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谷まゼロ-10


「ほっほっほ、なんとまあ、学院の皆が寝静まってるうちにそんなことがあったとはのう」

オスマン氏は、陽気な声でそう言った。
昨晩、盗賊土くれのフーケが宝物庫に侵入し、
一時、『破壊の杖』を奪われたことが、学院中に知れ渡っていたのだ。
そして、ルイズの使い魔である谷がフーケを撃退し、『破壊の杖』を取り戻した……ということになっている。
ルイズとキュルケ、そして谷は、学院長室に呼び出され、
昨晩起きたことを、学院長であるオスマン氏に報告したのだった。

「この学院に、盗みに入る輩がいたということも、大いに驚かされた事実ではある。
 だが、それよりも増して、生徒たちが自身の力で、このトリステイン王国を騒がしてる盗賊を、
 追い返してしまうとは……惜しくも逃げられてしまったのはあれだが、真に天晴れであると言えよう。
 『破壊の杖』も無事だしのう、宝物庫の扉が壊れたぐらいは、良しとしておくべきであろうて」

ルイズは詳細を報告する時、谷に責任の追及が及ばないように、
宝物庫の扉を壊したのも、フーケの仕業であると、嘘をついたのだ。
少しではあるが、嘘をついたことについての罪悪感があった。
オスマン氏は、ルイズたちに賞賛の言葉を一通り述べた後、
その脇にひっそりと立っている人物に向って、不思議そうに言った。

「ところでミス・ロングビル?その怪我はどうしたのだ?えらくボロボロではないか」

その人物とは、ミス・ロングビルこと、今回の騒動の首謀者、土くれのフーケそのひとであった。
フーケは松葉づえをつき、首には物々しいギプスが嵌められていた。目の下には痣が出来ている。

「え、ええ。あの、その……。昨日土くれのフーケと戦った際に少々……」
「おお!それは大変であったのう!名誉の負傷というわけだな!」

本当に大変だったわよ!とフーケは心の中で盛大にツッコミを入れた。
何故、夜空の星になったフーケがこの場にいるのか。
そのことの仔細を説明するには、昨晩まで時間を遡らなければならない。


昨夜、谷がフーケを殴り飛ばした後、ルイズにあることを言ったのだ。

「なんですって!?フーケを学院に引き渡さないですって!?」

あれほどのことがあったのにもかかわらず、谷は涼しげな態度であった。
キュルケはというと、友人のタバサを呼び寄せ、そのタバサの使い魔である風竜を、空に飛ばしてもらって、
遥か遠くまで飛ばされていったフーケを回収しに行っていた。
その二人が、丁度ルイズと谷の会話が終わったときに帰って来た。
ルイズと谷の様子がおかしいと感じたキュルケは、ルイズに尋ねた。

「何かあったの?あなた、いかにも自分は不機嫌ですって顔してるじゃない」
「どうもこうもないわよ……タニがね……」

ルイズは谷が自分に言ったことをそのままキュルケに伝えた。

谷は、フーケは学院に引き渡さずに、
自分が元の世界に帰るための方法を探すのに、フーケを手伝わせると言ったのだ。
確かに、谷にとっては、盗賊を捕まえたからといって何も得るものはない。
谷が、名誉や報償など欲しがるはずもない。
それならいっそのこと、弱みを握って、フーケを利用したほうが良いと考えたのだろう。

目を覚ましたフーケは、谷の姿を見るなり慌てて逃げだそうとしたが、
谷に首根っこを掴まれ、逃げ場を失った。
そして、嫌というほど谷に脅され、谷の手伝いをすると承諾した。
谷曰く、『死ぬ気で探さないとぶっ殺す』とのことだ。
フーケの顔に、立てた人差し指を向け、威圧感たっぷりに言ってのけたのだ。
これには、谷に対して絶大な畏怖を抱いているフーケには酷であり、とても逆らうことができなかった。
フーケは、谷のいうことを聞くしかなかった。
そして今現在に至る。


フーケは学院長のオスマン氏に対して、申し訳なさそうに言う。

「あの、療養したいと思いますので、しばらくお暇を頂けませんでしょうか?秘書は休業ということで……」

それは、谷が元の世界に帰るための方法を探す手伝いをするためである。
オスマン氏は、少しがっかりしたような表情をしたが、
仕方がないことだと割り切ったのか、髭を撫でながら、優しげな声で言った。

