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竜が堕ちゆく先は-3

壮麗な馬車が二台、トリステイン魔法学院へとつながる街道を特に急ぐ様子もなく、ゆっくりと進んでいた。
 二台の内前の馬車にはユニコーンと杖があしらわれた王家の紋章が飾られている。
馬車を引くのは聖獣ユニコーン。馬車という大荷物を引いているとは思えないほど優雅な足取りである。
周囲の平民からの歓声を馬車の中で聞きながら王女アンリエッタは物憂げに溜息をついた。
 そんなアンリエッタの様子を心配してか、王女と向かい合わせに座る痩せぎすの男マザリーニ枢機卿が声をかけた。
「殿下、今までの話をしっかり聞かれましたか」
「ええ、しっかり聞いたわ。政治の話はもう十分よ」
「ならば良いのです。気を引き締めてもう一つ私の話をお聞きください」
「あら、まだ何かあったかしら」
 アンリエッタの頭の中で抱えている問題が駆け巡る。アルビオンの貴族派・ゲルマニアとの同盟・一部の貴族の不穏な動き、
そして目下最大の懸念事項であるあの恋文。まさかマザリーニに知られてしまったのだろうか。
「魔法学院に火竜が落ちてきたそうですな。これだけならばわざわざ殿下にお伝えするほどのことではないのですが……」
「何か他にもあるの?」
「はい、私の配下からの報告ではその火竜、韻竜であるとか。それにしてもオールド・オスマンめ、報告もせず韻竜を学院に置くとは
我々を何だと思っているのだ。オールド・オスマンに対して何らかの処罰を検討されてはいかがでしょうか?」
 マザリーニはアンリエッタに進言した。今まででもオールド・オスマンの
独立独歩な気風には散々に困らされてきたのだ。そろそろ処罰が必要かも知れない。
王女は思わず口元に手を当てる。聞かされたことに対して驚きを隠せなかった。
「韻竜、それは伝説の」
「その通りです。学院に到着したのなら竜に会うわなければなりません。必要ならば殿下の代わりに私が参りますが」
「いえ、それには及びません。わたくしが参ります。枢機卿あなたも同行するように。それとオールド・オスマンへの処罰は不要です」
 王女の命令に王国に忠実な枢機卿は頭を下げた。
「仰せのままに、殿下」



「そう言えばまだ名前も教えてなかったわ。あなたのお名前何て言うの? わたしはイルククゥ。
でもシルフィードって呼んで欲しいかな。シルフィードって名前はわたしのお姉さまが付けてくれたの。素敵な名前でしょ。ねえ名前名前?」
「何故我が名を明かさねばならんのだ」
 数日前から夜ごとに、シルフィードと名乗る風韻竜が火竜を訪ねてきては、他愛もないことを喋る。
どうやらお姉さまというのは、時々火竜を見に来る青髪の少女のことらしい。
シルフィードは同じ竜族とは思えぬほど良く喋り、コロコロと表情を変える。
 我にもこんな時代があったろうか、火竜の幼生時代はもはや一万年も前の事だ。
「教えて欲しいなあ。もしかして名前がない? ずっと一人で暮らしてきたの? 
ならわたしが名前を付けてあげる。シルフィードとおんなじくらい素敵な名前」
「いらぬ」
 火竜はシルフィードを突き放す。けれどシルフィードは全く動じない。
 タバサ以外にも話せる相手が出来て嬉しいのだ。
「何がいいかなあ、名前をつけるなんて初めて。お姉さまもわたしの名前をつけるとき、こんな風に悩んで下さったかしら。どう思う?」
「我が知る訳なかろう」
「名前を付けるのって難しいわ。あなたに似合う素敵な名前……メイヴなんてどう?」
「……アンヘルだ。我はアンヘル」
 シルフィードの勢いに観念したのか、竜は自身の名前を告げた。一万年以上生きて
自分の名を誰かに告げた経験はほとんどない。そのためか声に多少力が入っている。
「アンヘル、アンヘル様と言うのね。素敵なお名前。お姉さまにもお教えしなくっちゃ。
あら、もうこんな時間。今日はこの辺で、アンヘル様」
 羽ばたきと共にシルフィードはアンヘルに別れを告げた。学院の竜舎に戻るか、タバサの所に行くのだろう。
 優雅に夜空へと羽ばたいていく姿に、未だ傷で飛べぬアンヘルは幾分の羨望を感じつつ眺める。
 風韻竜の姿が見えなくなってすぐ、アンヘルはパチパチと爆ぜるかがり火では照らされぬ学院の柱の影に眼を向けた。
「居るのは分かっておる。出てくるのだ、人間よ」
 アンヘルの声が響いてから数秒の後、柱の影から白いドレスを着た少女が現れ、近づいてくる。
少し遅れて、背の高くその割に横幅が無いひょろりとした男性が少女の数歩後ろを歩く。

