あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-16


(…………うん、落ち着きましょう)
 すう、と息を大きく吸って、はあ、と吐き出すルイズ。
 それだけのことに、何故かけっこうなエネルギーを使った気がした。
(……とりあえずは、状況の整理ね)
 まず、今朝早くにワルドが部屋にやって来て、叩き起こされた。ちょっとムッとした。
 次に、いきなり『今からウェールズ皇太子に君と僕の結婚式をうんぬんかんぬん』と言われた。何を言ってるのか分からなかった。
 そして、『君の使い魔君も賛成してくれたよ』と言われた。後であの馬鹿を怒鳴りつけたあと、説教して乗馬用の鞭で叩いてやろうと思った。
 チンプンカンプンのまま軽い朝食を食べていたら、ツェルプストーやギーシュから『おめでとう』と言われた。あの馬鹿使い魔からは何も言われなかった。軽く殺意が芽生えた。
 お城の中の礼拝堂までワルドに少し強引に連れて行かれて、そこで新婦の冠を頭に乗せられた。綺麗だったけど、今のこんな状況で、そんなものをかぶる気にはなれなかった。
 あれよあれよと言う間に学生用の黒いマントを外されて、花嫁用の白いマントを羽織わされた。やっぱり、そんな気分じゃない。
 そして今、わたしは始祖ブリミルの像の前に立っている正装したウェールズさまの前で、ワルドの横に立って―――
(…………………………落ち着きましょう)
 チラリと視線を動かすと、参列客としてキュルケとタバサ、ギーシュとユーゼスがいる。
 彼らはどうも、今のこの状況に疑問を抱いていないらしい。……全員の頭を、平手でハタきたくなってきた。特にユーゼスは念入りに。
 混乱したままで突っ立っていると、いつの間にか式が始まってしまった。
「新郎、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
「誓います」
(いや、ちょっと待って……落ち着くのよ、ルイズ)
 もはや何度目か分からない心の呟きである。
(……なまじ途中経過を考えたりするから、混乱したりするのよ)
 この場合、最も重要なのは『結果としての現在の状況』と、『その状況に対してどう対応するか』だ。
 ルイズは高速で思考を開始する。
 まず、現在の状況。
 結婚式の真っ最中。新郎はワルド。新婦はわたし。もうすぐわたしの誓いの言葉。
 そして、その状況に対してどう対応するか。
(…………どうしよう)
 何もかもがいきなりすぎて、考えが上手くまとまらないが―――とにかく、自分はワルドと結婚する。
 結婚しそうになっている。
 ワケの分からないまま、強引に結婚させられそうになってしまっている。
(ワルドと、結婚……)
 今よりも幼い頃は、ぼんやりとそのイメージを抱いているだけだった。単純な憧れ、と言ってもいい。
 だが10年の時を経た今、いざこうして結婚に踏み切って……踏み切らされてみると……。
(……ワルドと、結婚)
 色々とあったせいで、彼に抱いていた憧れは再会した当初に比べれば随分と目減りしてしまったが、それでも消えてしまってはいない。
 彼のことは嫌いではない。少なくとも、昔は好きだった。
 今も、好き……なのだと、思う。
(それは、『今すぐ結婚しても良い』と思えるほど?)
 自問する。そして、思い出す。
 昨晩、使い魔に言ったばかりではないか。
 ―――『……立派なメイジにはなれてないし、アンタのことだって、屈服させてないんだし……』―――
 そう。
 一人前のメイジにもなっていないし、あの常に涼しい顔をしている使い魔のハナだって明かしていない。
 それに―――何だか、ワルドに抱いている気持ちは、結婚とは、違う気がする。
 だから……。
「新婦、ラ・ヴァリエール家公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
 だから、わたしはこう言うのだ。
「いいえ、誓えません」

 礼拝堂がざわめく。
 ウェールズとワルドは目を何度かまばたかせて、
「し、新婦?」
「……ルイズ?」
 と、新婦だったはずの少女に問いかけた。
 その少女―――ルイズは毅然とした表情と態度で、それに答える。
「ごめんなさい、ワルド。わたし、あなたとは結婚出来ない」
「む……。新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二方には大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」
 ワルドの顔が紅潮する。ウェールズは、うーむと首を傾げてそんなワルドに宣告する。
「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」
「待て、待ってくれ、ルイズ。そりゃあ、いきなりだったのは謝る。しかし……」
「……憧れだったわ、ワルド。もしかしたら恋だったかもしれない。でも、今は違うの」
「ルイズ!」
 口調を荒げ、ルイズの肩を強く掴むワルド。その痛みに、ルイズは顔をしかめた。
 ……ワルドの顔は険しくつり上がり、瞳には冷たい光が宿っている。
「世界だ、ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためには君が、君の能力が、君の力が必要なんだ!!」
