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虚無と狂信者-27


シエスタは衛士に連れられ廊下を歩いていた。自然と溜息が漏れる。
 その右手に視線を移す。少女のものとは思えないほど、無骨で、傷だらけの手だ。
 こんな風にするまで、どれ程の鍛練をしてきただろう。どれ程の時間を費やしただろう。
 そして、それほど賭けて積み上げた技術も、何の意味も為さない。
 ここから逃げることも拒否することも、愛する人の元に向かうことも。
 何もできはしないのだ。
「護身……か……」
 己の身を護ることが武の本質とするならば、この結果は間違いなくそれに近いだろう。
 金は得られ、大切な人は守られる。
 けれど、どうしても悲しかった。

 ふと、曽祖父の言葉が思い出される。
「シエスタ、おぬし程の才があればわかるだろう。武を極めたものにとって実際に戦うなど下の下、
もし、武の真髄に近づくならば、危うきには近寄れぬ。
なあに、おぬし程の才があれば、すぐに 見える さ」

「結局わからないままだったね、ひいおじいちゃん」
 けれどこれで良かったかもしれない。いつまでも修行などできるものでは無いのだから。

 突然、シエスタの足に力が入らなくなった。
 衛士が怪訝な顔をする。シエスタはバツの悪そうに笑った。
 さらに立ち上がろうとし、
 またもやこけた。
「何をしている?」
 衛士はシエスタに問い、彼女は乾いた笑いをし、歩き出す。
 数歩程歩いた所で、彼女は思考を巡らせた。
 そして一つ、重い息を吐き出す。
「とんだところで……護身完成という訳ですか」
 シエスタの眼前には、巨大な門が彼女を行かせぬよう聳え立っていた。

 無論他人からは見えることは無い。
 彼女の心が生み出した幻影である。

 普通ならばここで進めなくなる所であるが、シエスタはその門を潜り抜けた。
 自らが生み出したそれが雲散霧消する。
 幻影の壁が消え失せる。
「一体……何が……」
 たかが妾になる位で、そんな危険な事が及ぶはずは無い。
(一体何をされるんでしょう)
 扉を開く、そこにいたのは件のモット伯と。
 金髪の女性だった。


「…………………………………3P?」
「?」

(いやああああ~~~、そんな! 初めてなのに! 絶対私はサイトさんとキャッキャウフフ
ラブラブチュッチュな感じにしたかったのに~~~~)
 このメイド、自重しない。
 頭を振って床にガンガンぶつける少女にモットとアニエスは微妙な目を向ける。
「そんな! 女性となんて! あ! でもメイド服着たサイトさんなら! きゃ~~~」
 妄想は心の中から口を伝って飛び出し始めた。
「お~い、君……ヤダバ!」
 モットが勇気を出して肩を叩くも彼女の裏拳を喰らい、地面に水平に吹っ飛んだ。
 しばらくシエスタはじたばたと床を転げ回っている。
「おい、君、話を始めていいかな?」
 アニエスは立ち上がり、先程から自重しないメイドに近づいてくる。
「あ、でも確かに似合いそう! よーし今度ミス・ヴァリエールを焚きつけて……」
「……」
 無視である。というか届いていない。アニエスは溜息を一つした。
 そして、ほんの少しだけ、笑った。

 その瞬間。
 シエスタは跳ね上がり、
 瞬時にアニエスに対峙した。
 モットと衛士達はその動きに呆気に取られる。

 しばらくの、どれ程か分からないが、静寂の後にアニエスは呟いた。
「合格だな」
 アニエスはまるで人懐っこい笑みを浮かべ、席へと戻って行く。
「まあ座れ、茶でも飲んで行くといい」
「あの、ここ私の邸た……」
「それでは……」
 シエスタは促された席に座る。
 モット伯が泣いている気がしないでもない。
 シエスタの前に紅茶が差し出されてから、アニエスは話を切り出した。
「私はアニエス。姫陛下直属の騎士だ。といってもまあ、平民の剣士で構成された一小隊の主でしかないが……。
ここ最近起きている吸血鬼事件、噂位は聞いたことがあるだろう?」
 シエスタの手がピクりと震える。アニエスは構わず続ける。
「いや、君はもっと深い所まで知っているな? タルブの村のシエスタ殿?」
「……何が目的ですか?」
「まあ、端的に言うとな……」

