あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-12


「貴様がバディムの首領か! ここであったが100年目だ、覚悟しろ!!」
「どうやら予定より少々長居してしまったようだな……。……また会う機会があったら、その時は相手をしてやろう……」

 かつて志を同じくした男が、あの時のまま―――自分だけが40年の時を経てしまったので当然だが―――真っ直ぐな視線で、男を射抜く。
 男は諦観と、覚悟と、そしてほんの僅かの寂寥を覚えながら、その場を後にした。

「ウルトラ族を倒すには、ウルトラ族の力が必要だ。ETFのおかげで彼らの力を解明することが出来た。
 ご苦労だったな、メフィラス」
「……わ、私を……ETFを……ウルトラ族の戦闘データを取得するためだけに利用していたというのか!」

 それはお互い様だ、と男の傍らに立つ赤い異形が答える。
 ……この存在は確かに優秀だったが、その野心と我が強すぎた。
 男が造った組織に、二人も長は要らないのである。

「凱聖クールギンよ……準備は整った。我らが千年王国の誕生は近い」
「………」
「さあ、来い。私の世界へ……」

 銀の鎧でその身を包んだ剣士を勧誘し、男の陣営に引き入れた。
 これで磐石―――とは言えないが、それなりの人材が揃ったことになる。
 ……それでは、残りの人材を集めに動くとしよう。


「……………」
 覚醒する。
 始めは戸惑った奇妙な夢も、今となってはもう慣れた。
 しかし、この『舞台』に出て来る『男』がどのような心境なのか―――それに関しての理解が出来ない。
「……って、たかが夢に、ここまで考え込むこともないわね」
 所詮、夢は夢だ。
 それに毎日この夢を見るわけでもないから、特に脳裏をよぎることもない。
 気にせずに、今日も一日を過ごそう。


「ふむ、こんなものか」
 オールド・オスマンに机と本棚を頼んでから10日ほど経過した日の夜、ようやく机や本棚の設置が完了した。
 机の上にはペンとこれまで書いた数稿のレポート、そして鞘に収まった二本の剣と鞭以外は何も置かれてもおらず、本棚には一冊の本も収納されてもいないが、それはこれから徐々に増やしていけば良い。
 では取りあえず、隣の御主人様の部屋に戻ろうか……とドアに向かって歩くと、
「おお、なかなか立派な部屋じゃないか!」
「……ミスタ・グラモン?」
 ノックもせずに、ギーシュ・ド・グラモンが入室してきた。

「何の用だ?」
「おいおい、せっかく君の研究室の完成―――と言うのとは違うか、とにかくそれを構えたことを祝いに来たのに、その言い草はないだろう」
「……………」
 怪訝そうな顔でギーシュを見るユーゼス。
「本当の目的は何だ?」
「う゛……い、いや、僕は本当に祝いに……」
「お前がそこまで殊勝な人間だとは思えん」
「な、何だか、けなされているような……。……ええい、分かったよ! 本当の用件を言うよ!」
 ギーシュは観念したのか、半ばヤケになって語り始めた。
「実は、君に僕のワルキューレの」
「断る」
「まだ最後まで言ってないじゃないか!!?」
 はあ、とユーゼスは溜息をついて椅子に腰掛けた。……なかなか悪くない座り心地だが、椅子が一つしかないというのは少し問題がある。あとで2、3個ほど取り寄せよう。
「お前のゴーレム……ワルキューレの強化方法なり、効果的な運用方法なりを聞きに来たのだろう?」
「う、うむ、まあその通りだが」
「……それを考察し、お前に教授したとして、私に何のメリットがあるのだ?」
「い、いや、それを言われると……」
 言葉に詰まるギーシュ。
 普通、貴族が頼めば―――と言うか、命令すれば平民はホイホイ言うことを聞くものなのだが、この男に限ってそれは例外のようだ。
 確かにユーゼス自身に得はほとんどないだろうし、興味も動かないらしいし。
 ……脅しても効果は無いだろうから、ここは『別の付加価値』を考えなければならないだろう。
(価値、価値……う~~ん……あ、そうか、『価値』か!!)
 突っ立ったままアレコレ考えたギーシュだったが、この偏屈な男を動かすナイスなアイディアが天啓の如く頭に閃いた。
「か、金を出そう!」
「……む?」
 ピクリ、と反応するユーゼス。
「この部屋にある本棚の大きさと数を見るに、かなり大量の本を購入するつもりらしいが、その本の代金だって馬鹿になるまい? 悪くない条件だと思うがね?」
 確かにそれは魅力的だ。事実、ユーゼスには金がないのだから。
「分かった、引き受けよう」
「即決か。……現金な男だな、君は」
「現実的と言ってもらいたい」
(論文を売却……いや、『原稿』を売却するようなものだな)
 本を買うなり、研究機材を揃えるなり、服を買うなり、食糧を買うなり、その他の費用なり……とかくある程度以上の文明レベルを誇る星で生きていくためには、その星の通貨が必要なことは間違いない。
「それでは、値段の交渉に入ろう」
「うむ、では100エキューでどうだね?」
「安すぎる。500だ」
 あの錆びたインテリジェンスソードと同額とは、自分の価値を安く見るにも程がある。
「……吹っかけすぎだろう、それは。せめて200で」
「400」
「…………250」
「350」
「……………………300」
「良し。交渉は成立だな」
 ガックリとうなだれるギーシュ。『うう、しかし背に腹は……』などと呟いている。

