あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-13


 トリステインとアルビオンを繋ぐ港町、ラ・ロシェール。
 峡谷に挟まれて日当たりの悪いこの町の、更に日当たりの悪い路地裏の一角に『金の酒樽亭』という居酒屋がある。
「私たちの話をこのハルケギニアの人間が理解出来るとも思えませんが、万が一……ということもありますからね」
「……密談に適している場所とも思えんがな」
 その中では、お世辞にも品が良いとは言えない傭兵やガラの悪い男たちが、騒ぎながら酒を飲んでいた。
「むしろこのような雑然とした空間の方が、機密情報のやり取りには向いています。覚えておいた方が良いですよ」
「そんなものか」
 ユーゼスはシュウに誘われるまま『金の酒樽亭』に入り、店内の隅の一角に腰掛けることになった。
 ……正体不明の人間について行くなど、普通であれば考えられない。だがこの男が発した言葉は、無視をするにはあまりにも意味がありすぎた。
 ―――イングラム・プリスケンの存在を知っている。
 これだけで、自分にとって無関係ではあり得ない。
 おそらくどこかの並行世界からやって来たのだろうが、そこにはイングラム・プリスケンが存在したのだろう。
 そして、ユーゼス・ゴッツォも。
 イングラムが存在するのならばユーゼスが存在し、ユーゼスが存在するのならばイングラムが存在する。
 因果の鎖で縛られた、互いの鏡像。
 『ユーゼスとイングラム』は、真の意味での運命共同体である。接触するかしないかの『ユーゼスとラオデキヤ』程度の関係ではないのだ。
 もっとも、『自分』と『自分の鏡像のイングラム』との決着は既に付いているので、『このユーゼス・ゴッツォ』と『それから生み出されたイングラム・プリスケン』との因果の鎖は、切れているのだが。
 ……そこまで考えたところで、ふと店内に気になる点を見つけた。
 白い仮面を被った黒いマントの人物が、こちらに視線を向けているのである。
 まあ、明らかにこの店の雰囲気にそぐわない白衣を着た男二人がいるのだから、ある程度の注目は集めて当然なのだが。
 取りあえず気にせず、シュウとの会話を始める。
「……しかし、仮面の下の素顔がそれだとは思いませんでしたね」
 シュウは薄く笑いを浮かべながら、ユーゼスの顔を見る。
 そんな意見に対して、ユーゼスは無表情に答えた。
「お前の知っているユーゼスと『私』は別人だ。素顔が同じとも限らない。……現に、私は一度顔を変えているからな」
「ふむ、人に歴史あり……というやつですか」
 言いつつ、ワインと軽いツマミを頼むシュウ。
「あなたもどうです?」
「遠慮しておく。酒は思考を鈍らせるからな」
「たしなむ程度には、覚えておいて損はありませんよ」
 ワインとツマミが運ばれて来ると、シュウは早速グラスを傾け始める。そんな仕草にも、なぜか気品と言うか優雅さのような物がにじみ出ていた。
(……この男、底が見えんな……)
 只者ではないことは一目で分かるが、その『本質の読みにくさ』に関しては、先程会ったワルド子爵などと明らかにタイプが異なる。
 ワルドが本質を『厚く重い布で隠している』とするならば、シュウは『恐ろしく深い湖の底にある』とでも表現すべきような……。
「……やはり警戒は解けませんか。まあ、無理もありませんね」
 ユーゼスの様子を見て、シュウは仕方なげに息を吐く。
「それでは、まず『お互いの世界』について情報を交換しましょうか」

「『互いの世界』だと?」
「ええ。あなたの存在した世界と、私の存在した世界―――それらが異なることは確実ですが、『世界を構成している要素』については共通部分がある可能性があります」
「ふむ……」
 確かに自分は様々な世界を取り込んだ、新たな世界を作ったが……。この男の世界もそうだと言うのだろうか?
