あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

谷まゼロ-06


ルイズは学院長室に呼び出されていた。
用件は言わずもがな、谷がしでかした大事件についての言及である。
オスマン氏が、後ろで手を組んで窓の外を見つめながら言った。

「ミス・ロングビル、本日昼ごろ起こった騒ぎの詳細な損害報告をしてくれたまえ」

言い渡された秘書のロングビルは、手に持った書類に目を落とし、淡々と言った。

「あの騒ぎによる、怪我人の総数は84名。内、教師が3名です。奇跡的に重傷者、死者はいません。
 加えて、学院内における定着物を含む建造物の修繕必要箇所は、24ヵ所です」

ルイズの顔は血の気が引き真っ青になっていた。
だがオスマン氏は報告を聞くと、実に楽しげに笑った。

「ほっほっほっ。実に凄まじい損害であると言ってよいだろう。清々しいぐらいじゃ。
 何せ、魔法を使えぬ平民が実質84名のメイジを倒してしもうたんじゃからのう。
 それにあの振り回した像の末路は、なかなか趣がある。あのままオブジェとして飾って置いてもよいと思うのだが?」

オスマン氏が言っている像とは、谷が残らず一切合財吹き飛ばすのに使った銅像のことであった。
谷は振り回した後、学院に向って放り投げたのだった。
そして、投げられた銅像は頭から外壁に突き刺さり、足だけが天に向って外に出ていた。
コルベールはオスマン氏の冗談交じりの言葉対して、苦々しく言った。

「笑い事じゃありません!学院を臨時休校にせねばならないほどの惨事ですぞ!オールド・オスマン」

まさに笑い事ではなかった。特にルイズにとってはこれは一大事と言えた。
自分の使い魔がしでかしたことは、あまりにも事が大き過ぎた。
何故なら、学院にいる生徒や教師は皆貴族であるからだ。
その者たちを、谷が全員銅像で殴り飛ばしたのだ。
責任問題が、ルイズの身に降りかかることは火を見るよりも明らかであった。
そして、自分の使い魔である谷の処遇に関しても、何を言い渡されるかわからない。
ルイズは戦々恐々の顔で、まるで死刑宣告を待つ咎人のような、憔悴しきった顔をしている。
そんなルイズを見て、オスマン氏は、どこか穏やかさを感じさせるようなそして飄々として言った。

「のう。ミス・ロングビル。あの騒ぎのとき、授業は始っておったかの?」
「時刻的にはすでに。ですが多くの生徒が騒ぎを聞きつけ、ヴェストリの広場に向ってしまったため、
 始業の時間が来ましても、始めることができなかったようです」
「……だそうだ。ミス・ヴァリエール」

ルイズはオスマン氏が何を言おうとしているかわからなかった。
オスマン氏は、誰にでもなく独り言のように言った。

「つまりはじゃ、生徒たちは、ちゃんと教室にいて学生の本分たる学業に専念しておれば、
 怪我なんぞせずに済んだわけじゃ。ある意味、自業自得だと思わんかね?」

オスマン氏が言っていることは、まさにルイズにとってはこの上なく有り難いものであった。
学院側は、今回のことについて責任の追及を行わずに目を瞑ると言っているのである。

「まあ、君が騒動を起こすのは初めてのことではあるまい。
 生徒たちも慣れている……というのも変な話じゃがの」

思い当たる節があるルイズはバツの悪そうな顔をした。
ルイズは、魔法を失敗すると授業が行えなくなるほどの爆発を起こすことがあるのだった。
一回や二回のことではなく、周りの生徒たちからも魔法の使用を止められるほどであり、
今日も、その失敗をしでかし教室で爆発を起こしていた。

「とりあえずはじゃ、学院の修繕に関しては、まあ……払って貰うしかあるまい。
 だが、ミス・ヴァリエールとその使い魔に関して『学院は責任は問わん』、それでいいかな?」

オスマン氏は、『生徒の親たちなどが、何か文句言ってきても庇うことはできない』と言っているのだった。
だが、ルイズにとっては目を瞑ってくれるだけで十分であった。
ルイズは恭しく礼をした。

