あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第五話


 深夜の学院。普段ならわずかに起きて騒ぐ生徒を除いて静まり返っているはずの時間。しかし、まれにそんな時間に人知れず魔法の練習をする生徒もいるものであり、そんな真面目な生徒を巡回の衛士や当直の教師は黙認するのが常だった。――もっとも、何事にも例外はあるのだが。

 ドカン、と大きな音が中庭に響く。それがしばらくの間をおいてもう一度。
 学生寮から少々離れた本塔の傍、そこで魔法の練習を続けている生徒がいた。
「げほっ、今のはまた派手に失敗したわ……中々あんたを召喚した時のように成功しないわね」
 ぶつぶつと呟きながら土ぼこりを浴びた顔を拭っているのはルイズ、そして彼女の横に控えるその使い魔、ミゴールだった。使い魔召喚の儀式以来の最初の魔法の行使だった昼の授業、そこでいつもと変わらない魔法の失敗による爆発……相変わらずの「ゼロ」という汚名を返上するべく、ルイズはミゴールを連れて深夜の魔法練習をしていたのだ。無論これが初めてという訳ではないが、久しぶりであるのは確かだ。深夜という時間の上に寮からは距離を取った場所で隠れて練習をしているという状況、それも失敗して爆発ばかり起こしている所をが他人に見られるというのはルイズにとっても屈辱であり恥辱であった。入学当初は、名家ヴァリエールの出でありながら夜にも関わらず熱心に魔法の練習をするルイズの姿に尊敬を覚える生徒も僅かにいたものだった。しかし、一向に上達の気配が無いだけでなく無様な爆発を繰り返すルイズの姿に、周囲の生徒達は「ゼロ」という二つ名をつけてあざ笑うようになったのだ。そしてルイズもまた、魔法の失敗を続ける様を見せまいと人目に付かない場所を探して魔法の練習をするようになっていった。
 だが、今のルイズには学院に入学した時に抱いていた「一人前の貴族」になるという目標に加えて、一つの目的がある。
 彼女に忠誠を誓う使い魔、ミゴール――世界を拒絶し、拒絶される存在。
 火、水、土、風、全ての精霊力に反する者。
 ルイズの魔法の初めての成功、初めての成果。
 ただ在るだけで世界から拒絶され死へと向かう存在であるミゴールを救ったのは、ルイズとのコントラクトサーヴァントによるルーンの力だとミゴール自身は語っていた。
 ならば、ルイズが魔法を爆発させずに使えるようになればミゴール族が世界の全てから拒絶される在り様を救えるのではないか? それだけではない、ミゴールの語る世界の神話――始祖ブリミルすら含めた世界そのものを創造したという絶対創造神カルドラと、ミゴールらを創造した抑制神バルテアス、彼ら神々の創造の力の根源となった創造の書カルドセプト。ミゴールの語るところによれば、創造の力を独占するカルドラからバルテアス神がカルドセプトを奪ったものの、カルドラがその手でカルドセプトを破壊し、そしてその創造の書の断片のページがカードとなって世界に散在しているということである。そしてそのカルドセプトの断片であるカードを集め、カルドセプトを復元したときこそカルドラに討たれ封印されたバルテアス神がカルドセプトの力を利用し復活できるというのだ。
 また、それらのカードは単体でもセプターと呼ばれる適性のあるものであればそこに込められた創造の力を擬似的に解放することが出来るマジックアイテムでもある。ミゴールが言うには、この世界がカルドラ世界の一つである以上必ずカルドセプトの断片であるカードは存在するとのことだ。ならば、ルイズ達ハルケギニアの住民がカードの力を知らない理由として考えられるのは、ハルケギニアの人間にカードに適性のある者が居ない、あるいは――
既に何者かがカードの大部分を独占し、その存在を隠蔽しているかだろうとミゴールは考えていた。ルイズに召喚される前、バブラシュカ大陸において、彼らミゴール族がバルテアス神復活を目指して築いた「黒のセプター」もまた、モルダビア教団という表の顔と、黒のセプターという破壊と略奪の集団という二つの仮面を使ってバルテアス神復活という目的を隠していた。このハルケギニア大陸においても同様の手口でカードを集めている集団がある、というのは十分に考えられることだ。
 もしもハルケギニア大陸でカードの力が知られていない理由が後者ならば、必ずやその集団と敵対する時が来る。無論それらと友好的に接触を取り、協力を求めることなどは不可能だ。かつてミゴールが種族の存亡を賭けて戦ったバブラシュカ大陸において、ミゴールは黒のセプターの一員としてセプターズギルドという人間のセプターが作った集団とも争ったが、そのセプターズギルドを初めとしてセプターの集団というものが一枚岩になることは決して無い。それほどまでにカルドセプトの誘惑は強い――唯一の例外が、種族の存亡という自分達とその子々孫々全ての生と死を賭けるほどの目的を持っていた黒のセプターのみであるほどだ。いずれ必ず、あるいは集団が出来たその時から、全てのセプター達は他のセプターを出し抜くことを考えるものである。そんな中でバルテアス神を復活させるなどという利益にならない目的を持つルイズとミゴールには、僅かな協力どころか敵対以外の反応が帰ってくるはずが無い。
 そんな集団が存在するならば、バルテアス神復活のためにはそれらを出し抜いてカードを集めカルドセプトを復元するという極めて困難な道を往くことになる。故にこそルイズは今歩める一歩として、人前での失敗を恥じて控えていた魔法の練習を再び始めることにしたのである。
 もっとも、そんな成長物語には思いもよらない不幸が訪れるものだが。