「よかろう。その怪我で仕事をさせるのは酷であるからの。ゆっくり静養しなさい」

そういうと、オスマン氏は谷が居る方向に向きなおった。
オスマン氏も、谷に対して色々と怪しむところはあったものの、そこはあえて追及しなかった。
それよりも、谷がフーケが盗み出そうとした『破壊の杖』について執拗に聞いて来たことに興味を持った。

「さて、タニ君といったかな?君はこの破壊の杖の出所について気になっているようだから
 それについて答えてしんぜよう。まあ、取り戻してくれた、お礼と思ってくれていい」

オスマン氏は、破壊の杖にまつわる話を続けて言った。

「あれをくれたのは、私の命の恩人じゃ。だが、その恩人はもう三十年前に死んでしもうた。
 彼は見慣れぬ格好をしており、ワイバーンに襲われていた私を、もう一本の破壊の杖で、救ってくれた。
 礼を言おうと思ったが、すでに彼は重傷を負っており、その場で息絶えた。
 私は、彼が使った一本を彼の墓に埋め、もう一本を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。……恩人の形見としてな」

オスマン氏は遠い目になった。

「彼は死ぬ間際まで、うわ言のように繰り返しておった。『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』と、
 私は彼が何を言ってるかわからなかった。しかし、切な願いであったことはわかる」

ルイズがオスマン氏の言葉にハッとして、口を挟んだ。

「オールド・オスマン!その人は別の世界から来たんですか!?もしそうなら……、
 タニも、……タニも別の世界から来たんです!それで、彼も元の世界に帰る方法さがしているんです!
 なにか手掛かりはないんですか!?」

オスマン氏は驚き、目を見開いた。
だが、柔軟な思考によって、ルイズの言ってることを呑み込み、理解して言った。

「それが事実だとしても、私にはわからん。彼がどんな方法でこっちの世界にきたのか最後までわからんかったのだ」

ルイズはがっくりと、肩を落とした。
だが、一方の谷は、この答えをある程度予想していたのだろう。一見平然としている。
谷がオスマン氏に『破壊の杖』について聞いたのにはわけがある。
その『破壊の杖』というのが、谷の世界、地球に存在する兵器であったからだ。
こちらでは『破壊の杖』と呼ばれていたが、実際は、『M72ロケットランチャー』であった。
もちろん谷は、その兵器の名前も詳細も知らなかったが、それが、自分の世界の物だとは理解できた。
だからこそ、『破壊の杖』の出所を、オスマン氏に聞いたのだ。

そして、わかったことが一つ。
この学院の外にも、自分が地球に帰るための術がどこかにあるのかもしれないいう可能性。
谷にはある決心が胸にあった。


女子寮のルイズの部屋に戻ってきた谷は、荷造りをしていた。
といっても、荷造りしないといけないほどの荷物は、持ち合わせてなかった。
シエスタから餞別としてもらった、保存のきく食料などを麻袋に詰め込むという、なんとも粗雑なやりかたであった。

その様子をベットに座り、膝を抱え、どこか憂いに満ちた表情したルイズは見つめていた。
ルイズに元気がないのは当然であった。
谷は学院を出ていくことにしたのだから。
勿論それは、元の世界に帰る方法を探すためである。
谷は、こちらの世界に詳しいフーケを連れ、あちこち回ってみるつもりであった。
それは、谷が学院に居ても、何もできることがないと判断したからでもある。
少なくとも、ここでじっとしているよりは、可能性が上がるだろうと谷は思っていた。

ルイズには、止めることができなかった。止められるはずがなかった。
谷は一刻も早く島さんに会いたいのだ。そのためなら谷は何だってするだろう。
そのことをルイズは、よく理解しているつもりであった。
そして、自分もついて行くとは言わなかった。自分の役割を果たさなければならないからだ。
ルイズは今にも泣きだしそうな声で谷に向って言った。

