あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと竜騎士-6

 ルイズがビュウを使い魔として召喚したことで、その周囲は大なり小なりの差異はあれこそ、それなりの変化というものに巻き込まれることになった。

 一番代表的なのはタバサだろう。
 主たるメイジにのみ忠実であるはずの使い魔が、主以外の存在、つまり竜騎士であるビュウに懐いてしまっているという現実は、きっとタバサにとって想定外の事態だったに相違ない。
 その結果としてのタバサの変化というのは、普段無表情の鉄面皮で通している彼女が、ビュウと一緒の時には露骨に不機嫌そうな表情をしてみせるというものであった。

 これをいい変化と言ってしまうのは、タバサにとっては甚だ不本意であろう。
 しかし、それまでのタバサを知る彼女のクラスメートたちにしてみれば、それは間違いなくいい変化であるように思われた。
 無口で無表情、感情なんてないかのように振舞っていたそれまでのタバサは、お世辞にも周囲に好意的な存在として受け入れられていたとは言えない。
 そのタバサが使い魔を取られるかもしれない、と不機嫌そうな表情を見せる、つまりは嫉妬にも似た感情を露にするというのは、タバサという少女の人間性を周囲に理解させるには十分だった。
 もちろんそんなものはタバサの一側面に過ぎないのだし、それをもってタバサという少女の全てを理解し受け入れるなんてことは誰にも出来ないであろうが、
 今まではその一側面さえ窺い知ることが出来なかったのだから、これはやはり大きな変化と言える。

 ビュウ召喚によって影響を受けた人物はまだいる。
 その一人が魔法学院の教師、ミスタ・コルベールだ。
 彼の場合はタバサのように情緒面の影響を受けたというのではなく、彼が召喚されたことによって、その仕事の範囲が広がったという意味で影響を受けた。
 つまり、ビュウが召喚されたせいで余計な仕事を背負わされたということだ。


 コルベールに課せられた新たな仕事は主に二つある。
 一つは現在のビュウの大きな目的、オレルスへの帰還に向けた手伝いである。
 具体的には魔法学院の図書館内にある無数の書物の中から、オレルスに関する記述のあるものを探すというものだ。
 正直言ってこの仕事は難航している。
 対象となる書物が多すぎることも問題であろうが、オレルスに関する記述を扱った書物が図書館内に存在する確率が極めて低いからだ。
 少なくとも、この仕事をコルベールに押し付けたオールド・オスマンは、館内にそんな記述を扱った書が存在するとは思っていない。
 海岸の砂浜から、あるかどうかも分からないような砂金の一粒を探すようなこの作業に、だからかコルベールは熱意をもって取り組んでいるとは言い難かった。

 もう一つの仕事というのは、ビュウの左手に現れた使い魔のルーンについての調査である。
 ルイズがビュウと契約を果たした一週間前、契約のその場には立会人としてコルベールも参列していた。
 そして契約終了後、ビュウの左手に現れた見慣れぬルーンに、オールド・オスマンとコルベールの二人は注目したのである。
 とは言うものの、こちらについては一週間が過ぎた現在時点であらかたの調査は終えていた。
 後は裏づけを取るだけという状況なのだが、それがなかなか難しい。
 さし当たってはまた今日辺り、ビュウを自分の研究室に呼び出して聞き取りを行おうと思っているのだが、どうなることやら……。

 さらにもう一人、ビュウの召喚の余波を大きく受けてしまった人物がいる。
 誰あろうキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、その人である。
 もっとも、彼女の場合は前述の二人とは異なって、ビュウ当人からの影響によって状況の変化に晒されたとは言いがたい。
 キュルケはそのビュウを召喚した人物、ルイズの変化によって間接的に変化に晒されてしまったのである。

 直接的な切欠は、召喚と契約に失敗したと思い込んだルイズが、心身ともに弱っていたせいか、長年いがみ合ってきたはずのキュルケに気弱な涙を見せてしまったことだろう。
 儀式の失敗を悔やみ、家族の信頼を裏切ってしまったと涙するルイズ。
 そこにいたのはキュルケのよく知る、魔法の一つも使えないくせに態度ばかり一人前の貴族ぶった小生意気な宿敵ではなく、等身大の十六歳の女の子だったのである。
 キュルケは正直扱いに困った。
 いつものように小馬鹿にして突き放そうにも、そうしてしまえばあのときのルイズは崩れ落ちてしまいそうに弱っていたし、かといってそうする以外にルイズの扱い方なんてキュルケは知らない。
 だからルイズが泣き出してしまったあのとき、キュルケは考えるのを諦めてルイズのしたいようにさせた。
 泣きたいだけ泣かせてやった。

