あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

未来の大魔女候補2人-12a


 早朝。辺りはまだ薄暗く、太陽は東の山から顔を出し切っていない。
 空には霞のような雲がかかり、空気は冷え切っている。
 朝靄が立ち込める魔法学院の中庭に、少女の姿があった。
 少女の出で立ちは、乗馬用のブーツとキュロットを穿き、丈夫な布地で織られた旅用の外套というものだ。
 キュロットは、足捌きがしやすいようピッタリと足に密着しており、更には股ズレを防ぐため膝や股の部分が補強されている。
 頭には乗馬用の帽子を被り、左右の手にはそれぞれ旅行カバンと60サント程の馬上鞭を持っている。
 誰がどう見ても完璧なまでの旅装であった。
 少女は首筋辺りで括ってあるピンクの髪を揺らし、朝露に濡れた芝生を踏みしめてゆく。
 表情こそ落ち着いてはいるが、少女の足取りは速く、時間を気にしている様子であった。
 少女は人目を気にしているのか、植え込みの裏側に隠れるようにして移動している。
 早朝とはいえ、人目が完全にないというわけではない。生徒達はともかく、使用人たちならば起きていても不思議ではないのだ。
 なるべく慎重に、それでいて早足に少女は進んでいく。
 男子寮の前を通り抜けようとした時、突如として、静謐な朝の空気を押しのける音が耳に届いた。
 それに素早く反応すると、少女は身を低くして植え込みの陰に隠れる。
 少女は植え込みの隙間から男子寮を見上げると、3階の部屋の窓が開いているのを見つけた。
 パジャマ姿でナイトキャップを被った金髪の少年が、ベランダに姿を現す。
 少年は手すりに手を掛けて身を乗り出すと、肺腑一杯に朝の空気を取り込み、それを一気に吐き出した。

「このギーシュ・ド・グラモン!
 たくさんのメイジの中において、 ひときわ大きく輝く大メイジになってみせるぞ!」

 そう叫ぶと同時、小鳥たちが一斉に飛び立つ。
 少年の雄叫びは、空へ吸い込まれるようあたり一面にこだました。

「うむ。今日も良い1日になりそうだ」

 満足げに頷くと、少年は晴れ晴れとした顔で部屋の中へと引っ込んでいった。
 後には何も残らない。ただ、静かな朝が続いていくだけだ。

「あいつ…… 毎朝あんなことしてたの?」

 級友の意外な行動を目撃したルイズは、植え込みから顔を出すと、男子寮を見上げながら呆気にとられた表情でそう呟いた。




未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第12話‐前編‐ 『ルイズと覆面』




 誰にも出会わずに厩舎から馬を連れ出したルイズは、学院の正門前で出発の準備を進めていた。
 既に太陽は東の山から姿を表しているが、朝靄はいまだに晴れずにいる。
 ルイズは馬の背中に毛布を敷くとその上に革製の鞍を載せ、腹帯で胴に固定する。鞍には金属製の鐙がついており、その高さも調節する。
 手慣れたもので、ルイズは淀みのない動きで荷物を鞍へとくくりつけ、出発の準備を完了させた。乗馬はルイズにとって誇れるモノの一つである。

「……ジュディには黙って出てきちゃったけど、書き置きもしたし大丈夫よね?」

 ルイズは誰にも言わずに此処まで来ていた。本当ならば、一言かけてからにしたかったのだが、事情が事情なので何も言わずに出てきたのであった。
 一応書き置きはしておいたのだが、それでも何か引っかかりを覚え、ルイズは座りが悪く感じる。
 ジュディが帰るための手がかりは未だに何も掴めていないのだ。この状況で遠出をするのは、責任を放棄しているように思えてくる。
 取り敢えずの手段は講じたのだが、その結果はまだ出ていない。

「ブフゥルルゥン……」

 思考の迷宮に入ろうとするルイズに『出発はまだか?』と、言わんばかりに馬が鼻を鳴らす。
 考えても栓のないことだと、ルイズは頭を振って迷いを振り払った。今出来る事をやるしかないのだと、そう自分に言い聞かせる。
 鼻先を擦りつけてくる馬の顔を撫でてやってから、ルイズは鐙に軽く足を掛け、身軽に鞍に跨った。そして、手綱を取り具合を確かめる。
 軽く息を吸い込んでから、ルイズは行く先を見据えた。
 街道は霧で霞み、視界は悪い。更には、石畳は朝露に濡れ、滑りやすくなっているようだ。慎重に馬を走らさなければ、転倒は容易だろう。
 ルイズはそう考えながら、軽く馬の腹を蹴ると、出発の合図を送る。