「……どうしようかしら」
 呆然と上を見上げながら呟くルイズ。熱心に魔法の練習を続けていたのだが、系統魔法からコモンマジックの練習に切り替えてもやはり失敗続き、そのことで苛立ってきたルイズが気晴らしにとありったけ精神力をこめるイメージでファイアーボールを唱えてみたのだ。そしてその結果が、ルイズの視線の先……学院の本塔の外壁、そこに大きな亀裂が入っていた。
 流石にこれはこっそり逃げても、先ほどからの爆発音から犯人はルイズだとすぐに解ってしまうだろう、ではどうすればいいか……
「ルイズ様っ」
 考えに没頭していたルイズの脳を突然の叫びが覚醒させる。突然の地響きと轟音、それに驚く間も無くルイズの腕が体ごと引かれると急に荒馬の上に乗せられたかのようにその体が激しく上下しながら風を切る。驚愕と混乱で声にならない悲鳴を漏らすルイズだったが、その突然の浮遊感は始まりと同様に突然に止まった。本塔を挟んで反対側の広場の壁の影、そこまでを駆け抜けてルイズの体がそっと地面に降ろされる。傍にいたミゴールがルイズを抱きかかえたまま、疾風の如き勢いでその場を飛び退ったのだ。地面に足を降ろすも突然の疾走感による混乱からそのまま腰を落としてしまうルイズ。そんな彼女を庇うかのように、ミゴールは油断無く先ほどまで二人がいた場所――その先で歩を進める巨大なゴーレムを観察していた。
「ルイズ様、突然のご無礼どうかご容赦を。先ほど、我々の後方にあのようなゴーレムが召喚されたため、手荒ながらも火急先ほどの場所から離れるべきと判断致しました」
 そう言いながら、傍の花壇に放置されていた修理中の鉄柵を見つけてその一本を素早く手に取る。とはいえこれでは気休めにしかならないのはミゴール自身も解っている。恐らくあれは先の授業であった、土系統の魔法という物で作られたゴーレムであり、ミゴールならばあれに強打を加えることが可能だろう。しかし、この眼前にそびえるゴーレムは余りにも巨大であり、手にある武器は比較にならないほど貧弱だ。例えミゴールが切りかかり多少の痛撃を与えようと、その巨体を破壊する前にミゴールが蹂躙される方が早いだろう。
(あれの狙いは何だ? 目的が解らぬ以上は、下手に動きルイズ様を危険に晒すことはできぬ。……退くか)
「再度の無礼どうかご容赦下さい。ルイズ様、あれの狙いは解りませぬが、ひとまずこの場を離れた方がよいでしょう」
 地響きを立てながらゴーレムが本塔へ、すなわちルイズとミゴールの方へ足を進めて来るのを見て、ミゴールはまだ混乱するルイズを抱え上げ、本塔をゴーレムとの間に立つ壁のようにして退くことにする。
「な……学院の中に、こんな巨大なゴーレムが……何者なの」
 呆然と呟くルイズ、その視線の先でゴーレムは本塔の前で両足を開くと、大きく腕を振りかぶりその巨大な拳をひびの入った外壁に叩きつける。その圧倒的な質量から生まれる破壊力に、石壁が耐え切れずに大きな穴を空けて突き破られた。ゴーレムの目標が建物の方だと分り、そのまま巻き込まれない内にこの場を離れようとするミゴール。しかし、黒い人影がゴーレムの腕を伝って穴から塔の中へ進入するのを見て、ようやく我に返ったルイズが叫びを上げる。
「あそこは宝物庫?! いけない、賊よミゴール! 追いなさい、逃がしてはダメよ!!」
 ミゴールの腕の中でばたばたと暴れながら金切り声を上げるルイズ。そんなルイズを取り落とすまいと腰を落としてルイズを地面に降ろすミゴールに、ルイズは半ばパニックになりながらゴーレムの方を指差し叫んでいる。その指の示す先で、先ほどの黒い人影が建物の中へとゴーレムの腕を伝って進入するのが見えミゴールにも見えた。
「ミゴール、命令よ! あれはゴーレムを使って本塔の宝物庫に侵入したわ、必ず捕らえなさい!!」
「っ、はっ確かに!」
 ルイズを一人この場へ残すことに躊躇いを覚えたミゴールだが、命令という言葉が彼に躊躇いを打ち消させた。手の中の鉄棒を握りなおし、四足獣の如き姿勢でミゴールは猛然と駆け出した。

