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Fatal fuly―Mark of the zero―-08



「出稼ぎ、かい?」
「そ、アルビオンも大分不景気だしね。
 島を降りて港町あたりで少し食い扶持を稼ごうかと思ってるのさ」

 などと話が持ち出されたのは、世間では勤勉な学生は予習を終えてそろそろベッドに入ろうかという頃合で、酒場の賑わいも少しずつ収まりかける頃合であった。
 テリーとマチルダも寝酒にと春摘みの葡萄酒などを嗜み、レーズンチーズなどを摘んでいたのである。

「しかしテファを放り出していく訳にもいかないだろう」
「ハ、何の為にあたしが帰ってきたと思ってんだい」

 買出しに行かなくてもいいように、貯えてきたんだよ、とマチルダは豪語した。
 実際、大量の食料品や衣服が彼女が帰ってきた際に持ち込まれていた。しかし、先を見据えれば更なるものが必要にはなる。
 どちらかというとテリーは怪しい奴らがこないかどうかが心配だといいたかったのだが、自分が来る前はマチルダが出稼ぎに行っている間、テファが一人だった事を考えれば、ある程度は自衛の策があるということだろうと判断した。
 しかし、出稼ぎとなるとこれは困った事になる。
 自慢ではないが、腕っ節一本で食べてきたテリーにとって、真面目に働くというのはあまり縁の無い事だったのである。
 元いた街にしても、知り合いの店でエキシビジョンマッチなどを行えば食住を保障してくれる程度に実入りはあったし、放浪中でもそこらのジムなどに転がり込めば食い扶持は稼げた。
 だがそれは、あくまで放浪の中で手に入る仕事であって、根を下ろして行う真面目な仕事ではない。
 無論、サウスタウンヒーローとして名を馳せたテリーは、講演や小さな映画出演などもこなしている。
 ドキュメンタリー映画を撮るつもりだった映画はいつの間にかアクション映画になっていたりと、どうにも真っ当な仕事とはいえず、しかしそれで名を上げて少し頼み込めば荷運びやちょっとした肉体労働にありつく事は難しくなかった。
 問題は、それを続けようという意思がない根無し草だったのだからどうしようもない。
 こうして面と向かって出稼ぎをしなくてはならないとなると、少しうなる破目になった。

「あんただって用心棒程度なら出来るだろう?
 ラ・ロシェールの港町は荒くれ者が多いしね、あんたみたいながたいのでかい奴なら雇ってくれるところは少なくないだろうさ」
「おいおい、俺は紳士的な男なんだぜ。何も喧嘩を屋台で売り歩いている訳じゃぁないんだ」
「どうだかね。ずっと大安売りのラッパを吹いてる気がするよ」
「客が来ちまったらしょうがない。たった一つしかない商品を、買っていただくまで、さ」
「やっぱり安いじゃないか」
「そいつを言われると痛いな」

 などと二人がじゃれ合いながら葡萄酒を飲み、出稼ぎの計画を練っていった。
 久方ぶりに帰って来たマチルダに甘えるように、テファはその膝枕で寝入っており、どういうわけか寝ぼけてテリーの手まで引っつかんでいた。
 その光景を見返し、テリーとマチルダは苦笑を漏らす。

「可愛い娘の為にってとこだな」
「あたしにとっては妹だよ。ったく」
「ソーリィ」

 マチルダの反論に、おどけてテリーは言って見せた。がたいに似合わない一礼をして。
 春の陽気に当てられたのかもしれない。マチルダも思わず笑みをこぼすのであった。

     ※

 ラ・ロシェールの港町はアルビオンに行く為に必ず……という訳ではないが、トリステインにとっては唯一の港町である。
 巨大な樹木からなる港は、それだけで人々を雄大な気持ちにさせる。
 とはいえ、船乗りに荒くれ者が多いのは古今東西同じ事で、酒場には喧嘩のための張り紙などがあったりもする。

「……何々、喧嘩をするときはせめて椅子をお使いください、か。荒っぽいな」
「刃傷沙汰よりいいってことさね。ここで用心棒でもすればいい稼ぎにはなると思うんだけれども」

 オーケイ、と肩を竦めてテリーが店へと入る。
 するとここでは日常茶飯事なのか、酒に酔った男達が騒ぎ、椅子を持って睨み合っていた。
 初めてそれをみたテリーは呆れたようになったが、マチルダは顔を顰めている。
 どうにもしまらない雰囲気だな、などとテリーが思っていると、睨み合いの決着がついたようで、片方の男がもう一人の頭を椅子で殴り飛ばし、相手が吹き飛んだところで歓声が上がった。
 酒の力もあるのだろうが、観客の声に押されたように男が力瘤を作る。
 そして倒れた男の頭を殴り、蹴り飛ばした。
 歯が折れたのか、倒れた男は口を押さえてのた打ち回る。
 みれば血が滴り落ち、それが更なる熱狂を呼んだ。
 とどめとばかりに男が腰に刺していたサーベルを抜き放ち――