「さあ、出発よ!」
「待ちたまえ」

 その矢先、後ろからルイズを呼び止める声が飛んできた。
 ルイズは咄嗟に手綱を引いて馬を止めると、素早くそちらへと振り向く。
 すると、ルイズの双眸は、正門を潜りぬけて此方へと進んでくる人影を捉えた。

「誰っ!?」

 緊張の色を帯びた硬い声でルイズは誰何する。
 誰にも目撃されないよう、態々出発を早朝にしたのだ。それなのに、見つかってしまっては元も子もない。
 どうやって誤魔化そうかと考えながら、ルイズは心が波立つのを感じる。
 しかし、いくら眼を凝らしても、朝靄のお陰でその人物の姿は朧げにしか確認できない。
 判ることといえば、男性で、ルイズよりも随分と背が高く、黒のマントと鍔広の帽子を被っている事くらいだ。
 近づいてくる男は一旦立ち止まると、落ち着いた声で再度呼び掛けてきた。

「そう警戒する事はない。僕は、君に付き添うように言われてきたのだよ」
「……姫殿下から?」

 ルイズの脳裏に浮かぶのは、敬愛する王女の姿。彼女ならば、ルイズのために人員を割く位の事は容易いだろう。
 きっと自分を心配しての配慮だろうと考えるが、その一方で信用されていないようにも思い、ルイズは気落ちする。
 そんなルイズの心中を知ってか知らずか、男はあくまで穏やかな口調を崩さない。

「そうだ。君を守るよう命じられてきた。
 ……そちらへ行っても構わないかな?」

 男はそう言うと、ルイズの返事も聞かずに、落ち着いた足取りで歩行を再開した。
 ルイズは男の声をどこかで聞いた事があるように感じたが、警戒は解かずに固い面持ちで男が近づくのを待つ。
 2人を隔てる距離が縮まるにつれ、徐々に男の姿が露になってくる。

「貴方は……?」

 男の顔が明確になると、ルイズは息をのんだ。
 黒無地のマントに、飾りもそっけもない鍔広の帽子。腰には細身の杖を下げ、無駄のない引き締まった体つきをしている。
 丈夫そうなブーツを履いた2本の足で地面を確りと踏みしめ、上体は全く揺らいでいない。
 そして、何よりも特徴的なのは、目元を隠す覆面であった。
 覆面の男は、人差し指で帽子を軽く持ち上げてみせる。

「僕の名前は…… フランシス。マスク・ド・フランシスだ」

 白い歯を光らせ、自信に満ちた声でそう名乗った。
 あまりにも突拍子もない光景に、ルイズは目が点になり、頭の中が真っ白になる。
 口を金魚のようにパクパクさせてから息を呑みこむと、オウム返しに問い返す。

「ま、ますく・ど・ふらんしす?」
「そうだ。まあ長ければ、略して覆面と呼んでくれたまえ」
「は、はぁ……」

 ルイズは馬に跨ったまま、呆然とした顔で男を見下ろす。
 男はその不躾な態度に気にした様子もなく、つるりとした顎を撫でてニヒルに笑うと、おもむろに口笛を吹いた。
 甲高い口笛が空へと吸い込まれるように響き、そして消えていく。数瞬の静寂の後、翼がはためく音が近づいてきた。見上げると、巨大な影が飛来してくる。
 影は男の傍らに降り立った。その正体は、鷲の翼と上半身、そして獅子の下半身をもつ幻獣『グリフォン』だ。
 男はグリフォンの首周りを撫でながらルイズに向き直る。

「紹介しよう。これが僕の使い魔さ」

 グリフォンは、ルイズに挨拶をするように一声嘶いた。
 馬が怯えたように後ずさる。グリフォンは馬よりも大きく、その鋭い爪や嘴は容易に肉を引き裂くことだろう。
 優れた飛翔能力と遠くまで見通す視覚。そして、猛禽特有の鉤形に曲がった嘴と鋭い爪を持つグリフォンは、空の生態系の頂上を成す一つであり、力の象徴でもある。
 そのような強大な脅威が目の前に現われて、ただの馬が平気でいられるはずもない。馬は必死に距離を取ろうと暴れまわる。