 今までとはガラリと雰囲気を変えたワルドに詰め寄られ、ルイズは恐怖を感じながらもキッパリと告げた。
「……いらないわ、世界なんて」
「いつか、君に言ったことを忘れたか!? 君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに―――」
 さすがに見苦しく感じたのか、ウェールズがワルドをいさめようとする。
「子爵……、君はフラれたのだ。いさぎよく……」
「黙っておれ!」
 ウェールズの手をはねのけ、なおもワルドはルイズに迫る。
「ルイズ! 君の才能が、僕には必要なんだ!!」
「……わたし、そんな才能のあるメイジじゃないわ」
「だから何度も言っている! 自分で気付いていないだけなんだよ、ルイズ!!」
 そんな光景が繰り広げられて、さすがにキュルケたちも立ち上がり始める。タバサも視線を向けた。
 ―――ユーゼスだけは、ただ冷静にワルドの様子を眺めている。
「……そう。あなたが必要で愛しているのは、何の根拠もなくわたしにあるってあなたが思い込んでる、『わたしの魔法の才能』なのね」
 悲しそうに、ルイズは言う。
「…………そんな理由で結婚しようだなんて、こんな侮辱はないわ。ええ、あのラ・ロシェールの時も比較にならないくらい!!」
 叫びながらルイズは暴れ出し、ワルドの手から逃れようともがく。
 ウェールズが、今度はワルドの肩に手を置いてルイズから引き離そうとする。が、今度は強く身体を突き飛ばされてしまった。
「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!!」
 ウェールズの言葉に効果があったのか、ワルドはすっとルイズの手を離す。
 そして優しい……優しすぎて作り物にしか見えない笑顔を浮かべて言った。
「こうまで僕が言っても駄目なのかい? 僕のルイズ」
「……『僕のルイズ』? 誰が、いつ、あなたのものになったのよ?」
 怒りを込めて返答される。それを聞いて、ワルドは天を仰いだ。
「やれやれ。この旅で君の気持ちを掴むために、随分と努力したんだが……」
 そして、ギロリとユーゼスを睨んで舌打ちする。
「仕方がない。まずは最優先の目的を果たそう」
「え?」
 ルイズが困惑の声を上げた瞬間、ワルドは素晴らしい速度と手際で杖を抜き、詠唱を完成させ、青白く光る魔法の刃でウェールズの心臓を貫いた。

「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」
 ウェールズの口と胸から大量の血が流れ、床に倒れ込む。
「ワルド……!! あなた!!」
 バッ、とワルドから飛びすさるルイズ。
「ルイズ、下がってなさい!」
 すぐさま椅子を飛び越え、キュルケが火球を放つ。
 だが、ワルドはすぐさまウェールズの身体から風の刃を抜き放ち、火球を迎撃した。
 その間にルイズはギーシュたちと合流し、ワルドと向き合う。
 ルイズ、ギーシュ、キュルケ、タバサ、そしてようやく立ち上がったユーゼス。
 そして彼らと対峙したワルドは演説でもするようにして、ルイズたちに自分の目的を語り始めた。
「……この旅における、僕の目的は3つあった。
 1つはルイズ、君を手に入れること。……しかし、これは果たせないようだね。
 2つ目の目的は……ルイズのポケットに入っている、トリステインとゲルマニアの同盟を瓦解させるという手紙の入手。
 そして3つ目、たった今達成したが、そこで倒れているウェールズ皇太子の命だ」
「貴族派だったのね! ワルド!!」
「そうとも」
 怒鳴りながらのルイズの問いに、ワルドは平然と答える。
「魔法衛士隊の隊長の……トリステインに忠誠を誓ったはずのあなたが……どうしてだ!?」
「我々『レコン・キスタ』はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えてつながった貴族の連盟さ。我々にそのような『国家の縛り』はないのだよ、ギーシュ君」
「……!!」
 ギーシュは怒りに身を震わせながら、ワルドの言葉を聞く。
「道中で、やたらとルイズの気を引こうとしてたのは……」
「ルイズの心を、僕に傾かせるためだ。……どうやら、ことごとく逆効果だったようだがね」
「ラ・ロシェールまでの道のりで襲ってきた夜盗や、宿で襲ってきた傭兵たちを手配したのも……!」
「……颯爽と活躍して、ルイズに僕の実力を印象づけるために仕込んだのだが……どうにも上手くいかなかったな」
「アンタ……!!」
 珍しく、明確な怒りを露わにするキュルケ。
「……そう、全てはハルケギニア統一のため。そして、ハルケギニアは我々の手で1つになり―――始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」
「何が……、何が、あなたをそんな風に変えてしまったの? ワルド……」
「変わった、か。それは僕のセリフだよ、ルイズ。君がここまで『強く』なっているとは思わなかった。おかげで僕の計画はメチャクチャだ。……やはり、そこの使い魔君のせいかな?」
 言って、ワルドは再びギロリとユーゼスに視線を移す。
 ……視線を向けられたユーゼスは、ワルドに対して率直に、
