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Fatal fuly―Mark of the zero―-05


 ロックの一日は太陽が昇り立てという早い時間に始まる。
 まだ淡い光を浴びながら、トレーニングに汗を流す。 考えても見れば、昔からテリーと旅をしていた時の日課が復活しただけの事なのだが、場所が場所だけに新鮮な気もしていた。
 カンを取り戻す為のトレーニングではある。しかし、それにしても違和感を感じる所がロックにはあった。
 前々からあった左手に宿る熱と、やけに偏る気の流れ。そして、それを覚えた後には昔からしていたトレーニングではあり得なかった途轍もない疲労感がある。

(どういう事だ?)

 ロックは集中力を高める為の瞑想をしながら考える。
 気を扱うとなると、どうしても左手が反応するのだ。グローブに包まれた手の中には、使い魔のルーンとやらが光を放っている。酷い落書きをされたもんだと思ったものだが、一体こいつがどう関係しているのかが理解できない。
 だが、そこでロックの瞑想は中断される事となった。

「痛ぇっ!」
「雑念を覚えていたな?」
「んだよ、ギトーのおっさんか……」

 杖でびしっと背中を叩かれたロックが目にしたのは、ふてぶてしい表情で立つギトーの姿だった。
 こうして顔を合わせるのは、言葉の感覚から察するに一度や二度でないのは明白だ。
 先日の一件では、闘いをするまでになった仲ではあるのだが、こんな風にギトーがロックに声を掛けるのには理由がある。

「精神力を高める為の瞑想に雑念を混ぜてしまえば、本末転倒ではないか」
「あー、いや、その、あんたらの言う精神力と俺とかが使う気は別なんだけど……いや、小難しい事はわかんねぇなぁ」
「何を言っているんだ、君は。君の講釈は前に聞いたが、似たようなものではないか」
「そうだけどさぁ……ま、いいや。さて、そろそろ始めるか、おっさん」
「いい加減おっさんと呼ぶのはやめたまえ。ミス・ヴァリエールの使い魔よ」
「あんたがその呼び方止めたら考えるぜ、“おっさん”」
「ふむ、ではこちらも考えておこうか、“使い魔”」

 軽口を叩き合いながらでも、空気の流れに熱を帯びさせていく。
 始める、というのは何か説明するまでもないだろう。

「顔面腫らして授業に出る事になっても恨むなよな」
「それはお互い様という物だろう。ではゆくぞ」

 その言葉と共に、ロックは前傾姿勢で駆け出し、ギトーは詠唱を始める。
 まぁ、簡単に言ってしまえば、ロックの早朝トレーニングの締めに行われるスパーリングパートナーとしてギトーがいるのだった。
 ギトー本人は未知に対する研究と公言して憚らないが、やはり男である。一度土を付けられた事実は覆らぬ為、こうして毎朝如何にロックへの雪辱を晴らそうかと向かってくるのだ。
 無論、互いに暗黙の了解として、大怪我や命に関わる様な技や魔法を用いたりはしない。
 具体的に言えば、ロックとて、気を完全に込めた拳は固めないし、ギトーもエアニードルなどといった魔法を使う事は無い。そんな感じだ。
 先も述べたが、まさにスパーリングという物になっている。


「錬金!」
「うぉっとっと!」

 機先を制したのはギトーであった。
 風のメイジであるギトーだが、こういった小技は系等によらずメイジであれば扱えるというもの。それはこの間彼の口から聞いてはいたものの、実践されるのは初めてだった。
 ギトーは足元の土を錬金によって盛り上げ、更に石へと変化させたのだ。
 殴りかかったロックが、それに躓き拳は逸れていく。

「一つ!」
「いってぇっ!!」

 がら空きになったロックの首筋に、ギトーの杖が強かに打ちつけられた。
 苦痛の呻き声を上げるロックをふふんと鼻を鳴らして彼は言う。

「もしも私の杖にエアニードルを纏っていたら、君は今ので死んでいたな」
「たらればの話はいらねぇよ」
「ふっ、足元が見えていないとは正にこの事か」
「一回やらかしたくらいで、随分偉そうに言うじゃねぇかおっさん!」
「事実とは怖い怖い。私も痛感しているのだがね」
「っの野郎!」