 ともあれ、何にせよ反対する理由はない。
「良いだろう」
「感謝します。では……『クロスゲート・パラダイム・システム』という単語に聞き覚えは?」
「私が開発したシステムだ。因果律の把握と操作、時空間の移動などが主な機能だが……やはり『ユーゼス・ゴッツォ』が存在する以上、それも存在しているか」
「世界が違おうと、同じ人間は同じような行動を取りますからね」
 サラリと言うシュウ。まるで実際に見て来たかのような口振りである。
「では次は私だな。『ガイアセイバーズ』を知っているか?」
「……新西暦50年代に、そのような名の特殊部隊が存在したことは知っていますが、さすがに詳細までは知りませんね」
「ふむ……。では『バディム』は?」
「そのガイアセイバーズによって壊滅させられた組織だと聞いています。同じく詳細は不明ですが」
「成程、『新西暦』という点では共通しているな……」
 この男が存在していた世界が、おぼろげながら見えてきた。
 ―――つまり『自分の行動が生み出した結果』、ということだろうか。
「次に移りますか。『サイコドライバー』…………いえ、少々お待ちを」
「?」
 言うなり、シュウはワインとツマミを一口ずつ口に入れて、直後に懐から素早く一枚の紙と一本のペンを取り出した。
 そしてかなりのスピードで、その紙に文字を走らせていく。ユーゼスも知っている、地球の文字だった。
『この字が読めますね? YESならばテーブルを一回叩いてください』
 ユーゼスは指で軽くトン、とテーブルを叩く。
『私たちの会話に、注意を払っている人間がいます』
(……何?)
 思わず振り向こうとするが、シュウにペン先を顔に突きつけられた。
 仕方なく、視線を紙に戻す。
『下手にリアクションは起こさないように。悟られてしまっては、あなたにとっても私にとってもマイナスになりかねません。ここは全く関係のない話をしながら、筆談を行うべきです』
「……………」
 理には適っているので、ユーゼスもシュウにならって懐から紙とペンを出す。
「……二流品ですね、ここのチーズは。ワインも質が悪い」
『あの聞き耳を立てている相手に、心当たりは?』
「たかが酒とツマミに、こだわりすぎだ。そもそも店構えを見た時点で、味の方も想像しておくべきだろう」
『無い。私に質問するということは、お前も無いのか』
「案外、このような店が『隠れた名店』であることも多いのですが……」
『はい。しかし、筆談では効率が悪いですね』
「外見で店を判断するのは間違い、ということだ。やはり頼りになるのは他人からの情報だな」
『私の世界の座標を教える。並行世界を覗き見ることは可能か?』
「しかし、他人の味覚と私の味覚は違いますからね。……結局は、自分で実際に足を運び、口に入れてみるしかないということですか」
『可能です。しかし、よろしいのですか? あなたの世界を見るということは、あなたの人生をそのまま見ることになってしまいますが』
「時間と手間を惜しまなければ、の話になるがな。難しい問題だ」
『構わん。見られて困る物でもない』
「そう構えることでもないのではないですか? 取りあえずは食べたいものを食べてみる。これが大事だと思いますが」
『それでは、私のいた世界の座標もお教えしましょう。少しばかり次元境界線がややこしいことになっていますので、混線しないように気をつけてください』
「確かにな」
『了解』
 そして二人は、互いの『世界の座標』を書き記し、紙を交換する。

 筆談を切り上げ、二人は席を立った。
「……さて、なかなか面白い時間でした。今度はもっとゆっくりとお話がしたいものですね」
「全くだな」
 勘定を支払い、『金の酒樽亭』を後にする。
 そして外に出て、後ろに誰もいないことを確認すると、
「……あの仮面の男でしたね、私たちの様子を窺っていたのは」
 視線を鋭くして、シュウは『金の酒樽亭』を見る。
「分かるのか?」
「『気配を読む気配』が消しきれていませんでしたからね。周囲の空気の流れが不自然にスムーズでしたから、どうやら風のメイジのようですが……」
「……………」
 なぜ分かる、と聞いて良いのだろうか。
「それでは、これを渡しておきましょう」
 言って、シュウは笛のような物をユーゼスに手渡した。
「これは?」
「エーテル通信機と言います。地上とラ・ギアス―――異なる世界間でも通信が出来る、便利な物です」
「ほう……」
 興味深げにエーテル通信機を眺めるユーゼス。