これは後々の話ではあるが、被害に遭った生徒たちが親に言いつけるなどして、
学院にルイズたちに何かしらの処分を与えるように求めてくる事態にはならなかった。
これは皆誰しもが、平民になす術もなく負けたという事実をひた隠しにしようとしたせいでもある。
誰か一人や二人なら、話は違ったであろう。
だがしかし、谷によって負かされたのは大勢のメイジである。
統治する側の人間たちにとって、たった一人の平民に、そうされたとあっては面目が立たない。
不満がある生徒は確かに居た。だがどうしようもないとわかると、今度は忘れるように努力した。
報復するにも、あれほどの不死身さを見せられ、あれほどの圧倒的な力を見せられては、
そんな気も失せてしまい、皆諦めを覚えていた。
この谷がしでかした一大事は、平民たちの間で嬉々として語られる噂話程度のものとなって、事態は収束していった。

それに、ギーシュが決闘を谷に持ちかけたことも、結果的にではあるがルイズたちの助けになった。
何故なら、谷はあの決闘がなくとも、いつか感情を抑える限界が訪れ、爆発していたであろうからである。
もし、あの場が双方の同意で成り立った決闘という形式のものでなかったら、責任問題はさらに重大であっただろう。
もしかしたならば、谷は処刑になっていたかもしれない。勿論できるかどうかは別としてだが。

オスマン氏は思い出したように、部屋を見渡しながら言った。

「ところで、肝心の使い魔がおらんようだが?」

痛いところを突かれたルイズであった。
この騒ぎを起こした当事者がいないのだから本来であれば、お話にならない。
ルイズは俯いて言った。

「スミマセン。連れてこられませんでした……」

正直に答えたが、果たしてこれでいいのかとルイズは思った。
だが、そんなルイズの心情とは裏腹にオスマン氏は明るく言った。

「まあよい。誰も責めてはおらん。だがしかしじゃ、これからこのようなことが続くようであれば、
 こちらとしても、対応に苦慮する事態になるであろうことは肝に銘じておいて欲しい。わかったかの?」

「はい。重々承知しています……」

オスマン氏に、そう返事はしたものの、ルイズには自信がなかった。
退出を命じられ、谷のいる所に向うルイズの足取りは重い。
谷をこれから自分がどう扱えばいいのかまったく見当がつかないからだ。

あいつは『シマサン』にしか興味がない……わたしのことなんて視界の端にもいない。
言うことを聞かせることができるのも、たぶん『シマサン』だけ……。
『シマサン』?……あっ!

ルイズは何かを閃いた。
その時導き出した答えは、確かに有効なものかもしれなかった。
だが、一歩間違えれば一気に奈落の底に落ちてしまうようなものであった。
しかし、ルイズには他に方法がなかった。それに、……谷を思うがためでもあった。
ルイズは、廊下を歩く足を速めて、谷のいる場所へ向かった。


もう太陽が山の向こうに沈みそうになっている時刻。
一方の谷は厨房の隅で膝を抱えて座り込んでいた。
そのあたりだけ負のオーラが充満している。
谷は、メイジたちを全員なぎ倒し、ひとしきり泣いた後、
誰に言われたわけでもないのに、厨房に足を運んでいた。
そして今の今まで、一言も喋りもせず、ずっと蹲っている。
谷の近くでイスに座るシエスタは、見るに痛々しい谷の姿を、寂しげな顔を向けながら、
ボロボロになった谷のガクランの上着を針で縫って修繕していた。

そこに、ヴェストリの広場の惨状を見に行っていた料理長のマルトーがやってきた。
マルトーは、決闘で平民である谷が貴族であるメイジたちを打ち負かしたことを伝聞で知り、
自ら飛ぶようにして、その現場をこっそり見に向っていたのであった。
興奮冷めやらぬマルトーが、ズカズカと谷に近づいて行った。

「おお!オレは見たぞ!!!人生これまで生きてきた中でもあれほど爽快な光景はお目にかかったことがねぇ!
 あの生意気な貴族のガキ共が、揃いも揃って、地べたに口づけしてやがった!流石は……っ!むぐっ!」

谷に歩み寄って、豪快な口調で捲し立てるマルトーの口をシエスタが、慌てて塞いだ。
小声でシエスタはマルトーに責めるように言った。

「マルトーさん!!ダメです!今タニさんに喋りかけちゃダメです!!」

眉毛をへの字に曲げたマルトーがシエスタの手を下ろさせると、
冗談じゃないぜ。と言わんばかりにシエスタに詰め寄った。

「シエスタ。もしかして『我らの拳』を独り占めにするつもりか?ん?
 そういうことをしたくなる気持ちもわかるが、ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃないか!」