 自虐を交えたギトーの挑発だが、ロックの頭に血を昇らせるには十分に過ぎた。
 ムキになった小僧一匹御せずして教師などできようか。この間はしてやられたが、歳に見合った老獪さは備えている。
 風の魔法の後押しを受けるギトーの動きは、ロックをして追い付く事が困難なものだ。
 前は自分も熱くなり過ぎたからこそ土を舐めたのだと、いまだ若干の痛みが残る肋骨をさすりながら、ギトーは続けた。

「なかなか、捉えられんみたいだなぁ。滑稽だ」
「抜かせよ! 顔面腫らすじゃすまないぜ!」
「鬼ごっこになると弱い使い魔だ」
「チックショウ!」

 フライや偏在を用い、ロックを幻惑するギトー。
 果てしない追いかけっこになりがちだが、時折思い出したかのように放たれる魔法は、少なからずロックにダメージを与える。
 気の受けによって魔法に耐える事が出来ると気付いたのは最近だが、ロックはそれをスポンジが水を吸うように吸収していた。勝手が多少違うのは確か、しかし、天性の才がロックにはある。
 受け方をしっかりしていれば、微細なダメージでしかない。
 そんな風に、これも日課となったロックの日常の一ページだ。
 鬼ごっこもどきが続いて約三十分が経とうとしている。走り回り、魔法を使い。体力も精神力も使えるだけ使ったという所。

「ぜーはー」
「…………」
「おっさん、結構つらそうな顔してるぜ? 降参しなって……」
「……何を馬鹿な……どの口で言うんだね……げほっげほっ」
「「…………」」

 いつも通りのやり取り。
 結局の所、お互いに気を使いながらでも負けず嫌いなのは確かであって、子供の口喧嘩で場が締まる事となるのが基本だった。
 数分へたり込み、息を整える二人。
 そうして、ロックが再び口を開く。

「なぁ、おっさん」
「何だ、使い魔」
「次はもうちょっと偏在をメインでやってくれよ。あれ、面白いからな。慣れときたいんだ」
「ふむ、ならば君は気とやらを使った技をもう少し見せてくれ。偏在相手にならば遠慮はいらん」
「そう言って、本体に当たっちまったらどうすんだよ」
「万が一という話になるな」
「ほんっと、抜かせよ」

 テリーとの旅を思い返すと、こういう場面はいくらでも出てくる。
 魔法学院で受けていた授業が無駄だったとは言わないが、実地でこういう風にギトーとの交流を経て思う。

(楽しいよな、実際)

 テリーとの青空教室によく似ている。
 ばてばてになるまで動いて、その後飯を食って、歩いて。
 ギトーは陰気だが、こうして付き合ってみればなかなかに見えてくるものも多い。第一印象が最悪だっただけに、余計にプラスの方向へ進むのが早かったのかもしれないが。

「動きすぎで腹も減らん。私は自室に戻って授業の支度でもしよう」
「そんなんじゃ身がもたないぜ? ただでさえ冴えねぇ面が酷くなっちまうだろう」
「……口の減らん奴だ」
「教育方針がそんなもんだったのさ。じゃ、また後でな、ミスタ・ギトー」
「ああ、ロック・ハワード」

 手をひらひらとしながら送るロックに、ギトーは薄い笑みを浮かべて返した。

     ※

「あれが男の世界って奴かしらね? ヴァリエール」
「何よ、朝から姿が見えないと思ってたら、あんな……」
「あちゃー、聞こえてないわね、これ」
「聞こえてるわよ!」
「あらあら、扱いづらい子だわ、ほんと」
「扱いづらいのはあの馬鹿犬よ、ご主人様のお世話を第一に考えないなんて」
「はー、いいわねぇ。やっぱり、男っていうのはワイルドじゃないと」
「黙りなさいよ! ツェルプストー!」

 隣り合った部屋の窓から顔を伸ばす少女二人は、同時刻こんな風にかみ合っているのかかみ合っていないのか、分からない会話に興じるのであった。



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