 だが、そんなことがあったからといってルイズに情が移ったとかそういうことは断じてない、とキュルケは主張する。
 実際あの出来事があった後も、キュルケはいつも通りにルイズを茶化したり、挑発するような言葉を投げつけている。
 ところが、当のルイズがビュウのことばかり気に掛けているせいで、キュルケがどんなにからかったり茶々を入れたりしても、こっちの挑発に乗ってきてくれないのだ。
 そんなルイズでは面白くない、からかい甲斐がない。
 それが気に食わなくて無理やりこちらに意識を向けさせようとしても、気のない返事を返してくるばかりで、これではまるでキュルケの空回りだ。
 おかげでここ最近、なんとも歯がゆい気分を味あわされている。
 しかもそんなキュルケの姿が周囲からは不可思議、というか滑稽に見えるらしく、クラスメイトのモンモランシーからこんなことを言われた。

「なんだか最近の貴女って、想い人を他人に取られそうになって焦っているのに、だけど素直になれない初心な少女みたいだわ」


 なんという誤解、そしてなんという言い草だ。
 殆どムキになったかのような勢いでモンモランシーの言葉は否定しておいたが、後になって冷静に思い直してみたら、あれでは図星を突かれて必死に誤魔化していたようじゃないか。
 そしてその翌朝になってみれば、案の定誤解を深読みしたモンモランシーによって学内にはキュルケについてのあらぬ噂が流れている。
 思えばキュルケがルイズを部屋に連れ込んだときも、事実に尾ひれ羽ひれをつけた噂を流してくれたのはモンモランシーだった。
 フツフツと沸きあがった怒りのままに食堂ですれ違ったときに思い切り足を踏みつけてやった。
 が、その程度で怒りが収まるはずもなく、その日、キュルケの心の閻魔帳にモンモランシーの名前が極太で書き込まれたのである。

 さておき、そんな調子でここ最近のキュルケはルイズのためにペースを狂わされっぱなしだった。
 もういっそのこと、ほとぼりが冷めるまで、或いはルイズとビュウの関係が落ち着くまであの近辺には近寄らない方がいいんじゃないか、という気さえしてくる。
 だがそれが出来ないのがキュルケという少女だった。
 ペースが乱されるからといって、そこで退いたら負けと同じではないか。
 勝ち負けの問題じゃないとか、そもそも何に対して負けたのかとか、そういう理屈の話ではない。
 感情の、そして誇りの話だ。
 ツェルプストー家の人間がヴァリエール家の人間に対して退くなんて、そんな真似は家名に懸けて許されないのである。
 だからキュルケは午前の授業が終了した直後、ルイズとビュウが交わしたこんな会話を聞いて、また茶々を入れずにはいられなかったのである。



 多分、こんなにも上の空で授業を受けたのは初めてなんじゃないかしら、とルイズは思った。
 昼休みを目前に授業の残り時間もあと五分といったところだろう。
 昼休みを前にした生徒たちはまだしも、授業をしている教師でさえ気もそぞろのようで、先ほどから授業内容とは関係のない雑談めいた話ばかりしている。
 以前までのルイズなら、そんないい加減な態度の教師には反発を覚えていたところだろうが、今日のルイズはそんな教師のいい加減さに感謝していた。


 今のルイズに必要なのは授業で学ぶ魔法の知識などではなく、ビュウと会話をするために必要な話のタネなのだ。
 竜騎士とはいってもハルケギニアのそれとは違って魔法の使えないビュウにとって、魔法の授業というのはあまり楽しいものではないらしい。
 そのため授業の内容では話のタネにはなってくれないのだ。
 しかしこういった雑談であれば「そういえば先生あんなこと言ってたわね、ビュウはどう思う?」といった感じで、話の取っ掛かりにもしやすい。
 ルイズはちらちら横目で隣に座るビュウの様子を伺いながら、耳をダンボにして教師の雑談を聞いていた。
 そんな時間もやがて過ぎ去り、午前の授業終了を告げる鐘が鳴る。

「ん、もうこんな時間か。それでは午前の授業はこれまでとする。各自、復習を怠らないように」

 教師がそう言って教室を後にすれば、あたりは昼休みらしい喧騒に包まれた。
 先ほどの授業内容を友達同士で確認し合う姿も見受けられるし、連れ立って食堂に向かう者もいる。
 ルイズはといえば、大きく深呼吸を二度三度と繰り返し、ビュウに声をかけるタイミングを計っていた。
 胸の前で小さくコブシを握り、よし、と意気を込める。
 しかしルイズがビュウに声を掛けるのより、ビュウがルイズに声を掛ける方が早かった。

