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異聞零魔郷 ~ Servant of Interstice-3



「私の教え子から、離れろ」

そう言い放ったコルベールに「何者か」は顔を向け、やはり人間味の全く無い笑みを浮かべ口を開いた。
「何か御用かしら? 蛇さん」

不気味な微笑みを受けて、先ほどの決意を早くも翻しそうになったが
気力を振り絞って再び言う。

「……貴様が何者かは知らないが、彼女は私の生徒だ。今すぐに離れろ」
「私は八雲紫と申します。彼女にはちょっとお話があるだけですわ」

コルベールは紫の言う事を全く信用出来なかった。
得体の知れない笑顔に、胡散臭い物言いだということもあるが
ルイズは倒れた格好のまま脂汗を垂れ流して唸っている。
何かされたと考えるのが自然だ。呪いの類だろうか。
一刻も早く救出し介抱しなければならない。

実際にはただ悪夢を見て魘されているだけなのだが
気合十分で興奮している上、紫の放つ狂気にあてられたコルベールには
既にそのような事を確かめる余裕は残っていなかった。

─まずはあの怪物、ヤクモユカリからミス・ヴァリエールを引き離さなくては。
そう考えたコルベールは歩きながら唱えたスペルを紫に向かって解き放つ!

「ファイヤーボール!」
「あら」

紫は背後の『裂け目』から奇怪な形の傘を取り出し火球を防ぐ。
その隙を逃さずコルベールは高速でスペルを唱えた。
「フライ!」
凄まじい速さでルイズへと迫り
「レビテーション!」
反作用で肩が抜けないためにルイズを浮かし、体当たりするように抱きかかえた。
その勢いを無理やりに無視し元の場所へとってかえす。
今度は勢いを殺さず『レビテーション』がかかったままのルイズを
生徒達が避難した方向、学院へ向けて放り投げた。ついでに風のスペルで追い風を作る。

「乱暴ねえ、貴方。あの子ったら可哀想に」
「死にはしないだろう……さて」

ルイズの安全は確保した。運が良ければ避難途中の生徒達に拾ってもらえるだろう。
そしてこの怪物を逃がさぬよう相手をしながら
オールド・オスマンの到着を待つ。
勝つ必要は無い。そもそも勝てる算段も無い。これで、いいはずだ。

「暫く付き合ってもらうぞ、ヤクモユカリ」
「全く、人の話を聞かない方……いいですわ。
 一緒に踊って差し上げましょう」

一行は各々が持てる最大の力で空を走っていた。
キュルケは脱落者が出ないよう注意しつつ、皆をまとめて学院を目指している。
現場から既に1000メイルは離れた。学院はもうすぐそこである。
一時は恐慌に陥りかけた生徒達も、段々と落ち着きを取り戻し始めていた。

「一体何だったんだありゃ」
「ゼロには困ったもんだぜ」
「ちょっとチビっちゃったよ、どうしようギーシュ」
「マリコルヌ……君って奴は」

喧々囂々、騒ぎ始めた生徒達をよそに、キュルケは大いに焦っていた。
─つい任せちゃったけど、本当に大丈夫かしらあの先生で。
 やっぱり手助けしたほうが良かったかしら。
 っていうか何で私はヴァリエールの心配なんてしてるの!
 落ち着くのよキュルケ。深呼吸をするの。 ヒッ ヒッ フー

ようやく落ち着きを取り戻したキュルケは、やはり戻って手伝いをしようと決意した。
自らもトライアングルのメイジであり、実力には自身があった。
少しは戦力になるはずだと考え、この場を誰かに任せるために口を開いた。しかし。

「ちょっと皆、私はやっぱり──」
「おい、見ろ。何だあれは!」
「メイジだったのかあの怪物?
 スクウェアクラスじゃきかないぞあれは!」

級友達の叫び声に遮られ、キュルケは後ろを振り向いて顎が落ちた。
眩い閃光が走っている。巨大な竜巻が現れている。
地は割れ、中規模の爆発が散発し、空を埋め尽くすほどの光の弾が舞っている。

