あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

お前の使い魔 17話


 タバサの風竜とワルドさまのグリフォンのお陰で、早馬なら二日はかかるであろうラ・ロシェールへの道をわたし達は一日で移動し、その日の夜には、街で一番の上等な宿である、女神の杵へと到着できた。
 空路を使った為に身体を使っていないせいか、力の有り余っている一行は、船の出る桟橋へと交渉に行ったワルドさまを除く全員で、一階の酒場でくつろいでいた。否、大騒ぎしていた。

「おひゃへー、これおいしいれすよー」
「はあ? うわ、酒臭っ! ちょっと誰よダネットにお酒飲ませた奴!!」
「まさかワイン一杯で酔うなんて思ってなかったのよ」
「キュルケ! あんたどう責任とうわあっ! ちょっとどこ触ってんのよダネット!!」
「おまへはぺったんこですねー。もっと食べないとらめれすよー」
「コイツ……! あんたご主人様に向かってなんて口をひいいぃっ!!」
「いい眺めだ……」
「鼻血」
「男の性ってやつだよな」

 口々に好き勝手なことを言う面々をよそに、わたしが必死になってダネットを引き剥がそうとしていると、複雑な表情をしたワルドさまが戻ってきた。

「ルイズ、まさか君にはそんな趣味が?」
「ありません! こらっ! 離しなさいダネット!」

 ワルドさまの誤解を解き、船の出港について聞いてみると、とても残念な返事が返ってきた。
 明日の夜は、月の重なる『スヴェル』の夜の為、早くとも明後日にならないと船は出せないというのだ。
 しかし、月の動きばかりはどうしようもない為、わたし達は今日と明日、ラ・ロシェールに宿泊し、明後日の朝にアルビオンへと向かおうということになった。

「さて、本日の部屋割りだが……」

 そう言って、ワルドさまが懐から鍵束を出し、各自の部屋割りを発表しようとしたその時。

「えろひげはキザおとこと一緒の部屋れす」

 起き上がったダネットが、真っ赤な顔でワルドさまを指差して言った。
 ワルドさまは渋い顔をしたが、ジト目で見続けるダネットに耐えかねたのか、肩をすくめて了承し、わたしはダネットと同室ということになった。

「じゃあ、今日は遅いし寝るとしようか」

 ワルドさまはそう言って、鍵を手に部屋へ向かおうとする。
 すると、途中で立ち止まり、わたしの方へ来て耳元でそっとつぶやいた。

「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」


 酔いつぶれたダネットをベッドへ寝かせ、デルフを置いたわたしがワルドさまの部屋へ向かうと、ワルドさまは自分の部屋の前でわたしを待っていた。

「こっちへ」

 ワルドさまは短く言い、わたしを促す。
 付いていくと、ワルドさまは一室の前で立ち止まり、鍵を開けて中へと入っていった。

「実はもう一室部屋を取ってね。使い魔の彼女には内緒だよ?」

 おどけた顔で言うワルドさまを見て、わたしは思わず小さく笑う。

「おや、使い魔くんに遠慮する僕が情けなく見えてしまったかな?」
「違うの。ワルドさまはやっぱりワルドさまだなって思って」

 わたしの言った意味がわからなかったのか、彼は不思議な顔をする。
 そんな顔も昔と変わらない無邪気なものに見え、自然とわたしの肩の力は抜けた。
 わたし達は部屋へと入り、ワルドさまが用意していたワインで乾杯し、喉を潤した。

「それで、話というのは?」
「その前に、頼みごとを聞いてくれるかいルイズ?」
「頼みごとですか?」

 ワルドさまの頼みというのは、わたしの話し方だった。
 よそよそしい話し方ではなく、昔どおりの話し方をして欲しいということだ。

「なんせ、きみは僕の婚約者なんだからね」
「え、ええ。わかったわ。じゃあ……ワルド、話っていうのはこれなの?」
「いや、実は本題は別なんだ。きみは自分が特別な力を持っているということには気付いているかい?」

