーケはともかく、破壊の杖まで粉砕しちゃって!」
「いないわよ。ほら、人の焼ける匂いはしないわ。それに、そんな大切なもの、それこそ貴方たちの得意な魔法で厳重に護られてるんじゃないの?」
 確かに、宝物庫にあるようなものは大抵が『固定化』で護られている。フーケの安否に関しては、焼死特有の嫌な匂いはしないから、いなかったのだろう。運のいい奴だ。
 最も重要なのは、『破壊の杖奪還』であり、『フーケ捕縛』の優先順位はそれより低い。だからといって、なるべく逃がしたくは無い。生け捕りなら最高だ。
「でもフーケ、今の爆発で逃げたんじゃないの!?」
「どうかしら。ほら、あれ」
 キュルケが指した方に、箱があった。小屋だった場所に一つだけ無事な、廃屋に似つかわしくない、豪奢な装飾のされた箱が。
「あれね」
「ほらね」
 どんなもんだ、といわんばかりに誇らしげな声に、ルイズは怒りを必死に押さえ込んで箱に向かおうとする。
「あ、待った」
「ぐぇ!」
 襟を掴まれ、蛙が潰された様な声をあげてしまう。
「ごほっ……なにすんのよ!」
 ちょっとね、とジルが取り出すはガトリングガン。
「念のため、よ。耳、ふさいで」
 今度はできた。眼もしっかり閉じ、無様に嘆かないようにする。
 銃口が、本当に火を吐いている様に見える。銃声は途切れない。そして着弾した場所は耕される。
 どれだけ耳を閉じていただろうか、手のひら越しにもうるさい爆音は消え、ゆっくり眼を開ける。ちょっとした広場ほどあった開けた場所は、一面開墾されていた。いい野菜が育ちそうなほどに。
「OK。罠は無いわ」
 その威力を誇ることも無く、一人箱に向かい、開ける。
「は?」
 某勇者のごとく、軽く蹴って開けた中には、
「なにこれ」
「フィフティーキャル……ブローニングM2? しかもスコープ付……」
 ルイズたちの見たことのない、箱と、それから突き出た筒で構成された金属塊。しかしジルには馴染みのあるものだった。
「ジル、知ってるの?」
「ええ。とっても強力な銃よ。弾は無いけど……」
 そう言いながら、いじりだす。
「ちょっと待って。すぐ撃てるようになるから……」
 全武器無限化アイテムの恩恵で弾がなくても撃てるのだが、ろくに整備できるはずもないこの世界では暴発の危険性がある。
 カチャカチャと一分ぐらいで分解し、同じくらいの時間で組み立てるのを、一行は興味深く見つめていた。
「……OK。これで」
 くるりと回り、腕でぶら下げるように構え、適当な樹を狙ってトリガーを押す。
 低い銃声と、遅い連射。しかし一発一発の威力は絶大で、直径2メイルほどありそうな樹は瞬く間にえぐられ、やがて倒れた。花瓶のような薬莢が吐き出され、山になっていた。
「凄いわ……」
「…………」
「何よ、ただの銃じゃない」
 その威力を目の当たりにし、三人は戦慄する。ルイズは軽口を叩くが、それが実際に使われたら――――どうなるのだろうか、そんな想像をして背筋が寒くなった。
「さて、あとはフーケね」
「これだけ派手なことして戻ってくると思ってんの?」
「どうかしら。そこにいるじゃない」
 その場にいた全員の顔が、一斉にジルの言うそこ――――ロングビルの方に向く。
「ッチ」
 ロングビル、いや、フーケの対応は早かった。恐らくはこの一行で最も非力で役立たずの無駄飯喰らい、ルイズを拘束する。
「え!? え!?」
「杖を捨てな! この娘がどうなってもいいのかい?」
 うろたえるルイズに右手でナイフを突きつけ、左手に杖を握る。
「――――っ」
 タバサとキュルケは杖を捨てる。しかしジルはM2を捨てる気配は無い。
「おい、そこ! 杖を……」
「これ、杖じゃないわよ。聞いてなかった? 重機関銃だって言ったはずだけれど。まあいいわ、こんな重い物、いつまでも吊ってたら肩がこるわ」
 ぽいと地面に落とす。
「よし、さがりな。変なまねするんじゃないよ」
 今度は大人しく引く。その顔に笑みを浮かべて。
「ふふ……」
 フーケに聞こえない、小さな声で、嗤う。
 フーケはルイズを引きずりながら、M2に近づき、それを拾い上げようとした。
「――――え?」