「Hey、そこまでだ。正義のヒーローのお出ましって奴でな!」

 テリーが声をかける。
 熱狂を途中で止められた男と観客は突如として現れたように思えたテリーをにらむが、テリーはどこ吹く風で

「ここじゃぁ、喧嘩にゃせめて椅子を使うんだろう?
 刃物を出しちゃぁおしまいだ。それに、相手はもうギブアップって奴だからな!」
「るっせぇ! こいつぁな、俺達を危うく殺すところだったんだ! それのお返しをして何がわりぃってんだよ!」

 その言葉にテリーが眉をひそめる。

「殺す殺さないってのは、穏やかじゃないな。
 一体何があったんだ?」
「こいつはな、元々アルビオンの軍人だったのよ。だが負け戦に次ぐ負け戦で俺達に払う金がなくなって、戦場に放り込もうとしやがった!
 だったら殺されても文句はいえねぇはずだ!」

 その言葉に何か感じるところがあったのか、倒れた男が呻くが、歯が折られた状態ではまともな言葉にもなりはしない。

「OK、事情はよくわかった。だが、何も殺すなんて事はないだろう?
 殺しちまったら――後でそいつが何を考えてたか知っても、一生本当の答えが得られないんだからな。
 有り余ってるんなら、俺が一丁相手をしてやるよ」

 その言葉に、男達だけでなくマチルダも一瞬の沈黙を得る。
 だが、テリーはゆっくりと指をふって拳を前に突き出す。
 それを合図にしたのか、男が堂に入った構えでサーベルを振り回し、テリーに肉薄するが――

「Burning!」

 ――熊とは違い、完全な戦闘態勢から放った気を纏った拳による突撃は、サーベルがテリーに触れる間もなく、男の腹を殴り飛ばし、うめき声すら上げさせる事なく沈黙させる事に成功した。
 しかしそれで終わらず、男が倒された事をみた周りの観客が次々に立ち上がり、それぞれ得物を携えた。
どうやら周りで熱狂していた男達は、完全にこの傭兵崩れの仲間だったようだ。

「……ヒュゥ! タン先生のところにいた時の百人組み手よりスリリングだ!」

 いいながらテリーは口を笑みの形に保つ。
 ――決着は、テリーがマチルダをかばうために一度だけ大きく斬られた二の腕の傷だけを受け、十分と立たずに十五人の沈黙した男達のピラミッドが出来上がるというものであった。

     ※

 金の酒樽亭にテリーが用心棒として雇われてから数日、二週間もたてば、金の酒樽亭は半月前とは比べ物にならないほど治安のいい酒場となった。
 何せ元々カフェと名の付く酒場でショーファイトをしていたテリーが用心棒となっているのである。
 気さくな話からちょっとしたファイティングショーまでこなすうちに、用心棒としてではなく、看板娘ならぬ看板男としてテリーは人気を勝ち取っていた。
 マチルダはマチルダで何かしら仕事をしているようで、テリーとマチルダが合流するのは、酒場が店じまいをする深夜になってからである。
 そんな金の酒樽亭で、毎日のようにテリーに話しかけてくる男がいた。
 初日に歯を折られていたアルビオンの軍人である。
 最初は命の恩人であるというテリーに、礼を入れるために正装をして待ち続けたという彼は、数日もしないうちにテリーの親友のようにくだらない話を続ける気さくな男と化した。

「するとテリーはアルビオンから出稼ぎに降りてきたのか?」
「ああ、なんだかうちの財布の精霊様が、アルビオンじゃ不景気だっていうもんでね」
「そいつは当然だな……まだ中心地じゃ安心だろうが、今のアルビオンはそこかしこで戦闘が起こっている」

 ふぅん? と、テリーはエールを喉に流し込みながら続きを促した。
 ここに来てから半月、聞く話といえばトリステインの話題が七に、アルビオンの戦争の話題が三なのだ。

「俺は王党派についていたんだが……多勢に無勢だな。傭兵を雇うには金がかかる。
 金を持った貴族が軒並み叛旗を翻した。革命だよ……。俺を取り立てた貴族も叛旗を翻してな、家族は散り散り、部下として使っていた奴らもこれ以上雇えないと思って、船に乗せて降ろそうとしたら、後はあいつらの言うとおりさ」