「わたしは、この学院で、あんたを帰す方法をさがすわ……」
「当たり前だろ」

谷は、そうでなければ困るといった風に、そう答えた。
荷造りを終え、荷物が詰まった麻袋を肩にかけ、谷が立ち上がった。
おそらく、谷は、このままルイズに別れも告げずに出ていってしまうだろう。
唇を一文字に結び、ルイズはベットから飛び降りて、谷の下に駆け寄った。
突然、自分の目の前に来たルイズを見ると、谷は足を止めた。
何か用があるのだろうと思ったのだった。

しかし、待てども待てどもルイズは何も喋らない。
業を煮やした谷はルイズの横を通り過ぎ、部屋を出ていこうとした。

慌ててルイズは谷に喋りかけた。
よくよく見てみれば、ルイズの顔は涙に濡れていた。

「……ぇぐ……うぅっ、必ず探し出すからっ!タニがシマサンと会えるように絶対!
 うう……だから、あんたも……えぐっ……あ、あ。……うぅ……あ。
 それと……ゴメンなさい。わたしが呼び出したりしなければ……ヒクっ。
 わたしと、出会ってなければ、こんなことにならなかったはずなのに……うぅ」

最後は言葉にならなかった。絞り出すかのようにルイズは泣きじゃくりながら言ったのだった。
何故泣いているのか。それは谷があまりにもかわいそうであったからだ。

谷は、島さんに会えるその時まで、この何も知らないこの世界を、さまよい続けるだろう。
人生を照らす唯一の光である島さんを取り戻すために。
答えが見つかる保証はどこにもない。もし見つからなかったらならば、この地獄で一生を終えることになる。
切に渇望し、そして夢を見たまま、枯れて朽ち果てるのだ。それはあまりにも残酷過ぎた。

谷は島さんと一緒にいるべきである。

ギーシュとの決闘を経て、ルイズが出した答えである。
どこまでも熱く、そして直情的で、人生でただ一人を愛することができる人間、それが谷だった。
その自分の命よりも大切な島さんを愛する谷を、この世界に留まらせることは大罪のように思えたのだ。
だからこそ、谷と約束したのだ。元の世界に帰してあげると。
それはまさしく本心から出た約束であった。
ルイズは、使い魔とか関係なしに、谷に対して特別な感情を持っていた。
しかしルイズ自身、その感情が何であるかわからなかった。
だが、谷の願いを叶えてあげるための、努力は惜しまないつもりであった。

心の中がない交ぜになり、わけのわからないまま、
ルイズは嗚咽を漏らしながら、涙をこぼし続けた。

さすがの谷も、そんなルイズの様子に困り果てていた。
異性に目の前で泣かれるという慣れない状況に、谷はどうすればいいかわからなかった。
苛立ちを抑えるように、ガリガリと頭を掻いた。

そして谷は自分から、ルイズに喋りかけたのだ。
何故、こんなことをルイズに話したのか。それは本人にもわからない。
何故か話しておかなければならない気がしたのだ。
谷の喋る声は、いつもと違い、どこか静けさを纏っていた。

「オレは……オレが、島さんと離れ離れになってわかったことがある」

突然、自分のことについて喋り始めた谷に、ルイズは泣くことを忘れてしまうほど驚いた。
基本的に、谷は自分のことを話さないからだった。
ルイズは、涙で濡れた顔を上げ、谷を見た。谷の言葉を一言も聞き漏らすまいと神経を集中させる。

「ずっと疑問だった。……オレが、小さい頃からずっと、毎日がクソつまらないのに、
 どうして自分が生まれてきたのかわからなかった」

昔、幼かった谷がそのことを幼稚園の保母に聞いたことがあった。
しかし、保母は困ったように苦々しげな顔をするだけで答えてくれなかった。
保母にも、正しいと思う答えが、わからなかったのだ。

そして、それからだった。谷が顔を覆い隠す仮面をつけるようになったのは。
……谷は仮面をつけていると、自然と気持ちがおちついたのだ。
つまらない現実と隔てを置き、外部への興味を断ち切り、自分の世界に籠ったのだ。
そんな彼にとって唯一の楽しみは読書だけであった。ただそれだけの人生であったのだ。