「初めまして、アンヘル様」
「我が名を聞いておったか……」
「ええ、気を悪くしたのなら謝ります。なるべく聞かないようにしましたが、何分声が大きかったものですから」
 確かにシルフィードの声量は大きい。先日、アンヘルにシルフィードを韻竜と知られたくないと漏らしたタバサも苦労するだろう。
「あなたは韻竜ということでよろしいのでしょうか?」
「……ここの言い方をすれば我は韻竜だろうな」
「私はトリステイン王国王女アンリエッタ、こちらはマザリーニ枢機卿」
 簡潔に紹介されたマザリーニは軽く会釈する。
「何をしに来た。単に我と話すためだけではあるまい」
 強い口調でアンヘルは尋ねた。相手を威圧するかのように頭を持ち上げ、アンリエッタとマザリーニを見下ろす。
 アンリエッタは一瞬たじろぎ目線が泳ぐ。だが、すぐに王女としての威厳を取り戻そうと、火竜と真正面から視線を交わした。
 反対にマザリーニは動じてはいない。アンリエッタとマザリーニの積み重ねた年月の差、だろうか。
「……おっしゃる通りです。近年のハルケギニアの状況をアンヘル様はどれ程把握しておられましょう」
「戦乱が近づいておるな」
 確かタバサがその様なことを言っていた、とアンヘルは思い出しながら口に出してみた。
タバサとの治療ついでの会話でハルケギニアのことは浅いながらも理解している。ただ詳しいことは全く知らないが。
「ええ、アルビオン王家は近いうちに貴族派の手によって倒れます、悲しいことですが。
ハルケギニア統一を掲げる貴族派は遠くない未来、トリステインに杖を向けるでしょう。アルビオン軍は強大です。
我がトリステイン王国軍も錬度ならば引けを取りません。しかし……」
「しかし、何だというのだ」
 アンリエッタは言いよどむ。これから口にすることは、すなわち自分達の国が弱いということだ。王女が言葉を止めてしまっても仕方がない。
「戦力が足りません、アルビオンに比べてトリステインは小国です。無理を承知でお頼みします。
アンヘル様どうか我らに力を貸しては頂けぬでしょうか?」

「ならば、まずは周囲の兵士を下げて貰おうか。力でもって相手を従えるのがお前達の流儀か!?」
 アンヘルの半ば怒号とすら呼べる声にアンリエッタは当惑する。
周囲に兵士が潜んでいるなどアンリエッタの身に覚えがない。
「殿下、お下がり下さい!」
 戸惑う王女の背後、今まで黙っていたマザリーニが王女を守るように王女の前に進み出る。
 枢機卿の動きとともに、四方の闇からは十人以上ものメイジ、
グリフォン隊の面々が現れ竜を取り囲んでいく。杖を殺気立つ竜に向けたまま。
マザリーニの横に立ち、竜の正面から杖を向けるのはグリフォン隊隊長にしてトリステイン一のメイジと名高いワルド子爵。
「アンヘル様、力でもって相手を従えるとおっしゃるが私達は人間、いくら傷を負われているとはいえ
あなた様は韻竜。人と竜は対等ではありません。これ位でやっと対等な関係でしょう」
 竜を囲むメイジ達を見渡し、マザリーニは更に語りかける。
周囲を警戒しつつアンヘルは痩せぎすの枢機卿を睨みつけた。
「改めて伺います、トリステイン王国にあなた様の力をお貸しになってはくれませんか? 知っての通り王国の戦力は少ない。」
 マザリーニとアンヘル、人と竜、一触即発の状況が続く。
「お止めなさい!」
唐突に少女の声が響いた。マザリーニとアンヘルの間にアンリエッタが進み出て来る。
ワルドが杖を持たぬ方の手で押し止めようとするが、アンリエッタは強引に払いのけた。
丁度人と竜との中間で王女は枢機卿を振り返る。
「何を考えているのです枢機卿! グリフォン隊まで動員して、すぐに全員を引かせなさい」
「しかし殿下、相手は韻竜ですぞ。それにこれは殿下の警護も兼ねて……」
「アンヘル様は凶暴な竜ではないでしょう。大人しく治療を受けていたのが何よりの明かし。
それにここは魔法学院です。何の危険がありましょう。すぐに引かせるのです。
マザリーニ枢機卿あなたも下がりなさい。私が一人で話します。これは命令です!」
 自分には何も伝えずに行動をおこした枢機卿に対して、王女は怒りを覚えていた。声にもそれがにじみ出ている。