 持ち上がらない。ジルがやたらと軽々と振り回していたから失念していたが、盗み出すときにレビテーションを使うくらい重たかった。
 当然だ、38kgもある鉄の塊を振り回せるのは、目の前の魔王か、どこぞ のジャーナリストくらいだ。
 いくら名を馳せた盗賊であろうと、それを持ち上げたとしても.50BMG弾の反動に耐えられるはずも無い。
「ルイズ、走れ!」
「な!?」
 M2に気を取られた一瞬、その隙を突かれた。首筋からナイフが離れた一瞬。その一瞬でルイズはナイフの届かない場所に逃げてしまう。
「くそっ」
「ふふっ」
 追おうとしたが、動けなかった。ルイズの代わりのように、ジルが傍らにいた。ゴリ、とデザートイーグルを脳天に突きつけ。
「くそ……何故私がフーケだと……」
「フーケの襲撃からロングビルの帰還まで、ほぼ8時間。さて、ここまで馬で何時間だったかしら?」
 フーケは己の迂闊さを呪った。往復8時間、どんなに早く調査したとしても、10時間以上かかるのは確実。
 学院長達はロングビルの有能さを理由に無条件で信じていたが、先入観の無いジルは報告の時点で気付いていたというわけだ。
 屈辱に震えるフーケに、しかしジルはにこやかに
「どう? 私に協力するなら、生かしといてあげるけど」
 と、問うた。



「という訳で、フーケはその……ジルが」
 学院長室での報告で、ルイズが気まずそうに報告する。
「爆殺したわ。小屋ごと。バラバラにね」
 そうか……と、オスマンは呟いた。ゴーレムを粉砕したあの威力ゆえの説得力だった。
「証拠にならないけど、これ」
 四次元サイドパックからにゅるんとM2と、『何かの肉塊』を出し、べしゃっと執務机に置く。
 あまりに軽い扱いにルイズは眩暈を覚えたが、オスマンは気にしていなかった。正しくは、問えなかった。
「うぇ……ご苦労じゃった。よくぞ破壊の杖を取り戻し、フーケを退治してくれた。諸君にはシュヴァリエの爵位と……ミス・タバサには精霊勲章の授与を申請しておいた。まあ、フーケが死んでおらなければ剥奪されるのじゃが……ま、追って沙汰があろう」
「本当ですか!?」
 キュルケが驚く。終始空気でいられるほど暇で爵位が貰えるのだ。少し釈然としないが、嬉しいものは嬉しいのだ。いや、むしろこれは口止め料の代わりなのだろう。
「……オールド・オスマン、ジルには、その……」
 ルイズがおずおずと提言する。自分はただ人質になっただけで何もしていない、そういう後ろめたさからの言葉だった。
「うむ、彼女は貴族ではないからの。仕方ないのじゃ。」
「要らないわ。この世界での称号なんて何の役にも立たないし」
 学院に馴染んでルイズは忘れかけていたが、彼女は自称『異世界人』なのだ。ただでさえ名誉や地位に価値観を感じていない風なのに、爵位や勲章など貰っても鉄屑くらいにしか思わないだろう。
「う、うむ、そうかね。ともかく、今日のフリッグの舞踏会は予定通りに行うからの。主役は君達じゃ。存分に着飾るがよいぞ」
 三人は礼をすると部屋を出た。
 しかしジルはその場から動かない。
 妙な空気を察して、ロングビルも退室する。
「さて、訊きたいことがあったのだけど……そちらからも効きたいことがあるみたいね。お先にどうぞ」
「この世界、と言ったかな。どういう意味じゃな?」
「聡明な貴方なら判るはずだけど。こことは全く別の世界、と言えば判るかしら」
「ふむ、そうか」
 オスマンは顎に手をやり、その回答を吟味していた。
「解決したかしら?じゃあこっちの番ね。これを、どこで手に入れたの?」
「……ふむ?これに興味があるのかね?」
 机の上のM2に眼を落とす。
「ブラウニングM2。.50BMG弾を使うことから、フィフティーキャル、キャリバー50とか呼ばれているわ。第一次世界大戦末期にジョン・モーゼス・ブラウニングに開発され、70年以上たった今でも未だあらゆる軍で使われ続けているほど優秀な重機関銃。そして、M82アンチマテリアルライフル開発の礎になった、前世紀の傑作よ」
「むう。よくわからんが、凄いものだというのは判った。とにかく、これは君の世界の物なんじゃな?」