 心臓がどくんと跳ねた気がした。
 特別な力と聞いて、わたしの頭に、以前聞いた不思議な声が思い出される。

『あるじゃねえか。上等な力がよぉ。ソレは生かすことも殺すことも出来る力だぜ?』

 上等な力、特別な力、わたしの中にある何かとてつもないもの。
 30メイルもあるゴーレムを、まるで紙くずのように破壊できる力。

「もしかして身に覚えがあるのかい?」

 ワルドの声に我に帰ったわたしは、慌てて否定する。

「ま、まさか。わたしは魔法の使えない駄目なメイジよ」

 しかし、ワルドはわたしの返事に肩をすくめ言う。

「まさかじゃない。例えばきみの使い魔……」


 ワルドはダネットがガンダールヴだということを知っていた。
 そして、わたしが偉大なる始祖ブリミルのようなメイジだと、熱っぽく語る。
 しかし、わたしは不安ばかりが胸に募った。
 きっとワルドは知らないのだろう。わたしの中にあるという力の恐ろしさを。怖さを。どす黒さを。

「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え……」

 身体がかっと熱くなり、顔が赤くなる。しかし、同時に背中に氷を入れられたかのような悪寒が走った。
 身体の反応に困るわたしを見て、ワルドは恥ずかしがっていると思ったのか、更に熱く語り始めた。
 そして最後に、わたしの目を見つめながらこう言った。

「僕にはきみが必要なんだルイズ」

 わたしはうつむいたまま立ち上がり、席を離れようとした。この場所から離れたくて仕方が無かった。
 そんなわたしの背中に、ワルドの声が投げかけられる。

「急がないよ僕は」

 部屋を出たわたしは、急いで自分の部屋へと戻り、ベッドへ飛び込んだ。

「どうした娘っ子、変なもんでも食ったか?」
「黙りなさいボロ剣。なんでもないわよ」

 語りかけてきたデルフに冷たい返事をし、わたしはぎゅっと目をつぶって、さっき聞こえた声を拒絶しようとしていた。
 聞こえなかった。絶対に聞こえなかった。あんなの認めない。違う。絶対に違う。

『こいつはお前を愛してなんかいない』

 認めない。聞こえてなんかいない。認めてやるもんか。
 わたしは、悶々としたものを抱えながら、意識を無理矢理に夢の中へと埋没させていった。

 翌日、わたしが起きると、ダネットのベッドがカラになっていた。
 デルフにダネットがどこへ行ったか聞くと、ワルドが部屋に来て連れ出したらしい。

「何でかしら?」
「しらね」

 考えていても仕方ないので、わたしは服を着替え、デルフを持って部屋を出て、朝食でも取ろうと一階へ降りていった。
 すると、宿の店員から、ワルドより伝言があると言われた。
 なにやら、中庭にある練兵場に来て欲しいとのことだ。

「そんなとこで何があるのかしら?」
「娘っ子と組み手でもしたいんじゃねえのか?」

 まさか。そんなことある訳ない。でも、練兵場ってからには……あ。


「も、もしかしてダネットとワルドが!?」

 慌てて向かうと、わたしの予想通り、中庭ではワルドとダネットが向き合っていた。

「ちょっと二人ともなにやってんのよ!」
「うー……あんまり大きな声を出さないでください。頭に響きます」

 わたしの怒声に、ダネットは頭を押さえて返事をした。どうやら昨日のお酒で二日酔いのようだ。
 そんなダネットの代わりに、ワルドが返事をする。

「君の使い魔くんの実力が知りたくてね。彼女も身体を動かしていた方が楽だと言って了承してくれたんだよ」
「そういうことです。うー……じっとしてたら頭が割れそうです」

 無茶苦茶だこいつ。というか、二日酔いだから組み手をしたいとかどこの蛮族だ。

「では、ルイズも来たし始めようか」
「ええ。では行きます」

 わたしが止める間もなく、二人は構え、組み手を開始する。

「やめなさいダネット! 命令よ!!」
「諦めろ娘っ子。ああなったら終わるまで止まんねえよ」

 デルフの言う通り、二人は全く止まる気配が無い。
 まあ、ダネットの手にあるのが短剣ではなく、どうも練習用の小さな木刀のような物なので、大きな怪我はしそうにはないが、それでも何が起きるかわからない。