(若いな……)
 そんな感想を抱いていた。

 ユーゼスは、ワルドを見て思う。
(……ここで下手に正体を明かすよりは、正体を隠したままで去り際にウェールズを暗殺でもすれば良かっただろうに)
 そうすれば、獅子身中の虫としてトリステインに潜み続けることも出来たはずだ。
 ……おそらく彼のシナリオでは、ここで自分たちを全滅させた後、自分1人だけがトリステインに戻ることになっているのだろう。
 そもそも、彼は焦りすぎていた。
 ルイズの心を掴もうとするにしても、自分を比較対象にするのではなく、もっと適役がいそうなものだ。
 大体、本当にルイズの力『だけ』が欲しいのなら、禁制の水の秘薬なり何なりを使って操れば良いではないか。
 それをしなかったのは、この男のプライドのためだろうか。
 ―――と、ここで、アルビオン行きの船に乗る直前に感じた、『ワルドが誰に似ていたのか』の『誰か』に思い当たる。
 過去の……若い頃の自分だ。
 戦闘・権謀術数タイプと頭脳・研究タイプと、人間としての種類は異なっている。
 だが妙に自信たっぷりで、無駄にプライドが高く、自分の行動が成功すると大した根拠もなく確信しており、内心では腹黒いことを考え、成功する保証もないのに物事を焦って強引に運び、糾弾されても悪びれもしない、なまじ優秀だから失敗してもほとんど気落ちしない―――と、かなり共通点があった。
(……………)
 何ともまあ、因果な世界である。
 立場が違っていれば、『先達』として色々とアドバイスも出来たのだろうが……そういう訳にはいかないようだ。
 第一、アドバイスなどしても聞き入れはしないだろう。自分もそうだったのだし。
「まあ、良い。言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないのだからね……」
 ワルドは杖を構える。魔法の攻撃が来るのか、と全員が身構えるが……。
「さすがにこの人数相手では、僕も本気を出さざるを得ない。
 では、何故……風の魔法が最強と呼ばれるのか、その理由を教育いたそう」
「!」
 『何の魔法が繰り出されるのか』を察したタバサが即座に風の刃を放つが、それを回避してワルドは詠唱を行う。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
「あれは、確かミスタ・ギトーが使おうとしていた……!?」
 驚いている間に、詠唱は完了してしまった。
 そして、ワルドの身体が5人に分身する。
「な……!?」
(……まるでバルタン星人だな)
 その外見を知ったら、間違いなくワルドが怒りそうな引き合いをユーゼスは思い浮かべた。
「風の『偏在(ユビキタス)』……。風は偏在する。風の吹く所、いずことなくさまよい現れ、その距離は意志の力に比例する」
 ワルドの分身たちは懐から白い仮面を取り出し、顔につける。
「……あ、あの仮面の男も……!」
「そう、それも僕だ」
 そのセリフにピクリとユーゼスが反応したが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「これら1つ1つは、それぞれに意志と力を持っている。
 ―――さあ、少年少女諸君。せいぜい抵抗してくれたまえよ?」
 言うや否や、5人のワルドがそれぞれ個別に襲い掛かってくる。
 かくして、戦いが幕を開けたのだった。

 同じ属性のメイジ同士の戦いは、クラスと戦い方、そしてその時の状況が物を言う。
 例えば同属性のラインメイジ同士が戦った場合、一方は一点集中型の攻撃が得意、対するもう一方は面制圧のような広範囲にわたる攻撃が得意だとして、さてどちらが勝つだろうか。
 ……これはハッキリ言って『正解のない問い』であり、強いて言うなら正解の1つは『状況による』である。
 一点集中型が一撃で勝負を決するかも知れないし、逆に広範囲型が攻撃の隙を突いて仕留めるかも知れない。
 そのメイジの性格や気性もあるだろうし、精神力の総量にも若干の差があるだろう。
 要するに―――実際に戦ってみなければ、分からないのだ。
「!」
「ほう、よくやるものだ……!」
 『ウィンド・ブレイク』、『エア・ハンマー』、『エア・カッター』、『エア・ニードル』。
 ことごとく同じ魔法がぶつかり、相殺される。
 ……いくら同じ属性同士とは言え、ここまで攻撃が噛み合うことは通常あり得ない。
(遊ばれている……)
 タバサは、ワルドの行動をそう分析していた。
 それ以外に、わざわざ自分の攻撃に合わせてくる理由が思い当たらない。
 つまり完全に格下と見られているということであり―――そこに、つけ入る隙がある。
「………」
 立ち止まりながらの魔法の撃ち合いではラチが明かないと判断し、ワルドの周囲をぐるりと回転するようにして走り出す。
 そして呪文の詠唱を開始するが、
「次は『エア・ストーム』か!」
 あっさりと次の手を見破られた。このあたりはさすがと言うべきか。
 杖を構え、下手に動くなどという愚は犯さずにピタリと狙いをつけるワルド。
 そしてタバサはそんなワルドに構わず、
「……!」
 呪文の詠唱を中断し、旋回も止めて、一気にワルドへと接近した。
「何!?」
 虚を突かれたワルドもまた、『エア・ストーム』の詠唱を途中で中断してしまう。
(速い……!)