「何か私にご用がありましたら、それを使って連絡を。私から連絡があるかも知れませんがね」
「分かった」
(始終、この男のペースで話が進んだな……)
 どうもこのシュウ・シラカワという男は、自分と『格』が違うらしい。
「最後に、一つだけ聞かせて欲しいのですが」
「何だ?」
「……あなたは因果律を操作し、神に近い存在になりたいと思っていますか?」
「―――神、か」
 それと似て非なる存在になろうとしたことは、確かにある。しかし。
「今更そんなモノになったところで、意味はあるまい? それに私は一度失敗している。もう一度挑戦する気力など無いよ」
 そのユーゼスのセリフを聞いて、シュウの表情が驚きとも感心ともつかない物に変わった。
「……どうやら、本当に私の知る『ユーゼス・ゴッツォ』とは違うようですね。安心したような、拍子抜けしたような気分ですが……」
「気を張る必要が無くて良いのではないか?」
「気を許しても良い、と判断したわけでもありません。
 ……それと、一つだけ忠告しておきます」
 スッと、シュウがその身にまとう空気が一変する。殺気を放つでもなく、威圧するでもなく、凄みを利かせるでもなく―――しかし、個人から発せられる『圧力』のようなものが段違いに増していた。
「……………」
「間違っても、私を利用したり操ったりしようなどとは考えないことです。その場合、『それ相応の報い』を受けていただくことになりますので」
「……覚えておこう」
 気圧されつつも答えるユーゼス。
 ……自分が汗をかいていると気付いたのは、シュウと完全に別れて数秒ほどした後だった。


「へえ、それじゃトリステインの魔法学院で働いてるの?」
「ああ。……さすがに『マチルダ・オブ・サウスゴータ』と名乗るわけにはいかないから、偽名を使ってるけどね」
 マチルダ・オブ・サウスゴータ―――トリステイン魔法学院ではミス・ロングビルと名乗っている女性は、妹のような娘のようなハーフエルフの少女に、現在の自分の職業を語る。
「まあ正直、今までは酒場の給仕とか『あまり褒められない仕事』で食いつないで来たんだけど……」
 もちろん『あまり褒められない仕事』の詳細は秘密だ。
「それでわたしが仕事を聞いても、教えてくれなかったの? もう、別にそんなことで姉さんを軽蔑なんてしないのに」
 ……この優しい子は、自分の所業を聞けば悲しむだろうから。
「私にもプライドって物があったからね。……ところでティファニア」
「なに、マチルダ姉さん?」
 可愛く首をかしげる少女―――ティファニア。首を動かした拍子に、その長く美しい金髪と、少々……いやかなり常識外れなサイズのバストが動いた。
 マチルダは『相変わらずだねぇ』などと心の中で呟きつつ、あらためてティファニアに賛辞を送る。
「使い魔の召喚に成功したみたいじゃないか。おめでとう」
 言って、窓の外を指差す。
 そこには、子供たちとたわむれる青い鳥が一羽いた。
「きゃははっ! ほらほらチカ、こっちおいでー」
「わ、キレイな羽~」
「うりゃうりゃ! 僕を引っ張って飛んでみろー!」
「ほらほらチカちゃん、これ食べてー」
「ああもう、何でこのあたしがこんなガキ共の面倒を……あ、こら、やめなさい、鳥(ヒト)の羽をむしらないで、足を掴まないで、得体の知れない虫をモガガガガガガ」
(……たわむれるって言うか、玩(モテアソ)ばれてるような気もするけど)
 ともかく、あの鳥がティファニアが召喚した使い魔なのだろう。
「しかし召喚して間もないだろうに、もう喋ってるとは……なかなか優秀じゃないか?」
「あ、あの、えっと……」
「?」
 賞賛の言葉を送るマチルダだったが、どうもティファニアの様子がおかしいことに気付く。
 まるでバツが悪いというか、自分の手柄じゃないのに自分の手柄のように褒められていると言うか……。
「その……マチルダ姉さん、あの子は実はわたしの使い魔じゃないの」
「は?」
「ちょっとややこしいんだけど、わたしが使い魔として召喚した人が連れてた使い魔、じゃなくてファミリアで……」
「……どういう意味だい?」
 一度聞いただけではよく分からないので、もう一度聞きなおす。
「えっとね? わたしが『サモン・サーヴァント』で呼び出したのは―――」
 それに答えてティファニアが順序立てて説明を行おうとすると、
「戻りましたよ、ティファニア。……おや、お客様ですか?」
 いきなりよく分からない男が、家の中に入ってきた。

(……何だ、この男?)
