あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロ=パペットショウ-02


―――その男を見た時、吐き気がした。

 雪風のタバサはメイジである。
 トリステイン魔法学院に通う生徒の中では、数少ない“実戦を経験した”メイジである。
 その、彼女の戦闘経験が全力で叫んでいた。今もなお、その男を見るだけで叫び続けている。
 あの老紳士は、厄災だ。




 ゼロ=パペット・ショウ
   第二幕




 老紳士とルイズ、及びコルベールが何を話していたかまでは、タバサにはわからなかった。
ただ、コルベールの驚愕の声により、あの老紳士がこの上なく精巧な人形を操るメイジであることが推測できた。

 そして、契約。

 タバサが厄災と称した彼の老紳士は、非常に呆気なくルイズとの契約を終えていた。
そこには何事もなく。争いも、諍いも、……殺戮もなく。

―――この時、何を思ってあの老紳士が契約に応じたのかは、タバサには結局最後まで、全てが解決する最期まで、理解できなかった。

 コルベールは生徒達に先に戻るように告げ、大半の生徒達もその言に従う。
全ての契約は終了した。だからこそ、この場に留まる理由も皆、全て消え失せたはずだった。

 未だ血を垂れ流し続ける、棺で出来た醜悪なオブジェを残しては。


 果たして生徒達が飛び去ると、場に残されたのはたったの四人だけとなる。

老紳士。ゼロのルイズ。炎蛇のコルベール。雪風のタバサ。微熱のキュルケ。

実際には、彼女達の使い魔も含まれるのだが。
 ルイズは老紳士の主人であるためにここに残り、コルベールは棺の群れを問いただすために残っている。
タバサは老紳士に対する警戒と、親友であるキュルケの身を案じ、キュルケはルイズを気にかけていた。

 詰問の声が響く。

キュルケやタバサの位置からでは全てが聞こえるわけではないが、声こそ潜めてはいるが既に憤慨に近い態度のコルベールと、氷のような冷静さを保ちながら人形に喋らせる老紳士の声だけが、夕暮れ空を響いている。

「ねえタバサ。なんて言ってるか、聞こえる?」

 キュルケの声。首を左右に振ることを返答に。
 ルイズ達に近づき聞き取ろうとしたのだろうキュルケを、手で制しながら口にする。

「これ以上近いと、対応できないかもしれない」

 未だ、タバサは杖を握り続けている。油断一つ無い表情で。 表情を引き締める。キュルケ自身もまた、杖を握る。

タバサは未だ、コントラクトサーヴァントの成功した今ですら、あの老紳士への警戒を怠っていない。
隣に立つ自分が気を抜いてどうする、と、キュルケは自身を叱咤する。

「だけど、ルイズやミスタ・コルベールはあんなに近いわよ?」

 軽口のつもり。タバサの警戒≠臆病を、軽く皮肉ったつもりだったのだが。

「いざとなったら、あの二人は諦める」

 返答は簡潔で、予想を上回る代物だった。
 諦める。その言葉がキュルケの脳裏を蹂躙する。

 私が? “あの”ルイズの命を諦める? “タバサ”が? あの二人の命を諦める?

 あれは、それほどの脅威なのか。
タバサとキュルケはトライアングルのメイジで、老紳士と相対しているコルベールも同じくトライアングルで。
それでもあの老紳士には敵わないとタバサは判断しているのか?




「いつ何があっても大丈夫なように用意はして。いざとなったら、シルフィードで撤退」

 何事もなく終わって欲しい。そうタバサは切に願った。あの棺の中身=タバサの目算によると五十人分以上の血液を垂れ流す“ナニカ”。それですらただの幻であって欲しいとすら、タバサは願っていた。

 先程あの老紳士と視線が合った時、ゾッとした。あれは、人が人を見る目じゃない。貴族が平民を見下す時だって、あんな目で見ることはない。あれは、そう。これから料理に使う食材を見極める、職人の目と瓜二つだ。

 職人は老紳士。素材は私達。となると、出来上がる料理は一体何なのか。そこで思い浮かぶのが、老紳士の代わりに言葉を話す、あまりに“精巧過ぎる”人形。

 吐き気が、した。

 気を許すことは出来ない。出来れば今この場で片を付けたい。例えコルベールが安全と判断したとしても、あの老紳士は必ずや暗躍する。

 タバサの想像は簡単なものだった。子供向けのちょっとしたホラー。使い魔として学園に迎えられる老紳士。夜な夜な“料理”されていく生徒達。何一つ変わらず、日常を生活する“人形”の群れ。やがて、気付いた時には学園の大半が――――――

 それを単なる笑い話として流すことは、タバサには出来なかった。噎せ返るような血の匂いを、気配を、死者の怨念のようなものまで、老紳士からは嗅ぎ取れたのだから。

「あれはたぶん、千人単位で殺してる。油断しちゃ、だめ」

 千人単位。自分で口にしておきながら、実に非現実的なことだとタバサは思う。しかし逆に、怖ろしいことに、納得できてしまう現実が確かにこの場に存在するのだとも、思う。


 あの老紳士はコートの下に自らの両手を隠している。恐らくそこに杖があるのだろう。初動を見切ることは不可能と言っても良かった。
 詠唱を見切ることも考えたが、この距離では聞き取ることが難しい。
 その上、既に人形は動き始めている。ギーシュ・ド・グラモンの扱うワルキューレのように、一度動き始めたゴーレムは、詠唱を用いなくとも動かせるのだから。今さら詠唱の瞬間を見切ったとしても大した効果は望めないだろう。

 ならば後は一つしかない。老紳士の杖も詠唱も見切れないならば、その魔法を見切るしかない。
 即ち、人形を。

 視覚の全てを人形に集中させる。あの“魔法”が、どんな攻撃動作をとっても反応してみせる。そうタバサは胸に誓う。

 風の流れが伝えてくる。キュルケの緊張。憤激してゆくコルベール。焦りながらも老紳士を庇おうとするルイズ。そして、人形の笑み。

「仕方がありませんね」

 神経を集中していたからだろうか。それとも今までより大きな声で発言されたのだろうか。その言葉ははっきりと、タバサとキュルケの耳に届いていた。
 妙に芝居がかった、一定に狂った感情の込められた人形の声が。

 交渉決裂。これよりあれは牙を剥く。

 あの人形に集中する。自分の使い魔へと感情を寄せているルイズを抜いたとしても、こちらはトライアングルメイジが三人。
 人形がどれほどの性能を持とうが、あの一体だけで対応できるものか。どれほど人形が速く動こうが、どれほど頑丈だろうが、私達は倒してみせる。

 あの一体である限りは。



「ようこそ、パペットショウへ」



 その一言と共に。棺で出来た塔の中から。
 数えきれぬほどの人間≠人形が、立ち上がってきた。

 多数の棺桶の開かれる音は、その音の数だけ、絶望の響きを持っていた。


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