シエスタの意に反して、マルトーは大きな声でそう言った。
だが、シエスタはそんなマルトーの様子に危機感を覚えていた。
谷の方をチラチラと見ながら言った。

「ち、違います。そんなのじゃないんですっ!」
「何が違うんだ?」

シエスタはマルトーに事の詳細を伝えようとした。

無言の谷が厨房に来てから少し後に、その谷を追ってきたルイズが厨房を訪れたのだ。
その時、シエスタはルイズから、谷ついて色々聞いたのだった。

ルイズが言うには、谷は今混乱状態にあって、話が出来る状態ではないこと。
召喚されたことにより想い人と離れ離れになっていることがその要因になっていること。
慰めの言葉も、称賛の言葉も、今は煩わしいものでしかないであろうこと、
下手につつくような真似をして怒りを買えば、ルイズ自身も止めることができないということ。

そして学院長室から呼び出しがあったルイズから、
何やら谷と面識があるらしきシエスタへ、谷を見ておいてくれないかと依頼があったこと。
それらを掻い摘んでシエスタはマルトーに説明した。

「マルトーさん。厨房が、そのヴェストリの広場みたいになっちゃいますよ?いいんですか?」

シエスタはまるで脅すかのようにマルトーに言った。
マルトーの頭の中にヴェストリの広場の光景が蘇る。
もし、自分の大事な厨房があのような有様になったとしたら……そう考えたら背筋に悪寒が走った。

「お、おう。そうか、それじゃあしょうがないなっ。……また今度にするか!」

マルトーは少し引きつった笑顔をシエスタに投げかけた後、厨房の奥へ消えていった。
シエスタはホッと胸をなでおろした。
確かに、この場で暴れられでもしたらという心配もしていなかったわけでもない。
だが、今はただ単に谷をそっとして置いてあげたかったというのが本当の理由であった。
それは単純に谷が、かわいそうに思えたからだ。身も心もボロボロで、儚く、
そして誰が見ても憐憫の情を抱くに違いないと断じていいほど、谷はその身に寂しげな暗さを帯びていた。

シエスタはそれほど『シマサン』に会えないことが辛いのだとわかった。
そして、それほど谷に好意を寄せられている『シマサン』が羨ましいとも思った。

シエスタは、先ほど座っていた椅子にまた座り、黙ってチクチクと裁縫を再開した。
おそらく、自分が谷にしてあげられることはこれぐらいであろうと思ってシエスタが勝手にやっていることであった。

そんな様子を、外から厨房の窓を覗きこんで見ていたのはルイズであった。
どのタイミングで入って行っていいのか分からず戸惑っているようにも見えた。
そこに後ろからとある男から突然声をかけられた。

「どうだい?彼の様子は?」

吃驚して振り返ったルイズは、その男の姿を見てさらに驚いた。

「ギーシュ!?あんた生きてたの!?」

そこには、谷の決闘相手であったギーシュが立っていた。
ルイズは、谷によってギーシュは学院の遥か彼方に飛ばされ、空中分解したものだとばっかり思っていた。
ギーシュはどこか気不味そうにしている。

「その言い草は、ヒドイな……まあそう思っても仕方がない状況であったことは確かだが」

ルイズは、そう言うギーシュを頭から足先まで視線を泳がし、じっくりと見た。
そして有り得ないものを見たかのように驚き入った声で言った。

「……何で無傷なの?」
「……はっはっは!僕はどうやら悪運だけは強いらしい!あー……もしかして笑いごとじゃなかったかね?」

ギーシュはいち早く地面に伏せていたおかげで、運良くあの惨劇から免れていたのであった。
ジト目でルイズに見られているのに気がついたのか、ギーシュは申し訳なさそうに言った。

「僕はこれでも本当に反省しているんだ。彼が抱えている問題を知らずに不躾なことをしてしまったとね」

ギーシュの顔は真剣になっていた。窓から見える谷の姿を見ながら言った。
「詳しい事は勿論知らない。だが、彼が灯台の光を見失い、暗き海を彷徨う難破船であることはわかる」