 物腰と身にまとう空気からして『普通の人間』ではないことは分かる。
 だが軍人ではない。訓練された人間ならば、どうしても身に付けてしまう『画一さ』がないからだ。
 傭兵でもない。ああいう連中が放つ独特の空気というか、殺気がない。そもそも武器らしい武器を持っていない。
 メイジでもない。マントも杖も『イザとなれば杖をいつでも取り出す』空気すらも見当たらない。
 ―――では、何だと言うのか。
 マチルダは杖に手を伸ばし、注意深く男を見ながら出方を窺う。
(ティファニアに何か怪しい真似を……指一本でも触れたら、その時は……)
 即座にこの家の敷居をまたいだことを後悔させてやる―――と息巻いていたのだが。
「あ、おかえりなさい、シュウさん!」
「えっ?」
 そのティファニアは嬉しそうに立ち上がり、ててて、と男の元へと駆けていった。
 そして親しげに会話などを始めてしまう。
「『気になることがある』って言ってましたけど、どうだったんですか?」
「なかなか面白い人物に会うことが出来ましたよ。少なくとも無駄足ではありませんでした」
「ネオ・グランゾンは見つかって……ないです、よね?」
「『かくれみの』は、このような時には便利ですからね。このハルケギニアでは常に張っていなければならないのは、少々面倒ですが」
(うっ、ティファニアがあんな顔を……!?)
 これまでのマチルダの知識には無い表情を、ティファニアは見せていた。
 ……何だかんだ言って、自分とティファニアとの付き合いは長い。
 サウスゴータ地方の太守だった父(その名前も土地も剥奪されて久しいが)との繋がりで、アルビオン大公の娘だったこのティファニアと初めて会ってから……いや、本当にいつ出会ったのか覚えていないほど、昔からの付き合いなのである。
 最初はエルフということで怖がりもしたが、誤解が解けてからは良い関係を気付くことが出来た。
 幼なじみでもあり、妹代わりでもあり、ティファニアの母のエルフが殺害されてからは母親代わりでもあった。
 だが。
 今のティファニアの顔は、友人でも妹でも娘でも、孤児たちに見せるような姉でも母親でもない。ある時期から自分に対して向けるようになった『尊敬の眼差し』とも違う。
(『女の顔』……ってほどじゃないね。『恋する瞳』ってやつか)
 よく見ると顔は赤らんでいるし、態度もどこかソワソワと言うかモジモジしている。
(……………)
 これが普通の男(少なくとも自分の審査をパスしない限り許すつもりはないが)であったら、まあ微笑ましい目で見られるのだが……どうにもタイプが特殊すぎると言うか、何と言うか。
「私からの報告はこんなものですね。……では、そこの方に紹介していただけませんか。何やら私のことを警戒しているようですので」
「あ、はいっ」
 男に言われて、ティファニアは少しはにかみながら紹介を始めた。
「この人は、私が『サモン・サーヴァント』で召喚したシュウ・シラカワさん。今は一緒に住んでるの」
「はあ!?」
 一緒に住んでいる―――いや、それも確かに聞き逃せないが、それ以上に聞き逃せない言葉が出て来た。
(人間を召喚した、だって?)