「料金は先払いだ」
「ぐっ……、結構シビアだな、君」
 しかし、300エキューともなればそれなりの大金であり、学院内でそうそうサイフなどは持ち歩いていない。
(仕方ない、明日にでも金を渡して、その後にユーゼスの意見を聞こう……)
 はあ、と溜息をついてユーゼスの研究室を後にしようとトボトボ歩くギーシュ。
「それじゃあ、明日にお金を……」
 しかし、その時。
「邪魔するわよ!!」
「……今度はミス・ツェルプストーか」
 何かイライラした様子で、キュルケが研究室に入ってくる。
 驚くギーシュを気にも留めずに、キュルケはビシッとユーゼスを指差して、
「あなた、火系統で風系統に勝てる方法を考えなさい!」
 いきなりそう命令した。
「なぜだ?」
「……今日のミスタ・ギトーの授業を見てたでしょう?」
「成程」
 教師であるギトーが風系統の優秀さを証明するため、キュルケの火球をアッサリと掻き消した一件のことを言っているのである。
 ……ことプライドの高さにかけては、ルイズにも匹敵するキュルケだ。何とかして意趣返しをしたいのだろう。
「納得したなら考えなさい、今すぐに!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、キュルケ!」
 その時、無視されていたギーシュが慌ててキュルケを止めに入る。
「ユーゼスへの相談なら、僕の方が先約だ! わざわざ金まで払って頼んだんだぞ!」
「お金? いくらよ?」
「300エキューもしたんだ。……ハッキリ言って痛手だが……」
「あたしは1000エキュー出すわ」
「……君の依頼が最優先だ、ミス・ツェルプストー」
「おい、ユーゼス・ゴッツォ!!」
 ユーゼスはアッサリと約束の順番を入れ替える。
 怒るギーシュだったが、『お前が私の立場なら、どちらを優先する?』と聞かれてしまっては、沈黙するしかない。
 ……どの道、料金は先払いなので、この男の話を聞けるのは支払いをする明日以降になる。
 仕方がないので、今日は引き下がろう―――と、ギーシュはやはりトボトボと退室しようとドアの前まで歩き、
「……ん?」
 隣の部屋から、女性の声が聞こえてくることに気付いた。
(この声は……ルイズ? いや、もう一人……)
 隣はルイズの部屋なのだからルイズの声が聞こえてくるのは当然だが、ユーゼスがこの研究室にいる以上、誰か他の話し相手がいることになる。
 ルイズには大声で独り言を喋るクセなどなかったはずなので、その予想は十中八九当たっているはずだ。
「うぅむ……」
 気になる。
 『ルイズ以外の声』が、どこかで聞いた覚えがあるような気がすることが余計に興味を掻き立てる。
「よし、覗いてみよう!」
「?」
「はぁ?」
 犯罪スレスレの行為を決意するギーシュと、脈絡もなく唐突にそんな決意をされて困惑するユーゼスとキュルケ。
 ……ちなみに『スレスレ』とは『擦れ擦れ』とも書き、つまり軽く接触していることを指す。