谷の魂の咆哮。それを聞いていたギーシュは、谷に対して身震えるほどの恐怖を覚えながらも、
ある種の親近感を抱いていた。誰かを愛することに情熱を傾ける男として。

「……償いというのも変だとは思うが。このギーシュ・ド・グラモン、
 何か助けになれるのであれば、出来得る限りの助力を与えることを惜しまない。
 そう彼に……まあ伝えられる時に伝えておいて欲しい。
 僕が直接言っても、言い終わる前に殴り飛ばされるのがオチだろうしね」

言い終わるとギーシュは、ルイズに別れの言葉を言って、その場を去っていった。

ギーシュを見送ったルイズは、唇をきつく結んだ。覚悟を決めているのだった。
ギーシュが言うように、下手をすれば話しかけただけで殴り飛ばされるであろう。
それは、もちろんルイズも例外ではない。例外はただ一人なのだから。
しかしルイズは引くわけにはいかない。
意を決して厨房のドアに手をかけた。

ルイズが厨房に入ると、まずシエスタと目が合った。
何か変化があったかシエスタに目で聞く。だが、シエスタは黙って首を横に振った。
谷は今もまだ、固い殻に閉じこもったままであった。
ルイズは腹をくくった。谷に近づき、喋りかけた。

「ねぇタニ。……話があるの」

谷はルイズの言葉に応えない。
だが、ここまでは予想通りであった。
次にルイズは、谷が絶対に何かしらの反応を見せるであろう事柄を言い放った。

「もし……、もしもよ?あんたを元の場所に帰す方法があるかもしれない……っていったらどうする?」

そのルイズの言葉を聞いた瞬間、
まるで、獲物に飛びかかる狼のような俊敏さで、
谷は物凄い勢いで立ち上がり、ルイズの襟口を体ごと持ち上げるようにして掴んだ。
のっぴきならない必死さでルイズを捲し立てる。

「おい!!!なら早く帰せ!!!島さんがいる世界に俺を帰せ!!」

切実な願いであった。
何故なら谷は島さんが居なければ生きている意味がなくなるのだから当然といえる。

ルイズはぎりぎり足先が付く程度に持ち上げられていた。
喋り辛くなるほど、息苦しかったが懸命に堪えた。今この時が正念場だと自分に言い聞かせて。

「……っあ、あくまでも『可能性』よ。呼び出す魔法があるなら、逆に送り返す魔法があるんじゃないかっていう……。
 ……でも、無いと決めつけるのは早すぎると思うの。色々調べればもしかしたら……わたしも一緒に探すから」

谷はルイズから一度視線を外し、そのことについて考えてみた……。
そして再び視線を戻した谷は、当然の疑問をルイズに投げかけた。

「見つからなかったらどうすんだ?」

その言葉には、言い表せないほどの迫力と殺気が込められていた。
ルイズは、挫けそうにな心を奮い立たせ、喉から絞り出すようにして言った。

「……見つからなかった時は……わたしを好きにしていいわ。煮るなり焼くなり、殴り飛ばすなり」

谷はルイズの目の奥に宿る決意を見た。
確かに、可能性についてのいい分には嘘が含まれていないようではあるし、
もし、目的が達成されなかったときは責任をとるという覚悟もあると、谷にもわかった。
あらゆる感情が含んでいるであろう威圧的な谷の言葉がルイズの耳に届いた。

「見つからなかったらぶっ殺すからな」

そこに冗談の響きはない。

「ええ……わかってるわ」

谷はルイズの額に人指し指を突き立てて言った。

「だけどな、オレはそんなに待てないぞ!今すぐにでも!!本当なら今すぐにも島さんに会いたいんだからな!!」
「ど、どどど、どれくらいなら待てるの……?」

ルイズは焦っていた。何故なら、使い魔を送り返す魔法を見つけるというのは、
誰も聞いたことも、そして誰も試みようとしたことがないことを、一から探すという気の遠くなるような苦行であるからだ。
手がかりという手がかりも全くないし、そもそもそんな魔法があるかもどうかすらわからない。
そんな、広大な砂漠の中から一粒の宝石を探すような作業に、谷がどれだけ付き合うかルイズにはわからなかった。

まず、学院の書庫を漁って、城下町にも調べに行って……とてもじゃないけど短期間は無理だわ。
谷はどれくらい待ってくれるかしら?
一年?いやそんなに待てるわけがないわ。半年?もしかして一か月なんて無茶言わないわよね?