「こいつが破壊の剣かい。にしちゃあ随分と小さな箱だね……まあいいさ、どんなすごいマジックアイテムか、じっくり調べさせてもらおうかね」
 ゴーレムの肩の上で小箱を手に一人呟く黒いボロ布をかぶった影――土くれのフーケ。何の事故かは分らないが、宝物庫の下見の最中にその壁が爆発して大きな亀裂が入ったのを偶然にもフーケは見た。この期を逃せば再び壁に強力な固定化が加えられるどころか、強行突破は不可能なほど厳重な構造に改修されるのは間違いない。そう判断したフーケは変装として近くの部屋の中のカーテンを手早く錬金でボロ布に変えて姿を隠すとゴーレムで強襲したのだ。
 思わぬ幸運により目当ての宝を手にしたフーケは、上機嫌でゴーレムの足を進め学院を出ようとし――雄叫びとそれに続く衝撃に打たれた。

「ッガアアアアアアア!!」
 夜気を引き裂く咆哮が響く。左手のルーンを煌々と輝かせながら、禍々しい異形の亜人、ミゴールは右手に握った1メイル弱の鉄棒を渾身の力を込めて振りかぶっていた。
 あのゴーレム、動きが遅く見えるとはいえその巨体故の速度、そして質量による耐久力と破壊力。それに正面から立ち向かえば、人と変わらぬ大きさのミゴールなど無残に踏み潰されるか、羽虫のように叩き潰されるだろう。
 ならば狙うべきはゴーレムを操る術者以外に無い、今まさに学院から出ようとするゴーレムに追いついたミゴールはそう判断した。
 そして今までの疾走の勢いと左手に輝く主人に与えられたルーンによる力の全てを込める。腕に、否、全身に力が満ち満ちていた。疾駆する体は風の先を進むかのように軽く、しかし地を蹴る足は巨獣の一歩の如き衝撃を大地に刻んだ。その在り得ざる程の疾走の勢いを乗せて鉄棒を振りかぶった両足は勢いに負けて浮かぶどころか大樹の如く大地を捉え、弛緩させた上体は踏み締める両足から順に力を巡らせミシミシという筋肉が軋む音が聞こえそうな程に張り詰めてゆく。槍を投擲する場合、本来は放物線を描くように投げることで重力によって威力を発揮させるものだ。だが、今のミゴールに満ちる力はそんなものを必要としない。今、己の体に溢れる力こそがもっとも強力な破壊力を生み出すのだ。
「アアアアアアッ!」
 最後の咆哮。呼気と共に蓄えられた力を解き放つ。左手の輝きが一際強く夜を裂き、弧を描く右手が鉄棒を大地から空に昇る流星の如くゴーレムの上の術者へと一直線に投げ放った。