ただし……高校生になり一か月が経った時、谷の中で激変が起きた。

谷は、興味を持つ筈のない他人に恋したのだ。

他人への興味を失い、信じられる人さえ誰一人もいない彼が、一人の女性が好きになったのだ。
これは異常なことであった。
他人と交わることを拒絶する壁を一瞬にして突き抜け、
その深く、誰にも触らせたことがない胸の奥まで、島さんという存在が谷の中に入って来たのだ。
そして、生まれて初めて、谷は仮面の外の世界に興味を持ったのだ。

自分を守るための檻から出て、触れてみたいと思ったのだ。
谷が島さんの魅力について語るとしたら、彼はこう言うだろう。

包み込むような“可愛らしくやさしいけど強い”そして“とてもあたたかい”ホワッっとしたものがあると。

谷は一目見たそのときから、自分の世界を一変させてくれる可能性を、島さんに見たのだろう。
否、もう出会った時にはすでに……だがそれを谷が理解していたとは限らない。

「だけど……今オレはわかったんだ。人が何のために生まれてくるのかわかったんだ」

ルイズは谷の話に夢中になっていた。

ルイズも不出来である自分と、いつも優秀な姉たちと比較され、親からも教師からも、怒られてばかりだった。
そして、学院に入ってからも、精一杯努力を重ねていたにもかかわらず、魔法は一向に上達せず、
周囲の人間からは馬鹿にされ続けた。ルイズが、悔し涙を飲んだのは一度や二度ではない。
もう何もかもが嫌になり、自分が何故ここにいるのか、何故生まれてきたのか、疑問に思ったことさえある。
そのどんなに考えてもわからなかった疑問の答えを、今、目の前の谷が、紐解こうとしていた。

なんのために……わたしはなんのために生まれてきたの……?
わたしはヴァリエール家の三女……でもそれ以外はなんなの?わたしはいったい……?

谷の頭の中に走馬灯のように今までのことが蘇ってくる。
ゆっくりと、そして意味深な言葉をルイズに向って、谷は言い放った。

『人は人と出会うために生まれてくるんだ』

「そしてオレは、島さんと会えたんだ」

一度含みを持たせ、ルイズの顔を見据えて谷はルイズに問いかけた。

「……お前は誰だ?」

谷の言葉は、まるで電撃のように体中に駆け巡り、ルイズに衝撃を与えた。
世界が揺れているような感覚に襲われる。頭を両手で抱え、よろめき倒れそうになった。
ルイズの頭では様々な想いが交錯していた。

わたしは、わたしは誰と……?誰と出会うっていうの?わたしは誰と出会うために生まれてきたの?
……タニなの?タニと会うために?いえ……違う!!違う!……わたしは!わたしは……!!!

このときルイズの口が何かを呟くように動いていたかは定かではない。
しかし次の瞬間、思いがけない現象が起きた。

向かい合って立つ、ルイズと谷の間を光が駆け抜けたのだ。
光は、二人が気がついたあとも、輝き続けていた。
呆然と立っている二人が、光がやってくる方向に目をやると、
その先には大きな光る鏡のようなものが現れていた。

「……これってまさか!!!」

まさしく、谷がこの世界に訪れるために通ってきた、世界と世界を繋ぐ扉であった。
二人は直感でそうであると理解できた。何故それが今、出てきたかはわからない。
だが、この千載一遇のチャンスを、谷が見逃すはずがなかった。
これを通れば、島さんの世界に帰ることができる。そう信じた。
はやる気持ちを抑えられない谷は、何もかも放り捨て、光る鏡に駆け込もうとする。

「タニっ!!!!」

喉が裂けそうなまでの大声で、谷を呼び止めたのはルイズであった。ピタリと谷は歩を止めた。ルイズに顔を向ける。
ルイズは、何か谷に言わなければならないという衝動に駆られていた。
もう二度と会えないということは、両者ともわかっていた。
本当に最後の言葉なのだ。しかし、言葉を選んでいる暇はない。

なんて言えばいいの!?別れの言葉!?わたしを忘れないでね、とか!?お礼?行かないで!?
それとも、わたしの名前を覚えていて欲しいから、わたしの名前はルイズよ!とか!?
でも、でも……それよりも……わたしは!!わたしはタニに……!!

