あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-11a


 ―――男は、目の部分が4つ存在する異形の仮面を使い、素顔を隠した。
 そして『彼ら』について研究を始め、その素晴らしさに傾倒していく。
 ……だが『彼ら』は、男が直接目にした時、直接目にした場所を最後に、その姿を消していた。
 どうすれば『彼ら』にもう一度遭遇が出来るのか……。
 どうしれば『彼ら』が存在した時点まで、時をさかのぼることが出来るのか……。
 それだけを考えている内に、一つの転機が訪れた。

「フ、フフ……そういうことか……そういうことだったのか。何という偶然……これが因果律の成せる業か……。
 私の全知識が急速に紡がれていく……それが結集して一つの形になる……私は知っている……。
 ……デビルガンダムはこの私が創り出したモノだったのだ!!」

 未来の自分から、過去の―――現在の自分へと送られたヒント。
 地球の環境再生を目的として作られたと推察され、明らかに『あの時点』での地球の技術レベルを超えた物。
 それが未来からやって来ただろうことは予測の範疇だったが、まさか自分が送り込んだとは……。

「あとは……クロスゲート・パラダイム・システムを完成させるだけだ……。
 だが……時空間のゲートを検出する方法だけが……分からない」

 成功は確信している。
 なぜなら他でもない自分自身が、未来において時空間跳躍を成し遂げている証拠があるのだ。
 しかし、それを成し遂げる方法が、どうしても解明出来なかった。

 ―――その解明方法は、意外な存在によってもたらされる。

「お前の名前は?」
「……余は、ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ」
「ゴッツォ……? 私と同じ名……何者だ?」
「……次元を超え、並行宇宙を超え、お前と因果律で結ばれた者……。
 余は別の宇宙でお前に創り出された者……。そして、お前はこの宇宙で余に創り出される者……。
 余とお前は、並行宇宙を超えた因果の鎖で結ばれている。我々は運命共同体なのだ」

 自分の運命共同体と名乗る、銀髪の男。

「運命共同体だと……貴様は一体何をしに来た?」
「お前へ啓示を与えに」

 彼は、男の目的を正確に理解しているようだった。

「別次元で余という存在を確立させるために……お前のシステムをより完全な物に近づけてやる」
「クロスゲート・パラダイム・システムをか!?」
「そうだ。このズフィルード……ジュデッカの機体フレームを使えば、時空を超えることが出来る。
 そしてお前の目的を、野望を達成するがいい。その行為は別の宇宙に存在する、お前と余の存在を確立することになる……」

 ―――思わぬ協力者の助力もあり、長い時間はかかったがシステムは完成した。
 男は自らの複製を作り、その複製に全てを任せる。

「行け……光の巨人の力を手に入れるために……。
 私の過去を抹消するために……。
 そしてお前は私の身代わりとなって……死ぬのだ」

 仮面の男の眼前にひざまずいている、その『複製』の顔は―――

(―――ユーゼス?)
 ルイズの使い魔と、全く同じだった。
 だが髪の色が違う。青い。
 ……何より、雰囲気が違う。
 彼女の使い魔は確かに感情が薄いが、それでもあのように虚ろな顔はしていない。
 そう、まるで人形のような……。


「起きろ、御主人様」
「……んぅ……?」
 ゆさゆさ、と身体を揺らされる感覚。
 ボンヤリと目を開け、目覚めてから最初に見たのは、使い魔の顔だった。
 髪の色は、自分のよく知る銀色である。
「どうした? 私の顔をじっと見て」
「……何でもないわ」
 反射的に『ねえアンタ、自分とソックリな人間に心当たりある?』と尋ねそうになってしまったが、やめた。
 それを聞いてしまうと―――何か、この使い魔との関係が壊れてしまうような気がしたのだ。
「今日は可能な限り早い内に、フーケの隠れ家とやらに向かうぞ」
「分かってるわよ」
 そうして、ユーゼスの手で着替えと洗顔、髪を梳いてもらい、食堂に向かう。
 ……心のどこかに、引っかかりを感じたまま。