 戦闘に巻き込まれ、守ろうとした奴から危うく殺されかけたって訳さ、と、男が一気にウィスキーを飲み干した。
 テリーはなにやらやるせないような気持ちになりながら、段々とアルビオンに残したテファの事が心配になってきた。
 マチルダはこの事を知っているのだろうか?
 そう考えると、ここで用心棒をしながら酒を飲むというのが、どうにも尻の座りが悪くなってくる。

「……はは、家族を残してきたのなら早く帰るか、降ろした方がいいぞ。
 民間人なら奴らもまだ手出しはしないだろうからな」

 王制が崩壊したら知らないが、次のスヴェルの月夜に船が出るだろうから、と男は船の予定表を渡してくれた。
 お前はどうするんだとテリーが聞くと

「…………奴らさ、なんとなく気持ちが悪いんだ。
 何かに操られてるっていっちゃなんだが、虚無の魔法だとかなんだとか、俺の上官もそっちにいっちまった。
 俺は嫌だね。操られたように生きる軍人なんざ。
 それなら、騎士として殺してくれる王様がよっぽど好みさ」

 勿論次の船で戻って、生き延びて戦闘に参加するさ、と呟いてから、男は金貨を置いてカウンターから離れていった。
 ウィスキー三杯の料金にしては多すぎる代金だが、恐らくもう金銭に執着などないのだろう。
 テリーは黙ってその金貨をつまみ上げ、少しの間眺めてから、ゆっくりと立ち上がった。

     ※

「なぁ、マチルダ」
「んぁ? なんだい、あたしゃ今日も空振り続きでぐったりしてるんだけどね」

 いってマチルダは夕食の鳥の照り焼きを食いちぎる。豪快な食べ方で、マナーも何もあったものではないと思うが、不思議とマチルダに関しては何をしても様になるもんだとテリーは思っている。

「信念、って奴は強いよな」
「藪から棒だね、相変わらず。
 そりゃ強いよ、あたしだってテファを守るためなら何だってするからね」

 マチルダが口の端を吊り上げて笑う。威嚇するような笑い方だが、ふ、と、テリーはその口の端がひくついている事に気づいた。

「例えば、犯罪……盗みとか、か?」

 ガタリと、マチルダが立ち上がりかける。だがそれ以上行動を起こすでもなく、やがてゆっくりと椅子に座りなおしてテリーをにらみつけた。
 ――マチルダの正体、いや、もう一つの顔は、貴族専門の泥棒、土くれのフーケである。
 ここ暫くはフーケとして活動していなかったが、それはテリーという存在を警戒していたからだ。

「…………だったら、なんだってんだい? あたしを衛兵や貴族に突き出そうって?」
「まさか! 盗みは犯罪だが、それをいったら俺だって捕まるぜ。なんせ元ストリートチルドレンだからな。
 弟を食べさせていくために人を殴り倒し、色々かっぱらった経験もある。そうしなきゃ、生きていけなかったのさ……」

 褒められた事じゃないが、テファを食べさせていくためなら、俺がどうこう言えることじゃない、とテリーは小さく笑った。その言葉にマチルダが、しかし疑惑の目をむけ

「奇麗事はやめな。巷を騒がす盗賊だ、捕まえれば懸賞金や報奨金だって貰える。俺だって盗みをした? ハッ、あたしと一緒にしてもらいたくないね」

 エールをぐい、と飲み干す。照り焼きを喰らい、マチルダがその骨を皿へとたたきつけた。

「あたしは貴族が憎い、憎すぎてたまらないさ。追いやられた記憶もそうだし、何もわからない少女一人を追い立てる、アルビオン王家がだいっきらいだね……!」
「……俺は、貴族がどうのこうのだなんてわからない。それで、マチルダ。お前さんは復讐や私怨の為に盗みをしてるのか?」

 テリーが小さく呟く。

「俺は、父親を殺した相手を十年以上追い続けた。復讐の為だけに生きたっていっても過言じゃない。
 ……そしてとうとう俺は復讐を成し遂げたよ。なんせ、二回も相手を殺した。一回目は結局生きていたが――二度目は、ビルの高層から落ちる相手に、差し伸べた手を払いのけられながら――」

 エールのジョッキを手で奥に追いやり、椅子にもたれかけて、天井を仰ぎながらテリーが大きく息を吐く。

「俺はそいつの息子を自分の息子として育ててる。親代わりになれたかどうかは知らないが、贖罪、ってのも、あったんだろう、な。
 ……今でも夢に見る。復讐を成し遂げて、俺は抜け殻になっちまった。夢にそいつが出てくるんだ。どうした、テリー。それが私を殺した男の生き様か、ってね。おまけにあの手の温度まで蘇る」