 しゃがみ込んで、ルイズの部屋のドアの鍵穴を覗き込むギーシュ。
「どれどれ……」
 そんなギーシュの様子を見て、ユーゼスは思わずキュルケに目配せする。
 ユーゼスの視線を受けて、その意味するところを察したキュルケは、ふるふる、と首を横に振った。
「「……はぁ」」
 そして二人で同時に溜息を吐く。
 二人がギーシュを放って研究室の中に戻ろう、ときびすを返した時、
「やや、あれはアンリエッタ姫殿下ではないか!」
「え?」
 ギーシュが驚いて漏らした声に、キュルケが足を止めた。
「アンリエッタ姫? トリステインのお姫さまが、なんでこんなところにいるのよ?」
「その口ぶりからすると、姫殿下とやらがここにいるのは異常な事態らしいな」
「……あのね、普通お姫さまは学院寮なんかに来ないの」
「私は『遠く』から来たからな、ハルケギニアの『常識』が今ひとつ分からないのだ」
「―――あなたがどこから来たのか知らないけど、あなたの出身地じゃお姫さまがいきなり学院寮に来たりするの?」
「……そんな訳が無いだろう。『常識』で考えろ」
「……………」
 ユーゼスとキュルケがそんなやり取りをしている間にも、ギーシュはルイズの部屋を覗き続け、聞き耳を立て続ける。
「な、何!? トリステインとゲルマニアの同盟を崩壊させかねない物が、アルビオンに!?」
「はー、そりゃ大変ねぇ」
 他人事のように呟くキュルケに、ユーゼスが問いかける。
「……アルビオンが内乱中で、改革派―――『貴族派』だったか? それが勝利を目前にしていることは知っている。
 貴族派が勝利し次第、ゆくゆくは標的をトリステインやゲルマニアに向けるであろうこともな。
 その改革後のアルビオンに対抗するためには、トリステインとゲルマニアが同盟を組んだ方がやりやすいのではないか?」
 その同盟が結ばれない、ともなればゲルマニアにとっても痛手になりかねないのに、ゲルマニア出身のキュルケが涼しい顔をしているのが疑問だったのである。 
「……あなた、ゲルマニアの国力を舐めてるでしょう? 一国だけでも、改革が終わったばっかりで基盤がしっかりしてない国になんか負けるはずない―――とは言い切れないけど、少なくとも後れを取ることはないわよ」
「ならば、なぜトリステインと同盟を?」
「ゲルマニアには国土も軍事力も人材もあるんだけど、『歴史』がないのよ。だから、無駄に歴史の長いトリステインを取り込もうってわけ」
 あたしに言わせれば『歴史』なんてどうでもいいんだけど、とキュルケが付け加える。
(……国が抱えるコンプレックス、か)
 トリステインとしては、アルビオンとの戦いに備えて国土と軍事力と人材が欲しいわけだから、互いの利害が一致していることになる。
 だが、仮に同盟を結んだとしても、国民の意見のまとめと調整、主導権の行方、資金や資材や兵糧や軍備の配分、下手をすると併合にもなりかねないので、そのための処理―――などなど、問題は山積みだ。
(政治という物はややこしいな)
 どう考えても畑違いの分野なので、自分はおそらく一生関わることがないだろうが。