 『6人』は、タルを10個ほど積んだ馬車に乗って出発した。
 なお、メンバー構成はルイズ、キュルケ、タバサ、ユーゼス、ミス・ロングビル、そして馬車を操る御者である。
「やっぱり体調が悪いみたいね、ミス・ロングビル……」
 心配そうに呟きながら、タルから離れた位置で眠るミス・ロングビルを見るキュルケ。
 本人曰く『フーケとの戦闘があると思うと、緊張して眠れなかった』らしく寝不足のようで、今はタルから離れた場所ですうすうと寝息を立てている。
 なお、タルから離れた位置であるのは『仮にもフーケであるかも知れない疑惑がかけられているからな。タルから水を抜かれでもしたら、その時点でフーケであることが確定するが……。まあ、離しておくに越したことはないだろう』というユーゼスの提案による処置だった。
 これにミス・ロングビルは顔をわずかに引きつらせたが、『ま、まあ、それもそうですわね』と納得して、少しだけ悔しそうに眠りについた。
 そんな様子を見たルイズは無礼な使い魔を叱り、『こんな無礼な平民に無礼なことを言われても大して気に留めないなんて、ミス・ロングビルは素晴らしい女性だわ』と尊敬の眼差しを向けたりしていた。

(……美しい)
 深い森の中、馬車に揺られながらユーゼスは素直にそう思った。
 屋根のないタイプの馬車であるため、外の景色がよく見える。
 考えてみれば、こうしてゆっくりとハルケギニアの自然を目にするのは初めてだ。
 大気も汚染されておらず、生態系は極めて正常、人工的な科学物質などほとんど存在していない。
 ユーゼスにとって、このハルケギニアはある意味、理想郷である。
 だと言うのに、主人を始めとする少女たちは、『薄暗い』というだけでこの森を気味悪がっている。
(この森の価値が理解出来ないとは、愚かな……)
 『環境汚染』などの概念が存在していない世界なのだから仕方がない、と言えばそれまでだが。
 ―――なお、彼の周囲にいる女性たちもそれぞれ美少女・美女と呼ばれる類の美しさを持っているのだが、彼にとって『人間の美醜』など大して価値がなく、彼女たちに対しては特に心が湧き立つことなどは無かった。


 馬車は少し狭い道をやや強引に進み、やがて開けた場所に出る。
 広さは、おおよそ魔法学院の中庭程度。
 その中心に、ミス・ロングビルの証言どおりに廃屋が存在した。
「ミス・ロングビル、起きてください」
 ルイズがミス・ロングビルの肩を叩き、覚醒を促す。
 ミス・ロングビルは『ふあ……ん、ぁ……?』と小さな声を上げて覚醒すると、すぐにブンブンと頭を振って意識をハッキリさせる。
 そして廃屋を見て、自分の聞いた情報と照らし合わせた。
「……私の聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
 茂みに隠れながら、ひそひそと話すミス・ロングビル。
 ちなみに馬車の手綱をここまで操ってきた平民の御者には『ゴーレムが出たら、馬車を置いてすぐに逃げなさい』と言い含めてある。
 廃屋には、人のいる気配は全くない。
「……いると思う?」
「さすがにここからじゃ、よく分かんないわね……」
 いないとしたら、これ以上の好機はない。
 いるとしたら、奇襲をかけるしかない。
 ……取りあえず偵察を出して、中にフーケがいれば挑発して外に出し(室内では土ゴーレムは作れない)、その瞬間に魔法で集中攻撃、これを仕留めるという案が出された。
 偵察役を兼ねた囮役は、ユーゼスである。
「…………まあ、貴族に囮をさせるわけにも行かないのだろうな」
 仕方がないので、剣を抜いてルーンを発動させる。
 ユーゼスは身体能力の強化を確認すると、慎重に廃屋へと近付いていく。
(……いない、のか?)
 気配を読むような技能は持ち合わせていないので、窓から直接覗いて様子を見る。
 小屋の中は、無人。
 テーブルの上に酒ビンが転がっている他には、薪が積み上げられている程度で、他に目立った点は―――
(―――いや、アレか?)
 その薪の隣に、少し大きめの箱がある。あの中に『あの鞭』があると見るべきだろうか。
 ……取りあえず、誰もいないことをボディランゲージで伝えて他の面々を呼ぶ。
 4人は警戒しながら近付いてきて、ユーゼスと合流した。
 タバサがドアに向かって『ディテクト・マジック』をかけて、ドアに罠がかけられていないか確認する。
「罠はないみたい」
 中に入っていくタバサ。それに続いて、キュルケとユーゼスも中に入った。ルイズとミス・ロングビルは外で見張りを担当するらしい。
 そして、3人で箱の中身を確認する。
「……やはりな」
 ユーゼスがポツリと呟く。
「『やはりな』、って……そう言えばこの鞭の名前を聞いたときも反応してたわね、あなた。コレのことを知ってるの?
 どうやって使うのか、とか」
「そうだ。これはマジックアイテムなどでは―――」
 キュルケの質問に答えようとしたその時、
「キャァアアアアアア!!」
「き、きゃあ~!」
 外で見張りをしていたルイズの甲高い悲鳴と、ミス・ロングビルの少しぎこちない悲鳴が響いた。