「君が欲しい」

「変な意味にとるな」
「と、とりませんよ」
 シエスタのピンクの脳は見事に変な意味にとっていた。

「姫殿下の御意向でな……近々、対吸血鬼戦用の実行部隊が創設される」
 アニエスは淡々と話始めた。
「そこで、我々としては優秀な人材が欲しいのだ。無論報酬は出す。今の給金の三倍は出そう」
 シエスタは俯いたまま、考えながら口を開く。
「何故、このような回りくどい方法で呼んだんですか?」
 アニエスはその問に自嘲気味に応える。
「私は貴族ではない。いや、メイジですらない。
そんな私がこそこそ動くのを快く思わない者も多い。
さらに、こんなでも宮廷仕えの師団長が学院務めのメイドに会いに来たとなっては
そちらもいい迷惑だろう?」
 シエスタはその答えに頷いた後、また次の質問をする。
「もし断ったら?」
 アニエスは鼻で笑った後に掌を上げる。
「どうもしないさ。君が望むならそのまま魔法学院で働けばいい。
無論この件は他言無用だが……」
 シエスタはアニエスの瞳を真っ直ぐに見据える。嘘は無い。

 途端、彼女は安堵の溜息を洩らす。
 また元通りあの場所に戻れるのだ。
 しかし、どうしてももう一つ明らかにせねばならないことがある。

「先程、あなたは『私の迷惑だから』態々こんな方法で私を読んだと言いました。
しかし、本当にそれだけですか?」
 シエスタは真っ直ぐにアニエスを向く。しばらくそのまま見つめ合う二人の女性。
 その何とも言えない息の詰まる空気にモット伯の頬にも何やら伝うものがある。
「……裏切り者だよ」
 アニエスは口を開く。その顔には明確な怒りがある。
「永遠の命などという誘惑に耐えられなくなった人間がいるのさ。
宮中にも、何処にもな」
 アニエスは吐き捨て、拳を握りしめる。
「どこにでもいるさ。貴賤問わず、政界財界軍部宗教etc.
……蛆虫どもめ」

 最後に、辛辣な言葉を吐き出し、しばらく沈黙が漂う。
「だから必要なのだ。誰とも信頼の置けぬこの状況で、吸血鬼共を打ち倒す
そんな機関がな」
 アニエスはそう言い終えた後、黙ってシエスタを向く。
「協力してくれないか」

 シエスタは自分の手を見る。
 今までこの手で幾度と無く刀を振るって来た。
 そしていつのまにか、己の手にはとてつもない技が身に付いている。
 それを振るってみたい気持ちもどこかにある。
 しかし。

「すいません。私は……」
 口を開き欠けたところで、その耳が、あの音を捉える。
 アニエスは横を向いていた。

「どうやら来たな。蛆虫共」

 シエスタとアニエスが扉の方を向く。
 モット伯は二人の様子に不審に思う。
 数瞬たって、何か音が聞こえてくる。
 それが悲鳴だと彼が気付いた時、扉が乱暴に開かれた。

 入って来たのは五名程の兵士達。
 皆トリステインの紋章が付けられた軍服を身に纏っている。
「何だ貴様ら!」
「こういうことですよ。モット伯」
 リーダー格らしい男が歯を見せる。
 そこにはあきらかに人のものでは無い鋭く尖った歯が並んでいた。
 モットの顔が驚愕で歪む。
「素晴らしい、吸血鬼とは素晴らしい」
 そして男が杖を振り上げる。不意に、アニエスが呟いた。
「誰の差し金だ?」
「これはこれは、女の衛士如きが何故貴族の部屋に? お邪魔したか?」
「いや。それより、お前らを吸血鬼にした連中はだれだ?」
「知る必要は無い」
 男は杖の先から炎を燃え上がらせる。
「死ね」
 その瞬間、何かが宙を舞った。

 男達はその物体に視線を完全に集中した。

 その巨大な物が、この部屋で最も巨大な家具である机だと気づいた時には、遅かった。

 男達は呆気に取られ、注意が上方に向いていた。

 次には、男が床に力無く倒れていた。

「……浮き足落とし」
 シエスタが呟いた。アニエスは、百キロ以上はあろう机を瞬時に蹴りあげ、
間隙なくしゃがみ込み男の足を斬り落としたのだ。返す刀で今度は別の男の杖を持つ手を切り落とす。
 次いで空いた手で傍らの男に銃弾を撃ち込む。その頃には吸血鬼はその人では無い反射速度で、
アニエスに魔法を撃ち込む。
 吸血鬼達はニヤリと笑った。しかし片方が不意に苦痛の呻きを上げる。
 見るとその胸は銀の剣によって刺し貫かれていた。
 アニエスはそのまま最後の一人に向け、その男を刺し貫いたまま距離を詰める。
 魔法を掛けようにも、味方が邪魔で当たらない。
 アニエスは予備の剣を引き抜き、男を刺し貫いた。
 両名はアニエスの両手に持つ剣で貫かれたまま爆散した。
 吸血鬼達が魔法を撃ち込んだ先では、足を切り落とされた吸血鬼が燻っていた。
「貴様……!……」
 何事か言おうとする彼に、アニエスは銀の弾丸を撃ち込んだ。
 モットが杖を構えたのは、事が終わってからだった。