キュルケは思った。
─だめだこりゃ。

「ミス・ツェルプストー、先程何かを言いかけていた様だが、どうしたんだい?」
「あぁ、ギーシュ。何でもないわ。先を急ぎましょう」

女の友情は儚い。そもそも宿敵を自称する仲である。
キュルケはルイズとコルベールの命を諦め、二人の冥福を祈りながら学院への道のりを急ごうとした。

「そうか。ならいいんだが……って、ミス・ツェルプストー! 後ろ後ろー!」

ギーシュの焦りを含んだ声に、すわ何事かと振り返ると
視界いっぱいに見慣れた桃色が広がっていた。


「これで、四枚目っ……!」

コルベールは全身汗だくで息を切らせながらも、確りとした口調で小さく呟いた。
精神力はまだ余裕がある。八雲紫の放つ強力無比な「弾幕」から身を守るため
自らの二つ名の由来でもある『炎蛇』を出し続けることに支障は無い。
しかし体力が問題だ。
これまで殆ど全力で動き続けたため、壮年に差し掛かったその体に最早余裕など残っていない。
全盛期だった二十年前と比べる事がおこがましい程、コルベールの体は衰えていた。

─残りはあと、何枚あった?!
……

八雲紫とコルベールが決闘するに当たり、紫の方から奇妙な提案があった。

「私が力を振るえば貴方に勝ち目は無い。でもそれでは芸が無いし、何より私が面白くない。
 そこで一つ提案があるのだけれど」
「……一体何だね」
「貴方は普通に戦って、私はこれを使うの」

訝しむコルベールに向かって、紫は袖から十数枚のカードを取り出し、提示する。
そのカードには様々な模様と文字のような者が描かれていた。

「私が先程までいた場所では、決闘の際にこの『スペルカード』を
 使わなければならない、という決まりがありますの。
 強大な力を持った妖と、ちっぽけな人間が渡り合う為に作られたものですわ」
「解せんね。一体それで君のような化物になんのメリットがある」
「……まぁ、こっちにも色々と事情があるのよ。これが無ければ私達の『世界』は成り立たなくなるくらいの」

紫は遠い目をしながらそう語った。
話を聞くに、『スペルカード』というのは
まさに今、目の前にいるような強力な化物に縛りを与えるものなのだろうか。
全く勝つ気がしなかったコルベールにとって、この提案は魅力的に感じた。

─要するにお遊びか。だがこちらが生き残るためにはそれも已む無し、だな。

「その『スペルカード』とやら、一体どんなものなのかね」
「本人の力に一定のパターンを組み込んだ術式、とでも言えるかしら。詳しくは見てのお楽しみね」
「……いいだろう。受けよう、その提案。それで、もし私が勝ったら引いてもらえるのかね」
「ええ。『この場は』引いて差し上げますわ」

この場は、ときた。恐らくルイズを諦めるつもりはあるまい。
言葉通り『この場のみ』引いて、後からルイズに近づくつもりだろう。
しかしコルベールにとってはそれでも良かった。
自分が時間を稼げば、オールド・オスマンに後を任せられる。
かの偉大なる魔法使いならば、この化物も何とか出来るに違いない。
コルベールは尊敬する自身の上司の実力を信じて疑わない。

─いいぞ……! これで全て解決だ!

……
─などと、考えていた時期が私にもありました。

甘かった。物凄くその考えは甘かった。
『スペルカード』を、コルベールは強力な魔法による一撃なのだと思っていた。
だが八雲紫は「パターンを組み込んだ術式」と言った。
それはまるで、王立美術館や、学院宝物庫に展示された高名な画家の絵の如く。
繊細かつ豪放に、荒々しくも美しい「弾幕」による洗礼であった。