 バコォーーーーーン!!
 3人が悲鳴を聞いて振り向いた瞬間、廃屋の屋根が盛大に吹き飛ぶ。
 見晴らしが良くなったため、屋根を吹き飛ばした犯人の姿もまたよく見ることが出来た。
「ゴーレム!?」
「……!」
 キュルケが叫び、タバサが身構える。
 それは、確かにゴーレムだった。
 大きさは約25メイルほど。
 その身体を構成する材質は、
「て、鉄で出来てるじゃないの!? 鉄の場合は10メイル前後じゃなかったの!?」
「……ひとまず退却」
「賛成だ」
 鉄で出来た巨大ゴーレムから逃れるため、全速力で駆け出す3人。
 少し離れた位置から鉄のゴーレムを見ていたユーゼスは、逃げ出しながらも弱点と思しき関節部を真っ先に注視していた。
「……む?」
 腕を振り上げる鉄ゴーレムの肘から、何か粉のような物がパラパラと落ちているのが見える。
「…………ふむ」
 そしてルイズとミス・ロングビルの姿を発見し、とにかく2人と再び合流した。
 見ると、ルイズは震えながらもゴーレムをじっと見ており、ミス・ロングビルはしっかりと杖を手に握ってはいたが身体がすくんで動けないようである。
「ど、どうすんのよ、どうすんのよ!? 鉄であのサイズなんて、完全に想定外じゃない!! これじゃいくら水があっても効果ないし、どうしろってのよ!!?」
「落ち着いて」
 振るわれるゴーレムの腕や足を避けつつ、ヒステリックに叫ぶキュルケをタバサがいさめる。
「……や、やっぱり逃げますか?」
「逃げるにしても動きを止めてからだな。さて、どうしたものか……。……御主人様、何をするつもりだ?」
 ミス・ロングビルもまた落ち着かない様子であり、ユーゼスも少し焦り始めていた。しかしルイズが杖を振り上げる様子を目にして、思わず声をかける。
「アイツを……、あのゴーレムを倒してフーケを捕まえれば、誰ももうわたしを『ゼロ』なんて呼んだりは……!!」
(……いかんな)
 切羽詰まったと言うか、追い詰められた人間の目をしている。
「冷静になれ、御主人様。倒すにしても、一度は引いて―――」
「うるさいわね!! あんたの考えた策も、結局は役立たずだったんだから、そこで黙って見てなさい!!」
 ユーゼスの静止も聞かず、ルイズは魔法を詠唱し、杖を振る。
 ……鉄ゴーレムの胸のあたりで失敗による爆発が起こるが、大してダメージは与えられないようだった。
 しかし、
 ピシ……ッ
 ルイズが起こした爆発点を中心に小さく、しかしハッキリと鉄の身体にヒビが入る。
「……………」
 それを見て、ユーゼスは自分の予測を裏付けるための行動を起こす決意をした。

