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虚無のパズル-04


「ごめん。やめて。もうしない、ほんとに」
学院長室では、白く威厳のある髭を蓄えた老賢人オスマン氏が、情けなくも床に這いつくばり、秘書のミス・ロングビルに無言で蹴り回されていた。
お尻を撫でる、使い魔のネズミ、モートソグニルを使って下着を覗き見るなど、オスマン氏の度重なるセクハラにキレたミス・ロングビルが実力行使に出たのであった。
ちなみにこのような光景は珍しいものではなく、学院長室の日常風景と言っていい。
「オールド・オスマン!たたた、大変です!」
学院長室のドアを乱暴に開け放って、コルベールが転がり込んできた。
「なんじゃね」
ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机に座っていた。
オスマン氏は腕を後ろに組んで、重々しく闖入者を迎え入れた。早業であった。
「ここ、これを見てください!」
コルベールは、オスマン氏に先ほど呼んでいた書物を手渡した。
「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。まーたこのような古くさい文献など漁りおって」
「そんなことよりも、オールド・オスマン!これを見てください!」
コルベールはアクアの右手に宿ったルーンのスケッチを手渡した。
それを見た瞬間、オスマン氏の表情が厳しいものに変わる。
「ミス・ロングビル。席を外しなさい」
ミス・ロングビルが部屋を出て行くと、それを見届けたオスマン氏は口を開いた。
「さて、ミスタ・コルベール。詳しく聞かせてくれたまえ」
コルベールは、堰を切ったようにしゃべりはじめた。
春の使い魔召喚の際に、ルイズが平民の女の子を召喚してしまったこと。
その子の右手に刻まれた、契約の証であるルーン文字が気になったこと。
そして、それを調べるうちに……
「始祖ブリミルの使い魔『ヴィンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃね?」
「そうです!あの少女の手に刻まれたルーンは、まさしく伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』と同じもの!あの少女は『ヴィンダールヴ』です!これは一大事ですぞ、オールド・オスマン!」
「ふむ…」
オスマン氏は長いひげをなで付けながら、コルベールの推論を考慮する。
ドアがノックされた。先ほど退出を命じた、ミス・ロングビルであった。
「ヴェストリの広場で、決闘まがいの騒ぎが起こっているようです。大騒ぎになっています。」
オスマン氏は、やれやれとかぶりを振る。
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か。おおかたまた女の子に絡んだ騒ぎじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それが、ミス・ヴァリエールの使い魔の女の子のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。

魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にあるヴェストリの広場は、噂を聞きつけた生徒たちで溢れ帰っていた。
人の生垣に囲まれて、金髪の美男子ギーシュと、生意気そうなアクアが向かい合っていた。
「諸君!これは決闘ではない!」
ギーシュが薔薇の造花を振り上げ、観衆に宣言する。
「貴族社会への反逆の芽を摘む!これは粛正であり、教育なのである」
ざわざわと、喧噪が広がる。
「おい、あれはルイズの平民だ!」
「ほんの子供じゃないか!ミスタ・グラモンは何を考えてるんだ?」
「いや、あれは主人のヴァリエールに似て、ひどいはねっ返りだよ!ギーシュを怒らせるのも無理はないさ!」
戸惑いと好奇の目で、広場は異様な熱気に包まれていた。
ドットクラスとは言えメイジのギーシュと、年端も行かない女の子。これはもはや公開処刑である。
人をナメきったアクアの言動の数々を知らないものの中には、ギーシュへの軽蔑を隠そうともしないものもいるが、しかし平時の世の中、退屈した貴族に取ってこれ以上のショウはない。
アクアは幼いとは言え、整った顔立ちをしており、美少女であると言えた。
ああ、その吊り気味の、気の強そうな目が、苦痛と恐怖に歪むさまはどんなものだろうか?そんな凶暴な期待に身を震わせるものも少なくない。
熱気に当てられ、不安になったルイズは小さく震える肩を抱く。
「さてと、では始めるか」
観衆に向けパフォーマンスを繰り広げていたギーシュは、アクアの方に向き直り、そう言った。
ギーシュが手にした薔薇の造花を振ると、花びらが一枚、宙に舞った。
するとそれはみるみるうちに、甲冑を着た女戦士の形をしたゴーレムになった。
それを見て、わー、とアクアが感嘆の声を上げる。
「僕の二つ名は『青銅』、青銅のギーシュだ。青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手つかまつる」
ギーシュは格好を付けて、右手の薔薇をアクアに突きつける。
「ふうん、それがあんたの『魔法のステッキ』ってわけだ」
アクアはローブのポケットをごそごそとやって、取り出したものを同じようにギーシュに向けて突きつけた。
棒付きのアメ玉であった。
ギーシュが何事かと見守っていると、アクアは棒付きアメをふりふり振りながら、言った。
「あたしのは、これ。あたしの『魔法のステッキ』だよ」
アクアの言葉に、一瞬広場は静かになる。
それから、どっと笑いが巻き起こった。
「はっは!そ、そ、それが『杖』だって?」
「ず、ず、ずいぶんかわいらしいメイジだなあ、おい!」
「おいギーシュ!あんまり子供をいじめるんじゃないぞ!」
大笑いする観客から野次が飛ぶ。
ルイズは頭を抱えていた。