「ええい、こうしてはおれん!」
 フン、と荒く鼻息を出すと、ギーシュは勢い勇んでルイズの部屋の中に入った。
「お待ちを、姫殿下!!」
「えっ!?」
「ギ、ギーシュ!? アンタ、今の話を立ち聞きしてたの!?」
 仰天するルイズと、黒いマントの女性。
 ―――ここまで接近して見るのは初めてだが、おそらくはあれがアンリエッタ王女なのだろう。
 なお、ルイズとアンリエッタの注目はギーシュに集中していて、ユーゼスとキュルケにまで意識が回っていないようだった。
「……面白そうだから、私たちはドアの外から成りゆきを聞いてましょ」
「そうだな。ゲルマニア出身のお前が参加すると、ややこしくなりそうだ」
 部屋の中からドアの外を見ると、かなり視界が限られる。
 つまり身を隠すだけなら、簡単なのである。
「こっ、このっ! 姫さまの……いえ、女の子の部屋を覗くなんて!」
「あだっ! 叩かないでくれたまえ、ルイズ!」
「……どうしますか、姫さま? 極秘事項を聞かれてしまったわけですが……」
「そうね……、今の話を聞かれたのは、まずいわね……」
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう!」
「グラモン? あのグラモン元帥の?」
「息子でございます、姫殿下」
「あなたも、わたくしの力になってくれると言うの?」
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
「ありがとう。あなたのお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお救いください、ギーシュさん」
 それを聞いて『姫殿下が僕の名前を呼んでくださった!』と叫びながら喜ぶギーシュ。
 ……声だけしか聞こえないが、大体の状況は理解が出来た。
 おそらく、ルイズの使い魔である自分も、その『任務』とやらに同行するのだろう。
 だが……。
(……『不幸な姫』、か)
 自分で自分のことをそう呼ぶとは、あのアンリエッタ姫にはどうも自己陶酔の傾向があるようだ。
 あの年齢の姫君となると、ユーゼスとしては真っ先にリリーナ・ピースクラフトが頭に浮かぶが、彼女とはかなりの違いが見て取れる。
(……私が口を出すことではないな)
 何にせよ、明日からはアルビオンに行くことになる。
 エレオノールから『話があるから、至急アカデミーに来なさい』という文面の手紙が来ていたのだが、先送りするしかないようだ。
 『何についての話』なのかは大まかな想像がつくが―――国にとっての一大事となれば、こちらを優先するしかあるまい。
 ユーゼスはやれやれ、と呟くと研究室に戻る。
(取りあえず、剣と鞭は持って行くか)
 荒事にならなければ良いのだが……と思うのだが、戦争中の国に忍び込むのだから、その可能性は低そうだった。

「……面白そうじゃない?」
 キュルケがニヤリと笑ったが、取りあえず無視しておくこととする。


 明けて、翌日の早朝。
 馬を前にして、ユーゼスは悩んでいた。
「……確認するが、中継点のラ・ロシェールまでかかる時間は……」
「早馬で2日、途中で馬を乗り継ぎして、ノンストップでどんなに飛ばしても14~15時間ほどかかるだろうね」
「……………」
 ギーシュの話を聞いて、沈黙するユーゼス。
 先のトリスタニアまでかかった時間から考えると、自分が馬でラ・ロシェールに向かった場合、最短でも24時間以上かかる計算になってしまう。
 ハッキリ言ってユーゼスにそんな体力は、無い。
 どうすれば、と長い時間をかけて考え込んでいると、いつの間にか巨大なモグラが現れてルイズにジャレ付いているのが見えた。
「おや、その指輪が気に入ったのかい、ヴェルダンデ? 君は宝石などのキラキラ光るものが大好きだからね」
「……モグラが光を好む?」
 ギーシュのセリフを聞いて、ユーゼスの顔に疑問符が浮かぶ。
 通常、モグラの目は退化していて視力がほとんどなく、光などは感じられないはずなのだが……。
(この世界のモグラは違うのか)
 異世界、ということで納得する。世界が違えば、生物の能力も違って当然だ。
「ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を、僕のために見つけてきてくれるんだ。土系統のメイジの僕にとって、この上もない素敵な協力者さ」
「ほう、それは確かに優秀だな」
「そうだろう? ハッハッハ、もっと僕やヴェルダンデに対して、惜しみない賞賛の嵐を浴びせても良いのだよ?」
 フフン、と自慢げなギーシュ。
 すぐ調子に乗る男だな、などとユーゼスが思っていると、
 ヒュゴッ!!
「モグッ!」
「ああっ、ヴェルダンデ!!」
 突然、風のカタマリが飛んできて、ルイズに抱きついていたヴェルダンデを吹き飛ばす。
「誰だっ!? 僕の、僕の使い魔に……!!」
「……すまない。婚約者がモグラに襲われているのを、見て見ぬ振りは出来なくてね」
 ギーシュの怒りの声に答えるように、朝もやの中から羽帽子をかぶった長身の男が現れた。
(……貴族か)
 マントを羽織っているし、何よりさっきの風は魔法だろう。
「姫殿下より、君たちに同行することを命じられた。君たちだけでは、やはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊をつけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名された……というわけだ」
 帽子を取り、長身の貴族は丁寧に礼をする。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ」
 ワルド子爵の自己紹介を聞き、文句を言おうとしたギーシュは沈黙した。相手が魔法衛士隊の隊長では、さすがに文句を言うわけにもいかない。
「ワルド様……!」
 倒れていたルイズが起き上がり、驚いた様子でワルド子爵に語りかけた。
「久し振りだな! ルイズ! 僕のルイズ!!」
「お久し振りでございます……」
 顔を赤らめながら、ワルドに抱きかかえられるルイズ。
「そう言えば、婚約者と言っていたが……」
「つまり、あのワルド子爵はルイズの婚約者か。……うーむ、さすがはヴァリエール家、将来有望そうな男に目を付けているものだなぁ」
 ギーシュが使い魔を攻撃された怒りを押し止めつつ、それでも感心した様子で呟く。
 一方のユーゼスは『名門貴族らしいから、婚約者がいても不思議ではないな』などと、あまり興味がなさそうであった。