「……足の関節を狙う」
 タバサが早口で詠唱を開始すると、馬車に積んであったタルのフタを吹き飛ばして水が宙に浮く。
 そして、水が氷へと変わり始め、
「待て、ミス・タバサ」
 本格的に攻撃に移ろうとした手前で、ユーゼスに止められた。
「……鉄の場合は関節を狙え、と言ったのはあなたのはず」
「少し、確認したいことがある。……ミス・ツェルプストー」
「何よ!?」
「この鞭の『使い方』をお見せしよう」
「……え?」
 言って、鞭の柄の部分を右手で掴む。
 左手のルーンが反応し、鞭の『使い方』が頭に流れ込んで、身体がそれを再現しようとする。
「……………」
 集中し、狙いを定める。
 目標はルイズがつけたヒビ。
 目的は倒すことではなく、あのゴーレムの中身を確認すること。
 振るうイメージは、既に頭の中にある。
 何しろ、自分で受けたことのある攻撃なのだから。
「はあっ!」
 掛け声と共に高く飛び上がり、鞭を振るう。
 高速で繰り出されたそれは、一度、二度、三度、四度と鉄の身体にぶつかって、小気味よくリズムを奏でた。
「……っ」
 着地するユーゼス。
 ……強く鞭を振るった腕が痛む。やはり、自分には肉体を使った直接戦闘は向いていない。
 それ以前に、この鞭は神技級の技術を持つ鍛え抜かれた達人が、更に強化服を身にまとって使う武器である。
 ルーンで多少強化されているとは言え、ユーゼス・ゴッツォ程度に扱いきれる物ではないのだ。
 ともかく、攻撃の成果を確かめるべく鉄ゴーレムを確認する。
「……あ、ゴーレムの鉄が、はがれて―――ええ!?」
 『本来の持ち主』が振るえば、鋼鉄ですらコマ切れに出来るような武器である。その効果自体にユーゼスは驚かない。
 ルイズたちも、『英雄が使ったマジックアイテム』という認識だったので『本来の力が発揮されれば、こんな威力があるのか』程度の認識でしかない。
 驚いたのは、鉄ゴーレムの『中身』を目撃したためである。
「つ、土?」
 そう、鉄ゴーレムの中身は、土で満たされていた。
 ―――これぞ怪盗『土くれ』のフーケが夜も寝ないで、ついさっきまで寝てまでして考えた策。鎧ゴーレムである。
 水で濡らさないためには、水を弾く素材で包めば良い。
 その素材が頑丈ならば、なおのこと良い。
 ……この解決策のヒントを得たのは、徹夜明けで朝食に出されたサンドイッチからであった。
 サンドイッチを掴みながら、いきなり『これだー!!』と叫んだので、食堂にいた周囲の人間たちから妙な視線で見られるハメになったが、それはこの際どうでも良い。
 30メイルのゴーレムを作るだけで精神力はほぼ使い切ってしまうので、サイズは25メイル程度にとどめ、残った精神力を使ってゴーレムを鉄でコーティングする。
 さすがに関節部分にはスキマが出来てしまうため、そこから漏れた土でユーゼスに正体を看破されてしまったが……。
 ともあれ『耐水』と『耐久』を両立させた、なかなかの出来だとフーケは自負していた。
(……しかし、これじゃ『土くれ』じゃなくて『鎧』のフーケになっちまうねぇ)
 慌てふためく魔法学院の生徒たちを見ながら、フーケは『改名した方が良いか』などと心の中でこっそり苦笑する。

 しかし。
「……予想通りだな。解決策は見えた」
「えっ?」
 右腕を左手で押さえながらも平然と言い放つユーゼスに、ミス・ロングビルは困惑の声を出してしまう。
 あのマジックアイテムの鞭を使って『鎧』を剥がしていくのか、と考えた。しかし、仮に昨晩の作戦通りに片足だけに攻撃を集中するにしても、そんなことをチマチマやっていては時間がいくらあっても足りはしまい。
 それに、腕を抑えている様子からして、あの鞭には副作用があるらしい。
(……あまり使い勝手の良い武器じゃない、か)
 あわよくば自分が武器として使えれば……とも思ったが、どうやらそれはやめておいた方が良さそうだ。
「ど、どうすると言うのですか?」
 見極めも終わったので、そろそろ引き上げ時だろうか―――とも思ったが、あのゴーレムを倒す策とやらには興味がある。
 ユーゼスは鎧ゴーレムの踏み付けや、地面を叩く掌から逃げ続けるキュルケに向かって、指示を飛ばし始めた。
 ……なぜ、自分とミス・ロングビルがいるこの地点に攻撃してこないのか不思議ではあったが、攻撃がないのならば安心して指示も出せるというものである。
「ミス・ツェルプストー! 左右どちらでも構わん、足に火炎放射を行え!」
 少し離れた位置にいるので、叫んで指示を行う。
「え!?」
「逃げたいのならば、私の指示に従うことだ。失敗したら、私をお前の炎で焼いても良い!」
 ……失敗したらどの道、皆殺しにされるじゃないかとも思ったが、何もしないよりは確かにマシかもしれない。
「ったく、何するつもりか知らないけど、失敗なんかしたらホントにこのゴーレムがやるより先にアンタを焼いてやるわよ!!?」
 言いつつ、キュルケは全力で鎧ゴーレムの鉄の左足に向かって炎をぶつける。
 動きながら放つ魔法のため今ひとつ威力が乗らないが、それでもジリジリと鉄が熱されていく。
「……まさか炎の熱で、鉄を溶かすつもりですか?」
「さすがにそこまで悠長ではない」
 トライアングルクラスの火の使い手と言えど、鉄を融解させるまで熱するには多大な時間と精神力が必要になる。
 随分と単純な手を使うものだ、と思ったミス・ロングビルだったが、どうやらこの平民の策はそれとは異なるらしい。
「ちょ、ちょっと、いつまで炎であぶってればいいのよ!?」
 悲鳴のような抗議を上げるキュルケの言葉を聞き流し、ユーゼスは熱される箇所に神経を注いでいた。
 そして、その部分が炎の熱によって赤く色づき始めた時、
「火炎放射はそこまでだ! ……ミス・タバサ、ミス・ツェルプストーが熱した箇所に『アイス・ストーム』を使え! タルの水は一切使うな!」
 炎が止まり、更にユーゼスが次の指示を飛ばす。
 タバサは一瞬戸惑ったが、昨夜の作戦会議の内容を思い出して、この平民をひとまず信用してみることにした。
「……ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ!」
 赤熱した箇所に、氷の嵐がぶつかる。
 ジュウジュウと蒸発していく氷。
「―――あの、せっかく熱した箇所を、冷やしてどうするんです?」
「それが目的だ」
「?」
 ミス・ロングビルの質問に答えるユーゼスだったが、質問した彼女はその『回答の意図』の理解が出来ていない。