 ゴウと冷えた空気を裂き飛翔する鉄塊。
 驚愕を浮かべて振り向くフーケ。
 そしてドズムッ、と土を穿ち砕く低い衝撃音。
 砕け散るゴーレムの右肩。

 ごくり、と喉を鳴らして見守るルイズ、ややあってその視線の先でゴーレムの巨体がゆっくりと傾いでゆく。思わず歓喜の叫びを上げるルイズ。自分の使い魔が学院を襲った盗賊を仕留めた――襲われた原因は自分にあるのかも知れないが――という手柄に、思わずミゴールへ駆け出す。
 しかしミゴールの佇むゴーレムの残骸の前に辿り着いたルイズが見たのは、苦渋に満ちた表情を浮かべた使い魔の姿だった。
「申し訳ございませぬルイズ様……あの盗賊、敢えてゴーレムを崩れるに任せてその隙に逃げ出したようです。私の失態にございます」
 ぎしり、と牙の見える歯を食いしばりながらフーケが逃げ去ったであろう方角をミゴールは睨みながらルイズの命令を果たせなかったことを悔いていた。


 翌日、街道を早足で行く馬車があった。御者台には学院長秘書のミス・ロングビル、そして座席部にルイズ、キュルケ、タバサ、そしてミゴールが座ってる。ゴトゴトと車輪を鳴らしながら道を行く彼らの目的――それは、学院の秘宝『破壊の剣』の奪還であった。

 深夜のフーケによる破壊の剣盗難事件。朝から開かれた緊急の会議でルイズは目撃者として事件の一部始終を説明していたところ、突然オールド・オスマンの秘書であるミス・ロングビルが学院長室に飛び込んできたのだ。土くれのフーケの潜伏場所と思われる情報を持って。
 この一件を学院内部で解決させたいとするオスマン、それに対して二の足を踏むどころか遠まわしに拒絶する教師達。その姿を見たルイズは、思わず杖を掲げ叫んでしまった。私が行きます、と。