 ただ走っているだけだというのに、この青髪の少女のスピードはかなりのものだった。どう見ても戦闘に向いているようには見えないが、どこかで訓練でも受けたのだろうか。 
 ワルドは後方へと飛び、距離を取る。無論、迎撃のための呪文の詠唱も忘れない。
 放つ呪文は、
(『ライトニング・クラウド』……)
 ワルドの杖からバチバチと火花が散り、そして閃光とけたたましい音が炸裂し、稲妻が走る。
 バリィイイイイインッ!!
 その威力は分かっていた。まともに受ければ死んでしまう魔法だ。
 一昨日には実際に目にしたし、それ以前から知識として知っている。
 ―――だから、そんな魔法への対策など、タバサは使い魔を召喚する前から考案済みである。

 ワルドは、青髪の少女が叫び声を上げ、醜く焦げる情景を想像した。……あまり想像したくもなかったのだが、この魔法はそういう魔法なのだから仕方がない。
 しかし、想像していたような叫び声は聞こえない。
 肉が焦げる臭いもしない。
 どういうことだ、と目を凝らしてみると……。
「……水!?」
 『ウォーター・シールド』。その名の通り『水の盾』を発生させる、単純なドットスペル。
 火系統以外のメイジならば、ほとんど誰でも使える魔法。
 そんなものに、殺傷に長けた『ライトニング・クラウド』は止められていた。
「………」
 タバサは『ウォーター・シールド』を解除し、更に『フライ』を使って高速でワルドに接近した。
 バシャリと水のカタマリが飛散して髪や服が濡れるが、気にせず進む。
 ……ハルケギニアにおいて、『電気』はほとんど研究されていない。
 それは逆に言うと、ごく少数ではあるが研究はされているということである。
 タバサが常日頃から読みあさっている本の中には、1冊だけだがその電気について記されていた本もあった。
 それには“『ライトニング・クラウド』も電気の一つの形である”と書かれており、また“海水などは電気を通しやすいが、真水は電気を通しにくい”とも書かれていた。
 どうやら水というものは、不純物が少なければ少ないほど電気を通しにくくなるという性質があるらしい。
 タバサは、それを利用したのである。
「くっ!」
 空を飛びながら接近するタバサに向かって、ワルドは刃の杖を突き出す。何せ自分から接近してくれるのだから、これほど狙いやすい相手はいない。
 だがタバサは急激に軌道を修正して、その結果、
 ビッ!
 杖がタバサの左肩をえぐり、赤い血が噴き出した。
 通常、人間は痛みを感じれば少なからず動揺し、隙が生まれる。ワルドはそこを突いてタバサを更に攻撃するつもりだったのだが―――
(な……全くひるまない!?)