「そうよ」
「少し長くなるがの」
「構わないわ」
 遠い眼をして、オスマンは語りだす。
「三十年前、わしがワイバーンに襲われていたところをな、それを抱えた男が助けてくれたのじゃ。その男はその……『ぶらうにんぐえむつー』だったかの、それをワイバーンに向けてドカドカ撃って蜂の巣にしてしまった。その後、弾切れとか言ってそれを放り出し、死神の様な鎌を以てワイバーンの首を刈り、トドメを刺したのじゃ」
「それで、その人は?」
「うむ。礼をしようと思ったのじゃが、なにか真剣に妙な箱をのぞきこんでワイバーンを照らしておった。邪魔するのもなんじゃと思って、しばらく待っておったよ。すると、妙な板に乗ってあっという間に去っていったのじゃ」
 まさか、とジルは思った。合衆国の陰謀を暴いたあのジャーナリストがこの世界に迷い込んできたのか、と。しかし、三十年前の話だ。別人の可能性もある――――と、ここで根本的な間違いにジルは気付く。要は元の世界の人間がこの世界に迷い込んで、しかし結局手がかりにはならず振り出しに戻ってしまったということ。彼が知っている人間であろうと、関係ない。
「それだけ?」
「それだけじゃ。しかたなく、わしは恩人の残していった唯一のものを『破壊の杖』と名付け、固定化の魔法をかけ、宝物庫に厳重にしまっておいたのじゃ。何せワイバーンを数秒で動けなくするものだからのう」
 だからか、とジルは納得する。錆や歪みが無かった理由がこれではっきりした。
「何か、心当たりがあるのかね?」
「私の世界の人ってだけよ。戻れる手がかりになりそうだったけど、振り出しよ」
「ふむ、そうかね。ああ、最後に伝えなければならんことがあっての」
 オスマンは自分の左手の甲を指し、
「おぬしのルーンじゃがな、ガンダールヴのルーンじゃった」
「ガンダールヴ?」
「そうじゃ。始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴ。あらゆる武器を使いこなしたと謳われるが……」
「別に、いつもと変わらないわね。少し躯が軽くなる程度よ」
 触れるだけで武器の情報が流れ込んでくる、その現象は『いつものこと』だ。武器を使いこなせなければ生物災害地域を渡り歩くことなど不可能だし、軍人として鍛え、バイオハザードで磨き上げられた絶対零度の平常心を持つ彼女は『一般的な戦闘』においてルーンによるブーストは微々たる物になってしまう。
「そうか……」
「それで、一ついいかしら」
「なんじゃ」
「これを貰えないかしら」
「おお、そんなことか。ただし条件がある」
 ――――数秒後、低い連続した銃声が学院長室から響いたそうな。



 ルイズは大忙しだった。ドレスを引っ張り出して、アクセサリーを並べ、ああでもないこうでもないと鏡の前で悶々としていた。対してジルは暇なものだ。まず舞踏会に出る気が無い。それよりも、気になることがあったのだ。
「ねえ、ジル?これどう?」
 ルイズが訊いてくる。バレッタで後ろ髪を上げ、白の胸の開いたパーティードレスを纏い、肘までの絹の手袋をつけていた。男が群がるような魅力を放っていたが、あいにくジルはノーマルな女だった。
「いいんじゃない?もう少しアクセサリーがあるといいかもね」
 そう応え、ルイズに細い白い鎖を渡す。貴金属でも、装飾されているわけでもない、しかしそれはこのハルケギニア中どこを探しても存在しないものだった。
「何、これ?やけに軽い……金属?」
「アルミニウムの鎖と、『破壊の杖』の弾頭よ。これ以上の価値は無いと思うけど」
「あるみ?それに破壊の杖の?」
 この世界では、未だアルミニウムの精製は成功どころか、その存在は知られてすらいない。技術提供の一環で精製できるかコルベールに試させたものだ。精神力が尽きるくらいまで踏ん張って完成したインゴットはルイズに渡した鎖よりわずかに多いくらいだった。言い換えれば、それだけ希少金属であるということだ。ジルの世界でも、はるか昔、アルミニウムが金より遥かに高価だった時代もあるのだ。