─ 結界「夢と現の呪」 ─

決闘開始直後、紫の宣言と同時に、自分へ襲い来る光弾の奔流にコルベールは驚愕した。
慌てて炎の蛇を杖から生み出し、自分に「当たる弾のみ」を弾き返し、走りだす。

「あら……弾幕は避けるもので、弾くものではありませんわよ?」
「馬鹿を言うな!」

紫の軽口に怒鳴り返しながらも襲ってくる光弾に一瞬たりとも注意を逸らさない。
確かに一定のパターンはある。
避けきる事も不可能では無いだろうが、ぶっつけ本番でそんな博打は打てない。
一発の弾が地面を抉るのを見てコルベールはそう思った。人生にコンティニューなど無いのである。
何とか隙をみてこちらも攻撃を仕掛けねばと考え
迫り来る「弾幕」に一瞬隙間が開いたその時、コルベールは渾身のスペルを放つ。しかし。

「当たりませんわよ~」
─避けやがった! 避けやがったよこの女!
「単発では意味がありませんわ。もっと流れるように続けていらっしゃい」

既に軽口に言い返す余裕も無く、コルベールは弾を弾き、いなし、避け続けた。
─早く来てくださいオールド・オスマン! 死ぬ、死んでしまう!
つい先程、命を捨てる覚悟をしていた事など、当の昔に吹き飛んだコルベールであった。

一方、生徒達一行は現在、果てしなく重苦しい沈黙に包まれていた。
突如飛来したルイズの頭が、キュルケの顔に突っ込んだのだ。
当然キュルケは弾き飛ばされ、気絶した。
意識を失った二人は危うく揃って落下しかけたものの
生徒の誰かが機転を利かせて二人に『レビテーション』をかけ、一行は直下の大地にゆっくりと降下していった。

「……どうするの、これ」
「まだ生きてるよな?」
「うわっ、グロっ!」

ルイズとキュルケの二人は酷い有様であった。
高速で激突した結果、揃って頭部から流血し、全身を痙攣させている。
子供に見せたら、精神的外傷となってしまうこと間違い無しな光景である。

「どうだい、モンモランシー。治りそうかい?」
「駄目。表面の傷は癒せても、中身がどうなってるか分からない。
 私達の実力じゃ難しいわギーシュ」

香水のモンモランシーを始めとした水のメイジ達が、総出で二人を癒しているが、結果は芳しくないらしい。
学院には高位の水のメイジがいるが、そこまで二人が持つか分からない。
生徒達が焦ってパニックを起こしかけていたその時
上空から腹の奥に響き渡るような声が届いた。

「落ち着きたまえ皆の衆」

空に羽ばたく白い竜、その上に立つのはトリステイン魔法学院の長。
腰まで届く白髪と長大な髭を生やした偉丈夫、オールド・オスマンその人であった。

事情を聞いたオスマン氏は、即座に杖を振るい、あっさりと二人を癒してしまった。
流石は学院長! と生徒達は安心し、揃って溜息をつく。
ようやく全員が落ち着いた頃、オスマン氏は問うた。

「ミス・タバサが泡食って駆け込んできた時は何かと思ったが、コレの事かの?」
「い、いえ違いますオールド・オスマン。……アレ、です」
「アレ、か」

生徒の一人が指で示したその先に見えたのは、コルベールと紫の戦闘風景である。
1000メイルは離れたこの場所からでさえ、その苛烈さは容易に見て取れた。
実はオスマンは学院を出た直後から、戦闘には気づいていた。
誰かが否定してくれる事を期待していたのだ。

─やっぱりなぁ。イヤじゃのー、あんなのに関わりたくないわい。
他称偉大なる魔法使いも、中身はこんなもんであった。

「で、アレは何じゃ」
「ゼロのルイズが呼び出した使い魔と、コルベール先生が戦っているのですわ学院長」
「おや、もう目覚めたのじゃな。ええと、ミス……」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。
 以後、お見知りおきを。オールド・オスマン」
「ふむ。ルイズというとそこに倒れた娘か……ほれ、起きなさい」

何故か憎々しげにルイズを睨みつけるキュルケをよそに、オスマン氏が杖をルイズの頭にかざした。
ニ、三度杖を左右に振ると、ルイズが寝転がったまま唸りだす。

「ううっ…か、か……ぇ」
「うん? 何か言いたいのかの」
オスマン氏が耳をルイズの口元に近づける。
「か、か、か……加齢臭じゃねぇつってんだろっっ!!!」

空気が凍りついた。



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