第十七話
岩をくりぬいてできたような、特徴的な街並みが続く港町、ラ・ロシェール。
いつもはたくさんの人で賑わうその場所だが、そこに人間は誰一人として存在しておらず、どこもがらんとしていた。
無人の店が建ち並び、町を静寂が支配している様からは、どこか不気味な雰囲気が感じられる。
さらに、よく見ると店に掲げられている看板の文字が、まるで鏡合わせのように反転している。
そして、その町中を闊歩する怪物たち……
無人の店が建ち並び、町を静寂が支配している様からは、どこか不気味な雰囲気が感じられる。
さらに、よく見ると店に掲げられている看板の文字が、まるで鏡合わせのように反転している。
そして、その町中を闊歩する怪物たち……
それらは、ここが鏡の世界、ミラーワールドであることの証明であった。
そんな町の中央で、王蛇とタイガはそれぞれが手にした武器で、迫りくる怪物たちに応戦していた。
金色をした蛇の尾を乱暴に叩きつけながら、白い怪物たちを次々に蹴散らしていく王蛇。
無言で虎の模様が描かれた斧を振るい、最小限の動きで確実に怪物たちを仕留めていくタイガ。
無言で虎の模様が描かれた斧を振るい、最小限の動きで確実に怪物たちを仕留めていくタイガ。
二人の動きは対称的であったが、共に怪物たちを圧倒していることに変わりはなかった。
現に、二人を取り囲んでいたはずの五体の白い怪物たちは皆、二人に触れることも叶わずにすべて地面に倒れていた。
現に、二人を取り囲んでいたはずの五体の白い怪物たちは皆、二人に触れることも叶わずにすべて地面に倒れていた。
二人が怪物たちにトドメを刺そうと武器を構えた、その瞬間。
倒れていた怪物たちの白い背中が、突然パキパキという音と共に割れ始めた。
何事かと二人が様子を窺っていると、ひび割れた怪物の背中が盛り上がり、固い表皮を突き破って中から青い怪物が姿を現した。
何事かと二人が様子を窺っていると、ひび割れた怪物の背中が盛り上がり、固い表皮を突き破って中から青い怪物が姿を現した。
全身がゴツゴツした青い表皮に覆われ、鋭い突起が生えている両腕。
人間で言う顔の部分には無数の赤い穴があいており、その頭頂部からは、まるで長い髪の毛のように、太いトンボの尾のようなものが伸びていた。
人間で言う顔の部分には無数の赤い穴があいており、その頭頂部からは、まるで長い髪の毛のように、太いトンボの尾のようなものが伸びていた。
顔の両脇に二枚ずつある虫の羽をはばたかせると、青い怪物レイドラグーンは空中に舞い上がった。
「っ……!!」
タイガの顔の真横を、怪物の腕がかすめる。
すぐに反撃しようとするも、攻撃の対象は既に空中へと避難していた。
そうこうしているうちに、別の方向からもう一匹の怪物が攻撃を仕掛けてくる。
今度は避けきれず、怪物の爪が胸を削った。
「ぐっ……」
すぐに反撃しようとするも、攻撃の対象は既に空中へと避難していた。
そうこうしているうちに、別の方向からもう一匹の怪物が攻撃を仕掛けてくる。
今度は避けきれず、怪物の爪が胸を削った。
「ぐっ……」
攻撃をくらうとともに命中した箇所から火花が飛び散り、タイガは思わず数歩後退した。
一人で二体を相手にしているタイガは、怪物の波状攻撃に苦戦していた。
空中に逃れる相手には、斧を使った攻撃が届かないのだ。
空中に逃れる相手には、斧を使った攻撃が届かないのだ。
タイガは再び攻撃を仕掛けてきた二体の怪物たちを横っ飛びでかわし、数歩の距離を置いた。
そしてデッキからカードを引き抜くと、斧に素早く差し込んだ。
そしてデッキからカードを引き抜くと、斧に素早く差し込んだ。
『FINAL VENT』
鳴り響いた音声とともに、怪物たちの背後から白虎の怪物が現れ、二体を鋭い爪で捕らえた。
不気味な声をあげながら、二体の怪物は地面に叩き落とされ、地面を引きずられていく。