 それは、あの少女と同じく―――
「で、この人はマチルダ・オブ・サウスゴータさん……って言うんですけど、今はその、貴族の名前を取り上げられちゃってて……」
「サウスゴータ……以前お話ししていただいた、太守の娘の方ですね。そう言えば、この家の生活費などを仕送りしてもらっているのでしたか」
「はい。わたしの恩人で、憧れの人です」
 言ってくれるセリフは嬉しいのだが、いきなり色々な情報が出現しすぎて、マチルダの頭は混乱し始めていた。


 夜もすっかり暮れて、もはや夜中と言える時間帯。
 ユーゼスとギーシュは、ラ・ロシェールの入り口でルイズたちを待っていた。
「うーむ、しかしルイズと子爵は驚くだろうな! 何せとっくに置いてきたと思っていた僕たちが、先にラ・ロシェールに着いているんだから!」
 ギーシュからはどう自慢してやろうか、という様子がありありと見て取れる。
「……言っておくが、私たちがここで御主人様たちを待っているのは、出迎えるためではないぞ」
「え!?」
 そんなギーシュに、ユーゼスは釘を刺す。
「もし『どうやって移動した』と聞かれたら、お前は何と答えるつもりだ?」
「そ、それは……えーと、し、新種の幻獣で」
「ほう、その幻獣は今どこにいる?」
「こ、ここに」
 指差した先には、白衣を着込んだ銀髪の男がいる。
「……『消す』ぞ、ギーシュ・ド・グラモン」
「ご、ごめん、何されるのかよく分からないが、ホントごめん。じょ、冗談だよ、冗談! わはははは!」
「……………」
「……すいません」
 ふう、と溜息を吐くユーゼス。……どうもこの少年といると、溜息の回数が増える。
「私たちは、御主人様たちが到着した1時間ほど後に、改めてラ・ロシェールに入る。それならば怪しまれはすまい」
「移動方法は、どう説明するんだい?」
「それに関しては、口裏を合わせてもらおう」

 そしてルイズとワルド、予想通りについて来たキュルケとタバサがラ・ロシェールに到着してから、きっかり1時間後。
「いやぁー、ようやく着いたよ!」
「なかなか面白い道のりだったな」
 『只今到着したばかりです』という風を装って、ユーゼスとギーシュは『女神の杵』亭に顔を出した。
 なぜ真っ先にこの宿に向かったかと言うと、『御主人様とミス・ツェルプストーは、とにかく見栄を張りたがる傾向があるからな。ワルド子爵とミス・タバサが反対しなければ、ここに行くはずだ』というユーゼスの意見を聞いたためである。
「……ヤケに早いわね。明日の夕方頃にならないと着かないんじゃないか、って話してたんだけど」
「私たちもそう思っていたのだがな。ちょうど魔法学院を出てすぐの辺りで、飛竜に乗った一団がいた」
「飛竜?」
「旅芸人……いや曲芸団とか言ってたね。町から町、国から国を流れて芸を披露していくそうだよ」
「ふーん?」
 そんなのがいたんだ、と初めて得る知識に頷くルイズ。
「私が乗馬で四苦八苦している時に、ちょうどその一団の目に留まったらしくてな。事情を話したら、ここまで乗せて行ってくれた」
「え? ……それじゃ、お礼を言っておかないと! 使い魔がお世話になったのに、主人が礼の一つも言わないなんて……」
 慌てて外に出ようとするルイズを、ユーゼスが止める。
「彼らなら、もう行ってしまったよ。何でも『東に向かう』とか言っていたが……」
「そう……。残念ね、その一団っていうのを見てみたかったんだけど」
 と、そこでタバサが無表情にユーゼスに問いかける。
「竜酔いは?」
「酔い止めの水魔法とやらをかけてもらったのでな。何とか途中でリタイアせずに済んだ」
「……あれ、そんな魔法あったかしら?」
「一般には知られていないが、あのように長距離を渡る者の間ではポピュラーらしいぞ」
(……よくもまあ、ここまで嘘を並べられるものだなぁ……)
 疑問を浮かべるキュルケに、これもまたサラリと存在しもしない魔法を語るユーゼス。そんな彼に、ギーシュは舌を巻いていた。
「道中、ミスタ・グラモンが竜を操る女性を口説こうともしていたな」
「……あっきれた。親切にも乗せてもらってるってのに。モンモランシーが聞いたら何て言うかしら?」
「なっ、バ、バラの存在の意味というのはだね……!」
 いきなり話を振られたので慌てるギーシュ。だが、他の面々はそれを『モンモランシーに告げ口されることで慌てた』と解釈する。
 そして100%嘘だらけの話をさも本当のように二人で語った後、明日の打ち合わせをし、『さすがに疲れたから、町の入り口のすぐ近くの宿を取ってしまった』と言い残して、その場を別れたのであった。


 明けて、翌朝。