「てっきりあなたも裏切っていると思いましたよ。モット伯」
 アニエスは弾丸を再装填しながら、彼に話しかける。
「私は好色だが、卑怯者では無い。
おそらくこれは見せしめだろう。私は奴らの誘いを断っていたからな」
 モット伯の言葉にシエスタは意外な気持ちになる。
 噂と違い、意外にも忠義な人物のようだ。
 聞きながらアニエスは気配を探る。
「おそらく後十か二十程がいる筈、下手に逃げようとすると危険ですから、
ここでガタガタ震えて命乞いの文句でも考えていて下さい。
それでは」
「わかりました。行ってきてください」
 アニエスはスタスタと退室した。モットは机をレビテーションで動かし、バリケードを作り始めた。
 シエスタはそんな彼の姿があまりにも情けないので溜息をついた。

「君はいかんのか?」
 そう言われても得物は学院に置いてきてしまった。
 そんな状態の自分がアニエスに付いていった所で彼女の足手纏いにしかならぬと感じたシエスタは、
 ここで待機することにした。

 その声が聞こえるまでは。

「シエスタ――!!」



「一体これはどういう状況だ?」
 屋敷に着いた才人とギーシュの瞳に飛び込んだのは、門兵のグールだった。
 その首をサイトは銃剣で刎ねた。
「吸血鬼だ!」
「何?」
 才人は逡巡せず、屋敷に向けて突っ込んで行った。
 一方ギーシュはおどおどとするのみだ。
「ああ、突っ込んで……よし僕も……いやでも、吸血鬼なんて」
 ふとギーシュの目に左手に持った包みが映る。
 それはシエスタの物だった日本刀だ。
 それを思い出し、ギーシュは腹を括った。
「いいさ! 行ってやる!」
 ギーシュは薔薇の造花を振り上げ、サイトの後を追った。

「才人さん?」
 まさか、彼が来たのだろうか。確かに聞こえた声に、シエスタの心はざわめいた。
 シエスタは何も持たない身で、屋敷の中を駆けだした。

 爆炎が少年の全身を覆い隠す。それでも、サイトは止まらず突っ込む。
 銃剣を振りかぶり、斬りつけようとする。
 その一撃を避け、吸血鬼はサイトの胸を強く蹴った。
 彼は勢い良く廊下を転がり、壁に叩きつけられた

「畜生……!」
 才人は跳ね上がり、構え直す。
「再生者……、神父とやらかと思ったが違うようだな。
お前、こんな所に何しに来たんだ?」
 吸血鬼は興味深そうに才人にそう訊ねる。口元は血で汚れている。
「……シエスタって娘を探しててね……」
「娘、ああ、娘ね?」
 吸血鬼は可笑しそうに笑う。
「さっき噛みついた娘は美味かったが、そうかもな」
 才人は弾かれたように吸血鬼に詰め寄る。目には黒い怒りが煌々と宿っている。
「無駄無駄ァ――!」
 吸血鬼はさらに炎を浴びせかける。
 しかし、サイトも負けじと銃剣を投げつける。
 横合いから炎に煽がれ、軌道がそれる。
 才人はそれにも、炎にも構わず突っ込んだ。
 吸血鬼はまた無作法に斬りつけて来るものと予想した。
 だが、才人の行動はその予想を外れたものだった。
 そのまま才人は吸血鬼にぶつかったのだ。
 吸血鬼が呻くより早く、才人は右手でその服を掴み、左手に銃剣を逆手に持った。
「AMEN!!」
 才人は吸血鬼の背中から心臓へ向け、銃剣を突き立てた。