 目の前の少女は本当に人間なのか、と驚愕する。
 この戦い方は、自分の身体を『使い捨ての消耗品』のように捉えなければ出来ることではない。
 言葉で言うのは簡単だが、人間―――動物は基本的に、自分の身を守ることを最優先に行動するものだ。
「………」
 ワルドが呆気にとられている間に、タバサは詠唱を完了した。
 繰り出す魔法は『ブレイド』。魔法の刃が、ワルドの身体を貫通する。
「が……!」
 刺し貫かれながら、ワルドはタバサの顔を見た。
 ……まるで、人形だ。
 痛みに歪む様子も、戦いに対する恐怖や高揚も、勝利に対する喜びすらも見えない。
「貴様、何者……」
 タバサは答えない。
 答える必要など、ない。
 そしてワルドの身体は消えていく。どうやら自分が相手をしていたのは『偏在』で作られた分身だったらしい。
 それが完全に消えたことを確認すると、タバサはやはり無表情に、自分の左肩へと『治癒』をかけ始めたのであった。


「……さて。私の意見になるが、火系統は、非常に使い勝手が悪い」
「はあ?」
 ラ・ロシェールへと出発する前日、ユーゼスの研究室にてキュルケは彼の意見を聞いていた。
「……ちょっと聞き捨てならないわね。火は、四系統の中でも攻撃力は最強よ?」
「『単純な攻撃力』はな。しかし火は四系統の中で、最も『物理的な力』が弱いのだ」
「ぶつりてき?」
 そこから説明しなければ駄目か、とユーゼスは改めて説明する。
「土や水は確固たる『質量』があるし、風にも『押し出す力』があるが、火は単体では『力』がない。火事になって家が『燃え尽きた』ことはあっても、『家が吹き飛んだ』ことはないだろう。火事の原因が爆発にある場合は別としてな」
「…………むう」
「と言うか、他の系統との相性がおしなべて悪い。
 水は言うまでもないが、土も炭化させるまで焼き尽くして崩すか融解させるしかなく、風が相手では……お前が実際に体験したように霧散させられるか、周囲を真空にされて炎そのものを掻き消されるかだ」
「じゃ、じゃあ、どうしろってのよ!?」
 火の有用性や応用方法を聞きに来たのに、最初から『火は駄目な系統です』と言われてしまって焦るキュルケ。
 そんな彼女に、ユーゼスは平然と答えた。
「火を『空気の燃焼』として考えるから、そこで行き詰まるのだ。『熱のカタマリ』と考えろ」

 放った火球は、予想通りに掻き消される。
 何せこれで通算3度目である。分かりきっていたことだが、やはりムカつく光景だ。
 出来れば力押しで、火系統の優秀さをこの風のスクウェアメイジに見せ付けたかったのだが……仕方がない。
(重視するのは『火の勢い』じゃなくて、『熱』……)
 キュルケは意識を集中し、杖の先端に火球を生成する。
 自身の系統を象徴するような赤い髪がざわめき、彼女から強い魔力がほとばしっていることを窺わせる。
 火球はゆっくりと膨れ上がり、1メイルの大きさにまでなった時点で膨張を止めた。
 しかし、キュルケは火球に魔力を注ぐことを止めない。
「フッ……、火球の威力を上げているのかね?」
 馬鹿にしたような口調で、ワルドが問いかける。
 どれだけ威力を上げようとも、対象が『火』である以上は『風』の優位は揺るがない。
 まあ、せいぜい足掻くのを見物するか―――と、ワルドはキュルケが火球の『熱量』を上げていくのを見続けていた。
 そして1分ほど経過し、キュルケの頬を一筋の汗が流れた所で、
「行け!!」
 今のキュルケが作ることの出来る限界まで熱された火球が、ワルドへと放たれた。
 だが。
(……遅い。狙いも外れている)
 素人でも避けられるスピードで、しかも明らかに高めに撃ち出されていた。
 あれなら、わざわざ掻き消すまでもなく外れるだろう。
「やれやれ……」
 正直、拍子抜けである。
 落胆を隠そうともせず、ワルドは魔法の詠唱を開始した。キュルケは自分の攻撃が大きく外れたことに業を煮やしたのか、身を低くかがめながら杖を片手に突っ込んでくる。
 ちょうど先ほど放った火球を追いかけるような、しかし一定の距離を保つような速度だ。
(……ツェルプストー家も、この程度か)
 真正面から向かって来るキュルケへと『エア・ニードル』を放つ。
 風の槍はそのまま前進し、数秒後には鮮血を撒き散らして横たわる女の死体が―――
「っ、何!?」
 ワルドの予想を裏切り、キュルケは『エア・ニードル』を最小限の動きで回避した。
(何故だ!?)
 驚愕しながらも『エア・ニードル』を連発するワルド。さすがに近付いて来るにしたがってキュルケの回避動作も大きくなるが、しかし確実にキュルケはワルドの攻撃を回避していく。
(私の狙いは、それほど甘くはないはず……。感覚を狂わせる魔法が使われた形跡もない……まさか、撃ち出した後にエア・ニードルの『狙いがズラされている』のか!?)