ギーシュは、ため息をついてかぶりを振る。どうやら僕は、子供相手にムキになりすぎていたようだ。
しかし一度口に出した言葉は、簡単には曲げられない。ギーシュはアクアをさんざんに脅しつけて、早々と降参させるつもりであった。
ギーシュが薔薇を振ると、ワルキューレがアクアに向かって突進した。芝生をえぐりながら、アクアの目の前で急停止する。
ワルキューレはアクアを見下ろすように立っており、2メートルを超す青銅の女騎士は、小さなアクアに大変なプレッシャーを与えていることだろう。
さあ、恐怖に震えながら、許しを請いたまえ。ワルキューレの槍をアクアの喉元に突きつける。
しかしアクアは落ち着いた様子で、棒付きアメを振って、ワルキューレの槍に当てた。かいん、と子気味よい音があたりに響く。
次の瞬間、強烈な破裂音とともに、槍の先端が爆発した。
「え?」
長さが半分ほどになった槍を見て、ギーシュは思わず声を上げた。一体、何が起こったと言うのか?
アクアは返す手で、ワルキューレの腹に棒付きアメを当てる。
「マテリアル・パズル……」
またも強烈な破裂音とともに、ワルキューレは粉々に吹っ飛んだ。破片が、パラパラと広場に降り注ぐ。
観客もギーシュも呆然となっていると、アクアはローブのポケットからアメ玉を取り出し、口に放り込んで、コロコロと舐めた。
そして観客の中のルイズに向けて、ちょいちょいと棒付きアメを振る。
「ルイズう、見てた?これがあたしの魔法だよ。『壊す』のが、あたしの魔法」
そしてギーシュに向き直り、ギロリと睨むと、ずんずんとギーシュの元へ歩き出した。
ひ、とギーシュの喉から空気が漏れた。
やばい。よく分からないけど、とにかくやばい。
子供だなんて、とんでもない!いま僕の目の前にいるものは、恐るべき力を持っている!
ギーシュは、あわてて薔薇を振る。たちまち花びらが舞い、6体の青銅のゴーレムが現れた。ギーシュがいま扱える全ての兵力である。
6体のワルキューレの出現にもアクアは動じず、ギーシュに詰め寄る。舐めていたアメ玉を手のひらにぺっと吐き出す。
カチャカチャと、何かを組み立てるような音をさせながら、アメ玉が強く光り出した。
怯えたギーシュは、ワルキューレを三体ずつ二列に並べ、自分の身を守らせるよう配置した。
錬金の魔法で作り上げた、鈍く輝く盾を構え、まさに鉄壁の防御である。しかし。
「薄い!」
破壊のエネルギーが込められたアメ玉が、ワルキューレに叩き込まれた。
大爆発が起こり、6体のワルキューレは消し飛んだ。
ギーシュははるか後方の『火の塔』までぶっ飛び、壁にしたたか打ち付けられ、気絶した。
薔薇の杖は彼の手を離れ、遠くに吹き飛ばされていた。これでは、目を覚ましても魔法を使うことはできないだろう。
アクアは、自分の勝利を確認すると、ふふん、と得意げになり、アメ玉を噛んだ。
「我が勝利、魂と共に……」
そんなアクアを、ルイズはぽかんとした顔で見つめていた。
観客たちも、皆同じようにぽかんとしていた。
名家の子息たるギーシュの敗北。相手は子供のメイジ。しかも貴族ではなく、ルイズ・ヴァリエールの使い魔である。
あまりの出来事に、ヴェストリの広場は静まり返ったが、やがて、誰かがぽつりとこぼした。
「『その者にもっともふさわしい使い魔が呼び出される』って、あれ、ほんとだったんだな」
「魔法を爆発させてばかりいる『ゼロのルイズ』!爆発の魔法を使うメイジを呼び出しやがった!」

オスマン氏とコルベールは、一部始終を『遠見の鏡』で見届けると、また顔を見合わせた。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの子供、勝ってしまいましたな」
「うむ」
「『ヴィンダールヴ』はあらゆる幻獣を乗りこなし、主をあらゆることろへ運んだとありますが……」
コルベールは頭を振る。
「魔法の撃ち合いで、勝ってしまいましたな」
「ううむ。ミスタ・コルベール。これではあの子が『ヴィンダールヴ』であると言う確証は得られんの」
オスマン氏が、コルベールの言葉を引き取った。
コルベールは落胆したが、気を取り直し『教師』としての意見を申し出た。
「しかしオールド・オスマン。まさか彼女がこれほど強力なメイジだったとは思いませんでしたな。あの破壊力はトライアングル、いえ、下手をすればスクウェアスペルほどかもしれません。
春の使い魔召喚では「平民を呼び出してしまった」などと腐っておりましたが、ミス・ヴァリエールも誇らしく思うことでしょう」
嬉しそうに言うコルベール。しかしオスマン氏は難しい顔を崩さない。
「コルベール君、きみ、あの子の使った魔法が分かるかね?」
「いえ。しかしあれほどの爆発を起こしたのです。彼女は間違いなく『火』系統のメイジでしょう」
オスマン氏は首を振る。
「それではおかしいんじゃよ。見たまえ、あのゴーレムの破片を。まんべんなくバラバラじゃ。おまけに焦げ付きや煤がまったくない。普通の爆発ではありえんことじゃ」
コルベールは困惑した。
「オールド・オスマン。一体どういうことなのでしょうか?」
「これは推測でしかないのじゃがの。あの子が伝説の『ヴィンダールヴ』であると言うのなら、その彼女が使う魔法もまた、われわれの系統魔法とはまったく違うものなのかもしれん」
「オールド・オスマン。それは」
コルベールは興奮し、ゴクリと音を立てて唾を飲み込む。
「『虚無』と。そういうことなのでしょうか」


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