 そして弾頭は問答無用で価値が高い。カートリッジであれば尚更だ。薬莢は卑金属である真鍮の加工品だが、この世界に無い高精度加工という付加価値で一気に値が跳ね上がる。中身の火薬や雷汞は、分析できれば戦争がひっくり返る。この世界の人間にはその正しい価値は判らないだろうが、最悪でも『あの』オスマンが大事にしていた『破壊の杖』の一部なのだ、売ればどこの世界でも変わらずいるマニアという存在が、大枚をはたいて買いに走るだろう。
「この世界じゃ超稀少金属よ。その鎖だけでコルベールとシュヴルーズの精神力が尽きたわ。たぶん、同量の金より遥かに高いわ」
 実はこの鎖、精製はコルベール、加工はシュヴルーズと分担されていた。シュヴルーズはルイズの失敗魔法と、フーケ事件のときの恩を返さんと快く協力してくれた。
「金より!?」
「この世界に存在しないからね」
 まじまじとその白い鎖と円錐状のペンダントを見つめ、半信半疑の眼差しをジルに向けるが、そのジルは廊下に出ようとしているところだった。
「どこいくの?」
「少し外に。色々調べることがあるから。今日は戻ってこれないかもしれないけど、気にせずに楽しんでらっしゃい」
 と、扉を閉めた。
「待っ――――」
 ルイズが呼び止める暇も無かった。



 そして、宝物庫。ジルがオスマンに頼んで、ここにあるものの検分を申し出たらあっさり許可が出た。というより、帰還に関する物事にほぼ全面協力してくれることになった。ただ、ここで行うことは検分だけではない。それを知っているのは、ここに彼女を呼び出した張本人だけ。
 夜も昼も変わらず暗いその中で、宝物庫と言うよりガラクタ置き場といった方が正しいように緑の髪の美女は感じた。
「それで、ここで何をするんだい?」
 何のお咎めも無く、むしろ何故か理不尽なほど昇給して秘書に復帰したロングビルが訊く。そこには金髪の美少女と栗色の髪の美女がいた。
「これからの話、よ。あ、この娘はエルザ、吸血鬼よ」
 反射的に杖を抜こうとするロングビルの右腕を掴み、それを制したジルは、
「この娘は大丈夫。私の支配下だから、私が許可しない限り人に危害は加えないわ」
「――――そう」
 ロングビルの腕から力が抜ける。それを確認したジルはそっと手を離す。
「さて、これからだけど、貴女達には情報収集を頼もうと思うの」
「情報?」
 エルザが聞き返す。
「そう、情報。例えば、正確な世界情勢。どこかで戦争がある、どこかの国で怪しい動きがある、そんなこと。そして……」
 M2を取り出す。それを見て、ロングビルが僅かに驚きの表情を浮かべる。何故これをジルが持っているのか。
「これみたいなオーパーツ、解読できない文献、その他この世界の物ではないと思われるものの情報を教えてくれればいいわ。それをもたらした人物がいれば、その行方も」
 ジルはM2をしまい、ガラクタの一つ、ジルの世界でグロック18Cと呼ばれた機関拳銃の残骸を掲げ、ぽいと捨てる。恐らく暴発したのであろうそれは、バレルとスライドに亀裂が走っており、元あった場所に落ちるとフレームとスライドが泣き別れになった。
「ちょ、ちょっと!それ……」
「ゴミよ。見ての通り壊れてるし、使えない。修理しようにも、この世界の技術じゃね」
 化石燃料に1gの価値の存在しないこの世界では、ポリマーフレームなど夢のまた夢。
「ここの中には、使えるものが殆ど無いわ。この近辺で拾われているみたいだけど」
 砲身の錆びたデグチャロヴァ・シュパーギナ・クルピノカラヴェルニ。
 マガジンの無いガバメント。
 硝子の割れた電子レンジ。
 弾頭の入っていないリエントリーヴィークル。
 何故か武器兵器が多いが、これはこういうものなのだろう。
「後で銃を選んであげる。護身用にもっておくといいわ。魔法なんかより早くて強いのは知ってるでしょう?」
 ぽいぽいと使えるものを投げていく。手にした武器を一瞬で解析し判別し、選り分けていく。何故か手にしたものの情報が流れ込んでくるが、もう既に何度か経験していること。このことは誰にも教えてはいない。唯一の例外はデルフだ。やたらとおしゃべりなのでサイドパックに封じているが、時々隠れて話をしてやると出てくる出てくる。ルーンやガンダールヴのことを断片的ながら知っているらしく、ゆえに下手に口を滑らせて貰ってはかなわない。だから秘密裏に会話し、下手に人前に出さない。