谷はキッパリと言いきった。

「1分だ!!!」

「いっぷっ!?なっ!ええええ!!!?無理無理無理無理!!」

あまりの谷の無茶ぶりにルイズは驚き慌てふためいた。
まさか、靴下を履くだけで過ぎてしまうような時間を言うとは思いもよらなかった。
いくらなんでも、谷が言うような時間では何もできないので、
仕方がないと言わんばかりに、ルイズは切り札を出すことを心の中で決めた。
本当に最後の切り札であった。だが必ず効果があると確信があった。
ルイズは谷を責め立てるように言った。

「そんな堪え性がない男は『シマサン』に嫌われるわよ!?」

突然、谷のルイズを掴む手から力が抜けた。
谷にとって、島さんに嫌われるということは、心臓を銃弾で撃ち抜かれるより致命傷となり得ることであった。
これほど恐ろしいことはない。
谷に言うことを聞かせる方法として、ある意味これ以上姑息な手はないとルイズ自身も思ってはいたが、
なす術がこれしか残っていないのだから、仕方がないと自分に言い聞かせていた。
だが、これほど効果があるとは思わなかった。
魔法がほとんど使えないルイズにとっては皮肉ではあるが、それはまるで魔法のようであった。

「っお、お前……なんでそんなこと言えるんだ?」
「わ、わたしも、同じ女だからよ。と、とりあえずすぐキレるような男をいいと思う女はいないはずよ、ねえ?」

ルイズは、シエスタに顔向けた。
突然振られたシエスタは、慌てふためいていた。
だが、ルイズの顔がまるで藁にもすがるような表情になっているのを見てしまったシエスタは協力するしかないと思ったのだった。

「え、ええ。そうですわ!私もそう思います」
「だ、そうよ!シマサンに嫌われるわよ!それでいいの!?」
「タニさん!頑張ってください!シマサンに嫌われないために!」

「そっそうか。……そうだな。それにしてもオマエら、怖いこと言うな」

谷は、いつも通りというわけには行かなかったが、少しでも希望が見えてきたことにより。
なんとか前を向けるようにはなっていた。

っそ、そうか……そうだよな……まだ諦めるのは早いよな。

谷はルイズから手を離した。
ルイズはニンマリと笑顔になった。ここまで上手く行くとは思ってなかったからだった。
そして、つい調子に乗ってしまった。
突然ルイズは拳を握りしめ、体の前に持ってきて、谷に向って力強く言ってのけた。

「いい?タニ。これは言わば、あんたに課せられた『恋の試練』なのよ!!!」

「『恋の試練』!!?……なんだソレ」

ルイズの背景に稲妻が走ったような幻覚が見えた気がした。

「……」
「……」

自分の発言のあまりの恥ずかしさにルイズの顔は耳の先まで真っ赤になっていた。

な、なななにわたしこんな恥ずかしいこと口走ってんの!?バカじゃないの!??
もう……穴があったら入りたい……。

シエスタが慌てて助け船を出した。

「あの!あ、あれですよ!ほら、あの、えーと……ミス・ヴァリエールが仰りたいことというのは……。
 そうっ!これを乗り越えられれば、お互いの心の距離が縮まるという意味ですよ。
 も、もしかして、シマサンもいなくなったタニさんを心配してヤキモキしてるかも……?」

谷は、先ほどのルイズの発言を忘れて、シエスタの言葉に反応した。

「っし、心配してくれるってことは!脈があるってことだよな!!?」

「え?……ええ!!」

たぶん、と心の中で付け加えたシエスタであった。
というよりも、相思相愛ではないのを今初めて知ったので、そのことを驚いていた。
よもや、片思いでこれだけ思いつめることができるのかと、シエスタはある意味感心した。
小さくガッツポーズする谷を眺めたまま、顔がまだ赤いルイズが、シエスタにこっそりと喋りかけた。
「助かったわ……あんた名前は?」
「シエスタと申します……」
「覚えておくわ……」

奇妙な友情が芽生えた瞬間であった。


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