不気味な声をあげながら、二体の怪物は地面に叩き落とされ、地面を引きずられていく。
タイガは向かってくる怪物目掛けて、デストクローが装備された両腕を大きく広げた。
「はっ!!」
眼前まで引きずられてきた二体の怪物を、タイガは両腕の爪で持ち上げる。
そのまま頭上に掲げると、怪物たちは呻き声をあげながら白く発光し始め、その後、爆発を起こし消滅した。
そのまま頭上に掲げると、怪物たちは呻き声をあげながら白く発光し始め、その後、爆発を起こし消滅した。
白虎の怪物が、倒した怪物から現れた二つの光球をその身に取り込むのを確認すると、依然として戦い続けている王蛇の方を見やった。
彼は未だに剣一本だけを振るいながら、三匹の怪物と互角以上に渡り合っている。
むしろ、羽をもがれ、空を飛ぶ力を失うほどまでに、怪物たちが追い込まれていると言ったほうが表現としては正しい。
彼は未だに剣一本だけを振るいながら、三匹の怪物と互角以上に渡り合っている。
むしろ、羽をもがれ、空を飛ぶ力を失うほどまでに、怪物たちが追い込まれていると言ったほうが表現としては正しい。
タイガはその強さに驚きながらも、本来の目的を果たすため、デッキから再びカードを引いた。
『ADVENT』
カードを装填した斧から音声が流れ、王蛇たちのいる方から白虎の怪物が飛び出した。
狙うは――アサクラだ!
「うおわっ!?」
突然現れた乱入者に、王蛇は仰向けに地面へ叩きつけられると、先ほどの怪物たちと同じく地面を引きずられていった。
これを好機とみた怪物たちは、傷ついた体を押さえながら、ほうほうの体でその場から逃げていく。
タイガは見向きもしなかった。
タイガは見向きもしなかった。
以前も同じ攻撃を受けた経験のある王蛇は、前と同じようにその怪物の脇腹を思い切り蹴り上げ、拘束から脱した。
そしてすぐさま身を起こし、立ち上がる。
そしてすぐさま身を起こし、立ち上がる。
「貴様! 戦いたいなら戦いたいと言え! こういうやり方はなぁ、一番イライラするんだよッ!!」
手放していた剣を拾い上げ、タイガに向かって力のあらんかぎりに振り降ろす。
「っ……!!」
剣を両腕のデストクローで受け止めたタイガであったが、そのあまりの重さに押し潰されそうになる。
それでも、それ以上押し込まれることはなかった。
それでも、それ以上押し込まれることはなかった。
お互いの武器を交えたまま、二人は仮面越しににらみ合う。
しかし、両者の体からタイムリミットの証である粒子が立ち昇り始めると、二人は弾かれるようにして互いから離れ合った。
「チィッ!!」
激昂した王蛇が、剣を地面に思い切り投げつけた。激しい音をたてながら、剣が弾き飛ばされる。
そして宿の方を振り向くと、手鏡のある中庭に向かって歩いていった。
タイガも無言のまま、その後に続いた。
そして宿の方を振り向くと、手鏡のある中庭に向かって歩いていった。
タイガも無言のまま、その後に続いた。
「お前、何のつもりだ?」
ルイズの手鏡から元いた中庭へと戻ると、浅倉は後から出てきたタバサの胸ぐらを掴み、顔を間近に近づけながら彼女に尋ねた。
手荒にされてもなお、タバサは表情一つ変えず、冷静に彼の問いに答えた。
手荒にされてもなお、タバサは表情一つ変えず、冷静に彼の問いに答えた。
「ライダー同士は戦うもの」
「何ィ……?」
「何ィ……?」
以前自分が言ったことを、そのままそっくり返される。
浅倉は苦い表情でタバサを乱暴に突き放すと、舌打ちとともに彼女を一瞥し、収まらない怒りをむき出しにしながら、自らの部屋へと歩きだした。
浅倉は苦い表情でタバサを乱暴に突き放すと、舌打ちとともに彼女を一瞥し、収まらない怒りをむき出しにしながら、自らの部屋へと歩きだした。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、タバサは考える。