「で、何か大所帯になっちゃったわねぇ……」
「まあ良いじゃない。私としてもルイズに借りを返すいい機会だったし。感謝しなさいよ、ルイズ? 私が来てあげなきゃあなたと使い魔、それにミス・ロングビルだけで何とかしないといけなかったんだから」
「言うわねキュルケ。ただ着いて来ただけになって借りを増やさないといいわね」
 ルイズの呟きにキュルケが茶々を入れる。結局、ルイズが杖を掲げるのを教師達は止めようとするだけで誰も「代わりに自分が行く」とは言い出さなかった。そこにドアの前で聞き耳を立てていたキュルケが友人のタバサと共に飛び込み、自分達も行くと言い出したのだ。その申し出をオスマンは意外にも受け入れ、道案内のミス・ロングビルとそれぞれの使い魔(サラマンダーは馬車に乗れないし、まだ治療中なので留守番だが)を除けば生徒だけの「破壊の剣」奪還に向かうことになったのだ。
 がたごととゆれる馬車の上で言い合いを続けるルイズとキュルケ、その言葉の合間を縫って断ち切るようにロングビルがルイズに尋ねた。
「ところで、ミス・ヴァリエール? あなたの使い魔の亜人、私も見たことが無いのですが……一体どういう種なのかお聞きしてもいいでしょうか?
何でも召喚された時は皆が悪魔か何かと見間違えたとか」
 ピクリ、と目を瞑って腕を組んでいたミゴールが片目を開きロングビルへ向けた。そしてキュルケとの呼吸を外されたルイズは、肩透かしを食らったように一瞬言葉を失うが、ロングビルに向き直って隣に座るミゴールを指差しながら簡単に説明する。
「えっと、ミゴールと言う亜人で、まあ遠くに住んでいる種族なんで珍しいのだと思います」
「珍しい亜人ですか、何か目立った特長でもあるのですか? 言葉を喋る亜人と言えば翼人などがありますが……」
 重ねて問いかけるロングビルに、今度はキュルケも口を挟む。
「あらミス・ロングビル、こんな亜人はどうでもいいでしょう。それより私はあなたがどうして学院長の秘書なんかしてるかの方に興味がありますわ」
 割り込んでくるキュルケに、ロングビルが一瞬らしくない苦々しい表情を浮かべた。が、すぐに引きつった笑みを浮かべながらもごまかすように早口でキュルケに答える。
「いえいえ、なんといいますか、私は元貴族のメイジでして。ラインメイジ程度では仕事のえり好みも出来ないもので。それを学院長に拾って頂いただけですわ。ええまあその、あまり聞かないで頂けるとありがたいのですが」
 さりげなく「元貴族」という単語を混ぜてあまり聞いてくれるなと念を押しながら強引に話を打ち切る。そしてロングビルは再びルイズに質問を投げかける。
「それで先ほどの質問に戻りたいのですが、そのミゴールには翼人の先住のような特殊な力があるのではないですか? ほら、トロール鬼よりも力が強いとかそういったものが……」
「えっ……いえ、それ程のことは無いですわ。確かに人よりは力が強いみたいですが」
「あら、そんなことは無いでしょう? 私も昨日フーケが宝物庫を襲った時の目撃情報を聞いていますが、ミス・ヴァリエールの使い魔が逃げるゴーレムを追って腕を砕いたと聞いていますわ。何か素晴らしい力があるのでは?」
 御者台から身を乗り出すようにして聞いてくるロングビルに、タバサがポツリと注意する。
「前」
「あ、あらあらこれは失礼しました」
 慌てて御者台に腰を落としなおして手綱を取るロングビル。その後ろでルイズロングビルの言葉に少し憮然としていた。
「ミス・ロングビル……あなたもそんなに詳しく目撃情報を集めていたのなら、それを学院長説明すればよかったんじゃありませんか。それとも……」
 それとも、に続くのはルイズが壁を壊すところを誰か他にも見ていたのを知っているのでは、という問いかけだったのだが、ロングビルは手綱を捌きながら努めて明るく返す。
「いえいえ。私が聞いた方はゴーレムが逃げ去るところを見た、というものでしかたら。ミス・ヴァリエール程詳しい情報は持っておりませんわ」
 その後は何か微妙な空気が漂い、フーケが潜んでいるという小屋のある森まで誰も口を開かなかった。