 ユーゼスは、ギーシュとの相部屋をノックする音で目覚めた。
「……む?」
 隣にいるひとまずの同居人は、熟睡しているようである。
 ルームサービスか何かだろうか……などと考えながら、ドアを開ける。
「おはよう、使い魔君」
「……おはようございます」
 そこにいたのは、ワルドであった。早朝だと言うのにバッチリと目が覚めているらしい。
「何か?」
 この男がわざわざこんな所に来る理由が本当に分からなかったので、ユーゼスは短く質問した。
「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なんだろう?」
「………」
 ワルドに対する警戒度合を高める。
 どこからその情報を探り当てたのか。
 なぜ、このタイミングでそれを聞く必要があるのか。
 なぜ……『ガンダールヴなのかい?』という疑問系ではなく『ガンダールヴなのだろう?』という確認なのか。
 そんなユーゼスの雰囲気を感じ取ったのか、ワルドは少し慌てて言葉を発する。
「その……あれだ。『土くれ』のフーケの一件で、僕は君に興味を抱いたのだ。昨日、グリフォンの上でルイズに聞いたが、君は『ハルケギニアではないどこか』からやって来たそうじゃないか。おまけに伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうだね」
「……御主人様には、私が『ガンダールヴ』だということを話した覚えはありませんが」
「……………いや、その特徴的なルーンから、魔法学院ではかなり初期から当たりをつけていたそうだよ?」
「魔法学院で当たりをつけた情報を、なぜあなたが掴んでいるのです?」
「ん、ああ、この任務に就くに当たって、事前に魔法学院の学院長と話をしていてね。そこから得たんだ」
「オールド・オスマン氏は『ガンダールヴを王室に知られてはいけない』と言っていましたが」
「いや、……トリステインの存亡に関わる事態だからね。戦力の把握は重要だろう? 私がどうしても、と頭を下げて頼んだんだよ」
「……………」
 怪しい。
 後から言いつくろった感が、かなり出ている。
 そもそも見るからにプライドが高そうなこの男が『自分から頭を下げる』という光景を、どうにも想像が出来ない。
「と、ともかく、だ!」
 ゴホンと咳払いをして、ユーゼスの追求を打ち切るワルド。
 ますますユーゼスの疑念は膨らんでいく。
「僕は歴史と、強者に興味があってね。学院長に話を聞いたときに君に興味を抱き、すぐさま……魔法学院の図書館で、『ガンダールヴ』について調べたのさ。
 ……伝説にうたわれたその実力、そして君が持つ知識。その実力がどの程度の物なのか、僕は知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「お断りします」
 ユーゼスは即答した。

「……おじけづいたのかい?」
 挑発するような口調で言うワルドだったが、ユーゼスは構わず『戦わない理由』を言う。
「あなたのメイジとしてのクラスは?」
「スクウェアだ」
「……私はドットクラスのメイジと引き分ける程度の実力です。スクウェアのあなたに勝てるわけがないでしょう」
「何?」
 思わず拍子抜けしたような声を出すワルド。
「それにあなたは……素人目に見ても、かなり鍛えられている。私はこのハルケギニアに来るまで、ほとんど戦闘の訓練も経験もゼロでした」
「……それでよく、ルイズを守れるね」
「御主人様は、私にそのような役割を期待していないようですから」
 これは本当である。
 フーケの一件以来、ルイズは自分と競うようにして知識をあさり始めた。しまいには『アンタとわたしが同じ量を勉強してたら、わたしがアンタに追いつけないでしょ!』とまで言われる始末。
 ……どうにも本格的に『越えるべき壁』として認定されたようだ。
「いや、しかし―――そう、実力だ。任務を遂行するためには、仲間の実力を知っておく必要もある」
「ですから、ドットクラスのメイジと同程度だと……」
「まあまあ、実際の実力など戦ってみるまでは分かるまい! ともかくお互いの腕試しと行こうじゃないか!」
 そうして、半ば強引にワルドと戦うことになってしまった。

 朝食を済ませ、身支度を整え、『デルフリンガーだけ』を持って、かつて使われていたという練兵場に辿り着く。
 ……『デルフリンガーだけ』という時点で、ユーゼスのモチベーションの低さは理解が出来るだろう。
「昔―――と言っても君には分からんだろうが、かのフィリップ三世の時代には、ここでよく貴族が決闘したものさ」
「はあ、そうですか」