 そうやってルイズとワルドを見ていると、そのワルドがこちらに歩み寄ってくる。
「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」
(……人間が使い魔であるというのに、あまり驚いた様子がないな)
 コルベールにしろ、キュルケにしろ、エレオノールにしろ、必ず何らかの疑問なり驚きなりのリアクションを起こしたのだが、この男にはそれがない。
(……まあ、婚約者の情報ならば、常に収集しているのだろうが)
 考えても仕方がないので、ユーゼスも挨拶をする。
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「……御主人様の婚約者とあらば、我が主人も同然。何か御用がありましたら、何なりとお命じください」
「は!?」
「ええ!!?」
 うやうやしく頭を下げるユーゼスを見て、ルイズとギーシュが仰天する。
 その彼らの様子を見たワルドが首を傾げるが、取りあえずユーゼスに返答した。
「うむ、その時はよろしく頼もう。君はなかなか博識と聞いているから、その知識を発揮される所を見たくもあるからね」
「は……」
 頷いてルイズの元へと戻るワルドと、控えめにギーシュの元へと下がるユーゼス。
 ギーシュは怪訝な顔でユーゼスに問いかける。
「ど、どういうことだね、ユーゼス!?」
「……『取りあえず』恭順しておくべきだと判断した。人間的にも実力的にも、まだ掴めない部分が多いからな」
「掴めない部分って……」
 それに、敬語の練習を試す良い機会でもある。
「外面で大人しく従っていても、内面では何を考えているのか分からない―――ということもあると覚えておくのだな、ミスタ・グラモン」
「……そういうものかぁ」
 色々あるのだなぁ、とこれもまた取りあえず納得するギーシュ。
 だがユーゼスは、このワルドという男の言動をじっと分析していた。
(……私に関しての情報も持っている……。この男……)
 婚約者が心配で、情報を集めていた。そう言われてしまえば、それまでである。
 ……少なくとも優秀ではあるようだ、とユーゼスは評価を下した。

 ワルドはそわそわした様子のルイズを見て微笑むと、口笛を吹く。
 すると、ワルドがそうだったように朝もやの中からグリフォンが現れ、2人の前に着地した。
 そしてグリフォンに颯爽とまたがり、ルイズに手を差し伸べる。
「おいで、ルイズ」
「……は、はい……」
 しばらくモジモジしていたが、やがておずおずとワルドの手をとり、グリフォンにまたがるルイズ。
「では諸君! 出撃だ!!」
「あっ、ちょっと……」
「どうしたんだい、ルイズ?」
 早速出発しよう、と意気込むワルドだったが、ルイズに制止されてしまった。
「あの、私の使い魔は、乗馬が凄く下手で……」
「そうなのかい?」
 ワルドに問われて、ユーゼスは正直に告げた。
「はい。ですが、私には構わず先に進んでいただいて結構です。一刻を争う任務なのでしょう?」
「……ふむ、君はなかなか冷静だな。普通なら『追いついて見せます!』などと息巻くものなのだが」
「虚勢を張っても意味がないでしょう」
「確かに。……では、置いて行っても構わないのだね?」
「その方が効率が良いのであれば、そうするべきかと」
「ちょ、ちょっと、ユーゼス!?」
 自分の記憶にない態度を取り続ける使い魔に対して、ルイズが文句を言おうとするが、構わずにワルドはグリフォンを飛び立たせる。
 そして、ユーゼスとギーシュを置き去りにしたまま、ルイズとワルドはラ・ロシェールに向かったのだった。