 あり得ない。
 キュルケが行ったことと言えば、無意味に高温で速度も遅く、狙いも『人間1人分ほども外れている』火球を放った程度のはず。
「!」
 バッ、とその火球を睨む。
 異常なほど熱された火球は、キュルケに先行するようにして上方を飛んでいる。
「……子爵様はご存知かしら? 『熱』でも『風』は起こるのよ?」
 聞こえてきた声に、ワルドは目を見開いてキュルケを見た。
 空気を通して伝わってくる強力な熱によって顔には汗が浮き、赤い髪はその汗で額に張り付いており、そして張り付いていない髪は風になびいている。
 ―――熱対流、という現象がある。
 熱されて軽くなった流体が上方に動き、逆に冷たい流体が下方に動く、というものだ。
 この場合の『流体』とは『空気』のことである。
 ……無論、少々の風が吹こうとも、風魔法の『エア・ニードル』はそこまで狙いをズラしたりはしない。せいぜい胸を狙った攻撃が、肩や頭に当たる程度の狂いである。
 だが、キュルケにはそれで十分だった。
 それだけの誤差が生じていれば、動体視力と身のこなしで回避は可能だ。少し危なくはあるが。
「ええい!!」
 ワルドが『エア・ニードル』の照準を巨大な火球に向けるが、時すでに遅し。
「……!」
 さすがにあんな熱量の物が目の前で爆散してしまってはキュルケもタダでは済まないので、火球を消滅させる。直後に『エア・ニードル』が通り過ぎて、残った火の粉や熱を拡散させていった。
 そして気が付けば、ワルドとキュルケは手を伸ばせば届く位置にいる。
「くっ!」
 即座にワルドは杖を突き出し、キュルケを攻撃した。
 それをキュルケは身をひねって回避し、更に一歩を踏み込んでワルドの鳩尾にヒザを叩き込む。
「が……ほっ!」
 ラ・ロシェールにて、ワルドの攻撃の際の動きは見ていた。
 軍人としてとても完成されている、素晴らしい動きであった。
 だが、ツェルプストー家は軍人の家系。すなわち、
「……あなたたちが使う動きなんてね、赤ん坊の頃から見慣れてるのよ」
 言いながら、呼吸困難におちいるワルドの胸に杖を突きつけるキュルケ。
「少しばかり情熱が足りなかったわね、子爵様」
 ワルドは右手を上げて彼女を制止させようとするが、キュルケは構わずに炎をワルドにぶつけた。
「―――あら、消えちゃった。分身だったみたいね」
 額を流れる汗を右手で拭い、左手で髪をかき上げる。
「ま、そんなのであたしの相手が務まると思ったら大間違いってことよ!!」
 勝ち誇って笑い声を上げるキュルケ。
 普通であれば嫌味に見える光景だが、むしろそれが彼女の鮮烈さを際立たせていた。
 ―――人を惹きつける華々しさ、凄絶なまでの猛々しさ、そして燃え盛る炎を連想させる熱さ。
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーという女性は、これらの要素を全て合わせ持っている。


 ドガァァアアアアン!!
 ギーシュの得意な『錬金』で作られた、青銅のゴーレムが吹き飛ばされた。
「う、うう……」
(何で僕は、こんなところで魔法衛士隊の隊長と戦ってるんだろう……)
 心中で疑問を投げかけてみても、答えてくれる者は誰もいない。
 答えてくれそう(だと勝手にギーシュが思い込んでいる)な人物であるユーゼスも、ワルドとの戦闘の真っ最中だ。
(僕はどうやって勝てば……いや、どうやって生き延びればいいんだ!?)
 実力的には、完全に負けている。
 経験的には、圧倒的に劣っている。
 メイジのクラスでは、完膚なきまでに先を行かれている。
 つまり勝てる要素どころか、生き残る要素すら見当たらない。
(ど、どうしよう……)
 考えたって、悩んだって、分からない。
 そもそも、そんなに簡単に解決方法が見えるのなら、苦労しない。
 ドゴッ!!
「ぐぁっ!?」
 『エア・ハンマー』で殴られた。痛い。
「……どうやら2体ほどやられてしまったようだからね。もう少し君をいたぶっても良かったのだが、手早く終わりにさせてもらうよ」
「う、うううぅぅうぅぅ……!!」
 カツカツと足音を響かせながら、ワルドがこちらに向かって来る。
 怖い。
 這いつくばりながら、バラの造花の杖を握るギーシュ。
 だがその造花の花びらは、今の『エア・ハンマー』の衝撃でかなり散ってしまっていた。まるでワルドの行く道をいろどる花道のようだ。
 ―――今までの思い出が、雪崩のように蘇る。
(父上、母上、兄さんたち、レイナール、ギムリ、マリコルヌ……ああ、そう言えばモンモランシーとはケンカ別れしたままだった……)
 こんなことならモンモランシーにとっとと謝っておけば良かった、と後悔してももう遅い。
(結局、この前に払った300エキューも無駄になったなぁ……)
 ユーゼスに300エキュー返せ、と叫びたくなったが、死にそうな状態で金は役に立たない。
 思えば、ラ・ロシェールの宿屋でのユーゼスの話の内容も……。
「……あれ?」
 ふと思い出す。
『精神力の総量を増やすことがそう簡単に出来ない以上、その使い方を考えるべきだが……』
 問題なのは、使い方。
 ならば武器を持たせよう、とギーシュは提案したが、
『根本的な“改善”になっていないな。それに、持つ武器はせいぜい剣や槍だろう? 接近して拳をぶつける今と、あまり差が無い』
 と、ギリギリ及第点に届かない採点結果であった。
『……ゴーレムにこだわる必要もないと思うがな。例えば、トラップのようにその花びらを配置して……』
 ワルドは、自分の造花の花びらを踏みながら、こちらに歩いてきている。
「!!」
 慌てて『錬金』を唱える。ワルドが踏んでいた花びらはそれに反応し、その姿を鋭い青銅の刃に変えた。

 ザクッ!