「後でお仕置きだからね!」
「まあまあ。ところでよ、あの嬢ちゃん何もんだ? ありゃよっぽどの修羅場をくぐってきてんぞ」

 デルフの言う通り、ダネットの動きは凄いの一言だった。
 手から足から、その全てがともかく早い。
 ワルドの動きだって早いのだが、それを上回っているのが見ていてわかる。
 あれで二日酔いとか冗談にしか聞こえないぐらいだ。

「おでれーた。あの距離でかわせるもんなのか」

 至近距離からのワルドの突きを、ダネットはあっさりとかわして、更に飛びのくどころか懐へと入り木刀を打ち付けようとする。
 ワルドは懸命にそれを杖で防ぎ、素早く距離を取ろうとするも、ダネットはぴったりとくっついて離れようとしない。

「どうやら嬢ちゃんの勝ちだなありゃ」

 いや、まだだ。ワルドはまだ術を使っていない。
 あれなら、簡単な術で距離を取った後、広範囲の術を放ち、かわしている隙に近づいて叩き斬る。

「お、魔法を使ったぜあの貴族」

 そうだ。術で距離を取れ。じゃないと死ぬぞ人間。
 ああ駄目だ駄目だ。あんな術じゃかわしてくれって言ってるようなもんだ。
 ほーらかわされた。言わんこっちゃない。


「どうやら僕の負けのようだね」
「いい勝負でした。またやりましょう」

 え? あれ? いつの間にかダネットの木刀がワルドの首にかかってる。

「いいもん見れたな娘っ子。ん? どうした娘っ子?」
「あ、ううん。なんでもないわよ。ちょっと立ちくらみしただけ」

 わたしは頭を振り、二人に近付いてダネットの頭をはたく。

「いったあ!! なにするんですか!!」
「やかましい! このっ! このっ!」
「怒鳴らないでください! あう、自分の声でも痛いです……うー……気持ち悪いです……」
「ちょっと、まさか吐くの!? やめてよね!」
「うー……」
「トイレ! トイレどこ!? ワルド、早くダネットを連れていかなきゃ!」
「わ、わかった。彼女をこっちへ」
「うっ、げ……限界でず……うっぷ」
「い、いやああああっ!!」

 最低だ。最低の朝だ全くもう。


「だいぶ楽になりました」
「あっそ。全く……ご主人様に二日酔いの看病をさせる使い魔なんて聞いたことがないわ」

 あれからダネットはベッドで唸り続け、わたしが看病をして夜を迎えた。
 すっかり暗くなってしまった外を見ながら、わたしは静かにダネットに語りかけた。

「あのね、ワルドに結婚しようって言われたの」

 わたしの言葉に、ダネットはベッドから起き上がって言葉を返す。

「お前はあのヒゲが好きなんですか?」

 ダネットの言葉を胸で反芻する。
 わたしはワルドをどう思っているんだろう? 彼が婚約のことを覚えていたと知った時は嬉しかった。それは間違いない。でも、好きとは何かが違う気がする。

「わからないわ。でも、父さまが決めたことだもの」
「…………」

 そうだ。父さまが決めたのだ。だからわたしはどっちみち彼と結婚しなきゃいけないんだ。貴族として。平民を守るものとして。
 それが早いか遅いかの違いなんだ。

「わたし……結婚す」
「それでいいんですか? 本当にお前はそれでいいんですか?」

 わたしが言い終わるよりも早く、ダネットが強い口調で遮る。
 視線を外からダネットに向けると、彼女はわたしを真っ直ぐ見ていた。


「わたし……」

 わたしは言葉を詰まらせ、ダネットを見ることしかできなかった。
 ふと、ダネットの瞳が動き、見開かれる。

「危ねえ! 伏せろ娘っ子!!」

 デルフの声に、わたしの体が固まる。
 そんなわたしを引き倒すようにダネットが抱きかかえ、覆いかぶさった。
 直後に響く轟音。そして破壊される部屋。

「大丈夫かおめえら!」

 デルフの声が聞こえる。そして、上にかぶさるダネットの体温を感じる。

「い、いや……」

 わたしの脳裏に、以前の光景が蘇る。
 真っ赤なダネットの血と、真っ赤な景色。

「お前、しっかりしなさい! 逃げますよ!!」

 呆然としていたわたしを、起き上がったダネットの腕が引き起こす。

「あ、あんた無事なの?」
「ちょっとすりむいたけど大丈夫です。それより早く!」

 見ると、ダネットは少しだけ腕から血を流していたが、傷自体は確かに浅いものに見えた。
 安堵したわたしは、気を取り直して急いでデルフを引っつかみ、ダネットと共に部屋を飛び出した。