結局は、マザリーニはアンリエッタの命令に従った。グリフォン隊全員に
引き上げるよう合図をし、自らも一歩足を引き後ろを向くと夜の闇の中に消えた。
「申し訳ありません。このようなことになってしまって……」
「いや、それにある意味では奴は正しい。我は竜なのだ。人とは違う。兵を率いて臨むのも当然のことだ。
王女よ、簡単に我を信用したようだがもし我が心変わりをしたら、お主には死以外の道は残されておらぬのだぞ」
 アンヘルは首を下げ、王女の目線と同じくらいの高さで止める。もう警戒はしていない。
マザリーニは王女の命令を忠実に遂行した。彼は彼なりにアンリエッタを敬っている。
「わたくしとて王家の者。どのような人物ならば信用できるか、それくらいは分ります。それに……竜は人間よりよほど純粋です」
 自嘲気味な微笑みをアンリエッタは見せた。十七歳というまだ少女とも言える年齢で
政治闘争の真っ只中にいるのだ。人間の様々な面を年齢に似合わずアンリエッタは見ている。それが彼女に先程の言葉を吐かせたのかも知れない。
「我は短い間ではあるが、連合という名の軍に籍を置いていたことがある。最も連合軍は最早瓦解してしまったが」
「連合軍ですか……」
 アンリエッタは連合軍という組織を遥か昔のものだと思った。ハルケギニアにそのような組織は存在しないし、
韻竜は長い年月を生きる、過去にそのような軍が存在したのかも知れない。
「故に、人間の争いに関与せぬなどということは言わぬ。そなたに協力してもいい。だが一つ条件がある。我のドラグーンを探してくれ。名をカイムと言う」
 この若い王女に協力し戦場へ行く、そうすればいつか必ずカイムと再会できる。
アンヘルの契約者カイムは狂戦士だ。出会ってから帝都まで全てを剣で切り伏せてきた。故にカイムは戦いの中でしか生きられない、不器用な男だ。
もっともその激しい気性にアンヘルは惹かれたのだが。
竜の条件、それはアンリエッタの思いもしないものだった。韻竜から人探しを頼まれたのはハルケギニア広しと言えども自分だけではないか。
「……分かりました。アンヘル様、あなたのドラグーンはきっと見つけます」
 双月の昇る夜。悩める麗しき王女と愛しき者を探す竜、二人の契約は交わされた。



「ワルド子爵、内密にあなたにある任務を頼みたいのです」
 身震いがするような竜との対峙が終わり、束の間の安息を得たワルドに
アンリエッタのお呼びがかかったのはもはや深夜を回ってのことだった。
 ワルドは髪と服装を整え、アンリエッタの泊まる学院一豪華な客人専用の寝室に参上した。
いくら非公式な呼び出しとはいえ、王女に会うのだ。下手な格好で行くことはできない。
 そこでアンリエッタから開口一番に告げられたのが先ほどの護衛の話である。
「どのようなお仕事でしょう、殿下?」
「アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子からある密書を受け取ってきて欲しいのです。このことは
わたくしの友人であるルイズ・ド・ラ・ヴァリエールに頼みました。あなたには彼女の手助けをして貰いたいのです。やはり彼女たちだけでは心配で……」
 ワルドは内心、始祖ブリミルに感謝を捧げたい思いだった。アンリエッタのいう密書こそが
ワルドらレコン・キスタの者が血眼になって探している物である。すなわち、トリステインとゲルマニアの同盟を妨げる、王女の恋文。
 驚いたような表情を取り繕い、ワルドは王女に意見を具申する。更に自分に有利な状況を作り出すために。
「正直に申し上げます。彼女に任務を任せる意図を図りかねます。何故国家の命運を左右する重大な任務を
一介の学生に任せるのでしょう。心配でしたら、このワルド一人にお申し付けください。確実に密書を持ち帰って参ります」
 マザリーニならばこのような反論をしただろう、そう思わせるような
ワルドの言葉である。伊達にマザリーニの覚えが良い訳ではない。
 しかし今回はそれがアンリエッタの沸点に触れたようだ。
「……わたくしは周りの貴族を全て信用しているわけではありません。つい先ほど土くれのフーケが
脱走したとの連絡が入りました。脱走を手助けしたのは貴族風の男だそうです。
だからわたくしの幼馴染であり親しい友人でもあるルイズに任せたのです。
子爵、あなたのことは信用しています。どうかルイズを助けてやって下さい」
「殿下のお心は痛いほど分かります。そこまで仰るのなら、このワルド任務を承ります」
 愚かな美しい姫君。ワルドは心の底から思った。土くれのフーケを脱走させたのは誰でもない自分なのに。
今度は愛しの皇太子の元に刺客を放つ手助けをしている。恐らく枢機卿への幼稚な反発心からの行動なのだろう。それがどんな結果に繋がるかも考えず。
「朝にはルイズたちは出発するそうです」
「承知いたしました。殿下」
 ワルドは微笑みながら寝室を退出した。笑みの下に野心と策謀を育みながら。

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