「ルイズ、ちょっといいかな」

 機先を制され一瞬ぎくりとするが、深呼吸と咳払いを一つ、冷静さを取り戻す。

「ビュウ? な、なにかしら?」
「悪いんだけど、今日のお昼は同席できない」
「え――、ど、どうして?」

 折角ちゃんとお話ができるように話題を確保して心の準備もしてたのに――。
 なんとか引き止めなくては、と言葉を募ろうとするが、

「コルベール先生から呼び出しを受けてるんだ。先生の仕事で聞きたいことがあるらしくて」
「そうなの……でも、お仕事じゃあ仕方ないわよね」

 ビュウのその返答の前に、脊髄反射的にそう返してしまっていた。

「ごめん、だからお昼は他の人たちと……」
「ううん、気にしないで。私一人でも大丈夫だから。ビュウ、また後で」
「あ、うん」

 それにしても、まるで夫の出張が決まった夫婦のような会話である。
 しかも夫婦仲があまり上手く行っていない感じの夫婦だ。
 お互いのぎこちなさもさることながら、ビュウが昼食に同席しないと聞いた途端口が滑らかになる辺りに、新婚生活(?)への疲れが覗き見える。
 そしてビュウを見送ったルイズは、彼が扉の向こうに消えるなり机に突っ伏した。

(あ~、もう、なにやってるの私! そこで安心してどうするのよ!? 引き止めるんじゃなかったの、ルイズ!)

 先送りにしても意味なんてなにもない。
 こんなことくらいでいちいち安心してるくらいなら、一刻も早くまともに会話できるようになって、いちいち緊張しないで済むくらいならないといけないのに。
 情けなさ過ぎて自分が嫌になる。
 机に突っ伏したまま目を伏せて、大きくため息をつくルイズだった。
 聞きなれた癪に障る声がルイズに掛けられたのは、そんなときである。

「お疲れのご様子ね、ヴァリエール」

 顔を上げる。
 そこには褐色の肌と炎の赤髪をもつ少女が、若干不機嫌そうに立っていた。

「ツェルプストー? なによ、なんか用?」
「別に? ただまあ、身の丈に合わない使い魔なんかと契約しちゃうと大変ね、ってからかいに来ただけよ」
「そんだけ? 用がないなら放っておいて。正直あんたに構ってる暇なんてないの」

 キュルケの声に応じて顔を上げたルイズだが、すぐにまた机に突っ伏してしまう。
 からかいに来た、だなんて正面切って言ってくる馬鹿に構っていられる精神的余裕などないのである。


 だが、そんなルイズの態度にヒキリとキュルケのこめかみがひきつった。
 これなのだ。
 こうしたルイズの態度がキュルケのペースを狂わせるのである。
 こっちの挑発に乗ってこない、面白くない、からかい甲斐がない。
 キュルケの知っているゼロのルイズは、こっちがちょっとからかってやれば小鳥のようにピーチクパーチク囀ってなんぼなのだ。
 なのにこの態度、これじゃあまるで構ってやってるこっちが馬鹿みたいじゃないか。
 だから、正直ムッとする。

『――想い人を他人に取られそうになって焦っているのに、だけど素直になれない初心な少女みたいだわ』

 不意にモンモランシーの言葉が脳裏を過ぎるが「違う違う! そんなんじゃないないわよ!」と頭を振って否定した。
 そうじゃない、そうじゃないのだ。

(私はただ、そういうのじゃなくて……)

 いったいどうしたいのか――、自分でもそれが分からないまま、思いついた文句をそのまま口に出して罵ってしまう。

「情けない。自分の使い魔に遠慮して、気疲れして、それでこの私に言い返す気力もないだなんて。そんなザマでヴァリエール公爵家の娘を名乗るなんて、お笑いだわ」
「なんとでも言いなさいよ。今の私が情けないのなんて百も承知してるんだから……」
「虚勢を張る元気もないってわけ? 重症ね」
「そう思うんなら放っておいて」

 突っ伏したまま顔を背けるルイズ。
 キュルケはため息をついて髪をかきあげた。
 イライラする。
 なんなのだ、このうじうじ娘は。
 こっちがこんだけ構ってやってるのに、辛気臭い、いい加減にして欲しい、普段のアンタはそんなんじゃないでしょう。
 腰に手をあて、身を乗り出す。