「おおおおお……、よ、ようやく、ようやく俺を剣として使ってくれるんだな、兄ちゃん!? しかも貴族との決闘だって!? そんなここ一番に俺を使ってくれるなんて……!!」
「ああ、そうか」
 ……ワルドとデルフリンガーは勝手に盛り上がっているが、ユーゼスのテンションは下がりっぱなしであった。ハッキリ言って、やる気が起きない。
「王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った、古き良き時代……。名誉と誇りをかけて、貴族たちは魔法を唱えあった。
 でも、実際は下らないことで杖を抜きあったものさ。―――そう、例えば女を取りあったりね」
「はあ、そうですか」
「よ、よぉし、俺はやるぜ、兄ちゃん……いや、相棒! なあに、ちょいとくらい身体を動かすのが苦手だろうが、このデルフリンガー様がキッチリと手助けしてやるぜ!!」
「ああ、そうか」
 なぜ、この連中はこれほどまでにモチベーションが高いのだろう……と本気で疑問に思い始めていると、
「……ワルド、来いって言うから来てみれば、何をする気なの?」
 物陰から、ルイズが現れた。

「彼の実力を、ちょっと試してみたくなってね。介添え人と言うか、見届けてもらいたい」
「もう、そんなバカなことは止めて。今は、そんなことをしている場合じゃないでしょう?」
「そうだね。でも、貴族というヤツは厄介でね。強いか弱いか……それが気になると、もうどうにもならなくなるのさ」
「いや、間違いなくあなたの方が強いと思いますが」
「……意外と、彼はその実力を隠しているのかも知れないしね」
 ユーゼスの言葉をはねのけて、ワルドは決闘を開始しようとする。
「―――やめなさい、ユーゼス。これは命令よ?」
「了解した」
 言うと、ユーゼスはデルフリンガーを鞘に仕舞って、宿屋に戻ろうとする。
「お、おい、相棒!?」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」
 慌てて引き止めるワルドとデルフリンガー。
「せっかくの見せ場だってのに、ここで引き下がるのかよ!?」
「そのインテリジェンスソードの言う通りだ。君とてルイズに『弱い』と思われたままでは屈辱ではないかね?」
「いえ、別に」
「……だって、みんなそう思ってるものねぇ?」
 『ユーゼス・ゴッツォが弱い』というのは、ラ・ロシェールにいるワルド以外のメンバーにとって、共通認識である。
 今更それを覆そうなどという気は起きないし、そもそも覆し方が検討もつかない。
「……ええい、ならばルイズの婚約者として命じる! 私と戦いたまえ!!」
「?」
 イライラした様子で、ワルドは強くそう言った。
「君は私と会った時に、『御主人様の婚約者とあらば、我が主人も同然』と言ったな!? いや言った、確かに言った!! ならば主人の命令を聞くのは当然!!」
「はあ」
 その言葉に間違いはないので、取りあえず頷く。
「よし、その態度は了承と受け取る!! ならば戦おう!! いざ!!」
 腰から杖を引き抜き、構えるワルド。
 仕方がないので、自分もデルフリンガーをどうでもよさげに構える。
 ルイズがなおもワルドに向かって抗議するが、ワルドは『下がっていてくれ』というばかりで取りあおうとしなかった。
(……手早く負けるか)
 自分からそれなりに攻撃すれば、反撃を受けて負けられるだろう。
 そう判断したユーゼスは、作戦も分析も思案も考察も過去の知識から照らし合わせることも、一切行わずに真正面からワルドに向かった。
 そして馬鹿正直に縦一文字にデルフリンガーを振るい、ワルドは杖でその一撃を受け止める。
 わずかに火花が散った直後、自分から後ろに下がってシュッ! と驚異的なスピードで杖を突いてくるワルド。
「ぐっ!」
 数箇所ほど刺され、ダメージよって後ろに下がるユーゼス。
「……魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけじゃない。詠唱さえ、戦いに特化されている。
 杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
 ―――面白い話だったが、出来ればもっと穏やかな状況で聞きたかった。

 その後、斬られて突かれて叩かれて殴られて蹴られて投げられて踏まれて、トドメに魔法で吹き飛ばされて、ユーゼスは積み上げられていたタルに激突した。
「……、っ、あ」
 全身が、物凄く痛い。
 そんな痛む身体とは別に、ユーゼスは冷静にワルドの行為を考える。
(…………なぜ、ここまで痛めつける必要がある?)