「行ってしまったな」
「……『行ってしまったな』じゃあないっ!! 君は何を考えているんだね!!? 置いていかれてしまっては、手柄を立てることが出来ないじゃないか!!」
 激昂するギーシュを見つめながら、ユーゼスは相変わらず考え込んでいた。
「……私の乗馬技術が低いのは本当だぞ」
「しかしだね、追いついた時には既に任務が完了していました……などとなっては、間抜けもいいところじゃないか!!」
「別に手柄がなくても、死ぬわけではあるまい?」
「手柄や名誉というのは、貴族にとってはある意味で命よりも重いものなんだよぉ!!」
 ギーシュが悲痛に叫ぶ。そんなに手柄が上げたかったのだろうか。
「む?」
 ギーシュの文句を聞き流していると、青い風竜が飛んでいくのが見えた。
「あれは……ミス・タバサのシルフィードか?」
 よく観察してみると、その背にはキュルケも乗っている。
 そう言えば、昨日の話は彼女にも聞かれていたことを思い出す。
「……御主人様たちの後を追うつもりだな」
「だから、何で君はそんなに冷静なんだね!? 手柄を取られるかもしれないんだぞ! しかも彼女たちはゲルマニアとガリアの留学生だ!! トリステインの危機を外国人が救ったとなれば、笑い話にもならない!!」
「少し落ち着け、ミスタ・グラモン」
 ユーゼスは黙考する。
 ……さすがに何もしない、というわけには行くまい。
 かと言って、通常の移動手段では彼女たちに追いつくのは無理だ。
 と、なると……。
「……やむを得んな」
 逡巡の末、一つの決断を下す。
「ミスタ・グラモン」
「何だね!?」
「……お前を貴族と見込んで、頼みがある」
「ん? ど、どうしたんだい、改まって」
「これから私が使う『移動手段』を、絶対に口外しないで貰いたい」
「え?」
 唐突にそんなことを言われたので、ギーシュは困惑するしかない。
「……口外したら、あらゆる手段を使ってでもお前の存在を『抹消』する」
「お、穏やかじゃないね……」
 この男がそこまで言うのだから、きっと凄いことなのだろうな……などと思ったが、一体何をするつもりなのだろうか?
「お前の使い魔も連れて行くぞ」
「え、いいのかい?」
「定員以内だからな。……それに同じ使い魔として、主人に置いて行かれるのを見るのは忍びない」
「おお……」
「モグ……」
 ヴェルダンデを指差すユーゼスに、ギーシュとヴェルダンデは感激したようだった。
(そう言えば、ミス・ツェルプストーは使い魔を連れて行ったのだろうか)
 ふと学院寮の方―――キュルケの部屋のあたりを見ると、一匹のサラマンダーがこちらにジッと視線を注いでいた。
「……あれも連れて行くか?」
「うーん、しかしキュルケの使い魔を勝手に連れて行くのはな……。よし、ちょっと待っていてくれたまえ」
 言うと、ギーシュはヴェルダンデを抱えたまま『レビテーション』でキュルケの部屋の前まで移動し、何やらフレイムとコミュニケーションを取り始めた。
 少しすると、ギーシュはまた戻って来る。
「……幻獣と話が出来たのか?」
「まさか。ヴェルダンデに通訳を頼んだのさ。
 ……結論から言うと、彼は行かないらしい。どうやらキュルケに留守番を頼まれたようだね」
「そうか」
 まあ、無理強いは出来まい。