「後は……人が使えるものじゃないわね」
 分別が終わり、残ったのは車載兵器や航空兵器の類だった。これは流石に人間が運んだり運用したりするには無理がある。ジルでも不可能だ。重すぎる。
「なんて軽い扱い……」
「いいのよ。使えるものはくれるらしいから」
 ロングビルは眩暈がした。あれだけ苦心して侵入した宝物庫で、異世界の強力な兵器がぽんぽん飛んでがしゃがしゃ山になる。破壊の杖はマジックアイテムですらなかったが、ここにあ るものは殆どが『ものすごく強力で使い易く稀少なレアアイテム』だったのだ。それがこんなに簡単に手に入る。結果的にはよかった、そうは思うのだが、何かこう、釈然としない何かが頭の上に浮かぶ。
「ふーん。なかなか貴重なものからジャンクまで、よく揃ってるわね。ねえエルザ?」
「なに?」
「力に自信はある?」
「普通の人間よりは強いよ」
「なら大丈夫ね……これとかがいいかしら」
 ベレッタM9。サプレッサー付、ブローバックが切られ、麻酔弾が撃てるように滑腔銃になっている。実包でも、ハンマーが落ちる音しかしない、それくらい静粛性に優れた銃だ。
「あと、これね。エルザは隠密行動に向いてるから、これがいいと思うわ」
 サプレッスドP90。50発の火力、貫通力、扱いやすさで特殊部隊によく使われるSMGだ。
「マスターがそういうのなら」
 特に文句もなく、エルザはM9とP90を受け取る。
「で、あなたには……」
 少し迷った末、MAC11/9とMk23を手に取る。イングラムのヴァリエーションモデルで、9mmパラベラム弾を一気にばら撒けるじゃじゃ馬のような銃と、特殊部隊向けに開発された高火力ピストル。
「使い方は明日にでも教えるわ。暇があったら練習しておいて」
 残りはごっそり、錆の浮いた鉄らしき箱に投げ込む。見た目の容量とは裏腹に、山になった重火器をどんどん飲み込む。
「ねえ、それは?」
「アイテムBOXよ。まさかこの世界にまで繋がってるとは思わなかったけど」
 軋む音をたてて、重そうな蓋が閉じられる。中身がいったいどうなっているのか、二人には見えなかった。



 ルイズはバルコニーでぼーっと、ワインを飲んでいた。主役とはいえ、フーケを殺したのは嘘だし、そもそも確保したのはジルだ。自分はフーケに捕まって、足手纏いだっただけ。情けなくて泣きそうになるが、パーティーのど真ん中で泣くのはプライドが許さなかった。それに、功績をあげ着飾っただけでほいほい誘ってくる『馬鹿共』の相手も疲れる。掌を返したようなその態度が、ルイズの心を一気に氷点下まで下げていった。
 自棄になって、グラスになみなみと注いだワインを一気に呷る。酔えば少しでも楽になるかと思ったが、あまり効果はない。再び注ぐが、もうボトルには殆ど残ってなかった。
「自棄酒?」
「そうよ。悪い?」
「飲みすぎは躯に悪いわ。そうね……少し酔いを醒ましたら、踊らない?」
「今更? それにあなた、ドレスを――――」
 振り向いた先には、男装の麗人が。
「ドレスはなくても、タキシードは殆ど変わらないからね。借りてきたのよ。似合う?」
「――――は」
「は?」
「ははっ! あはははははははは!」
 突如笑いだすルイズに、ジルは呆気にとられるが、
「何よ。笑わなくてもいいじゃない?」
「い、いや。とってもよく似合ってる。その発想はなかったわよ。笑ったのは別の理由」
「へえ。どんな?」
 ルイズは席を立ち、ジルに近寄る。
「内緒、よ。ふふっ、酔いも醒めちゃったし、踊りましょう」
「私でよければ、リトル・レディ?」
 ジルが手を差し出す。
「子供扱いしないでよね」
 ルイズがその手を取る。
「これは失礼。では、いきましょ」
 最後の曲が流れる、会場へと戻る二人。
 ラストダンスは、主役二人がその場の全ての人間の眼を奪っていた。


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