 絶命する吸血鬼の前で、サイトもまた座り込んだ。
(シエスタ……)
 深い絶望と肉体の損傷。二つの要因は十七の彼には重すぎた。
 後ろから近づくそれに気づかぬ程。

 後ろからブレイドの掛けられた杖が近づく。
 才人はハッと気づくも遅かった。
 回避が間に合わない。

 だが、結局その一撃は来なかった。
 吸血鬼が真横に吹き飛ばされたから。

 否、殴り飛ばされたのだ。
「サイトさんに手を出す奴は、この私が物理的に地獄に落とします!」

 才人は呆然と、しかし嬉しそうに彼女の名を叫んだ。
「シエスタ!」
 シエスタはその呼びかけに笑顔で答える。
 ようやく追いついたギーシュもまた、彼女を見て笑顔になる。
 だが、再会を喜ぶ間も無く、吸血鬼が襲いかかる。
 その数。七。

「手伝いましょう。エモノはどこです? ミスタ・グラモン?」
「受け取れぇ!」
 布が解け、中から黒い鉄の鞘の日本刀が現れる。
 吸血鬼達が襲いかかる。それを好戦的な目で見据え、それを抜き放つ。
「島原抜刀流 秋水」

「うおおおおお!!」
 シエスタが圧倒的な速度で彼らとすれ違う。
 数瞬後、彼らは、
ある者は杖が腕ごと、
ある者は目が顔ごと、
ある者は心臓が胴ごと、
目に見えぬ太刀筋で以て切断された。

 ギーシュはワルキューレを六体錬成する。
 その薔薇の造花には呪文が刻まれている。
 速度自体は遅いものの、互いを補い合う動きで速度の上回る吸血鬼を仕留めていく。
 ある吸血鬼は挟みうちで、
ある吸血鬼は一つのワルキューレを倒すうちに背後から、
青銅によって心臓を貫かれた。

 そして才人は魔法の正射に全く怯まず、
吸血鬼に銃剣の雨を見舞った。
 その後、信管を抜き取り、吸血鬼は刺さった銃剣が爆発することで彼らは、

 文字通り弾け飛んだ。


「すいません、アニエスさん。この話お断りします」
「そうか」
 アニエスに深々と頭を下げるシエスタ。
「やっぱり危ないことはできないし、それに……」
「それに?」
「サイトさんについていけば、大丈夫な気がするんです。
私も、皆も」
 そう告げるシエスタの表情は、どこまでも曇り無かった。

「んだよ? じゃあ、結局無駄足だったのか?」
 シルフィードの上で、シエスタからことの顛末を聞いた才人は不満げにぼやく。
 結局あの後、サイト達は咎めも無く、すんなりと帰ることを許可された。
 吸血鬼やそれに伴うグールはアニエスによって全てが倒されていたため、
もはややることは何もなかったのだ。
「まあ、いっか。シエスタ無事だったし」
 ギーシュはと言えば初めてやった殺し合いの空気に当てられぐったりとしている。
 実質二人きりである。
 シエスタはその腕に纏わりつく。柔らかい感触が才人に伝わる。
「ちょ?」
「嫌ですか?」
 そんな風に言われてはサイトはどうすることもできなかった。
「私、ついていきますね?」
「へ?」
「私、解りました。何で戦うのか」
「な、何でなんだ?」
 才人はしどろもどろになりつつ訊ねる。シエスタは含んだ笑いを浮かべる。
「内緒です」
「な、何だよそれ」
「内緒ったら内緒です。フフ」
 その後、学院につくまでずっと、シエスタはその腕を離さなかった。


「もうすぐ始まるのだな。戦争が」
「ええ、そうですなモット伯」
 アニエスとモットが青い翼を見送りながら話す。

「奴ら、私の部下を食っていた。許せん……」
 モット伯が彼には珍しい真剣な表情で呟く。
「同じ気持ちです」
 アニエスはそれに応える。
 そして、彼女の剣の鞘を強く握った。

 二人とも理解していた。
 もうすぐ始まるのだと。
 この国の存続を賭けた戦争が始まるのだと。


「とんだ雑魚どもだ……。楽しむ間すらありはしない……」
 森の中、吸血鬼達の死体の真ん中でアンデルセンは呟いた。
 事態を見届け、仔細を何処かに伝えようとしていた連中だ。
 ふと空を見上げると、青い竜が飛んで行くのが見えた。
 アンデルセンはそれを見届け、笑みを浮かべた。

 彼は理解していた。
 もうすぐ始まるこの国の戦争。
 それがただそれだけで終わるものではないことを。
 それはこの世界の、おそらく全てを巻き込んだもののほんの序章にすぎぬことを。

(俺はどうでもいいがな)
 ただ、吸血鬼共を撃ち滅ぼす。
 それだけしか思う所は無い。
 ただ、おそらく彼は。
(あいつは、違うんだろうなぁ……)
 黒髪の少年の、この先の行動を心待ちにし、
アンデルセンは聖書のページと共に飛び立った。





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