「ぐっ!?」
 しかし、足を貫きはしなかった。足の側面、クルブシのやや足先よりの部分を切っただけである。
「くっ……、やってくれるな、坊や……!」
「あ、あわわわわ……」
 ワルドから物凄い形相で睨まれたので、ギーシュはガクガクと震えながら後ずさった。
(え、え、ええーと、他には、何て言ってたんだっけ……!?)
 とにかく大急ぎで、記憶の泉をザブザブ漁り始める。
『それは貴族の戦い方ではない、か。しかし人型のゴーレムにこだわっていては……。そうだ、いっそのこと“獣型”というのはどうだ?』
(って、相手はグリフォン隊の隊長、獣相手のエキスパートだぁぁああああああ!!)
 大体、自分は人型のゴーレムしか作ったことがない。ぶっつけ本番で上手くいくとも思えない。
『優美さに欠ける? 随分と下らんことを……いちいち怒るな、取りあえずお前がゴーレムの形にこだわりたいのは分かった。それでは……』
「…………うう」
 通用するのかなぁ、と不安になる。
 しかし、やらないと確実に死んでしまう。
 なのでギーシュは、バラの造花を振るった。
「む……!」
 ワルドが身構える。
 バラの花びらは踏まないように、気をつけながら歩いた。そもそも、もうバラの花びらが散乱した辺りは通りすぎている。
 だが油断をするわけにはいかない、先ほどのようなトラップが待ち構えている可能性もある。
 と、思っていたのだが。
「……?」
 自分の眼前には、何も出てこない。特に身体に痛みもない。
(不発か?)
 精神が酷く乱れている場合には集中が出来ないので、このようなことはよくある。
 所詮は学生か、とワルドは杖を振りかぶってギーシュに攻撃を仕掛けようとする。
「行け、ワルキューレ!!」
「何!?」
 しまった、後方にある花びらに『錬金』をかけていたのか、とワルドは急いで振り向いた。
「……!?」
 だが、ゴーレムの姿は見えない。
 ブラフか、と思って再びギーシュの方を向こうとして、
 ドスッ!
「ぬ……!」
 脚に、鋭い痛み。刺されたのだと理解するまで1秒ほど要した。
 まさかこの学生の言葉は全て偽りで、本当はワルキューレなど出しておらず、先ほどと同じように青銅の刃で刺されたのでは……と、刺された箇所に目をやると、
「……ゴーレム!?」
 ギーシュのゴーレム、槍を持ったワルキューレがそこにいた。
 だが、小さい。
「な……!!?」
 よく見渡してみると、先ほど散らした花びらの数だけ、女性の姿をかたどった青銅のゴーレムが存在している。
 ただし、30~40サントほどの大きさで。

『ゴーレムのサイズを小さくしてみろ』
『……いや、それだと力も落ちるし、戦力としては大幅ダウンになるんだが』
『使用する精神力が抑えられるのだから、数は揃えられるだろう。人海戦術を使いたい時には向いているのではないか?』
『いや、だから大きさと単体の戦力がともなっていないとだね!?』
 あの時は『何を言ってるんだコイツ』と思ったが、どうやら成功したようだ。
 ワラワラと群がる小型のワルキューレたちに、ワルドは面食らっている。
(小型のワルキューレ、というのも名前として味気がないな……そうだ、『プチ・ワルキューレ』という名前にしよう! ついでに大型のは『グラン・ワルキューレ』で!)
 浮かれるギーシュ。
 プチ・ワルキューレたちは、ザクザクとワルドの身体を刃で突き刺していく。
 だが。
 ビュゴォォオオオオオッッ!!
「ああっ!?」
 ワルドの身体にまとわりつくようにして発生した旋風によって、全て薙ぎ払われてしまった。
「本当に……やって……くれるね、ギーシュ・ド・グラモン君……。道理で振り向いてもゴーレムの姿が見えないわけだ……。何せ、視界に映らないほど小さかったのだからね……。しかし、たかがドット程度にここまで傷を負わされるなど、思ってもみなかったよ……!!」
「あ、いや、その、えっと」
 血まみれの姿の敵から怒気や殺気を向けられたので、ギーシュはしどろもどろになる。
 もはや打つ手は尽きた。
 今更、少しばかり大型のワルキューレを作ったところで、この男に通用するとは思えない。
 またユーゼスの言葉が頭をよぎる。
『……まったく、わがままな男だな。トラップは駄目、形状変化も駄目、サイズ変更も駄目。では何をしろと言うのだ』
『いや、だからワルキューレが今の姿と大きさを維持したままでだね……!』
(うぐぉぉぉぉおおおおおおおお~!!)