 ピ……キッ
 何かにヒビが入る音が、小さく―――しかし確かに聞こえた。
「よし、アイス・ストームはそこまでで良い! ……御主人様!」
「何よ!?」
 ユーゼスがキュルケとタバサに出す指示など気にも留めず、ルイズは鎧ゴーレムに攻撃を放ち続けていた。
 しかしその爆発は、鎧ゴーレムの鉄の身体にわずかなヒビを入れるだけで、致命傷には遠い。
「ゴーレムの左足に『ファイヤーボール』を当てられるか!?」
「なっ……御主人様に命令するつもりなの、アンタ!? 使い魔の分際で!!」
 自分の従僕たる存在であるはずのユーゼスの指示通りに動くのが不服なのか、ルイズはあからさまに不満な声を出す。
 キュルケがそんなルイズに『取りあえずでいいから、今は指示に従えってのよ!』と叫ぼうとする。
 しかし、それより先にユーゼスが言葉を発した。
「……そうか、つまり『当てられない』のだな。―――まったく、『貴様』になど期待した私が馬鹿だった」
「な……!?」
 舌打ちしながら、痛んでいない左手で鞭を握る。
「所詮、ゼロのルイズは『ゼロ』でしかなかったか」
「な、な、なななな……!」
 やれやれ、とこれ見よがしに溜息を吐きながら、標的に得物をぶつけるために構える。
「まあ良い。『貴様』はそこで―――」
 ドガァアアアアーーーーーーーーーーンンン!!!!
 セリフの途中で、鎧ゴーレムの左足が盛大な衝撃に見舞われた。
 ふと視線をその爆発の『発生源』に向けると、ユーゼスの御主人様はプルプルと声と身体を震わせながら、彼を睨みつけている。
「ご、ごご、御主人様に向かって、御主人様に向かって、その口の利き方!!」
 ルイズの顔は紅潮し、目は血走り、口はわななき、歯は食いしばられていた。
「こここ、この使い魔ったら、ごごご、御主人様に、ななな、なんてことを言うのかしらぁ~~!!?」
 しまった、とユーゼスは後悔した。
「そ、そこを動くんじゃないわよ、いいわね!!?」
「……待て、御主人様。今の言動は、『お前』の行動を促すためのものであって、決して本心から言ったわけでは―――」
 後ずさりながら、鎧ゴーレムの左足を確認するユーゼス。
 ―――その部分を覆っていた鉄は、ほとんどバラバラに砕けている。
 自分の目論見が成功したことを『当然』と思いつつも、しかし眼前に迫る新たな危機に対して、対策を立てねばならない。
「あ、あの、どうしてゴーレムの鉄が……!?」
 ミス・ロングビルが驚いた様子で尋ねてくるが、それに答える余裕もない。
「……ミス・タバサ、私はこちらの方向に逃げる。事が済んだら使い魔で拾ってくれ」
 こくり、と頷くタバサ。
 そして次の瞬間、
「ユゥゥゥゥゥウウウウウウウウゼェェエエエエス!!!」
 主人の絶叫を合図に、使い魔は全速力で逃げ出した。


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