「では、少し移動するぞ。どこに目があるとも限らんからな」
 そして、一向は少し歩いて森の中に入った。
「……誰もいないな?」
「随分と慎重だね。……と言うか、本当にその『移動手段』とやらはあるんだろうね?」
「少なくとも、私が馬で移動するよりは早く到着するはずだ」
 言って、脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させる。
 次の瞬間、ユーゼスとギーシュ、そしてヴェルダンデは虹色をした立方体のエネルギーフィールドに包まれた。
「う、うわ、わわわわわ!!? なん、ななななな、何だね、これは!!?」
「モグーーー!?」
「暴れるな。……ラ・ロシェールはこちらの方向で合っているな?」
「あ、ああ」
 方向を確認し、ユーゼスは座標を設定する。
「距離は―――馬の最高時速は瞬間的には100キロを超えるが、平均となると……取りあえず、800リーグほど移動するぞ」
「は、はっぴゃくリーグ!?」
 驚くギーシュを尻目に、空間転移を開始する。
 ―――その後も微調整を繰り返し、結果としてユーゼスとギーシュとヴェルダンデは30分ほどでラ・ロシェールに到着した。
「……と言うか、始めからこれでアルビオンまで行けば良いのでは?」
「なるべくなら、これは秘密にしておきたいのでな。しかし分かっているだろうな、ミスタ・グラモン?」
「任せてくれ、僕はこう見えても口が堅い男だ。……まだ死にたくもないし」
「モグモグ」

 一方、学院長室ではアンリエッタが出発する一行を見送っていた。
「彼女たちに加護をお与えください、始祖ブリミルよ……」
 祈るアンリエッタの横では、オールド・オスマンがのんきに鼻毛を抜いている。
「……見送らないのですか?」
「ほほ、見ての通り、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますでな」
「……………」
 なぜこの老人は、ここまで余裕の態度なのだろう……とアンリエッタは疑問に思う。
「既に杖は振られたのですぞ。我々に出来ることは、ただ待つだけ。違いますかな?」
「そうですが……」
「まあそこまで心配せずとも、彼ならば道中どんな困難があろうと、やってくれるかも知れませんでな」
「『彼』? あのグラモン元帥のご子息が? それともワルド子爵が?」
 オスマンは首を横に振って、アンリエッタの言葉を否定する。
「……まさか、あのルイズの使い魔とかいう男が? 彼はただの平民という話ではありませんか!」
「ただの平民……そうですな」
 自分も最初は、あの男―――古い友人のことをそう思っていた。
「時に、姫は始祖ブリミルの……いえ、『快傑ズバット』の話はご存知ですかな?」
「はあ、少しは。……しかし、あれは平民が作ったおとぎ話なのでしょう? 実際の戦果は、ほとんどあなたと当時のマンティコア隊の隊長である『烈風』カリン殿が成し遂げた……と聞きましたが」
「まあ、当時の王室の面目を保つために、そういうことになってはおりますな」
「……もしや、彼はその血を引いているとでも?」
 さすがに30年も前の話である。あの若い外見からすると、本人であるとも思えない。
「もしかしたら、再来となるやも知れない……私はそう思っております。同じ異世界から来た、彼ならば」
 ユーゼスが聞いたら、確実に『無茶を言うな』と言うだろうセリフである。
「異世界?」
「そうですじゃ。ハルケギニアではない、どこか。『ここ』とは違う世界。そこからやって来た彼ならば、かつてあらゆる危機を涼しげな顔で片づけた我が友のようにやってくれると、この老いぼれは信じておりますでな。
 余裕の態度も、そのせいなのですじゃ」
「『ここ』とは違う、異世界……」
 いまいちピンと来ていないようだったが、アンリエッタは微笑んでオスマンに同意する。
「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」