復讐という修羅の道。
一歩踏み出すのを躊躇っていた私に、勇気をくれたのは彼だ。
一歩踏み出すのを躊躇っていた私に、勇気をくれたのは彼だ。
彼がライダーだということを知った時。
ライダーという存在が、この世界の何者よりも強い力を持っていることを知った時。
私は、復讐に身を任せることに決めたのだ。
ライダーという存在が、この世界の何者よりも強い力を持っていることを知った時。
私は、復讐に身を任せることに決めたのだ。
彼の力をもってすれば、人一人を殺めることなんて実に容易い。
あの性格からして、彼も躊躇することはないだろう。
だから、初めは彼を利用し、復讐を遂行しようと思っていた。
あの性格からして、彼も躊躇することはないだろう。
だから、初めは彼を利用し、復讐を遂行しようと思っていた。
でも、私は彼と同じ力を手に入れた。
戦うことを宿命とされた、悪魔の力を。
戦うことを宿命とされた、悪魔の力を。
そして宿命と同時にもう一つ、可能性を得た。
ライダー同士戦い合い、最後の一人になることができたのならば、どんな望みでも叶えられるという可能性。
失ってしまった大切なものを、この手に取り戻せるかもしれないという可能性を。
ライダー同士戦い合い、最後の一人になることができたのならば、どんな望みでも叶えられるという可能性。
失ってしまった大切なものを、この手に取り戻せるかもしれないという可能性を。
浅倉の言っていた主催者は、この世界には存在しない。
ライダーが何人いるかもわからない。
そもそも、浅倉の言ったことが真実かすらも証明できない。
ライダーが何人いるかもわからない。
そもそも、浅倉の言ったことが真実かすらも証明できない。
それでも、私には僅かな希望に賭けるしか道はない。
悪魔に魂を売ってでも、願いを叶えなければならないのだ。
悪魔に魂を売ってでも、願いを叶えなければならないのだ。
だから、私は浅倉を倒す。
復讐は私一人の力があればで十分だし、どうせいつかは潰し合わなければならないのだ。
ライダーは一人でいい。
復讐は私一人の力があればで十分だし、どうせいつかは潰し合わなければならないのだ。
ライダーは一人でいい。
「母さま……」
心に大切な人の姿を描きつつ、タバサは空を見上げた。
真っ青な空の真ん中で、太陽が燦々と輝いていた。
真っ青な空の真ん中で、太陽が燦々と輝いていた。
「うっ……」
「! ワルド様、気がつかれましたか?」
「! ワルド様、気がつかれましたか?」
ベッドの上で目を覚ましたワルドは、ルイズの声を聞きながら、気を失うまでの記憶を思いだしていた。
(そうか、あの使い魔にやられて……)
思わず歯ぎしりする。
使い魔に自分との実力差を見せつけてやるつもりが、とんだ恥をかいてしまった。
使い魔に自分との実力差を見せつけてやるつもりが、とんだ恥をかいてしまった。
「ワルド様……?」
心配そうな顔でこちらを覗きこむルイズに、ワルドは慌てて笑顔を作る。
「ああ、ルイズ。……心配をかけてしまったね。でも、もう大丈夫だ」
そう言って、ワルドはベッドから立ち上がると、ルイズの体を引き寄せ、抱きしめた。
「君が側にいてくれたおかげだよ。ありがとう、ルイズ」
ルイズの耳元でそっと囁きかける。
ルイズの顔が、晴れ渡るように明るくなった。
ルイズの顔が、晴れ渡るように明るくなった。
(私を褒めて下さるなんて……)
最近滅多に褒めてもらうことのなかったルイズは、彼の一言に痛く感激していた。
そんなルイズの様子を見て、ワルドは内心ほくそ笑みながら、窓の外に目をやった。
傾き始めた太陽が、町を真っ赤に染め上げている。
傾き始めた太陽が、町を真っ赤に染め上げている。
(そろそろ時間か……)
ワルドが心の内で呟いた。