「あのね、ヴァリエール? あんたが何に悩んでそんな追い詰められてるのかなんて、そんなのこっちにだって分かってるわよ」
「だったらなに? あんたには関係ないでしょ?」
「関係大アリよっ! あんたがそんなんじゃあこっちの調子が狂っちゃうっての!」

 怒鳴りつけるように言ってしまう。
 まだ教室に残っていた生徒たちの視線がこちらに集まるのを感じたが、そんなの気にしてなんていられない。
 ルイズも背けていた顔をキュルケに向ける。

「はぁ? なにそれ? そんなの、それこそ私には関係ないじゃないの」
「だから関係大アリだって言ってるでしょ!?」
「し、知らないわよ。ていうか何をそんなに怒ってるの? らしくないわよ?」
「それが調子が狂うってことなの! 分かりなさいよ!」

 あのねぇ、とルイズが身体を起こす。
 正面からキュルケを見据えた。
 思えば、今日初めてルイズと目が合った気がする。

「分かった、分かったわよ。私がらしくないせいで、私をからかって遊びたいあんたの調子まで狂っちゃうっていうのはよく分かったわ」
「だったら、いつまでもへこたれてないでさっさと元気出しなさいよ」
「それが出来ればとっくにそうしてるわよ。あのね、言いたくないけど私にだって悩みはあるの。
 魔法以外にも出来ないことなんて山ほどあって、その一つが今抱えてる問題なの。
 でも私はそれを出来るようになろうと思って今頑張ってるところなわけ。分かる?」
「それくらい、分かってるわ」
「それが分かってるなら、なんで放っといてくれないわけ?
 放っておいてくれたら私は頑張ってビュウともちゃんとした関係になって、それで勝手に元気にもなるわ。
 でもそこにあんたがいちいち構いかけて茶々なんて入れてきたら、そんなの今の私にとっては邪魔でしかないの。わかる? 邪魔なの、はっきり言って」


 言っている内にルイズのテンションも上がってきてしまったのだろう、攻撃的な言葉がドンドン口をついて出てきてしまう。
 言われているキュルケも同じだ。
 からかってやろうくらいのつもりで声を掛けてみたのに、こうも真顔で言われると腹が立つ。
 道理がどうとかで言えば、ルイズの言葉の方にこそ道理があるから、余計にイラッときてしまうのだ。

「それとも、なに?」

 鼻をフンッと鳴らしてルイズ。

「ビュウと上手く行ってない私を見かねて、何かアドバイスでもくれてやろうってつもりだったとでも言うの、ツェルプストー?」

 見上げながら見下す、という器用な態度でそう言ったルイズの言葉に、キュルケは一瞬キョトンとしてしまった。

『アドバイスでもくれてやろうってつもりだったとでも言うの、ツェルプストー?』

 その言葉にキョトンとしたキュルケは、言葉の意味を噛み締めたの後、今までの自分の行動と言動に酷く納得した。
 要するに自分は、今のこのうじうじしたルイズをなんとかしたかったのだろう。
 けれど、そんな自分の真意に今の今まで気づいていなかったから、今日までのキュルケの言葉はどうにも空回って、ルイズの心に届かなかったのである。
 でも、自分の本心に気づいた今なら違う。
 今のルイズに張り合いがなくて詰まらないなら、張り合いのある面白いルイズに戻してやればいい。
 そのための障害があるのならば、まあ面倒ではあるけどそれを乗り越えるのに手助けしてやるのも吝かではない。

(だってそんなの、今のままのうじうじとみっともないルイズのせいでこっちの調子を崩されてるなんて、
 そんな状況に比べたら、多少我慢してでも元の状況に戻してやった方が、なんぼかマシってもんだわ)

 そんなことを思う自分自身に、プッと噴出す。
 いきなり噴出したキュルケに、怪訝な顔を向けるルイズを見て自分の考えは間違っていないと確信した。


 からかい甲斐のないルイズなどルイズではない。
 張り合い甲斐のないヴァリエールなど、ライバルではないのだ。
 ヴァリエールの人間の手助けをしてやるなんて、全く持ってツェルプストーらしくもないが、しかし――、

(でもね、遊ぶための火種が尽きてしまっては、火遊びなんて出来やしないのよ)

 その格好の火種であるヴァリエールの人間に再び火を灯してやるだなんて、そう考えれば今の自分は実にツェルプストーだ。
 腰に手をあて、轟然とルイズを見下ろして言ってやった。

「そうよ。男のあしらい方一つ知らない無知なお子様に、この微熱のキュルケが一つ手解きしてあげようじゃないの」

 そんなことを言ったキュルケに、ルイズは酷く間の抜けた顔を見せたのだった。

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