「こっ、こら! 大人しくしなさい!」

 暴れる馬を必死で御そうとするルイズであったが、恐怖に駆られた馬は一向に静まらない。

「少し乱暴だが、仕方がないか……」

 男は他人事のようにそう言うと、ゆったりとした仕草で腰から下げた杖を手に取った。
 杖は細身であるが金属製の丈夫な物で、表面についた細かな傷から相当使いこまれたものだという事が分かる。
 それをレイピアのように構えると、暴れる馬に狙いを定めてルーンの詠唱を行う。
 瞬く間にルーンは完成され、杖を突き出す動作と同時に魔法を解き放つ。
 その瞬間、ピタリと馬の動きが止まった。決して大人しくなったわけではない。何かに拘束され、動きたくても動けないようだ。

「その馬には悪いが、動きを止めさせてもらった」
「風のスペル…… 『拘束』?」
「その通り。なかなかの慧眼だ」

 ルイズの呟きに、男は杖を戻しながら感心したように頷く。
 『拘束』とは、不可視の風のロープで対象の動きを縛る魔法である。
 その魔法を騎乗しているルイズに影響を与えずに、暴れる馬だけに効果を発揮させるのには、優れた技量を要求される。
 ならば、いとも簡単にその妙技を成功させたこの男の技量は、如何ほどのものなのか見当もつかない。

「やはり貴方は……」

 ルイズの中で1つの人物が浮かび上がる。
 その人物とは、彼女が憧れていた青年。彼は若くして子爵の位を相続し、卓越した魔法の才能を備えていた青年。
 この10年間、碌に会う機会に恵まれなかったが、それでも婚約者であったし、思い人であった。聞いた話では、魔法衛士隊に入隊したという。
 母に叱られ池のほとりで泣いていた幼い自分を、優しく慰めてくれた事をルイズは思い出す。
 抑えきれない感情がルイズを突き動かそうとするが、男は首を横に振り、視線を遮るように掌を前に突き出すと、有無を言わさぬ声でそれを制した。

「それは違う。ここにいるのは覆面という男だ」
「けれど、貴方はワ……」

 男は語調を強め、それ以上の追及を拒む。

「それ以上は駄目だ。僕は君と出会ったことはないし、君も僕と出会ったことはない」
「しかし……」
「わかってくれないか?
 僕がここにいるのは命令だからだ。任務の遂行を第一に考えなければならない」
「…………」

 覆面に隠された男の瞳は、悲しげな光を宿していた。それに気がついたルイズは、なにも言えなくなってしまう。
 その瞳からは、強い意志と覚悟が読み取れ、そう易々とその態度を翻しはしないだろうという事がルイズにも分かった。それ故に、ルイズは沈黙するしかないのだ。
 押し黙るルイズを見て、覆面は優しげな声で言い聞かせる。

「いいね? 姫殿下から承った大切な任務だ。それを忘れないでほしい」
「……わかりました」

 ルイズはどうにかして声を絞り出す。彼女は今更ながらに気がついてしまった。いや、再認識したという方が適切か。
 2人の間にある距離は、子供と大人の間にあるそれと同じだ。その途方もない隔たりを埋めるのは、容易ではないだろう。
 時間だけが問題ではない。彼の横に立つためには、経験、覚悟、その他にも様々な要素がルイズには足りていないのだ。
 それに気がついてしまったルイズは、項垂れるしかない。

「ありがとう…… ルイズ」
「……はい」

 自分の感情をどうにか抑え込むルイズに、覆面は短い言葉で感謝する。

「では、そろそろ出発しようか。僕は空から警戒をする。速度は君に合わせよう」

 覆面はグリフォンに跨ると、馬を拘束していた魔法を解除する。
 そして合図を送ると、グリフォンは羽ばたき、宙へと舞い上がった。
 羽ばたきで生じた旋風が霧を舞い散らし、ルイズの肌を打つ。冷たい風に打たれて、ルイズは気を引き締めた。

「では出撃だ!」

 覆面は、杖を引き抜き掲げると、号令を発した。ルイズはそれに従い、馬に合図を送り走らせる。
 その動きに合わせて覆面は、馬の視界に入らぬようグリフォンの位置を調節すると、周囲の警戒を行う。
 朝の風を切って街道を駆けていく。
 肌で朝の冷たい空気を感じながら、ルイズは目的地であるアルビオンへと思いを馳せる。遥かな白の国には、何が待ち受けているだろうか?
 そう考えると、ルイズは改めて気を引き締めた。



 中編へ続く




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