「……ところで姫、もうしばらくこの部屋にいてはくれませんかな?」
「はい?」
 さてそろそろ自分が滞在している部屋に戻ろうか、と思ったら、いきなりそんなことを頼まれてしまった。
「いや、秘書のミス・ロングビルが『勤め先が決まったことを家族に報告する』とか言って、休暇を申請しましてな。女性の華やかさが足りぬと思っていたところでして」
「は、はあ」
「どうか、この寂しくも老い先短い老人に、若くみずみずしい女性の、こう、何と申しますかオーラのようなものを浴びせていただければ……」
「……こ、ここは魔法学院なのですから、若い女性はたくさんいらっしゃるのでは?」
「なにをおっしゃいますか! 姫とその辺にいる貴族とでは、身体からかもし出される高貴さが違うのです!」
「……そ、そうですか……」
 どうやってこの状況を乗り切ったものか、と悩むアンリエッタであった。


 ラ・ロシェールに到着したユーゼスとギーシュは、中の中の上程度の宿に泊まることにした。
 本当は最上級の『女神の杵』に泊まりたかったのだが、そんな金は持ち合わせていない。
 ……実際には、ユーゼスはキュルケとギーシュからの依頼料である1300エキューを持っていたのだが、常日頃から床で寝起きしているユーゼスにとって、たかが宿程度にそこまで金額をかける気は起きなかったのである。
 そしてそこにデルフリンガーを置き、もう一本の剣と鞭を持って古書店へと向かった。ギーシュは観光である。
 ちなみに、なぜデルフリンガーを持ってきたのかと言うと、出発の準備をしている最中に誤って鞘から出してしまい、

「つ、連れてっておくれよぅ……剣として扱っておくれよぅ……かまっておくれよぅ……もう火であぶられたり、水に漬けられたり、氷で冷やされたり、金槌で叩かれたり、『ふむふむ』とか言われながら撫で回されるのは嫌なんだよぅ……」

 と、呪詛のごとき懇願を受けたため、夜な夜な怨み言を呟かれても困るので、やむなく持参したのだ。
 ともあれ、使うつもりは全くないが。
「ふむ」
 それはともかく、本の物色である。
 魔法学院の図書館も良いが、このような市井の本屋も悪くはない。
 それにラ・ロシェールは港町なので、トリステインにはない本も期待できた。
 ユーゼスは目ぼしい物を見つけると、その重さにフラつきながらも、それを店主の所まで持っていく。
「この5冊を貰おう。これをトリステイン魔法学院の、ユーゼス・ゴッツォまで届けてくれ」
「へい、それで運賃の方は……」
「無論、出す」
 金は使うときは使うべきなのである。

 そして勘定を済ませたユーゼスは別の古書店に行こうと出口に向かい、
「……………」
「……………」
 一人の男と、出口で鉢合わせした。
 ―――外見はどちらかと言うと長身。紫がかった髪をしており、その眼光には常に余裕の色が見て取れる。服装は、自分と同じような白衣だった。
 ……どこかで見た覚えがあるが、明確な記憶が無い。
(これは―――ハルケギニアに召喚される直前に受け取った、『別のユーゼス・ゴッツォ』の記憶か?)
 男は、興味深げに自分を見る。
「ほう……。アインストの物とは違う転移反応を検知して来てみれば、面白い人間に会えましたね……」
「……アインストと、転移反応だと?」
 聞き捨てならない単語が、男の口から出て来た。そして、男は更に聞き捨てならない言葉を喋りだす。
「あなたはイングラム・プリスケン……いえ、クォヴレー・ゴードンですか?」
「何!?」
 後者の名前には心当たりすら無いが、前者の名前には心当たりがあるどころではない。
 ユーゼスは、反射的に男から飛び退いた。
「これは警戒されたものですね。少なくとも、今はあなたと事を構えるつもりはありませんよ。……申し訳ありませんが、お名前を教えてはいただけませんか?」
「……ユーゼス・ゴッツォだ」
「…………なんと。まさかこのような形で再び……。しかも私の存在を知らない、となると……」
 男の目が見開かれる。……どうやら驚いたようだが、つまりそれは自分の存在が予想外だった、ということでもある。
「お前は何者だ?」
「……これは失礼を。相手に名を問うのであれば、先に自分から名乗るべきでしたね」
 そうして、男は丁寧に自己紹介を行った。
「私の名はシュウ。シュウ・シラカワと言います。……以後、お見知りおきを」


新着情報

取得中です。