あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロ=パペットショウ-03


 それは、起こりうるはずのない“何か”だった。

 いつものように“観察”し、いつものように切り刻み、いつものように腑分けする。
 恐怖の悲鳴を、喜びの涙を、哀しみと憤怒を。その全てを脳裏に焼き付け、指先だけで表現する。
 数多の命を人形に。潰えた命はそこで終わり、後は動かぬ人形が残るだけ。
 その人形に、再び魂を吹き込むのが、老紳士の役目だった。
 今回の演目は、“故郷”。あの男に、偽りの故郷を見せることこそが、今回のショウ。
 そのために腑分けされた人間は、百三十二人。それだけの人形を作り上げ、あの男の到着を待ちわびていたと思えば。

 一瞬の暗黒。闇に呑まれ、鏡に呑まれ。
 目を開けば、見知らぬ草原だった。




 ゼロ=パペット・ショウ
   第三幕




『悪くない、素材だ』
 目の前の少女は、一級の素材だった。
 老紳士の指先が繰り出す芸術に喜び、驚愕し、恐怖し、歓喜する。たった一体の人形を動かした時の反応。


素晴らしい。ワタ死は……彼女ノ人形ヲ、ツク利タイ。


 少女は先程、コントラクトサーヴァントと言った。コントラクト≒契約。つまり少女は、老紳士と何らかの契約を結びたいと言うこと。サーヴァント≒従者。つまり少女は、老紳士を従者にしたいと言うことなのだろうか。

 別に、何も問題はなかった。老紳士にとっては、たった一つの条件を受け入れてもらえれば良かったのだから。


「条件が、あります」


 青年の形をした人形が言葉を紡ぐ。悪魔の囁きだった。まさしく、少女にとってはそれは悪魔の囁きだったのだ。

「私に、貴女の人形を、作らせてください」

 悪魔を従えるには多くのものはいらない。悪魔の望む物は大抵、その魂と決まっている。
老紳士もまた、悪魔に似た何かだったのだろう。

 彼に人形を作らせると言うことは、モデルとなったものを生きながらにして切り刻み、腑分け、一切の妥協も入り込まない究極の“人体”を作らせるということなのだから。
 当然、生き残ることの出来るモデルなど、いない。

 しかしその言葉は、少女……ルイズには、甘美なものとして伝わってしまっていた。
 目の前の青年人形。この精密にして細緻な芸術。
それほどのものを作り上げることの出来るメイジが、ルイズ自身をモデルにしたいと言っている。
 脳裏に浮かぶのは、王宮や実家で見た、数々の芸術作品達。それらの一つに、ルイズをモデルにした人形が加われるかもしれないのだ。
 それは確かにルイズに羞恥をもたらすものであったが、同時に喜びももたらしていた。
 この老紳士は、ゼロと蔑まれた自分を、ここまで認めてくれているのだと錯覚して。

「ええと、その……」

 ルイズは葛藤する。あれ程精巧な人形なのだ。恐らく、モデルとなる自分にも相当な覚悟が必要だろう。
 恐らくディテクトマジックで調べるのだろうが、自分の身体的特徴を全て老紳士に知られてしまうかもしれない。
それは、ルイズにとっては若干の抵抗をもたらすのだが。

 この条件を呑み込めば、これほどのメイジが使い魔となる。

 その甘美な事実の前には、若干の抵抗など嵐に晒される布のような頼りなさしかなかった。

「わ、わかりましたミスタ。その条件のみます!」

 数分の迷いの末、ルイズは応じてしまった。老紳士との、契約に。
 表情一つ変えない老紳士と、彼の代わりに頷く人形。その人形の貌がまるで、悪魔のような笑顔に見えたのは、ルイズの錯覚だろうか。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」

 契約が終わる。悪魔との契約。死神のキス。
 ルイズは初めて魔法を成功させた達成感と、自身をここまで認めてくれた老紳士への感謝に満たされていた。
 これで誰にも馬鹿にされずに済む。もう誰にもゼロだなんて言わせない。そんな思いがルイズを満たしてゆく。

 一方老紳士……レオノフの方は自身の左手に焼き付けられる痛みに驚愕していた。熱くて、痛い。しかし、大したことはない。
 後はただ、先程から煩わしい視線で見つめている二人を始末し、少女の人形を作り上げれば良いのだから。



 ■■■■■

「無事に契約も終了したようだ。さあ、皆は教室に戻りなさい」

 コルベールの言に従い、次々と空へと舞い上がり教室へ向かう生徒達。これが普段ならばルイズへの揶揄の一つや二つはあったのだろうが、今回はそれすらもない。
 ルイズが召喚した相手がメイジだったから―――ではない。
 彼等はただ、一刻も早くこの場から逃れたかった。それだけだった。皆、言いしれぬ恐怖を老紳士から感じ取っていたのだ。