 やがて馬車が森の中に入ると、ロングビルは馬車を止めた。ここから先は馬車が進める道がないので徒歩になるということである。空から降りてきたタバサの使い魔のシルフィードと共に馬車を残し、ルイズ達は森の中をロングビルの案内に従って進みだした。
 獣道に近い道のため所々突き出している木々の枝葉を、先頭に立つロングビルが後ろのルイズたちのために鉈で切り払いながら進んでいるのを見てふとルイズが思いついたようにミゴールに声をかける。
「そういえばミゴール、あんたに武器買って上げて無かったわね。あんなの欲しい?」
「はっ。我らミゴールは戦士の種族ゆえ、剣や槍の類があれば更なる戦働きができます」
「そう。ミス・ロングビル、よければもう一本錬金してもらえるかしら」
 ロングビルが元貴族と聞いて多少砕けた言葉になったルイズの言葉。しかしロングビルはその言葉の内容にぎくり、と肩を震わせる。足を止めてルイズとミゴールの方を振り向くと、顔に愛想笑いを浮かべて馬車の中での問いかけと同じ質問をする。
「そ、そういえばミス・ヴァリエール、馬車の中での質問が途中になっていましたが、その亜人にはどのような力があるのですか? 興味があって……いえ、興味というよりはそう、戦力の確認としてですね?」
「? はあ……まあ何というか、ゴーレムのようなものを壊しやすい、というかそういった生き物だと言っていましたわ。ミゴール自身は」
 突然足を止めてそんなことを言い始めたロングビルに首を傾げながらルイズが答える。そのルイズの答えにロングビルは満足しなかったのか、今度はミゴールに問いかける。
「ええとミゴール、お前はそんな力があるの? お前は昨日逃げるゴーレムと戦った、ということだけどあれに勝てるのか答えなさい」
「……」
 しかしミゴールは答えない。ロングビルの問いを無視するようにルイズの斜め前で周囲を警戒しながら時折ルイズへかかる枝葉を払いつつ黙々と足を進めるだけである。質問を無視された格好になったロングビルは眉を吊り上げてもう一度問いかけようとして、
「聞いてないのかい、亜人!あんたは……」
「……」
「あ、ああ~……えっと」
 ぎろり、と睨み返されて言葉が尻すぼみになる。二人のやり取りを見たルイズは苦笑いをしながらロングビルに声をかけた。
「あはは、ミス・ロングビルも気にしないで下さい。こいつ人間が嫌いな種族なもので、私や私の師に当たる教師とか以外には物凄く愛想悪いんです。
ねえミゴール、あんた昨日のゴーレムに正面から戦って勝てる?」
「いいえ、ルイズ様。昨日は逃げる所を後ろから襲ったために手傷を負わせることができただけでございます。多少の武器を持ってしても正面から戦えば、奴を倒す前に先にこちらが力尽きましょう。力不足申し訳ございませぬ」
 歩きながらであるためいつものように膝を付くことはしないものの、仰々しく答えるミゴール、そんなやり取りを後ろから見ていたキュルケが、少し急かすように声をかけた。
「ちょっと、いつまでのんびり歩いているつもり?早く行きましょうよ」
「そ、そうですわね。では行きましょう皆さん」
 その言葉に慌ててロングビルが森の中を進み、ルイズ達もそれに続く。そうなのだ、自分達は今土くれのフーケが潜んでいる森の中に居るのだ。そう自分に言い聞かせながらルイズは気を引き締めた。


「この箱」
「あっけないわねー」
「まあ、何にしろこれで目的は達した訳ね」
 タバサの持つ箱の周りをルイズとキュルケが囲み、気の抜けた声を上げる。
ロングビルの案内した先、フーケの隠れ家と思われる小屋を見つけた5人は、ロングビルを周囲の警戒に残して慎重に小屋に近づき探索を始めたのだが……
あっさり盗まれた破壊の剣の箱が見つかったのだ。
 後はこのまま破壊の剣を持って無事に帰るだけ、と言うところでルイズがふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「そういえば中身は確かめなくていいの? 私達って箱しか見たこと無いけど、中身を入れ替えられてたら駄目じゃない。鍵が開けられてたりなんかしてない?」
 ルイズの疑問にタバサが箱の鍵を確かめるが、そもそも箱には鍵がかかっていなかった。4人が見つめる中、開いた箱の中にあったのは……
「何これ?」
「すりかえられた……わけではない。この箱の内側、この石版を納めるための形に作られている」
「じゃあこれが破壊の剣って訳? どこが?」
 首を傾げるキュルケとタバサ、その横からゆっくりと手が伸ばされる。
「これって……まさかカード……?」
 呟きながら「破壊の剣」をそっと手に取るルイズ。

 その瞬間、ルイズの周囲が――世界が弾けた。


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