 ゆっくりとテリーが体を起こし、マチルダをじっと見た。

「だからせめて、俺がいる間は、少し信じてやってくれないか。
 あの子に、知らない内に、貴族の復讐の重荷を背負わせるのは、辛すぎるだろう。
 親の借金は……子に背負わせるもんじゃぁ、ないぜ。俺みたいに不器用なのは、損だ」

その言葉に、マチルダは鋭い目つきのまま――しかし、ふ、と笑って

「……説教臭くなったら親父だって知ってるかい?
 いいさね、ともかく今は休業中なんだ。それに……言わないどくれよ。あたしが盗みに手を染めてた事を知った時のあの子の泣き顔を――あたしが毎夜夢にみないとでも、思ったのかい」
「もう三十を超えた中年さ……ま、今日は互いに酒を飲み明かして、夢を見ないほどに酔っ払っちまおうか」
「そんなだから今ここで用心棒しか仕事がないんだろうに、テリー」

 少しばかり酒と食べ物で膨れたテリーの腹をつまみ、マチルダが言う。実際は鍛え上げられた腹筋にそうそう余剰の肉はないのだが。しかしテリーは手にしていたグラスをテーブルの上に置き、笑いながら返した。

「よしてくれよ。中年の親父の腹なんてこんなもんだろ?」
「だとすれば、比較対象の選定が難しくなるねぇ。でも、テリー。ありがと」
「何の話、かな? ちょっと酔っ払ってて分からないぜ」
「……歳だね」
「かもしれないな」

 翌日、二日酔いの頭を押さえながらも、迎え酒を駆使して何とかその日の仕事を終え
 帰路につくテリーが、かつてシンボルアイテムだった帽子がない事をこれほど悔やんだ事はなかった。
 一つは、珍しくエールを立て続けに十杯も飲んだ事。
 一つは、別れ際に湿っぽい話をしたとはいえ、ここ暫く陽気に話し続けていた友人が血まみれで倒れている事。
 一つは、その男を囲んでいる傭兵崩れの男達の刃物が血にまみれていた事。
 そして最後は――その男が呟いていた名前と、落ちたロケットから見えた写真に――テリーの家族となった、小さな騎士様の顔が見えた事――

「……参った、な。顔を隠す帽子がないんじゃ、雨が降ったってごまかせないじゃないか」
「てめぇ、あの時の――」

 男達が声をあげるが、テリーはそれをゆっくりと頭をふって止め

「――Go bang」

 ラ・ロシェールの路地裏で、一瞬夜の闇が、大地から吹き出る輝きによって消し去られ――

     ※


「行くのか、あんたが来てくれてから随分と客層がよくなってたんだが……」
「悪いな、マスター。どうやら、帰る家にでっかい忘れ物があったみたいでね」

 苦々しく笑いながら、テリーは上を指差した。
 当面の宿へと帰ったテリーはマチルダと相談し、出稼ぎを切り上げてアルビオンへ戻る事へとした。
 どうやらマチルダがアルビオンから降りた理由は、昔の稼業の仲間達から情報を買う事が主目的だったらしい。
 出稼ぎというのはその口実で、テリーを降ろしたのも、いったん動向を探るためだったという。
 だが、アルビオンの革命が本当だとわかった今はテファを一人にさせておく理由がない。
 テリーが王家に何らかの感情――それも、悪感情ではない――を抱いているのに気づいたマチルダだったが、それに関しては何も言わずに
 スヴェルの月夜に急ぎ帰郷する事に決めたのである。

「ああ、そうだ。マスター。悪いんだが――」

 テリーが金貨をテーブルに置き、マスターがそれを受け取る。
 この後にテリーが金の酒樽亭を訪れる事はなかったが――

     ※

「ねぇワルド、こんな酒場に何の用だというの? ロックとミスタ・ギトーを放っておいて」
「彼らには彼らのやり方があるだろう。ルイズ、情報というものはこういう場所に集うものだ。
 荒くれ者が集うなら、荒事の情報がね……マスター、とりあえずエールを貰えるかな?」

 その夜、金の酒樽亭に三人の男女が入ってきた。
 カウンターに座り、注文をとろうとすると、しかしマスターがそれを制し

「すみません、お客さん。その席は予約が入ってまして……」
「……こんな酒場で予約かい? いや、失礼」
「構わないですよ。いや、しかしね――本来なら、今日も、そこで二人の男が飲んでいたはずなんだと、いわれちゃぁ、仕方ないじゃ、ないですか」


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