 今度こそ、ユーゼスによってもたらされた本当に最後のアイディアを思い出す。
(つ、通用してくれ……!)
 祈るように、造花を振るった。
 花びらが一枚舞って、青銅の戦乙女が現れた。
 ……大きさは人間大。武器は剣を持っているが、それ以外に取り立てて目立った点はない。
 ワルキューレは、ゆっくりと歩を進めてワルドに向かう。
「フン、最後の悪あがきか」
 ガシャン、ガシャンと歩いてくるワルキューレを、ワルドは『ウィンド・ブレイク』を使って吹き飛ばそうとする。
 ビュゴォウッ!!
「や、やった!」
「何だと!?」
 しかし、ワルキューレは多少は身体を動かしたものの、吹き飛ばされはしなかった。
「どういうことだ!? 最初に吹き飛ばしたものとは違うのか!?」
 驚愕している間にも、ワルキューレはゆっくりと歩み寄ってくる。
 そしてある程度の距離まで近付いた時点で、
「よ、よし、ワルキューレ! 『ディスタント・クラッシャー』だ!!」
「!?」
 またバラの造花を振るギーシュと、どんな攻撃が来るのかと身構えるワルド。
 しかしワルキューレは両腕をこちらに突き出すだけで、特にアクションは起こさない。
 一体何なのだ、といい加減にこの少年の相手が嫌になってきたワルドだったが、そんなことを思った次の瞬間、
 ドゴォオオッッ!!
「ご…………ハッ!」
 左腕が彼の胸を貫かんとでもするように、物凄い勢いで飛んで来た。

 口から血が吹き出る。
 ベキベキ、とアバラが折れ砕けていく音がする。
 ……よく見てみると、飛んで来た腕は完全にゴーレムと離れているわけではなく、鎖で繋がれている。
 そしてその腕の断面は、
(空洞では、ない……!?)
 中身に隙間が、それほど存在していない。土や粘土などの柔らかい物質ならばともかく、青銅のような金属製のゴーレムの場合、これではまともに動けるはずがない。
(……やたらと遅く動いていたのは、それでか……!)
 『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばせなかった理由も、これで合点がいった。ただ単純に、重かったのである。
 一方、そんな奇襲に成功したギーシュはと言うと、
(せ、成功した……!)
 ジャラジャラと鎖を巻き戻させながら、ぶはあ、と盛大に息を吐いていた。
 形を維持したいのならばワルキューレの装甲を厚くするか薄くするかしろ、と言われたことを思い出し、ならばと思いっきり厚くしてほとんど隙間すら無くなってしまったことに気付いた時には、もう生きた心地がしなかった。
 そして、彼の知人とやらが操っていた『ゴーレムやガーゴイルのような物』(としかユーゼスは説明してくれなかった)の武装、『ディスタント・クラッシャー』を模した攻撃。
 ユーゼスが説明した、その仕組みは単純だ。
 ワルキューレが、肘から先を切り離す。
 すかさず長めの鎖を『錬金』で製作して、2つの切断面を繋ぐ。
 それと同時に、切り離した腕の切断面に爆発物を『錬金』する。
 あとは『着火』で火を付けるだけ。
 なお、腕の切断面は真っ平らではなく筒状にしておかなければ、真っ直ぐ飛ばないので注意すること。
 ……何より重要なのは、これらの行程は一瞬以内の時間で行わなければならない点である。ボヤボヤしていると、切り離した腕が地面に落ちてしまうからだ。
 これだけの行程を瞬時に行うのはいくら何でも無理なので、ギーシュはワルキューレを作る際、腕に切れ目を入れ、ワルキューレの中にあらかじめ鎖を仕込み、更に火薬も仕込んでいた。
「よ、よぉし……!」
 そして、今発射したのは左腕。
 武器を持った右腕は、まだ残っている。
 ワルキューレはその右腕をワルドに向けて、
「がっ、ま……!」
 敵が右手を突き出してきたが、呼吸困難なために何を言っているのかよく分からないので、構わずに発射した。
 ドシュッッ!!!
 ワルドの身体が両断され、その身体が消えていく。
「ふ、ふはぁ~~……」
 思わずその場にへたり込むギーシュ。
 辛く険しい戦いだったが、この戦いを一言で表現するならば、
「セ、セコい……」
 これであろう。
 何しろ、有効な攻撃は全て『相手の油断や不意を突く攻撃』であったし、『正面からまともに打ち破った』要素など皆無である。
「今度は、もっと堂々とした戦いをしたいなぁ……」
 でも無理かなぁ、などと呟くギーシュであった。


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