泣きそうな顔を必死に笑顔に変え、ルイズは握りこぶしを作り、谷向って差し出した。
そして、涙ぐんだ声で高らかに言った。

「シマサンとうまくいかなかったら承知しないんだからねっ!」

「何言ってんだっ!!うまくいくに決まってるだろ!」

谷も握りこぶしを体の前に持ってきて、力強く吠えた。
ルイズは、自分から谷の拳と自分の拳を、打ち合わせた。小気味良い音が部屋に響く。

谷は、次の瞬間、一度も振り返らずに、何の未練もなく光の中に消えていった。
ルイズと谷とっては、今生の別れであった。

谷が元の世界に帰ったのにもかかわらず、光る鏡のようなものは存在し続けた。
そして、まるで谷と入れ替わるのように、光の中から何かの塊が転がり出てきた。
その瞬間、役目を終えたかのように、光はすぐさま消えていった。
光る鏡から現れた塊は、ルイズの部屋の床を転がると悪態をつき始めた。

「痛ってぇ!!!なんだ今の!?というか、今すれ違った仮面の奴って、
 前に電車の中で俺を突き飛ばしたやつじゃないのか!?なんだって俺がこんな目に……」

谷と入れ替わりに出てきたのは、青年であった。
青年は、自分の身に降りかかった理不尽に対して憤慨を覚えていたが、
周りの風景がおかしいことに気が付き、辺りを見回す。
そして、涙を袖口で拭っている綺麗な少女が目に映った。
その光景に、青年は思わず目を奪われてしまった。
涙を拭い終わり、顔を赤々と腫らしているルイズは、青年に向って尋ねた。

「……あんた誰?」

その言葉とは裏腹に、何故かルイズの表情は柔らかかった。
青年は、ルイズの涙の跡が残る顔が、逆にとても美しく思えた。どこか気恥ずかしさを覚えながら、
青年は自分の名前を答えた。

「誰って……俺は平賀 才人」

―――この出会いが、これからのルイズの運命を紡いでいく。
     人は人に会うために生まれてくるのだから。


谷が意識を取り戻した場所は、つい数日前までは、飽きるほど見慣れた、
舗装された道路や、コンクリートの壁や、軒並み立つ建物の光景が広がるところであった。

じわじわと、胸の奥から実感がわいてくる。思わず涙がこみ上げてくる。
立ち上がり辺りを見回す。そこに広がるのは明らかに地球の、そして日本の、谷の住む町であった。
やっと、やっと帰ってこれたのだと、確信が抱けた。
ボロボロとなった服装のまま、どこへともなく、ふらふらと歩きだす。

島さんは?島さんはどこにいるんだよ!?戻ってきたんだからいるはずだろっ!?

だがすぐに気がついた。島さんが、都合よくこの場所にいるはずがないと。
ここは諦めて一度家に帰ろう。そして、明日、学校で島さんと……。

顔を俯かせ、肩を落としていた谷。
しかし、その時だった。
谷の肌を撫でるように、風が吹いたのだ。
冬だというのに、風の中に何故か暖かいものが感じられた。
何かを感じ取ったのか、谷は思わず振り返った。

谷が振り向いた先には、先ほどの風で乱れた髪を手でかきあげている女性がいた。
制服に身を纏い、優しげな瞳を持っている、とても綺麗な女性であった。
そして、目の前に立ち尽くしている谷に、気がついたその女性は、にこやかに谷に向って挨拶をした。

「谷君。おはよう」

谷は涙が止まらなかった。滝のように涙が仮面の目の穴からあふれ出る。
谷は運命の存在を確信し、そして運命に感謝した。
自分の全てを捧げても惜しくない、一人の女性が今目の前にいる。

嬉しさを抑えれない。感極まって目の前の光景が涙で歪んでみえる。
しかし、そんなことは関係ない。谷は彼女の言葉に、力の限り答えた。

「っし島さあああああああああああああああああああああああぁぁん!!!!!!!!!!
 うあっあ!ぐあっ!!っっオ、っオハヨぉぉぉぉぉぉぉおおおっぉーーーございまーーーすっ!!!!
 っうぁああああああああああああああああああああああああぁぁあんんん!!!!」

公衆の面前で彼は泣き続けた。喜びの涙は、しばらく止まりそうもない。

時間にして短く、そして谷にとっては長い冒険は、今終わりの時を迎えた。



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