 これほどの実力者なら、最初に自分の攻撃を受けた時にその実力を見抜けそうなものである。
 だと言うのに、まるで見せ付けるかのようにして自分に攻撃を重ねた。
(……婚約者に自分の実力をアピールでもしたかったのか?)
 それにしても、少々やり過ぎなような気もする。ただ実力を見せるだけならば、戦争中のアルビオンでその機会はいくらでもありそうなものだが。
「勝負あり、だ」
 分かりきっていることを、もったいつけて宣言するワルド。
「分かっただろう、ルイズ? 彼では君を守れ―――」
「っ、ワルド!!」
 ルイズに向けてユーゼスの無能ぶりをアピールしようとするワルドだったが、他でもないそのルイズの怒鳴り声によってそれは遮られた。
「……どうしたんだい、ルイズ? そりゃあ、使い魔を傷付けられて怒るのは分かるが」
「わたしはね、コイツが傷付こうがボロボロになろうが、別に構わないわ……」
 かなり酷いことを言ってのけるルイズである。
「でも、わたしは昨日、グリフォンの上であなたに言ったわよね? 『わたしの目標は、ユーゼスにわたしの存在を認めさせて、“自分の 御主人様は立派な人で立派なメイジです”、って屈服させること』だって」
「ああ、だから本当にそれに値する人間か調べようと……」
「違うわ! わたしはね、わたし自身の力で、『人間として』、そして『メイジとして』コイツを屈服させたいのよ!! むやみやたらに痛めつけるんじゃなくて!!」
「……………」
 その剣幕に、思わずワルドはたじろいだ。
「あなた自身も言ってたでしょう? コイツの本当の価値はね、知識や発想にあるの。それを……ユーゼス自身も拒否してたのに、あなたはムリヤリ……」
「……待ってくれ、ルイズ。どうやら誤解が……」
「しかも―――『わたしを守る』、ですって? 知識で……頭脳の面で言えば本当に尊敬が出来る人なのに、この上『わたしを守らせる』? 冗談じゃないわ!! 自分の身ぐらい、自分で守ってみせる!!」
「ル、ルイズ……」
「それとも何? わたしはこんな実力的に弱いヤツに守られなきゃいけないほど、弱く見えた? 乗馬も出来ない、飛竜に乗れば酔う、剣もほとんど振れない、こんなヤツに守ってもらうほど?
 ……これ以上ない侮辱だわ!!」
(―――私は褒められているのか、それともけなされているのか……)
 嬉しいような惨めなような、複雑なユーゼスである。
 そしてルイズはもう一度ワルドを睨みつけ、
「……行きましょう、ユーゼス。手を貸すわ。確か、近くに秘薬屋があったはずだから」
「く……っ、ああ、分かった」
 痛む身体をルイズに支えてもらいながら、その場を後にする。
 ―――小柄な少女の助けを借りると言うのは……なかなかプライドが痛む光景だったが、そんな何の得にもならないプライドなどユーゼスは持ち合わせていない。
「……なぜ、だ……」
 後には、呆然とするワルドだけが残される。

「お、俺の……剣としての、俺の……」
 なお、あるインテリジェンスソードは、鞘の中で自分のアイデンティティについて深く考え込んでいた。


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