 しかし、遠巻きに見守っていた二人の生徒は動かない。キュルケとタバサである。これは、コルベールにとっても誤算だった。
 コルベールはこの後に残っている危険人物=レオノフとの接触に、生徒達を巻き込みたくないと考えていたのだから。
 本音を言うのならば、使い魔の主であるルイズさえも、この場では邪魔者でしかなかった。

 だが、彼女達がルイズを心配する心もわかる。運がいいことに、この場に残ったタバサの使い魔は風竜だった。
 いざとなれば自分が命を捨ててでも足止めすれば、生徒達は空高くへと逃げおおせることが出来るだろう。そう考えれば、悪くはない。

 後は、覚悟を決めるだけだった。

「さて、よろしいですか? ミスタ……パペットマスター?」

 改めて見ると、この老紳士は不気味すぎた。
 自身は何も動きもせず、ただ人形だけが表情豊かに雄弁に語る。どちらが人形なのか、わかりはしない。
 人の質感を持った肌。球体関節。あまりにも意志を感じさせる眼球。人形と人間双方の特徴を持った存在。
 本当に老紳士が人形を操っているのだろうか。実は逆なのでは? 
ディテクト・マジックによって調べたからには間違いなくあれが人形であることに代わりはないのだが。
 と、そこでコルベールは気付く。あの時、ディテクト・マジックをかけた時、あの人形から魔力をみることができたか。と。
 あらゆるゴーレムは魔法によって動く。だが、あの人形は……。


「なんでしょうか?」

 人形が答える。推察は後でも出来る。今すべき事は、追求だ。

「率直に訊きます。あの棺の中身は、なんなのですか?」

「私の人形と、強いて言えば素材ですね」

 実に呆気なく、レオノフは答える。
その呆気なさがコルベールの警戒心をますます逆立ててゆく。“素材”と答えた。
 人と見まごう人形を作るには、いったい何を素材とすればよいのか。


頭髪は? 

皮膚は? 

眼球は? 

まるで全て本物としか思えないあの人体を作りうる素材は?


「素材、とは……?」

 零れ落ちる冷や汗と、赤くなるまで強く杖を握りしめた指。コルベールの緊張はここに限界まで高まっている。

「人体です」

 だというのに、あの老紳士の操る人形は、実に嬉しそうにそう言ってのけた。

「私の芸術は……」

 予想していながらも、それでもやはり声が出ない。そもそもこの老紳士は、何故こんなに、嬉しそうに語るのか。
 老紳士の隣に立つルイズもそうだ。驚愕のあまり、声を出すことも出来ないのか。

「一体一体、一切の妥協を許さずに作り上げられた、神品とも言うべき完成品」

 ここにきてまた、圧倒的な恐怖がコルベールを襲う。老紳士の放つ狂気の重圧。
 ただ、氷のような無表情のままに微動だにしない老紳士と、全身から喜びを体現するかの如く語り続ける人形が、とてつもない恐怖をもたらしていた。


「そのためにモデルになった者達も」

 止めなくては、ならない。
 あの人形の言葉を。このままではあの人形は、決定的な一言を口にしてしまう。その一言を耳にすれば、老紳士を召喚したルイズは一体どれほど傷つくであろうか。
 コルベールは恐怖に押し潰されそうになりながらもなお、生徒のことを案じ続けている。

「生きながらにして、腑分けられた!! それほどの、超絶精密技巧至高芸術なのですから!!」

 その言葉は、予想よりもずっと最低で最悪な言葉だったが、恐怖と怒りのない交ぜになったコルベールの思考を、すとんと冷静に戻してくれた。
 そう、実に呆気なく、彼は冷静さを取り戻していた。こんな外道を召喚してしまったルイズには同情しよう。こんな非道に殺されてしまった被害者には哀れみを持とう。しかし、それよりも。



 まずは冷静冷徹に、この老紳士を永久に黙らせよう。



 それは、炎のように激しく燃えさかる憤怒ではなく、氷のように研ぎ澄まされた赫怒だった。

「使い魔としての契約を結んだばかりで悪いのですが」

 杖を抜き放つ。精神を刃に。一度は自ら戒めた劫火で、目の前の存在を焼き尽くそう。

「貴方は危険すぎます」

 詠唱。厳かに。緩やかに。それでいて激しく燃えさかる炎のように。

「仕方がありませんね」

 人形が答える。
 ここにきて初めて老紳士が動いた。コートの中より手袋に包まれた両手を露わにする。その回りには銀色の球体。メイジの杖を想像していたコルベールには、それが少し意外に思えて。

「ようこそ、パペットショウへ」

 初めて老紳士が向けた殺意を前に、コルベールはようやく、自分が敵として認識されたことを悟った。
 死闘が始まる。終わりの見えないギニョール(人形劇)が。


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