「あの石の化け物がいるってことは、泥んこ盗賊がいるってことですか!?」
「知らないわよ!」

 早口で話しながらわたしとダネットが一階に下りると、そこも凄いありさまだった。
 傭兵と思わしき奴らの姿と、必死に防戦するワルドやキュルケ達が見える。

「ルイズ、こっちへ!」

 ワルドにうながされ、わたしとダネットはみんなが隠れている机の陰に移動する。

「凄い音がしたけど大丈夫だったのルイズ?」
「なんとかね。ゴーレムが部屋を攻撃してきたの。もしかしたらフーケがいるのかもしれない」
「はあ!? あのオバサン捕まったんじゃないの?」
「わたしが知るわけないでしょ!」

 キュルケと話している間にも、矢やこちらの放つ魔法が飛び交う。
 短剣しか持たないダネットは攻撃手段が無いため、しばらくじっとしていたが、耐えかねたようにキュルケに向かって言った。


「こうなったら私が飛び込みます! 援護を!」
「バカ言ってんじゃないわよ! あんな中に飛び込んだら死ぬわよアンタ!」
「じゃあどうしろって言うんですか! これじゃらちが明きません!」
「あーもううるさい! とりあえず今はふせときなさい! 邪魔よ!」

 キュルケにあっさり却下され、ふてくされたかのようにダネットは伏せたが、ダネットの言う通りこれじゃらちが明かない。
 見かねたワルドが、魔法の手を休めて、わたしとワルドとダネットの三人で桟橋へ行き、残りはここで敵を引き付けるというおとり作戦を提案した。
 わたしやダネットは反論したが、結局、任務最優先という皆の意見に押されて渋々納得させられた。

「死んだら許しませんよ」
「死なないわよ。それより、ルイズをよろしく頼むわねダネット。ルイズもしっかりやってきなさい」
「わ、わかってるわよ」

 ダネットの言葉におどけて返し、わたしに一言向けるキュルケにわたしは言葉を返し、わたしとワルドとダネットの三人は宿の裏口から桟橋へと向かった。


「桟橋はこっちだ!」

 先を行くワルドに促され、わたしとダネットが追いかける。
 しばらく進み、桟橋へ向かう階段へたどり着くと、ダネットが不思議そうな顔で言った。

「ところで、海はどっちですか? 山の向こうですか?」
「違うわよ。海に浮かぶほうの船じゃなくて、空に浮かぶほうの船に乗るの」
「空ですか? はー、こっちはそんな船があるんですね。びっくりです」

 こんな状況なのにのんびりした会話をしているわたし達に、一言なにか言おうとしたのかワルドが振り向くと、その目が大きく見開かれた。

「危ない!!」
「え?」

 ワルドの声の直後にわたしの耳に入ったのは、横を走っていたダネットから聞こえた大きな破裂音だった。
 目を向けると、背中から煙をあげ、ゆっくりと倒れるダネットの姿が目に入った。
 後ろには杖を構える仮面を付けたメイジの姿が見える。

「『ライトニング・クラウド』か!? おい、しっかりしろ嬢ちゃん!」

 デルフの言った魔法の名前に、わたしの背筋が冷える。
 『ライトニング・クラウド』。風の系統の強力な呪文だったはずだ。
 そんな魔法の直撃をダネットは背中に受けた。つまり……

「ダネット! ダネット!!」

 煙をあげ、ぴくりとも動かないダネットを必死にゆするわたしを、ワルドの腕が掴み上げた。

「離して! 離してよワルド!!」
「駄目だ! 早く逃げるんだルイズ!」
「嫌よ! ダネットを置いて行ける訳ないじゃない!!」
「くっ……! すまないルイズ!」

 暴れるわたしのお腹に衝撃が走った。
 わたしの意識は、ワルドに当て身を受けたんだと理解した時には、深い闇の中に落ちていた。


新着情報

取得中です。